「特殊詐欺の背景と経緯、それを盤石とさせている者の言説が浮かび上がった」! ~岩上安身によるインタビュー第1119回 ゲスト 神奈川新聞報道部デスク・田崎基氏 第4回 2023.4.11

記事公開日:2023.4.13取材地: テキスト動画独自
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(文・IWJ編集部)

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 4月12日午後6時より、岩上安身による『ルポ特殊詐欺』著者・神奈川新聞報道部デスク 田崎基氏への第4回目となるインタビューを、録画で配信した。収録は前日11日の深夜に行われたため、日を改めての配信となった。

 田崎氏は、『ルポ特殊詐欺』(ちくま新書)を昨年2022年の11月に上梓された。年が明けて2023年1月19日、東京都狛江市の自宅で90歳の女性が殺害され、高級腕時計や指輪を奪われるという凄惨な強盗殺人事件が起きた。

 狛江の強盗殺人事件は、単発の事件ではなく、全国各地にわたって起きている一連の広域強盗事件の一つであることが明らかになり、2月9日には、フィリピンを拠点にして日本の実行犯に指示を出していた特殊詐欺・強盗「ルフィ」グループの幹部らが日本に送還され逮捕された。

 岩上安身による田崎氏へのこれまでのインタビューでは、「オレオレ詐欺」から、手口を多様化・凶悪化させてきた「トクサギ」こと、特殊詐欺の実態について、「リクルート」の仕方、組織構成、犯行の手口、被害の大きさ、そして暴力団との関係などについて詳しくお話いただいた。

 第4回目の収録が行われた4月11日、カンボジアを拠点としていた特殊詐欺グループのメンバーとして、岡本大樹容疑者(38歳)ら、25歳から55歳の日本人の男19人が、詐欺容疑で逮捕された。逮捕された19人の中には暴力団関係者も含まれており、警視庁は「詐欺の収益が暴力団の資金源となっていた可能性がある」と指摘している。

 『FNNプライム』は7日、「19人の大半は、うその電話をかける「かけ子」役で、そのうち、特定危険指定暴力団工藤会系の関係者の38歳の男が、中心的な役割を担っているとみられている」と報じた。

 日本を震撼させた「ルフィ事件」だが、全く別の特殊詐欺グループが浮上してきたことになる。田崎氏は、「今の特殊詐欺グループは、自転車の車輪がいくつも存在していて、そのハブのスポークが、また別の車輪のハブになっているみたいな円環構造」になっていると話していたが、「ルフィ」グループですら、数々ある特殊詐欺グループの氷山の一角に過ぎないのかもしれない。

 特殊詐欺は、主として高齢者を標的にする卑劣な犯罪である。その背景には、「老人喰い」「老人殺し」を正当化しようとする思潮があることは無視できない。

 第4回目となる今回のインタビューでは、凶悪化する特殊詐欺犯罪の背景にある、「高齢者は集団自決を」、「働けない者は不要」、「人工透析患者は自己責任」、「尊厳死の議論を」などと命の選別をするナチスばりの発言の蔓延に焦点が当てられた。インタビューでは、「高齢者ヘイト」が蔓延する状況の背景にある思潮・言説について、岩上安身が詳しく報告した。

 2010年には、すでに漫画家の山野車輪氏が『マンガ「若者奴隷」時代』(晋遊舎)で、増え続ける年金負担額などを理由に「高齢者が若者を搾取している」と主張、「ジジババを殺らなきゃオレたちはこのままなのか!?」と訴えている。

 2016年には、元フジテレビ・アナウンサー長谷川豊氏が、自身のブログで「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」と発信、批判を浴びた。人工透析患者を「殺せ!」と叫んだ長谷川豊氏は、2017年に「維新」から出馬し、落選している。

 2020年、ALS患者嘱託殺人事件で大久保愉一容疑者と山本直樹容疑者が逮捕された。大久保容疑者は「高齢者を『枯らす』技術」と題したブログで優生思想的な主張を繰り返していた。日本維新の会代表を務めていた松井一郎大阪市長(当時)は、この事件を「奇貨」として「尊厳死」と結びつけ、「命の選別」を肯定するような発言をしている。

 同年、れいわ新選組の公認候補だった大西つねき氏が自身のYouTubeチャンネルで、「高齢者の命を選別すべき」、「高齢者を長生きさせるのかっていうのは、我々真剣に考える必要がある」、「高齢の方から逝ってもらうしかない」などと発言し、れいわの公認を取り消される騒ぎがあった。

