1.政治資金規正法の「経常経費」の支出に関する明細記載の定め
(1)吉村洋文氏については、これまで2015年の衆議院議員時代の政党支部の政治資金規正法違反疑惑について2回(「その5」「その6」)にわたって取り上げて解説した(「その13」で再度取り上げた)。
今回は、大阪市長時代の政治団体の事務所家賃問題を取り上げる。
また、政治資金規正法の一部欠陥を利用して姑息にも、同法の要請する政治資金の支出の明細記載
(ここでは政治活動費ではなく経常経費の支出のそれに限定)を意図的に逃れようとしていることを指摘する。
(2)そこで、政治資金資金規正法が経常経費の支出の記載について、どのように定めているのか、解説しておこう。
①政治資金の収支報告は、大きく収入と支出に分けられる(もちろん、翌年への繰越もあるが、これは翌年の収入の含めることができる)。
②「支出」については、「経常経費」と「政治活動費」に分けられる。
③「経常経費」には「人件費」「光熱水費」「備品・消耗品費」「事務所費」がある。
政治資金規正法は、以上の各合計額をそれぞれ記載することを義務付けている(経常経費の合計額も)。
また、「人件費」を除く「経常経費」(「光熱水費」「備品・消耗品費」「事務所費」)については、それぞれ支出の明細(「支出の目的」「金額」「支出年月日」「支出を受けた者の氏名」「支出を受けた者の住所」等)を記載しなければならないのは、政治団体の種類ごとに異なる。
「国会議員関係政治団体」は「1万円超の支出」であり、「資金管理団体」(ただし「国会議員関係政治団体」以外のそれ)は「5万円以上の支出」であり、「その他の政治団体」は「人件費」と同じように「支出の明細」を記載する必要は一切ない(「光熱水費」などの各項目ごとの合計額だけ記載)。
2.吉村洋文氏の諸政治団体とその政治資金収支の概要
(1)2011年
①吉村洋文氏は、2014年12月衆議院総選挙に維新の党から立候補して当選し、2015年10月1日衆議院議員を辞職し、同年11月大阪市長選挙に立候補し当選した。
②たまたま知ったことであるが、吉村洋文氏の政治団体は、遅くとも「2010年」から存在するようだ。
「吉村洋文後援会」(代表・吉村洋文)の「2011年」政治資金収支報告書(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00111736/23yk0111.pdf)には、「前年から繰越額」が約67・8万円あるので、少なくとも2010年から「吉村洋文後援会」が存在することがわかる。
③「吉村洋文後援会」は、2011年の場合、代表も会計責任者も事務担当者も吉村洋文氏本人であるが、政治資金の収支における透明度が一番低い「その他の政治団体」になっている。
主たる事務所の所在地は、大阪市北区西天満(番地は省略)である。
④「本年の収入」は111・6万円強で、支出総額は約93万円、翌年への繰越額は86・4万円強と記載されている。
ただし、(事務所の)無償提供による「金銭以外の寄付相当分」約57・6万円が収入にも支出にもあるので、実質的な「本年の収入」は約54万円、実質的な「支出総額」は35万円強ということになる。
そのうち、吉村氏本人が(無償提供分を除く)計43万円で、「大阪維新の会」に計14万円強を寄付し、11万円を「大阪維新の会」から寄付を受けている。
また、「政治活動費」の支出合計(小計)額は約93万円で、「支出」の合計額はそれと同額である。
「経常経費」は一切記載されていない。
つまり、「人件費」「光熱水費」「備品・消耗品費」「事務所費」はすべて0円ということになる。
⑤2011年の政治資金の収支の点でみると、「吉村洋文後援会」は限りなく活動実態の乏しい政治団体だったことがわかる。
それが、後述するように、その後、吉村代表の選挙への立候補で大きく変わってゆく。
(2)2014年
①2012年、2013年の政治団体の政治資金収支報告書は未入手である。
②では、吉村洋文氏が12月に衆議院総選挙に立候補した2014年であるが、「吉村洋文後援会」(代表・吉村洋文)の政治資金収支報告書(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00201684/26YK0111.pdf)を見ると、「主たる事務所」の所在地は、大阪市北与力町(番地は省略)になっている(いつ変わったのはか未確認)。
「吉村洋文後援会」は、政治団体の性格としては、政治資金の収支の透明度が一番高い「国会議員関係政治団体」になっているが、吉村氏が当選したのが12月なので、後述するように2014年の政治資金の収支の透明度は低いままのようだ。
「吉村洋文後援会」の「本年の収入」は171万円。
「経常経費」の支出総額は253万円強(に訂正されている)。
そのほどんとは「備品・消耗品費」246・5万円弱である。
③同年に吉村氏は、「維新の党衆議院大阪府第4選挙区支部」の代表になっているが、その収支はすべて0円であり、政治資金における活動実態はない(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00201553/26pq0031.pdf)。
