【第420号-426号】岩上安身のIWJ特報!スクープ! 日銀が発表した英語論文の謎 アベノミクス・黒田バズーカによる副作用の責任を逃れようと裏で金融緩和の出口を模索!? 岩上安身によるエコノミスト田代秀敏氏インタビュー2018.7.1(後編) 2019.6.30
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記事目次
- 日銀によるマイナス金利政策と相続税増税で空き家・空き室が増加! 東京・神奈川では3戸に1戸が空き室!?
- 2022年、生産緑地制度の廃止で都市部に大量の住宅用地が供給される!? 周辺自治体から大量の人口が流入、周辺地域はますます空き室だらけに!?
- 「この道しかない!」と一度思い込んだら変えられない! 旧日本軍人来の悪癖が異次元金融緩和に顕現! 追い詰められ米国債に手を出した地銀は、アメリカの金利上昇政策で莫大な含み損を抱え込む!
- 欧米は着々と緊急緩和政策を店じまい。資産価値を押し上げてきた「流動性」が一挙に減少!! 今後、世界中で資産価格の上昇スピードが急落する!
- 「人口減」「マイナス金利導入」「米金利上昇」のトリプルパンチで、どこの地銀ももはや本業では生き残れない…。地銀を危機的状況に陥らせたのが政府・日銀の「異次元金融緩和」政策であることは明白!
- 2017年4月の日銀『金融レポート』に「こんなことやっていたら金融システムの安定性が損なわれる」との警告が! 日銀は今日の地銀の危機的状況をすでに予見していた!! 一般人にはわからない小難しい表現でアリバイ作りの卑劣!!
- 岩田規久男・前日銀副総裁の言葉に見る「リフレ派」の正体〜威勢良く掲げた「2年で2%のインフレ上昇」の目標。これを達することができなかったのは「消費税増税のせいだ、私の政策の選択には誤りはなかった」と、ひたすら責任逃れ
- リフレ政策の本質は「人々に『インフレになるのではないか』と思わせること」、つまり「空気」を作ること!! 日本国民は、そんな不確かな賭け事に付き合わされている!!
- 日銀は2016年に「イールドカーブ・コントロール」を追加、これを理由に国債の買入額をどんどん減らしている! 度重なる投与ですっかり効果の薄れたドーピング=「量的緩和」をコソコソ手仕舞い!
- 金融政策とは関係ない理由で改善された、国内総生産、失業率、新卒の就職状況などの指標を、「異次元金融緩和」の手柄のように喧伝! 一方、金融政策が本来改善すべき、国民の実質賃金や実質消費は大幅ダウン!!
- 目に見えないものを切り札にした黒田総裁! 実質金利とは何!? 日銀発表の論文「日本の自然利子率」の謎に挑む!
- 日銀の生活実感アンケートでは、人々はすでに「デフレマインド」から脱却し、実感としての物価上昇率は4%超え! 多くの人々がすでに「迷惑」と感じている物価上昇を、リフレ派はまだ推し進めようというのか!?
- 「イラン核合意」から一方的に離脱したトランプ大統領がイラン産原油の輸入停止を各国に要請!!今や世界で孤立するアメリカ! G7はもう時代遅れの中、米国に従うだけで存在感のない日本!!
日銀によるマイナス金利政策と相続税増税で空き家・空き室が増加! 東京・神奈川では3戸に1戸が空き室!?
岩上「『2016年から導入されたマイナス金利の影響がアパート新築に拍車をかけた』と指摘されています(※1)」

▲都内23区や神奈川県でも空き家、空き室が増加
田代「マイナス金利とは、民間の銀行が日本銀行に預けるお金のうち、新規に積んだ分に対して金利をマイナスにするというもの(※2)。つまり、『預けたままだとどんどん減るよ』というわけで、だから『それをどこかに貸し出しなさい』と。貸し出すところがないから、みんな日本銀行に預けて『0.1%でいいから金利を下さい』とやっている(※3)のに、逆にペナルティーを課してどんどん取っていくというわけです。
そんなこと言われても、そもそもの発端が『貸出先がない』ということだったわけですから、どこも貸し出すところはない。ということは、先ほどの話のように、民間は無理くりなアパート経営のスキームを作り、そこにいろんな金融商品も乗せてパッケージで売る、という方向に流れていくのは当然です(※4)。日銀はこんな劇薬を、しかも期限を設けずにやったわけです。そのインパクトはすごいですよ」
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岩上「なるほどね。こんなことをしたら民間が何をやるようになるか、お上は『あずかり知らず』ってわけですね。その結果が、スルガ銀行や大東建託のような無理くりアパート新築。もう需要なんて考えていられない、それどころじゃないということで、そういう方面にどんどん貸し付けていくという。これは業者と地銀とが一緒になってやってしまったんですね」
田代「こういうスキームは、別に行政指導がなくとも、民間信用機関、特に地域銀行と人口減少で大変なことになっている建築会社との間で自ずと出てきますよ。最初はうまくいくんです…」
岩上「うまくいくのは一等地だけですよね」
田代「そう。『ここに造れば儲かる』という一等地だけ。でも、だんだんそういう所はなくなっていきますから、あとは『絶対儲からない』とわかっているところでもやっていくしかない(※5)」
岩上「2016年6月に不動産会社の『タス』というところが発表した調査によると、23区の空き室は、もう34%ですって(※6)。さっき、『そのうち3戸に1戸は空き家になる』と話題になったのは『空き家率』でしたが、これは『空室率』。

▲深刻な空き家問題
これは深刻ですよ。今東京で、特に23区内で一戸建ての家を持って住むなんて、相当な夢ですからね、皆さんマンションとか集合住宅に住んでるわけです。つまり『家』のイメージがこういう『部屋』なんですが、その『部屋』が34%もガラガラだと。さっきの『空き家率』だけを見てたらダメですね」
田代「あれは戸建て住宅に関する数字でしたから。『空室率』を見ると、これはもう危機的事態だってわかりますね。マンションの部屋を単位にしていえば、すでに(新たに供給された)3部屋に1部屋は空いているわけです」
岩上「そこへもってアパート経営なんてやれば… 結局『部屋を貸す』という仕事ですから、大変な事に」
田代「そう。事態はさらに悪化します。少しでも古い所はどんどん空き部屋になっていきますね。そうなると、家主さんは収入が入ってこない。一応サブリース契約で『一定期間は会社が代わりに払います』『ちゃんと入居者見つけてきます』ということになっていますが、それも10年という縛りがあるから、それが終わった時どうなってしまうのか、ということですね(※7)。

▲住宅ストック数、世帯数、空き家率の推移(東京都)
田代「これは住宅ストック数・世帯数・空き家率の推移をグラフにしたものですが、それによれば、1958年なんて、住宅数より世帯数のが多いんですよね。いやいや、住むところを探すの、大変だったものですよ」
岩上「わかります、わかります」
田代「空き家率が2.2%。つまり『空き家』とは、素晴らしいことに、これまで住んでいた世帯が引っ越して次が入って来るまでの期間のことだったわけです」
岩上「僕がちょうど59年生まれなんですが、東京の豊島区、池袋の西口からほど近い要町に住んでいました。親が買ったボロ屋でしたが、当時はやっぱり戦争のせいで部屋不足なんですよね、家の中に5世帯ぐらいが住んでたんです。ある一家6人が8畳1間に住んでたりとか。共同便所にしていて、うち一家は、6畳1間に親2人と僕と妹とで住んでいました。
だから、僕にとっての『家』の最初のイメージは、こんなにごった返した長屋のようなところに人様と一緒に住んで、トイレを借りるのも気を付けながら暮らす、というものでした。ところが皆さん、だんだん豊かになって、家から一世帯、また一世帯と抜けていくんです。ああ、この部屋もあの部屋も、うちが使っていいことになったんだ、ということを体験して、ふと気づく。これが『家』だったんだと。
つまり、戦後の住宅難を直に経験したわけですが、いま、その時代と全く逆な事が起きてしまってるということですね」
田代「そうですね。もちろん当時は人口が急増する時期だし、何よりも戦後復興の高度経済成長が起きるころですから、1963年でもまだ住宅数より世帯数の方が多いですね。つまりは、建てれば必ず入居者がいる、ということ。それが逆転するのが1973年」
岩上「なるほど。73年あたりはエポックの年ですよね」
田代「ええ。オイルショックもありましたが、それ以上に、日本が戦後初めてマイナス成長に突っ込んだ年です(※8)。つまりは成長の原動力であったエンジンが切れたってこと。そのあたりから、住宅数が世帯数を上回るという、そのギャップがだんだん広がっていきます」
岩上「70年代からすでに始まっていたんですね。しかも、このあたりは少子化元年でもある」
田代「73年は『福祉元年』と言われた年でもあります(※9)。あれは要するに税収がどんどん増えていくということを前提にして作ったもので、ちょっと無理がありました。この空き家率の統計もそうです」
岩上「野放図に造り過ぎた」
田代「90年代後半以降の空き家率は相当に厳しいです。しかも、実際はさっきも見たようにもっと厳しい。部屋単位で見れば、この3倍は厳しいわけですよ。しかもこの表、東京の数値ですよ?東京がこの状態なら、地方はどうなってるかって考えれば…」
岩上「ぞっとします」
(※1)『2016年から導入されたマイナス金利の影響がアパート新築に拍車をかけた』:
『東洋経済オンライン』2016年12月26日付記事「東京の空室率は3割、「不人気アパート」の盲点――「埋まる物件」との差はどこにあるのか(中川寛子・東京情報堂代表)」(【URL】https://bit.ly/2BLatrZ)からの引用。
記事は次のように、深刻な住宅供給過多に陥りつつある首都圏の現状を報告したうえで、かくなる状況下で成功するアパート経営とはどのようなものか、いくつかの事例とともに読者に紹介していく。
「貸家着工戸数が増加する一方、2015年半ばくらいから立地的に人気が高いはずの東京23区内、神奈川県内でのアパート(木造、軽量鉄骨造)空室率がじりじりと上昇している。今年6月に不動産調査会社タスが発表した調査によると、東京23区の空室率は約34%に達し、神奈川県ではなんと35%を超える。つまり、3戸に1戸は空室という計算だ。そのため、本来なら最も競争力が高いはずの新築アパートでさえ埋まりにくくなっている。
アパート建設が増えている背景には、いくつかの要因がある。2000年発売の『金持ち父さん貧乏父さん』以来の不動産投資ブームに加えて、都心部での単身世帯の増加や低金利で金融機関がアパートローンに力を入れていることなどが挙げられるが、最も直接的な要因は2015年1月1日からの相続税増税。2016年からはマイナス金利の影響がこれに拍車をかけている」
(※2)マイナス金利政策:
民間の金融機関が中央銀行(日銀)に預ける当座預金の金利をマイナスにすること。つまり、日銀に資金を預けたままにしておくと、民間銀行は金利を受け取るどころか、逆に金利を日銀に支払わねばならなくなるという政策のことである。
黒田東彦・日銀総裁のもとで2013年4月に始まった大規模な金融緩和政策(「異次元緩和」)は、「2%の物価上昇」を2年程度で達成することを目標に掲げていたがかなわず。
そこで日銀は、目標達成を2017年前半に先送りするとともに、これをできるだけ早期に実現させるために2016年1月に0.1%のマイナス金利政策の導入を決定した。金融機関が資金を日銀に預けたままにできないようにして企業への資金貸し出を促し、経済の活性化とデフレ脱却につなげようというわけである。
とはいえ、預金すべてをマイナス金利の対象にすれば金融機関の収益悪化をまねくため、基礎残高=既存の超過準備(次註※3参照)についてはこれまで通り金利0.1%を付利。新たに積まれる政策金利残高に限定して、付利をマイナス0.1%とした。
このような階層構造を採用することを通じて、超過準備全体から得られる付利をプラスの水準に維持する、と日銀は言うが、貸し出し需要は伸びず、地方銀行は収益性確保のために無理な不動産融資やビジネスモデルに、そして、リスキーではあるが多少なりとも金利の付く米国債に、ますますのめり込むようになった。
参照:
・日本銀行「『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』の導入」2016年1月29日【URL pdf】https://bit.ly/2hYfA0h
・週刊東洋経済Plus「金融政策の大転換 マイナス金利とは何か?」2016年2月13日号【URL】https://bit.ly/2BXq2Ox
・みずほ総合研究所「【緊急リポート】日銀マイナス金利政策の評価〜欧州からの示唆と金融機関、実態経済への影響〜」2016年2月10日【URL pdf】https://bit.ly/2PtrSKR
・ブルームバーグ「日銀の綱渡りは続く、異次元緩和の出口で待ち受ける危機」2018年9月18日【URL】https://bit.ly/2QLsjF2
(※3)貸し出すところがないから、みんな日本銀行に預けて「0.1%でいいから金利を下さい」とやってきた:
金融不安や金融機関の経営悪化といった悪状況下に、顧客が預金を引き出せなくなるような事態を回避するための余裕金として、また、日銀による金融緩和あるいは引き締めといった金融政策の手段として運用されることを目的として、民間金融機関は「受け入れている預金等の一定比率以上の金額を日本銀行に預け入れること」を義務付けられている。
1957(昭和32)年制定の「準備預金制度に関する法律」により導入された制度で、その最低金額を「法定準備預金額」(または所要準備額)という。「法定準備預金額」には利息は付かないが、日銀は2008年11月以降、これを超えて日銀に預ける預金=「超過準備」に0.1%の利息(付利)を付与し、市場金利の下落を抑制しようとしてきた。
2016年1月に導入された「マイナス金利政策」は、この「超過準備」のうち新規積み上げ分について、プラス0.1%の付利を撤廃しマイナス0.1%にするというもの。そこには「付利金利を撤廃すれば金利の付かない当座預金に預けておくよりも民間貸出を増やすインセンティブが高まる」という見通しがあったが、もとより借り手のいない状況下、せめてもの超過準備の付利収入をも失う民間銀行がいかに危険な行動に出るかは、当初からしばしば指摘されてきたことであった。
参照:
・日本銀行「準備預金制度とは何ですか?超過準備とは何ですか?」【URL】https://bit.ly/2jXOhBE
・東海東京証券株式会社「乙女のお財布」証券用語集「準備預金(じゅんびよきん)」【URL】https://bit.ly/2PwK0TO
・牛さん熊さんブログ「日銀の準備預金(超過準備)に利子が付く理由」2014年7月29日【URL】http://exci.to/2C2U0Rb
・牛さん熊さんブログ「超過準備の付利引き下げは必要か」2013年1月18日【URL】http://exci.to/2rx5Mxs
・週刊東洋経済Plus「金融政策の大転換 マイナス金利とは何か?」2016年2月13日号【URL】https://bit.ly/2BXq2Ox
(※4)無理くりなアパート経営のスキーム:
ここまですでに話題になっていた「サブリース」事業のことである。
サブリースとは、不動産会社がオーナーから土地・建物・付帯施設を一括に借り上げて運営を一手に引き受け、その収益から手数料を差し引いた賃料をオーナーに支払うという賃貸システム。
入居者の募集や管理・調停などの煩雑な業務は管理会社に任せつつ、毎月一定の借上げ家賃収入が数十年という長期にわたり保証されるという触れ込みで、多くの契約者を集めた。最大手として、東証1部の大東建託やレオパレス21などがある。
オーナーにとっては一見魅力的だが、実際は建物の経年や入居率の低下、近隣の新築アパート増加など何かと理由をつけて、不動産会社から賃料の大幅値下げや割高な修繕費を要求されるといい、近年苦情が殺到。初期投資のために組んだ巨額のローンを払えなくなり、破産に追い込まれるオーナーまで出現している。
最近、急激な人口減による貸出需要の大幅減少と業績悪化に直面した地方銀行がこうしたサブリース事業者と手を組み、「相続税対策になる」「楽に副収入が得られる」などとアパート経営の経験もない地方の地主やサラリーマンを言葉巧みに勧誘、手当たり次第に巨額の融資を行い、貸出残高の積み増しを図るようになっていた実態が明るみに出た。
とりわけ、2018年4月に経営破綻した不動産会社「スマートデイズ」のサブリース事業、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」に関連し、堅実な経営で「超優良銀行」の評価も高いスルガ銀行までもが、年収700万円のサラリーマンに1億円融資するなど無理な融資を乱発していたことが発覚。
無担保ローンや定期預金などの金融商品も合わせて売りつけていたほか、審査を通すために預金通帳残額の改ざんにまで手を染めており、大きな衝撃を与えた。
地方銀行によるこうした不正融資は2013年から急増したといい、アベノミクスの「異次元金融緩和」政策が与えた深刻な影響の端的な例として問題視されている。
参照:
・Wikipedia「サブリース」【URL】https://bit.ly/2MQfmVZ
・文春オンライン「年収800万以上の中堅サラリーマンはなぜ騙されたのか スマートデイズ経営破綻――サブリース事業にみる「甘えの構造」」2018年6月5日【URL】https://bit.ly/2UMLuwp
J-CAST テレビウォッチ「「クローズアップ現代+」スルガ銀行「シェアハウス不正融資」の悪質カラクリ… 毎月家賃が入るが大赤字」2018年10月12日【URL】https://bit.ly/2UMLyfG
・NEWSポストセブン「かぼちゃの馬車だけじゃない 不動産「情弱ビジネス」の危険性」2018年9月29日【URL】https://bit.ly/2GsY8Nd
(※5)儲からないことが明白な場所でもアパート建設:
2015年5月11日放映のNHK「クローズアップ現代+」で、群馬県高崎市と埼玉県北部の羽生市の事例が取り上げられたように、サブリース業者によるアパート建設ラッシュは都市の中心部からも駅からも遠い不便な場所に、さらには地方の農村部にまで及ぶようになった。
実際、国土交通省の調べによれば、2016年の全国の新設住宅着工戸数96万7237戸のうち「貸家」は41万8543戸に上り、前年比にして10.5%増加。地域別では、首都圏の10.1%、中部圏9.6%、近畿圏9.5%に対し、その他の地方は11.5%増で、大都市圏ではない地域の方がむしろ高い伸び率を示している。
都道府県別に見ても、高い順に長野県の36.8%、富山県36.7%、徳島県32.4%、福島県30.7%、新潟県27.4%。人口減・高齢化が進む地域にアパートがどんどん建てられている様子がうかがえる。高齢で農作業ができなくなった農地所有者や、固定資産税・相続税に頭を悩ませる地主などが、営業マンに勧められるままアパートを建設したケースが多いといい、新築から空室だらけのアパートも少なくないとのことである。
業者の方は、アパート新築を自社の関連会社に請け負わせることで大きな利益をあげる仕組みを作っているが、アパートのオーナーに待ち受けるものといえば、「10年の家賃保証」期間後(場合によっては期限前)の、入居率低迷を理由とした賃料減額や一方的な契約の打切り、ひいては、巨額の残債による借金地獄である(後註※7参照)。
空室だらけのアパートが乱立することが地域全体へ及ぼす悪影響も大きい。周辺地域の家賃相場が下がるのみならず、スラム化して犯罪の温床になる危険性すらある。
参照:
・NHK「クローズアップ現代+ 2015年5月11月(月)放送 『アパート建築が止まらない〜人口減少社会でなぜ〜』」【URL】https://bit.ly/2UKS0Ur
・国土交通省「『建築着工統計調査報告 平成28年計』国土交通省総合政策局・建設経済統計調査室 平成29年1月31日(火)公表」【URL】https://bit.ly/2TDJDtM
・LIFULL HOME’S PRESS「「貸家」が大きく伸びた2016年新設住宅着工戸数」2017年3月15日【URL】https://homes.jp/2Gsbs4e
・プレジデントオンライン「地方でも急増! アパート経営の落とし穴」2017年3月16日【URL】https://bit.ly/2Sg7zGP
・日刊ゲンダイ「過去最悪!首都圏賃貸アパート「空室率30%超」の衝撃」2016年6月11日【URL】https://bit.ly/2MTXhGu
・iRONNA「「こんなはずでは」アパート経営で大損続出、サブリース商法の闇」『月刊ベルダ』2016年9月号、2017年3月号【URL】https://bit.ly/2BitLFR
・東洋経済オンライン「東京の空室率は3割、「不人気アパート」の盲点――「埋まる物件」との差はどこにあるのか(中川寛子・東京情報堂代表)」2016年12月26日【URL】https://bit.ly/2BLatrZ
(※6)23区の空室率、すでに34%:
不動産評価Webサイト「TAS-MAP」を運営するトヨタグループの不動産調査会社「タス」が2016年6月30日に発表した、「賃貸住宅市場レポート 首都圏・関西圏・中京圏・福岡県版 2016年6月」にもとづき、東洋経済などが報じた、2016年3月期の東京23区における賃貸アパート(木造・軽量鉄骨)の空室率。
「タス」は、アットホーム全国不動産情報ネットワークに公開された情報などをもとに、首都圏における、入居者を募集している総戸数のうち空いたままの住戸の割合=「タス空室インデックス TVI」(単位は「ポイント」)を算出。2011年5月から2016年3月現在までの各エリアの推移を「図-2」としてグラフ化している。
それによれば、相続税の増税が行われた2015年から首都圏の全域(東京都、東京23区、東京市部、神奈川県、埼玉県、千葉県)でアパート空室率が急増。以来、空室率はうなぎのぼりに上昇し、ニーズがあるからではなく、あくまで相続税対策として、また、不動産会社が建設会社やそこにつけ込むことで、アパート供給が加速していった現実をよく物語る。
グラフの途切れる2016年5月の時点では、神奈川県の空室率TVI36ポイント超、千葉県が35ポイント弱、東京23区が34ポイントほどとなっており、需要もないままアパート建設だけが進められていることがよく見て取れる。
なお、「タス」の調査にもとづき報じられた「34%」という数字は、同社が用いている独自の空室率指標で単位は「ポイント」。しかも、アパート全部屋数を分母とした空室率ではなく、入居者募集をかけているアパート建物(新築を多く含むと思われる)のうちの空室率である。全部屋数を分母とした場合、空室率はもっと高まる可能性すらある。
参照:
・TAS「賃貸住宅市場レポート 首都圏・関西圏・中京圏・福岡県版 2016年6月」2016年6月30日【URL pdf】https://bit.ly/2HWsutH
・健美家「調査/賃貸市場ニュース 首都圏アパートの空室率は神奈川県を中心に悪化傾向」2016年6月30日【URL】2016年7月16日【URL】https://bit.ly/2GhJp8u
・東洋経済オンライン「東京の空室率は3割、「不人気アパート」の盲点――「埋まる物件」との差はどこにあるのか(中川寛子・東京情報堂代表)」2016年12月26日【URL】https://bit.ly/2BLatrZ
・日本経済新聞「アパート空室率 首都圏で急上昇 相続税対策で建設増え」2016年6月1日【URL】https://s.nikkei.com/2RL0I2S
・日刊ゲンダイ「過去最悪!首都圏賃貸アパート「空室率30%超」の衝撃」2016年6月11日【URL】https://bit.ly/2MTXhGu
・旭化成ホームズ「空室率データの正しい見方」【URL】https://bit.ly/2Sxemev
(※7)サブリース契約の「家賃保証」の罠:
サブリース契約(前註★4参照)は、「30年一括借り上げ」といった長期契約を売り文句に多数の契約者を集めてきた。すなわち、契約者が建設するアパートを不動産会社が一括して借り上げ、契約中の30年間は一定の家賃収入を保証するというのだが、経営や管理などに煩わされず決まった金額が長期間にわたって得られるとふんだ人々(その多くが不動産経営などしたこともない、地方の地主やサラリーマンである)が、次々と契約に踏み切ったのである。
ところが、難解な文章でしたためられた膨大な契約書には、「家賃収入は10年を過ぎたら2年毎に契約内容を見直す」といった趣旨の文章がさりげなく盛り込まれており、これに気づかなかった(営業マンから説明を受けなかった)り趣旨を理解しなかった契約者が、契約後に深刻な経済苦に陥るケースが多発している。
契約当初に提示された家賃収入を不動産会社から10年間支払われても、アパート建築の際に巨額の資金を銀行から借りているため、契約者はまだまだ多額の残債を抱えた状況にある。そこへ、建物の経年劣化や周辺に新築のライバル物件の登場、相場の低下、入居者の減少などを理由に、不動産会社による家賃の「見直し」(大幅減額)が通告されるのである。
契約者は家賃収入だけでは月々のローンを返済できなくなり、別の資産を取り崩してそれに当てるようになるだろう。それでも返済できない場合は(すでにそのようなケースが出ているように)、アパートも自宅も失った上、債務だけを背負うという事態に陥りかねない。
さらに懸念されるのは、政府・日銀による超低金利政策がいつ終わりを告げるかわからないことである。「10年の家賃保証」期間を経て家賃収入を減額されたうえに、金利が上がってローンの返済額が増えれば、返済不能に陥る契約者たちが大量に出現するのは明白だ。
同時に、彼らに手放された空室だらけのアパートが林立する光景もあちこちで出現することになろうが、これが治安や衛生面で都市環境を悪化させるとして、危険が声高に叫ばれている。
参照
・東洋経済ONLINE「「サブリースで大損した人」がハメられた手口――悪質なサブリース業者を見極めるには」2017年8月6日【URL】https://bit.ly/2CXG0b1
・iRONNA「「こんなはずでは」アパート経営で大損続出、サブリース商法の闇」『月刊ベルダ』2016年9月号、2017年3月号【URL】https://bit.ly/2BitLFR
・週刊現代「絶対儲かるといわれたアパートローン「私はこうして破産した」――銀行員の言葉にダマされて」2017年9月4日【URL】https://bit.ly/2HXSuF1
(※8)1973年を頂点に日本はマイナス成長に転じる:
1950年勃発の朝鮮戦争に伴う軍事特需(朝鮮特需)と世界経済の好転による輸出拡大を背景に、1956年秋から始まった好景気(「神武景気」)に端を発する戦後日本の高度経済成長の終焉。
池田内閣が1960年12月に打ち出した「国民所得倍増計画」(向こう10年間で実質国民総生産 (実質 GNP) を年率平均 7.2%増、実質国民所得を倍増する計画)を通じて、また、東京オリンピック(1964年)や大阪万博(1970年)などによる特需も後押しして、1952~72年度の20年間の実質 GNP年平均成長率9.4%という目覚ましい経済成長を続けてきた日本経済だったが、1970年代前半に大きな転換点を迎える。
その頃すでに、公害等の環境問題の深刻化、世界市場における日本の輸出品のシェアの拡大と貿易摩擦の発生、そして、1971年8月の米ドルと金との交換停止(「ニクソン・ショック」)に発する変動為替相場制への移行などが、これまでの成長戦略の限界を示し始めていたが、そこへ第一次石油危機が起こったのである。
1973年10月6日、6年前の第三次中東戦争でイスラエルに占領された領土の奪回を目指し、エジプト・シリア両軍がイスラエル国防軍を攻撃して第四次中東戦争が勃発。
これに伴い、OPEC(アラブ石油輸出国機構)諸国は、原油供給の大幅削減とアメリカ等のイスラエル支援国への禁輸を実施するとともに、原油公示価格を一挙に70%も引上げた。12月下旬にはさらなる引上げを表明し、1974年1月には従来2ドル/バーレルほどだった原油価格が11.651ドル/バーレルもの高値となる。
石油の調達を全面的に輸入に依存する日本は、1972年に田中内閣が打ち出した「日本列島改造」政策によりすでに地価や株価、卸売物価の急激な上昇をみていたが、そこへ原料調達コストの急騰が加わり、たちまち激しい物価上昇に見舞われた(「狂乱物価」)。
これに対処するため、政府は公共事業新規着工を見合わせるなど、1973年度の公共事業関係費等の17.3%を次年度へ先送り。さらに1974年度予算では、公共事業関係費を前年度以下に抑制した。
かくして景気は1973年11月をピークとして下降局面に入っていく。
1974年1-3月期の実質 GDP は、前期比3.4% 減(前年同期比1.9%減)へと大きくダウン。収益を急激に悪化させた企業が、財務や雇用の面で厳しい減量経営を実施するとともに、期待成長率の下方修正から設備投資を大幅に圧縮させたことも、景気悪化に拍車をかけた。
さらには、インフレの中でモノ不足に対する社会不安が発生。消費者がまずはヒステリックな買占め行動に、次いで買い控えに出たために、出荷数量が減少し内需はますます落ち込んだ。
こうした結果、1974年度の経済成長率は戦後初めてのマイナス成長となる実質GDP前年度比-0.5%を記録。その後も経済成長率は大幅に鈍化し、日本は成長路線の変更を迫られていくのである。
参照:
・内閣府「長期経済統計>年度統計 国民経済計算」【URL】https://bit.ly/2Gg1WSu
・内閣府 経済社会総合研究所「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」(2010年)、第1巻『日本経済の記録――第二次石油危機への対応からバブル崩壊まで――』第1部第2章「二度の石油危機と日本経済の動向」【URL pdf】https://bit.ly/2oKaJ4Q
・Wikipedia「朝鮮特需」【URL】https://bit.ly/2t9IUES
・コトバンク「神武景気」【URL】https://bit.ly/2UMdakT
・コトバンク「国民所得倍増計画」【URL】https://bit.ly/2I8b7Xc
・コトバンク「高度成長」【URL】https://bit.ly/2DeYp2Q
・コトバンク「ニクソン・ショック」【URL】https://bit.ly/2QGDXSh
・Wikipedia「第四次中東戦争」【URL】https://bit.ly/2tdyrIu
・JXTGエネルギー「石油便覧 第1編 第1章 第5節 石油危機と石油需要の停滞」【URL】https://bit.ly/2SsYNV6
(※9)福祉元年:
田中内閣のもとで年金・健康保険制度の一大改革が行われた1973(昭和48)年は、「福祉元年」と呼ばれている。
敗戦後の日本は焼け跡からの再出発を強いられたが、朝鮮戦争特需を経た60年代の高度経済成長により、国民はある程度の豊かさを実感するにいたっていた。
この間、61年に国民皆年金・国民皆保険が実現していたが、73年2月に政府が策定した「経済社会基本計画」は、副題に「活力ある福祉社会のために」を掲げ、経済成長の果実としての本格的な国民福祉の充実を謳ったのである。
この年の改革では、厚生年金および国民年金が月2万円から5万円(国民年金は夫婦あたり)に引き上げられるとともに、物価スライド、すなわち、物価上昇と連動させ、5年ごとに支給額を調整することで、実質的な給付水準を維持する制度が導入された。
健康保険では、家族給付率を5割から7割に引き上げ、高額療養費制度(月3万円を超える自己負担分が支給される)も導入。このほか、70歳以上の老人医療無料化が改革の目玉であった。
これらの改革により、日本も西欧の福祉国家の水準に近づくことが期待されたが、同年秋に起こった第一次オイルショックによる不況とインフレを境に、日本経済は低成長時代に入る。こうして、「福祉元年」に設計された社会保障諸制度は、以後手直しされ、いっそうの充実に向かうよりはむしろ段階的にその中身を削られながら今日にいたっている。
なお、「福祉元年」という用語は、73年1月の予算編成に前後して使われ始め、その後徐々に広まったらしい。用語の発案者が誰であるかについては、福田赳夫(73年11月より蔵相)説、その前任者の愛知揆一(73年11月、在職中に急逝)説、いずれも確証を欠くとされ、目下のところ不詳である。
参照:
・厚生労働省 平成23年版厚生労働白書 第1部第2章 時代のニーズに対応した社会保障制度の発展を振り返る【URL pdf】https://bit.ly/2SpVQp8
・内閣府ホームページ 日本の経済計画一覧【URL】https://bit.ly/2tiQey0
・菅沼隆・土田武史・岩永理恵・田中聡一郎[編]『戦後社会保障の証言−−厚生官僚120時間オーラルヒストリー』有斐閣、2018年
2022年、生産緑地制度の廃止で都市部に大量の住宅用地が供給される!? 周辺自治体から大量の人口が流入、周辺地域はますます空き室だらけに!?
田代「そこへきて、さらに『22年問題』(※10)。いま、23区内でも、割とたくさん農地があるじゃないですか」

▲2022年、都市部で住宅用地が一気に放出される!? 住宅の供給過剰をさらに推進させる愚策!!
岩上「そうですね。世田谷、練馬とか」
田代「ところが、それを住宅用地として放出させるようにしようとしているわけです。やるんだったら、さっき話に出た50年代60年代にやればよかったんですよ。でもやらなかった。そうすると、何も耕作もしてないのに『ここは農地です』という看板だけ掲げる緑地ばかりになった。税金の問題です」
岩上「そうすれば固定資産税が農地並に軽減されるからですね(※11)」
田代「この『生産緑地制度』は時限立法で、2022年に終わることになっているんですが、その時にこの制度を続けるかどうかが問題になります。もしこれを『切る』ということになれば。実際、今そういう流れになっています。固定資産税が跳ね上がりますから、当然売りに出しますよね?」
岩上「ディベロッパーは、もう今から、目をつける土地探しで大わらわですよ」
田代「ですよね。ということは、『30坪の新築一戸建て』という単位で考えれば、全国で96万戸、東京だけで26万戸、23区内だけで3万戸分の生産緑地が宅地になってしまうということです」
岩上「これは一挙に住宅市場を冷やしますね」
田代「冷やすって言うか、それはもうバブルが起きてしまいます」
岩上「ええ。バブル崩壊です。今東京では、不動産が非常に高くなっています。地方では実感できない話ですけれど。都心のいい立地のところは、マンションでも家でも何でも高くなってます。
でも、じわじわと空き室が増えているし、そういう見せかけの高騰は、そのうち確実にバブル崩壊がやってくる。そこへ、生産緑地制度は延長しない、なんてことをやったら、これは一挙にバブル崩壊の引き金を引くんじゃないかという気がします」

