【第409-413号】岩上安身のIWJ特報!スクープ!日銀が発表した英語論文の謎 アベノミクス・黒田バズーカによる副作用の責任を逃れようと裏で金融緩和の出口を模索!? 岩上安身によるエコノミスト 田代秀敏氏インタビュー(前編) 2019.2.27

記事公開日:2019.2.27 テキスト独自
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 2018年3月16日、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁の再任が国会で承認され、4月9日より2期目がスタートした。日銀総裁が再選されるのは、57年ぶりのことである。アベノミクス第一の矢であるクロダノミクスとも言うべき異次元金融緩和を主導した黒田氏の再選は、異次元金融緩和への期待がすっかり色あせてしまったにもかかわらず、前例まで無視して、安倍政権はこれまでのクロダノミクス路線を踏襲する強い政治的意思を示したものと受けとめられる。

 黒田総裁は辞任した白川方明前総裁の任期を引き継ぎ2013年3月20日に総裁に就任したため、同年4月8日にいったん任期が切れた。

 国会の承認により、2013年4月9日から2018年4月8日までの日銀総裁に再任されたので、厳密には今回の2期目は「再再任」となる。

 黒田総裁は2年で2%の物価上昇を目標に掲げ、大規模な異次元金融緩和を実行したが、1期中にその目標には到達できなかった。目標達成は先送りされ続け、4月27日の金融政策決定会合で公表された金融政策決定会合で公表された「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、ついに物価上昇2%目標の達成見通しは削除された。

※物価上昇2%」、達成時期の文言を削除 日銀決定会合(朝日新聞デジタル、2018年4月27日)
https://bit.ly/2Vmxomn

 いったい何のための異次元金融緩和だったのか、デフレ脱却が目標だったはずで、2年どころか5年もやっていて効果があげられないのは、異次元金融緩和政策が、そもそもの根本から理論的に間違っていたのではないかと疑われ、検証されてしかるべきである。しかし、安倍政権下では官邸も、日銀も、そうした真摯な反省や検証を行うそぶりもない。

 2018年3月14日に日銀が発表した自然利子率に関する英語論文は、アベノミクスや黒田総裁による黒田バズーカの副作用とその効果について、有り体に言えば言い訳を綴ったものだと言える。このことを鋭く指摘したエコノミストが今回のゲスト・田代秀敏氏である。

▲エコノミスト 田代秀敏氏

 田代氏は、黒田総裁の学者としての優れた資質に敬意を払いつつも、日銀総裁が続投することは「異例中の異例の人事」と懸念している。日銀総裁を再任したのは過去2回、連続就任したのは過去1回しかない。しかも黒田総裁は財務省出身。財務省出身で連続就任を果たしたのは黒田氏ただ1人である。

 なぜこうした人事が危ぶまれるかといえば、日銀は財務省、大蔵省のATMと思われてはいけないからであり、円の発行元としての信認を得るために政府とは切り離された独立性を持たなければいけないからである。

 日銀総裁は総理のパートナーであってはいけない。これは近代国家としての原理原則であり、そうしたタブーを、安倍政権下の日本は今まさに、侵しているのである。

 そして現在、日銀はビジョンなきまま、こっそりと金融緩和の出口に向かって動いている。そうなると、外国機関投資家が日本国債を疑い始めるのも時間の問題である。さらに国民が円を疑い始めたら、どうなるか。国債の信認が失墜したら、国家財政は破綻への道を突き進むことになる。国債暴落には法則性があり、そのシナリオはすでにでき上がっている。

 概ね流布されている経済学理論とは、現実の経済現象をきちんと取り入れて検証しているわけではなく、実際の市民生活にそのまま適用することができるかどうか、甚だ疑問なものが多い。市民に直接影響を与えうる、黒田長期政権のもとでの日銀の政策がはらむ懸念とはいかなるものか、そして、日本経済そのものの浮沈を決定する国債破綻の恐怖とは、どのようなものか。

 エコノミスト・田代秀敏氏が日本の経済の歴史をひも解きつつ分析する、国民が知られざる日本経済の現在に岩上安身が迫るインタビュー第1弾!

記事目次

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<ここから特別公開中>

財務省は770トンの金塊を持っている!? しかしどこにどのようにあるか、一切公開されていない!

岩上安身(以下、岩上)「皆さん、こんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。本日はスクープがあります。日銀が発表した英語論文で、英語では完全バージョンを発表していますが、実はなぜか日本語バージョンでは所々抜けているのです。そもそも日本人に向けていろいろな情報公開をし、説明責任を果たすのが日本銀行ですから、日本語版を最優先しなければいけないと思うのですが、なぜか英語でしか書いていない論文群があるんです。

 その英語論文とは、アベノミクスや日銀総裁・黒田東彦氏による黒田バズーカの副作用、そして効果が全然上がっていないことをどうごまかすかについての、学術的屁理屈のようなものらしい。だから日本語にはしたくないわけです。日本語で書いてある部分も、普通の人が読んでもなかなかわからないように書いてあるんですけれども、専門家にも読んでもらいたくないんですね。でもまあ、本当の専門家は英文でも読めてしまいますけれどもね。

 このことを鋭く指摘したエコノミストがいらっしゃいます。IWJ初登場、大和総研主任研究員などを経て現在シグマ・キャピタル株式会社チーフエコノミストという肩書きをお持ちの田代秀敏さんです。田代さん、はじめまして。よろしくお願いいたします」