「主たる事務所」の所在地は、大阪市北区天神橋(番地は省略)なので、「吉村洋文後援会」と事務所の所在地が異なることになる。
(3)2015年
①2015年10月1日衆議院議員を辞職し、同年11月大阪市長選挙に立候補し当選したので、「国会議員関係政治団体」になっていた「吉村洋文後援会」(代表・吉村洋文)は、衆議院議員辞職後、政治資金の趣旨の透明度が一番低い「その他の政治団体」になっている(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00228508/27yk0111.pdf)。
「本年の収入」は、848万円に増えている(2014年は171万円)
「支出総額」は約263万で、「翌年への繰越額」は592・3万円弱。
支出のほとんどは「政治活動費」で260・8万円弱。
そのうち計200万円が後掲の「友洋会」(代表・吉村洋文)に寄付されている。
②「維新の党衆議院大阪府第4選挙区支部」(代表・吉村洋文)の政治資金の収支は9月で終わっているようだ(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00230075/27pq0031.pdf)。
「本年の収入」は、1399万円強に増えている。
「経常経費」の支出合計額は725万円強で、そのうち
「人件費」約407・1万円
「備品・消耗品費」約113・5万円
「事務所費」約202万円
などに支出されていた。
「維新の党衆議院大阪府第4選挙区支部」は、年内解散している。
③その関係で(!?)「友洋会」(代表・吉村洋文)がつくられ、吉村氏の資金管理団体になっている(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00228549/27yc0036.pdf)。
「主たる事務所」の所在地は、「吉村洋文後援会」と同じである。
「本年の収入」は608万円強で、「支出総額」は495万円強。
そのうち、「経常経費」の支出合計額は202万円強で、その半分以上が「人件費」114・7万円であった。
(4)2016年
①「友洋会」は、資金管理団体のままだが、代表が別人(木邨善仁)になっている(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00260098/28yc0036.pdf)。
「本年の収入」は2505万円へと飛躍的に増えている。
「支出総額」は1098万円強。
「経常経費」の支出合計額は634万円弱。
そのうち、
「人件費」442・4万円、「事務所費」146・2万円
と、それぞれ前年よりも増えている。
②「吉村洋文後援会」は、「その他の政治団体」のままだ(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00261036/28yk0111.pdf)。
「本年の収入」は2962・6万円に増えている。
「経常経費」のっ支出合計額は290・4万円強で、そのうち「人件費」が221・2万円強。
政治資金はすべて使い切り、「支出総額」は3557・9万円弱。
そして、「吉村洋文後援会」は解散している。
(5)2017年
①政治団体は「友洋会」(代表・木邨善仁)だけになっている。
「友洋会」の2017年政治資金収支報告書(http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/11318/00307579/29yc0036.pdf)を見ると、「主たる事務所」の所在は、これまでと同じで大阪市北区西天満(番地は省略)であるが、同年の途中で、「資金管理団体」から「その他の政治団体」に変わったようだ。
②「本年の収入」は2071・6万円強で、「支出総額」は1782・1万円強。
「経常経費」の支出合計額は662・1万円で、そのうち「人件費」は346・1万円、「事務所費」は250万円強。
(6)毎年の「本年の収入」(「翌年からの繰越額」除く)合計額
①各年につき「翌年からの繰越額」除く「本年の収入」を全ての政治団体で合計してみよう。
・2014年 171万円
(「吉村洋文後援会」171万円、「維新の党衆議院大阪府第4選挙区支部」0円)
・2015年 2855・1万円
(「吉村洋文後援会」848万円、「維新の党衆議院大阪府第4選挙区支部」1399万円、
「友洋会」608・1万円)
・2016年 5467・6万円
(「吉村洋文後援会」2962・6万円、「友洋会」2505万円)
・2017年 2071・6万円
(「友洋会」のみ)
②政治団体間の資金移動があるので、実質的収入は上記よりも少なくなるので注意いただきたい(別の投稿で紹介する予定)。
とはいえ、政治権力者には政治資金が集まることを証明した数字だ。
特に2016年は5500万円近い政治資金が集まっている。
(ただし、2017年が半分以下に減っているのが気になる。
ほかに私の知らない政治団体があるのだろうか?)