▲東京都世田谷区の生産緑地(Wikipediaより)
田代「もっと言えば、これを『継続しない』と決めた段階で起きますよね。だって、先を見越して、今のうちに売ってしまおうとなりますから」
岩上「気になるのは2020年の東京オリンピック。かつてもそうだったように、オリンピックの後には反動不況が来ます(※12)。
その時に、生産緑地制度の廃止を『これが決定打だ』とか、バカなことを言う政治家が出てくるでしょうね。まあ、今から言ってるんですから、計算済みなんでしょうが、そこでディベロッパーを食わすんだと。供給サイドにしか立っていませんからね。
で、宅地にして建物を建てれば、人は入るでしょう。とはいえ、周辺地域から人が出て来るだけですから、周辺の他の自治体とか業者は本当にガタガタになりますよね。つまりは一部の人達に富を平行移動させるだけ。だって、世田谷とかそういう場所ですよ?そうそう出てこない一等地が売りに出るんですから、そりゃもうおいしいですよ」
田代「しかも新築ですからね。少しでも古くなった所、少しでも不便な所からどっと移ってくるわけで、結局空き室が増えるわけです。そうなることが最初からわかっていますから、崩壊は2022年の前に来ます。『価格が付いている今のうちに売っておこう』と」
岩上「いま、東京オリンピックに向けて勢いづいていますが、それまでのどこかの段階で、誰かが何かのきっかけで『弾けるね』と言ったとたん、一斉に逃げ出し始めるでしょうね」
田代「比較的売りやすい株式とは違って、不動産は売るのも大変です。それでもやっぱり『売る』方が先に出て来るわけだから、高い価格はつかない。今の時点でこんなこと分かっているのに、何も手を打っていません」
岩上「これ、どこが所轄なのかわからないですけど、一体どうするつもりか聞きたいですよね」
(※10)「22年問題」:
都市部の農地のうち、「良好な都市環境の形成」のために保全されるべき農地として管轄自治体に指定される農地のことを、「生産緑地」という。「22年問題」とは、その「生産緑地」が2022年に「宅地」として不動産市場に一挙に流入し、住宅の需給バランスが大きく崩れることが懸念される問題である。
1968(昭和43)年、無秩序な都市開発を防ぐことを目的に都市計画法が改正され、都市計画地域に「市街化区域」(すでに市街地を形成している、あるいは10年以内に市街化を図る区域)と「市街化調整区域」(新たな建築物の建造や増築などの開発行為を原則として行わない地域)の区分が設けられた。以来、「市街化区域」内の農地は、原則的に宅地に転用されるべき土地として、固定資産税および相続税の課税が宅地並みに引き上げられる。
1980年代後半には、バブル経済による地価高騰も後押し、大都市圏を中心に農地は激減。そこで1992年、「生産緑地法」が改正され、三大都市圏の市街化区域内農地について「生産緑地」指定要件のハードルを下げるとともに、指定を受けた農地には、30年間の農地としての利用・管理を義務づける代わりに固定資産税の軽減や相続税の納税の猶予等の税制優遇を適用することが定められた。この時に「生産緑地」指定を受けた首都圏の大量の土地が、2022年、30年間の営農義務の期限を迎えるのである。
改正生産緑地法は、30年の指定期限を迎えた「生産緑地」の所有者は市区町村に土地の買取り申し出を行うことができると定めている(第10条)が、予算不足から自治体による買取りが行われた例はほとんどなく、「生産緑地」としての買い手が付かなければそのまま指定解除となり、固定資産税が一挙に跳ね上がる。
そこで所有者は、これを宅地に転用し収益を得るか、宅地としてデベロッパーやゼネコンなどに売却するか、あるいは農地として耕作を続けるかの選択を迫られることになる。そのとき、多くの所有者が売却の道を選ぶことは明白だ。宅地転用による事業も農業継続も、跳ね上がった固定資産税をカバーするほどの収益は見込めないからである。
こうして宅地へ転用されると予想される「生産緑地」は約4000ha、約30万戸分にのぼるとの試算もあり、地価の下落や住宅の過剰供給に拍車をかけると警鐘が鳴らされている。
これに対処するため、2017年の生産緑地法改正で自治体が特に指定する「生産緑地」について指定解除を10年延期する案が盛り込まれたが、先行きは不透明なままである。
参照:
・Wikipedia「生産緑地地区」【URL】https://bit.ly/2AlK4kv
・農林環境調査室(樋口修)「都市農業の現状と課題――土地利用制度・土地税制との関連を中心に」『調査と情報』第621号、国立国会図書館、2008年11月【URL pdf】https://bit.ly/2CHL4Bl
・アグリメディア「2022年問題とは――都市部の地価が暴落… ?」2017年4月14日【URL】https://bit.ly/2CJilMs
・東洋経済ONLINE「2022年に破裂する「生産緑地」という時限爆弾――対策していない自治体の土地を買ってはダメ」2017年7月30日【URL】https://bit.ly/2TlK5vT
(※11)税金対策としての「生産緑地」と偽装農地:
土地に課される固定資産税は、土地の「評価額」に様々な調整(「負担調整」)を加えて導き出される「課税標準額」に、税率1.4%を乗じて算出される。そして、「農地」の固定資産税が「宅地」よりも安くなるのは、土地「評価額」の算出法にも「負担調整率」の設定にも、農業の重要性と収益性の低さにかんがみた優遇措置が採られているからである。
たとえば「宅地」の場合、土地の「評価額」は、路線価図などをもとに導き出された土地価格に、用途に応じた軽減率(住宅地であれば、200㎡までは6分の1を乗じるなど)を乗じて算出されるが、「農地」については、当該農地と同等の農地の実例売買価格に限界収益修正率の0.55を乗じたものが土地の「評価額」とされる。
「負担調整」についても、「宅地」の場合は、当該年度の土地「評価額」が前年度の課税評価額を下回る場合は「評価額」がそのまま、上回る場合は5%の負担水準率を乗じた上で前年度課税評価額を加えた金額が、各々「課税標準額」として固定資産税税率1.4%の対象となるが、「農地」については、当該年度の土地「評価額」にそのまま固定資産税税率1.4%をかけた金額(「本則税額」)と「前年度の課税標準額×負担調整率(当該年度の評価額における前年度の課税標準額の割合に応じて定められている)×固定資産税税率1.4%」で求められる金額(「調整税額」)を比べ、安い方が固定資産税額となるのである。
ところが、無秩序な都市開発を防ぐことを目的に1968(昭和43)年に都市計画法が改正され、都市部に「市街化区域」(すでに宅地化されている、あるいは10年以内に宅地化されるべき区域と「市街化調整区域」)の宅地化を抑制する区域の区分が設けられて以来、都市部の「農地」には「宅地並み評価」(宅地と同様の土地「評価額」算出法。ただし、農地を宅地に造成するのにかかる費用を引く。また、営農中の農地に限り、これに3分の1を乗じる軽減措置が適用されるというもの)が適用されるようになった。
特に、三大都市圏における「市街化区域」内農地に対しては、「負担調整」についても「宅地並み課税」(宅地と同様、前年度の「課税標準額+ 当該年度の評価額(実際に営農している場合は× 1/3)×5%」を固定資産税税率1.4%の適用対象とすること)が適用されるようになる。
都市部に農地を残す目的で1992年に定められた改正生産緑地法は、このような大都市部の「農地」のうち、「生産緑地」指定を受けたものに限り、30年間の営農義務と引き換えに「農地評価」および「農地課税」に戻すというものである。
かくして1992年に大都市圏の多くの「農地」所有者が「生産緑地」指定を受け、固定資産税を格段に安くあげるようになった。たとえば北関東のある中核都市では、10アールの土地の固定資産税(都市計画税を含む)は「宅地」あるいは「一般農地」なら年間21.5万円だが、「生産緑地」の指定を受ければ年間1800円になるという。そのうえ「生産緑地」には相続税の納税猶予という優遇措置もある。
このことから、土地所有者の中には、「生産緑地」の指定を受けて標識を掲げつつも(「生産緑地法」第6条に、「標識」を設置しなければならない規定がある)、雑草や竹が生い茂りゴミが散乱するままに放置している、つまり、明らかに耕作放棄していながら税優遇の特典のみを享受する者が現れるようになった。
「生産緑地」の30年の期日前の指定解除の要件は、所有者が営農を続行できなくなるほどの身体的障害を負うか死亡するかであり、休耕状態では適用されないため、不当に利益を貪る行為として問題になっている。
参照
・Wikipedia「生産緑地地区」【URL】https://bit.ly/2AlK4kv
・石橋税理士事務所「固定資産税はどのように計算されるのですか?」【URL】https://bit.ly/2BW4Ib5
・アグリメディア農地・遊休地活用「農地の固定資産税の算出方法と手続き(前編)」2017年10月3日【URL】https://bit.ly/2s8CVQk
・土地カツnet「一般農地・生産緑地・市街化区域農地別の固定資産税の目安」2018年1月12日【URL】https://bit.ly/2Rrxw5a
・アグリメディア農地・遊休地活用「生産緑地とは?ー2022年問題を見据えて」2017年2月24日【URL】https://bit.ly/2s8PeMt
・東洋経済ONLINE「耕作放棄でも税優遇、「生産緑地」は大問題だ――草刈りすらされずに放置されるケースも」2017年11月18日【URL】https://bit.ly/2Rugq6D
・DIAMOND online「農家が貪るおいし過ぎる特権――税金減免に、農地成金が続出」(『週刊ダイヤモンド』特別レポート)2017年11月18日【URL】https://bit.ly/2GSjo0K
(※12)オリンピック後の反動不況:
オリンピックは、世界のトップアスリートたちが一同に会して技を競い合う、華やかなスポーツの祭典というにとどまらず、開催を通じて自国経済の刺激・活性化が期待されるイベントでもある。実際、オリンピックを推進する理由として、各種競技会場の建設や都市のインフラ整備、各国の報道機関や観光客を迎えるための宿泊施設の新築・増改築、商業施設の建設など、開催前にオリンピック関連の建設投資が促され、それが景気を押し上げることが見込まれるなどと説明されることが多い。
だが、「オリンピックの崖」とも言われるように、大会後にはそれまでの前倒し投資のリバウンドが一気に起こり、経済成長率の鈍化や不景気に見舞われるということも、今やよく知られた事実である。
いくつかのメディアが報じるところによれば、「1988年のソウル五輪以降、夏季6大会で成長率を比べると、開催年よりその翌年が上昇したのは米国だけ」。
むしろ、「五輪を開いた後、景気が悪化した国の方が多」く、「2008年に北京五輪を開いた中国は、前の年に14%を超えた経済成長率が開催年と翌年は9%台に鈍化。その前のギリシャも開催後にブレーキがかかり、今は債務問題で国中が大混乱」。「1992年のバルセロナ大会後のスペイン経済では、開催翌年はマイナス成長」、「ギリシャなどはアテネ五輪のツケで経済破綻まで」起こし、「ブラジルなどは、なんと五輪前に不況に陥ってしまっ」た。
何よりそれは、まさに日本自身が前の東京オリンピックで経験したことだった。
1964年10月開催の東京オリンピックの翌年、日本は「昭和40年不況」と呼ばれる景気後退に直面している。当時は高度成長期の真っ只中。1963年10.4%、1964年9.5%ときていた実質経済成長率(実質GDP増加率、前年度比)は、1965年は6.2%へと大幅ダウン。企業の倒産件数も、63年の1738件が開催年の64年に2倍以上の4212件、翌年には6141件となった。しかも、オリンピックの経済効果が切れたところへ、山陽特殊鋼が戦後最大級の負債を抱えて倒産、山一證券の経営危機も重なった。
それでも、このころの日本は10%程度の潜在成長率を有していたため、こうした反動不況からすぐに抜け出すことができたが、高齢化の進む今の日本は違う。
また、1996年のアトランタ五輪開催後にアメリカが不況に陥らなかったのも、マイクロソフト社によるWindows95の発売やAmazonのスタート、Googleの登場など、大会の直前直後における「次世代産業の躍進」が、固定資産投資の明確な反動減をカバーしたからであると言われる。
しかし、そのような成長戦略もないまま東京五輪に突き進む日本は、まさに「オリンピック前に好景気の山、つまりその後の“崖”を築いているよう」(森トラスト社長・森章氏)な状況にある。
参照:
・東洋経済ONLINE「森トラスト社長「五輪後に経済の”崖”が来る」――不動産業界の重鎮が見通す、5年後の日本」2015年5月22日【URL】https://bit.ly/2TDZwQX
・デイリー新潮「放置すれば昭和40年不況の二の舞!?「東京五輪」宴の後の大不況に備える!――西所正道(ノンフィクション・ライター)」週刊新潮 2015年8月13日・20日夏季特大号掲載【URL】https://bit.ly/2Gjp3eU
・iRONNA「宴の後に必ずやってくる「オリンピックの崖」を侮るなかれ(萩原博子)」【URL】https://bit.ly/2SkA3z2
・NIKKEI STYLE「五輪後に景気が悪くなる理由 夏季6大会で例外は1つだけ」2012年9月4日【URL】https://bit.ly/2Gudelo
・東洋経済ONLINE「次の東京は「五輪後の不況」を避けられるのか――五輪が持続的な成長をもたらすとは限らない」2016年8月22日【URL】https://bit.ly/2GuTUog
・内閣府「長期経済統計>年度統計 国民経済計算」【URL】https://bit.ly/2Gg1WSu
「この道しかない!」と一度思い込んだら変えられない! 旧日本軍人来の悪癖が異次元金融緩和に顕現! 追い詰められ米国債に手を出した地銀は、アメリカの金利上昇政策で莫大な含み損を抱え込む!
岩上「さらに、地銀は米国債に手を出していて、まだリスクを抱えているということですが」
田代「そうなんです。例えば、関西に池田泉州銀行という銀行がありますが、そこが2018年3月期に米国債の評価損を約140億円計上するといいます。
これはどういうことかと言えば、ここはアメリカ国債を買っていたんですが、アメリカで金利が上昇つまり米国債の価格が下落したために、損が発生した(※13)。
実際に損失が発生したということではないけれど、今売れば買った価格より140億円減っているということで、会計的にその分を「評価損」として計上しなければならなくなった、というわけです」

▲やみくもに米国債に走る地方銀行
岩上「『アメリカで金利が上昇』とはつまり、アメリカが日本に先んじて実施してきた大規模な金融緩和の出口戦略をやり始めた、その結果ということですか?」
田代「そうですね。FRB(※14)が大規模な金融緩和を手じまいすることを決めて、16年秋以降にちゃちゃっと金利を上げ始めたんです。出口の扉をギーッと開けているわけですね。そうやって金利が緩やかに上昇していくと、アメリカ国債の価格は下がっていく。
ということは、『米国債はまだちゃんと金利がついているから、これで運用しよう』と考えて買ってしまった地方銀行は、当然「評価損」=含み損を抱えているわけですよね。それは会計に計上しなくてはならない。国債を資産に含めているんですから」
岩上「日本政府は米国債をいっぱい買っているという話ですが、それはどうなっちゃうんでしょう?」
田代「政府は『外貨準備』といって巨額のお金をつぎ込んでいますが、本当は『外国為替準備』なんですよね。そして、先ほども話題になったとおり、買いやすい金融商品としては国債が一番。大量に発行されて種類も豊富で、多少買ったところで価格も変化しない。これが金なら、とても少ないですから、ちょっと買うだけでボーンと暴騰します。
それで、『外貨準備』といっても中身はアメリカ国債なんです(※15)。あんな巨額のお金を投じられるところなんて、そこしかありえない。で、アメリカ国債の価格が下がっていますから、当然損失は発生しています」
岩上「怖いですね。地銀もそうしてかなり米国債を買っていたと」
田代「買わざるを得なくなったんです。さっきお見せしたグラフのように、日本国債で運用しても損失が出るんですから。それならアメリカ国債で、といって手を出した。ところが、今度はそっちでも損失が出ちゃったと。だから本業の利益が…」
岩上「吹っ飛んでしまった」
田代「福島銀行もそうです。本業の利益と同じぐらいの額の損失を、アメリカ国債で出しちゃったわけですよ(※16)。つまり、プラスマイナスゼロになってしまった」
岩上「アメリカが『出口戦略をやる』というアナウンスはあったはずですよね、バーナンキが辞める時とか」
田代「そうですね。2013年4月4日に黒田総裁が異次元金融緩和をやると宣言した、そのまさに翌月、バーナンキはすでに、『すぐにはやらないけど、これから金融緩和の出口に向かう』ということを言っていました(※17)。
その瞬間からショックは起きたわけですが、つまりは、いわゆるバズーカなんて時代遅れだって認識してるわけですよ。バーナンキがいる間にマーケットをゆっくり説得していくと。で、それがサプライズなくなった時に、はじめて金利を上げていくってことです。フォワードガイダンスですよね。
日本はまだそのバズーカなんてものに頼ったんです。バズーカって、やればやるほど効き目がなくなるもので。黒田バズーカも3発目で全く効き目がないどころか、円高がますます進んでしまったわけでしょ(※18)。
それで急に方針が変わったわけですが、それは後でお話しします。問題は、利上げの意志を、こうやってずっと表明してきたにもかかわらず…」
岩上「それなのに、なぜでしょう。非常に知識の足りない個々人だったらともかく、金融機関たるものですよ?」
田代「それも、ニューヨークにちゃんと支店を設けて、そこにプロフェッショナルの調査員も送って、毎日レポート書かせているのに」
岩上「仮に自分自身で考える能力がなくても、優秀なエコノミストはいっぱいいるわけです。例えば田代さんに話を聞くとか、そうしていたら、18年にもなってこんな事態に陥ってなかったんじゃないかと。アメリカはずっと前から出口戦略を言い始めていたのに、一体なぜなんですか?」

▲異常な低金利を前提とした能天気な不動産投資ローンの危険性!!
田代「これは日本人の根本的問題で。結局、戦前からそうなんです。自分にとって都合のいいシナリオ、楽観的シナリオを何の根拠もなく思い描いた挙句、『この道しかない!』と言い出す。そして、それに少しでも異議を唱える人間に対しては、もう『愛社精神がない』とか」
岩上「下手すると『非国民』とかね」
田代「そう。皇軍で言えば『非国民』とか、今風に言えば『反日』とか。ミッドウェー海戦のときがちょうどそうでしたね。
日本海軍でシミュレーションを何度やっても、航空母艦4隻がみんな沈没する。当時は素朴にサイコロを振って、アメリカ側に先に発見される確率とか割り出していたんですが、さらに魚雷を発射した場合の命中確率なんかも予め割り出しておいたりして、シミュレーションをやっていくわけです。
それで、何度やっても、ミッドウェーに着くまでに日本海軍の艦隊は壊滅するという結果が出る。すると海軍の偉い人が机をバーンと叩いて、『軟弱ヤンキーが放つ爆弾や魚雷が、神国日本の航空母艦に当たるものか!』と。
そのとき彼らはどうしたかというと、シミュレーション板の上で、全艦沈没した航空母艦がまた浮上してミッドウェー島に向かい、見事占領するという楽しいシナリオでやってみたわけです。実際は、シミュレーションの通り、4隻とも撃沈されたわけですよ。虎の子の航空隊も全滅です(※19)」

▲連合艦隊司令長官・山本五十六(Wikipediaより)
岩上「『神州不滅』、今またやってる感じしますもんね」
田代「でも、そんな無茶苦茶な発言した人間が処罰されたという記録はない。原発安全神話も同じです。『日本はチェルノブイリのような事故は起きない』『起きたとしてもあんなひどい事にはならない』と」
岩上「『事故、起きたんですけど』ってなっても、『いやいや、もう起きません。だから再稼働します』とかね」
田代「一体何の根拠があってそんなことを言うんですか、と。
別に根拠はない。一番楽観的で都合のいいシナリオを思いついたら、もうそれしか頭になくなってしまう。もはや日本人の病気ですよ。だから、日本人ぐらい、近代戦争に不向きな人間はいないわけです。ありとあらゆるケース、最悪のケースまで考え抜いたうえで、何とかやるという習慣がないんです。
金利の上昇についても、アメリカはフォワードガイダンスでずっとアナウンスしてきたわけですよね。微妙なアナウンスを流しながら、じわじわと上げている。
たしかに回数は3回とか4回とか、多くはありませんが、金利上昇を止めるとは言わない。要するに、アメリカが次なる危機に備えて金利を下げる余地を作っていることは明白なんです。
でもダメ。アメリカ国債運用してぼろ儲けなんていう、超楽観的で何の根拠もないシナリオを一度描けば、それに固執。銀行員は責められない。それは日本人全体が持っている病気ですから」
岩上「いやー、これに抗うの、本当大変ですよ。抗おうと思ってこういう活動をしているわけですが、本当に大変。全ての分野でこれですからね。
バーナンキが出口戦略を言い出したのが2013年5月(前註★17参照)。あれから5年の間に、FRBは利上げをはっきり表明してきました。しかも今年は、3月に年3回と想定していた利上げ回数を4回にすると(※20)。つまりは利上げのペースを引き上げ始めた。