 今年2023年2月12日に『ニューヨーク・タイムズ』が、イエール大学助教授・成田悠輔氏による「高齢者の集団自決」発言を一面で報じた。成田氏の「高齢者の集団自決」発言は、今に始まったことではなく、繰り返し行われてきたものである。IWJ調べでは、最も初期の発言は、2019年「日本版ダボス会議」を目指す「G1サミット」の第3分科会「安倍政権の残された聖域~社会保障制度改革は進むのか~」の席で行われていた。

岩上「(成田氏はまだイエール大学に在籍しており、その発言はちゃんと議論されていないが)ちゃんと明確に議論しようと、という風に思うんですね。成田氏は、高齢者ヘイト発言を繰り返していたんです。高齢者を死に追いやっていい存在とみなして、老人を標的に強盗殺害事件を組織的・計画的に行うメンタリティに、これはつながる話だと我々は見なして、追っかけて調べてみたんですね」

 岩上は、成田氏の「高齢者は集団自決を」といった発言を、ネットの人気者である「ひろゆき氏」が「比喩で言った話が本気で言ったかのように伝言ゲームが始まってる」などと擁護しているが、これは明らかな事実誤認であり、発言された状況や文脈を見れば、成田氏の発言は「比喩」ではなく、文字通り、高齢者が自死することを求めており、「確信犯」的な発言だと指摘した。

 「G1サミット」は、竹中平蔵氏や三浦瑠麗氏なども関係している政策提言のサミットである。成田氏が出席した第3分科会には、自民党の古川俊治参議院議員が成田氏と一緒に登壇している。「社会保障制度改革」の政策を話し合う分科会であり、社会保障制度をどうしてゆくか、「真面目」に考えるシンポジウムにおいて、「集団自決」を強く求める発言をしており、ひろゆき氏の言う「比喩」などではまったくないのである。

 古川議員は、成田氏の発言を受けて「自己決定ということで、法律は自殺は別に罪にしてません」などと、「高齢者は集団自決を」という成田氏の発言を否定せず、やんわりと擁護した。さらに、古川議員は、「方法はない訳じゃないです。楽に死ねる方法っていうんだったら。麻酔薬を打つんですね。医者が自殺する方法なんですけど、ちっとも苦しくないです、これ」などと具体的な(犯罪にならない)集団自決の方法まで提案している。

岩上「今、ざーっと話したことを受けて」

田崎氏「見るに堪えないけど、見ておこう」

岩上「いやー、見るに堪えない、聞くに堪えない。でも、これは、権力の中枢にいる人たちですから。(中略)

 自殺幇助の合法化を、もう少し先まで考えているという話です。『成田さんのような考え方がメジャーになってくれば』と(古川議員が期待している)」

 古川議員は、成田発言を肯定的に受けた上で、超高齢者や認知症患者・日常生活動作の衰えのある人々や、透析患者に健康保険を適用し続けるのは問題ではないかという問題提起もしている。高齢者だけではなく、広く身体的・社会的弱者を排除する提案だ。古川議員は医師でもあり、弁護士でもあり、慶應大学教授でもある。

岩上「まず例えば、健康保険適用範囲ということで、多くの人は健康保険がなければ、もう大体老後は現役で働いてないわけですから。そういう前提としてあるわけですから、保険とか年金とかね。そういうものは、もう切られるような時代だから、さっきのロシアのハイパーインフレのような状態もそうなんですけど、事実上、そういう状態になると、人は死んじゃうわけですよ。

 そういうのが大変喜ばしいと。平時において、望ましい政策としてやろうと」

田崎氏「あるんだろうなあ、あるんだと思う。そういう発想が」

岩上「発想があるんですよ。そして共有されてるんです」

田崎氏「しかも、それでリセットしたいぐらいのこと思ってるんじゃないかと思う」

岩上「財政的にもリセットできるんですよ。どうですか」

 そのエリート達に共有されている問題の中に、例えば、警察というものも含まれていたら。老人殺しは、そんなに真剣に、国の捜査費を使ってやるべき捜査なのかと。捜査の優先順位が違うんじゃないか、とか。もっと思想犯を取り締まるべきだとか、言うようなことを言い出してたら、どうしますか」

田崎氏「いや、うーん。つくづく、そういうことになってるんだろうな、と思いますね」

岩上「捜査の費用だって無限にあるわけじゃないんだから。立法過程だって、どうやってこういうルフィ事件のようなものを取り締まっていくかっていう時に、いろんな組み立て方があると思うんですよ。

 まだまだ法的に追い詰める、新しい立法によって、もっと早い段階から未然に防ぐための方法とか、あるいは厳罰化とかね。でもこんなやる気のない(状況で)、90代の人が殺されて」

田崎氏「『奪い取られてればいいんだよ』って思ってるわけですから。これ、極論言うと、ある一定の年齢になって衰えてくれば、『死んでいただこうじゃないか』って言ってる訳ですよ。であれば、高齢者からどれだけ奪われようが、『ま、いいんじゃないでしょうか』という発想になる訳ですよね」

