2019年年明け早々、米株式市場を「アップルショック」が襲った。
東京株式市場がまだ正月休みであった2019年1月2日、米アップルは、中国などでアイフォーンの売り上げが急減速していることから、年末商戦を含む2018年10月から12月(第1四半期)の売上高が予想を下回りそうだという、業績見通しの下方修正を発表した。
この発表を受け、3日の米株式市場ではNASDAQがマイナス3%、Dow Jones工業平均はマイナス2.8%と、株価が急落した。これが「アップルショック」である。2019年の米国経済の先行きを占う象徴的な事件である、と言っていい。
- 米アップル、10─12月期売上高見通し下方修正 中国販売減速で(ロイター、2019年1月3日)
もとはといえば、トランプ大統領が仕掛けた米中貿易摩擦によって、中国国内での消費が減速。その結果、中国国内でのアップルの売り上げが落ちて、その影響で米株式市場の平均株価まで押し下げられた。
すなわち、米国トランプ発、中国経由、米国株価直撃という典型的な「ブーメラン」ストーリーが、この「アップルショック」の中身なのである。これは、米中経済の抜き差しがたい相互依存の実態を改めて浮きぼりにするとともに、米経済による数少ない「勝ち組」企業であるアップルの存在感の大きさ、そしてそのアップルにとっていかに中国マーケットが大きなものかを物語っている。この点は、また後述する。
この「アップルショック」、日本経済にとって対岸の火事ではすまなかった。東京株式市場で年明け最初の取引となる4日、日経平均株価は開始直後から全面安となり大幅に下落。2万円台を大きく割り込んだ。
昨年末、2万円を割り込んだ日経平均株価を日銀が買支え、なんとか2万円台を維持して12月28日の大納会をむかえたのに、である。
日本は米中両国の経済、そして政治に依存しており、米中間で政治的摩擦が生じて両国の実体経済にまで影響が出たときは、日本も無事ではすまない、ということをこの年始早々の株価大幅下落は示している。
- 東証大発会、一時700円安 2万円割れ、アップルショック(東京新聞、2019年1月4日)
昨年末の日本を含む世界的な株安傾向は、米中貿易摩擦の悪化によるものであることは明らかで、「アップルショック」によって改めてその事実が再認識されたというべきだろう。新年もスタートから不透明感が広がった。
そのような中、中国は1月4日、米中貿易摩擦の緩和に向け、米通商代表部(USTR)と中国商務省の次官級の協議が1月7日と8日、北京で行われることを発表した。
- 7、8日に米中貿易協議 次官級訪中 摩擦緩和目指す(東京新聞、2019年1月4日)
そして、その同じ4日、中国の李克強(り・こっきょう/リー・クーチアン)首相は、景気対策として市中の銀行が中国人民銀行(中央銀行)に預金の一定割合を預ける預金準備率の引き下げと手数料削減や減税などを表明。中国人民銀行も4日、預金準備率を1月15日と25日にそれぞれ0.5%ずつ、合計1%引き下げることを発表した。
- 中国、預金準備率引き下げと減税を実施へ=李首相(ロイター、2019年1月4日)
- 中国が金融緩和発表 24兆円供給、景気下支え(東京新聞、2019年1月5日)
この中国人民銀行の預金準備率引き下げという報道に、鋭く反応したのは、中国通のエコノミスト・田代秀敏氏である。岩上安身が昨年4回インタビューを行った田代氏から4日夜、岩上安身あてに情報が寄せられた。
中国で「中国人民銀行の預金準備金率引き下げはグローバル市場を狂歓 ダウ先物は大幅に300ポイント上昇」と題する記事が配信されたというのだ。記事によると、上海A株の優良50銘柄からなるA50指数の先物は1%急騰、NASDAQ先物は1.8%上昇、ダウ先物は300ポイント上昇、ドイツDAX指数は1.7%上昇しているとのこと。
田代氏はこの中国発の報道について、「中国は国際金融市場における自国の存在感を誇示し、米中貿易交渉の直前に、『米国株相場は中国が決める』というシグナルを発している」との分析を示した。
トランプ大統領の政策によって、米有数の優良企業であるアップルがダメージを受け、米国の株価全体が下がってしまう。そこに中国が国内の政策によって米国の株価を浮揚させることができた。つまり、米国の株価、米国経済の浮沈は中国次第である、というメッセージがここに込められている、ということだ。
IWJは1月4日夜、田代氏に直撃取材し、詳しく解説をうかがった。
以下、田代氏による解説である。