▲ベン・バーナンキ元FRB議長(Wikipediaより)
欧州もそうだということで(※21)、いまや取り残されているのは日本だけという状態です。日本だけが超低金利政策で、かつ、まだ緩和を続ける的な。こんなこと続けていて、落差が出るのは大丈夫なんでしょうか?これがもたらす副作用っていうのは、一体どういうものになるんでしょう?」
田代「『異次元』つまり『前例がない』緩和だからわからない。FRBもヨーロッパ中央銀行も、そんな恐ろしい未知のゾーンからはとにかく抜け出して、少しでもノーマルな世界に近付きたいと思うのは当たり前です。日銀は今のところ、少なくとも口では『この異次元金融緩和は継続する』と言い続けていますが、実際には国債の買取金額が減り続けているのは確かですよね(※22)。
黒田総裁は『出口戦略を云々するのは時期尚早である』とか『出口戦略を口にしただけで効果がなくなるから言わない』などとおっしゃっていました(※23)が、日本だけが超金融緩和をやっていて他の国は抜け出したなんて状況になった時に、いったい何が起こるのかという話ですよね」
(※13)アメリカで金利が上がり、米国債の価値が下がった:
債券は、国や地方公共団体、企業などが投資家から資金を集めるために発行する有価証券。要するに投資家からの借金であり、一般的には、あらかじめ設定された利率の利子を定期的に債券購入者に支払いながら、借金の返済日(=満期日)に額面金額(=償還金)を返済する。
普通の借入とは異なり、発行された債券は内外の資本市場において売買される。投資家は債券の利子収入だけでなく、満期日前にそれを売買することによって、購入価格と償還金との差額で利益を上げることもできるため、債券の価値は金利や債券の発行体の信用リスクの動向に応じて上下する。
そして、金利が上がれば手持ちの債券の市場価値が低下するのは当然である。利率は債券に固定されているため、手持ちの債券は満期まで低い水準の金利のままであり、市場に売りに出そうとすれば購入額面よりも値を下げなければ買い手がつかないからである。
米国債については、各年限の金利が1%上昇すると時価評価額が1200億ドル目減りするとの試算もある。かくして、米国債など海外債券の運用に活路を見出し、これを大量に保有するようになっていた日本の各行は、アメリカの2016年末の金利上昇によって、瞬く間に巨額の含み損を抱え込むことになった。
3メガ銀行では、同年9月末に約6700億円の含み益だったものが、12月末には約3200億円の含み損に転落したという。
地方銀行も状況は同じであり、ここで話題になっている池田泉州銀行を始め、人口減による法人・個人の資金需要の伸び悩みに加えて日銀によるマイナス金利政策による利ざや縮小に追い込まれた各地銀が、リスクの高い外債投資の比率を高めた結果、含み損をどんどん膨らませているとのこと。
参照:
・野村證券「5分でわかるはじめての債券入門」【URL】https://bit.ly/2AtCzYV
・日経ビジネスONLINE「ビジネスパーソンのための日本国債入門 国債と金利の関係を整理する――金利の変化が投資家に与える影響を考える」2010年10月19日【URL】https://nkbp.jp/2BWZoEw
・節電・電気保安管理ブログ「米国債はバブルか FRB、9月にも資産圧縮」2017年8月7日 【URL】https://bit.ly/2GURr8t
・日本経済新聞「地銀、膨らむ外債損失 「素人運用」で揺らぐ経営」2018年4月25日 【URL】https://s.nikkei.com/2Atan8t
・WEBRONZA「地銀を襲う「外債・不動産」リスク(上)ー本業不振で短期投資へ。金融庁サンプル調査で多額の含み損も(深沢道広)」2018年5月6日 【URL】https://bit.ly/2R9Ww1u
(※14)FRB:
FRB(Federal Reserve Board「連邦準備制度理事会」)とは、アメリカの中央銀行である「連邦準備銀行」を統括する組織。「連邦準備制度」というアメリカ独特の中央銀行制度を構成し、全国に12行設置、加盟銀行の法定支払準備金の保有や連邦準備券の発行、手形割引、貸付、公開市場操作、国庫代理店などの業務を行う銀行である。
FRBは、大統領が上院の承認を得て任命する7名の理事によって構成される。金融政策決定や、加盟銀行に対する支払準備率の設定・変更、公定歩合の決定・変更といった権限を有し、世界経済に及ぼす影響力も大きい。
2008年9月に発生した金融危機(リーマンショック)に当たっては、当時のベン・バーナンキFRB議長(第14代。在任:2006〜14年)が、破綻した金融機関の救済のためにゼロ金利政策を導入。翌年には1兆7250億ドルを投入し、米国債3000億ドル、住宅ローン担保債券(MBS)1兆2500億ドルなどを買い入れる、大胆な量的金融緩和政策を実施した(「QE1」)。
FRBはその後も第2弾(米国債6000億ドルの買い上げ、2010年11月〜6月、「QE2」)、第3弾(米国債およびMBSのさらなる買い入れに月額850億ドルを投入。2012年9月〜13年12月、「QE3」)と、大規模な量的緩和政策を次々に打ち出し、株式などの資産価値の上昇に取り組んだが、巨額の米国債とMBSを抱え込むことになり、2013年12月にテーパリング(量的緩和のペースを漸次縮小していくこと)への移行を決定。2014年10月には「QE3」の終了を決定した。
ゼロ金利政策はその後もしばらく継続していたが、FRBは2015年12月、丸7年続いていたこの政策を解除。翌年から緩やかな利上げを開始し、現在も進行中である。
参照:
・コトバンク「連邦準備制度理事会」【URL】https://bit.ly/2VugUsD
・フィナンシャル・アーティスト・アカデミー株式会社「金融大学」「金融用語辞典項目:米国の量的緩和政策」【URL】https://bit.ly/2LRFaAl
・日経ビジネス「米ゼロ金利の解除、FRBは市場との対話に成功」2015年12月24日【URL】https://nkbp.jp/2saHIAw
・ブルームバーグ「【FRBウオッチ】「何でもやる」と言うは易く「緩和」は難し」2018年8月31日【URL】https://bit.ly/2FcZR8u
(※15)外貨準備の中身はほとんど米国債:
「外貨準備」とは、「通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等により、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合等に使用するための準備資産」(日本銀行HP)。
つまり、「自国通貨の外国為替相場が急激に下落したり、自国が経済危機に陥って対外債務の支払いに窮したりする場合に備えて、政府や中央銀行があらかじめ蓄えている外貨建て資産」(黒田晁生・明治大学教授)のことであり、預金や証券等の「外貨資産」、IMF加盟国が出資金に応じてIMFから借りられる与信相当額の「IMFリザーブポジション」および特別引出権の「SDR」、「金(ゴールド)」等で構成されている。
日本はこの外貨準備高が非常に多く、財務省の発表によれば、2018年10月末時点で1兆2609億2500万ドル(中国に次ぐ世界第2位)。そのうち、「外貨資産」の「証券」が85%に相当する1兆760億4100万ドルを占めている。その通貨別内訳などは公開されていないが、大半はアメリカ財務省証券と推察されている。
外貨準備が増えると為替リスクが増すため、先進国は外貨準備高を抑制する傾向があるが、日本はむしろそれをどんどん積み上げる、しかも、深刻な財政赤字に直面しているアメリカ国債を、いまなお大量に買い入れ続けていることになる。
特に、2016年にアメリカが金利上昇に転じてからは、中国やロシアなどが安全資産としての米国債の保有額を大幅に減らす中、日本だけが含み損をますます膨らませている状況であり、政府や日銀に対する批判が高まっている。
参照:
・金融情報サイト iFinance「金融経済用語集 項目:外貨準備」【URL】https://bit.ly/2Tp478M
・情報・知識・オピニオンimidas「時事オピニオン エントリー『日本の外貨準備、1兆ドル超え――保有額は多すぎるのか?(黒田晁生)」2008年6月6日【URL】https://bit.ly/2VyF6d8
・財務省HP「外貨準備等の状況(平成29年10月末現在)」2018年11月8日【URL】https://bit.ly/2TsFzvF
・みずほ総合研究所「トランプ政権下で変わる「米国債」保有構造(坂中弥生)」2017年3月15日【URL pdf】https://bit.ly/2GWbWSc
・ブルームバーグ「ロシア:米国債の保有ほぼ半減、金にシフト――制裁のリスク考慮」2018年6月21日【URL】https://bit.ly/2QqgOP1
(※16)福島銀行も米国債で純利益が吹き飛んだ:
福島銀行は2018年4月4日、含み損を抱えていた米国債等の投資信託5銘柄の売却処理で、2018年3月期に6億4100万円の損失を計上すると発表した。同行はその時点で6億7000万円の純利益を見込んでいたが、それがほぼ吹き飛ぶ損失となった。
これに、経営破綻した融資先の建設業者などの不良債権処理や、採算性が悪化した店舗の資産価値を引き下げる減損処理を行ったことによる損失が加わり、翌月に発表された3月期決算では、単体の最終損益が32億8300万円の赤字、経常利益も16億2900万円の赤字。
そして本業のもうけである業務純益は、前年同期から10億4300万円の減少となる7億5300万円の赤字となった。これは、東日本大震災および福島第1原発事故が発生した2011年3月期以来7年ぶりの赤字転落であり、森川英治社長は引責辞任に追い込まれた。
参照:
・日本経済新聞「地銀、膨らむ外債損失 「素人運用」で揺らぐ経営」2018年4月25日 【URL】https://s.nikkei.com/2Atan8t
・日本経済新聞「福島銀、7期ぶり赤字転落 運用損が響く」2018年5月9日【URL】https://s.nikkei.com/2CQtFGr
・NRI FinancialSolutions「地域銀行が外資投資で損失拡大」2018年5月11日【URL】https://bit.ly/2Fdylbh
・毎日新聞「福島銀 最終赤字32億円 森川社長、引責辞任 3月期決算/福島」2018年5月15日地方版【URL】https://bit.ly/2Rzy3BX
(※17)黒田総裁が異次元金融緩和を実施すると宣言したその翌月、バーナンキが出口戦略に言及、ショックが起きた:
2013年5月22日の上下両院合同経済委員会におけるベン・バーナンキFRB議長の発言、および、これに端を発する金融市場の混乱のこと。
バーナンキ議長はその日、議会証言の後の質疑応答で、「労働市場の見通しが実質的かつ持続的に改善すれば、FOMC(米連邦公開市場委員会)は資産買い入れペースを緩やかに縮小していく」「状況改善の継続を確認し、持続可能と確信できれば、今後数回の会合で資産買い入れを縮小する」と述べつつ、景気刺激対策として当時実施していた大規模な量的緩和政策(2012年9月開始の「QE3」)の縮小可能性について示唆した。黒田東彦・日銀総裁が2013年4月4日に「これまでとはまったく次元の違う金融緩和を行う」と宣言した、まさにその翌月の出来事であった。
バーナンキ発言は、これまでの長期金利押下げ政策によってリスク志向(株式や新興国通貨など、利率が高いハイリスク資産に積極的に投資すること)を高めていた市場に冷や水を浴びせ、株価は急落。長期金利も2%台へ急上昇した。
さらに翌月の6月19日、バーナンキ議長はFOMC後の記者会見でもっと踏み込んだ発言を行う。すなわち、FRBは「来年上半期を通して慎重なペースで(債券の)買い入れを縮小していき、年央あたりに(量的緩和政策を)終了させる」と述べたのである。
こうした出口戦略の具体的言及を受けて、米国の資金供給量が絞られるという懸念が金融市場を席巻。慎重姿勢に転じた投資家が一斉に米国債やドルの売り込みに回り、市場は一時大きな動揺に見舞われた。
とりわけ、ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカといった、対外債務が比較的大きい国々の市場では、ドル資金の大量流出の懸念から、通貨が急激に下落した。
バーナンキ議長は、金融緩和政策の縮小は「状況改善の継続を確認し、持続可能と確信できれば」の話であると含みを持たせたが、FRBはそれから半年後の2013年12月17日、18日、FOMCで量的金融緩和の縮小を決定。翌年1月から実施に踏み切ったのである。
参照:
・ロイター「バーナンキ米FRB議長の議会証言での発言要旨」2013年5月23日【URL】https://bit.ly/2saa7a0
・ロイター「バーナンキ米FRB議長の会見要旨」2013年6月20日【URL】https://bit.ly/2RyyP2d
・ダイヤモンドオンライン「バーナンキ・ショック後の新興国危機 過去との類似点と相違点は?――終わらないフラジャイル・ワールド 次なる震源地はどこに?」2014年10月24日【URL】https://bit.ly/2RD7XOk
・日経ビジネス「米ゼロ金利の解除、FRBは市場との対話に成功」2015年12月24日【URL】https://nkbp.jp/2saHIAw
・経済産業省HP「通商白書2014 第1部第1章第2節 米国の量的金融緩和縮小とその影響」【URL】https://bit.ly/2VC9unl
(※18)回数を重ねるごとに効果の薄れるバズーカ。黒田バズーカも3発目で全く効き目がないどころか、円高がますます進んでしまった:
「黒田バズーカ」とは、日銀・黒田東彦総裁が2013年4月以降三度にわたって発動してきた大規模な量的・質的金融緩和政策の通称。
金融緩和といえば、中央銀行が短期金利を引き下げて人々や企業がお金を借りやすくし、経済の活性化を促すのが伝統的手法だが、2012年12月に発足した第二次安倍政権は、「アベノミクス」を掲げて日銀にさらなる金融緩和を要求。これを受けて、2013年3月に日銀総裁に就任した黒田氏が、国債の大量買入を通じて市中への通貨供給量(マネタリーベース)を一挙に倍増、投資活動の活性化を狙う異例の金融緩和政策(「異次元金融緩和」)に踏み出したのである。
第一弾となる2013年4月4日の発動では、目論見通り、株価が1万2000円台から1か月余りで1万6000円近くまで上昇。1ドル93円まで進んでいた円高もひと月半で103円という円安となった(量的金融緩和には円安効果がある。日本円の量が増えるということは、ドルよりも円の価値が下がるということだからである。これは輸出業にとってプラス要因となる)。
こうして爆発的な株高・円安をもたらしたという意味で、「黒田バズーカ」と呼ばれるようになったのである。
だが、翌2014年に入るや株価は1万4008円まで急落し、その後も1万5000円台で推移。為替も1ドル110円割れの水準まで円高が進む。そこで日銀は、2014年10月31日、マネタリーベースの増加ペースのさらなる拡大を骨子とする追加金融緩和政策を実施(「黒田バズーカ」第二弾)。これにより、株価は3日間で1300円超の上昇、為替も1ドル109円から121円へ上昇をみた。
その後半年ほどは効果が持続し、株価は一時2万円台を突破(最高値は2015年6月4日の2万952円)するものの、2015年8月ごろからまたもや急落。2016年初頭には円安も進行し、バズーカ第2弾の効果がそっくりそのまま吹き飛ぶかのような状況となった。
そこで日銀は、2016年1月末、「黒田バズーカ」第三弾となる「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」(前註★2参照)を実施したが、今度は株価はさほど持ち直さず、円相場はむしろ乱高下。100円割れ寸前まで円高が進み、「市場にお金を大量にばらまくだけの金融緩和政策」の限界を世に知らしめることとなった。
参照:
・マネーポストWEB「【最新金融用語解説】黒田バズーカ:量的緩和からマイナス金利まで」2016年2月4日【URL】https://bit.ly/2EGczNM
・キャリタス就活「今注目のキーワードから読み解く!今後の金融業展望(真壁昭夫・法政大学大学院教授) <第7回>黒田バズーカ」2016年8月17日【URL】https://bit.ly/2UO50Zq
・投資家Life「黒田日銀総裁の大規模金融緩和【黒田バズーカ】発表時の市場の反応まとめ~日経平均株価・為替」2016年10月9日、2017年7月26日最終更新【URL】https://bit.ly/2RRvZFz
・第一商品「日銀の金融政策と金・為替相場の動きをふりかえる 円安が招いた海外金価格と国内金価格の逆行現象」2017年1月5日【URL】https://bit.ly/2tgVeTG
・産経ニュース「円高進行1ドル=108円台、黒田「バズーカ2」の円安効果が霧消」2017年4月7日【URL】https://bit.ly/2SCiN7X
・みんかぶFX「FX用語集>金融緩和とは」【URL】https://bit.ly/2RRfuFo
(※19)ミッドウェー海戦のシミュレーションに見られる「日本人の病」:
「大東亜戦争における日本軍の作戦失敗例からその組織的欠陥や特性を析出し、組織としての日本軍の失敗に籠められたメッセージを現代的に解読」した名著、『失敗の本質』(ダイヤモンド社、1984年)に言及される、また、近年ではNHK BS歴史館「ミッドウェイ海戦 敗北が語る日本の弱点」(2012年12月6日放送)として取り上げられ、いまや一般にもよく知られる、ミッドウェー海戦(1942年6月5日)に際して日本海軍が行った「図上演習」のエピソードである。
国力の劣る日本がアメリカに勝利するためには短期決戦しかないと考えていた連合艦隊司令長官・山本五十六は、太平洋に存在するアメリカ空母機動部隊を今のうちに撃滅しておく作戦を構想した。
すなわち、太平洋を横断する米航空機の給油地で、第二次世界大戦勃発後はアメリカのハワイ防衛の拠点として基地化されていたハワイ諸島北西の環礁、ミッドウェー諸島を、「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」の4空母部隊で奇襲攻略して米空母艦隊をおびき寄せ、そこで一気に捕捉・撃滅するというシナリオである。
ミッドウェー上陸予定日も決まり、1941年5月1日には、広島の呉軍港に停泊中の戦艦大和上にて、海軍のトップを集めた図上演習が行われた。
当時、作戦のシミュレーション=図上演習は、卓上に広げた地図に、赤と青に色分けして敵味方の戦力を表すコマを配置、各種戦力をあらかじめ数値化しておき、作戦通りに味方が動いた場合の敵との遭遇率や想定される被害を、2個のサイコロを振って予測するというもの。「作戦計画の実行の可能性を検証し、問題点や改善策を総合的に検討する重要な学習機会」である。だが、ミッドウェー攻略の図上演習では、次のようなおかしな光景が展開されたという。
「『赤城』に命中弾九発という結果が出たが、(審判役を務めた)連合艦隊参謀長宇垣少将は、『ただ今の命中弾は三分の一、三発とする』と宣言し、本来なら当然撃沈とすべきところを小破にしてしまった。しかし、『加賀』は数次の攻撃を受けて、どうしても沈没と判定せざるをえなかった。そこでやむなく沈没と決まったが、ミッドウェー作戦に続く第二期のフィジー、サモア作戦の図上演習には沈んだはずの『加賀』が再び参加していた」(『失敗の本質』p.232)。
かくして断行されたミッドウェー作戦が、投入された空母4隻すべてとその搭乗機約300機を喪失、死者3000人という壊滅的結果に終わったことは周知の通りである。『失敗の本質』は、「事実よりも自らの頭のなかだけで描いた状況を前提に情報を軽視し、戦略合理性を確保できな」いという、日本人の「組織特性」を示すものとして、このエピソードを挙げた。「異次元金融緩和」に固執する今の日銀に、そのまま当てはまる評言ではないだろうか。
参照:
・戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・村井友秀・野中郁次郎『失敗の本質』ダイヤモンド社、1984年
・Wikipedia「ミッドウェー海戦」【URL】https://bit.ly/2I5ClgL
(※20)FRBは利上げをペース・アップ:
FRB(連邦準備制度理事会)は、2014年10月の量的金融緩和政策(「QE3」)の終了に続き、2015年12月には2008年の金融危機から7年間にわたって続けてきたゼロ金利政策の解除を決定。政策金利の誘導幅を0.25%の引き上げとなる0.25%~0.50%とし、今後「緩やかなペースで」利上げを続けるとした。
実際、2016年の利上げは12月の1回(0.25%の引き上げ、政策金利誘導幅0.50%~0.75%)にとどまったが、2017年は、3月(0.75%~1.00%)、6月(1.00%~1.25%)、12月(1.25%~1.50%)と利上げペースを加速。2018年にはこれをさらに加速させ、3月(1.50%~1.75%)、6月(1.75%~2.00%)、9月(2.00%~2.25%)、12月(2.25%~2.50%)の計4回となった。
3月の利上げの際、FRBは2018年の利上げはこれを含めて年3回とするシナリオを維持するとしていたが、その後、失業率が低下しインフレ率が従来の見通しよりも速いペースで上昇しているという理由で、年4回に上方修正したのである。
参照:
・みんかぶFX「アメリカ・FRB政策金利(FOMC)」【URL】https://bit.ly/2VL4n3W
・BBC MEWS JAPAN「米FRB、利上げを決定 9年半ぶり」2015年12月17日【URL】https://bbc.in/2RjXEj0
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:2015年を振り返るキーワード 米国の「利上げ」(米国)【キーワード】」2015年12月21日【URL】https://bit.ly/2AHFmhs
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:米国の金融政策(2016年12月)1年振りの利上げ、政策金利見通しを上方修正【デイリー】」2016年12月15日【URL】https://bit.ly/2RMrImG
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:米国の金融政策(2017年3月)緩やかなペースでの利上げ継続を示唆【デイリー】」2017年3月16日【URL】https://bit.ly/2VGv9KW
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:米国の金融政策(2017年6月)緩やかな利上げを継続、FRB保有資産の縮小にも言及【デイリー】」2017年6月15日【URL】https://bit.ly/2H7FnRr
・三井住友アセットマネジメント「マーケットレポート:米国の金融政策(2017年12月)政策金利を0.25%引き上げ、緩やかな利上げを継続へ【デイリー】」2017年12月14日【URL】https://bit.ly/2Fo785G
・日本経済新聞「米、3カ月ぶり利上げ 0.25% 「年3回」維持」2018年3月22日【URL】https://s.nikkei.com/2SL2VwE
・ブルームバーグ「FOMC:今年2度目の利上げ決定、年内あと2回に予測上方修正」2018年6月14日【URL】https://bit.ly/2HjoMu7
・大和投資信託「Market Letter 米国金融政策(2018年9月)〜四半期に一度のペースでの利上げを継続する見込み〜」2018年9月27日【URL pdf】https://bit.ly/2M2QPfJ
・大和投資信託「Market Letter 米国金融政策(2018年12月)〜市場期待よりも金融引き締め的な姿勢を示すも、データ次第で柔軟な政策対応を示唆〜」2018年12月20日【URL pdf】https://bit.ly/2D2N9b3
(※21)欧州も金融緩和政策終了:
2009年10月にギリシャ国家財政の粉飾決算が発覚したのをきっかけに、ユーロの信用低下および崩壊の危機に直面した欧州では、2011年11月就任のマリオ・ドラギ総裁のもとで欧州中央銀行(ECB)が大規模な金融緩和政策を実施してきた。
金融機関に長期かつ低金利(1%)の資金供給を行うLong Term Refinance Operation(通称 LTRO、2011年12月および2012年2月)、南欧諸国の国債を直接買い入れる、それも残存期間1~3年という償還期間の短い債券を量的上限を設けず買い入れることを骨子とする金融緩和プログラムOutright Monetary Transactions(通称 OMT、2012年9月開始)、金利の市場最低水準(0.15%)への引き下げおよび0.1%のマイナス金利導入(2014年6月)、月額600億ユーロを投入しユーロ圏19カ国の国債や社債を購入する量的緩和政策(2015年3月)、マイナス金利の拡大(0.4%)と国債買入れ額の増加(月額600億ユーロ→800億ユーロ、2016年3月)など。
そのECBも、2018年6月14日、金融緩和を年内で終了する方針であると発表。12月13日の定例理事会でその終了を正式決定している。金利引き上げも視野に入れていくといい、米連邦準備理事会(FRB)に続きECBも非常時の金融緩和政策を解除する方向へ舵を切った。「異次元金融緩和」を手放せないでいる日本は、こうしてひとり取り残されるかたちになった。
参照:
・日本大百科全書(ニッポニカ)「ドラギ」【URL】https://bit.ly/2FofyLc
・三井住友信託銀行「調査月報 2012年5月号『経済の動き〜欧州中央銀行による資金供給の功罪』」【URL pdf】https://bit.ly/2QHQQXk
・投資用語集「アウトライト・マネタリー・トランザクション」【URL】https://bit.ly/2H435hg
・現代ビジネス「欧州中央銀行がつけた金利マイナス0.10%の影響(真壁昭夫)」2014年6月8日【URL】https://bit.ly/2SPPJ9Y
・日本経済新聞「欧州中銀が追加緩和 マイナス金利幅0.3%から0.4%に」2016年3月10日【URL】https://s.nikkei.com/2H7998T
・東洋経済ONLINE「(ロイター)ECB、量的緩和策の2018年内終了を決定――金利は2019年夏まで現在の水準に据え置き」2018年6月14日【URL】https://bit.ly/2M60qCF
・ロイター「焦点:欧州も米国に続き金融緩和終了、世界経済に逆風か」2018年6月15日【URL】https://bit.ly/2LWNmy1
・東京新聞「欧州中銀、量的緩和終了 日銀と欧米の政策に差」2018年12月14日【URL】https://bit.ly/2RkjJhv
・時事ドットコムニュース「欧州中銀が量的緩和終了=利上げ視野、日銀置き去り」2018年12月14日【URL】https://bit.ly/2FpFyFg
(※22)日銀の国債買入は減少:
日銀が2013年4月に開始した「異次元金融緩和」は、国債買入を通じたマネタリーベース(日銀が市場に供給する流通現金と日銀当座預金の合計)の拡大を柱とし、そのために年間60~70兆円ペースの資金投入を掲げた。翌年10月には年間80兆円に増額されたが、「異次元金融緩和」の目標である「2%の物価上昇」は当初の予定(2年程度)を超えても達成されず、金融緩和は長期化。これに伴い、日銀の国債保有残高は2016年には400兆円に迫る勢いで増大し、日銀はほどなく大量の国債購入を続けられなくなる=金融政策の限界が来るとの懸念を高めることになった。
そこで日銀は、2016年9月、長期金利(10年物国債利回り)を0%程度に誘導する「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」を導入するとともに、年間80兆円の国債買入を「目標」から「めど」に格下げ。以降、国債購入額は減少の一途を辿り始める。
2017年6月には国債買入ペースが60兆円程度にとどまっていることが明らかになったほか、同年10月には、日銀が保有する国債の「銘柄別残高」も長期国債残高も、「異次元金融緩和」政策導入後初の減少をマーク。2018年5月28日に発表された「2017年度の金融市場調節」のリポートでは、2017年度の日銀の実際の国債買入額は49兆円と、「めど」とされる80兆円から大きく乖離していることが判明した。
6月末には約43兆円へとさらに縮小し、「めど」の半分近くまでに減ってしまう。日銀はその後も超長期ゾーン(残存期間が10年超25年以下)の国債買入額の減額(2018年7月19日)と中期および長期国債買入回数の減少(同年8月31日)を決定。代わりに1回のオファー金額のレンジ上限を1000億円引き上げるなどして、市場に緩和縮小(テーパリング)と受け止められないよう画策したが、このような国債買入減額は「ステルス・テーパリング(密かな緩和縮小)」に他ならないと、各方面から批判を浴びている。
参照:
・三井住友銀行「調査月報2017年1月号『経済の動き〜長期化する金融緩和による懸念点〜大量の国債買入と金利操作の持続性〜』」【URL pdf】https://bit.ly/2QElwbT
・毎日新聞「日銀 国債買い入れ減少 「年80兆円メド」実際60兆円」2017年6月1日【URL】https://bit.ly/2CfyMi6
・ブルームバーグ「日銀の保有国債残高が減少、異次元緩和導入後初めて-9月末」2017年10月6日【URL】https://bit.ly/2slNYFM
・ヤフーニュース「日銀の国債保有額が減少しているという事実(久保田博幸)」2017年10月6日【URL】https://bit.ly/2sqEUzj
・QuickMoneyWorld「「80兆円」の文言が消える日は近い? 日銀の国債買い入れ、17年度は49兆円」2018年5月30日【URL】https://bit.ly/2SPLBXz
・ブルームバーグ「日銀が国債買い入れ減額、残存10-25年1800億円、25年超600億円に」2018年7月19日【URL】https://bit.ly/2FlQMeE
・日本経済新聞「形骸化する「国債購入80兆円めど」 日銀あえて放置へ」2018年7月23日【URL】https://s.nikkei.com/2QL8lWU
・ロイター「日銀オペこうみる:事実上の買入減額、市場機能低下を懸念か=メリルリンチ 大崎氏」2018年8月31日【URL】https://reut.rs/2soi8Ir
・ロイター「国債購入の減少、米テーパリングとは性格を異にする=黒田日銀総裁」2018年11月22日【URL】https://bit.ly/2SOksnN
(※23)黒田総裁「出口戦略を云々するのは時期尚早」「出口戦略を口にしただけで効果がなくなるから言わない」:
2018年4月9日、日本銀行総裁に再任された黒田東彦氏が、決定会合後の記者会見で述べたことがらである。新たな任期5年間の門出にあたり、金融政策運営の基本方針と抱負を尋ねられた黒田総裁は、「賃金・物価は緩やかに上昇し、人々のインフレ予想も上向いてきているなど、情勢は着実に変化しており、日本経済は、日本銀行による強力な金融緩和のもとで、2%の『物価安定の目標』に向けた道筋を着実に歩んでいるとみている」と述べつつ、「異次元金融緩和」の成果をひととおりアピール。その上で、2019年度頃を目標とする「2%の物価上昇」の早期実現を果たすため、金融緩和政策を続行する意向を示した。
さらに、任期中に課題となることが予想される、金融緩和政策解除へ向けての戦略(出口戦略)策定についての質問に対し、次のように答えながら、今はまだ出口戦略を口にする段階ではない、機が熟さぬうちに言及して、徒らに市場を混乱させるのは得策ではないとしたのである。
「出口の局面で、実際にどの手段をどの順序で用いるかについては、その際の経済・物価・金融情勢によって変わり得るわけです。(中略)あまり早い段階で、出口の進め方を具体的に説明することは難しく、市場との対話という観点からも、却って混乱を招くおそれが高いのではないかと思います。(中略)2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があります。やはり現在は、先行きの経済・物価動向を注意深く点検していくことが必要な情勢であって、出口のタイミングやその際の対応の手順等を検討する局面には至っていないと考えています」
参照:
・ロイター「出口戦略、市場と対話は時期尚早 副作用を注視=日銀総裁が再任会見」2018年4月10日【URL】https://bit.ly/2TMdeAN
・日本銀行「総裁再任記者会見(4月9日)――2018年4月9日(月)午後7時から約40分」2018年4月10日【URL pdf】https://bit.ly/2FmRKqX
欧米は着々と緊急緩和政策を店じまい。資産価値を押し上げてきた「流動性」が一挙に減少!! 今後、世界中で資産価格の上昇スピードが急落する!
岩上「最近ブルームバーグが報じているところによれば、BofA(バンク・オブ・アメリカ)がこんな予測を発表したようです。
『これまで資産価格を押し上げてきた世界の流動性の波に、今年(2018年)は大きな変化が訪れる』。欧米の『金融政策の転換』によって、『米金融当局と欧州中央銀行(ECB)、日本銀行による証券購入は、年初から計1250億ドル相当』と試算され、『2017年の1兆5000億ドルのペースを大きく下回る』だろうと。つまり、世界的な金融引き締めの傾向で、『1兆3800億ドル(約152兆円)前後の流動性が市場に注入されなくなる』=『消失する』と(※24)。

▲世界的な金融引き締めの傾向で、1兆3800億ドル(約152兆円)の流動性が消失!?
要するに、今年は本当に大変なことになる、というわけですが、どのように大変なのか、解説していただけますか?」
田代「まず金融用語として、『流動性』という言葉。これは『リクイディティ』の訳語ですが、要するに『マネー』という意味です。現金はもちろん、普通預金とか小切手に使える当座預金とか、すぐに引き出せる預金。こういうものを指して『流動性』と言うんです。ケインズが使ったために、こういう言い方がなされるわけです(※25)」

▲イギリスの経済学者、ジョン・メイナード・ケインズ(Wikimedia Commonsより)
岩上「不動産じゃない資産、ということですね。『流動性の罠』(※26)は有名ですね」
田代「その『流動性』が溢れているから市場にどんどん流れ込み、株価が、あるいはリート(不動産投資信託)が上昇する(※27)ということが起きたわけですが、問題は、先ほども話題になったとおり、FRBとヨーロッパ中央銀行(ECB)が方針転換して、出口の扉をぐぐーっと『開け始めました』と言っているわけです。
金融緩和のやり方といえば、結局、有価証券、株式とか債券、あるいはリート、そういった有価証券を中央銀行がどんどん購入して、その代金としてのお金=『流動性』が市場に出て来るようにしたわけですね。
それがぐるぐる回って、資産価格を押し上げてきたんですが、これから国債を中心とする『有価証券の購入額を減らしていく』。つまり中央銀行からの『流動性』=マネーの量が減ることになります。その減る量が『1兆3800億ドル』だということです。
お金がなくなる、ということじゃないんですよ。市場に注入されることは注入されるんだけれど、今までのペースだったら注入されるはずの金が注入されなくなる、その金額がこれだというわけです。円に直せば約160兆円ぐらいですよね、その供給分が、1年で減るというわけです」
岩上「そうなると何が起きるんでしょう?」
田代「簡単に言えば、資産価格の上昇スピードが落ちますね。資産価格を押し上げていた、中央銀行からあふれて来るお金が減るんですから。だから、これは別に『資産価格が暴落する』と言っているわけではないんですが、上昇スピードが落ちるのは確かです」
岩上「これは日本にも影響がありますよね。今首都圏の、それも一部に限った資産バブルみたいなものが起こっているわけですが、そこに冷や水を浴びせることに…」
田代「日本に限らず世界中でそれは起きます。超金融緩和、異次元金融緩和から『出る』とは、つまりそういうことなんですよ。
リーマンブラザーズが2008年9月15日にバンザイして、世界金融危機が起きた時、世界中で資産価格が急速に下落したでしょう?これをほっておいたら同じことになるというので、FRBはもう、住宅ローンの元に作った金融商品を買い取っては、お金をどんどん注入したわけです(※28)。

▲リーマン・ブラザーズ(Wikimedia Commonsより)
アメリカの場合、住宅ローンを組んで返せなくなったら、『じゃあ、家を返します』と言えばそれで終わり。それを銀行が買い込むわけですよね、不良債権を。
リーマンブラザーズの時は、中央銀行が『買い取ってやろう』とやったわけです。そうやって資産価格を押し上げて、銀行のバランスシートを改善していったわけですよね。
だけど、ここへきて『もういいだろう』と。『だんだんそのペースを落とします』と。その落とす分が、世界全体でこれくらいあるというわけです。落とした分だけ資産価格の上昇スピードを落とすのは間違いないですね」
岩上「なるほど」
(※24)ブルームバーグ記事:
ここで話題になっているのは、『ブルームバーグ』2018年6月28日付記事「主要中銀、QEからQTにシフト-世界が失う流動性は1.4兆ドル」(【URL】https://bit.ly/2KlsOmP)である。
記事は、今「世界から1兆4000億ドル(約154兆円)相当の流動性が失われつつある音」が聞こえてきていると前置きした上で、経済アナリストらによる次のような指摘を紹介。「米利上げと金融環境の引き締まり」が「QEの下でパフォーマンスが良かった社債や新興市場国・地域の債券などの値下がり」を引き起こすだろうと警告している。
――バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ:「世界の主要中央銀行が量的緩和(QE)を巻き戻し始めたことで、量的引き締め(QT)とでも言える要因が今年に入って資産価格を左右している」「これまで資産価格を押し上げてきた世界の流動性の波に今年は大きな変化が訪れる。米金融当局と欧州中央銀行(ECB)、日本銀行による証券購入は年初から計1250億ドル相当で、2017年の1兆5000億ドルのペースを大きく下回ると同社は試算。つまり、QEからQTへの転換を背景に1兆3800億ドル前後の流動性が市場に注入されなくなる」「流動性の明白な縮小は6~8カ月かけて起きる」
――チャーリー・マケリゴット氏(ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル):「(新興市場国・地域の株式・債券・通貨の値下がりについて)『QEからQT』にシフトする現実が反映」
――サンフォード・C・バーンスタイン:「新興市場投資に特化した世界のファンドからは先週、過去最高となる60億ドルの投資家資金が流出」
(※25)「流動性」:
経済学における「流動性」とは、資産を別の資産に交換する際の容易さの度合いのこと。貨幣が最も流動性が高い(=他の資産と交換しやすい)ため、貨幣そのものを指すことが多い。イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)が、『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)において、利子のメカニズムを説明するために用い広まった概念である。
人々が利子を生む債券よりも貨幣を保有したがるのは、貨幣の持つ流動性=交換容易性の高さゆえである(=流動性選好)。したがって、利子とは、流動性の高い貨幣を手放して流動性の低い債券を持つことへの報酬であり、人々は流動性と収益性とを比較して資産保有形態を選ぶ。
ケインズは、市場利子率はこうした貨幣の需要=人々の流動性選好と、中央銀行による貨幣供給量との均衡点で決定されるとしたのである。
参照:
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「ケインズ」【URL】https://bit.ly/2bCjlp1
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「流動性選好説」【URL】https://bit.ly/2srEl8K
・基礎研WEB政治経済学用語事典「流動性選好説」【URL】https://bit.ly/2CojIyS
(※26)「流動性の罠」:
景気対策として導入された金融緩和政策が長期化し、金利が一定水準以下にまで低下した時、流動性=貨幣の供給量を増やしても蓄蔵される一方で投資に回らなくなり、金融政策が機能停止に陥る状況のこと。
景気後退時、中央銀行は国債や手形の買上を通じて通貨供給量を増やすとともに、政策金利を引き下げて人々が資金調達=借金しやすい環境をつくり、設備投資や個人消費を促そうとする。
ところが、景気が思うように回復しない場合に、通貨供給および金利の引き下げをさらに続けて金利がゼロに近づいていくと、人々は金利の上昇とそれに伴う債券価値の下落を予想して、貨幣で資産を保有するようになる。そうして銀行などに資金が大量に滞留するようになるが、人々が投資を志向しない以上、民間への貸し出し需要は伸びず、経済活動に利用されないまま、ただしまい込まれた状態になるのである。
「流動性の罠」とは、市場に出回りモノやサービスの流通・交換を促すべき貨幣が、このように身動きの取れない状況に陥ることを言い表したもので、ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』において、1930年代前半の金融市場の状態を説明する際に提出。これを解釈したイギリスの経済学者ジョン・ヒックスの議論がよく知られている。
参照:
・ブリタニカ国債大百科事典小項目辞典の解説「流動性の罠」【URL】https://bit.ly/2RsRBJ8
・情報・知識&オピニオンimidas「流動性のわな」2012年3月12日【URL】https://bit.ly/2CjoyNz
・金融情報サイトiFinance「世界経済用語集 項目:流動性の罠」【URL】https://bit.ly/2FwkeO9
(※27)「流動性」が市場に注入され、株価やリートが上昇:
「株」は企業が経営資金を集めることを目的に発行する有価証券。事業を通じて得た利益を「配当金」という形で出資者(株主)に還元する。
「REIT(リート)」は不動産投資信託のことで、投資信託運用会社が投資家から集めた資金で不動産に投資し、そこから得られる賃貸収入や売買益を投資家に分配(「分配金」)する。
投資者はそうした「インカムゲイン」に加え、市場でこれらを売買したときの差益収入=キャピタルゲインを狙う。投資する企業の業績が好調であれば、「配当金」「分配金」が増えて人気が高まり、高値で取引されるからである。
金融緩和は、中央銀行が民間金融機関から債券を買入れるなどして市場に貨幣を大量に供給する、つまり「カネ余り」の状態にするとともに、金利を下げて(=預金しているだけではカネが増えないようにして)経済の活性化を企図するが、投資家たちはそこで潤沢な資金をますます投資に振り向けるようになるがゆえに、株価やリートが上昇するのである(特に、不動産を買われやすくするローン金利の低下は、リートにとっては大きな上昇要因として働く)。
実際、日銀が2013年4月4日に大規模な量的・質的金融緩和政策(黒田バズーカ第1弾)を発動した時、日経平均株価は1万2000円ほどから2ヶ月で1万6000円台へ急上昇。2014年10月31日実施の第2弾でも、下降気味だった株価を1万6000円台へ戻した上、半年の間に2万円を突破する勢いとなった。とはいえ、これは、投資家たちが有り余るカネを本来の経済活動に使わず、株式市場だけを賑わせているにすぎない。
参照:
・MONEY VOICE「投資初心者向け!「株式」と「債券」の違いって何?」2015年6月10日【URL】https://bit.ly/2SVzpnX
・株初心者のための株式投資と相場分析方法「REITとは」【URL】https://bit.ly/2TQ5JJ2
・株初心者のための株式投資と相場分析方法「REITを分析する(REIT指数の上昇・下落の要因)」【URL】https://bit.ly/2QSpLkb
・株初心者のための株式投資と相場分析方法「キャピタルゲインとインカムゲイン」【URL】https://bit.ly/2Fw9vEt
・株初心者のための株式投資と相場分析方法「カネ余りと金利の関係」【URL】https://bit.ly/2RylEyY
・投資家Life「黒田日銀総裁の大規模金融緩和【黒田バズーカ】発表時の市場の反応まとめ~日経平均株価・為替」2017年7月26日(最終更新日)【URL】https://bit.ly/2RRvZFz
・情報・知識&オピニオンimidas「過剰流動性」2015年6月29日【URL】https://bit.ly/2TVy8gZ
(※28)リーマンショックとFRBによる大規模金融緩和政策:
2008年9月、米国の大手証券会社・投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したことをきっかけに、世界規模で巻き起こった金融危機。米国では2004年ごろからの住宅ブームに乗って、低所得者に向けた高金利の住宅ローン(サブプライムローン)が広まるとともに、このローン債権を担保に組み入れた証券化商品が国内外の金融市場に出回っていた。
住宅バブルのはじけた2007年を境に返済不能に陥る者が続出し、証券化商品の価格も急落、このいわゆるサブプライム問題により多くの金融機関が経営危機に陥ったが、その中でも巨額の損失を被ったリーマン社が、政府による救済も得られず破綻に追い込まれたのである。
全米第4位の証券会社の破綻は金融界に衝撃を与え、世界中の株式相場が暴落、金融市場はマヒ状態となる。この危機に対処すべく講じられたのが、バーナンキFRB議長による大がかりな量的緩和政策であった。
参照:コトバンク「リーマン・ショック」【URL】https://bit.ly/2hBkOuL
「人口減」「マイナス金利導入」「米金利上昇」のトリプルパンチで、どこの地銀ももはや本業では生き残れない…。地銀を危機的状況に陥らせたのが政府・日銀の「異次元金融緩和」政策であることは明白!
岩上「そんな流れの中で、地方銀行が本業利益をどんどん減らし、赤字に陥っている銀行が急増しているとのことです。次の表をごらんください(※29)」

▲地方銀行の本業利益と赤字銀行数
田代「地方銀行の本業とは、要するに、金利を提示して預金を集めるとともに、預金より高い金利を付けて事業に貸し出して、お金を返してもらうこと。つまり、預金金利と貸出金利の差額が銀行の本業利益になるわけです。
ところが、こんな超低金利にしてしまうと、グラフの青い線(地方銀行の本業利益総額)を見てください、ずーっと下がり続けて、2016年には3分の1近くにまで下がっています」
岩上「ものすごい下がり方ですね。しかも下がり始めたのはずっと前じゃない。スタートが2007年。わずか9年の間に、1兆2000億円から2000億円近くまで落ちているんですね」
田代「そうなんです。本業の利益が、ですよ」
岩上「それ、通常の業界では耐えられないですよね」
田代「となると、地銀の中には赤字に転じているところもあるはずだということになりますが、赤い棒グラフを見てください。本業が赤字の地方銀行数が、2007年には一桁台だったんですが、それが今では50行を超えているわけです」
岩上「うわあ…」
田代「これはもう、一言で言えば、地方銀行、公式には『地域銀行』ですが、構造不況業種になっているわけです」
岩上「『リーマンショックの中でも日本の経済は耐えた、そしてアベノミクスの下で、日本経済が不死鳥のように蘇った』とか『民主党政権時代とは全然違う』とか、そんなふうに言う人がいますけれども、冗談じゃない。それ以降、日本経済は無茶苦茶になっているじゃないか! って話ですよね」
田代「棒グラフにもよく表れているとおり、赤字の上昇スピードが飛躍的に上がったのが2013年。これ、アベノミクス元年ですよね。超低金利が出現したからです」
岩上「異次元金融緩和による超低金利ですね」
田代「さらに、2016年のマイナス金利導入でまた跳ね上がっています。これはさすがに、日本銀行総裁の記者会見でも新聞記者から聞かれますよ。その時、黒田総裁は『金融機関のために金融政策をやってるわけじゃない』と(※30)」
岩上「(笑)本当ですか?」
田代「まあ、この事態を見れば、たしかに金融機関のためにやってないことは明らかですね」
岩上「では何のためにしたんでしょう?」
田代「そこはぜひ、新聞記者の方々には聞いていただきたいですね」
岩上「株価が一時的に上がって、安倍政権が続くようにしたとしか見えませんね」
田代「株価上昇ばかりが言われますが、うまくいった時は当然どこかに副作用が出るものです。それが地銀というわけです。
これがなぜ決定的に深刻かというと、地方銀行というものは、各地方ごとの富を蓄積するところですよね。本来ならば、その富の蓄積は、その地域内でまた投資されるために必要なわけです。ところが、その本業から利益が出なくなったと。だから、地方でも貸すけれど、たとえば東京まで出て来て住宅ローン貸してみるとかね」
岩上「それも、さっき話題になったみたいにブラックなやり方で」
田代「そうならざるを得ないのは、本業で儲からない産業になったからですよ。かつては、地方銀行の若い行員なんて、合同コンパなんかで一番モテたわけでしょ? 今は逆ですよ」
岩上「結婚できないと…。メディアはこういう状況をあからさまに伝えていません」
田代「ああそうか…。でもこれ、すべて金融庁が作った公式データですからね。私が捏造したんじゃないですからね(笑)」
岩上「(笑)金融庁が作った公式データをサイトに見に行って、ちゃんと理解できるような人は、相当な情報強者ですよ」
田代「でもこの地図を見てください、これは金融庁自身が言っていることなんです(※31)。