▲田代秀敏氏

田代秀敏氏(以下、敬称略)「はじめまして。よろしくお願いいたします。光栄です」

岩上「IWJとは今までなかなか接点がなかったのに、取材を申し込んだら気持ちよくお受けいただきまして、本当にありがとうございます。先ほど雑談をしていてわかったんですけれども、私の著書『あらかじめ裏切られた革命』(1996年、講談社第18回講談社ノンフィクション賞)(※1)を読んでくださって、その中の一節も覚えていてくださいました。嬉しいですね」

田代「いやあ、あれは一度読めばもう絶対に忘れられないですよ」

岩上「そうですか。これはもうおわかりだと思いますけれども、トリュフォーの『あらかじめ失われた恋人たち』とトロツキーの『裏切られた革命』を合わせた、ある種のリスペクトを込めたもじりなんです。『裏切られた革命』は復刻したんですね。2017年かな。トロツキーは、今、読まれているんですよ。

 共産主義革命が裏切られたということを、今読む必要性があるわけではないかもしれませんが、トロツキーが『かくあるべきだ』と言ったことが、実は今の世界を覆っていますね。あの時(89年の冷戦の終焉と91年の共産主義国家・ソ連の崩壊)勝利したのはリベラルデモクラシーの国家でした。今、新自由主義が台頭していますが、これは『新』をつけているけれども本当の自由主義といえるのかどうか、もともとの自由主義に欠陥があったのか。それらの問題を考える上でも役に立つ。

 いろいろな人がいろいろな形で、『このままでは大変なことになるぞ』と言っています。日本はもちろん大変なことだらけですけれども、世界も大変なことになるということに気づき始めているのではないか思います」

▲レフ・トロツキー(Wikipediaより)

田代「トロツキーの『裏切られた革命』は、経済分析も非常に優れているんですね。彼は本当に超一流の経済学者でもありました。私も去年の暮れに書いた論文で引用しました。

 実は、ドイツがアメリカなどに預託していた金塊をフランクフルトに移してしまったんですね」

岩上「はい。そういうことがありましたね」

田代「あの行動をトロツキーが『裏切られた革命』で書いています。つまり、金本位制に復帰するなどということはあり得ないけれども、『では、なぜ各国の中央銀行は金塊を準備として持っているのか』と。

▲トロツキー著、藤井一行訳『裏切られた革命』(岩波書店)

 その理由は、『金を貯めこむことによって自国通貨の信認を増すから』。また、『最終決済手段として持っているから』。要するに、外国通貨との交換が保たれる最終担保になっている」

岩上「そうですね」

田代「それに従って、ドイツは『安全保障上の理由』などと難癖をつけられて、アメリカにむりやり多く預託させられていたわけですよ。それを、必要最小限のものを残してフランクフルトに持っていったんですね。日本の金塊も700数十トンあるはずなんですけれども、どこにあるかは書いていない(政府・日銀は公表していない)」

岩上「どこにあるんですか?」

田代「そもそも金塊として何本あるかということも書いていない。その金塊1本1本がいかなる重量でどのような純度かということも、一切公開されていません」

岩上「日本政府はきちんと把握しているんですか?」

田代「本来これは、会計検査院がするべき仕事でしょう。ドイツでは、会計検査院がドイツ連邦銀行を告発してしまったんですよ。2000年頃にイギリスに預託した相当の金塊をこっそりフランクフルトに持っていったことを、ドイツの会計検査院が暴露してしまった。

▲ドイツ連邦銀行(Wikipediaより)

 すると、『これはひどい。国民の財産をどこに置いてあるか秘密にしていた。けしからん。全部明らかにしろ』という意見が出たので、ドイツ連邦議員は本当に金塊1本1本の所在を『フランクフルトにある。ニューヨークにある。ロンドンにある』と明らかにした上に、1本1本の厳密な重量と純度何%ということを、残らず書いて出したんですよ。PDFで発していますから誰でも読めます」

岩上「はあ、すごい」

田代「これで、『確かにドイツ連邦銀行は金塊を持っている』ということが明らかになる。自分がコントロールできる」

岩上「間違いなくね」

田代「トロツキーが言うとおり、それは最終的にユーロの信認になるわけですよね。ところが財務省の資料には、『日本の公式準備としての金塊は770トン』と一応書いていますけれども、それがどこにどのような形で存在するのか、何も発表されていないんです」

岩上「これは、誰かが告発したり圧力をかけたりして、公開させるべきなんでしょう?」

田代「仕事としてはもちろん、会計検査院の一番の仕事ですよね」

岩上「会計検査院ね。一時、いい仕事をしたと思っていたら、どうも財務省と打ち合わせをしていたらしい。『お前もグルか、会計検査院』なんてね(※2)」

田代「そう。本来、会計検査院は憲法の中に規定された、珍しい役所ですよね。だから財務省や日本銀行などとは格が違うはずなのですが」

岩上「本来、権力は分立しているわけですからね」

田代「しかも権限が憲法で保障されているから、超越的立場で公開するべきなのに、大阪のどこか隅っこの小学校に使われた国有地のことでさえも『わからない』と言うんだから、どうしようもないですよね」

