「人体実験」を「技術実験」と言いかえれば許されると思っているのであろうか?
(IWJ編集部)
特集 #新型コロナウイルス
「人体実験」を「技術実験」と言いかえれば許されると思っているのであろうか?
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プロ野球・横浜ベイスターズの本拠地、横浜スタジアムで明日30日から来月1日にかけて行われる対阪神タイガース戦において、これまで5割の観客収容人数だったものを8割から満員まで緩和し、観客が新型コロナウイルスに感染するリスクについて「技術実験」をすることになっている。
今回の実験には、「これによって感染が拡大すれば誰が責任を取るのか」「まるで人体実験ではないか」などといった批判の声が相次いでおり、IWJは関係省庁および自治体に直撃取材を行った。
今回の実験は、今月15日の新型コロナウイルス感染症対策分科会にて承認された。神奈川県の黒岩祐治知事は同日、県庁でDeNAの南場智子会長と意見交換し、「万全の態勢で最新鋭の技術を結集し、これならできるというモデルを見せたい」「五輪の成功に向けて大きな一歩になることを期待したい」と話したという。
横浜ベイスターズの公式ホームページは、今回の「技術実験」について、「実用段階にある新技術を活用し、個人が『新しい生活様式』を無理なく実践できるように支えるとともに、新型コロナウイルス感染症対策、ポストコロナへの移行を突破口とし、新たな技術開発・イノベーションを強力に推進する」ためのものと説明している。
実験には、神奈川県、株式会社横浜DeNAベイスターズ、株式会社横浜スタジアム、日本電気株式会社、LINE株式会社、株式会社ディー・エヌ・エーが参加し、横浜市が協力する。会場内に高精細カメラを複数置いて、球場の人の動きや密度、マスクの着用率などを把握し、スーパーコンピューター「藤岳」でシュミレーションした結果と組み合わせて、マスクを着用した状態で観客が大声を出したり飲食したりした場合に唾液などのしぶきが広がるかなどを調べるという。
横浜ベイスターズのホームページによると、今回の実験は従来と同様の感染対策の上で行われる。具体的には、来場者に事前に健康状態のセルフチェックや分散入場の呼びかけや入場時の検温、来場者のマスク着用やアルコール消毒の徹底、アルコール販売の制限、ハイタッチ等の禁止などとされている。
今回の実験にあたって横浜ベイスターズがホームページ上に掲載している「よくある質問」の欄には、「この日のハマスタの観客は、感染リスクが高いのですか?」との質問が掲載されている。
しかし、その回答は「これまで取り組んでいる感染対策を継続・徹底することにより、これまでと同様に感染リスクはコントロールできると考えております」というものだ。動員数が大幅に増えるにもかかわらず、なぜ従来通りの対策で「コントロールできる」と言い切れるのか、疑問が残る。
このほか、観客の感染前後の位置情報を把握するために、厚生労働省が開発した新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」のインストールや、神奈川県が導入している「LINEコロナお知らせシステム」の登録を促す。観戦前後でスタジアム近辺の飲食店などを訪れることに関しては特に規制はなく、神奈川県の「感染防止取組書」が掲載されている店舗に限るよう呼びかける。
なお、該当する試合のチケットは、「みらいチケット」という名がついており、普段より最大35%引きで購入することができる。IWJスタッフが実際に購入画面に進んでみたところ、普段は1万3000円ほどのネット裏の席が8000円、普段2400円ほどの立見席は1600円となっており、28日の夕方時点で普段高額な席や安い立ち見席などはすでに埋まっている個所も多かった。
なお、横浜ベイスターズのホームページでトップから確認できる実験の説明は以下の文章のみで、先述した「よくある質問」はホームページ内をくまなく探さなければ見つからない状態になっている。
「横浜スタジアム開催主催試合[対象試合:10月30日(金)〜11月1日(日)]のチケット発売について下記のとおりご案内いたします。神奈川県、株式会社横浜DeNAベイスターズ、株式会社横浜スタジアム、日本電気株式会社、LINE株式会社、KDDI株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、横浜市(協力)は、十分な感染症対策を講じた上で、観客数の上限を緩和し、80%を一つの目安にして試合を開催し、コロナ対策に関する技術実証に取組んで参ります。また、本取組は、今後の大規模イベント開催ガイドライン策定に向けた技術実証の一環として、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室と協議した上で、専門家で構成される新型コロナウイルス感染症対策分科会に報告し了解を得て、実施するものです。