▲地方銀行の本業での存続可能性
岩上「すごいですね…。九州でいえば、『2行までなら存続可能な県』が鹿児島と福岡だけ。熊本は『1行だけなら存続可能』。あとは軒並み…」
田代「そうです。長崎、大分、宮崎、佐賀。これらの県ではもう『1行も存続できない』。つまり『県を超えて、広域合併して生き延びてください』ってことです。これはまさに、今長崎県で進められていることで、うまくいったら今後至るところで起きますね(※32)」
岩上「北陸や紀伊半島では、もっとすごい状況ですね」
田代「悲惨なのは山口県です。一番たくさん総理大臣を輩出したこの県が。地方銀行は、県民が営々と働いて、少しずつ貯めたお金が県に投資されるために必要な機関ですが、それがもはや存続できないと金融庁が言っているわけです。このレポートが出たのが今年(2018年)の4月19日。これこそ、本当に新聞の第一面に出てしかるべきなのに」
岩上「出ませんね」
田代「日経新聞も、BSでのニュース番組でパッと出したぐらいでね。本紙には出て来ないですね」
岩上「そういうのが多いんですよ、この頃。ネットだけでスッと出して」
田代「でも、これは極めて大事なことです。広域合併されれば、あるいはメガバンクの傘下に入ってしまえば、何度も言いますが、その地方で貯めたお金がその地方に投資されないってことになってしまうわけですから」
岩上「そうなると当然、地元の小さな産業が、商店でも工場でも畜産でも農家でも、できなくなるってことです。つまり、そこでの雇用がなくなるってことですよね。商売ができない、雇用ができない。そりゃ少子化に拍車がかかりますよ」
(※29)図表「地方銀行の本業利益と赤字銀行数」:
金融庁「金融仲介の改善に向けた検討会議」の2018年4月11日付報告書「地域金融の課題と競争のあり方」で示された図表(p.8、図表18)である。
報告書は、資金の需要者たる企業数および生産年齢人口が全国的に急減していることを示した上で、これに超低金利政策が加わり、地域銀行が貸出利鞘を激減させている現状を指摘。貸出利鞘の縮小を貸出残高の増加で補おうとするが功を奏さず、「本業(貸出・手数料ビジネス)の利益は悪化を続けており、2016年度の決算では地域銀行(106行)の過半数の54行が本業赤字となっている」ことを、当グラフを示しながら報告している。
また、これに対処するべく多くの地方銀行が県境を超えた貸出に乗り出したため、従来以上の苛烈な地域間金利競争が展開されるようになっており、このままでは地域銀行は消耗、「真に地域企業のためになる金融仲介機能が発揮出来なくなるおそれがある」、ひいては「金融システムの安定性を損なう可能性」があると、警鐘を鳴らす。
参照:金融庁「『地域金融の課題と競争のあり方』平成30年4月11日 金融仲介の改善に向けた検討会議」【URL pdf】https://bit.ly/2CvWCWT
(※30)黒田総裁「金融政策は金融機関のためにやっているわけではない」:
日銀の黒田東彦総裁が、2016年4月28日、金融政策決定会合後の記者会見で発した言葉。
日銀はその日、市場で一部期待が高まっていた追加金融緩和を見送ることを決定。マネタリーベースが年間約80兆円のペースで増加するよう、長期国債、ETF、J-REITといった資産の大量買入を行うことや、同年1月に導入したマイナス0.1%のマイナス金利適用といった、これまでの金融市場調整方針を継続するとともに、2%の物価上昇達成の目標時期をまたもや先送りして「17年度中」とした。
会合後に開かれた記者会見では、マイナス金利によって民間銀行が収益悪化に陥っているにもかかわらず、これを継続することの正当性について質問が集中した。
黒田総裁は、マイナス金利の効果が表れるまである程度時間がかかる、新興国の経済が不安定なために、ポジティブな効果が表れにくくなっているなどと説明しつつ、いまは見守る時期だと主張していたが、度重なる質問に苛立ち、突き放すごとく次のように言い放った。
「金融政策は、金融機関のためにやっているものではなく、日本経済全体のためにやっているわけです。そうした意味で、金融政策について、緩和であろうと引き締めであろうと、金融機関が賛成するか反対するかで、金融政策を決めるということはない(中略)
『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』と『量的・質的金融緩和』は、基本的な経済への波及メカニズムでは違いはありません。基本的にイールドカーブ全体を引き下げて、金融機関から企業や家計への貸出金利を下げることで、実質金利を引き下げて投資を刺激して経済を刺激することであり、基本的な違いはありません。
金融機関への影響の点からみても、(中略)『マクロ加算残高』というゼロ金利の分を四半期毎に調整して、マイナス金利がかかる部分は常に非常に小さくしていますので、マイナス金利自体が金融機関の収益に与える影響は本当に最小限と言って良い(中略)。そうした中で、なぜ『量的・質的金融緩和』の時に反対がなく、今回『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』になって反対が一部ですが出てきたのかは、銀行の方に聞いて頂くしかありません」
参照:
・毎日新聞「日銀 決定会合で追加金融緩和見送り 現状維持に」2016年4月28日【URL】https://bit.ly/2RUYvWR
・日本銀行「総裁記者会見要旨――2016年4月28日(木)午後3時半から約60分」2016年5月2日【URL pdf】https://bit.ly/2CuDc4z
・東洋経済ONLINE「日銀黒田総裁が「追加緩和」を見送った理由――「マイナス金利はいくらでも深堀りできる」」2016年4月28日【URL】https://bit.ly/2QULfwM
(※31)図表「地方銀行の本業での存続可能性」:
先に話題になった図表「地方銀行の本業利益と赤字銀行数」と同様、金融庁「金融仲介の改善に向けた検討会議」2018年4月11日付報告書「地域金融の課題と競争のあり方」で示された図表(p.11、図表22)である。
報告書によれば、企業数および生産年齢人口の激減による資金需要の減少に、超低金利政策が追い打ちをかけて、深刻な本業赤字に陥った地域銀行が、近年「県境を越えた貸出を積極的に増加」。その結果、多くの地域金融機関が「従来以上に県外の金融機関との競争に直面」せざるを得なくなっている。
「一般に複数行での競争が成立するためには、地域から得られる収益がそれらの金融機関の事業に必要な経費の合計を上回っていることが必要」だが、「金融機関ごとにシステムや人件費等の固定費が発生することから、人口減少等により地域からの収益が減少すれば、複数行分の固定費を賄いきれなくなり、複数行での持続的な競争が可能でない地域が生じる。地域からの収益の減少がさらに進めば、1行単独であっても不採算な地域が発生すると想定される」という。
実際、「2016 年3月末のデータを用い、『各都道府県で本業(貸出・手数料ビジネス)の収益が、2行分の営業経費の合計を上回るか』という簡易な競争可能性の試算を行」ったところ、「2行での競争は困難であるが1行単独であれば存続可能な都道府県が13、1行単独であっても不採算な都道府県が23」という結果を得られた、という。
報告書は、そうして当該図表を示しつつ、「こうした中でいかに地域に健全な金融機関が残り、地域の企業や経済の成長・発展を支援できる状況を維持することができるかが金融行政の重要な課題」としている。
参照:金融庁「『地域金融の課題と競争のあり方』平成30年4月11日 金融仲介の改善に向けた検討会議」【URL pdf】https://bit.ly/2CvWCWT
(※32)長崎県における地銀の広域合併:
事業所数や生産年齢人口が全国の減少率を上回る急速なペースで減少している長崎県では、地域銀行が生き残りを賭けて、近隣県の地銀との経営統合を進めてきた。
経営の悪化していた長崎銀行は、2001年10月に福岡シティ銀行が筆頭株主となっていたが、2014年12月に西日本シティ銀行(福岡シティ銀行の後身)の完全子会社となり、2016年10月には西日本フィナンシャルホールディングスの一員となった。さらに最近、十八銀行と親和銀行を傘下に収めるふくおかフィナンシャルグループ(FFG)との経営統合計画が持ち上がり、大きな波紋を呼んでいる。
ふくおかFGは、2007年4月、福岡銀行と熊本ファミリー銀行(現・熊本銀行)が経営統合して設立された持ち株会社。同年10月には九州親和ホールディングス(2002年に親和銀行と九州銀行が経営統合して成立)も傘下に収め、福岡・熊本・長崎の3県にまたがる巨大銀行グループとなった。長らく「北の親和銀行、南の十八銀行」と棲み分けが確立していた長崎県の金融界は、これにより競争が激化。同県最大手の地位を脅かされるようになった十八銀行が、2016年2月、同グループの傘下入りを決断したのである。
この統合が実現すれば、長崎県内における中小企業向け融資シェアは70%以上にも達する。審査は長引き、寡占を懸念する公正取引委員会は、競争環境維持のための措置を講じなければ統合の差止命令を発動すると通告した。
そして2018年8月、両社が市場占有率を引き下げる対策(1000億円弱相当の貸出債権を周辺の金融機関に譲渡するという策。合算シェアは65%に引き下がる)を取ったことを評価し、一転して統合を認めるはこびとなった。
2018年10月30日には、翌年4月1日を効力発生日とする株式交換契約を締結。さらに1年後の2020年4月1日に、十八銀行と親和銀行とが合併する予定である。これに対抗するために、佐賀銀行、宮崎銀行、大分銀行、西日本シティ銀行といった九州のほかの地銀が、さらなる統合・再編へ向けて舵を切ることが予想される。
参照:
・金融庁「『地域金融の課題と競争のあり方』平成30年4月11日 金融仲介の改善に向けた検討会議」【URL pdf】https://bit.ly/2CvWCWT
・河口和幸「九州における地域銀行の経営再編」『崇城大学紀要』第42巻、平成29年3月【URL】https://bit.ly/2W3uJOQ
・Wikipedia「十八銀行」【URL】https://bit.ly/2U0WPs9
・M&A online「地銀の経営統合に道 長崎の銀行がモデルに」2018年8月29日【URL】https://bit.ly/2CuMZru
・東洋経済ONLINE「ふくおかFGと十八銀行の統合で起きること――1000億円の債権譲渡で競争環境は保てるのか」2018年8月31日【URL】https://bit.ly/2Dnc6hB
・日本経済新聞「長崎の2地銀統合 封印された統合差し止め命令」2018年9月4日【URL】https://s.nikkei.com/2ATeQBD
・データ・マックス NETIB-NEWS「ふくおかFG 十八銀行の経営統合が最終合意」2018年10月30日【URL】https://bit.ly/2sCI5UV
2017年4月の日銀『金融レポート』に「こんなことやっていたら金融システムの安定性が損なわれる」との警告が! 日銀は今日の地銀の危機的状況をすでに予見していた!! 一般人にはわからない小難しい表現でアリバイ作りの卑劣!!
田代「では、こんな状況を日本銀行はどうするのか。実は、日本銀行は去年(2017年)の4月19日にレポートを出しておりまして。先ほどの金融庁のレポートのちょうど1年前ですが、その時すでに、こんなすごいことを言っているんです。

▲地方銀行がつぶれそうになったら日銀はどうするのか
『地域金融機関を中心に、預貸(よたい)金収益と役務取引等利益では経費を賄えない金融機関が増加しており、信用コストが何らかのショックで上昇した場合、コア業務純益ではカバーできずに赤字に陥りやすい状況になってきている』(※33)
『預貸金収益』とは銀行の本業のことです。つまり、預金を集めてお金を貸して、その差額で儲けること。この『預貸金収益』と『役務取引等利益』とで、つまり本業では儲けられない金融機関が増加していると。『信用コスト』とは、これも金融用語で金利のことです。『クレジットコスト』とも言います。これが上昇した場合…」
岩上「アウトってことでしょ。うまいこと誤魔化した言い方しますね」
田代「誤魔化しているわけじゃないんです。ただ、専門家同士でそういう精密な言葉を使う分はいいですが、日本銀行はあくまで日本国民の銀行なんですから、レポートする時は、括弧をつけるとかして、何を意味するか書いてあげるべきでしょうね。
それはともかく、金利が『何らかのショックで上昇した場合』というわけですが、真っ先に考えられるのが、日本国債の信認が堕ちるという事態です。それで金利が上昇した時に、『コア業務純益ではカバーできずに赤字に陥りやすい』、つまり、本来の業務のコアの部分の純利益では、完全に赤字状態になってしまうと」
岩上「ちょっと待ってくださいよ、これ、王手飛車取りみたいな状況じゃありませんか? 低金利を続けて、何とか貸し出して、産業を振興しようと思っていた。ところが、需要はなだらかなままでどうにもならない。しかも人口減。つまり、経済の外部状況は悪化している。世界を見回せば、どこも金利を上げている。
そういう流れの中で、日本は切り離されてマイナス金利なんかまだやっていて、しかもそれがいい方向に全く向かっていない。地方銀行はどんどん苦しむだけだと。では、何とか出口を探さなきゃ、ということになるわけですが、出口を探すとはすなわち、結果として、金利が上がるということですよね?」
田代「そうです。結果的に金利が上がっちゃうわけです」
岩上「マイナス金利にしてきたのを通常に戻さなきゃいけない。ということは、金利が上がった途端、『今までやって来たことは一体何だったの?』ということになるわけじゃないですか。こんな超低金利にして、ものすごい異次元緩和をやって、それで、通常に戻しましょうなんてことになったら、みんな倒れていきますよ、バタバタバタバタと。何のためのアベノミクス、何のためのこの5年間だったんだろう、って」
田代「そういうことになりますね。でも、そうは言っても地方銀行は生き残らなくてはいけないから、先ほど話題になったアパート経営のように、もう無理くり、いろんなことをやるわけです」
岩上「それが犯罪を誘発してるんですよ?」
田代「その点については私もすごく危惧していて、すでに2016年ぐらいから、日本銀行の偉い人なんかに『こんな状況ですが、いいんですか?』と言ってきました。『それは注視しています』とのお答えで、それがこのレポートに表れているんです。
地方銀行がリスクを取って、そんなふうに無理に収益を確保しようとしている動きを、『金融システムの安定性が損なわれる』と。本当にその通りですよ。さっきもお話ししたように、すでに銀行が預金通帳の残高を改竄するような状態ですから。日本銀行のおっしゃる通りです」
岩上「でも、表現がまるで他人事じゃないですか?一般ピープルである我々には、危機感が全然伝わらないんですけど」
田代「『本石町(ほんごくちょう)文学』とでも言いましょうか(※34)、彼らとしては、これが最大限の危機感の表明なんです。本当のエリート達だから、彼らの間ではそういう言い方でわかるわけですよ。

▲東京都中央区日本橋本石町にある日銀(Wikimedia Commonsより)
でも、それ以外の人々はといえば、皆さん忙しいわけですから、私のように日本銀行のレポートを赤線引きながら隅から隅まで読むなんて人は少ないですよね。そういう人々には、確かにこれ、さっぱり伝わらないでしょうね」
岩上「そこはやっぱり、こうやってわかりやすく翻訳してもらわないと」
田代「でも、そのためにメディアってあるわけじゃないですか」
岩上「それはそうですが、既存メディアがやらないから、こうやって独立メディアでやるしかないんですけどね。でも、こんなやんごとなき話し方をされても…。これ、2017年のレポートですからね。やっぱり間に合わなかったんですね」
田代「事態はすでにここまで進展しているってことですね。日本銀行はおそらく、さっきのアパート経営の問題とかシェアハウスの問題とか、もっと早くにわかっていたはずです。銀行の動きを常にウォッチしているわけですから。しかも優秀な人たちを各地方の日本銀行の支店に配属して。
彼ら、すごく良いレポート書くんですよ。そういう人々の中から日本銀行の本店のエコノミストが出て、さらに民間金融機関に出て来て…。それはもうすごいエリートばかりですよ。彼らは若い時は支店で、そこの地方の銀行の人たちと毎日のように接触して意見を集めて。アメリカとかイギリスとか先進国に留学して博士号も取るわけです。そういう段階で、彼らはレポートしているはずです」
岩上「ということは、スルガだとか『大東建託の内幕』とか、とっくにわかってなければいけなかったんじゃないですか?」
田代「だから彼らに衝撃なんてまったくなかったんですよ。『そんなのとっくに知っていた』と言います。だからこういう言い方するわけですよ、こんなことやっていたら『金融システムの安定性が損なわれる』と」
岩上「そんな言葉じゃ、僕らにはわからないですよ。日銀はこんなふうにも言っています。
『「金融システムレポートの分析結果は、日本銀行の金融システムの安定確保のための施策立案や、モニタリング・考査等を通じた金融機関への指導・助言に活用している。また、国際的な規制・監督に関する議論にも役立てている。さらに、金融政策運営面でも、マクロ的な金融システムの安定性評価を、中長期的な視点も含めた経済・物価動向のリスク評価を行ううえで重要な要素のひとつとしている』

▲「日銀のため」「マクロは安定」の無責任さ
『マクロは安定』とか、『日銀のため』『日本銀行の金融システムの安定確保』とか、こういう言い方。それから、『マクロ的な』って、マクロはいいけれども、じゃあミクロのレベル、たとえば個々の事業主体はどうなるんだと。
地方の一銀行の盛衰とか、あるいはそこからお金を借りている会社だって、こんなにブラックじゃなかった時代もあったかもしれないんですよ。さらに、そこで働いている個々人はどうなるんだと。一庶民の僕からすれば、あまりに無責任な言い方じゃないかと噛みつきたくなるんですが」
田代「いや、日銀はこんな書き方でちゃんと危惧もしてるし、危機感も示していますよ。『日本銀行の金融システムの安定確保のため』って、『の』が3つも続いて文章としてわかりにくくなっていますが、これは『日本銀行が、日本の金融システムの安定を確保するための』、と読まなければなりません。つまり、別に『日本銀行のため』とは言っていないんです。
日本銀行の責務は、日本の金融システムの安定性を維持する=確保すること。その大事な業務のために、施策や立案を行っていますと。そして、さっきの危機的事態についても『ちゃんと考えています』と言っているんです。
それから、『マクロ的な金融システムの安定性評価』というくだりですが、これも要するに、金融システム全体――もちろんその中には地方銀行も入っています――の安定性評価を、『もうちゃんとしてます』と言っているわけですね。このレポートはそういうふうに読んでくださいということを、本来ならば、メディアがちゃんと解説しないといけません。『の』の3連発でもわかるように、あまり文才のない人の文章であることは確かですが」
岩上「でも、単に文才がなくてこういう書き方になっているのか、それともベタに、『日本銀行の』つまり『自分たちの』安定確保のための施策立案なのか、僕には正直まだ疑念があるんです」
田代「確かに、日本銀行のインサイダーたちが話した言葉をそのまま書くのはいけないですね。日本銀行はあくまで日本国民のためのですから、どの国民にもちゃんと中学校出ていればわかるように言うべきですね」
(※33)日銀の2017年4月レポート「地域金融機関を中心に、預貸金収益と役務取引等利益では経費を賄えない金融機関が増加しており、信用コストが何らかのショックで上昇した場合、コア業務純益ではカバーできずに赤字に陥りやすい状況になってきている」:
日銀は、「わが国金融システムの安定性を評価するとともに、安定確保に向けた課題について金融機関を含む幅広い関係者とのコミュニケーションを深める」ことを目的に、『金融システムレポート』を年2回公表している。
そこでは「国内外の金融市場の動向」や「金融機関(銀行・信用金庫)の金融仲介活動、機関投資家の資金運用動向、家計の金融資産運用動向、金融市場を通じる金融仲介の状況」の確認・点検が行われ、それらの相互連関に留意しながら「金融システム全体のリスクを分析・評価」。結果を「日本銀行の金融システムの安定確保のための施策立案や、モニタリング・考査等を通じた金融機関への指導・助言に活用」するとしている。ここで話題になっているのは、そうした『金融システムレポート』の2017年4月号に表明された、地域金融機関の収益状況およびその安定性に対する日銀の懸念である。
同レポートは、第4章第5節「金融機関収益と金融システムの機能度・安定性」において、2016 年度第3四半期までの決算内容(4~12月期)が「国内預貸利鞘の縮小等による資金利益の減少や役務取引等利益の減少を主因に、大手行、地域銀行とも減益」となっていると報告。
マイナス金利導入の影響に関しても、市場金利連動型貸出のウエイトが比較的高い「大手行の預貸利鞘は、マイナス金利導入後の2016年度上期に大きく縮小したあと、10~12月期は縮小幅が幾分緩やかになっている」が、「地域金融機関では、固定金利貸出のウエイトが高いため、今後も預貸利鞘への低下圧力が継続すると考えられる」とした。そして、このような「収益力への下押しが長引」けば、たとえ今は「充実した資本基盤を備え」「リスクテイクを継続していく力を有してい」ても「損失吸収力の低下から金融仲介機能が低下する可能性もある」とし、次のように地方銀行が陥っている危機的状況に言及している。
「地域金融機関を中心に、預貸金収益と役務取引等利益では経費を賄えない金融機関が増加しており、信用コストが何らかのショックで上昇した場合、コア業務純益ではカバーできずに赤字に陥りやすい状況になってきている(図表 IV-5-4)。こうした状況のもと、地域金融機関の中には、有価証券の益出しで利益水準を維持している先も少なくない。地域における人口減少などの構造問題が、地域金融機関の預貸業務の収益性を長期的に下押しするとみられるが、それを有価証券の益出しによって補い続けていくことにも限界があり、リスクテイク能力がいずれ低下する可能性も考えられる。
一方で、預貸利鞘の低下傾向が続くなかで、金融機関が収益維持の観点から過度なリスクテイクに向かうことになれば、金融システムの安定性が損なわれる可能性があることにも留意が必要である。金融機関同士の競争が過度に進んだ場合には、貸出条件の緩和や貸出量の拡大などリスクテイクの行き過ぎをもたらしたり、貸出採算の悪化等を通じて銀行経営が不安定になるリスクも考えられる。」(p.53-54)
参照:
・日本銀行HP「金融システムレポートとは何ですか?」【URL】https://bit.ly/2SZy8MB
・日本銀行「金融システムレポート 2017年4月」【URL pdf】https://bit.ly/2U2epfG
(※34)本石町文学:
本石町は、東京都中央区、旧日本橋地区にある地名。江戸時代に金座(幕府が金貨の鋳造および鑑定・検印を行った場所)が置かれていた場所で、現在は日本銀行の所在地である。
この本石町・日本銀行から発信される声明や経済・物価情勢の展望レポートは、日銀のエコノミストたちが用いる独特かつ微細なニュアンスの言葉遣いで知られ、エコノミストや市場関係者、記者たちからは「日銀文学」と揶揄されている。
たとえば、景気について「回復に向かいつつある」が「回復に向かっている」に変われば、それは日銀の景気認識の上方修正を表すのだという。同様に、「緩やかな回復を続けている」というフレーズの前に「基調としては」という言葉が付け加わったなら、それは日銀の伝統的語法で「景気判断を慎重化させた」を意味するとのこと。また、「弱めの指標もみられているが、やや長い目でみれば全体として上昇しているとみられる」と「やや長い目でみれば全体として上昇しているとみられるが、このところ弱含んでいる」とでは、単に語順が変わったという問題ではないらしい。
このように、日銀発のテクストからその真意を汲み取るには、文学研究のごとく日銀特有の文法や語法に通じている必要があり、そこから金融市場関係者が皮肉を込めて「日銀文学」と呼ぶのである。日銀に確認しても答えてくれないといい、最近では、黒田総裁の表情から日銀の政策を探り当てるために人工知能(AI)を用いる試みまでなされている。
参照:
・Wikipedia「日本銀行」【URL】https://bit.ly/1LQXcLf
・日経STYLE「日銀のメッセージを読む プロはサイン逃さず」2015年8月1日【URL】https://bit.ly/2MkksJI
・産経ニュース「担当記者さえ解釈に迷う「日銀文学」を読み解く 「基調としては」「弱含んでいる」が意味するものは?」2016年4月23日【URL】https://bit.ly/2HhMhDA
・夕刊フジ zakzak「ETF買い減額示唆? 悩ましい「日銀文学」」2016年10月28日【URL】https://bit.ly/2U3edwx
・ロイター「焦点:世界初、AIで日銀総裁の表情解析 政策予想に応用も」2017年10月20日【URL】https://bit.ly/2yFX8BI
岩田規久男・前日銀副総裁の言葉に見る「リフレ派」の正体〜威勢良く掲げた「2年で2%のインフレ上昇」の目標。これを達することができなかったのは「消費税増税のせいだ、私の政策の選択には誤りはなかった」と、ひたすら責任逃れ
岩上「さらに、日銀副総裁の岩田規久男さん(※35)。黒田総裁の片腕として長く活躍され、今年3月に退任されました。日銀副総裁に就任したのが2013年3月ですから、安倍政権が誕生すると共に、黒田さんと手を携えてこれ(アベノミクス)を支えていった――本当は(政府から)独立してなきゃいけないんですがね――、金融緩和でデフレ脱却を図るリフレ派(※36)の総帥みたいな人ですよね」

▲日銀の金融政策をひたすら正当化する「リフレ派」の岩田規久男・前日銀副総裁
田代「そうですね。この金融政策の一翼を担った人です。日本銀行の意思決定をする政策決定会合(※37)で、総裁と同じ一票を持って。政策決定会合って、実はあれ、一人一票なんですよ。総裁も一票、副総裁も一票、審議委員も一票。つまり、例えば総裁とか、誰か一人の暴走を皆が抑えられるようにしているんです。自分が提案しても、自分以外の全員が反対すれば、それを覆すことはできない」
岩上「民主的投票制で決められるんですね。で、この岩田規久男・前日銀副総裁が、日銀の金融政策をひたすら正当化しているということですが」
田代「はい。最近『週刊エコノミスト』でインタビューに応じてお話しになったんですが、『増税でリフレレジームは壊れた』。つまり、『消費増税が良くなかった』と。『私の政策の選択には誤りはなかった』と(※38)。
日本銀行が2年で2%のインフレ上昇率を達成するために、マネタリーベースを2倍にするということをぶち上げた時、『できなかったらどうするんですか?』という質問に対して、岩田先生は『その時は辞める』とおっしゃいました(※39)。国会でもそうおっしゃいましたし、一橋大学の同窓会館の如水会館に講演にいらっしゃった時もそうおっしゃった。『私は政治家じゃない。学者なんだから』と。私は聞いていて、かっこいいなーと思いましたね。
その岩田先生が、『一番の問題は(中略)財政政策は2014年4月の消費税率引き上げで「緊縮的」になって』、そのせいで『リフレレジームが壊された』というんです。『リフレレジーム』とはすなわち、『リフレーション』、もう一回インフレーションを起こす成長戦略で、『物の値段が下がり続けるデフレをやめて、2%程度の緩やかな物価上昇』を毎年もたらすような政策のこと。それが消費税増税で壊されたんだと。

▲「増税でリフレレジームが壊された」「私の政策選択の誤り」ではないから辞任しなかった
『現在は消費税増税に反対すべきだったと思っている』と。さらには『安倍政権に対して中立を守ったことを悔やんでいる』と(※40)。これは、税金のことは財務省の管轄だから、そこについては日本銀行は何も言わない、という態度を指して、『中立』と言っているわけですね。日本銀行は『中立』の立場なるものを守り、文句は言わなかったというわけです」
岩上「えー!? じゃ、安倍政権の消費増税が間違いだったと、なぜその時に言わなかったんですか?!この先も、2019年10月に8%から10%への増税がすでに予定されてる。これ、法律に書かれてるわけですから、法改正でもしない限りやられてしまうんですよ(※41)。なのに、なぜ今大声で反対しないんですか!? 日銀を離れた今になって、『あの時は中立だったからね、言えなかったんだよね』なんて…。でも、消費税増税が全部悪い、というわけでしょ?これがなければ必ずうまくいっていた、なんて言うんだったら、じゃあ――」
田代「本当にそうですよ。2%のインフレ上昇という目標にしても、2年でできなかったら辞めるとおっしゃったのに、辞めずに任期いっぱいお勤めになったんだから一緒ですよね」
岩上「ということは、リフレレジームはこれからも――」
田代「また破壊されるんでしょ。消費税増税に反対していませんからね。岩田先生の著作を見ると、なんとなくわかるんですが。

