2020年10月21日、東京港区六本木の原子力規制委員会で、更田豊志(ふけたとよし)委員長による定例の記者会見が行われた。
会見では、東京電力福島第一原子力発電所に貯留されている、処理済み汚染水(ALPS処理水)の処分について、10月27日にも、国が海洋放出の方針を表明するであろうことを踏まえた質問が相次いだ。
海洋放出の妥当性を問われた更田委員長は「実行可能という意味において、ほとんど唯一といってよい」と従来の主張を繰り返し「最大の争点は風評被害だ」として、2013年12月の第一回汚染水処理対策委員会トリチウム水タスクフォース以来7年にわたり検討されてきた様々な提案に対する議論を一つの争点に矮小化して見せた。
更田委員長は、海洋放出の決定から実際に放出されるまでの期間について聞かれて「多少の期間に差が出てくるが、おおよそ2年」と答えた。
さらに放出に関して、規制当局としてどのようにかかわるかを問われた更田委員長は「東京電力から、福島第一原子力発電所の実施計画の変更申請という形で、具体的な処分方法を申請してくる。そんなに難しい審査になるとは思っていないが、できるだけ速やかに申請を進めてほしい」と話した。
また、放出される処理済み汚染水について、「モニタリングは私たちの役割の一つ」と述べ、「放出の前後に変わりがないということを示そうとすると、精度の高い評価をしなければならない」「できるだけ改善・強化したモニタリングを早く始めなければならない」とした。
IWJ記者は、更田委員長が規制当局のトップとして早くから「海洋放出」を唯一の方策と表明してきたことによって、「政府や全体の議論が海洋放出に引っ張られていたのではないか」と指摘した。
これに対して更田委員長は「早い時点で私たちの見解を示したということは規制委員会の責任として正しかったと思っている」「(トリチウム汚染水を)あのまま保管し続けるということは、廃炉作業をより著しく困難なものにする」と従来からの見解を述べた。
IWJ記者は重ねて「廃炉については一応の期限は切っているものの、目処は立たない。それに対し(汚染水の)処理を急ぐのは、もともと(時間の)物差しの違う議論をしてきたのではないか」と指摘した。
これに対して更田委員長は「廃炉の見通しが立たない中で、もっとも見通しが立たないのは、片づけたものがどこに行くかということがわからないから」と述べ、廃炉政策の論理的破綻を自ら明らかにした。