岩上「だめだ、こりゃ」

田代「その770トンの金塊は、政治スキャンダルという以上に、日本の円に対する信認の最後の拠りどころの1つであるはずじゃないですか。それが、『どこにあるかわかりません。知りません』と言うわけですよね。だからみんな、『興味もない』と言うわけですね。どうも興味を持つということはよくないことらしくて」

岩上「興味を持つと、いろいろとうるさいことになるし、『不利益を被りそうだ』と、われわれのほうも忖度しちゃう。でも、われわれは興味を持つ必要はありますね。すごく熱心に情報公開請求をしている方々がいらっしゃるじゃないですか。これを持っているのは日銀ですか、財務省ですか、どこですか?」

田代「管理としては財務省ですよね」

岩上「財務省に情報公開請求をすることは必要ですよね」

田代「そうですね。国民の財産ですから。しかもこれは円の信認に関わることですからね」

岩上「そうですね。まさに今日のテーマに関わることです。単純に金融や貨幣の空理空論の話だけをしていては実は成り立たないという根本的な話も含まれます。こういう話ができる人がいらして嬉しいと思っています。

 新古典派の経済学の数値や数理モデルの話を持ち出されては煙に巻かれるということが多々あるわけですよ。そんな数理モデルなんて、私にはわかりませんからね。でも、『常識で、日本語で、普通に話してください。政策レベルの話なんだから』と言っても、ごまかされてしまってきた。

 いくら忠実に取り組んでいても、現在の経済学が本当の意味での経済現象をすべて取り扱い、最適解に持っていくことができるというのは、嘘ですね。ごくごく一部の取り扱えない現象は全部『外部性』として取り払ってしまって、非常に簡単にして、それから精緻なモデルを作っているだけということになる。実はすごく大事な、人口とか、環境とか、資源とか、そういうことは入ってこない。だから現実離れしたものになってしまう。

 モデルで遊んでいるエリートがいる一方で、現実の少子高齢化の中で介護あるいは子育てをしている人、あるいは子供はあきらめようかと思っている人たちなどの暮らしの中の呻吟は大きいです。税金の重圧は重くなっていく一方で、『消費が活性化しないからマクロ経済が全然上がらない』という議論がされている。でも全部つながっているんですよね」

田代「私も大学院生の時は数理経済学が専攻でした」

岩上「一橋大学の経済学部を卒業されて、一橋の大学院経済学修士号を取得されています」

田代「国際数学者会議の一環で開かれた学会でも報告していますから、数学としては一番ハイリーアドバンスというか、難しいものを扱っているんです。だいたい数理モデルを素人相手に振り回す人は、そもそも数理モデルがよくわかっていない人ですよね。

 数理モデルが本当にわかっていれば、数学者も来るような学会で報告してほめられれば嬉しいじゃないですか(笑)。それをね、素人相手に『俺はこんなことができる』と言ってもね。クラシック音楽家が『俺は練習曲をこんなにうまく早く演奏できる』と言っているようなものであって、ちょっとそれは稚拙すぎますよね」

岩上「(笑)なるほど。稚拙なんですね」

田代「もちろん、本当の経済分析をするためには、どこかの段階で厳格な数理モデルをものすごく勉強して頭を鍛え抜くということは大事です。そうでなければ、プロの経済学者、エコノミストではないわけですよね。

 ただ、それをそのまま出すというのは、なにかこう……調理場からそのまま食料を持ってきて『さあ食え』と言っているような感じですよね。ちゃんと食べたくなるように料理するから、料理人は尊敬されるのであって。その辺をはき違える方がいらっしゃるのは、非常に残念です」


(※1)『あらかじめ裏切られた革命』:
 著者は岩上安身。20世紀最大の実験、ソビエトは無残に崩壊。都市に拝金主義が横行しマフィアが跋扈(ばっこ)する時、地方では血みどろの民族紛争が激化する。色褪せた理想、剥出しの欲望。モスクワ、グルジア、チェチェンなど歴史的な大転換の現場にとびこみ、渾身の取材でロシアの闇に迫った第18回(1996年)講談社ノンフィクション賞受賞。共産主義の崩壊、民族紛争の激化、病める巨大国ロシアの闇に肉薄している。
参照:
・岩上安身『あらかじめ裏切られた革命』講談社、1996年(amazon.co.jp)【URL】https://amzn.to/2CGmnFs

(※2)『お前もグルか、会計検査院』:
 2018年5月28日の参院予算委員会集中審議で、日本共産党の小池晃議員は「理財局長と航空局長の意見交換概要という文書を入手した」ことを明かした。文書には、2017年9月7日、国土交通省の蝦名邦晴(えびな くにはる)航空局長らと財務省の太田充理財局長らが森友問題の会計検査院報告について意見交換し、理財局が「総額を消すことが重要だが、失点を最小限に」「政権との関係でデメリットも考えないといけない」などと相談していたことが書かれていた。
 蝦名航空局長と太田理財局長とが会計検査院報告について相談している内容は、会計検査の内容への介入にあたる。
 一方、会計検査院も、財務省の決裁文書が改竄前後の2種類あることを2017年の検査段階で把握しながら、改竄後の文書をもとに検査し、同年11月に報告を発表していた。
参照:
・財務省「政権との関係でデメリット」 共産党が文書公表(朝日新聞、2018年6月5日)【URL】https://bit.ly/2VjIdpf
・IWJ「官邸が法務省を通じて検察にまで介入!?「安倍総理は否定はしなかった!」~森友疑惑・ザクザク出てくる新文書!岩上安身が日本共産党・辰巳孝太郎参議院議員にインタビュー! 2018.6.26」https://bit.ly/2Qblmsb

副作用がありながら異次元金融緩和を粘り強く続けるという黒田総裁! 続投によって誰にもわからないうちに出口を見つけられるのか!?