▲岩田規久男氏主著リスト
デビュー作は『住宅市場の分析』。上下に分かれていて、その『上』が岩田先生の著作です。最初の単著が『土地と住宅の経済学』」
岩上「意外と土地とか住宅とかにお詳しいんですね」
田代「実は住宅市場の専門家なんです。83年になって、堀内先生と共著で『金融』という教科書を書いておられますが、その後もやはり、88年の『土地改革の基本戦略』とか、『所有優先から利用優先へ』とか。もちろんこれは金融に密接に関わる分野です、住宅ローンとか、いろいろな面で。でも、プロパーのフィールドはあくまで住宅市場です。あるいは土地市場ですね。
ところが、なぜか途中から変わってきて。特に93年の『金融政策の経済学』。ここで日銀の言っていることは正しいのか、という方向になり、決定的には2004年の『昭和恐慌の研究』。これがリフレ派のバイブルになってるんです(※42)」
岩上「これがリフレ派のバイブルですか…… 」
田代「(現日銀副総裁の)若田部先生(※43)や日銀政策委員会審議委員の原田先生(※44)も、執筆メンバーに入っています。この本が転機となって、リフレ派というものがひとつの明確な集団になったんですね。そして、日銀副総裁に就任する前年にお出しになったのが、『日本銀行 デフレの番人』。日本銀行は本来、円の信認の番人なんですが、『いやそうじゃない、あれはデフレの番人だ、日本銀行こそがデフレの張本人だ』という激烈なご本でして(※45)」
岩上「日銀を叩きながら入った人なんですね、前任者の白川(方明・元日銀総裁)さんとか、ああいう人たちを叩きながら入っていったと」
田代「そうです。そのまま結果的に政権に近寄っていったわけですよね。でも、著作を見たらわかるように、岩田先生って本当に日本銀行副総裁をなさるほどの金融の知識がおありなんだろうかと、私は疑問に思わざるを得ません。
住宅や土地に関する金融についてはお詳しいでしょう。でも、日本銀行の総裁・副総裁が対象にするのは、金融システムそのものですよね。たしかに『金融』という本も出していらっしゃいますけれど、これは堀内先生との共著でしょ?本当にちゃんとお勉強なさったのかなと。
返して言えば、岩田先生は本来のご専門ではないことをやる上で、強く言わざるを得なかったのかもしれません。よく言われるじゃないですか、半可通の人ほど極論を言うと。ものを知れば知るほど複雑だから、なかなか極論というのは言えないですね」
(※33)岩田規久男さん:
岩田規久男氏は2013年3月から2018年3月まで日本銀行副総裁を務めた経済学者。専門分野は都市経済学、金融論、経済政策。東京大学の小宮隆太郎教授のもとで金融論・マクロ経済学を学び、同大学院博士課程を修了後、上智大学で、次いで学習院大学で教鞭を執る。
「日銀が通貨供給量を大幅に増やせばデフレから脱却できる」と主張するリフレ派(後註※2参照)経済学者の中心人物として知られ、上智大学教授時代の1990年代前半、「通貨供給量だけでは物価をコントロールできない」とする日銀のエリートエコノミスト・翁邦雄氏と激しい「マネーサプライ論争」を展開した。その後も、大量の資産買入を通じた市場への通貨供給量の増大やゼロ金利政策といった、日銀に非伝統的な金融政策の導入を強固に主張し続け、第二次安倍政権に容れられた。
参照:
・Wikipedia「岩田規久男」【URL】https://bit.ly/2T79een
・nippon.com「日銀副総裁(岩田氏、中曽氏)プロフィール」2013年3月21日【URL】https://bit.ly/2sFpqaT
(※34)リフレ派:
「リフレ」とは「リフレーション(再膨張)」の略。経済学では「デフレーションから脱却してマネーサプライ(通貨供給量)が再膨張し、加速度的なインフレーションになる前の段階にある比較的安定した景気拡大期」(金谷俊秀)を指す。
そして、金融政策を通じてそのような経済状況に誘導すれば、不況から抜け出せると主張する経済学者たちが「リフレ派」と呼ばれ、主な論客に、2013年3月から2018年3月まで日本銀行副総裁を務めた岩田規久男氏(上智大学・学習院大学名誉教授)とその後任の若田部昌澄氏(早稲田大学教授)、経済学者の浜田宏一氏(東京大学・イェール大学名誉教授、内閣官房参与)、エコノミストで日銀政策委員会審議委員の原田泰氏、田中秀臣・上武大学ビジネス情報学部教授らがいる。
政府・中央銀行が年率1〜2%という低い物価上昇率を設定(インフレターゲット)し、そのうえで一定期間のあいだ長期国債を無制限に買い上げて大量の通貨を市中に供給すれば、市場にインフレ期待を抱かせ実質金利が下がる。そうなれば、名目金利が限りなくゼロに近づき、金融政策が無効になった状態でも金融政策を有効化できる、というのが彼らの言い分であり、第二次安倍政権による経済政策の運営方針として採用された。
そうして2013年4月にスタートした黒田・日銀総裁の「異次元金融緩和」だったが、金融政策で市場の「期待」が思い通りに変化するほど、人の気持ちが単純なものであるはずもない。大量に供給された通貨は市場の一部のマネーゲーマーを賑わせただけで実体経済へ還元されず、「2年間での物価上昇率2%」は5年経っても達成されなかった。
それどころか、オーバー・パー(額面を上回る価格)での長期国債の購入によって日銀は巨額の含み損を抱え込むことになり、リフレ派政策の限界が露呈することになった。
参照:
・Wikipedia「リフレーション」【URL】https://bit.ly/2FTHV3m
・知恵蔵「リフレ派」【URL】https://bit.ly/1UV0DJN
・ZUU online「いまさら聞けない!?アベノミクス…リフレ派と反リフレ派の考え方の違いとは!!」2014年3月10日【URL】https://bit.ly/2RbvbHr
・世界経済評論IMPACT「異次元緩和の限界が明らかにした「岩田・翁論争」の勝敗(小黒一正・法政大学教授)」2016年10月24日【URL】https://bit.ly/2Mq6xBN
(※35)日銀・金融政策決定会合:
日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会が持つ会合のひとつ。衆議院および参議院の同意を得て内閣が任命する総裁、副総裁(2名)および審議委員(6名)の9名が年8回開き、金融市場調節方針や基準割引率、基準貸付利率(公定歩合)および預金準備率、金融政策手段、経済・金融情勢に関する基本的見解等を話し合う。
そこでの決定事項は会合終了後に直ちに発表されるが、会議そのものは非公開(議事要旨は約1か月後、議事録は各会合から10年を経過後に公表)。9人の政策委員が1人1票を持ち、多数決で金融政策が決まる。
参照:
・日本銀行「政策委員会とは何ですか?」【URL】https://bit.ly/2Cx8NCI
・日本銀行「金融政策決定会合とは何ですか? いつ開催されるのですか?」【URL】https://bit.ly/2FQ8C8V
・デジタル大辞泉「金融政策決定会合」【URL】https://bit.ly/2HpUTYX
・情報・知識&オピニオン imidas「金融政策決定会合2007年3月26日【URL】https://bit.ly/2FG6Tnp
(※36)岩田氏「消費増税が良くなかった」「私の政策の選択には誤りはなかった」:
2018年3月19日に日本銀行副総裁を任期満了で退任した岩田規久男氏が、『週刊エコノミスト』2018年6月12日記事「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」(【URL】https://bit.ly/2CCMMmj)の中で述べたこと。「2年でインフレ率2%」を掲げ、日銀にとって非伝統的な大規模金融緩和策(「異次元金融緩和」)を黒田総裁とともに推し進めてきた岩田氏であるが、5年を経てなおそれが達成されるどころか、いまだ達成時期すら見通せていないことについて問われ、次のように答えた。
「一番の問題は、日銀の金融政策は完全にリフレのレジーム(枠組み)に転換したのに、財政政策は2014年4月の消費税率引き上げで緊縮的になってしまい、リフレレジームが壊れたことだ。(中略)
最初の1年目は想定通りの展開だった。まず、『リフレレジーム』に転換した日銀による大量の長期国債を中心とする資産買い入れが、株高を引き起こし、為替市場では円安をもたらした。株や外貨建て資産を持っている人に対して、資産効果が働き、消費が大きく伸びたのが1年目の特色だ。我々が重視していた予想インフレ率も順調に上がり、消費者物価(除く生鮮食品)前年比は、13年3月のマイナス0.5%から、14年4月には1.5%まで2ポイントも上がった。遅くとも14年8月には2%に達するスピードで、2年以内に目標を達成できると思った。消費増税について、安倍晋三首相は自民党総裁選に出る前に、『デフレから脱却しない限りやらない』と述べていたので、私はそのつもりでいた。ところが結局実施され、財政政策が需要を圧縮したため、とたんに物価が上がりにくくなってしまった」
要するに、せっかくうまく運びかけていた自分の政策を、消費税増税が台無しにしてしまった、というわけであり、そうした自己正当化の姿勢は次の言葉にもよく表れている。
「理論も、それにもとづいた金融政策も正しかったと思っており、我々が採用した金融政策以外のデフレ脱却の金融政策はないと考えている。理論とそれにもとづく政策の妥当性は、代替案との比較で評価されるべきもので、代替案のない批判は無意味だ。我々の金融政策は理論通りには進んでいるが、既に述べたさまざまな逆風が吹いて、2%の達成に時間がかかっている」
(※37)岩田氏「2年で2%のインフレ上昇率を達成できなければ辞める」:
岩田規久男氏は2013年2月28日、衆参議院運営委員会理事会において、政府から次期日銀副総裁候補として提示された。翌月5日には国会衆議院議院運営委員会で所信聴取に臨む。「2年で2%のインフレ上昇率を達成できなければ辞める」とは、氏がその所信聴取の中で、民主党の津村啓介議員の質問に答え述べたことである。
長引くデフレから脱却するために「今まで以上の量的緩和」を進め、かつ「人々の間に定着してしまったデフレ予想をインフレ予想に転換させ」て2%という「マイルドなインフレ」を起こす。ただし、これはあくまで「つなぎ」であり、「長期的に続けると財政が悪化」するため、「きちっと、2%の目標を中期的に達成する」、日本銀行には「その責任がある」と所信を述べた。
その岩田氏に、津村議員が「これから中央銀行のトップ、副総裁につかれるとなれば(中略)全責任を負って市場の信頼をかち取るということですから、それが達成できなかった場合の責任の所在ということははっきりとさせていかなければいけないと思いますが、それは職を賭すということですか」と質問。くだんの発言は、その答えとして岩田氏の口から飛び出した。
「当然、就任してから最初からの2年でございますが、それを達成できないというのは、やはり責任が自分たちにあるというふうに思いますので、その責任のとり方、一番どれがいいのかはちょっとわかりませんけれども、やはり、最高の責任のとり方は、辞職するということだというふうに認識はしております」
さらに、津村議員が「2年間というのは、2年後の春、つまり、2015年の春の消費者物価の上昇率2%ということを目標とされる。そして、最高の責任のとり方としては、職をかけるということでよろしいですね」と再確認したところ、岩田氏は「それで結構でございます」と認めた。
なお、2018年3月の満期退任直後、『週刊エコノミスト』のインタビューで、「就任時に『2年で2%に達しなかったら辞任する』と国会で答弁しながら、辞任しなかった理由」を問われた岩田氏は、「国会では(中略)『2年で2%に達しなかったら、その理由が何であれ、直ちに辞任する』とは言っていない」「私の発言が珍しがられて、『最高の責任のとり方』という部分を飛ばして、『2年で2%に達しなかったら(達しなかった理由がどうであれ)辞任する』と言った、という報道や批判が絶えないのは、はなはだ遺憾」と答えている。
参照:
・国会会議録検索システム「第183回国会 衆議院 議院運営委員会議録 第12号 平成25年3月5日」【URL pdf】https://bit.ly/2RjlWVp
・ロイター「政府が黒田日銀総裁と岩田・中曽副総裁を正式提示、野党に容認論も」2013年2月28日【URL】https://bit.ly/2HzLxtR
・日本経済新聞「岩田氏、2%目標「遅くとも2年で達成」「責任の取り方は辞職」」2013年3月5日【URL】https://s.nikkei.com/2r7dUEZ
・ブルームバーグ「岩田日銀副総裁候補:2年で達成できなければ辞職-物価目標2%」2013年3月5日【URL】https://bit.ly/2xlvcUk
・『週刊エコノミスト』2018年6月12日記事「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」【URL】https://bit.ly/2CCMMmj
(※38)岩田氏「消費税増税に反対すべきだった」「安倍政権に対して中立を守ったことを悔やんでいる」:
再び、岩田規久男氏が『週刊エコノミスト』2018年6月12日付記事「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」(【URL】https://bit.ly/2CCMMmj)の中で述べたこと。
就任時に国会で「2年で2%に達しなかったら辞任する」と答弁したにもかかわらず、辞任しなかった理由を問われた岩田氏は、「元々、13年3月末で大学を定年退職した後は好きに暮らそうと思っていた」「副総裁に任命されても、なるべく早く、できれば2年より前に目標を実現させて辞めたいと思っていた」などと述べながら、「職に拘泥しておらず、報酬や名誉のために副総裁を務めるわけではな」いことをアピール。
そのうえで、「欧州ではインフレ目標をほぼ2年で達成している」と述べながら、自分の政策およぼ2年の期限設定それ自体が誤っていたわけではないと強調しつつ、「量的質的金融緩和を始めて1年しかたたないうちに実施された消費増税と原油価格の長期にわたる大幅下落の下で、20年間も続いたデフレを2年で終わらせて、インフレ率を2%に引き上げることは、無理な話だ」ったと弁解した。
さらには、「今から思えば、原油価格の下落はどうしようもない外的要因だが、消費増税については、実施前に『2%を安定的に達成する前に、消費増税すれば、2年で2%を達成することは不可能だ』とはっきり言うべきだった」と後悔してみせるとともに、それは「『日銀副総裁は、財政再建の手段に対しては、中立を守るべきだ』との信念から、中立を守った」がゆえであると、あくまで自己正当化に努めるのだった。
(※39)2019年10月に8%から10%へ消費税を増税することが法律で定められている:
消費税率を10%へ引き上げる法律は、野田佳彦政権下の2012年8月に成立している。すなわち、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第68号、「社会保障と税の一体改革法」とも呼ばれる)であり、「社会保障の安定財源の確保及び財政の健全化」を図るため(第1条)、消費税率を二段階で引き上げる――2014(平成26)年4月にそれまでの4%(地方消費税を含めた税率は5%)を6.3%(同8%)に、2015(平成27)年10月にはさらに7.8%(同10%)に――ことが定められた(抜本改革法附則1二(抜本改革法第3条の施行日))。
第一段階目の税率引上げ(5%→8%)は、同法の規定どおり、安倍政権下の2014年4月1日に実施されたが、第二段階目の引上げ(8%→10%)については、安倍政権が2014年11月、経済成長が連続でマイナス成長に落ち込んだ状況を踏まえるとして、2017(平成29)年4月までの延期を表明。2015年通常国会で成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第9号)に盛り込まれた(改正法第18条)。
安倍政権はさらに2016年6月、2017年4月の税率引上げを再度延期する方針を打ち出し、同年11月に成立した税制関連法の中に規定。こうして、消費税率の10%への増税は、2019(平成31)年10月1日からスタートすることになったのである。
なお、安倍政権は2018年10月、今度はそれを予定通り実施する方針を表明している。幼児教育や保育無償化など、社会保障を「全世代型」に転換する財源を確保するため、「増税は不可避」と判断したとのこと。
参照:
・nippon.com「消費税「導入」と「増税」の歴史」2018年10月16日【URL】 https://bit.ly/2MzGmsE
・日本経済新聞「消費増税法が成立 14年4月に8%、15年10月10%」2012年8月10日【URL】https://s.nikkei.com/2UkMt6M
・財務省「平成27年度 消費税法等の改正」【URL pdf】https://bit.ly/2HIGjvY
・ブルームバーグ「安倍首相:消費増税の2年半延期を正式発表-参院選で信問う」2016年6月1日【URL】https://bit.ly/2MC3xCK
・Profession Journal「《速報解説》 消費税率引上げ延期に係る税制関連法が11月28日付け官報号外第261号にて公布、同日施行~10%引上げ及び軽減税率導入は平成31年10月1日へ」2016年11月28日【URL】https://bit.ly/2MzH1dC
・ハフィントンポスト「消費税、2019年10月から10%に引き上げ 安倍首相が表明へ」2018年10月14日【URL】https://bit.ly/2SefovO
(※40)リフレ派のバイブル『昭和恐慌の研究』:
岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』(東洋経済新報社、2004年)のこと。執筆陣は、安達誠司(ドイツ証券会社東京支店経済調査部シニアエコノミスト)、飯田泰之(駒澤大学経済学部専任講師)、岡田靖(学習院大学経済学部特別客員教授)、田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部助教授)、中澤正彦(財務省財務総合政策研究所客員研究員)、中村宗悦(大東文化大学経済学部教授)、野口旭(専修大学経済学部教授)、原田泰(大和総研チーフエコノミスト)、若田部昌澄(早稲田大学政治経済学部助教授)といった、のちに「リフレ派」の論客として知られる面々である(肩書は出版当時)。
「昭和恐慌」(1929年10月から世界を席巻した世界恐慌のあおりを受け、1930年から31年にかけて日本を襲った大不況)について、その経緯を政治面を中心に概観(「序章」)したのち、まずは昭和恐慌を招いた金解禁をめぐりどのような論争が展開されたか(第I部:第1章「国際金本位制の足かせ」、第2章「『失われた13年』の経済政策論争」、第3章「金解禁をめぐる新聞メディアの論調」、第4章「経済問題にかかわる雑誌ジャーナリズムの展開」)、次いで日本がどのように昭和恐慌から脱したか(第II部:第5章「昭和恐慌に見る政策レジームの大転換」、第6章「昭和恐慌と予想インフレ率の推計」、第7章「昭和恐慌期における不良債権問題と金融システムの転換」、第8章「なぜデフレが終わったのか:財政政策か、金融政策か」)を検証。そこから得られる「教訓」をもとに、「平成大停滞期」から脱脚するための具体的提案――「少なからずの人々に『それなら、インフレになるかも知れない』と思わせるようなビッグ・イベントと、それに対する日銀の強固なコミットメント」、すなわち「日銀が1〜3%程度のインフレ目標を設定し、その目標をできるだけ早く達成するための手段として、無制限の長期国債買いオペ」の実施――を行う(「終章」p.287)、という構成になっている。
著者らによれば、「政策当局者や多くのエコノミスト、さらに、メディアの多くも、『デフレは経済停滞をもたらす』という認識がな」い。日銀は大胆な政策を講じることを惜しみ、「『国際的に見て高かった日本の物価が下がることは、生活が豊かになることだ』という『よいデフレ論』」に染まったメディアは、「(世界の最新の研究成果に通じた我々のような)『専門知』に学ばず、あるいは無視し、『世間知』の普及にもっぱら努める」のみ。と、このような論調の言葉が随所に散りばめられており、「『我々の言い分が通じない』と叫ぶ被害者意識が強い集団」の「行間ににじむ日銀主流派、マスメディアへのルサンチマン(恨み)」(日経新聞)と評されたのも無理からぬことであった。
参照:
・岩田規久男編著『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社、2004年
・日本経済新聞「重み増すリフレ派の責任(大機小機)」2018年2月19日【URL】https://s.nikkei.com/2Bswcpb
(※41)若田部先生:
若田部昌澄氏は、1965年神奈川県生まれの経済学者。早稲田大学とカナダ・トロント大学の両大学院で経済学を学んだのち、早稲田大学専任講師、同大学助教授を経て、2005年同大学政治経済学術院教授に就任。経済学史、特にマクロ経済学の歴史を専門分野とし、過去に世界が経験したさまざまな経済危機とマクロ経済政策対応についての研究に取り組む。
2003年ごろから岩田規久男氏らと日本経済におけるデフレと金融政策について研究。彼らとともに、のちにアベノミクスの論理的支柱となる、いわゆる「リフレ派」の論陣を張る。
2018年2月16日、任期満了に伴い日銀副総裁を退任する岩田氏の後任として政府に指名され、翌3月20日、日銀副総裁に就任している。
参照:
・Wikipedia「若田部昌澄」【URL】https://bit.ly/2HTieCE
・日本銀行「副総裁:若田部昌澄(わかたべまさずみ)」【URL】https://bit.ly/2SrDa7P
(※42)原田先生:
原田泰(ゆたか)氏は1950年生まれ。1974年東京大学農学部農業経済学科を卒業、経済企画庁(現・内閣府)に入庁。日本経済を俯瞰し分析、政策提言を行う、いわゆる官庁エコノミストとしてのキャリアを積む。
大和総研チーフエコノミスト(2004年-)、早稲田大学政治経済学術院特任教授(2012年-)を経て、2015年3月より日本銀行政策委員会審議委員(任期は2020年3月まで)。岩田規久男氏らと並ぶリフレ派の論客として知られ、著書も多い。
日銀審議委員就任後は、量的緩和により日本経済は好転しているという認識を示し、物価上昇がいっこうに起こらないことへの批判に対しては、「人手不足が不十分だから賃金が上がらない」と述べ、このまま人手不足がさらに進めば賃金が上がり、したがって物価も上がる、という珍妙な持論を開陳している。
参考
・Wikipedia「原田泰」【URL】https://bit.ly/2UQtjWt
・日本銀行ホームページ 公表資料・広報活動 【挨拶】わが国の経済・物価情勢と金融政策 石川県金融経済懇談会における挨拶要旨 日本銀行政策委員会審議委員 原田泰 2018年7月4日【URL】https://bit.ly/2E1Pwvb
(※43)『日本銀行 デフレの番人』:
2012年6月、日本経済新聞出版社より「日経プレミアシリーズ」(新書版)の一冊として刊行。1990年代後半からの日本経済の停滞がデフレ、すなわち持続的な物価下落に起因するという認識のもと、「デフレの原因は日銀の不適切な金融政策の一点にある」ことを豊富なデータによって「実証」し、あるべき金融政策を提示することでデフレ脱却への処方箋を描いてみせた著作である。
2パーセント前後の「穏やかな」物価上昇を目標とすることを政府と中央銀行とが公式に宣言したうえで、中央銀行がマネタリー・ベース(日銀が市中に供給する資金の総量)を増加させることで投資家や消費者のあいだに「インフレ予想」を醸成する「インフレーション・ターゲティング」を「最適金融政策」と呼び、この政策を実施したニュージーランド、オーストラリア、イギリス等の成功事例を引きながら、「世界標準」に背を向ける日銀の姿勢を厳しく批判。
本書によれば、「予想インフレ率」の上昇にともない、1)円安が進行し、輸出と設備投資は増加し、2)株価が上昇し、それによって設備投資も増加し、3)予想実質金利が低下することによっても設備投資が増加する。その結果、国内総生産は増加し雇用も増大するという、バラ色の未来が力強く鼓吹され、刊行翌年の3月に日銀副総裁に就任した著者の手腕への期待をいやがうえにも高まらせる内容となっている。
だが、岩田氏が黒田総裁の右腕として実行した5年間の施策が功を奏さなかったことが判明している現在あらためて読むと、データの扱い方に素人目にも怪しげに映るところがあったり(「予想インフレ率」を数値化する手法など)、貿易収支をはじめ、経済動向を左右しうるさまざまな要因とは無関係に、金融政策だけですべてを説明できるとする視野狭窄の傾向がみとめられるなど、本書で提示された理論そのものの妥当性が疑わしく思えることはどうにも否定しがたい。
参照:
・岩田規久男『日本銀行 デフレの番人』日経プレミアシリーズ162、2012年
リフレ政策の本質は「人々に『インフレになるのではないか』と思わせること」、つまり「空気」を作ること!! 日本国民は、そんな不確かな賭け事に付き合わされている!!
田代「しかも岩田先生、『大事なのは「インフレになるのではないか」と思わせること』だとおっしゃるんです(※44)。『空気』が大事、と」

▲大事なのは「インフレになるのではないか」と思わせること 雰囲気が大事なリフレ理論
岩上「空気!? 山本七平みたいな話(※45)になってきちゃうな…」
田代「山本七平氏が言ったのは、かつて学徒動員された日本軍の将校として目の当たりにした、『空気』というものがいかに恐ろしいかということですよね。先ほど話題になったミッドウェー海戦のときも、また戦艦大和の最期の海上特攻もそうだったように、どんなに合理的な推論も検証も関係ない、『ええ!? そんな事をプロの軍人がやるのか!?』というようなことをやる。『とても反対できる空気ではなかった』と言われていますでしょ?
そういう『空気』を作ればいいんだと岩田氏は言うんです。リフレレジームで大事なのは、人々に「これからはひょっとしてインフレになるのではないか」と思わせることだ、そうしないと『資産を現金で持っている方が得だと考える行動が変わらない』、と。
デフレーション、つまり物の価格が下がるということは、現金つまり通貨(カレンシー)の価値が上昇するわけですよね。だから『そっちで持ってりゃいいや』となる。これをインフレーションにするために、『キャッシュで持っていたらどんどん損するから、それを他の資産、それも利回りの付いた資産に変えなきゃいけない』という風に思わせようというわけです」

▲左・岩上安身 右・田代秀敏氏(2018年7月1日、IWJ撮影)
岩上「不動産が上がるんだったら不動産を買おう、利子が付くわけじゃないけれど、値段が上がっていくだろうと」
田代「そうです。そういう風に考える。だから皆がデフレマインド、つまり『やっぱりデフレ続くんじゃないかな』と思わないように、2013年4月4日に異次元金融緩和をやったわけですね。
でもあの時、黒田総裁は『戦力の逐次投入はしない』とおっしゃった。それはつまり、第二次大戦の日本軍のようにちまちま戦力を出して結局全滅するなんてことはせずに、一発でドーンと決めようというわけですが、その翌年10月には大規模な追加緩和をなさったんですね」
岩上「あれ?逐次投入しないはずじゃなかった?って話ですよね」
田代「そうです。じゃ、あれ、何の話だったの?と思うんだけれど、もうこうやって制度化なさってるわけですよ。
異次元金融緩和はそもそも最初から問題になっていました。金融緩和で景気回復しようと思ったら、それは生半可な金額の資産買い取りではできないでしょ、と。
ところが日本銀行の元テクノクラートの方々は、『いやいや、人々のマインドが変わり、「これからインフレが起きる」と考えることによって景気が回復するから、そんなにたくさんの金融資産の買い取りなんか必要ない』なんておっしゃったんです」
岩上「つまり雪崩れですね。最初の山の上から小石を投げれば、コロコロ転がるうちち雪玉が大きくなって、怒涛の如く雪崩が起きるんだ、そうに違いない、と(日銀の)皆さんは思い込んだわけですか?」
田代「こんな手法、経済学者としていかがなものか、という話ですよ。
物事にはオーバートovert=明白なことがらとコバートcovert=見えないことがらがありますが、経済学ってあくまで科学でしょう?科学の理論はオーバートなものだけで作るのが一番いいわけです。実際に測定できますからね。でも、それだけでは議論が難しいということで、コバートな理論も作るわけです。物理学でいえば力積とか(※46)。
こういう理論は、あれば議論がスピードアップできるという類いのもので、肝心なのはやっぱりオーバートなもの。こちらに基礎を置かなければ、それはもはや科学ではなく、信念になってしまいます。人々のマインドとか、予測なんてものはオーバートじゃない。
そういうコバートな概念を使っても勿論いいんですが、それは慎重にやるべきです。岩田先生はそんな所に勝負を賭けたわけです、『皆のマインドが変われば』とおっしゃいますが、何をもってマインドが変わったと言えるんですかと。『それは物価が上昇したからだ』と。でも、それって循環論法じゃないですか」
岩上「一撃で2%物価上昇を起こしますとアナウンスして、短期間のうちに現実のインフレが起こったなら、人々は『これ、因果関係があるな』と思い込みますよね。その瞬間、もしかしたら人々のマインドも変わるのかもしれませんが、肝心のインフレがそもそも起きていない。だから、笛吹けども踊らず、緩和すれども動かず。
人間は全部自分で考えるわけではなく、横の人を見るわけです。それが『空気』というものだと思うんですが、横の人が『やっぱり現金でがっちり持っておく』『貯金、これからますます大事になると思うんだ』と言うなら、自分も『ふむ、そうだよな』ってなると思うんですよ。一挙にみんなのマインドをガーンってやって、『預金通帳から現金下ろさなくちゃ』『下ろしてどうする?』『取りあえず何か物を買う』――なんて気になんか、なりませんよねえ」
田代「マインドとか空気とか、そういう目に見えないもの、直接に測定できないものに賭けるなんて、岩田先生は政治家じゃなくて経済学者なんだから、そんなことでいいんですかと言いたいですね」

▲P.A.サミュエルソン『経済分析の基礎 増補版』佐藤隆三訳(勁草書房、1986年)
田代「20世紀最大の経済学者の一人にポール・サミュエルソンという人がいますが、その人が20代の時に書いた『ファンデーションズ・オブ・エコノミック・アナリシス』(経済分析の基礎)という本があります。この中でサミュエルソンは、方法論としてオペレーショナリズム、つまり、実際に手に取って測定できる概念から理論を構築すべきと説いています(※47)。岩田先生はこれに多大な影響を受けているはずですが」
岩上「昔の世代、僕らぐらいの(笑)世代にとって、(サミュエルソンは)経済学の絶対的な教科書でしたもんね」
田代「サミュエルソンからすれば、『俺の本、本当にちゃんと理解したのか?』と言いたくなるでしょうよ。コバートなものを持ち出して議論するのは構わないけれど、それはちゃんとオーバートなものの裏付けがあってのことですか、と。岩田先生はそういう議論を全くせずに言うから、確かに責任の取りようがないですよね」
(※44)岩田氏「大事なのはインフレになると思わせること」:
再び、2018年3月19日に日本銀行副総裁を任期満了で退任した岩田規久男氏の、任期中を振り返る『週刊エコノミスト』インタビュー記事、「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」(2018年6月12日【URL】https://bit.ly/2CCMMmj)からの引用である。
副総裁就任時に威勢良く掲げた「2年でインフレ率2%」の目標を、2年はおろか5年の任期中に達成できず、今なお達成には程遠い状況であることについて、その責を任期中に実施された「消費税増税」に帰した岩田氏。インタビュアーの「消費増税の影響はそんなに大きいのか」との問いに、非正規雇用者や年金世代といった「消費税に最も弱い人たち」が、消費を減らすしかない状況に追い込まれたことを説明したうえで、次のような恨みつらみを口にした。
「リフレレジームで大事なのは、人々に『これからはひょっとしてインフレになるのではないか』と思わせることだ。そうでないと、資産を現金で持っている方が得だと考える行動が変わらない。それを変えるためには、ロケットが成層圏から出る時のような脱出力が必要だ。せっかく金融政策でロケットを打ち上げたのに、財政が急に緊縮したため、ロケットの推進力が大幅に減殺されてしまった」
ここで岩田氏も述べているように、「リフレ政策」の本質は人々のインフレ<期待に期待する>金融政策である。岩田氏は、副総裁就任時の所信表明においても、自分がこれから推進する政策を次のように説明していた。
「金融政策によって、人々の間に定着してしまったデフレ予想をインフレ予想に転換させる。(中略)これを金融政策のレジーム転換といいますが、そのようにして市場がそのことを信頼すると、予想インフレ率が上がってきて、今までのように現金や定期預金、普通預金などで持っている部分、企業までもそうしているんですが、それが、株式への投資を始めるとか外貨への投資を始めるという行動に出てきて、それが株高、円安を招いていくわけです。(中略)そして、金融政策によって市場の期待が変わって株高、円安が起こってくると、株高は企業の増資や内部留保の資本コストを非常に引き下げる効果がありますので、設備投資に積極的になっていく、あるいは、株が上がると消費者も消費をふやしていく、あるいは、円安になると輸出がふえていくというふうにして、だんだんと需要がふえていく(以下略)」
要するに、「人々の『期待』に働き掛けることで間接的に経済活動に影響を及ぼすことを想定」した金融緩和政策なのであり、その影響の「波及経路は必ずしも明確でない」。むしろ「『やってみなければ、結果は誰にも分からない』という意味で、壮大な社会実験(ないしギャンブル)の性質を持つものだった」(早川英男氏)。そして、『やってみたらダメだった』というわけである。
参照:
・国会会議録検索システム「第183回国会 衆議院 議院運営委員会議録 第12号 平成25年3月5日」【URL pdf】https://bit.ly/2RjlWVp
・ZUU Online「いまさら聞けない!?アベノミクス…リフレ派と反リフレ派の考え方の違いとは!!」2014年3月10日【URL】https://bit.ly/2RbvbHr
・富士通総研「「異次元金融緩和」とアベノミクスの行方」2013年6月26日【URL】https://bit.ly/2Dns3D9
(※45)山本七平と「空気」:
山本七平(1921-1991)の著書『「空気」の研究』への言及。同書は1977年に文藝春秋から刊行され、今日も読み継がれているロングセラーである。
2018年12月に出た文春文庫新装版カバー裏の紹介文を引くと、「日本において「空気」はある種の絶対権力を握っている(中略)。著者の指摘から40年。現代の我々は、ますます「場の空気を読む」ことに汲々とし、誰でもないのに誰よりも強いこの妖怪を「忖度」して生きている。いまだに数多くのメディアに引用され論ぜられる名著。これぞ日本人論の原点にして決定版である」とのこと。
砲兵将校(少尉)として太平洋戦争のフィリピン戦に従軍、敗戦後マニラで捕虜となった経歴をもつ著者は、同書の中で(p. 16)、戦艦大和の沖縄戦出撃にあたり海軍の専門家たちが作戦を無謀と断ずる明確な根拠をもちながらこれを敢行した事実を驚きとともに記し、「全般の空気よりして、当時も今日も(大和)の特攻出撃は当然と思う」という当時の司令官(軍令部次長・小沢治三郎中将)の発言を引いている。
参照:山本七平『「空気」の研究』文春文庫、2018年。
(※46)コバートな理論「力積」:
運動する物体にはパワーがある。そして、その物体が有する質量が大きければ大きいほど、また運動の速度が速ければ速いほど、そのパワーは増大する。つまり、このパワーは物体の質量と速度とを掛け合わせた量として表すことができるのであり、これを「運動量」という。
その存在は、日常生活において、例えば動いている物を静止させる時の「止めにくさ」として体感される。そして、実際に物を止めるためにはこれと釣り合う力を加える必要があるわけだが、このように物の「運動量」を変化させる力を「力積(impulse)」と呼び、力にそれが作用した時間をかけたベクトル量として表される(加わる力が時間的に変化するときは、積分によって「力Fのt1からt2までの間の力積」と定義する)。
また、物の「運動量」と釣り合う力であるから、それは運動を変化させる力が加えられる時間内における、物の「運動量」の変化量(物の質量×t2時点の速度 − 物の質量×t1時点の速度)と等しくなる。「力積」は、衝突や打撃といった、測定できないほどの短時間で力が作用する現象を扱う際に、その力の効果を表したりコントロールしたりするのに有用な概念である。
参照:
・Wikipedia「力積」【URL】https://bit.ly/2tlSPHG
・コトバンク「力積」【URL】https://bit.ly/2GtUjbx
・わかりやすい高校物理の部屋「運動量と力積」【URL】https://bit.ly/2TN4db8
(※47)ポール・サミュエルソン『経済分析の基礎』:
ポール・アンソニー・サミュエルソン(1915-2009年)は、アメリカの理論経済学者。第二次世界大戦中からマサチューセッツ工科大学で教鞭を執るかたわら、アメリカ政府の経済関係機関の顧問や評議員として活躍した人物である。
乗数理論と加速度理論を統合して景気循環を説明し、恐慌問題解決の糸口を提示する「サミュエルソン=ヒックスの乗数・加速度モデル」、外国貿易の自由化や関税の賦課が国内の所得分配にどのような影響を及ぼすかを、「ヘクシャー=オリーンの定理」を発展させるかたちで定式化した「ストルパー=サミュエルソンの定理」、ある社会における資源配分の効率性=経済的厚生を測定するための関数「バーグソン‐サミュエルソン型社会厚生関数」の提唱など、現代経済学の発展に寄与する数多くの業績で知られ、1970年にアメリカの経済学者として初となるノーベル経済学賞を受賞している。
ここで話題になっているのは、『経済学』Economics(1948年)とともにサミュエルソンの名著として名高い、『経済分析の基礎』Foundations of Economic Analysis(1947年)である。
1941年に博士論文(ハーバード大学)として著され、1947年に出版されたこの著作において、サミュエルソンは、「いかなる経験的人間行動からも独立な厳密さと正当性をもつべきであるという悪い方法論的先入観」にもとづいた、「虚偽の一般化を含んだ文献」の氾濫する現状を厳しく批判する。
「粗末な心理学を少量取り出し、これに粗末な哲学と倫理をふりかけ、さらに粗末な論理をふんだんに加え」ただけの、「効用を主題とする論文は文字通り何百にものぼ」る。そして、そのような「経済学者は、その少しも実を結ばない結果に対して、自分はやがていつの日にかきっと実りをもたらすような道具を鍛え上げているのだと考えることで、自らをなぐさめ」ているにすぎない、と。
そのうえで、サミュエルソンは「実践的に意味ある諸定理 operationally meaningful theorems」の抽出を提唱する。すなわち、「経済理論は観察不可能な概念によって構成されていても、経済学における命題は検証可能な『意味のある定理』として導出しなければならないという論理実証主義的な考え方」(ブリタニカ国際大百科事典)、オペレーショナリズム(操作主義)の一種にもとづく経済理論の構築を主張したのであり、そのための具体的プロセスとして、「均衡条件はある数量の極大化(極小化)の条件に他ならない」のような「普遍真理などという先験的命題」を退け、むしろ「体系の動学的特性が規定され、さらに体系が「安定的」均衡あるいは運動状態にあるという仮説」=「比較静学と動学の間の対応原理(Correspondence Principle)」に立つことを提案した。
この著作は、「経済学の諸問題を制約条件付き最大化問題として定式化・一般化し,経済問題を数学を用いて解くという手法を定着させた」(同上)ほか、経済分析の方法論の教科書として広く用いられるようになり、多くの経済学者に影響を与えた。
参照:
・P.A.サミュエルソン『経済分析の基礎』佐藤隆三訳、勁草書房、1967年
・ブリタニカ国際大百科事典 小項目辞典の解説「サミュエルソン」【URL】https://bit.ly/2DzkIAA
・ブリタニカ国際大百科事典 小項目辞典の解説「経済分析の基礎」【URL】https://bit.ly/2E7fT2V
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「操作主義」【URL】https://bit.ly/2E6pcjR
日銀は2016年に「イールドカーブ・コントロール」を追加、これを理由に国債の買入額をどんどん減らしている! 度重なる投与ですっかり効果の薄れたドーピング=「量的緩和」をコソコソ手仕舞い!
岩上「岩田さんはさらに、日銀が2016年から導入した『イールドカーブ・コントロール』なるものについてもお話しになっておられますが」

▲イールドカーブ・コントロールの導入
田代「そうなんです。まず『イールドカーブ』とは何かといいますと、たとえば国債とか色々な債券があるじゃないですか、これに付く利回りは、満期までの年数で違いますでしょう?1か月とか3か月といったすごく短いものから、10年国債、20年国債、30年国債、40年国債というふうに長いものまで、それぞれの利回りが出てきますよね。『イールド』とは、その利回りのことなんです。各々の利回りをプロットする(点で結ぶ)と曲線(カーブ)が描かれる(※48)わけですが、それはこの図のように、時期によって違うわけです。

▲イールドカーブの推移
これを見ると、平成18年1月年28日の曲線は、平成28年9月1日にはガバッと下がっていますでしょう?これが1年後の平成29年9月1日になると、また上がっています。こういう風に、曲線を上げたり下げたり、あるいは曲線の形状を変えたりすることを『イールドカーブ・コントロール』と言うんです。要するに、長期金利、短期金利、中期金利といったもののバラツキをうまく操ってみようというもの。
日銀は『長短金利操作』と和訳を付けてますが、これが2016年に導入されたんです。2013年4月に『今までは金利を上げ下げしてきたけれど、それじゃもはやラチがあかない。これからは量でいく』とはっきり宣言していたのに、また金利が大事だと、それも、イールドカーブ全体を動かすと言い始めたんですね(※49)。
岩田先生いわく、日本銀行は、かねてよりこの『イールドカーブがどういう形状であれば需給ギャップを縮めるのに役立つかという研究を進めていた』。つまり、景気を回復させる研究をしていた。で、イールドカーブ全体を沈めれば景気が回復するという見通しのもとで、長期国債を大量に買うようになったんですね。
日銀は元来、短期金利を動かして、その波及効果で間接的に長期金利を動かすという手法をとっていたんですが、もう直に長期金利も変えてしまおう、となったわけです。短期金利を沈めるだけでなく、長期金利も沈めることによってイールドカーブ全体を沈め、人々をリフレマインドへ向かわせようと。
ところが、消費税を増税したせいで、デフレマインドが定着してしまった。そういう『「リフレレジーム」が毀損された状況では、量を拡大した場合よりイールドカーブ・コントロールの方が需給ギャップに対する効果が』つまり景気回復への効果が『大きいというシミュレーションの結論には説得力があった』。だから、またイールドカーブを操作(して、緩い右上がりの曲線=短期金利よりも長期金利が高い曲線に)することにしたと、岩田先生はおっしゃるわけです(※50)。
急に話が変わったな、と。
最初の作戦では、イールドカーブなんてどうでもいいから、とにかくガーっと量を増やすというものだった。そのため、残存満期が3年を超える国債は買わずにきました。たとえば、アメリカ国債などは10年ものを買っていますが、満期まで10年あるものを買ってしまったらそのまま10年間残ってしまいますよね?その影響は絶大なものになる。だから、残存満期3年までのものに限って買うと。
というのは、これは白川元総裁から直に聞いた話ですが、時間が経てばそれは自然に償還されて、現金化する。だから、日銀全体のバランスシートは元に戻るんだと。
しかも、白川総裁は日銀の本来のバランスシートから切り離した買い入れ枠=ファンドを作り、買取はその上限枠までとしていたんです(※51)。あくまで日本銀行に損失が出ないよう、つまり日本銀行の信用が落ちないよう、工夫したわけです」

▲田代秀敏氏(2018年7月1日、IWJ撮影)
岩上「なるほど… 」
田代「なのに、黒田総裁はそれをやめた。つまり、もう日銀の本会計から買っていく、それも残存満期が長いやつでも買っちゃうぞとしたわけですよ。そうやってイールドカーブ全体を沈めてしまった(短期金利も長期金利も下げた)方が絶対効き目がある、とおっしゃったんですが、それは要するに、長期国債の購入を制度化するということ。これをやってしまうと、日本銀行はまさに国債を売れなくなります」
岩上「売れなくなるんですか?」
田代「日本銀行が売る素ぶりを見せただけで、他の銀行はみんな、日本銀行が売るより先に売り抜こうとしますよ。私が銀行のトレーダーだったらそうしますね。みんなが売りに回るなら、日本銀行は買うしかないですよね?ならば、日本銀行は売らずに持っておくしかないじゃないですか。
量的金融緩和とは『とにかくどんどん買う』ということですが、長いものまでどんどん買っていくことを制度化してしまったわけです。これは危険なことです。
たとえば住宅ローンとか、20年とかの長い期間でお金を借りても、金利が低いからとみんな借りるようになれば、これが景気回復をもたらすだろうというんですが、それは地方銀行にとっては地獄の門が開いたに等しい。そんなことをしておいて、日銀はおもむろにイールドカーブ・コントロールの導入を言い出したんですね」
岩上「これは日銀による『ステルス・テーパリング(密かな緩和縮小)』ではないかと言われていますね。『ステルス』とは、『ステルス戦闘機』とか言うぐらいですから、『見えない』という意味ですね?」

▲ステルス・テーパリング(密かな緩和縮小)責任転嫁の理論は明確な岩田氏
田代「そうですね。見えにくい、ということです。『テーパリング』とは、簡単に言えば日本銀行が資産を買い取る、その額を減らしていくということ。あ、売るという話ではありませんよ。イールドカーブ・コントロールの導入で国債買い入れ額が減っている。これは、ステルス・テーパリングに他ならないじゃないか、というわけです。
つまり、実は日本銀行は、黙ってもう出口に向かってるんじゃないかと。それに対して岩田先生は、『結果的に買い入れ額が減って、出口はやりやすくなっている』と答えたんですね。あくまで結果的に、と念を押しながら(※52)。

