2020年10月28日、千代田区六本木の原子力規制委員会で、更田豊志(ふけたとよし)原子力規制委員長の定例会見が行われた。
先週の会見で福島第一原発敷地内の汚染水海洋放出に際し、更田委員長はモニタリングの強化を表明した。
これについて「汚染処理水処理方法について、中国、韓国から懸念の表明がある中で、モニタリング結果の公表や海外への説明について」との質問がなされた。これに対して更田委員長は「今回の処理水のことに限らず、福島第一原発がもたらした影響については国内だけではなく海外に対しても、正確に、迅速に公表していく必要がある」「言語の問題もありますので、伝わりやすい工夫が必要です。値の表現などの工夫はしかるべき方法をとる必要がある」と答えた。
一方、10月26日午後、原子力規制委員会の全職員が利用する内部の情報システムに外部から不正アクセスがあり、サイバー攻撃の可能性が指摘されている。
- 原子力規制委にサイバー攻撃 外部から不正侵入か(朝日新聞、2020年10月27日)
この問題について「どういうことが起きたのかということの詳細について、現時点で公表する予定はあるのか」との質問を受けた更田委員長は「脆弱性が解決される前なのに明らかにすることによって、さらに攻撃に晒される事態は避けなければならない」「事態の解決にどれだけ時間がかかるかさえ掴めておらず、わからないというのが正直なところ」と述べた。
重ねて発電所のトラブルや審査への影響を問われると「影響があるとすればコロナに関連して在宅勤務・テレワークが難しくなるので、時差出勤の活用で、感染症対策をしつつやるようになる」と答えた。その上で「メールが使えない、外部とのやりとりが電話に変わる、データのやりとりが媒体を使うようになる、ということだが、審査、検査に影響が出ないように務める」と述べた。
他方、定期検査中の、関西電力大飯原発3号機の原子炉と蒸気発生器をつなぐ1次系配管に傷が見つかった。
- 関電 大飯3の配管交換へ 定検で傷発見 規制委に報告(日本経済新聞、2020年10月19日)
この問題について、傷の原因がPWR(加圧式原子炉)では従来起こらないとされて審査を通過してきたSCC(応力腐食割れ)であるかどうかによっては、従来の審査結果に影響があるのではないか、との質問があった。
この質問に対して更田委員長は「当該箇所を切り出し、破面(金属材が折れたり切れたときに現れる面)を見た調査結果によっては、そこから学ぶことはあるだろうと思っている」と答えた。
更田委員長のこの回答に対して、別の記者が「今の質問の主旨は、従来の老朽化原発の運転延長審査を見直すところはないのか、ということではないか」と迫った。
これに対して更田委員長は「破面の観察結果によっては高経年劣化技術評価だけに係わらず、オープンクエスチョン、一般的な課題になると思う」と述べ、問題の影響が広範囲になる可能性を示唆した。
関西電力大飯原発3号機の、配管の傷に関する調査結果は、従来の審査のあり方を根底から覆す結果になるという、重大な問題が含まれていることを示した会見となった。