岩上「こちらに先生のご著書を並べてあります。その中の1つが『中国経済の真相』(2013年、中経出版)。真相を知りたいですね。

 中国崩壊論は、何回も何回も雑誌に載ったり、保守論壇が大騒ぎしたりしてきたじゃないですか。でもどの予言も当たった試しがない。ほとんどの先生の読者、あるいは先生を講演に招こうというような方々は、皆さん、中国崩壊論だけを聞きたいのだと思います。そしてそれをリクエストされるのですが、先ほど『本当の話をしちゃうと、ちょっとそれとは合わない』とおっしゃっていました。これが1つ。

 そして、今回関係あるのはこちらですね。『アベノミクスが引き金になる日本国債暴落のシナリオ』(2013年、中経出版)です。この本にサインを入れていただきました。IWJ書店で近々発売予定ですので、ぜひお買い求めください。これは会員限定です。ぜひ会員登録をお願いします。

▲『アベノミクスが引き金になる日本国債暴落のシナリオ』

 今日のインタビューのポイントですが、なんと、『金融緩和は、副作用がある』というんですね。『日銀は、副作用を残して、なし崩し的に出口戦略を検討している』と」

▲本日のインタビューのポイント

田代「はい。セリーヌの言葉を使えば、『もうすぐわれわれは異次元金融緩和のなし崩しの死を見なければいけない』わけなんですよね(※3)」

岩上「なにかこう、ちょっと文学的な表現ですね」

田代「でも、それをみんなが知らないうちに済ませるということが、黒田総裁の2期目の非常に重要なお仕事になるんじゃないですか」

岩上「ちょっと待ってください。『1つの死をもたらしておいて、誰も気づかないように片づける』って、完全犯罪じゃないですか(笑)」

田代「(笑)大蔵省、財務省の長い歴史の中でも、黒田総裁は本当に歴代きっての大秀才ですからね」

岩上「日銀出身ではないんですよね?」

田代「そうですね。でも非常に忙しい中、今でも余暇に純粋な学術論文をお書きになって親しい人に送っているそうですから。やはり本当に優れた方だと思います」

岩上「優れた方が正しいことをするかどうかはまた別だし、その政策効果が本当に実を結ぶかどうかもまた別の問題であるということですよね。

 『異次元金融緩和を粘り強く続ける』と表明している。出口は探しているんですよね。特に記者向けにはそう言っているということですか?」

田代「2013年4月4日に異次元金融緩和を始めた時には、『2%の物価上昇率を2年以内に達成するために、マネタリーベースを2倍にする』とおっしゃいましたよね(※4)。その時に『できることはすべてやった。戦力の逐次投入は一切しない』とおっしゃったわけですけれども、そのあと3年たっても4年たっても、『粘り強く続ける』と言っている。ずっと逐次投入しているわけですね。ベトナム戦争の時のアメリカのような状態になってしまったんですね。

 そこからどう抜け出すかということが大事なはずです。この難しい問題をどうするかということですが、結局また黒田総裁が引き受けるということになりました」

▲黒田総裁は強気から弱気へ

岩上「『異例中の異例の人事』だと言っています」

田代「明治にさかのぼっても、日本銀行総裁が続投すること自体が非常に珍しいですよね」

岩上「うーん、こうなると安倍総理も、3選というこれまでになかった前代未聞の権力の長期把握を築くかもしれません。独裁に限りなく近づいていくのではないかと思うんですけれども、その辺はどうなんでしょうか」

田代「私は政治学の訓練を受けていないのでわかりづらいですけれども、非常に難しいですよね。結局日本の場合、東条英機もヒトラーのような独裁者にはなれなかったですよね。途中で降板させられましたよね。

 安倍総理の母方のお祖父さんである岸信介氏の弟・佐藤栄作氏は、自民党総裁に3選したんですよね。しかし岸信介氏の言行録を読むと、その時、駆けつけて励ましたのではなく、『なぜそんなばかなことをしたんだ。自民党には総理大臣になりたい奴がうじゃうじゃいるんだ。3選なんかして恨まれないはずがない』と言ったというんです。佐藤栄作氏は『ふうん、そうかな』と言ったら、そのとおり、3期目の途中で退陣になったじゃないですか。

▲岸信介氏(Wikipediaより)

 そうしなければ自分の後継として福田赳夫氏を置けなくなってしまうので、最近NHKが発掘したように、中国との外交交渉を中断してまで退陣、幕引きをしたわけですよね。それを考えれば、(安倍総理が)3選を目指すこと自体、尊敬するお祖父さんの遺訓をちゃんと汲んでいるのだろうかと思います。