▲ベン・バーナンキ氏(Wikipediaより)
というのも、バーッと買い進んでる時に、これを減らすのは大変なことなんです。アメリカでもバーナンキが2013年5月に『いずれテーパリングを行う』と言った瞬間に、株価が暴落したわけですよね。そういうことがあるから、『結果として』買い入れが減った、だから出口がやりやすくなったと岩田先生はおっしゃったわけです。
でも、岩田先生はまた同時に、『金融市場はコミュニケーションが難しい』と。そんなこと言われても、あんな海千山千の連中しかいない金融市場で、皆、眉にツバ塗りながら聞いてるわけですよ。なのに、『日銀副総裁になって一番難しいと思ったのは、コミュニケーション、それも民間エコノミストの発言をもとにしたジャーナリズムだ』と(※53)」
岩上「ちょっと待ってください。民間エコノミストの発言をもとにして、『なるほど』と言いながら拡幅して伝えているジャーナリズムって、うちのことじゃないですか(笑)」
田代「どこもそうですよ。日経新聞だってそうです。だって、官庁のエコノミスト、あるいは日銀のエコノミストって、インタビューしても答えてくれないですから。自分が言いたいことがある時しか言いませんからね。でも、民間エコノミストは、そういうことに答えるのが仕事です」
岩上「そうですよね。専門家は分析していかなければ」
田代「みんな、眠い目をこすって午前7時までにレポート仕上げて、マーケットに流して売ってるわけですよ。でも、岩田先生に言わせれば、そこが問題だというわけで、『日銀の政策がどう解釈されて伝わるかで、日銀政策の効果は変わってしまう』と。
つまり、民間エコノミストの解釈の仕方が悪いから効果が出ないんだ、というわけですよ。『私は辞めろ辞めろと言われたけれど、辞めずに頑張っているんです』なんておっしゃいましたけれど、それって要するに、民間エコノミストとジャーナリズムに責任を転嫁させてるわけですよね」
岩上「その通りですね」
田代「民間の解釈も考慮に入れつつ、どのようにメッセージを発信するかがお仕事のはずですよね、日銀総裁・副総裁っていうのは。なのに、 民間はもう日銀が発表した通りの言葉をそのまま貼り付ければいいと。でも難しくてわからないじゃないですか」
岩上「分からないだけじゃなくて、そのまま貼っても『いやー、これはどうかな?』って、やっぱり人は思うものですよ。その、『どうかな?』と思う人の心を動かせなかったら、マインドなんて変えられるわけないじゃないですか、ねえ」
(※48)イールドカーブ:
田代氏も説明するとおり、「イールドカーブ」(利回り曲線)とは、任意の時点における債券の「利回り」について、これが短期(1年以内)、中期(5年前後)、長期(10年)、超長期(20〜50年)といった残存年数ごとにどのように異なるかをグラフ化したもの。横軸に債券の残存年数、縦軸に金利を取り、各々が対応する点を結んだ線グラフである。
「利回り」とは、満期時に受け取る利息の、購入した金額に対する割合のこと。債券は「債券市場」と呼ばれる証券市場において売買されるため、その取引額も、債券を発行する機関や企業=発行体に対する信用リスクに応じて上下する。すなわち、発行体の経営状態が良ければ、そこの債券を買いたい人が増えるために市場で高い値がつくのであるし、逆に経営不安がある発行体の債券は、市場でその債券を売ろうとしても、額面より低い値しかつかない。
そして、利率=満期時に受け取る利息は債券ごとに固定されているため、市場で額面よりも高い金額で購入した債券は、結果的に提示されている利率よりも低い利率で利息を受け取ることになる=「利回り」が低くなるのであり、額面よりも低い金額で債券を購入した場合はその逆ということになる。要するに、国債の市場価格が高くなると利回りは低くなり、価格が安くなると利回りは高くなるのである。
通常、残存年数が長いものほど利回りは高くなるため、イールドカーブは右上がりの曲線となる(「順イールド」)。だが、何らかの要因で長期国債の売りが進む=価格が下がると「利回り」は上昇し、イールドカーブは急な右肩上がりの曲線を描き出す。これは「イールドカーブのスティープ化」と呼ばれ、景気回復の兆しと言われる(メカニズムの一例:人々がこれから景気は回復するとふむ→企業などの設備投資の増大により貨幣に対する需要が高まる→先行き金利の上昇が見込まれる→投資家はいっそうの儲けをあげるために安全性重視の国債を売り、株式などのリスク資産に向かうようになる→長期金利の利回りが上がる)。
逆に景気後退の局面とされるのが、長期国債の利回りが低下することで短期金利との差が縮まり、イールドカーブが平坦な線形となること。すなわち、人々の安全志向が高まるなどして長期国債が買われる局面であり、「イールドカーブのフラット化」と呼ばれる。
このように、イールドカーブの形は市場における国債の微妙な需給バランスを反映して変化するが、量的金融緩和の限界に直面した日銀は、今度はこれを操って=「イールドカーブ・コントロール」してみようという、まことに難易度の高いミッションを、自らに課したのである。
参照:
・Wikipedia「イールドカーブ」【URL】https://bit.ly/2MZfqT6
・iFinance「マーケット用語集>イールドカーブ」【URL】https://bit.ly/2SAtHuY
・株初心者のための株式投資と相場分析方法「長期金利の上昇要因」【URL】https://bit.ly/2WVsptY
・株初心者のための株式投資と相場分析方法「景気と金利と株価の関係」【URL】https://bit.ly/2Id87c6
(※49)日銀による「イールドカーブ・コントロール」導入:
日銀は2016年9月、新たな金融緩和の枠組みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を決定。すなわち、従来の「量的・質的金融緩和」および「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を強化するため、金融市場調節によって長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」を導入するとした。
日銀は、「異次元金融緩和」を掲げる黒田総裁のもと、国債の大量買入を通じて市中へ大量の資金を投入する大規模な金融緩和政策を2013年4月から実施してきた。短期金利の誘導目標を引き下げることで市中への通貨供給量を増やす、従来の緩和手法とは異なり、それは長期国債の買入の拡大――長期国債の買い入れ対象を40年物にまで拡大するとともに、長期国債の保有残高を年50兆円(「黒田バズーカ」第2弾からは年80兆円)のペースで増加させる――を基軸とするため、長期国債の価格は上昇するとともに利回りは低下。
イールドカーブは全体が沈下した「フラット」な形状(短期金利との差が縮まった平坦な曲線)となった。このイールドカーブを、日銀は、金融市場調節によって再び右上がりに立たせる(「スティープ化」させる)というのだ。
具体的には、短期金利についてはマイナス金利を引き続き適用、長期金利は10年もの国債金利が今のマイナス圏からゼロ%程度に上昇するよう、長期国債の買入れを行うという。要するに、金融政策のターゲットを「量」から「金利」に変更するわけである。
長期国債の利回り低下は、住宅ローンなどの長期の借金を行いやすくする反面、銀行や生命保険、年金基金の資金運用などが困難になるという副作用がある。その弊害がすでに地方銀行などで深刻化していることにかんがみての措置と考えられるが、本来市場で形成される長期金利を操作する、それも「上げる」ことは容易いことではないと言われる。その試みは事実上、長期国債の買入を減らすことを通じてなされるだろう(実際、この時を境に、日銀による国債買入れ額は著しく減じた)が、そのことをストレートに表明することはできない。それは「異次元金融緩和」の失敗を認めることと同義であり、市場の大混乱は必至だからだ。「国債買い入れは継続しつつ、マイナス金利も継続しつつ、さらに長期の国債利回りは上げて銀行や年金基金への配慮もします」(阿部重利氏による表現)という日銀の支離滅裂な言い分は、「バズーカ」なるものの、そしてアベノミクスなるものの行き詰まりを告白しているにひとしい。
参照:
・日本銀行「『長短金利付き量的・質的金融緩和』とはどのようなものですか?」【URL】https://bit.ly/1NcPj7n
・MORNINGSTAR NISA徹底解剖「イールドカーブ・コントロールとは?(FPコラム)(阿部重利)」2016年10月7日【URL】https://bit.ly/2ROttMp
・金融情報サイトiFinance「日本経済用語集>黒田バズーカ砲」【URL】https://bit.ly/2thS9mG
・東京新聞「【経済Q&A】利回り なぜ下がる 日銀大量購入で国債価格が上昇」2014年9月3日【URL】https://bit.ly/2WVezYc
(※50)イールドカーブ・コントロール導入に関する岩田氏の弁解:
再び、2018年3月19日に日本銀行副総裁を任期満了で退任した岩田規久男氏の、任期中を振り返る『週刊エコノミスト』インタビュー記事、「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」(2018年6月12日【URL】https://bit.ly/2CCMMmj)からの引用である。
2016年9月、日銀は金融政策の目標を量から金利に切り替えるイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を導入。岩田氏も翌月27日の参院財政金融委員会において、「私の考えも進化してきた」という表現を用いつつ、日銀の転換を擁護している(参照:ロイター「長期金利操作は最も重視、『私の考えも進化』=岩田日銀副総裁」2016年10月27日【URL】https://bit.ly/2WW5e2H)。
インタビューで岩田氏は、この時の「進化」という言葉の真意を問われ、次のように日銀の「変節」を正当化した。
「『リフレレジームへのチェンジ』は人々の物価予想をデフレからインフレに変えようとするものだ。既に、消費増税で『リフレレジーム』は毀損(きそん)されていたから、量を拡大しても、人々の予想インフレ率を引き上げる力はあまり期待できない。量と2%達成への強いコミットメント(約束)だけではなかなか予想インフレ率が上がらないなか、需給ギャップを改善して足元の物価を上げるというように思考が変わった。
日銀のスタッフは、イールドカーブ(長期と短期の利回り曲線)がどういう形状であれば需給ギャップを縮めるのに役に立つかという研究を進めていた。これは世界的に始まっていた研究だ。非伝統的金融政策では短期の政策金利を動かすだけでなく、長期国債を購入することでイールドカーブ全体を下げるからだ。『リフレレジーム』が毀損された状況では、量を拡大した場合よりイールドカーブ・コントロールの方が需給ギャップに対する効果が大きいというシミュレーションの結論には説得力があった」
「日銀内リフレ派と、日銀外リフレ派では情報量に差がある。日銀の外にいるリフレ派がイールドカーブ・コントロールの研究を独自に進めるのは難しい。日銀には研究能力が高いスタッフが大勢いる。世界のトップレベルの論文を読み、さまざまな計量分析の手段を持っている。説得力や信頼性が高い。日銀の執行部が替わって『できるだけ早く2%目標を達成する』ことが最重要課題になったから、そのための研究が盛んになった。その成果がマイナス金利とイールドカーブ・コントロールだ」
(※51)日銀はかつては債券の買入枠を作り、損失が出ないようにしていた:
白川方明総裁時代の2010年10月、日本銀行がデフレーション対策として一連の金融緩和策(包括的金融緩和策)を打ち出した際、その一環として創設された「資産買入等の基金」のこと。
市場に潤沢な資金を供給して景気を下支えすることを目的に、残存期間1~3年までの国債、社債、CP(コマーシャルペーパー)、ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)などの資産を、日銀が買い取るための基金である。日銀が2001年来守ってきた「日銀券ルール」――国の債務である国債を日銀が無制限に引き受けることを抑止するため、長期国債保有額を日銀券発行額の限度内に収めるという、政策上の自主ルール――に配慮した、あくまで「デフレ脱却のための例外措置」という位置付けの制度であり、既存の「固定金利方式の共通担保資金供給オペレーション」を含めた残高35兆円からスタート。
翌2012年末には65兆円へ拡大し、以後は111兆円程度まで慎重に増加させていく見込みであった。だが、2013年3月に日銀総裁に就任した黒田東彦氏は、「量的・質的金融緩和」政策の導入とともに、白川日銀の「資産買入等の基金」を廃止。金融緩和を一段と強力に推進するため、長期国債の買入れも金融市場の調節に使う「通常の国債購入枠と一本化させ、日銀のバランスシート上に明示することにしたのである。参照:
・野村證券「証券用語解説集 資産買い入れ基金(しさんかいいれききん)」【URL】https://bit.ly/2SFq4Ux
・情報・知識&オピニオン imidas「時事用語事典 包括緩和政策」2011年2月【URL】https://bit.ly/2N19MzU
・日本大百科全書(ニッポニカ)の解説「白川方明」【URL】https://bit.ly/2GlkWiH
・北尾吉孝日記「日銀のバランスシートと『資産買入等の基金』を考える」2012年8月21日【URL】https://bit.ly/2E2OE9E
・野村證券「証券用語解説集 日銀券ルール(にちぎんけんるーる)」【URL】https://bit.ly/2WQEaSe
・日本銀行「資産買入等の基金(2013年4月4日をもって廃止)」【URL】https://bit.ly/2SGpUvX
(※52)岩田氏「結果的に買い入れ額が減って、出口はやりやすくなっている」:
再び、2018年3月19日に日本銀行副総裁を任期満了で退任した岩田規久男氏の、任期中を振り返る『週刊エコノミスト』インタビュー記事、「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」(2018年6月12日【URL】https://bit.ly/2CCMMmj)からの引用である。
金融緩和政策の出口について問われた岩田氏は、それは「2%の物価上昇」の目標を達してから、それも「安定的に」達成してからだと答えつつ、「異次元金融緩和」のさらなる継続を強調(「出口は2%を安定的に達成してからだ。(中略)予想インフレ率が2%で安定した段階で金利を緩やかに上げていくのが、出口だ」)。その上で、2016年9月の「イールドカーブ・コントロール」の導入は事実上の出口戦略=ステルス・テーパリング(ひそかな緩和縮小)ではないかとの指摘があることについて、「そう〔ステルス・テーパリング〕ではない。ただ、結果的に買い入れ額が減って、出口はやりやすくなっている」とした。要するに、国債買入れの減少はあくまでも「結果的に」そうなっただけであり、緩和縮小を意図してのことではないと弁解したのである。
(※53)岩田氏のジャーナリズム批判:
引き続き、『週刊エコノミスト』による岩田規久男・前日銀副総裁へのインタビュー記事「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」(2018年6月12日【URL】https://bit.ly/2CCMMmj)からの引用。
日銀がそれを名目に国債買入れを大きく減らしている、2016年9月導入の「イールドカーブ・コントロール」について、これが事実上の出口戦略=ステルス・テーパリング(ひそかな緩和縮小)ではないかとの憶測を否定した岩田氏は、続けて次のようにコメントしながらメディアに苦言を呈した。
「米国の出口でも、バーナンキ元FRB(米連邦準備制度理事会)議長がちょっとテーパリングに言及しただけで、国際金融市場が大混乱に陥った。それほど金融市場はコミュニケーションが難しい。
私が日銀副総裁になって一番難しいと思ったのは、コミュニケーション、それも民間エコノミストの発言を基にしたジャーナリズムだ。日銀の政策がどう解釈されて伝わるかで効果が変わってしまう」
要するに、自分たちの政策を正しく理解しない民間エコノミストと、それを鵜呑みにするメディアが、「正しい」政策を遂行している自分たちの足を引っ張って迷惑している、というわけである。リフレ派は、マニフェストであり「経典」とも言われる『昭和恐慌の研究』(岩田規久男編著、東洋経済新報社、2004年)においてすでに、彼らの学識に基づく見解=「専門知」を理解せずに誤った情報・見解=「世間知」を形成するメディア、という構図を作り上げ、激越な口調で当時の日銀とメディアに対する批判を展開しているが、そうした「マスメディアへのルサンチマン」はここでも健在である。
金融政策とは関係ない理由で改善された、国内総生産、失業率、新卒の就職状況などの指標を、「異次元金融緩和」の手柄のように喧伝! 一方、金融政策が本来改善すべき、国民の実質賃金や実質消費は大幅ダウン!!
岩上「それでいて岩田さん、手柄はすべて自論の異次元緩和に」

▲手柄はすべて自論の異次元緩和へ リフレ派の岩田氏の自論
田代「そうです。『理論も、それにもとづいた金融政策も正しかった』とおっしゃっていますし」
岩上「すごいですよね。5年経って結果出てるのに、『正しかった』だなんて。だって、目標に掲げていた2%の物価上昇、起こってないじゃないですか」
田代「でもほら、『我々が採用した金融政策以外のデフレ脱却の金融政策はないと考えている』という言い方。例の、日本人が陥りやすい考え方ですよ、『この道しかない』と。そして、『理論とそれにもとづく政策の妥当性は、代替案との比較で評価されるべき』だと(※54)」

▲自民党衆院選2014「景気回復、この道しかない」(自民党ホームページより)
岩上「何かもう、与党が野党に対して言う言い草と同じですね。『代替案を出してみろ』ってね。いやいや、代替案、いっぱいあるだろうよって話ですよ」
田代「そんなこと言われても、日本銀行は膨大な数の研究員も抱えていますし、さっきも申しましたように各地に支店を設けて、各地方の経済の状況を非常によく調べてるわけです。そんな日本銀行と同じレベルで、民間が政策の提起なんてできないですよ。でも批判はできる。それでみんな、『これはおかしいんじゃないですか?』と言うんですが、それは聞く耳がないとおっしゃる」
岩上「批判も聞いた上で、自分達で咀嚼してやっていただかないとね」
田代「岩田先生はさらに、『国内総生産、実質雇用者報酬、失業率、有効求人倍率、正規社員有効求人倍率、新卒の就職状況、経済的理由による自殺数の大幅減少など、どの指標をとっても、20年間も続いたデフレ期と比べれば、この5年間で大きく改善している』とおっしゃいます(※55)が、本当にそうかな?と。
まず驚いたのは、『20年間』とおっしゃったこと。ということは、金融緩和は2013年から始めたわけですから、岩田先生のお話ではデフレ期は1992年から始まったことになっているわけですよね」
岩上「そういうことになっちゃいますね」
田代「ということは、自民党なんかは小泉純一郎内閣の時に景気が回復したと言っていますが、あれは嘘だったんだね、と。『いざなぎ越え』とか喧伝されました(※56)が、でも、そんなもの、なかったってことですね」
岩上「そういうことですね」
田代「これは学者ならではの発言で、自民党の人だったらなかなか言えることではありません。まずはこの点がひとつ、面白いなと。
もうひとつは、指標をつまみ食いしたような感じがするわけです。つまり、実質賃金も実質消費も、その『20年間』よりも、この5年間で大きく下がったこと(※57)はどうお考えになるのかと。その点については、全くお話しになっていない」
岩上「おかしいですよね。岩田さんはここでいくつかの上がった数字を持ち出して、『ほら、自分らの政策のおかげで上がっただろう?』と言いたいんでしょうけども、国内総生産に至っては統計の粉飾の疑いすらあるし」
田代「というか、基準を変えたんですから、そもそも昔とは同じように比較できないはずでしょう(※58)。昔と比較するのであれば、会計も国民総生産も、今の計算法で過去のデータを計算し直して評価するか、あるいはその逆でやらなければ。それをなさらずに比較するのは、経済学者としてはあまりにナイーブ過ぎると言わざるを得ませんね。

▲西鉄バスの車両(Wikipediaより)
特に有効求人倍率について、これが上がってるのは当然ですよ、絶望的な人手不足ですから。私の故郷の福岡市でも、西鉄(西日本鉄道)がバス運行しているんですが、都心部を通る一番収益の高い路線の本数を減らしてしまったんですよ。運転手さんが足りないからです。
もう休日出勤とか残業で補うしかない状況で、いずれ事故が起きるんじゃないかと危ぶまれた。それで泣く泣く一番儲かってる路線の本数減らしたと。それから深夜バスも。あれは3倍とか値段を取るでしょ、すごく儲かるんですが、それもなくしてしまった」
岩上「若い人がいないから、こんなことになるんですよね」
田代「そうなんです。新しく入って来る運転手がいないからです」
岩上「うんとベテランの年寄りしかいないから――」
田代「そういう人たちには無理はかけられない。こんな状況では、そりゃ有効求人倍率はどんどん上がりますよ」

▲厚労省「日本の将来推計人口(平成29年推計)の概要」
岩上「これは人口動態がもたらしたものですよね。それをいかにも自分の経済政策の手柄みたいに… 単に若年人口が減っているだけの話で、みんな就職できる状況。逆に言えば人手が不足しているという話にすぎない。そんなことで威張るんじゃないよ!と言いたいですね」
田代「こんなナイーブな議論、経済学の入門レベルでも『え!?』と思うようなことを、日本銀行副総裁を務めた先生がおっしゃってもいいのだろうかと、非常に疑問です」
岩上「正社員有効求人倍率と新卒の就業状況は確かにどちらも改善されていますが、それは異次元金融緩和の手柄ではないことは、このグラフからも明らかですよね(※59」

▲「正社員有効求人倍率/新卒の就業状況」

▲「有効求人倍率・有効求人数・有効求職者数/完全失業率」
田代「多くの指標が2008年でガーンと落ち込んでいますよね」
岩上「リーマンショックのときですね」
田代「改善されたというのは、そこからの回復過程でずっと起きていることなんです。つまり民主党政権の時も同じ動きがあったということ」
岩上「そうですね。自民党は『民主党の時はひどかった』とか『あれよりはずっとましだ』とか言いますけれど、いやいやいや、回復はその頃から続いているんですと」
田代「日本の人口動態の変動は、別に政権交代に関係なく起きていますから。就職率についても、2008年9月15日にリーマン・ブラザーズがバンザイした、そのリバウンドが生じたのは民主党政権の時です。そのトレンドがまだ続いている、というだけの話なんですよ。別に安倍政権になってからではない。だから、この政権の手柄とは言えません。ま、せいぜい言えるとすれば、民主党政権時代に起きたこのモーメントを、壊さなかったことでしょうね。
ちゃんと『民主党政権の作ったレガシーを守った』と言うのであれば、私も『ああ、その通りだな』と思うけれど、『これがアベノミクスの成果だ』なんて言うんですから、それはびっくりしますよね」
岩上「よくもまあ、他人の手柄をそんだけ誇れるな、と」
田代「会社にいますよね、そういう人(笑)。失敗は全部部下の責任でね、手柄は全部俺の評価だ、と。要するに、民主党政権時に始まった、世界金融危機における落ち込みからのリバウンドが、まだ続いてるということです。そこへ、今度は人口動態の変化が重なったので、とりわけ有効求人倍率に関してはブーストしたわけですね。
有効求職者数、つまり職を求めている人は、全体として減っているんです。生産年齢人口がどんどん減ってるわけですから、それは当然です。そうやって母数が減っているのに、求人票はこれまでと同じ数だけ出ているとすれば、それは有効求人倍率は上がるに決まってるじゃないですか。
問題は、働き手、つまり働いて所得を得る人が減るということは、消費が減るということ。消費が減る以上、企業は、果たして日本で営業していていいのだろうか?ってなりますよね?つまり、大企業は海外に血道を上げることになるんです」
岩上「内部留保を溜め込んで、で、海外の人達を雇用して、それで日本には何も落とさなくなると」
田代「それはちょっと極論でしょうが、少なくとも、日本では雇用しようにも雇用できませんからね… 完全失業率にしても、2008年の9月15日のリーマン・ブラザーズの倒産からの回復過程が、民主党政権の頃から始まっています」
岩上「言い換えるなら、2009年の政権交代で始まった民主党政権は、リーマンショックと2011年の東日本大震災・福島第一原発事故という、二つの世界的危機に当たってしまった。それをどうにか持ちこたえて回復させてきたんだなと。それを、あたかも全部自分がやったかのように言うとは、それはいかがなものかと思いますね」
田代「政治家が言うなら、まあ仕方がないかとも思いますが、岩田先生は『私は学者だ』とおっしゃった。私は覚えてますよ、2013年に如水会館にいらして、メディアを締め出すという前提でそうお話しになりました。私はメディアの人間じゃないから、ここで言わせていただきますが、その時はっきりと、『うまくいかなければ辞めます』と。『いやー、立派だなぁ』と、皆が感心しましたよ。でもお辞めにならなかった。残念です」
(※54)岩田氏「理論も、それにもとづいた金融政策も正しかった」「我々が採用した金融政策以外のデフレ脱却の金融政策はないと考えている」:
引き続き、『週刊エコノミスト』による岩田規久男・前日銀副総裁へのインタビュー記事「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」(2018年6月12日【URL】https://bit.ly/2CCMMmj)からの引用である。
先にも話題になったとおり、「就任時に『2年で2%に達しなかったら辞任する』と国会で答弁しながら、辞任しなかった理由」をインタビュアーに問われ、自分の進めた政策は正しかった、掲げた期間内に目標を達することができなかったのは消費税増税のせいだと言い切った岩田氏。ここで引かれているのは、インタビュアーに「理論が間違ってはいなかったから、辞任しなかった」という認識でよいかと念を押された岩田氏が、改めて自己正当化する次のくだりである。
「理論も、それにもとづいた金融政策も正しかったと思っており、我々が採用した金融政策以外のデフレ脱却の金融政策はないと考えている。理論とそれにもとづく政策の妥当性は、代替案との比較で評価されるべきもので、代替案のない批判は無意味だ。我々の金融政策は理論通りには進んでいるが、既に述べたさまざまな逆風が吹いて、2%の達成に時間がかかっている」
「代案も出さずに批判するな」という言い方にせよ、また、先に話題になった一方的なメディア批判にせよ、ネット上で安倍政権擁護を展開する例の人々――いわゆる「ネトウヨ」の諸兄――を彷彿させる点も興味深い。じっさい、岩田氏はインタビューの終わりに、「唯一の理解者」安倍首相を次のように褒め称えている。
「私は学者として本や論文を書いて世間に訴えることで日銀の政策を変えようとしてきた。だが、副総裁に就任する2年ほど前には、それでは全然効果がないと思うようになった。日銀の正副総裁や審議委員を選ぶのは首相で、国会で人事が承認されなければならない。国会議員に働きかけるのが早道だと気づいた。
11年3月の東日本大震災の後、旧知の山本幸三衆院議員(自民党)が「増税によらない復興財源を求める会」を立ち上げ、会長に安倍晋三氏(現首相)が就任した。会合に呼ばれて持論を話すと、安倍氏が「(第1次)政権に就いていた時に知っていればよかった」と言ったことを覚えている。その後、他の有力な政治家たちにも話をする機会はあったが、ピンときたのは安倍氏だけだった。
リフレ政策にただ一人、理解を示した政治家が12年9月に自民党総裁になり、さらに衆院が解散し、12年12月には首相の座に就いた。ちょうど13年3~4月は日銀正副総裁3人が任期満了を迎えるタイミングだった。これは、まぐれのようなものだった。世の中何が起こるか分からないと本当に思った」
(※55)岩田氏「どの指標をとっても、20年間も続いたデフレ期と比べれば、この5年間で大きく改善している」:
引き続き、『週刊エコノミスト』による岩田規久男・前日銀副総裁へのインタビュー記事「『リフレ理論も政策も正しい、だが逆風で時間がかかる』=岩田規久男[出口の迷路]金融政策を問う(34)」(2018年6月12日【URL】https://bit.ly/2CCMMmj)からの引用。
副総裁就任時の所信表明において、「2年で2%の物価上昇」の目標を達成せぬ場合は職を辞すると言い切ったにもかかわらず、辞任しなかった理由を問われた岩田氏は、「自分の掲げる理論も政策も正しかった。目標を達することができなかったのは消費税増税のせい。代案も出さずに批判するな」といった趣旨のことを述べた。ここで取り上げられているのは、それに続くくだり。「アベノミクス」下で達成された種々の「功績」を列挙しながら、「2%の物価上昇」を達成できなかったことだけで自分が批判される筋合いはないと開き直る。
「国内総生産、実質雇用者報酬、失業率、有効求人倍率、正規社員有効求人倍率、新卒の就職状況、経済的理由による自殺者数の大幅減少など、どの指標をとっても、20年間も続いたデフレ期と比べれば、この5年間で大きく改善している。2%を達成しないことだけをもって、量的質的金融緩和やイールドカーブ・コントロール政策は失敗だと主張するのは妥当ではない。そもそも、2%の物価安定を目標にしているのは、これらの経済指標を改善するためであるから、我々が採用した金融政策は効果的だったといえる。
今は、現状の金融政策が最適だと思っている。今後、大きなショックが起こればまた違ってくるし、増税も急いではいけないが、金融政策が「リフレレジーム」を維持し続ければ、時間はかかるが、インフレ率が2%に近づいていくことは間違いがない」
(※56)「いざなぎ越え」:
経済活動には波があり、景気拡張と景気後退を周期的に繰り返すと考えられている。このサイクルは景気循環と呼ばれ、好況と不況それぞれのピーク(「山」と「谷」)は、現在は内閣府が、さまざまな統計にもとづき毎月発表する景気動向指数をもとに判断している。
「いざなぎ景気」とは、1965年10月から70年7月の、57か月にわたる景気拡張期間を指す(景気拡張期に日本神話にちなんだ呼び名が与えられるのは、1955〜57年の31か月連続での景気拡張を「神武以来の好景気」という意味合いで「神武景気」と称したことに始まる。これを上回る、58年6月〜61年12月の42か月連続の景気拡張期は、「岩戸景気」と呼ばれた)。
2006年11月、2002年1月から始まった景気拡張期が連続58か月に達し、戦後最長となることから、「いざなぎ超え」の文字がメディアを賑わした(この景気拡張期は最終的に2008年2月まで73か月続き、「いざなみ景気」と呼ばれることもある)。
ただし戦後最長の景気「拡張」といっても、あくまで景気が谷から山へと上昇する局面の時間的な長さのみの話で、「いざなぎ景気」が年率10パーセント以上ものGNP(国民総生産)増大を伴ったのに対し、2000年代の拡張期(「小泉改革」の時期に重なる)は、賃金は上がらず個人消費も伸びず、非正規雇用が増加し格差社会化が進行するなど、生活者が好景気を実感するにはほど遠いものがあった。
なお、このインタビュー後の2018年12月、内閣府・景気動向指数研究会(座長・吉川洋立正大教授)が、17年9月時点での「いざなぎ超え」を正式認定したと報じられている。12年12月、すなわち第2次安倍政権が発足し日銀が異次元緩和を始めた時期から、景気はずっと上向いてきたという判断が、アベノミクスの失敗が誰の目にも明らかであるこの時期に、専門家たちによって示されたわけである。いまや、「景気」という経済学上の概念そのものの存在意義が、政治的に中立かどうか、疑問に付されている状況であるといえよう。
参照:
・All About ビジネス・学習 社会ニュース/よくわかる経済「いざなぎ超えとは?いざなぎ景気って?」(石原敬子、2006年10月20日)【URL】https://bit.ly/2BwTaLR
・All About ビジネス・学習 社会ニュース/よくわかる経済「いざなぎ超え、実感が湧かないのはなぜ?」(石原敬子、2006年10月22日)【URL】https://bit.ly/2Gp2Gox
・Wikipedia「第14循環」【URL】https://bit.ly/2UVMkqB
・日本経済新聞「景気回復『いざなぎ』超え、正式認定 戦後2番目の長さ」(2018/12/13)【URL】https://s.nikkei.com/2TkEIxA
(※57)実質賃金も実質消費もこの5年間で大きくダウン:
アベノミクスの失敗を豊富なデータとともに世に分かりやすく示した、明石順平弁護士の『アベノミクスによろしく』(集英社インターナショナル新書、2017年)によれば、2013年度まで順調に伸び続けていた実質民間最終消費支出は、アベノミクス開始翌年の2014年度、前年度から9.0兆円、下落率にして2.9%の大幅な落ち込みをマーク。2015年度も連続の下落となった(前年度から-0.4兆円、下落率0.1%。図3-1「実質民間最終消費支出の推移を表すグラフ」内閣府HP「国民経済計算(GDP統計)」)。
元来力強い日本の実質消費がこのように2年度連続で下がることは、「政府の公表しているデータで見る限り戦後最初の現象」であるといい、しかもその下落率は2008年のリーマンショックの時よりも大きい(前年度から-6.0兆円、下落率2.0%)。
消費を落ち込ませるものといえば、何をおいても収入(賃金)の減少である。じっさい、物価を考慮して導き出される「実質賃金指数」(受け取った賃金の額面である「名目賃金」の指数を、物価の動きの指標となる「消費者物価指数」で割ったもの)は、2010年度を「100」とすると2012年度「99.1」→2013年度「97.8」→2014年度「94.9」→2015年度「94.8」と、アベノミクスを機にみるみる下落(図3-7「実質賃金の推移」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。
とりわけ、2014年度のマイナス2.9ポイントという数字は、過去22年度で最大の落ち幅であり、アベノミクス開始以降の3年度を合計すると4.3ポイントの下落、2015年度の実質賃金は過去22年度で最低となった。
つまり、賃金はほとんど上がらないのに物価だけがどんどん上がっているのが現状なのである。事実、2010年度を100とした「名目賃金指数」は2012年度の98.7ポイントから2015年度の99.2ポイントへ微増。一方、「消費者物価指数」は、同じく2010年度を100として、2013年度の100.7ポイント→2014年度の104.3ポイント→2015年度の104.6ポイントと急上昇している(図3-8および図3-10)。これでは、人々が消費を控えるのは当然至極である。リフレ派は「物価が上昇すれば賃金も上がり景気も良くなる」という前提で安倍政権とともにアベノミクスを押し進めてきたが、肝心の賃金が上がらなければ、前提から崩れる。アベノミクスは経済政策として誤りであることが、ここに証明されているのである。
参照:
・明石順平『アベノミクスによろしく』、第3章「国内実質消費は戦後最悪の下落率を記録」、集英社インターナショナル新書、2017年10月
・IWJ「「アベノミクスの成果」に隠された驚くべき「かさ上げ」トリックを暴く! このままいくと日本経済は破綻!? ~岩上安身による弁護士『アベノミクスによろしく』著者・明石順平氏インタビュー 2017.12.14」【URL】https://bit.ly/2E8xg3k
(※58)国内総生産は基準を変えて統計を粉飾した疑いすら… :
GDP(国内総生産)は、ある期間中に国内で生み出された商品やサービスの付加価値の総計のことであり、国の経済活動の規模や状況を総合的に表す指標として用いられる。
このGDPについて、安倍政権は、「この5年間で名目GDPが50兆円増加の541兆円」(2017年10月の衆議院総選挙に際して)、「名目GDPが過去最高の551兆円、第二次安倍政権発足時から60兆円、12.2%の伸び率を記録」(2018年9月の自民党総裁選における安倍首相のアピール)、「平成31年度の名目GDPは金額ベースで566兆1千億円、過去最高を4年連続で更新する見込み」(2018年12月18日に自民党が発表した、平成31年度の経済状況の見通し)、「この6年間に、日本のGDPは10.9%伸びた」(2019年1月22〜25日におこなわれたダボス会議における、安倍首相の基調講演)などと言いつつ、アベノミクスの成果を内外に喧伝してきた。
一方で、こうした「成果」が、2016年12月に行われたGDP算出方法の変更による「かさ上げ」の結果に他ならないとは、『アベノミクスによろしく』の明石順平弁護士を始め、多くの識者が指摘してきたことである。
2016年12月8日、内閣府はGDPの算出方法を変更し、それに伴い1994年以降のGDPをすべて改定して公表した。改定の概略は次の通りである。
(1)最新の「平成23年産業関連表」を取り込み、デフレーター=100とする基準年を現行の平成17(2005)年から平成23(2011)年に変更
(2)加えて、国際連合で加盟国合意の下採択された国民経済計算の最新の国際基準である「2008SNA」(研究・開発(R&D))の資本化等)に対応
(3)また、各種の概念・定義の変更や推計手法の開発等も実施
(4)平成6(1994)年に遡って20年超の系列を再推計・公表
要するに、物価変動を考慮するための基準年を平成17年から平成23年に変更するとともに、準拠する国際的算出法を、従来の「1993SNA」基準に代わり、最新の「2008SNA」基準――これまで「経費」としてGDP算出に考慮されていなかった研究開発費などが「投資」として加算される――に変更。さらに、建設投資の金額を推計するために用いていたデータを入れ替えるなどして導き出された「その他」の金額も加えて、1994年からのGDPの値を書き換えるというのである。
これによって、1994年以来のGDP値は、これまで発表された数値よりも各々約10〜30兆円多くなった。そして、とりわけ大きなかさ上げが行われたのが、アベノミクス以後の3年間分だった(『アベノミクスによろしく』図4-1)。
明石弁護士によれば、新基準によるかさ上げ(研究開発投資費の加算)額は、1994年から2012年までの平均18.2兆円に対し、2013年は21.0兆円、2014年は23.0兆円、2015年度は24.1兆円と、アベノミクス以降の年度に急増(図3-5)している。
「その他」によるかさ上げは、さらに露骨である。1994〜99年度における「その他」のかさ上げ額は、平均でマイナス3.8兆円、2000〜12年度もマイナス0.7兆円だが、アベノミクス開始年の2013年度はプラス4兆円、2014年度5.3兆円。2015年度に至っては7.5兆円ものかさ上げが行われている(図4-7)。
「その他」の内訳は明らかにされていないといい、つまりは「国際基準とは関係ない部分の上げ幅が、安倍政権の時期だけ突出して大きく、都合よくデータを選んでいることが疑われる」(明石氏)のである。
このような不透明なGDPかさ上げ(明石氏はこれを「ソノタノミクス」と呼んでいる)を通じ、安倍政権はいまなお、2016年度以降の「GDP史上最高額連続更新」を喧伝し続けている。
参照:
・明石順平『アベノミクスによろしく』、第4章「GDPかさ上げ疑惑」、集英社インターナショナル新書、2017年10月
・JBPress「アベノミクスに重大な疑惑、GDPを改ざんか――覆い隠された大失敗、日本は未曽有の事態に突入している(明石順平)」2018年7月5日【URL】https://bit.ly/2ts6vke
・東京新聞「アベノミクス成果大げさ?計算方法変更 GDP急伸」2018年8月12日【URL】https://bit.ly/2CQ42HX
・IWJ「「アベノミクスの成果」に隠された驚くべき「かさ上げ」トリックを暴く! このままいくと日本経済は破綻!? ~岩上安身による弁護士『アベノミクスによろしく』著者・明石順平氏インタビュー 2017.12.14」【URL】https://bit.ly/2E8xg3k
・自民党「衆議院選挙公約2017>02 アベノミクスの加速で、景気回復・デフレ脱却を実現 アベノミクス5年間の実績」【URL】 https://bit.ly/2TULCK6
・産経ニュース「【自民党総裁選】憲法、アベノミクス、地方創生…両候補の違い鮮明に」2018年9月7日【URL】https://bit.ly/2SXUWzH
・産経Biz「31年度実質1.3%成長見通し 名目GDPは過去最高566兆円」2018年12月18日【URL】https://bit.ly/2Ii07q1
(※59)正社員有効求人倍率や新卒の就業状況は確かに改善されているが…:
ここで示されるのは、日本経済新聞2017年7月28日付記事「正社員の求人倍率 初の1倍超え 6月10倍」(【URL】https://s.nikkei.com/2S4ub88)に掲げられた、正社員の有効求人倍率の推移と、時事通信2018年5月18日付記事「大卒就職率、過去最高98%=高卒も27年ぶり高水準」(【URL】https://bit.ly/2N68fsz)に示された「大卒・高卒の就職率」のグラフ、そして、明石順平弁護士も『アベノミクスによろしく』で示している、厚生労働省「一般職業紹介状況」にもとづく「有効求人倍率・有効求人数・有効求職者数」および総務省統計局「労働力調査」による完全失業率の推移を表したグラフ(『アベノミクスによろしく』では図5-1と図5-2)である。
安倍政権がしきりと喧伝するように、また、岩田規久男氏もそれがまるで「異次元金融緩和」の手柄であるかのように述べたように、これらの指標はどん底だったリーマンショック直後に比べて確かに改善が見られる。
2017年6月の正社員の有効求人倍率は、2009年の0.2倍から1.01%へと大きく改善。リーマンショック後に急下降し2010年に91%へ落ち込んでいた大卒の就職率も、2017年度に98.0%へと回復している。有効求人倍率・有効求人数についても、底を打っていた2009年7〜9月の約0.5倍・約0.6倍が、2016年には1.4倍・1.2倍に。完全2009〜10年に5%台だった失業率も、2016年には3%台前半まで下がった。
だが、各々のグラフが底値からほぼ直線を描いていることからもわかるとおり、改善は何もアベノミクス導入を機に始まったわけではない。むしろそれは民主党政権時代から始まっており、安倍政権はその延長上にあるにすぎない。そもそも、今の日本の人手不足は、景気云々でもたらされたものではない。生産年齢人口が激減しつつあるうえ、正規雇用が非正規雇用に置き換えられることによって、多くの雇用を必要とする雇用形態に変わった。さらに高齢化の影響で、医療・福祉分野の需要が急激に高まった。この「3つが重なって、人手不足の状態になり、有効求人率や失業率が改善していく。これらはアベノミクスが引き起こした円安とはまったく関係ない」(明石弁護士)のである。
参照:明石順平『アベノミクスによろしく』、第5章「アベノミクスの『成果』を鵜呑みにしてはいけない」、集英社インターナショナル新書、2017年10月
目に見えないものを切り札にした黒田総裁! 実質金利とは何!? 日銀発表の論文「日本の自然利子率」の謎に挑む!
岩上「ということで、大変お待たせしましたが、ここからがいよいよ今日のインタビューのメイン・テーマ、『実質金利と自然利子率のトリック~論文No.18-E-6』。『日本の自然利子率』と題するワーキングペーパーを日銀が出していて、これが実に謎めいているということですが、この重要な論文について、これから田代さんに読み解いていただきます。お疲れかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」
田代「いえいえ、大丈夫ですよ。よろしくお願いします」