3.事務所家賃に関する疑問
(1)「吉村洋文後援会」の事務所の無償提供による家賃相当分寄付額の疑問
①「吉村洋文後援会」(代表・吉村洋文)の場合、吉村代表が事務所の無償提供を行っている。
②2011年の「主たる事務所」の所在地は、大阪市北与力町(番地は省略)になっていて、吉村代表が事務所の無償提供を行っているため、「金銭以外の寄付相当分」として「58万6636円」と記載されていた。
2014年では、「主たる事務所」の所在地は、大阪市北与力町(番地は省略)になっていて、「金銭以外の寄付相当分」は「48万円」と記載されている。
ところが、2015年は、「主たる事務所」の所在地が2011年の大阪市北区西天満(番地は省略)に戻っているのに、「金銭以外の寄付相当分」は「57・6万円強」ではなく、2014年と同じ「48万円」になっているのだ。
どうしてだろうか?
③2016年になると、「吉村洋文後援会」の政治資金収支報告書を見ても、代表は吉村洋文うじのままなのに、事務所の無償提供に関する記載がなくなっている。
事務所費は約43・9万円しかない。
事務所の無償提供はどうなったのだろうか?
(2)「友洋会」が事務所賃料を支払っている不思議
①吉村洋文氏が、2015年に衆議院議員を辞職し、大阪市長選で当選した関係で(!?)
同年には、新たに「友洋会」がつくられ、これが吉村氏の「資金管理団体」になっている。
「主たる事務所」の所在地は、吉村洋文氏から無償提供を受けている「吉村洋文後援会」と同じ所在地(大阪市北区西天満)であるのに、「事務所費」約56・8万円が支出されており、そのうち「事務所賃料」10月~12月まで毎月14万円が支出されている。
これはどういうことなのだろうか?
政治資金収支報告書に記載されている「主たる事務所」とは別に事務所を賃貸しているのだろうか?
それとも、「主たる事務所」の賃料を支払っているのだろうか?
②2016年になると、資金管理団体「友洋会」の代表は吉村洋文氏から別人(木邨善仁)に交代しているようだが、「主たる事務所」の所在地は、これまでと同じ(大阪市北区西天満)ままであるのに、「事務所費」は146・2万円へと3倍近くに増額されている。
そのうち「事務所賃料」1月分14万円だけが記載されており、「その他の支出」が120万円超もある。
月額14万円の家賃で1年(12か月)分なら「事務所費」は少なくとも168万円以上になるはずなので、146・2万円では足りない。
一時的に別の事務所を賃借したのだろうか?
(3)2017年
①政治団体は「友洋会」(代表・木邨善仁)だけになっている。
3月から政治団体の性格が「資金管理団体」から「その他の政治団体」に変わったようだ。
②しかし、「友洋会」のために政治資金集めをしている。
「吉村洋文 大阪市長就任2周年記念パーティー」(政治資金パーティー開催事業)で1990・8万円を集めている。
「本年の収入」は2071・6万円強なので、その主要な資金源が政治資金パーティーであることは明らかである。
つまり、「友洋会」は、吉村洋文氏の政治資金を集める事実上の「資金管理団体」なのだ。
にもかかわらず、「その他の政治団体」になっているのは、後述するように、支出のうち「経常経費」の支出の明細を記載したくないからなのだろう。
③政治団体が「友洋会」1つだけになっているにもかかわらず、かつ、「主たる事務所」の所在地は、大阪市北区西天満(番地は省略)のままなのに、事務所の無償提供による「金銭以外による寄付相当分」の記載はない。
むしろ、「事務所費」250万円強になっている。
事務所賃料は、月額7・4万円強のようだ。
(事務所賃料1月分と2月分だけ各7・4万円強の支払いが記載されている。1月分と2月分だけ記載されているのは、3月から政治団体の性格が「資金管理団体」から「その他の政治団体」に変わったからなのかもしれない。)
従来、支払っていなかった事務所の家賃が支払われるようになったのかもしれない(2016年もそうだろうか?)。
もしそうであれば、「友洋会」を「資金管理団体」から「その他の政治団体」に変更することで、吉村洋文氏の事務所賃料の負担額は、その分、減額されたことになったのではなかろうかと推察される。
果たして、真相はどうなのだろうか?