 日本銀行の総裁も、連続で就任したのは過去1回しかなく、非常に不幸な結果に終わっている。それをお引き受けになるというのは大変な勇気でもあるし、ものすごい義務感、ノーブリスオブリージュ(※5)がある方なんでしょうけれども、それが本当に日本国民にとっていいことかどうか、今きちんと検討すべきだと思います」

岩上「黒田さんには『俺がいなければだめなんだ。それだけの能力は我にある』という強い自負がありますよね。でもそれが間違ったパターナリズムに陥ることもありますからね。そこはちょっと気をつけたい。

 『金融緩和の副作用がある』ということですが、これは『ちょっと薬を飲みすぎて胃がもたれちゃって』程度ではすまない。国債が暴落する恐れがある。一方で、『マイナス金利で行き詰まった地方銀行の苦し紛れの不正疑惑』が副作用としてもうすでに現れているわけですね」

田代「これは大変なことです。私が危惧する以上に、すでに金融庁がそういうレポートを出しているわけですよ。

 そもそも地方銀行は、今後成り立っていくんでしょうかね。かつては、地方で銀行に勤務しているといったら、もう評価は高くて、合コンに行ったらすごくモテたんですけれども、今はたぶん合コンで『あの人、地方銀行に勤めているよ』と言ったら、女の子は引きますよ。

 もう銀行業の全体が、構造不況業種じゃないですか。メガバンクでさえ、今、人員をどんどん削り出していますよね。地方銀行はもっと早いんですよね。メガバンクはまだ海外で稼げますけれども、地方銀行は海外に融資する能力はないですよね」

岩上「しかし、海外の金融商品に手を出しているんですよね。これがますます危険な要素をふくらませているんです(笑)。

 新古典派のバリバリの優秀なエコノミストであればあるほど、官僚であったり、経済に強い政治家であったりしますね。私も何度も会ってレクチャーも受けました。インタビューもしました。皆さん、『人口減少は所与の前提なので、これからは生産性を伸ばせばいいんだ』とごまかしてきましたけれども、その度私がそれはムリだと言うと、『いや、それは違う。経済学を知らないのか。ドイツのようにうまくいっている国もあるじゃないか』と言うんです。

 ドイツは生産年齢人口部分をトルコなどからの移民で補うことによって、ものすごく大きな社会問題も抱え込みましたが、それを乗り越えようとしていますし、(ナチ時代の)強いレイシレズムの国が生まれ変わって、どう他民族と共生するか、呻吟して苦しみながら頑張っています。

 あれを見たら、日本なんて何も努力していないと思います。むしろ単一民族神話や他民族に対するレイシズムをことさらに煽り立て、それを権力側が許している。甘く見ているわけですよ。こんな状態ではとても経済発展など無理だと思うんですね」

田代「それが噴出したところなんですね。金融庁が『最も優れた地方銀行だ』と言ってきたスルガ銀行(※6)で、資本主義の歴史上に残るスキャンダルが起きたんですよ。銀行が預金通帳の残高を書き換えたんですから。改竄したんですから」

▲スルガ銀行本店(Wikipediaより)

岩上「すごいですよね。このスルガの栄光と転落も、1つのノンフィクションになるくらいのテーマですよね。

 実は私はスルガにお世話になっております。会社を作るに当たって、はじめは全く信用がないから、多くの銀行から資金を借り入れられなかったんですよ。結局個人で借りるしかない。それでもどこへ行っても貸してもらえなくて、最後に貸してくれたのがスルガだったんです」

田代「いや、スルガ銀行は確かにいいこともしていました。東京でも、六本木ヒルズにスルガ銀行のアカデミーを作って、非常に広い上質な啓蒙活動をしていますよね。金融だけではなくいろいろな問題に関しての第一人者を呼んで、無料で、希望者先着順に受け入れています。すぐいっぱいになりますけれどもね。ああいう立派なことをしているところでもやっちゃう。それは仕方のないところがあるんですね。あとで議論しますけれども」

岩上「それほど地銀は追い詰められているんですか?」

田代「ええ。銀行が儲からない構造ができてしまったわけですから。その副作用ですよね。銀行業が構造不況業種になっているわけですよね」

岩上「そうですよね。だいたい、マイナス金利で潤うわけがないということですよね。『貸せば貸すほど儲からない』という話ですから。

 そして、『日銀は表向き金融緩和に固執してみせる一方で、出口をこっそり検討している』のではないかということです。だから『日銀発表の英語論文のトリックを読み解く』ということが必要なんですね(※7)。これはすごいスクープですよ。田代さんから教えられて、われわれも悪戦苦闘しながら論文を翻訳して、読解してみました。そして今日、本邦初で詳しくお話をうかがいます。

 パワーポイントを読みながら『少子高齢化という人口動態からそもそも目を背け、金利操作のリフレ理論をもてあそぶ日銀の詭弁に迫る』。うわあ、これは私の20年来の持論なんです。しかし説得力を持てず力及ばずで、なかなか人に相手にされなかったんですけれども、『いよいよ』というところに差しかかっていますから、田代さんのお力も借りてお話をさせていただければと思っております」


(※3)なし崩しの金融緩和:
セリーヌの小説『なしくずしの死』からの転用である。
参照:
・セリーヌ『なしくずしの死』上下、高坂和彦訳、河出書房新社、2002年【URL】https://amzn.to/2EX9fOe

