2021年11月5日、東京・港区の法律事務所で、「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」代表らに対する名誉棄損を理由とした訴訟について、被告と被告代理人が記者会見を行った。
訴えられたのは「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」代表で俳優の知乃(ちの)氏と、同会副代表の田中円(えん)氏で、訴えたのは、演出家の湯澤幸一郎氏である。
「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」は、代表の知乃氏自らが受けたセクシャルハラスメントに対し、SNS上で抗議を行った。その結果、2018年、相手側と示談が成立。その和解金を原資にしてハラスメントの相談窓口としての活動を続けている。
訴訟は、知乃氏らが2018年12月にインターネット上に掲載した文章が、名誉棄損に当たるとして湯澤氏が起こしたもの。訴訟の対象となった文章は、湯澤氏が2019年6月・8月に上演予定の舞台作品の原作・脚本・演出・主演などに起用されることに抗議し、上演の中止、再検討を求めたものである。
湯澤氏は2014年、自身が講師を務める演劇のワークショップの受講者である少女(当時15歳)に対するわいせつ行為により、児童福祉法違反で逮捕され2年の実刑判決を受けた。
俳優になりたいという夢を持った少女に対し、脚本・演出家という立場を利用した卑劣な行為を行った者が、出獄して間もない時期に、当時と変わらぬ起用であらたな舞台を企画することに対する演劇関係者の抗議の声が上がり、「演劇・映画・芸能界のセクハラ・パワハラをなくす会」も、起用すべきではない旨の抗議文を主催者やスポンサーに送付したり、署名を公表するなどを行っていた。
この訴訟の被告代理人である東京合同法律事務所の馬奈木厳太郎・弁護士は、訴訟の性格について、2018年のことを2021年に提訴するということは「だいぶ時間がかかっている」と述べ、事前に何の連絡も要求もなく「ある日突然2人に訴状が届いた」と指摘。
馬奈木弁護士は、500万円という慰謝料の請求について「異様とも言える高額な請求だ」と述べ、この訴訟は「『なくす会』の活動を契機として訴えてきているので、この金額は、どのような意味合いを持つのか、原告の訴えの目的を図りかねている」と述べた。
かさねて馬奈木・弁護士は「損害賠償の金額がなぜ500万なのか、これは端的に言えば黙らせる、そういった意味合いの金額、つまりある種の萎縮効果を狙ったものではないか」と述べた。