大阪市を廃止して4つの特別区に再編することの賛否を問う2度目の住民投票「大阪市廃止・特別区設置住民投票」が、2020年11月1日に投開票が行われ、反対票が賛成票を上回り、否決された。
▲住民投票の結果を受けて記者会見する維新代表松井一郎大阪市長(2020年11月1日IWJ撮影)
住民投票の有権者は大阪市に住民登録している日本国籍の223万6504人で、大阪市選挙管理委員会の発表した開票速報によると、賛成67万5829票、反対69万2996票、その差は1万7167票だった。
前回、2015年5月17日に行われた1回目の住民投票では、反対票が賛成票を1万1000票ほど上回り、僅差で否決された。しかし2015年は、大阪維新の会が看板政策として「大阪都構想」と呼ぶ「大阪市解体構想」に、自民党、公明党、民主党、共産党、社民党がこぞって反対していた。今回の住民投票では、選挙で維新と対立したくない公明党が賛成に立場を転じたにもかかわらず、否決されたのである。
「すべては私の力不足」と引退を表明した維新代表松井一郎大阪市長の「政治家としてのけじめ」とは、あと2年半もある市長の任期を全うすること!?
11月1日深夜に行われた記者会見で、大阪維新の会代表の松井一郎大阪市長は「すべては私の力不足」と敗戦の弁を述べ、政界からの引退を表明した。しかし、松井氏の言う「引退」とは、大阪市長として2023年4月までの残り任期を全うした上で次の市長選に立候補しないということだ。
松井氏は「大阪維新の会の先頭で旗を振ってきた。僕自身、政治家としてけじめはつけなければならない」と語ったが、このあと2年半も大阪市長を続けたあげく、次の選挙には出ないことを「けじめ」と呼ぶのはずいぶん都合の良い話に聞こえる。
法定協議会で反対されても住民投票で否決されてもよみがえる維新の「勝つまでジャンケン」大阪市破壊構想
そもそも維新が「大阪都構想」と呼ぶ「大阪市破壊構想」は、維新の創設者である橋下徹元大阪府知事が提唱した構想である。都構想実現のため、2011年に任期途中で府知事を辞職し、大阪市長となった橋下氏は、2015年の1回目の住民投票に際して「二度と住民投票を行わない」と説明。前述の通り、住民投票は1万1000票差で否決され、2015年12月に大阪市長の任期を満了して政界を引退した。
それを2017年の大阪府知事・大阪市長ダブル選挙で、維新の松井一郎代表と吉村洋文氏が、再度の住民投票実施を掲げてともに勝利。松井府知事、吉村市長が誕生した。維新は大阪都構想の内容を詰める法定協議会を発足させて、再住民投票に向けた論議を再開させた。
▲住民投票の結果を受けて記者会見する維新代表代行吉村洋文大阪府知事(2020年11月1日IWJ撮影)
ところが法定協議会で公明党との協議が決裂すると、松井府知事は2019年3月20日付で辞職願を出し、統一地方選にあわせて府知事・市長の入れ替え選挙を行って圧勝した。松井氏は大阪市長に、吉村氏は大阪府知事に入れ替わった。
この選挙結果により、公明党は法定協議会で賛成に転じ、2回目の住民投票が実現したのである。これが「勝つまでジャンケン」と批判される所以だ。
国会で維新馬場幹事長に「大誤報」とまで言われた毎日新聞が反転攻撃! 「都構想」に注ぎ込まれた税金は2013年以降で100億円超!
松井氏は大阪府知事の任期を、住民投票実現のために放り出して2019年の大阪府知事・大阪市長入れ替え選挙まで行ったのである。
毎日新聞の調べによれば、2014年に当時の橋下徹大阪市長が「法定協議会の反対派メンバーの交代」を公約に掲げて出直し市長選を行ったのをはじめとして、前述の2017年のダブル選、2019年の入れ替え選の3回の首長選挙で約18億円が費やされたとのこと。
また、2013年に法定協議会のために大阪府と大阪市が設置した大都市局、大都市局にかわって2016年に大阪府と大阪市が設置した副首都推進局の総人件費が約68億円。さらに2015年の住民投票の経費が約8億1000万円、今回の住民投票の経費が約10億7000万円だとされ、総額で100億円を超える税金が使われたという。
大阪府と大阪市の「二重行政の解消」を掲げて維新が推進した看板政策に、100億円以上もの税金が注ぎ込まれてきたことの意味は重大だ。
前述の11月1日夜の会見では、維新代表代行の吉村府知事は「1丁目1番地の都構想が否決された。重く受け止め、僕自身が都構想に再挑戦することはない」と語ったが、しかし、橋下氏がどう提唱しようが「2度あることは3度ある」という疑いは晴れない。提唱者である橋下氏は、2回もひけつされたにもかかわらず、「グレーター大阪」という「構想」を捨てていないことを明らかにしている。大阪市を廃止するために膨大な時間とカネをムダにした維新の責任は重い。この100億円は、維新が負担するべきではないか、維新が弁済せよ、という声が上がっても不思議ではない。
毎日新聞は10月26日に「大阪市4分割ならコスト218億円増 都構想実現で特別区の収支悪化も 市試算」と題したスクープを報じた。維新の馬場伸幸幹事長は国会の代表質問でこれを「大誤報」と批判し、松井市長は大阪市財政局の出した試算を「捏造」と主張。橋下氏は「否決されれば住民投票は無効」とツイートした。
こうした一連の発言も、検証し、その責任が問われるべきである。
これについては、ぜひ以下の記事もご一読いただきたい。