(※4)日銀黒田総裁の発言:
2%物価目標、達成「2年」は世界標準(日本経済新聞、2014年4月5日)【URL】https://s.nikkei.com/2EWMwRG

(※5)ノーブリスオブリージュ:
 身分の高いものはそれに応じて果たさなければならない社会的責任と義務がある道徳観。もとはフランスの「貴族は身分にふさわしい振る舞いをしなければならない」ということわざで欧米社会では基本的な通念。
参照:
・小学館「デジタル大辞泉」【URL】http://bit.ly/2rpILwb

(※6)スルガ銀行:
 2018年5月、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の運営会社・スマートデイズが経営破綻した問題で、オーナーに融資する際に書類改竄に関わった疑いがあるとして、スルガ銀行の行員14名、販売会社、仲介会社の担当者19人が有印私文書変造と偽造私文書等行使の容疑で告発された。
 スルガ銀行はバブル期にも財テクに手を出さず、従って不良債権を出さなかった唯一の銀行として、その名を全国に轟かせていた。その堅実な銀行でさえ、書類の改ざんをするとことまで追い詰められた。この事件は、そのような地方銀行の困窮を象徴するものとして広く知られるようになった。
参照:
・「金融史上、最悪のスキャンダル」 私文書偽造などの容疑でスルガ銀を刑事告発(弁護士ドットコム、2018年5月22日)【URL】https://bit.ly/2LBap2E

(※7)わが国の自然利子率―DSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別(日本銀行、2018年6月13日)【URL】https://bit.ly/2CErDcC

「物価上昇率2%」は6度も先延ばしされたあげく、ついにレポートから削除!「物価が上がらないのは気のせい」!?

岩上「結局、『物価がどれくらい上がったのか。上がっていないのか』ということなんですけれども、日銀がいろいろなサンプルを取って統計調査をして、『物価は2%は上がっていない』と結論しているじゃないですか。『それが問題だ』ということですよね。そして黒田さんは『物価の伸び悩みの原因は根強いデフレマインドだ』とおっしゃっていますね。『企業・庶民の心の問題なんだ』と(笑)。『心かよ!』って思いますね。

 3.11の直後に、『放射能もにこにこ笑っている人のところには来ない』というむちゃくちゃなことを長崎大学の先生が福島で言って回っていたわけですよ。その影響で、1ヵ月間雨に濡れまくった福島県民がどれだけいるか。

 あの頃私たちは事実を知って、非常に情報が規制されている中で、24時間バンバン情報を出していましたから、『それで気がついた』という福島の方は結構いらっしゃいました。

 街を歩いていて突然、『岩上さんですよね』と声をかけられたことがあります。『福島にいた者です。あの頃はお世話になりました』と手を握られて、ぼろぼろ泣いた若者がいました。『心の問題』などと言ってそのあと取り返しがつかなくなった人の悲劇を真面目に考えてもらいたいんですよ、本当に。

 特に経済の話で『心の問題だからうんと景気よく行こうか』と投資をしたり、アパートを買ったりして、そのあとバブルが崩壊したらどうなるんですか。黒田総裁のこの認識は非常に気になるんですけれども。

 2013年4月の『異次元緩和』で、黒田さんは『2年連続で、物価上昇率2%を達成する』とおっしゃっていましたね。これは、『跳べるかどうかを疑ってしまった瞬間に永遠に跳べなくなってしまう』というロードス島の格言(※8)のような話ですね(笑)」

▲黒田総裁は「デフレマインド」教!?

田代「いい言葉なんですけれどもね。ただ、中央銀行総裁がこれをおっしゃってもいいものかな。ちょっと疑問ですよね。

 例えば、『なぜグリーンスパンなどがあんなわけのわからない言い方をしたか』というのはそこですよね。『絶対に言質を取られないけれども影響力を与える』という発言がほしいんだけれども、こんなに明らかにおっしゃると、ちょっとまずいですよね。『疑っちゃいけない』わけですから」

岩上「ああ、疑っちゃいけない…。でも、『2%の達成』を6度も延期(※9)したんですね。そして2018年4月の展望レポートでは達成時期を削除しちゃった。これは事実上あきらめたということじゃないですか」

田代「まあ、実際の日付が迫ってくると、『また追加緩和がある』と読まれてしまうから、やってもやっても効果がないわけですよね。バズーカというのはいきなり発射するから意味があるのであって、いつ撃つかということがわかってしまったら意味がない。抜き打ち試験と一緒ですよね。だから削除せざるを得なくなったということです」

岩上「本当は1発目で人をびっくりさせて、デフレマインドを吹き飛ばして物価上昇期待を人々の中に植えつけるはずだった。でも動かなかったでしょう?」

田代「そうですね。やはり『金融緩和だけでなんとかなる』という異様な自信があったと思うんですね。

 実は1回、物価上昇率が1.5%まで上がったんですね。本当はあの時、『四捨五入すれば2だ』と言って勝ち逃げするという手はあったわけですね。いったん戦線を閉じて手仕舞ってしまえばよかったんですけれども、2%に固執して、『完全勝利を目指す』と言い出した。その結果が6回先延ばし」

岩上「そこで手仕舞いしたほうが、副作用は少なくて済んだと思いますか?」

田代「そう思いますね。そうすれば、もう1回戦線を整理し直すことができたんでしょうけれども、それをなさらなかったのがまずかったですね。副作用がどんどん溜まって目標は達成できない」

