ホルムズ海峡の「有志連合」への自衛隊の参加圧力が内外から高まっている。米政府は日本や韓国、英国、フランス、ドイツ、ノルウェー、オーストラリアなど60か国以上に参加を呼び掛けている。8月5日には、英国のウォレス国防相が有志連合に参加する意向を発表した。
▲ボリス・ジョンソン英国首相(Wikipediaより)
7月29日には、北朝鮮との非核化交渉や、輸出規制問題や徴用工問題などで対立する日本との仲裁を米国に働きかけている韓国が、有志連合への参加を積極的に検討する意向だと報道された。
国内でも8月2日に、高木けい衆議院議員や杉田水脈衆議院議員、和田政宗参議院議員など35名の自民党議員からなる「日本の尊厳と国益を護る会」(2019年6月発足)が、「ホルムズ海峡をめぐる緊迫した情勢に鑑み、わが国タンカーの安全確保のため、護衛艦を派遣すべきである。アメリカの提唱している有志連合への参加は別途検討すべきである」という申し入れを自民党と官邸に対して行っている。
▲高木けい「日本の尊厳と国益を護る会」事務局長(ツイッターのプロフィールより)
内外からの圧力が日本政府の判断に影響を及ぼし始めている!
こうした諸外国の動きや国内の圧力は、確実に、日本政府の判断に影響を及ぼしている。
7月16日の閣議後の記者会見で、岩屋防衛相は、「現時点で自衛隊を派遣することは考えていない」と参加を明確に否定していたが、英国の参加表明を受けて、8月6日の記者会見で安倍総理は、「米国やイランとの関係を踏まえ、様々な観点から検討し、総合的に判断する」と述べ、微妙に有志連合への参加に含みを持たせるようになってきている。
▲安倍総理(Wikipediaより)
IWJ日刊ガイド2019.8.1日号でもお伝えしたように、「有志連合」の本質とは、「ホルムズ海峡での米・イランの危機」ではなく「米国によるイスラエル支援とトランプ再選への布石」である。
有志連合に参加することは、イスラエル支援とトランプ再選に協力することにほかならない。その代償は、貴重な真実国であるイランとの関係を修復不可能なまでに毀損し、イランから輸入する石油を失い、自衛隊員たちを大義のない戦いのために、死の危険にさらすことである。得るものはなにもない。
今のところ、有志連合に参加を正式に決めたのは、「トランプ大統領の劣化版」と言われ、個人的にもトランプ大統領と親しいボリス・ジョンソン首相の率いる英国だけである。現在、米国の力を必要としている韓国政府は、参加に意欲的と報道されている。ドイツは、有志連合は外交的解決を困難にするとして、早々に不参加を表明している。ドイツの不参加表明は、ドイツが米国の従属国ではなく主体的な判断を下させる主権国家になったことを満天下に知らせるものである。
- ドイツ、有志連合に不参加(共同通信、2019年8月1日)
有志連合構想が進まない4つの理由「イラン核合意は、2015年、米英仏独中露の6か国が当時核開発を進めていたイランとの間で、核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムの製造中止と、貯蔵済み濃縮ウランおよび遠心分離機の削減を約束させ、その見返りとして対イラン経済制裁緩和を約束したものだ」
▲ロウハニ・イラン大統領(Wikipediaより)
斉藤氏によれば、イラン核合意は、「国連安保理では全会一致で支持が表明された。国際世論も、これが最終的解決策ではないものの、圧倒的にこの国際取り決めへの支持に回っている」。
このように国際社会で認められたイラン核合意を一方的に離脱し、ウラン濃縮の完全停止、プルトニウム再処理の凍結、重水炉の閉鎖、弾道ミサイル開発の中止、国連原子力機関(IAEA)による軍事施設を含む無制限の査察の受け入れ、中東の「テロ組織」支援と近隣国への脅迫行為の中止、シリアからの軍事顧問や民兵組織の撤退など、イランには受け入れがたい12項目の要求を突き付けている米国が主導する「有志連合」には道義的な根拠がない、ということである。
もっとはっきり言うなら、核合意の違反を行ったのはイランではなく米国だということである。
▲トランプ大統領(Wikipediaより)
第2の理由として、斉藤氏は、有志連合に多くの国が加わった場合、エネルギー供給の大動脈であるホルムズ海峡の情勢が一気に悪化することを挙げ、次のように述べている。
「いうまでもなくペルシャワ湾のホルムズ海峡が世界のエネルギー供給の『大動脈』となっており、もし、同海峡におけるタンカー安全航行確保のための『有志連合』に加わった場合、湾岸情勢が一挙に悪化し、多くの国にとって、イランのみならず他の産油国からの原油輸入も危殆に瀕することになるからだ」
第3の理由として、斉藤氏は、イランに核合意からの公式離脱の口実を与え、本格的な核開発を加速させてしまうとして、次のように述べている。
「各国が反イラン包囲網形成に賛同した場合、イラン核合意からの公式離脱の口実をイラン側に与え、本格核開発を逆に加速させてしまうことになるからだ。そうなると合意以前のイランの核の脅威を中東全体に拡大させることが懸念される」
そして第4に「トランプ政権下の対イラン政策が首尾一貫性を欠いていることがある」という理由を挙げている。
有志連合に日本が参加すればイスラエルのプレゼンスを高めトランプ再選に協力することになる!
こうした背景から、中ロが有志連合に反対し、ドイツは不参加を表明、フランスも参加に消極的な状況である。もしも、日本が「総合的に判断して」参加を決めたとしたら、イランの対抗措置を招きイスラエルの中東でのプレゼンスを高め、トランプ大統領の再選に協力することになるだろう。それは日本の中東外交に計り知れない禍根を残ることになる。
▲ネタニヤフ・イスラエル首相(Wikipediaより)