また、大規模イベントを行うスポーツ、ライブエンターテインメント文化の未来につながる取組みとなることを願い、本期間のチケットを『みらいチケット』と名付け、フレックスプライス『☆5』の最大35%割引の特別価格にて発売いたします。
本チケット発売概要および観戦ルールおよび各種注意事項を必ず最後まで確認し、チケットをご購入いただくようお願い申し上げます」。
なお、スタッフが該当する試合のチケット購入画面まで進んだものの、実験に関する注意事項は画面の下の方に赤字で書かれているのみで同意確認のチェックボックスなどはなく、注意事項を読まずともチケットが購入できた。このような状態で、果たして十分な周知がなされていると言えるのだろうか。
これを受け、IWJは神奈川県、内閣官房、経産省に直撃取材を行った。
IWJ「今回の実験は分科会の誰が了承したのでしょうか?」
内閣官房「報道にあるように、分科会で合意を経て了承しました」。
IWJ「実証実験するにあたって、特別な予防策などの準備は取られるのでしょうか?」。
内閣官房「実証実験というより、新技術の検証です。その新技術については、旗振り役が経済産業省の商務情報政策局・産業コンテンツです。経産省と民間企業でやっているので詳しくはそちらへ聞いてください」。
IWJ「クラスターが起きたときの責任の所在はどこにあるのでしょうか?」。
内閣官房「一義的には『横浜スタジアム』と『横浜市』ということになります。実証が終わった後に結果としてどういう状況になったかは分科会で検証します」。
IWJ「実証について国民に広く知らされていないように見受けられるますが?」。
内閣官房「経産省が旗振り役なので、そちらに聞いてください」。
IWJ「オリンピック開催を視野に入れての実証実験なのでしょうか?」
内閣官房「おっしゃる通りです」。
IWJ「わかりました。ありがとうございます」。
神奈川県「技術実証の関係(の取材)でしょうか?」。
IWJ「技術実証?あ、実証実験といえばいいんでしょうか?」。
神奈川県「えーとね、実証実験ではなくて技術実証という言葉にこだわっています。実験じゃない」。
IWJ「技術実証ですか?どうしてそこにこだわっていらっしゃるのですか?」
神奈川県「今回、ICTとか、技術を使って観客の皆様をオペレーションしてくっていうのが、目的なので。実験じゃないです。人を集めて感染するかしないかを見る話じゃないので。誤解のないように、ということです」。
IWJ「なるほど。つまり、観客をオペレートするということは、誘導するとか、動線をどういうふうにするとかですか?」。
神奈川県「まあ、動線まではいかないですけれども、密を防ぐためにいろんな取り組みをするというのが趣旨なので」。
IWJ「密を防ぐ……密にするんじゃないですか?」。
神奈川県「人が集まっても、ただ集まって、ただどんどんおしくらまんじゅうみたいに集まるという、密集する機会をなるべく減らすという。それが今回の趣旨なんです」。
IWJ「そうすると、具体的には8割以上でしたっけ?」。
神奈川県「今、初日(30日)はそこを目標にしています」。
IWJ「阪神戦の時ですよね。8割ぐらいで、2割は空くわけですよね、空席が。その2割の配分をどうするかとか、具体的にはそういう風なことなんでしょうか?」。
神奈川県「じゃないです。座席云々じゃなくて、例えば帰るときに混雑しますよね、とか、トイレに行くときに混雑しますよね。そこを混雑しないようにするとか、そういう取り組みです。
あの、単純に人が声を出さないで座っている場合ですと、劇場なんかは100%入れていたりするので。その大きい版をつくる。小さい劇場ですとか、このくらいの人数であれば大丈夫だろうというかたちで国の方の基準が出ていますから、今回1万6000人以上入れる時に、そういったかたちのオペレーションができるかできないか。そういうところなんですよね。そこが今回の技術実証の目的になります」。
IWJ「そうすると、試合が始まるときとか、帰るときとか、一斉に皆さんが動く時間帯があって、そういうときにどういうふうにみなさんを誘導したらいいかと言ったことが主になるんでしょうか?」
神奈川県「そうですね」。
IWJ「座席でのみなさんの振る舞いに関しては、なにかルールがあるんですか?」
神奈川県「もともとマスクは着用しなければいけないですとか、鳴り物とか飛沫が飛ぶようなことはしてはいけないといった、そういうルールはプロ野球のガイドラインにもありますので。そこは守っているので」。