 日本経済の停滞や格差の拡大を高齢者の責任にする言論は、日本社会に広がっている。「高齢者ヘイト」は、新自由主義的な価値観や優生思想とつながっているのである。

田崎氏「今おっしゃった、インフレの話すごく、本当にシンクロしてるな、という気がします。

 何でかというと、私、3年前に『令和日本の敗戦』(ちくま新書)っていう本を書いてるんですね。この中で、社会・政治・経済を横断的に見て、このままいくと、日本は敵もいないのに自滅的敗戦を迎えるんじゃないかっていう、ストーリーを書いてるんです。一つ一つの点を結んでいったら、もうその先ちょっといったら、敗戦しかないじゃないかと思います。

 敗戦の姿って何だ、っていうと、ハイパーインフレであるとか、あるいはもう国家財政が破綻して、救急車を呼んでも来ない。隣の独居老人の家から腐敗臭がしてるんだけど、『どうにかしてください』と言っても、1ヶ月間誰も来ない。例えば役所が来ない、お金がないですから。財政的に、そういった時代が来る。

 あるいは道路がもうガラガラに壊れてるのに全然補修に来ない、みたいな状態がやってくるんじゃないでしょうか、というふうに思ったんですね。

 要は少子高齢化の話が、加速度的に進んでるにもかかわらず、放置し続けてきた30年なわけですよ。こうのを立体的に積み上げていくと見えてくる、国家が考えてることっていうのは、『リセット』なんじゃないか。

 歴史的にはこういったときに国家っていうのは、他国からの脅威を煽る。で、今(日本政府は)やってる。一生懸命。ところが、思いの外、攻め込んでくるわけじゃないわけですよ。そこには多大なコストと世界的な不況と、ロシアもそうですけども。

 結局、とある国が攻め込んできたとしても、と煽るわけですけれども、そうなってない訳ですよね。この間」

 岩上は、「安保3文書」の改定を閣議決定して、ロシア・中国・北朝鮮を敵国として名前を挙げているのだから、もはや「とある国」ではなく、中国のことである、と指摘した。

 田崎氏は、緊迫した情勢があるとしても「ペンディング」させておくという方法も現実としてあるのだから、防衛費に膨大な予算を注ぎ込んで、「凄まじい額の国債を抱え込み続けるのは、世界的に言うと、おかしいよね」という状況になっていると返した。

田崎氏「どうにもならんですよ。戦争も起きないってなると、『リセットしようとしてるんじゃないか』っていう気がしますね」

 岩上安身は、ソ連解体後のロシアで、国家が崩壊状態になり、ロシア人男性の寿命が約10年短くなった話を紹介した。

岩上「こうした背景をもってして、一番弱者の底辺のところでは、老人殺し、オレオレ詐欺から強盗殺人事件が起きているんですよね」

田崎氏「わかりましたね。今回、4回続けてきて、私もそこはかとなくは(思っていましたが)、厳罰化されない。なぜ特殊詐欺が20年間放置されてきたのか。累計被害総額は6000億円を超えているという立法事実が厳然として横たわってるにもかかわらず、政府もようやく重い腰を上げたと思ったら、なんとか緊急プランというのを立ち上げて、留守電にしようとか、ツイッター削除できるようにしようとか。そんな生ぬるいことを言っていてですね。

 そんなことじゃ、どうにもなるわけないのに。粗暴化して凶悪化しているというのに、それがどうして放置されているんだ。なおさら放置され続けようとしている。ルフィ問題でそういう話になっているにもかかわらず、今年の1月、2月、3月の(特殊詐欺の被害金額の)数字が前年同月比で増加に向かっている。

 にもかかわらず、議論はすでにもう終わったかのように扱われている、ということの背景が、まさに今日のこの4回目の話の中で、背景と経緯、それからそれを盤石とさせている者の言説が浮かび上がったなっていう気がします。

 つまり、高齢者から奪い取られようが構わないんじゃないかということが背景に横たわっていて、それを色んな角度から補強しようとする言説が飛び交っていて、それが中心点に向かっていってる」

岩上「田崎さんの本から、『弱者を孤立させない社会にすることが必要だから、今日本社会は弱者を切り捨てるマインドに満ちている』と」

田崎氏「まさにそうですね!」

岩上「著者がびっくりしている(笑)」

田崎氏「はい、びっくりしている。今回に至ってなおさらこう突きつけられましたね。私が」

 田崎氏の第1回から第3回のインタビューは以下である。

■ハイライト

  • 日時 2023年4月11日(火)23:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

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