4.姑息な「経常経費支出の明細記載」逃れ
(1)2014年
①吉村洋文氏は、2014年12月に衆議院議員になってる関係で、「吉村洋文後援会」(代表・吉村洋文)は、12月、「その他の政治団体」から「国会議員関係政治団体」になっている。
「吉村洋文後援会」の支出総額は約301・3万円である。
「政治活動費」は0円なのに、「経常経費」は約301・3万円。つまり、支出の全額が経常経費だけである。
「人件費」も「光熱水費」も0円。
しかし、「備品・消耗品費」は約246・5万円もあるが、その明細の記載はない。
12月に「国会議員関係政治団体」になる前は「その他の政治団体」だったので、「備品・消耗品費」の明細が記載されていないのだろうか。
結局、「吉村洋文後援会」の「経常経費」の支出の透明度は0%である。
②「維新の党衆議院大阪府第4選挙区支部」(代表・吉村洋文)は、その収支はすべて0円である。
(2)2015年
①「維新の党衆議院大阪府第4選挙区支部」(代表・吉村洋文)は、吉村洋文衆議院議員の政党支部であり、そのため、1万円超の支出は明細を記載しなければならない「国会議員関係政治団体」だった。ただし、吉村氏が10月に衆議院委員を辞職したので、その後は「国会議員関係政治団体ではなくなった。
その「経常経費」の合計額は725万5702円もある。
そのうち、明細の記載されているのは、
「備品・消耗品費」79万6602円(52万4953円、27万1649円)
「事務所費」156万9787円(137万0147円、19万9640円)。
小計236万6389円になる。
つまり、
「維新の党衆議院大阪府第4選挙区支部」の「経常経費」の透明度は32・61%である。
明細の記載義務のない「人件費」が約407・1万円もあるので、10月まで「国会議員関係政治団体」あったにもかかわらず、「経常経費」の支出の透明度は3分の1程度しかない。
②10月に作られたと推察される「友洋会」(代表・吉村洋文)は、「人件費」を除く「経常経費」の支出については、5万円以上は明細を記載しなければならない「資金管理団体」である。
その「経常経費」の支出合計額は202万3260円である。
そのうち、明細の記載されているのは、「事務所費」42万円だけである。
つまり、「友洋会」の「経常経費」の透明度は20・76%である。
③「吉村洋文後援会」(代表・吉村洋文)は、「経常経費」の支出の透明度のない「その他の政治団体」であり、明細が記載されている透明度は0%であるが、「経常経費」の支出合計額は2万2302円しかない(それは事務所費)。
(3)2016年
①「吉村洋文後援会」(代表・吉村洋文)は「経常経費」の支出の透明度のい「その他の政治団体」である。
その「経常経費」の支出合計額は290万4550円である。
「人件費」など各支出項目の合計額は記載されているが、明細の記載は一切ない。
つまり、「吉村洋文後援会」の「経常経費」の透明度は0%である。
②「吉村洋文後援会」の「政治活動費」の支出の合計額は3267万円強であり、そのうち、1880・8万円強が「友洋会」に寄付されている。
③その寄付を受けている「友洋会」(代表・木邨善仁)は、吉村洋文氏のための政治資金を集める「資金管理団体」であるが、「経常経費」の支出の透明度は高くない。
「経常経費」の支出合計額は633万9548円である。
そのうち、明細の記載されているのは、「事務所費」26万360⃣円だけである。
つまり、「友洋会」の「経常経費」の透明度は4・1%である。
(4)2017年
①「友洋会」(代表・木邨善仁)は、もともと吉村洋文氏が代表でスタートし、2017年もそれまで同様吉村洋文氏のために政治資金を集める政治団体であることに変わりはなく、事実上の「資金管理団体」である。
しかし、政治資金規正法上の「資金管理団体」ではなくなっている。
②「友洋会」の2017年の支出のうち「経常経費」の支出合計額は662万1453円である。
そのうち、明細の記載されているのは、「事務所費」の37万83円だけである。
(この明細が記載されたのは「その他の政治団体」になる前の「資金管理団体」のときの分だろう)
つまり、「友洋会」の「経常経費」の透明度は、わずか5・59%である。
③「経常経費」の支出については、「資金管理団体」の場合は5万円以上の支出は明細を記載しなければならない(ただし「人件費」を除く)が、「その他の政治団体」は各項目の合計額だけを記載するだけでよく、明細を記載する必要がない。
つまり、「友洋会」が「資金管理団体」から「その他の政治団体」に変わったのは、「経常経費」の支出につき明細を記載することを回避するためであったと推察できる。
④2018年は、別に「資金管理団体」がつくられていなければ、「友洋会」の「経常経費」の透明度は0%になるのだろう。
姑息だ!
(つづく)