▲田代秀敏氏
岩上「『自然利子率』といえば、黒田総裁も5月10日に行った講演の中で、『実質金利の低下や自然利子率の上昇があれば、経済、物価を刺激する金融緩和効果が増す』と述べられたと。しかも、日銀はこれまで、2%の物価目標の達成時期を『2019年度ごろ』としてきたわけですが、その目標達成時期について、このたびの『展望リポート』にはもう書かなかった、と(※60)。
目標時期、これまで6度も引き延ばしてきたんですよ? それを、今度は削除しちゃったというわけです。ということは、追加緩和はもうやらないのかな、そこから距離を置いたのかな、と。

▲黒田総裁の講演、5月10日
日銀はこれまでずっと、ある種のドーピングを続けてきたわけですよね。ドーピングが続く限りは、世界中の投機家たちも、無理筋とはいえ日本はまだ株価も支えられるだろう、というふうに見るんでしょう。
けれども、『追加緩和と距離を置く』っていうスタンスだけは、『デフレ脱却に向けた姿勢が後退した印象を与えかねない』。『円高など市場混乱を招きかねない点を日銀は心配した』から、黒田総裁が『実質金利の低下や自然利子率の上昇』云々と言い出したんだと言われています(※61)が、まずはその『実質金利』・『自然利子率』とは何かというところからご説明していただければと思います」
田代「はい。ここでも、先も触れた『オーバート』『コバート』という概念が使えます。『オーバート』は直接目に見えるもの。『コバート』は見えないもの。
例えば、さっき話題になった『マインド』。つまり心の内ですが、これは『コバート』ですよね。対して、その人の脈拍数は『オーバート』。ウソ発見器はこれを利用したものでしょう? 質問に対して、脈拍数がどう変わったかを見て、『こいつは嘘をついた』と判断するわけですから。つまり、オーバートなもので、コバートなものを推測しようっていうことですよね。
金利も同様です。私たちが普段目にする金利は『名目金利』といって、オーバートですよね。銀行に行けば書いてありますし。でも、これを見ただけで人々が、例えば住宅ローン組むとか、企業であればお金を借りて、投資して工場を作るとかするかといえば、そうではなく、もう一つ要素がある。
すなわち、人々はこれからインフレが来るかデフレが来るか、さらに、インフレが来るならどれくらいのパーセンテージで来るのか、デフレーションなら何パーセントぐらいのが来るのか、ということを考えるわけです。
なぜかと言いますと、例えば僕が岩上さんから1億円借りるとします。ところが1年後に、日本でハイパーインフレーションが起きてしまい、物価が1億倍上昇するとしましょう。そうするとですね、1億円の価値が1円になっちゃうんですよ。つまり、借りた方は大勝ちなんです。一方、貸した方はもうどうしようもなくなってしまう」
岩上「そうですね」
田代「まあ、これは極端な例ですけれど、要するに、人々はこれからどのような物価の変動が起きるかを考えて、その上で『本当の』金利、つまり、自分が実際に払う時の金利が、今の時点で評価すればいくらかを考える。
そうすると、例えばインフレーションがずっと続いてる経済状況であれば、起業家や会社経営者は、銀行から金を借りても安心ですよね。インフレーションが起きているとはすなわち、その借りたお金が実質的にはどんどん安くなるということですから。ならばここでドンと借りようか、という気になるでしょうが、デフレーションだったら逆でしょう?
人々はこうして、頭の中で考えた物価上昇率=『予想物価上昇率』を『名目金利』から差し引いた値、これを『実質金利』といいますが、それを考える。
例えば名目金利が10%として、これから5%の物価上昇が1年間で起きるとなれば、10%-5%=5%が実質金利です。あるいは、名目金利が例えば5%であっても、予想物価上昇率が10%、つまり、これから日本では1年間で1割物価が上昇すると考えたら、差し引き-5%。実質金利がマイナスとあらば、これは借りれるだけ借りて商売しようと人々は考えるわけですね。

▲予想物価上昇率を操作すれば、実質金利は下がる
要するに、名目金利が下がらなくても販売価格が上がるという期待・予想形成が強まるなら、金利の実質的な負担感は軽くなるわけです。こういう時に『実質金利は下がった』と言われるんですが、黒田総裁が講演で述べたのもそういうこと。『名目金利が一定であっても、実質金利が下がれば、人々はそれだけ積極的に経済活動するようになるから、ちゃんとデフレ脱却に向けて動き出したことになると言えるじゃないか』、とおっしゃりたいわけです」
岩上「なるほど」
田代「全く、難しい議論に持ち込んでくださったもんですよ。日本銀行は今年1月、予想物価上昇率に関する判断を『弱含みの局面』から『横ばい圏内』に修正しています(※62)。つまり、まだちょっと下がってくかな、というのが、いま一応横ばいに入った、と。
だから今後も『粘り強く』緩和を続けることで、人々のインフレ期待を刺激できれば、たとえ名目ベースでの金利引き下げがなくても――今、日本の金利はこれ以上下げたら、地方銀行が壊れてしまうとこまで来てるわけじゃないですか。そこはもう変えられない――、実質金利が下がれば、それはそれでちゃんと景気刺激策になってるでしょ? とおっしゃりたいわけです。『皆さん、ちゃんと経済学の、中級以上の教科書を見てくださいよ、そこに書いてあることですよ』というわけです」
岩上「なるほど」
田代「このようして『実質金利』というものが出てきたわけですが、ただし気を付けて。実質金利は、皆の『予想物価上昇率』を推計して、銀行や新聞なんかで示されている名目金利から引き算しなきゃいけないんですが、これをよく間違う人がいて、今現実に起きてる物価上昇率を引いてもダメなんですよ。『今から起きる』物価上昇率とは、つまり皆の頭の中にあるわけでしょう?」
岩上「未来ですよね。想像上の未来」
田代「1年後10年後にどれだけ物価が上昇するかを予想する、その値で差し引くんです。つまりは『コバート』じゃないですか。みんなの頭に何かビビビビーッって表示が出ればいいですが、そんなものありませんからね(笑)。
実質金利という概念を使えば、いろんなことが考えられて便利ですから、コバートだけれど経済学における基本概念になっていますけど、ただし、これは日経新聞のどこを見ても書いていませんよ」
岩上「そうなんですか」
田代「あり得ないです。予想物価上昇率も書いていませんし。今起きた、あるいは過去の物価上昇率は観測できる。つまりオーバートですね。ところが、予想物価上昇率はわからない。黒田総裁の話が小難しくなっているのも、目に見えないものを切り札にしてしまったからですよ」
岩上「これは煙幕を張ったということでしょうか」
田代「煙幕というか、こんなことを言われても、経済学のトレーニング受けてない方からすると、『うーん、何だろうか? でも、何かきっといいことがあるんじゃないか』と思う人もいるだろうし、『もうダメだ』と思う人もいるでしょうね」
岩上「なるほど」
(※60)黒田総裁「実質金利の低下や自然利子率の上昇があれば、経済、物価を刺激する金融緩和効果が増す」「2%の物価目標の達成時期に関する記述は『展望リポート』から削除」:
日銀の黒田東彦総裁が2018年5月10日、都内のホテルで開催された共同通信「きさらぎ会」の講演会で行った、「最近の金融経済情勢と金融政策運営」と題する講演の中で語ったこと。
黒田総裁は、国内外の経済状況および物価の現状、そして、そこから予測できるリスクについてひと通り日銀の見解を述べたのち、金融政策運営へと話を進めた。日銀は現在、「2%の物価安定の目標」の実現を目指し、その時々の経済・物価・金融情勢を判断基準としながら強力な金融緩和を進めている。だが、「物価の動きは力強さを欠く状態」が続いており、目標の実現までには「なお距離」があるうえ、物価の下振れリスクにも注意が必要な状況である。したがって、「引き続き、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を進めていく必要」があると。そうしたうえで、今後について次のような意味深なことを話し始めたのである。
「この先(中略)実質金利と名目金利の違いについて意識しておくことが大事です。経済・物価を刺激する効果を評価する際には、名目金利から予想物価上昇率を差し引いた実質金利の水準が重要になります。先行き、予想物価上昇率の高まりに応じて実質金利が低下していけば、経済・物価を刺激する効果は一段と強まることになります。また、政府の成長戦略の推進や企業による生産性向上に向けた取り組みが続くもとで、経済の潜在成長率が高まり、自然利子率が上昇すれば、やはり金融緩和の効果は増すことになります。日本銀行としては、『イールドカーブ・コントロール』の枠組みに内在するこうしたメカニズムも活用しながら、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、今後とも、強力な金融緩和を進めていく方針です。」
黒田総裁はさらに、「1点補足したい」として次のようにも述べた。
「日本銀行は、現在、その時々の経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%に向けたモメンタムが維持されているかを点検しながら、金融政策を運営しています。その際、2%の達成時期に関する具体的な期限は設定していませんし、そうした期限を念頭に置いて、金融政策を運営している訳ではありません。今回の展望レポートでは、『2%程度に達する時期』を記述していませんが、これは、こうした政策運営スタンスを明確にする意味合いもあります。もっとも、このことが、『物価安定の目標』の位置づけや性格を変更したものではないことも、合わせて申し上げておきたいと思います。(中略)こうした決意を明確に示すことは、人々の間に根付いてしまったデフレマインドを転換していくうえで不可欠です。2%を『できるだけ早期に』実現するという約束に変わりはありません。」
参照:
・日本銀行「【講演】最近の金融経済情勢と金融政策運営――きさらぎ会における講演 日本銀行総裁 黒田東彦 2018年5月10日」【URL】https://bit.ly/2sWc2zb
・株式会社 共同通信社「きさらぎ会――情報収集と交流の場を提供する日本で最も古い会員制の講演会組織」【URL】https://bit.ly/2WtS24z
・ブルームバーグ「黒田日銀総裁:2%をできるだけ早期に実現する約束に変わりはない」2018年5月10日【URL】https://bit.ly/2RTelSK
・現代ビジネス「専門家もほとんど理解できなくなってきた「日銀黒田総裁の頭の中」――自然利子率っていったい何…?(ドクターZ)」2018年5月27日【URL】https://bit.ly/2G4PsMC
(※61)「追加緩和と距離を置くスタンスは、デフレ脱却に向けた姿勢が後退した印象を与えかねない。円高など市場混乱を招きかねない点を日銀は心配」:
ここで紹介されているのは、日銀・黒田東彦総裁の2018年5月10日の講演に関する、日本経済新聞の分析である(「『実質金利と自然利子率が重要』黒田総裁発言の真意(編集委員 清水功哉)」2018年5月14日【URL】https://s.nikkei.com/2UjCI8O)。
記事は、黒田総裁も講演の中で言及している、日銀が2%物価目標の達成時期に関する記述を『展望リポート』から削除したことについて、これは日銀が「政策の自由度を確保しようとした。端的に言えば、追加緩和と距離を置いた」ことを表していると指摘。
その背景に、(1)これ以上の金利引き下げは、銀行収益や保険・年金の資産運用への打撃など副作用が大きい、(2)追加的な政策発動の余地は小さく、貴重な追加策は世界経済の下振れでマーケット環境が大きく悪化した時などのために温存したいという思いが日銀にある、(3)一段の金利引き下げが「円安誘導」との批判を米国から招く恐れがある、と分析する。
ただし、「追加緩和と距離を置くスタンスは、デフレ脱却に向けた姿勢が後退した印象を与えかねない」ため、「円高など市場混乱を招きかねない点を日銀は心配した」。だからこそ、日銀は「現行緩和策を『粘り強く』続ける考えを従来以上に強調するようになっ」たのであり、このたびの「実質金利や自然利子率の重要性を指摘する総裁講演」もその延長上にあると記事は見る。すなわち、「今後も『粘り強く』緩和を続けることで人々のインフレ期待を刺激できれば、名目ベースでの金利引き下げ(追加緩和)がなくても、実質金利ベースでの緩和効果は出ると日銀は言いたいのだ」。
(※62)日本銀行、予想物価上昇率に関する判断を「弱含みの局面」から「横ばい圏内」に修正:
2018年1月23日公表の『経済・物価情勢の展望』(展望リポート)の中で示された、日銀の予想物価上昇率に関する判断。その日は2018年初の金融政策決定会合が開かれ、物価上昇率2%目標の実現はまだ遠いとして、大規模な金融緩和の継続を賛成多数で決定。引き続き短期金利はマイナス0.1%、長期金利は0%程度に抑え、景気を下支えする方針を固めた。会合後には、『経済・物価情勢の展望』(展望リポート)を通じて各種見通しを公表。2018年度の実質GDP成長率見通しも生鮮食品を除く消費者物価指数も、前回10月から据え置き(共に対前年度比の1.4%)。
物価上昇率2%の目標達成時期についても前回と同じ「2019年頃」とした。一方で、予想物価上昇率の判断については、前回レポートの「前年比0%台後半、弱含みの局面が続いている」から「前年比1%程度、最近は横ばい圏内で推移している」へと表現を小幅上方修正。こうして日銀は、デフレ脱却へ向けての努力が少しずつながらも効果を上げていることをアピールしながら、前年末から取りざたされるようになった<密かな出口戦略>疑惑に釘を刺したわけである。実際、市場では「政府による“脱デフレ宣言”が年内にはあるのでは」との期待が高まり、その日三井不動産や住友不動産、東京建物といった大手不動産株が高値を更新した。
参照:
・ロイター「予想物価上昇率を上方修正、2%目標達成時期は不変=日銀リポート」2018年1月23日【URL】https://bit.ly/2SapBdF
・NISSEY ASSET MANAGEMENT「マーケットレポート:臨時レポート 日銀 引き続き金融政策の据置きを決定」2018年1月24日【URL】https://bit.ly/2G7vJwM
・株探「三井不など大手不動産株が高い、脱デフレ期待で買い強まる」2018年1月23日【URL】https://bit.ly/2RzQgLO
日銀の生活実感アンケートでは、人々はすでに「デフレマインド」から脱却し、実感としての物価上昇率は4%超え! 多くの人々がすでに「迷惑」と感じている物価上昇を、リフレ派はまだ推し進めようというのか!?
岩上「次に『自然利子率』とは何か、という話になりますが、ここでちょっと脇道に逸れて、いくつかお尋ねしておきたいことがあります。
浜矩子先生は安倍政権発足当初から『アホノミクス』『どアホノミクス』と喝破してこられました(※63)が、実際庶民にはそもそも迷惑な物価上昇だということが、このたび日銀の生活実感のアンケート(『生活意識に関するアンケート調査』第73回、2018年3月)の結果などからわかったんです。個人の感じるインフレ率は実は2%を超えているとのことで、平均でも3%、中間値では4.5%。おや!? って感じですよね。それで、物価上昇は生活を圧迫する『困ったもの』との回答が8割に達しているというんです(※64)。

▲庶民には迷惑な物価上昇
物価は上昇しているし、しかも迷惑だと言われている。ということは、日銀の物価上昇率の目標とやらは、もう達成したんじゃないの? それはちっともいいことじゃないんじゃないの? と思うわけです。もちろん、これには賃金上昇が追いついていないせいもあるとは思いますけれどもね。でも、高プロとか、労働権はむしろ解体するような方向に向かっている(※65)」
田代「そうですね」
岩上「だから、労働者は、賃金はもらえるんだろうかとか、物価上昇だけでなく、自分の思い描く長期的な未来とか、それこそコバート(明白な事柄に対する、見えないことがら)なことを考えて、やっぱり自分の賃金は望めないんじゃないかと思うと思うんですよね。
ということは、これ以上物価を高めることで喜ぶのは、借金を実質的に目減りさせたい政府と、金融緩和の出口から目を背けたい日銀だけなんじゃないかと。だから、たとえ庶民を圧迫することになっても、アベノミクスの失敗は認めたくないんじゃないかと。こういうふうに感じるのも、無理からぬところではないかなと思うんです。
さらに、人々が感じているインフレ率は4.5%ということについても、物の方が小さくなるインフレというのがありますでしょ? 実際、『食べ物がみんな小さくなってる』と話題になっている(※66)わけですが、どうでしょう?」
田代「これについては、このグラフを見てください。国会図書館のレポートにあるものです(※67)。

▲田代氏がインタビュー中に示した物価予測の推移のグラフ
下の方に推移している線が、公式報道される物価上昇率の変化を表したものです。上の方の線は、日銀が人々にアンケート調査した結果。『物価どれくらい上がったと思いますか?』と尋ねたもの。こちらの値は、おっしゃる通り、今もう4%に達しているわけです。
つまり、日々スーパーマーケットで買い物している、家庭を預かっている方々からすると、『ええ!? だって、もうとっくにデフレ脱却しているじゃない!』と。物価はどんどん高くなっているのに、あるいは、値段は一緒でも中身が減っているのに、いつまで『デフレ脱却を目指して』なんて言っているんだろう、とっくにデフレから脱却してるぞというのが、このグラフに出ているわけです。『困ったもんだ』という声は、そういうことですよね。
今公式の消費者物価上昇率が1%で、庶民が対生活実感として感じる物価上昇率が4%。ということは、消費者物価上昇率が2%になった時、人々が感じる物価上昇率は一体いくらになっているんだと考えると、恐ろしいことです」
岩上「10%ぐらいになっちゃう」
田代「そうです。このアンケート調査は元々、1974年の狂乱物価(※68)の時、庶民が感じているよりも消費者物価指数の上昇率が低すぎるんじゃないか、という議論が起きたことをきっかけに実施されるようになったもの。
統計学者たちは、きちんと科学的根拠をもって作った指標だ、庶民に何だかんだ言われても困る、と反発しましたが、政治家たちが『じゃあ、人々にアンケート調査しましょう』ということになりまして。で、実施してみると、人々の言う通りだったんです。以来、この調査は今も続いているわけですが、それを見ると、生活実感としては既にインフレ率は4%ぐらいに達していると」
岩上「要するに、さきほど岩田氏がしきりに『マインド』『マインド』と言うことが話題になりましたが、マインドと言うならデフレマインドどころじゃなくて」
田代「もうインフレマインドになっているはずですね」
岩上「ですよね。それも、物価上昇を警戒するマインドになっちゃっているはず」
田代「ですね」
岩上「でもこれって、ある程度バランスがよくないといけない話なのでは? というのも、インフレを強く意識している状況でも、人々は購買を控えたりするかもしれないじゃないですか。あまりに物が高いから、生活防衛のために『節約しなきゃ』って」
田代「それはまさに、浜田宏一先生が若い時にお書きになった教科書、確か『マクロ経済学と日本経済』だったと思います。この中で指摘されていることです。
アメリカでは、これからインフレが来るなと思うと、みんなワーッと消費に走るんですって。『お金の価値が減るから先に物に変えよう』と。ところが日本人はそれが逆なんだと。これからインフレが来るとなると、みんな貯蓄を増やしちゃうんですよ(※69)。
これは、経済学的には本来、非合理的な行動です。だって、お金の価値が減っていくのがインフレーションでしょう? それが来ると思った時にお金を貯めるなんて、変な気がするでしょうけれど、ともかく当時の統計データではそうなんですよ。
たぶん、今もそうだろうと思う。庶民の生活の実感として、こんなに物価が上昇しているのであれば、みんなはもう『来年は生活が大変になるぞ』と身構えて、貯蓄するでしょう。それは消費を控えることですから、景気の足を引っ張るわけですよね。
ということは、別に庶民は、岩田先生が言われるように何か『愚かな民間エコノミストに騙されたジャーナリズムが垂れ流しているフェイクニュースに騙されているせいで、デフレマインドから脱却できない』のではない。とっくにインフレマインドになってしまっていて、浜田先生のご指摘どおり、日本人はインフレになるとなぜかお金を貯め込んでしまうという。
これがいいか悪いかは別として、日本人はそういう行動をとるものだと、浜田先生はアメリカに渡られる前にお書きになっているわけだから、それが今は違うとお考えならそう言って欲しいものです。
でも、これについてはどうもそのままになっている。それならそれで、『庶民のせいだ』なんて言っていてはいけないのではないか。ここは『庶民はちゃんと、デフレマインドから脱却しました』と言わなければならないのではないかと」
(※63)浜矩子先生と「アホノミクス」:
同志社大学大学院ビジネス研究科の浜矩子教授は、この十年間、ほぼふた月に一冊のペースで著書を刊行、現在最も活躍しているエコノミストの一人である。
アベノミクスに対しては、円安誘導により輸出増を図るなど、グローバル化した世界が共存をはかっていかなければならない現実に背を向け、なりふりかまわぬ私欲の追求という時代錯誤を演じている、まことに愚かな経済政策という意味で、「アホノミクス」、さらには「どアホノミクス」と命名し、根源的な批判を展開してきた。
日銀の「異次元金融緩和」についても、導入された当初から、これが日本という「肉体」を「ボロボロ」にするだけの「ドーピングの経済学」と喝破。待ち受けるのは、国債価格と円の暴落、ひいては「日本初の世界恐慌」であり、「心中させられる国民は大迷惑」と痛烈に批判している。
IWJの岩上安身インタビューには過去二回登場しているので、ぜひご参照いただきたい。
参照:
・IWJ【大義なき解散総選挙4】「アベノミクスは『アホノミクス』」~岩上安身による浜矩子氏インタビュー 2013.3.12【URL】https://bit.ly/2MOAlsf
・IWJ「バブルは必ず弾ける、それは明日かもしれない」と断言する浜矩子氏、空前の官製相場で沸きに沸く株式市場、しかし…! 岩上安身が「アホノミクス恐慌」の危険性について訊く 2015.5.30【URL】https://bit.ly/2TD9emE
・阿修羅「ドーピング経済」というこの国の存在 慄然とする3年後の国民生活 (日刊ゲンダイ)2013年11月1日【URL】https://bit.ly/2WHnoVv
(※64)多くの人がすでに2%以上の物価上昇を実感。しかもそれは「困ったもの」:
日銀は1993年以来、政策・業務運営の参考にするため、国民各層の意見や要望を幅広く聴取する「生活意識に関するアンケート調査」を実施している。2004年から実施回数が3月、6月、9月、12月の年4回となり、全国から無作為に抽出された満20歳以上の個人4000人を対象に、「世の中の景気は良くなっているか」「暮し向きは、ゆとりが出てきたか」「収入や支出は増えているか」「物価は上がっているか」「雇用に不安はないか」といった、生活に対する実感を尋ねる。
ここで紹介されているのは、2018年3月に実施された「第73回生活意識に関するアンケート調査」の結果。現在の物価に対する実感を問う設問(Q12、13)で、現在を1年前と比べると、物価が「かなり上がった」と答えた人は14.8%、「少し上がった」は58.7%で、実に7割が物価上昇を実感していることが示されている。
また、それは何%ほどの上昇に感じられるかに関しては、回答者の「平均値は+5.8%(前回:+4.5%)、中央値は+5.0%(前回:+3.0%)」とのこと。
さらに、1年前と比べて物価が「上がった」と答えた人を対象に、その感想を問う設問(Q12-a)では、約8割(77.8%)の人が「どちらかと言えば、困ったことだ」と回答している(p.15)。
参照:
・日本銀行「『生活意識に関するアンケート調査』とは何ですか?」【URL】https://bit.ly/2Rn7iwA
・日本銀行「生活意識に関するアンケート調査の解説」【URL】https://bit.ly/2MEw2Q9
・日本銀行「『生活意識に関するアンケート調査』(第73回)の結果 2018年4月5日 日本銀行 情報サービス局」【URL】https://bit.ly/2HEX5Mp
(※65)高プロ導入で労働権解体:
高度プロフェッショナル制度(高プロ)とは、年収1075万円以上の一部専門職を労働時間規制から除外する制度。働いた時間ではなく成果で評価し、無駄な残業を減らして、働き手の自由度や生産性を高めることが期待できる制度として、2018年6月29日に可決・成立した「働き方改革関連法」の中に盛り込まれた。
政府は、今後は労働者ひとりひとりが自らの働き方を肯定され、その能力が正当に評価されるかのようにアピールしたが、その内実は、対象者の時間外・休日労働には時間の上限も賃金の支払いも、さらには適切な休憩を設ける必要もない、年収1075万円以上の高収入労働者という対象もゆくゆくは拡大可能。しかも統計上の過労死が減るため、死者は自己責任で片付けることができるという、企業にとっては夢のような、労働者にとっては悪夢のような制度である。
政府はこれを、まるで「毒まんじゅうの毒」(又市征治・社民党党首)を仕込むがごとく、残業時間の上限規制や正社員と非正規労働者との待遇差の解消(「同一労働同一賃金」)といった耳触りの良い他の改正点の間に紛れ込ませ、高まる批判の声を無視して強引に成立させた。
「働き方改革関連法案」には当初、「定額働かせ放題」として悪名高い「裁量労働制」も盛り込まれていた。しかし、裁量労働の拡大が長時間労働を蔓延させるとの批判をかわすために政府が掲げた「データ」が、都合よく捏造されたものであることが発覚し、導入を断念せざるを得なくなった経緯もある。
IWJは、この「虚偽データ」の第一発見者である上西充子・法政大学教授に、安倍政権が推し進める労働規制緩和の危険性や、野党や国民をうまく欺くための詭弁戦法(上西氏が「ご飯論法」と命名し、広がった)について詳しく話をうかがっている。ぜひご参照いただきたい。
参照:
・日本経済新聞「働き方改革法が成立 脱時間給や同一賃金導入 」2018年6月29日【URL】https://s.nikkei.com/2KzNH9N
・しんぶん赤旗「これでわかる 労働時間データねつ造問題」2018年2月25日【URL】https://bit.ly/2QyQDXu・
・YAHOO!ニュース「佐々木亮 高プロ制度の解説をします」2018年3月30日【URL】https://bit.ly/2IkzMmn
・IWJ「過労自殺は、自ら選んだ死ではない」!「働き方改革」は労働者の生命を守らず、財界からの要請にばかり応えている! 岩上安身による法政大学教授・上西充子氏インタビュー 2018.3.7【URL】https://bit.ly/2ryLPqq
・IWJ「働かせホーダイ」改悪法案強行採決!? 高プロ制度の危険性、そして加藤勝信厚労大臣による「ご飯論法」の詭弁を暴く!5.22 岩上安身による法政大学・上西充子教授緊急インタビュー! 2018.5.22【URL】https://bit.ly/2s4DHhC
(※66)「食べ物がみんな小っちゃくなってる」:
2017年秋頃からSNS上で、「#くいもんみんな小さくなってませんか日本」というハッシュタグが話題になった。
菓子や缶詰、乳製品などの食料品が、値段はそのままなのに、容器が小さくなっていたり中身の数量が減っていたりしていることに気づいた人々が、しばしば過去の同じ商品と現在のそれを並べた比較写真とともに、その実態をネット上で報告し始めたのである。容量が3割も減っていた商品もあるという。
実質的値上げに他ならないこの動きが始まったのが2013~14年。つまり、アベノミクスおよび「異次元金融緩和」が開始された時期であり、これらの政策がもたらした円安によって原料調達コストの高騰に直面した企業が、消費者の抵抗感を少なくするために、価格据え置きで商品を小さくする道=スモールチェンジを選んだのである。もちろん、これは同じお金で買えるモノの量が減っているので、明らかにインフレである。
氷菓「ガリガリ君」で知られる赤城乳業のように、ストレートな値上げに踏み切った企業もある。2016年4月にオンエアされた、10円値上げについてのお詫びのコマーシャルは大きな話題になり、国内外でいくつもの広告賞を受賞した。しかし、多くの企業がかくも消費者にわかりにくい値上げ方法に訴えたのは、背後に労働者の賃金問題があるからである。
渡辺努・東京大学大学院教授は、NHK「クローズアップ現代プラス」で次のように述べている。
「給料が上がっていってれば、少々の価格の値上げがあったとしても問題ないわけです。ところが、日本の給料というのは上がっていないんですね。ここで見ていただきますように、ほかの諸外国、アメリカを含めた諸外国は、この16年間ぐらいで給料が1.5倍ぐらいになっているんですね。その間に、日本はしかしほとんど変わらない、若干減っているというような状況ですので、どうしても消費者も価格の上昇に対してはシビアにならざるを得ないという状況があります」
参照:
・情報速報ドットコム「アベノミクスの影響!?食べ物が小さくなっていると話題に!くいもんみんな小さくなってませんか日本」2017年10月21日【URL】https://bit.ly/2RqFQy2
・NAVERまとめ「#くいもんみんな小さくなってませんか日本」2017年12月24日更新【URL】https://bit.ly/2B9kVu3
・News Searchina「日本で『食べ物』が小さくなっているらしい! 中国は『直接値上げ』するのに=中国メディア」2018年1月31日【URL】https://bit.ly/2BbheUC
・赤城乳業「2017年最も多くの広告賞に輝いたあのCMが帰ってきた!」2017年12月21日【URL】https://bit.ly/2HH2ken
・NHK「クローズアップ現代+ 2018年1月18日(木) #くいもんみんな小さくなってませんか――食の”スモールチェンジ“裏事情」【URL】https://bit.ly/2Us0W0C
(※67)国会図書館のレポートにある物価上昇率のグラフ:
ここで示されるのは、国立国会図書館の調査及び立法考査局が発行する「時々の国政上の課題に関する簡潔な解説シリーズ」、『調査と情報―ISSUE BRIEF―』の、No. 1007(2018年5月24日)「目で見る異次元金融緩和の成果と課題(財政金融課 大森 健吾)」5頁に掲載されたグラフ(「図4 家計及びエコノミストによる物価予測の推移」)である。
日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(前註★66参照)結果から人々の「1年後までの物価上昇率」および「今後5年間の物価上昇率(年平均)に関する見通し」を、また、「ESP フォーキャスト調査」からエコノミストによる「1年後」および「2~6年度後」の「物価上昇率の予測値」を各々総平均値で求め、2009年度から2017年度の推移をグラフ化。どちらの予想物価上昇率も、「大胆な金融緩和」(アベノミクスの「第1の矢」)を掲げた第2次安倍政権の誕生を機に上昇へ転じていることがよく見て取れる。
とりわけ、人々による「1年後までの予想物価上昇率」は2%から5%へ急激に上昇し、以後も高水準で推移。2017年度は、エコノミストの1%未満に対し、4%半ばのインフレ率が予測されている。
参照:
・国立国会図書館「調査と情報―ISSUE BRIEF―No. 1007(2018年5月24日) 『目で見る異次元金融緩和の成果と課題』調査及び立法考査局 財政金融課 大森 健吾」【URL】https://bit.ly/2Badjr4
・国立国会図書館「「調査と情報―ISSUE BRIEF―」【URL】https://bit.ly/2FXfSAW
(※68)狂乱物価:
1973年の第一次石油危機を契機として、1974年に日本国内で起こった異常な物価高騰のこと。
1972年に田中角栄内閣が打ち出した「日本列島改造」政策により、国内はすでに地価や株価、卸売物価の急激な上昇をみていた。
そこへ1973年10月6日、第4次中東戦争が勃発。OPEC(アラブ石油輸出国機構)諸国は、原油供給の大幅削減とアメリカ等のイスラエル支援国への禁輸を実施するとともに、原油公示価格を70%引上げた。12月下旬にはさらなる引上げを表明し、1974年1月には従来2ドル/バーレルほどだった原油価格が11.651ドル/バーレルもの高値となったのである。
石油の調達を全面的に輸入に依存する日本は、原料調達コストの急騰により、たちまち激しい物価上昇に見舞われた。物資不足が噂されたことによる買い占め・売り惜しみなどの投機的行動(「トイレットペーパー騒動」は有名である)も加わり、1973年度の物価上昇率は卸売物価で22.6%、消費者物価で16.1%の高率をマーク。
1974年度には、国内卸売物価が前年度比20.1%の上昇、消費者物価は20.9%もの上昇となった。
当時の福田赳夫・大蔵大臣は、この異常な物価上昇を「狂乱状態」と呼ぶとともに、「日本経済は全治3年の重傷を負った」と宣言。日本経済の「根本治療」を目指し、総需要管理政策に乗り出す。
参照:
・Wikipedia「狂乱物価」【URL】https://bit.ly/2DRH3Le
・コトバンク「狂乱物価」【URL】https://bit.ly/2tcFQIl
・JXTGエネルギー「石油便覧 第1編 第1章 第5節 石油危機と石油需要の停滞」【URL】https://bit.ly/2SsYNV6
・内閣府 経済社会総合研究所「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」(2010年)、第1巻『日本経済の記録――第二次石油危機への対応からバブル崩壊まで――』第1部第2章「二度の石油危機と日本経済の動向」【URL】https://bit.ly/2oKaJ4Q
・東洋経済ONLINE「麻生の『全治3年』福田の『全治3年』」2008年10月24日【URL】https://bit.ly/2MS2LSg
(※69)浜田宏一氏「日本人はインフレが来るとむしろ貯蓄を増やす」:
浜田宏一氏は1936年生まれの経済学者。東京大学法学部および経済学部に学んだのち、米イェール大学大学院で博士号取得。東京大学経済学部教授(1981年)、イェール大学経済学部教授(1986年)、内閣府経済社会総合研究所長(2001年)などを経て、2005年イェール大学名誉教授、2012年12月内閣官房参与。国際金融論に対するゲーム理論の応用で知られる。
竹中平蔵氏の構造改革政策を全面的に支持するとともに、金融政策についてはリフレ派の主張に賛同。大規模な量的金融緩和の導入を主張し、アベノミクスの理論的指導者となっている。
ここで話題になっているのは、その浜田氏が1984年、黒坂佳央・武蔵大学助教授(当時)とともに上梓した『マクロ経済学と日本経済』(日本評論社)と、その第5章「個人貯蓄率はなぜ高いか」の中で分析されている、日本人の消費/貯蓄行動の特徴である。
著者はまず、経済企画庁や総理府のデータから、第一次石油危機前後の1973~75年に「それまではいかにも安定的だった」家計消費が「かなり不規則な落ち込み方」を示すとともに、「大幅な貯蓄率の増加」が観察できると指摘。その上で、これは「多くの経済学徒の興味をひく」現象であるとしている。
これが「多くの消費理論が説明しようとしてきた、所得の一時的な落ち込みが平均消費性向を高める傾向をもつという事実と反する経験だから」、また、「狂乱物価時代において、人びとがインフレで目減りする貯蓄より、むしろ耐久消費財等への支出に向かうと考えられるのに、実は貯蓄が増加してしまったことが不思議だから」というのである。
実際、アメリカ経済では「景気上昇の過程で貯蓄率が上昇し、景気下降の過程で貯蓄率が低下する」といい、著者は日本人の一見不合理な行動について次のような説明を試みている。
(1)(ピグーの実質現金残高効果や資産効果を援用して説明)
「第一次石油危機後のように景気下降が物価の大幅な上昇をともなって生じたときには、人びとは資産価値の目減りを補おうと思って貯蓄率を引き上げると考えられる」(p.113)
(2)(恒常所得仮説(あるいはライフ・サイクル仮説)から説明)
「発生した所得の減少、そして将来所得の減少が一時的なものではなく、恒常的なものであると予想されるとすれば、人びとは恒常所得ないし生涯所得が減ったと考えて消費をきりつめようとする。第一次石油危機は日本の交易条件を悪化させ、また日本経済の先行きに関して大きな不安感をもたらしたが、それは人びとにとって恒常所得ないし生涯所得の減少を意味した。したがって、1974年に実質可処分所得が低下しなかったのにもかかわらず、人びとが消費をひかえたという事実は、人びとが恒常所得ないし生涯所得にもとづいて、むしろ合理的に消費行動を行なったからだということができる」(p.113)
(3)(国民性から説明)
「貯蓄増強委員会が行なっている「貯蓄に関する世論調査」に示されている「最も重点をおいている貯蓄目的」の項をみると、日本における貯蓄のいちばん大きな動機としては、「病気や不時の災害の備えとして」貯蓄を行なうことがあげられている。(中略)列島改造ブームが引き起こし、そして第一次石油危機によって加速されたインフレーションが、人びとの将来に対する不安を高めさせ、所得の伸びの停滞にもかかわらず、人びとにいっそう防衛的な貯蓄態度を続けさせたことが理解できるだろう。また、1982年には、「老後の生活のため」という動機が「土地、建物の買い入れや新増改築・修理のため」という動機と入れ換わって、第3位に上昇したことが注目される」(p.118)
参照:
・Wikipedia「浜田宏一」【URL】https://bit.ly/2G0MWrB
・東洋経済ONLINE「日本の物価を安定化し経済を活性化する方策 浜田宏一×渡辺努×安斎隆:鼎談」2018年11月21日【URL】https://bit.ly/2TrUHu6
・黒坂佳央・浜田宏一『マクロ経済学と日本経済』日本評論社、1984年
「イラン核合意」から一方的に離脱したトランプ大統領がイラン産原油の輸入停止を各国に要請!!今や世界で孤立するアメリカ! G7はもう時代遅れの中、米国に従うだけで存在感のない日本!!
岩上「もう1つ気にかかることがあるんです。突飛に思われるかもしれませんが、原油問題。最近『トランプ米政権が各国にイラン産原油の輸入停止を要求』と報じられています。トランプ政権は、とにかくイランとの付き合いをやるなら、その国に制裁するだけにとどまらず、その国の企業にも制裁すると言っていますよね(※70)。