IWJ「それはこれまでの通常通りの規制ということですね。万が一感染者であるとかクラスターが発生した場合の対応はどうなっていますか?」
神奈川県「例えば試合が終わった後に観客の中に陽性患者の人が出た場合はですね、通常、濃厚接触者の把握をしなければいけないので、その方に対して、座席のどこに座っていたか登録してもらうんですけれども、そこを確認します」。
IWJ「これはCOCOAなどを使うんですか?」
神奈川県「COCOAとか県のラインコロナお知らせシステムといった接触確認アプリがあるわけですけれども、そこで把握してその周囲の方、今何メートルまでにするか検討中なんですが、その方にお知らせするようなかたち。もしくは保健所の方からその方に濃厚接触疑いありとお知らせして、調査対象を広げていくといったかたちにしています」。
IWJ「なるほど。感染者が出た場合の対応は、ベイスターズというよりはむしろ県のほう、横浜市のほうで?」。
神奈川県「そうですね。横浜市が保健所になりますから、保健所の方からの調査ということになりますね。それを使うときにラインコロナお知らせシステムは県のシステムになりますので、そこを使って近くの方に濃厚接触の可能性ありますよとお知らせする」。
IWJ「これはみなさん、登録が義務なんですか?」。
神奈川県「義務ではないんですけれども、みなさんに今回技術実証なので登録してくださいと言うお願いはしていく」。
IWJ「その技術実証であるということはベイスターズのホームページを見ると、サイトを開けて細かい字を読まないと分からないようになっていて、ちょっと周知が弱いのではないかと思ったんですが、そのあたりはどうですか?」
神奈川県「まあ、チケットを買うときに、そこのページの確認しなきゃいけないという点はありますね(※1)。あと、スマホとかだと小さくなるかもしれないので、パソコンという手もありますし、県のホームページにも間接には載せているので。そういうところでもご確認いただけるとありがたいと」。
※1 先述したように、IWJスタッフが確認したところ実験についてのページを確認せずともチケットを買うことができる。
IWJ「先ほど、感染者が万が一出た場合には、ご本人はもちろんですが、その周辺の方々にお知らせするというところまではわかりましたが、例えば病院の費用とかそういったものは公的な負担になりますか?」
神奈川県「これに合わせて特別に負担というのはありませんが、今、感染で入院された方は公費負担、負担はないはずです。自主的に検査というのは費用がかかりますけれども。濃厚接触があるときは、たしか負担がなかったはず」。
神奈川県はこの「技術実験」において、感染者が出ても公費で医療費を負担することもなく、責任は取らない、ということになる。
IWJ「政府の分科会、神奈川県、横浜市と非常に大掛かりな態勢が敷かれていますが、政府の分科会というのは具体的には厚労省の方か何かですか?」
神奈川県「内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策本部対策分科会、あの、尾身会長でよくテレビに出ている、あの有識者会議になります」。
IWJ「では、了承した専門家というのは、尾身先生とか……」。
神奈川県「あそこの分科会にいる、20名弱だったと思いますが、そこで了承いただいています」。
IWJ「あとはオリンピックということが背景にあるかなと思うんですが、オリンピック委員会や小池都知事も協力していらっしゃる?」。
神奈川県「そこは協力の中にはいっていないですね。プロジェクトのメンバーの中には。関係省庁ということで、事前の連絡をするとき、スポーツ庁などに入ってはいますけれども、スタジアムを使うので。小池さんに云々とか組織委員会に云々といった動きは特にはしていないです」。
IWJ「そうなんですね」。
神奈川県「ただ、これが大規模イベントのこういう取り組みをすればウィズコロナでも人数制限を緩和できるとかいったところにはつながっていきますから、当然、来年度以降のプロ野球だとか、スポーツ文化の継承になりますよね。そこからオリンピックにつながると言うのは当然視野にはいっています。ぜひどこかでやらなければという考え方の下ではやっております」。
IWJ「なるほど。では、文科省なども関係してくるわけですね」。
神奈川県「文科省は直接まだそこまではいってないですね」。
IWJ「この技術実証が上手くいけば非常大きく広がっていくと」。
神奈川県「大規模イベントのガイドラインをどうつくるかというところに、エビデンスとして取り入れるかたちになるので、大きなスポーツイベントだとか、ゆくゆくは文化イベントだとか、そういったところにつながっていくとは思っています」。
