近年、特殊詐欺の手法が急速に変化している。末端の実行犯を捕まえても「仕事」は分業化され、背後の首謀者までたどり着けない複雑な仕組みが作られている。コロナ禍で雇用環境が悪化し、割の良いアルバイト感覚で手を染める若者も多く、強盗や殺人に発展しかねない凶悪犯罪に加担している意識は希薄だという。
2023年4月11日、カンボジア南部の都市、シアヌークビルのリゾートホテルで日本の特殊詐欺グループが現地警察に摘発され、25歳から55歳までの日本人男性19名が日本に送還された。警視庁は移送中のチャーター機内で逮捕状を執行。容疑は東京都内に住む60代の女性に「有料サイトの未払い料金がある」と偽のメッセージを送り、約25万円分の電子マネーを騙し取った架空請求詐欺である。
19人は嘘の電話をする「かけ子」の役割を担っていたとみられ、ホテルの部屋からは特殊詐欺の手口をまとめたマニュアル、日本人の名簿、大量のスマートフォンが見つかっている。
在カンボジア日本大使館は、「カンボジアに高収入で簡単な仕事がある」と勧誘し、到着直後に監禁状態に置いて電話詐欺などに従事させる事案が多数発生していると指摘。「日本人を含む相当数の外国人の被害が報告されている」と注意を呼びかけている。
- 特殊詐欺Gはなぜカンボジア目指すのか 経費抑えられ逃げにくく(毎日新聞、2023年4月11日)
2023年2月初旬、フィリピンを拠点に活動していた特殊詐欺グループの幹部たちが逮捕され、日本社会に大きな衝撃を与えた「ルフィ事件」も、まだ全体の解明には至っていない。
岩上安身は、これらの事件の背景を読み解くべく、『ルポ特殊詐欺』(ちくま新書、2022年11月10日初版発行)の著者で、神奈川新聞報道部デスクの田崎基(たさき もとい)氏に、2023年3月から4月まで4回にわたり連続インタビューを行ってきた。
田崎氏の『ルポ特殊詐欺』は、特殊詐欺グループが過激化し、実行役が強盗を強要されるほどになっている事実を、丹念な取材によって犯人側の視点から克明に描いたものである。
今号では2023年3月7日のインタビューの後半から、次号からは3月13日のインタビューの前半から要点を抜粋してお届けする。
警視庁が特殊詐欺を正式に確認したのは2004年。当時は詐欺グループの「かけ子」が固定電話に電話をかけ、高齢者が出ると「俺だよ、俺!」と息子や孫と誤認させ、「事故を起こして示談金がすぐにいる、助けて」などの演技で現金を振り込ませたり、代理人に渡すように誘導する。その騙しのセリフから「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」と呼ばれるようになった。
2009年、警視庁が取り締まりを強化。NHKスペシャルが「振り込め詐欺」を特集するなど、マスメディアや自治体が注意を呼びかけたことで世間の理解が進み、摘発も進んで、特殊詐欺の被害はいったん収束する。
- 職業“詐欺”~増殖する若者犯罪グループ~(NHK)
2011年に東日本大震災が起き、2012年、第二次安倍政権が発足。格差社会で弱者を切り捨てる風潮が進み、「振り込め詐欺」は息を吹き返して2014年に再びピークを迎える。その当時の被害額は年間565.5億円。毎日1億円以上が騙し取られたことになる。
その後は減少傾向にあったものの、長引く景気の停滞と2020年からのコロナ禍で、困窮する若年層が末端の実行役となり、貯蓄のある高齢者を騙す特殊詐欺が再び急増している。
岩上安身は特殊詐欺の約20年の歴史を振り返りながら、それが日本経済や世相、インターネットの発達などと密接にリンクしつつ変質し、いかに手間暇かけずに大金を奪うかという「コスパ重視」に走った結果、凶悪化してきたことに懸念を示した。
自分や家族、身近な人が特殊詐欺の被害に遭わないためには、それぞれの手口を知り、どう対処すればいいのかという予備知識が欠かせない。このインタビューの中では、古典的な「オレオレ詐欺」のほか、預貯金詐欺、架空料金請求詐欺、キャッシュカード詐欺盗など、約10のバリエーションが紹介されているので、ぜひ参考にしていただきたい。
田崎氏が、取材した詐欺被害者に自著を渡したところ、「これをもっと早く読んでいたら(騙されなかったのに)」との感想を伝えられたという。
特殊詐欺の手口は現在も変化し続けているため、過去の事例を知ると同時に、新しい詐欺がたった今、発生している可能性も考えるべきだと田崎氏は語り、「特殊詐欺など自分には関係ないと思いがちだが、学生から社会人、高齢者まで、全世代が被害者にも加害者にもなりうる」と警鐘を鳴らした。