▲トランプ米政権がイラン産原油の輸入停止を要求!
アメリカはイランの核合意から離脱しましたが、これを維持しようとしてる欧州なんかは強く迫っているわけです。『アメリカは抜けるんじゃない』『そういうことを言って、あんまり勝手なことをやらないでちょうだい』と(※71)。G7サミットでも、メルケルがそう詰め寄る場面がありました(※72)。この間、田代さんが持って来てくださった面白い風刺画にも描かれています」
田代「これは、タイの『ネイション』という、大変伝統のある英字新聞に掲載されたものです(※73)。タイ、バンコクで発行されている新聞で、英語を共通言語としている東南アジアのエリート達が読む。
そこに、今、すごく強烈な風刺画が出ているんです。タイ在住の日本人の人達に聞いた話ですが、タイでは、国王の悪口を書いたら揶揄するだけでもアウトなんだけど、それ以外は自由だそうです。軍需産業の悪口を言っても別にお咎めはない。それでこういう風刺画が載るんだと。これ、すごいですよね。この前のG7サミットの状況を風刺しているわけです」
岩上「メルケルがお母さんのように描かれていますね」
田代「ALLIES(アライズ=同盟諸国)と書いてありますが、そこに、金髪の、どうも可愛くない赤ちゃんがいて、うんちを漏らしている。おしっこまで。しかも、『GAA! I WANT MY RUSSIAN TEDDY BEAR !!!(僕のロシアのテディベアを持ってきてよ!!!)』と。要するに、トランプが『プーチンはなぜいないんだ』『ここにプーチンを呼べ』って言った件です(※74)」

▲トランプ大統領と一緒に腕を組む安倍総理
岩上「ええ。滅茶苦茶です、あれって」
田代「トランプ赤ちゃんを抱き上げているメルケルは、もう『何言ってるの』と言わんばかりに顔を背けて。テレサ・メイといえばティシュペーパーを持ってオロオロしてるし、マクロンは『うわー、手についちゃったぜ、これどうすんだ』ってね。カナダのトルドーに至っては、『いやもう、僕に近寄らないでください』『イケメンの僕のこの背広が汚れちゃうから』とばかりに引いている。ところでこれ、G7サミットの風刺画ですよね?」
岩上「そうですね」
田代「でも、描かれている首脳は、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、カナダ。あれ? G7なのに、イタリアと日本の首相が…」
岩上「いない!」
田代「そうなんです、描かれてないんです。コマ割りとしてちょっと難しかったということもあるんでしょうが、その時は存在感のない奴は消すという、表現の法則に従った仕上がりになっています」
岩上「イタリアはその辺に描いておけば良かったとして、日本はトランプ赤ちゃんの汚れたオムツの辺りに、ハエか何かの形でくっつけるという手もあったんじゃないかと」
田代「まあね。意地悪な人なら、『もしかしたらこのうんこが…』とか、あるいは『このおしっこかも』なんて言うかもしれないですが(笑)。で、ドイツ政府が発表したG7の写真がこれです」
メルケルがトランプに迫っている。みんなも後ろから迫っていますが、マクロンなどはオロオロしている様子が見えますね。そこへ、なぜか腕組みしている人が2人いて。トランプと安倍首相ですが、何か、仲いいなというか」
岩上「人間の心理として、ついついポーズ真似るんでしょうよ。そうやって、メルケルたちに立ちはだかるかのようにね。でも、そうやっていても安倍首相、(各首脳の会話の意味が)全然意味が解ってないし」
田代「そうなんですよね。そもそも英語が聞き取れてない。実際、他の首脳達7人と話したと言っているけれど、その場に8人いるんですよ。なぜかというと、安倍さんの後ろに、どうも通訳の人が付いていて。ちょっと不思議ですよね。安倍総理はアメリカ留学の経験がおありだと思うんですが」
岩上「アメリカ留学のこと、経歴から消してますよ、彼(※75)」
田代「そうなんですか? 通訳は慎重を期してのことかと思いましたが」
ともかく、もうこんな風刺画が、東南アジアのエリート達が読む新聞に出ているわけです。ということは、東南アジアの人達から見たら…」
岩上「ルックイーストなんてありえない」
田代「それもそうですが、アメリカ大統領なんてこんなふうに見えてるわけです」
岩上「全然恐れてないと」
田代「というか、呆れたを通り越して、もはや赤ちゃん」
岩上「『駄々っ子だよね』というわけですよね。で、『メルケルは世界のお母さん状態だね』と」
田代「ですよね。トランプのプードルと言われてしまったメイ首相(※76)は、せいぜいこう、トイレットペーパーを持ってオロオロしてるだけでしょ」
岩上「世界は今や、G7をそんなふうに見てると。そしてその世界は、もはや取るに足らない国々じゃない。G7だけが世界を動かしているなんて、そんな思い上がりはもう通用しない。少なくともG20の枠で、いや、それ以上で考えるべき時代になった」
田代「あそこに東南アジアの国はそんなに入っていないけれど、既にもう、東アジアが世界経済の中心になってるわけです。サプライチェーンもでき上がっています。そう考えると、もはや時代遅れになってしまったG7。それでも、日本が存在感をなくした状況をどうするか、考えなければいけません」
岩上「日本はG7の中に唯一入った、欧米の白人諸国ではない国、有色人種の代表、みたいな言い草でしたよね(※77)」
田代「なのに、タイの風刺画には消されてしまったという」
岩上「それがG20になると突然、ヨーロッパ・クリスチャン・白人、そういうアイデンティティを共有している国ではない国々の集まりになってくるわけですよね? そこに中国もあれば、ロシアもある、インドもある。さらにはムスリムもいるでしょう。
そうなった時に、何か『有色人種として唯一』とか、幕末以来のそんな時代錯誤なイメージ。戦前にも、7大列強だとか、5大列強とか。『その中で唯一、我が大日本帝国が~』とか言っていましたよね、こういう勘違いがみんな解けちゃうんですね。
この風刺画の通り、トランプ大統領は駄々っ子よろしく、各国にイラン産原油の輸入停止を要求し始めたんです」
(※70)トランプ米政権が各国にイラン産原油の輸入停止を要求:
2018年5月8日、トランプ大統領は「イラン核合意」からの離脱を表明した。「イラン核合意」とは、2015年7年にイランと米英仏独中ロとの間で結ばれた、イランが核開発を大幅に制限する見返りに、米欧が課していた金融制裁や原油取引制限などの制裁を緩和するという取り決めである。
軍事的手段ではなく、外交を通じて核不拡散体制の構築に成功したとして評価の声も高く、オバマ大統領の最大の外交的成果と言われる。
だが、後任のトランプ大統領はこれを「おぞましい」と評して憚らず、選挙戦ではその破棄を公約に掲げて当選。2018年1月には、同合意に含まれる数々の「致命的な欠陥」を改善するようイランに要求し、その期日として5月12日を設定したが、期日前の5月8日、とうとう離脱を宣言したのである。
トランプ政権は、その直後からイランに対する経済制裁を次々と復活させるとともに、対イラン包囲網の形成・強化に乗り出した。
その背景には、「シェール革命」によって世界一の天然ガス産出国となったアメリカの、やはり天然ガス・石油の主要産出国であるイランの市場におけるプレゼンスを低下させようとの狙いが透けて見える。
まず、トランプ政権は、イランが核問題だけでなく弾道ミサイル開発や中東での武装組織支援などを通じて中東情勢を不安定化させているとして、これに武力で対処する方針を表明。5月17日には、ナウアート米国務省報道官が、日本を含む70以上の国や地域、国際機関が参加する有志連合を呼びかける構えであると表明している。
そして6月26日、今度は同国産原油の輸入を11月4日までに停止するよう、各国に求めていることが明らかになった。停止できない場合は、その国の企業を米国市場から締め出すなどの制裁を科すとも警告しており、イランの原油の大口輸入国である中国やインド、そして日本などは、対応に迫られることになった。
アメリカ抜きで核合意体制を維持しようとしている欧州連合も、イランとの商取引を停止することで同国の反発・合意離脱を招くことのないよう、アメリカの説得に苦慮させられることになった。
参照:
・朝日新聞DIGITAL 関連キーワード「イラン核合意」【URL】https://bit.ly/2OQVstd
・Le Monde, “Bataille de communication autour de l’accord nucléaire avec l’Iran”, 2018/05/01 【URL】https://lemde.fr/2BjM5ib
・産経ニュース「【イラン核合意離脱】対イランで「有志連合」目指す 日本含め米国務省が表明」【URL】https://bit.ly/2ImFLZ3
・日本経済新聞「米、イラン産原油の輸入停止要求 日本含む世界各国に」2018年6月26日【URL】https://s.nikkei.com/2Sgplca
・日本経済新聞「米、イラン原油の輸入停止要求 他産油国に増産要請へ」2018年6月27日【URL】https://s.nikkei.com/2HGjiJV
(※71)イラン核合意を維持したい欧州、トランプ大統領の説得を試みる:
トランプ米大統領が2018年1月、イラン核合意からの離脱に言及して以来、フランス、ドイツ、イギリスの欧州3署名国は、これが核開発以外にも、反発したイランによる弾道ミサイル開発の強化や、イランとともにアメリカ・イスラエルに敵対するイエメン、シリア、レバノンなどの近東情勢を不安定化させるなどの様々な問題を引き起こす危険性があるとして、アメリカの引き留め工作に奔走した。
とりわけフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、訪米中に(1)2025年に期限切れとなる合意事項の延長、(2)イランの弾道ミサイル計画に関する合意事項の追加、(3)同地域の危機に関する事項の3本の柱で補完する「新たな核合意」を提示するなど、じかにアメリカの説得を試みている(4月24日)。
と同時に、テリーザ・メイ英首相およびアンゲラ・メルケル独首相との会談(4月28・29日)、ウラジーミル・プーチン露大統領との電話会談(4月30日)などとかいがいしく立ち回り、一方でイランのハッサン・ロウハニ大統領との1時間以上に及ぶ会談を行うなど、イラン核合意体制の維持に向けてイニシアチブを取った。
そんな中の4月30日、イスラエルのネタニヤフ首相がテレビを通じ、(なんとも都合の良いことに)「彼ら〔イラン〕が核武装の下心を持って嘘をついていたことを証拠立てる10万点の文書類」を入手したと突然発表。その1週間後の5月8日、トランプ大統領はイラン核合意からの離脱を正式に表明し、対イラン制裁を復活・強化する方針を明らかにしたのである。
これを受けて、欧州3署名国は米国抜きでのイラン核合意維持の方針で合意。イラン・欧州の「ワーキング・グループ」設置を決めるなど、イランとの対話も進めるかたわら、アメリカに「他国の核合意維持の動きを妨げるような行動は一切控えるよう」要請した。こうした動きの最中に、トランプ大統領は企業に対する経済制裁で脅しながら、イラン産原油の輸入停止を各国に要求したのである。
参照:
・Le Monde, “Bataille de communication autour de l’accord nucléaire avec l’Iran”(イラン核合意をめぐる広報戦), 2018/05/01 【URL】https://lemde.fr/2BjM5ib
・La Croix, “Trump isolé pendant que les Européens tentent de sauver l’accord iranien”(孤立するトランプ、イラン核合意存続へ動く欧州諸国), 2018/05/09 【URL】https://bit.ly/2S9Lau7
(※72)メルケル、G7でトランプに詰め寄る場面:
2018年6月8日から9日にかけてカナダ・ケベック州のシャルルボワで開かれた、第44回先進国首脳会議でのこと。
議長国カナダ(トルドー首相)をはじめ、アメリカ(トランプ大統領)、フランス(マクロン大統領)、ドイツ(メルケル首相)、イギリス(メイ首相)、イタリア(コンテ首相)そして日本(安倍首相)の<先進>7カ国に、EU(トゥスク欧州理事会議長及びユンカー欧州委員会委員長)を加え、世界経済や貿易問題、技術革新と雇用問題、北朝鮮問題を中心とする外交・安全保障問題、ジェンダー平等、気候変動とエネルギー転換などが話し合われた。
一方で、フランスでは「G6+1」と揶揄されるほどに、トランプ米大統領と他の6カ国との対立が浮き彫りになったサミットでもあった。
トランプ政権は、サミット直前、鉄鋼・アルミ製品への高関税措置を欧州連合とカナダ、メキシコを対象にすると発表していたが、サミットでもこれをめぐってカナダ・フランスと対立。2014年のクリミア半島併合問題でG8から排除していたロシアを再加入させるべきとも発言しており、サミットはぎくしゃくした雰囲気に包まれた。
その上、トランプ大統領は米朝会談のためにサミットを途中退席しシンガポールに出発。しかもその移動中、いったん合意された成果文書の承認を撤回するという振る舞いに出て、各国を狼狽させたのだった。
各国はサミットの模様を写真で公開、自国首脳の活躍をここぞとばかりにアピールしたが、中でもドイツ政府による写真は、「アメリカに対峙する各国」というサミットの構図をよく物語るとして話題になった。
腕組みをして座るトランプ大統領の前に、欧州の首脳たちが机を挟んで立っている。メルケル首相は机に両手をついてトランプ大統領の方に身を乗り出し、険しい表情で見据えている、という写真である。
何の議題を議論している最中の写真なのか、具体的説明はなされていないが、安倍首相の同行筋によればイラン問題であったとのこと。トランプ大統領は2018年5月8日にイラン核合意からの離脱を一方的に宣言し、欧州加盟国の激しい反発を呼び起こしていたが、サミットでも首脳宣言にイランが「テロ支援国家」であると明記するよう要求。メルケル首相に説得され、「イランが支援するものを含む、全てのテロリズムへの財政的支援を非難する」との表現に落ち着いている。
なお、この写真の中で安倍首相は、向き合うトランプ大統領と欧州首脳たちの間、机の側面に(トランプと同じく)腕を組んで立っているが、その表情は虚ろである。おそらく、何も理解できず、立ち往生していただけなのだろう。
参照:
・外務省「G7シャルルボワ・サミット(結果)」【URL】https://bit.ly/2CUMG9O
・Wikipedia「第44回先進国首脳会議」【URL】https://bit.ly/2TnPq6D
・しんぶん赤旗「G7「機能不全」混乱広げたトランプ通商外交」2018年6月15日【URL】 https://bit.ly/2GcoUcq
・朝日新聞「鉄鋼・アルミ高関税、EUなどにも適用へ トランプ政権」2018年6月1日【URL】https://bit.ly/2CSvGRo
・朝日新聞「「ロシアをG7に戻すべき」トランプ氏発言、反発招く」2018年6月9日【URL】 https://bit.ly/2TpxI2j
・日本経済新聞「「G7にロシア復帰を」トランプ氏発言に欧州反発 」 2018年6月9日【URL】 https://s.nikkei.com/2sHD7qs
・日本経済新聞「サミット、写真が語る緊迫の40分 首脳宣言巡り激論」2018年6月10日【URL】https://s.nikkei.com/2UvhaWV
・SPUTNIK「SNSでG7でのメルケル首相とトランプ大統領の写真が議論される」2018年6月11日【URL】https://bit.ly/2UuZ5YS
・日本経済新聞「漂流G7 ネット戦の裏側」2018年6月17日【URL】https://s.nikkei.com/2RWFvbe
(※73)タイの新聞に載った風刺漫画:
タイの日刊英字新聞『ネーション(The Nation)』は、1971年創刊、発行部数は68000部(タイ最大の全国大衆紙『タイ・ラット』は公称100万部)。外国人や一部のインテリに向けた記事を載せ、国内の一般世論とは乖離が大きいとされる。
ここで紹介されている漫画は同紙に2018年6月11日に掲載されたもの。
メルケル首相がオムツ一枚の赤ん坊として描かれたトランプ大統領を抱きあげ、盛大にオシッコをひっかけられて顔をそむけている。
トランプ大統領は頭から湯気をあげながら「ガア! オレのロシア製テディベアをくれ!」(GAA! I WANT MY RUSSIAN TEDDY BEAR!!!)と叫んでいる。
メルケル首相のスーツには「ALLIES」(同盟国)の文字があり、画面右には狼狽したトルードが、左には手についてたウンチをうらめしげに見つめるマクロン大統領と、トイレットペーパーを手に驚き呆れたメイ首相が描かれている。
確かに、安倍総理はこの漫画のどこにも存在していない。風刺の対象にもならないほど、存在感が薄かったのだろう。
シャルルボワ・サミットにおける「同盟国」の足並みを乱すトランプの諸主張、とりわけロシアをG7に加えるべきだというサミット開幕前の発言に焦点を当てながら、G7の世界における指導力低下を強く印象づける内容となっている。
なお、この漫画を描いているのは同紙専属のカートゥーン(風刺漫画)作家であるStephane Peray。過去3カ月ほどの作品を『ネーション』紙電子版のサイトで見ることができる。
参考:
・Wikipedia「ネーション(タイの新聞)」【URL】https://bit.ly/2WCy7Av
・THE NATION, CARTOON GALLERY【URL】https://bit.ly/2S38U3x
(※74)トランプ『ここにプーチンを呼べ!』:
トランプ米大統領がカナダで開かれる主要7カ国首脳会議(シャルルボワ・サミット)に向かう直前の2018年6月8日午前、ホワイトハウスにて、記者団を前に「G7がかつて追い出したロシアを再びサミットに戻し、交渉のテーブルにつかせるべきだ」という趣旨のことがらを言い出した件。9日の記者会見でも「主要8カ国(G8)の方がいい」と繰り返した。
G7は2014年、ロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に併合したとして、同国をG8から追放した経緯がある。
その後もウクライナ問題は進展しておらず、ロシアの軍事的脅威の増大を警戒する向きもあり、トランプ発言はシャルルボワ・サミットに参加したドイツ、フランス、カナダ、EUの強い反発を引き起こした(親ロシア路線を打ち出しているイタリアは、トランプ大統領に同調。北方領土問題を抱える日本は賛否を明確にしなかった)。
特にフランスは、「アメリカこそロシアの排除および制裁を率先してきた国であり、このたびの提案には矛盾がある」とアメリカの態度の豹変を強く批判。「ロシアの再加入には、排除の時と同様、G7の合意が必要」と、アメリカの単独行動を牽制した。
一方、当のロシアは、「G7復帰など、こちらから頼んだ覚えはない。むしろ、今やG7よりも、20カ国・地域(G20)が最も将来性のある枠組みである」(ラブロフ外相)と国営メディアに語っている。
参照:
・ブルームバーグ「トランプ大統領:ロシアの主要国会議への復帰「容認すべきだ」」2018年6月9日【URL】https://bit.ly/2BcVxUi
・ロイター「米大統領、ロシアのG7復帰提案 ロシアは関心示さず」2018年6月9日【URL】https://bit.ly/2MHtlxj
・朝日新聞DIGIITAL「「ロシアをG7に戻すべき」 トランプ氏発言、反発招く」2018年6月9日【URL】https://bit.ly/2TpxI2j
・日本経済新聞「「G7にロシア復帰を」トランプ氏発言に欧州反発」2018年6月9日【URL】https://s.nikkei.com/2sHD7qs
・日本経済新聞「ロシアの復帰、G7で異論続出 ロ外相は「頼んでない」」2018年6月9日【URL】https://s.nikkei.com/2WxFXeG
(※75)安倍首相、アメリカ留学を経歴から消している:
安倍首相の公式サイトでは「略歴」として、「1977年 成蹊大学法学部政治学科卒業/1979年 株式会社神戸製鋼所入社/1982年 外務大臣秘書官/1993年 衆議院議員初当選〔以下略〕」と記され、留学に関する記載はない。大学卒業から神戸製鋼入社までの二年間が空白となっているわけだが、かつては「成蹊大学法学部政治学科卒業」に続けて、「引き続いて南カリフォルニア大学政治学科に2年間留学」と記されていた。
その後、「南カリフォルニア大学政治学科留学」と字句が変更され、さらに留学の記載そのものが抹消された。この間、『週刊ポスト』2004年2月13日号、次いで『週刊現代』同年2月21日号が、当時自民党幹事長だった安倍氏の留学歴についての疑惑を記事にし、南カリフォルニア大の在籍期間が78年の春季、夏季、秋季にすぎず、政治学の単位も取得していないことを報じている。「2年間」の留学も、「政治学科に」留学も、事実に反する、一種の学歴詐称だったわけである。
インターネットアーカイブのWayback Machineを閲覧すると、「2年間」の文字が消されたのが2003年7月28日と2004年2月4日のあいだ、留学の記載じたいが消されたのが2005年4月から7月にかけての時期であることが確認できる。
留学時代の安倍氏と加計孝太郎氏との交友については、東京新聞からの次の引用が多くを語っていよう。
「当時の日本人留学生は数十人。同じ頃、牛丼チェーン吉野家の社費留学生だった西洋フード・コンパスグループ会長の幸島武(64)が回想する。『国会議員や大企業の役員の子どもばかりで、外車で通学する人も多かった。日本人学生同士でゴルフをすることがはやり、安倍さんともラウンドを回った』。ロス近郊の語学学校で学んでいた加計も後年、安倍とゴルフを楽しんだ思い出を経済紙に寄稿している」
参照
・衆議院議員 安倍晋三 公式サイト プロフィール【URL】https://bit.ly/2SFC7Bo
・リテラ 学歴詐称はショーンKだけじゃない! 安倍首相も「南カリフォルニア大学政治学科留学」を詐称しこっそり削除(2016.03.18)【URL】https://bit.ly/2BvSdn7
・東京新聞【権力の内幕 検証・加計疑惑】第1部(1)悲願の裏に「首相案件」腹心の友 蜜月40年(2018年7月15日付朝刊)【URL】https://bit.ly/2Iax0oC
(※76)「トランプのプードル」メイ英首相:
2017年1月27日、イギリスのテリーザ・メイ首相は訪米し、トランプ大統領の就任後初めてホワイトハウスに招き入れられた外国首脳として会談に臨んだ。
テロ容疑者に対する「水責め」の拷問の肯定や、「メキシコの壁」建設による移民排除、自由貿易交渉からの撤退、NATO批判、気候変動に関する交渉の拒絶など、イギリス国内で激しい批判が巻き起こっていた新大統領の言動についての話題を避け、ひたすら両国の友好関係の演出に腐心した。
年内にトランプ大統領を国賓としてイギリスに招くという、エリザベス女王の意向を伝えたり、ホワイトハウス西棟の柱廊で手をつないで歩く姿を見せたりと、両国間の「特別な関係」をアピールしたのだった。この点は、プードルならぬ「アメリカのポチ」たる安倍総理の媚びへつらいぶりを彷彿とさせる。
これについて、イギリス国内では、メイ首相はトランプ大統領に取り入っていると激しい非難が巻き起こった。
特に『ガーディアン』は、かつてブレア首相がブッシュ米大統領の求めのままにイラク参戦を強行し、「ブッシュのプードル犬」と酷評されたことをふまえ、「メイはトランプに立ち向かうべきだ――英国はプードル犬など要らぬ」と題した記事を掲載し、「文明的規範を日々ひっくり返す」この新大統領の言うこと為すこととは距離を置かなければ、「メイは祖国で信頼を失うことになろう」と、手厳しい批判を展開している。日本のマスメディアとははなはだしい隔たりがある。
参照:
・AFP「トランプ大統領、メイ英首相と会談 「特別な関係」強調」2017年1月28日【URL】https://bit.ly/2k2bIdc
・ハフィントンポスト「トランプ大統領、イギリスの記者からの厳しい質問を受け流す「あれについての質問か」」2017年1月29日【URL】https://bit.ly/2D0CooB
・毎日新聞「シリア攻撃 英仏、米との結束全面 露へ対抗軸」2018年4月16日【URL】https://bit.ly/2G2Psh2・
・The Guardian “ Theresa May must stand up to Donald Trump. Britain doesn’t need a poodle “ Martin Keattle, 26 Jan 2017【URL】https://bit.ly/2jCQrph
(※77)「G7の中で日本は唯一の有色人種」:
本インタビュー後のことであるが、麻生太郎副総理兼財務相が、まさにここで言及されている言い回しそのままに、「G7の国の中で、我々は唯一の有色人種であり、アジア人で〔G7に〕出ているのは日本だけ」と発言した(2018年9月5日、盛岡市内で開かれた「安倍自民党総裁を応援する会」において)ことで、ネット上で「炎上」と言われる事態に立ちいたった。
他のアジア諸国に抜きん出ているという虚勢や、(オバマ米前大統領を筆頭に)多数の移民系市民を擁するG7の他の国々を「白人国家」ととらえる時代錯誤、あるいは「有色人種」という表現自体ににじむ、これも時代錯誤な人種主義に対し、非難、嘲笑、慨嘆の声が巻き起こったのである。
この麻生発言は突然降って湧いたものではなく、戦前戦後を通じ脈々と保たれてきたひとつの思想的系譜(思想の名に値するとすれば)に連なるものである。
その典型として、外交評論家・加瀬英明氏(加瀬氏については、IWJの下記記事を参照されたい)の2013年の講演録を紹介する。
日本「だけ」が西洋による植民地化をまぬがれ「見事に明治維新を成し遂げ」たことを讃え、明治の軍国主義を肯定(軍国主義ゆえに日清・日露戦争に勝ち、「この美しい国土を」中国・ロシアの占領から守ることができた)したあと、「八紘一宇」の珍妙な戦後バージョンが展開される(「〔1960年代に米国で〕黒人が解放されたのは(中略)日本が先の大戦に大きな犠牲を払い、結果、アジアとアフリカが解放されたからです。日本が人種平等の世界を呼び寄せたのです」)。
そして、「大平内閣の時に、日本で初めて世界主要7ヶ国サミットG7が催され、有色人種の日本が1カ国だけ加わっているのを見て、私は改めて先人が、日本と世界のために多くの血を流したことを感じました。日本人は大いに誇って良いのです」と続くのである。
参照:
・朝日新聞DIGITAL 「麻生氏『我々はG7唯一の有色人種』 安倍氏応援の会で」(大西英正 2018年9月5日)【URL】https://bit.ly/2SCFxFx
・一般財団法人 国づくり人づくり財団 第6回夢・地球交響博 特別講演「世界に誇れる日本の伝統文化」外交評論家・加瀬英明(2013.11.29)【URL】https://bit.ly/2SZQSza
・IWJ「チャンネル桜・水島総社長と加瀬英明氏が会見 歴史認識をめぐり、自分のことは棚に上げ外国人記者を批判「無知で、いい加減」「朝日新聞と同じイデオロギー色に満ちた報道しかしてない」と放言 2015.2.23」【URL】https://bit.ly/2S4pawD
(続く)



































年金支給生活苦のため、またいまの仕事が今月末でクビ。岩上さんにカンパしたいけど、無理です。もうしわけなし。