毎年9月1日に開催される、関東大震災で虐殺された「朝鮮人犠牲者追悼式」について、東京都の小池百合子都知事は、今回も追悼文を送付しないことを明らかにした。小池都政下では、3年連続で追悼文の送付が見送られることとなった。小池知事は「都の慰霊堂で開かれる大法要で、震災の犠牲になった『すべての方』に哀悼の意を表している」としており、重ねての追悼文は必要ない、というスタンスを押し通している。
- 小池都知事 追悼文、3年連続送らず 関東大震災で朝鮮人虐殺(東京新聞朝刊、2019年8月10日)
関東大震災では、震災直後に「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマが広がり、それを多くの市民が信じ込んだ結果、首都圏に住む無実の朝鮮人が多数殺害された。
関東大震災の直後に、なぜこのような惨劇が繰り広げられたのか。その背景には、震災の4年前に朝鮮半島で起こった大日本帝国からの独立運動「3・1運動」の影響があると考えられる。当時の大日本帝国による植民地支配を揺るがすこの民衆運動に対し、帝国の官憲は苛烈な弾圧を加えた。民衆の抵抗のすさまじさに手を焼いた軍や官憲は警戒心を強め、「日本政府に不満を抱く朝鮮人は容赦なく取り締まれ」という認識を深めたといわれている。その結果、日本で生活している朝鮮半島出身者に対する過剰な警戒心、そして加害者特有の被害者から報復されるのではないかという歪んだ恐怖心をつのらせ、戒厳令の敷かれた震災直後の東京周辺でデマが流されると、あっという間に自警団が作られ、朝鮮人と思しき住民を片っ端から虐殺するというおぞましい事態を生み出した。
当時のこの状況については、自民党の憲法改正案について岩上安身が梓澤和幸弁護士、澤藤統一郎弁護士と鼎談した内容を掲載した書籍『前夜』で、梓澤弁護士が詳しく語っている。日韓関係が悪化する一方の状況になっていることに鑑み、『前夜』から自民党改憲草案第9章「緊急事態」部分を急遽公開することとした。
梓澤弁護士は「日本人として、他民族に対しておよそ90年前にこういうことをやったということは、記憶に留めておかなければならない」と述べている。追悼は都の大法要で事足りるとしている小池知事は、デマにより罪もないのに無残なリンチによって命を奪われたジェノサイドの被害者と、災害で命を落とした被災者とを意図的に同列に並べ、過去の大量殺戮犯罪を隠蔽し、今も続く差別を容認し、人権を軽視しようとする姿勢が露わになっているといえるのではないか。
■ハイライト動画【日弁連調査】自民党の憲法改正案についての鼎談 第12弾 2013.6.10
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- 『前夜』P279〜295 緊急事態条項抜粋(PDF 1.74MB)