参院広島選挙区の再選挙が2021年4月25日に投開票され、実質的な野党統一候補の宮口治子氏(立民・国民・社民推薦)が自民党公認の西田英範氏(公明推薦)を破って初当選した。
7小選挙区のうち6小選挙区を自民が制していた保守王国・広島での奇跡的勝利が確定したのは、開票作業がスタートして約3時間後の23時前。民放に続いてNHKが「当選確実」を出すと、まず選挙事務所の外に集まっていた支持者から歓声と拍手が湧き起り、続いて事務所内に伝搬した。
すぐに近くのホテルで待機していた宮口氏が事務所に到着し、コロナ禍で30人に入場制限された支援者とグータッチをした後、「結集ひろしま」代表の佐藤公治・立民県連代表(広島6区)や選対本部長の森本真治参院議員らと並んで万歳三唱を繰り返した。
続く挨拶では、目に涙を浮かべ、「皆様、本当にこのたびはありがとうございました」と感謝しながら、「小さな声をしっかりと聞いていきたい。この気持ちを忘れず、皆様のお役に立ちたい」と決意表明をした。
この選挙結果は、菅政権(総理)には、大打撃である。保守王国において、まさかの敗北で、擁立断念の衆院北海道二区補選と、「弔い合戦」で敗北必至の参院長野選挙区補選と、あわせて3つの選挙での「トリプル選 一勝一敗一不戦敗」の皮算用は見事に外れ、3敗となった。「菅総理では選挙が戦えない」という声がいつ自民党内で噴出しても不思議ではなく、そんな「菅降ろし」に怯えながらの政権運営を強いられる事態に陥ったといえる。
一方、去年の総裁選で菅総理に敗れたものの、再チャレンジを狙っていた岸田文雄・県連会長も深い痛手を負った。
小野寺五典・元防衛大臣(岸田派)は西田候補の出陣式で、「再選挙勝利は岸田首相誕生の第一歩」と広島県民に訴えていたが、再選挙敗北によって総裁選再チャレンジの芽が逆に萎むことになってしまった。「宏池会」発祥地でもあり、岸田派の牙城である広島で敗れたことで、菅総理と同様、「選挙の顔にはならない」ことを印象づけてしまったのである。
これに対して、宮口氏を支援した野党は勢いづいている。立憲民主党の枝野幸男代表は三週連続で広島入りをして応援演説。政治とカネの問題に加えて、菅政権のコロナ対策の失敗を厳しく批判した。
封じ込めに成功した3か国(台湾・ニュージーランド・オーストラリア)のゼロコロナ対策を紹介しながら、「政権交代で我々に任せれば、感染拡大の収束が実現できる」と訴えたのだ。
当確後の囲み取材で、宮口氏に「コロナ対策の一つの追い風になりましたか。(菅)政権のやり方がひどいと蓮舫さんや枝野代表が批判していたが」と聞くと、次のような回答が返ってきた。
「特に今回、第四波も出てしまって緊急事態宣言が出てしまっている。同じことの繰り返し、リバウンドしているという意味では(菅政権の)対応がどうなのかと。封じ込めに成功している海外の国、台湾を含めてありますから、そういったところでできて、どうして日本でできないのかと思います。(菅政権のコロナ対策への批判も)手応えとして感じました」。
「政治のカネの問題」への有権者の強い反発に加えて、菅政権のコロナ対策の失敗も勝因の一つと感じていたという。
広島再選挙での勝利で、菅政権打倒に向けた勝利の方程式が浮き彫りになってきた。
それは、安倍・菅政権で相次ぐ「政治とカネの問題」(河井夫妻の買収事件や吉川貴盛・元農水大臣の収賄事件、菅原一秀・元経産大臣の公選法違反疑惑など。菅原元大臣は6月3日に議員辞職し、6月8日に東京地検が略式起訴)に加えて、現政権のコロナ対策における政権担当能力の欠如を二大争点にすれば、広島のような自民党の強い地域でも野党の勝機は十分にあるということだ。衆議院議員の任期満了の10月21日までには実施されるはずの次期総選挙での政権交代が、現実味を帯びてきたということである。9月末に菅総理の自民党総裁の任期が切れることから、早い時期の解散・総選挙も想定される。
菅政権を崖っぷちまで追い込む一方、野党を勢いづけた広島再選挙は、買収事件で逮捕された河井案里前参院議員の失職に伴うもので、「政治とカネの問題」が最大の争点だった。そんな中で光ったのが、市民団体「河井疑惑をただす会」。再選挙への出馬を辞退した郷原信郎弁護士と共に、「買収事件でカネをもらった議員が選挙に関わっていいのか」と問題提起をしていったのだ。
ここから全国が注目した広島再選挙について、4月8日の告示前の動きから振返っていくことにする。