IWJ「いろいろありがとうございます。あとは、菅総理のお足元ですね、神奈川2区。菅総理の方からこの技術実証について何かコメントはありましたか?」。
神奈川県「ああ、聞いたことないですね(笑)。当然、事前にこういった提案しますよというのは関係者として、関係省庁の中では官邸の方にもお話は内々にはしていますけれども。コメントはちょっとわからないです(笑)」。
IWJ「そうでしたか。どうもありがとうございました」。
神奈川県「よろしくお願いします」。
官邸には、この「技術実験」という名の「人体実験」は、情報が伝わっています。
IWJ「今回の新技術の検証実験の旗振り役は、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室から、そちらの経産相商務情報政策局コンテンツ産業課ということですね」。
経産省「この新技術の実証事業は、参加企業、これは横浜ベイスターズなんですが、それと自治体の神奈川県が主催者となって開催しておりますので、経産省が旗振り役という認識ではありません。事業者から提案をいただいて、コロナ分科会で了解をされているということであります」。
IWJ「新技術の内容についてなんですが、具体的にはどういった技術を指しているんでしょうか?」。
経産省「横浜ベイスターズから出ているプレスリリース(※2)に詳しく書いてありますので、そちらをご覧ください。報道をされる際は、ベイスターズに直接お問い合わせいただいた方が詳しいお話を聞けると思います」。
IWJ「経産省さんは主催ではありませんが関与はされるわけです。これは新技術の検証ということですが、結局、目的としては、感染が出たらいけないわけで、クラスターが発生してもいけないわけですから……」。
経産省「足元の50%という制限がかかっておりまして、対策を今までよりもかなり追加したうえで、そこに書いてあるようなCOCOAをしっかり入れて、LINEでの追跡、高精度カメラを設置等のフルパッケージで入れてみて、今回は80%からスタートして、そういった中で3日間実施してですね、終わったあとに、しっかりと、トレース、トラッキング行います。
万が一、クラスターが発生しても、しっかりと、トラッキングをするということです。こういった対策を行って、感染リスクが上がるかどうかを、事後的な検証も含めて行います。ちなみに、3日間の実験が終わった後にですね、効果の事後的な検証を含めてですね、コロナ分科会に報告をします。世の中に報告もします」。
クラスターが出たらしっかりと追跡をし、世の中に証言をするが、肝心の感染者への配慮や医療費を誰がもつのか、といった責任の話はまったく出ない。当日の感染者の「人権」はすっかり忘れられているようだ。
また、先述したように、横浜ベイスターズのホームページには、当日の球場の感染対策については「これまで取り組んでいる感染対策を継続・徹底する」とあるのみで、特に対策は追加されていない。
IWJ「初日は客席を80%ということですが、翌日に100%になるのですか?」。
経産省「今予定では、初日80%、2日目に90%、3日目に100%です。他方で、お客様がどれくらい入るかは、実際やってみないとわからないです。フルキャパになるかどうかは、お客様のこともあるので、一概には言えないと思います」。
IWJ「チケットの売れ行きはどんな感じですか?」。
経産省「そこは今把握していません。チケットはまだ販売されているので、ベイスターズに聞かれたほうがわかるかと思います」。
IWJ「経済と感染予防の両立が至上命題になっているのは理解できますが、見方を変えれば、人を入れて感染が発生するかどうか、クラスターが発生するかどうか、事後的に見るわけですから、人体実験の側面は否定できないわけですよね。クラスターなどが発生した場合に、最終責任者は誰なのかが問題になると思うんですよ。ご存知だと思いますが、新型コロナウイルス感染症は、非常に健康な人も一晩で急激に症状が変わって翌日亡くなってしまうというケースが多々報告されているわけですよね。死者が出る可能性も当然のことながら想定しなければならないと思います。そうしたときに、いったい誰が責任を取るのか、ということが大きな問題としてあると思うんですよ。これについてはどのようにお考えですか?」。
経産省「今回についてはおっしゃるようなリスクも当然あります。そういう意味も含めて今回対策をかなり追加してやっております。細心の注意を払いながらそういったことが発生しないように万全の態勢で対応していきたいと思います。万が一何か発生し場合には、関係省庁がそれぞれの役割の中でしっかり対応していくということであります」。
