2022年9月26日(月)午後2時から、東京・衆議院第一議員会館にて、安倍元総理の国葬を許さない会が主催する、「国葬反対大集会」が開催された。
翌27日、安倍元総理の国葬が同時刻、午後2時から執り行われる予定となっていた。日本には、国葬に関する具体的な法律はない。岸田文雄総理は、「内閣府設置法は、内閣府が『国の儀式』を所管すると定めている」と述べ、閣議決定すれば「行政権」で国葬を実施できると主張してきた。
明治憲法(大日本帝国憲法)下において、行政権は国務大臣の輔弼(ほひつ)によって天皇が自ら行うこととされた。立法権と司法権も天皇が有しており、警察大権および官制大権、そして悪名高い統帥権(軍事指揮権)を持つ。帝国議会は「協賛」機関として、法律の裁可権と拒否権を手中におさめる天皇を支えるが、国民の半数を占める女性に選挙権はなかった。
「性差別主義っていうのは、日本が軍国主義になっていくことと表裏一体である。性差別を抜きにしてはありえない」。女性学を専門とする船橋邦子・元和光大学教授は、そう指摘した。
明治憲法には天皇の勅令によって制定された「国葬令」が存在しました。しかし、基本的人権と国民主権、三権分立という民主化の度合いを深めた現在の日本国憲法が効力を有し、反対に旧憲法である大日本帝国憲法が失効した日に、「国葬令」は廃止されたとみなされている。
女性という人間は、戦争で死ぬ兵士を生み育てる「女性性」の刻印をおされます。国家(資本)のために働く「男性性」を無償のケア労働で支える。24時間365日の再生産を担わされるのである。男女平等ランキング世界116位(2022年)の日本は、日本国憲法を保持し、女性は選挙権と被選挙権を有している。
「内閣は法律も予算もなく、何でもしていいんですか。ということは、内閣は国会の上に立つんですか。内閣はすなわち国権の最高機関ですか」。憲法学者の小林節・慶應義塾大学名誉教授は、問題点を明確にしました。
他にも、「国葬」差し止め訴訟弁護団団長の大口昭彦氏、立憲民主党衆議院議員の阿部知子氏、日本共産党衆議院議員の塩川鉄也氏、社民党副党首の新垣邦男氏、立憲民主党衆議院議員の吉田晴美氏、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏、京都大学教授の高山佳奈子氏(ビデオ出演)、経済評論家の植草一秀氏、山口大学名誉教授の纐纈厚氏、関東学院大学名誉教授の足立昌勝氏、社民党党首の福島瑞穂氏らが、国葬反対の声をあげた。
国民の代表である国会に諮ることもなく「内閣の一存」で行われる安倍元総理の「国葬」。先にエリザベス女王の国葬が行われた英国は、立憲君主制の国である。英国では、君主以外の人物を国葬とするには議会の承認が必要と定めている。君主は「国の象徴的な代表」なのだから国葬は当然だが、それ以外の人物の「国葬」には、国民の賛同が必要だというルールは論理的だ。
与党自民党は、衆議院でも参議院でも十分な議席数を持っている。国会で審議をすれば、安倍元総理の国葬は承認された可能性が十分ある。なぜ、岸田総理は国会に諮る手間を省いたのか。安倍元総理は、日本の「君主」だったというのか。
そういえば、安倍氏は総理大臣であった2016年5月16日、衆議院予算委員会で「私は立法府の長であります」と発言したことがあった。行政の統括者が、国民を代表する長であると宣言したのだから、事実上の「君主」宣言でもあったともいえる。しかも、象徴ではなく実権を持つ君主だ。
- 安倍総理の「議会については、私は立法府の長」との発言に関する質問主意書(衆議院、平成2016年5月19日)
あの発言は、安倍元総理の「無知」を示すものとして、嘲笑の対象となってきたが、当の本人は、本気で、「森羅万象を司る」君主のつもりでいたのかもしれない。
そして岸田内閣は、その安倍元総理の「君主」気取りの自尊心を死してなお、へつらうべく、斟酌し、国葬として「君主」扱いをして、さらにその安倍イメージを膨らませ、政治利用していこうと考えているのでろう。
27日付『NHK』によれば、「政府が『国葬』を行う方針について、9月は「評価する」が36%、「評価しない」が57%となっている。『NHK』ですら、というべきであろう。
- 【国葬】国葬めぐって分かれる賛否(NHK、2022年9月27日)
岸田政権・自民党にとって、安倍元総理が世論の反対を押し切ってでも「国葬」にしなければならないほど重要な存在であったようだが、「国葬問題」は、岸田政権・自民党と国民の間の、安倍元総理に対する認識のずれを顕わにした。
「内閣の一存」で決めればいい、という判断は、緊急事態宣言による内閣独裁の先取りでもある。この問題は、改憲の危険性とからめて議論を尽くすべきであろう。