岩上「先ほど田代さんはベトナム戦争にたとえましたけれども、私は満州事変以降の中国大陸侵略にもたとえられるんじゃないかと思います。『戦線は拡大していない』と国内にも天皇陛下への上奏会議でも言い続けて、次から次へと戦線を拡大し、河北から中央部、そして南部へと進撃をずっと続けていった」

▲満州事変で瀋陽に入る日本軍(ウィキペディアより)

田代「上海に上陸して、さらに中国軍を追撃して南京まで行って、そこでも逃げられた。ところが重慶までは行けず、手前で決戦をかけようとして作ったのが国家総動員法(※10)なんですよ。あれで日本軍としては、それまでの能力をはるかに超えた100万人に近い軍勢を大陸に送り込むわけですよね。そのために国内経済すべてをそっちに向けた。

 ところが、海戦では勝利したけれども、主力は重慶でまた逃げたわけですよね(※11)。日本軍としてはそこまでは絶対追撃できないわけです。そうすると、100万近い軍勢が中国大陸に張りついたままになって、もうこれで日本経済はアウトですよね」

岩上「IWJでは、緊急事態条項についてたぶん一番うるさく警告を鳴らし続けているんですけれども、長谷部恭男先生(※12)という早稲田の憲法学の先生は、独特な言い方で自民党の緊急事態条項について語っていらっしゃいます。『これは国家総動員法のスイッチを憲法の中にビルトインすることだ。戦前の憲法には緊急勅令のようなものがあったけれども、通常の国家緊急権とは違うもので、一発で国家総動員法になってしまう』と。

▲早稲田大学・長谷部恭男教授

 2012年に出された自民党の憲法草案には、『基本的人権に関しては最小限配慮する』ということが書いてあったのですが、つい最近『4項目に絞りました。シンプルにしました』となって、そこには出口(緊急事態の解消)が書いていないんですよ(笑)。全部削除されています。ものすごく危険なことだと思います(※13)。

 対北朝鮮や対中国を含めて東アジアの戦争は、アメリカがやりだしたらもうつき合わざるを得ないんです。それで有無を言わさず、『これは非常時だ』ということで『緊急事態宣言を発令する』と。驚くべきことに、このことについて誰も騒がない。

 でも今私は、先生のお話を聞いていて、『金融と経済的な崩壊に対しても、それを発動する可能性があるんじゃないか』と思ってしまったんです」

田代「そうですね。出口も書かれていないし、対象も限定していないですから。ただ『緊急』と書いてあるわけですよね。私は『中国「国防動員法」その脅威と戦略と』(明成社、2011年)というブックレット(※14)で説明しているのですが、中国の動員法は、筆頭項目は金融なんですよ」

岩上「『国防動員法』というのは、まさに『国家動員法』と同じなんですね?」

田代「対象項目が列挙されていて、筆頭が金融です。要するに『次の金融危機に備えた』と考えるべきですよね。リーマンショックのあとに出てきたわけですから『あのような事態になって中国の金融資産が揺らいだ時に、それをどう封じ込めるか』ということが一番大事なんです」

岩上「中国は現実的ですね。日本はごまかしの連続。『自然災害時などに』などと言っていますけれども、自然災害の時に日本中を統制下に置く必要は全くないじゃないですか。逆にうまくいかなくなっちゃいますよね。怖い話だと思います。

 先ほどのお話だと、『達成時期を削除したのはバズーカの効き目をよくするためだ』というふうにも聞こえたんですけれども、ついにデフレ脱却を断念したんですか?」

田代「それはもちろん(笑)。ここまでコストを払ってできなくて、確実に副作用が溜まるわけですよ。そうなると、『どう手仕舞うか』ということが大事ですよね」

岩上「弱気な発言もされているようですね。『先進国が物価が上がらない問題に直面している』。責任転嫁じゃないですか?」

田代「『みんなそうなんだからしょうがない』ということ(笑)。さすが黒田さん、大秀才だと思うんですよね。そもそも世界全体で資本主義が変質しちゃったわけですよね。そのことを考えるべきなのに、『昔の資本主義システムを想定して政策を行えばいい』ということをしてしまったわけですから。この発言は弱気といえば弱気だけれども、もう一方で重大な示唆ですよね」

岩上「『資本主義が行き詰まった』という問題意識は、例えば、水野和夫(※15)さんというエコノミストも言っていますよね。資本主義は、必ず利潤が上がっていかなければいけないんだけれども、歴史的に『そこがある種ゼロの飽和点に辿り着いてしまった』とおっしゃっている。黒田さんの言う『資本主義の変質』は、そのような意味でなんでしょうか」

田代「うーむ。彼(黒田氏)はテクノクラートに徹しているところがあって、もしかしたら趣味でお書きになっている学術論文に書いてあるかもしれないけれども、今のところ発表なさらないのでわかりません。親しい人にだけに送ってくるんですって。でもそれは非常に素晴らしいものなんだそうです。黒田総裁があの激務の中で書いている。彼の慰みはゴルフではなく、純粋な学術論文を書くことになっているわけですよ。私のところへは来ないので残念です。

