2020年10月14日、東京港区六本木の原子力規制委員会で、更田豊志(ふけたとよし)原子力規制委員長による定例会見が開かれた。
会見に先立つ10月13日に、原子力規制庁は記者ブリーフィングのなかで、9月30日に言い渡された東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う国家賠償請求訴訟の仙台高裁判決において、国の損害賠償責任が一部認められたことに対し、原子力規制委員会として上告を申立てたことを明らかにした。
- 原発事故をめぐる福島県住民などの集団訴訟で仙台高裁が判決!「国の責任が一部認められたと聞いている」「あらためて今後とも厳正な規制を進めていく」~9.30原子力規制委員会 更田豊志委員長 定例会見 2020.9.30
- 「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟 福島県との交渉報告と上告対応について記者会見―登壇:中島孝氏(生業訴訟原告団長)、馬奈木厳太郎氏(生業訴訟弁護団事務局長) 2020.10.13
その際、上告理由として規制庁は「国が規制権限を行使して東京電力に津波対策を講じさせていれば、東京電力福島第一原子力発電所の事故を回避することができた」とする判決に対し「国自ら設置した地震調査研究推進本部の知見が十分な科学的根拠をともなう知見ではなかったから、予見可能性はなかった」と主張した。
これを受けて、記者が「当時の地震調査研究推進本部の幹部にはその後、原子力規制委員会委員長代理を努めた、島崎邦彦氏がいたが、その方の見解を否定するというのはいかがなものか」と迫った。
これに対し更田委員長は「個人のお名前を持って規制に参酌することはない」としたが、少なくとも国の機関がこれを支持したものである以上、個人的な見解ではなく、広く専門家に支持された見解であったことは、疑う余地がない。
また、「地震調査研究推進本部の多くの研究者や所管の文部科学省の官僚も、当時の地震学の粋を集めた知見だったと裁判でも述べている」「なぜこれが科学的な根拠がないと考えているのか」と質問に対して、更田委員長は「国の主張というものは裁判の中で展開していくもので、ここで改めて見解を申し上げるものではない」と言及を避けた。
IWJ記者は、前回の会見時に福島から来た原告の方々が、上告断念の要請文を手渡そうと、規制委員会を訪れた事を指摘した上で、福島第一原子力発電所の事故による被害が、上告することによって時間が失われ拡大するのではないかと質問した。
これに対して更田委員長は「司法の場で国が主張として展開していくことで、これまで以上のことを申し上げるつもりはない」と述べ、被災者に向けた言葉を発することはなかった。