IWJ「あらかじめ責任の主体を明確にしないままにスタートすると、誰が責任を取るのかわからないまま、結局、誰も責任を取らないということになります。これは、原発問題にしても他の社会問題にしてもすべてそうなわけですよ」。
経産省「今回の実証事業については主催者と自治体の責任の下でやっていまして、当然のことながら、分科会の専門家のみなさんにも、了承されたものでありますし、もちろん、政府も事後的な検証を含めて一緒に対応していくということであります。事後的な検証という意味では主催者、自治体に結果を上げていただいて、それを踏まえて、分科会の専門家も、役所もそれで役割を果たしながら対応していくと理解をしております」。
IWJ「検証に現実性がどの程度あるのかをお尋ねします。今回の技術実験は球場の空間が実験のフィールドなわけですよ。球場を出てしまえば、実験外になりますが、感染する可能性はあるわけです。その場合、どうやって判断できるのかということです」。
経産省「会場の中は3密の回避、マスク着用、基本的な感染対策もしっかりと実施していくと。それから、来られる前、試合が終わった後ですね、来場前の体調のチェックだったり、終わった後の体調のチェックも含めてやろうと思ってます。特に、公共交通機関、終わった後の飲食店、そういったところへの分散も含めて対応しようと思っています。その意味では、主催者や技術担当企業による事後的なデータ(体調データ)の検証もしていきたいと考えています」。
IWJ「それは各人の行動の履歴を全部ピックアップしなければ、検証は不可能ですよね」。
経産省「個人のプライバシーもありますので、観客のみなさまの合意の下に行います。例えば、体調についてもLINEアプリを使ってアンケートをお送りし、自由意思で記載いただくということですので、すべての方に対して強制的にデータ収集を行うわけではありません」。
IWJ「極端な話、球場を出た後に夜の街に行ってしまい、それは申告しないということも考えられなくないわけですが……」。
経産省「こういうことは、今回のイベントに限らず、社会活動においては、そういったリスクはすべて排除できるものではありませんので、このイベントに限らず、すべてのものに通じるものかなと思います」。
IWJ「今回の実証実験は、オリンピックを見据えたものだと理解するのが自然だと思いますが、オリンピックは、海外からやってくるのが前提になるわけで、それが可能ならですが、日本の文化はみなさん協力的ですが、そういう文化ばかりではないわけですよね。文化の違いにおいて、大声を出す、マスクは着けない、という人たちが入ってくるということを前提にした場合に、今回の実証実験はオリンピックでの感染予防の有効性を計る上で、どの程度、効果があるとお考えですか」。
経産省「今回の実証事業はあくまでも、日本において開催されるイベントの開催制限ガイドラインに向けた話ですので、これが一義的にオリパラにつながる話かどうかというと、今、そういったことが決まっているということはまったくありません。もちろん、将来的には、こういったところで、得られたデータや効果がほかのイベント開催における、なんらかの形での援用はありえます」。
IWJ「どうもお忙しいところ、ありがとうございました」。
経産省「よろしくお願いします」。
神奈川県、内閣官房、経産省への取材から、今回の「技術実証」の責任の所在はどこにあるのか、クラスター発生時にはどのような対応をするのか等、様々な問題があいまいにされた状態となってしまっていることが明らかである。担当者は実験ではなく「技術実証」だと言い張っているが、事実上は「人体実験」と言えるだろう。
神奈川県では、28日に64人の新規感染者が確認されており、これは同日の他県と比べても東京、大阪に次いで全国で3番目の規模だ。感染が収束していない上に、インフルエンザの流行も懸念され始めるこの時期に、なぜ「技術実証」を行う必要があるのだろうか。
また、こうした「技術実証」、いや、人体実験を行う際には、主催者側が参加者に丁寧に説明し、重症化のリスクが高い高齢者や持病がある人には入場を控えてもらうなどといった徹底した対策が必要なのではないか。横浜ベイスターズのホームページや電話取材で得た情報の限りでは、そのような説明は十分にされていないどころか、責任の所在も曖昧だ。
このほか、プロ野球・巨人の本拠地である東京ドームでも同様の「技術実証」が行われることが23日の新型コロナウイルス感染症対策分科会で提案されていることが分かっている。感染拡大が最も深刻な東京でも「人体実験」がなされようとしている。
IWJは、内閣官房、神奈川県、経産省のほかに、横浜市と横浜DeNAベイスターズに取材を行ったが、期限までに回答がなかった。こちらは回答があり次第、後日掲載する。