 水野和夫さんも指摘なさるように、例えば『おそらく1970年代の半ばくらいが資本主義のピークだった』と考えるわけですよね。水野先生が『人類1人当たりの鉄鋼生産量』を計算したところ、1974年か75年くらいでピークに達して、そこからもうずっと下降しているんですよ。

 これがまた上がったのは、中国の台頭によるんですよね。アベノミクスの前半は、中国の爆発的成長に乗っかったわけですよね(笑)。その中国も『すでに成長は飽和点を通り越した。もうV字回復はあり得ない。Lなんだ』と、劉鶴(リウ・ホー)(※16)という中国の経済顧問役がはっきり言っています。」

▲劉 鶴 (りゅう かく、リウ・ホー)中国国務院副総理(Wikipediaより)

岩上「ええっ。『L』? もうちょっと頑張ってくれないかなあ(笑)」

田代「V字回復を目指すから、めちゃくちゃな借り入れが起き、不良債権が生じて、バブル崩壊が起きるんじゃないかということですね。彼らのほうにリアリズムがありますね」

岩上「中国は、日本の高度経済成長を追うかのように、あるいはそれを何倍かしたような短い期間で、すごい成長をしたんですね。その代わり、バブル崩壊したあとは日本の停滞を先行して学んで、停滞を受け入れて、悪あがきをして副作用をふくらませていくよりはバランスを取ったほうがいいと判断したんですね」

田代「『二桁成長はもう追わない』と数年前から言っていますよね。今のような一桁成長でも、今『6%台』ですけれども、『次第に4%台、次は2%台』というように、現実を受け入れた上でどのように経済を運営するかということを考えるわけですね」

岩上「すごいな。大人ですね」

田代「うん。日本のほうが非常に少年っぽいですよ(笑)。『跳べるかどうか疑った瞬間に永遠に跳べなくなってしまう』というのは、かっこいいですよね。J-POPの歌詞に使えますよね」

岩上「ええ(笑)。跳ぶことしか考えていませんからね。『山はゆっくりと安全に下りていくものだ』と言っているわけじゃないですからね。『上昇しかない』わけですよ。

 とにかく先進国全体が『資本主義が変わった』と言うのは、今言ったような鉄鋼の話もあるんでしょうけれども、『全体に急成長することが難しくなった』ということですね」

田代「もちろんです。まず人口がそんなに増えない。やはり1950年代60年代というのは日本だけではなくて世界の先進国で人口爆発が起きたわけですね」

岩上「ローマクラブが心配していたわけですよね」

田代「そうですよね。『地球全体で人口爆発が起きるのではないか』と、真剣に心配していたわけです。それくらい人口の押し上げがすごかったわけですよ。特に日本はそれが劇的に効いて。でもそれが失われていった」

岩上「定常人口になってくれば経済も爆発的な成長ではなくて、定常的な状態を保つ。これは理屈では合っているんですよね」

田代「そうですよね。1950年代、60年代の高度成長自体が、異常事態中の異常事態だったんですね。それを『もう1回』と言う(笑)。ツケは大きいでしょうね」

岩上「いやあ、危ないなあ。私はもうすぐ59歳になるんですけれども、若い時の夢を追って、『若い時は体が動いたな。もう一度自分が若い頃にやっていたスポーツをやってみたい』と、ラグビーをやってみたこともあるんです。でもラガーを目指して明日急に走り出したら、絶対アキレス腱を切ったり足がつったりしますよね(笑)」

田代「下手をすると、心臓がバクバクしちゃうとかね。しかし中央銀行総裁というのは、超人なんですよ。頭がいい上にものすごい体力がありますよね。

 毎月、海外にものすごい出張をします。バーゼルで2ヵ月に1回、各国の中央銀行総裁が集まる会議がありますよね。あれに必ず行かなければいけないんです。これは年齢を考えると大変なことですよね。体調が悪くても必ず行かなければならない。もし日本銀行総裁が行かなかったら、それだけでもニュースですよね。もう、ウォール・ストリート・ジャーナルの1面に書かれますよ」

岩上「それは、そうですよね。まあ、安倍さんが来なくても誰も気がつかないかもしれませんけれども(笑)」

田代「(笑)そういうことを考えれば、やはり尋常ならざる知的能力と体力の持ち主なんですよ」

岩上「はあ。だから成熟経済を人間の一生にもたとえて、『いやいや、まだいける』と思っちゃったんですか?」

田代「そうかもしれないですね(笑)。ご自分のことを考えると。でもそういった人には起きやすいじゃないですか。非常に超人的な能力を持った社長が大変なことを言って、凡人たちが大変なことになっている会社がありますね」

岩上「社長はブラックのつもりじゃなくても、それはブラック企業になっちゃう。」

田代「そうそう。それを考えると、そういう超人的な総裁でもこのような弱気な発言をされているのは、いかに事態は深刻かということですよね。このことをまず受け入れて、その上でどうするかと考えるべきなんですけれども。そうは言っていないですね」


(※8)ロードス島の格言:
 古代ギリシャの寓話作家・アイソーポスの寓話「ほら吹き男」の話しから、「さあ、ここがロードスだ、ここで跳ぶがいい!」という成句が知れ渡った。
 ロードス島で大跳躍をしたと豪語する競技選手の男が、「ロードスに行って、俺のことを聞いてみるがいい」とアテネで吹聴していた。そこでアテネの男が砂の上に「ロードス」と書き、ロードス島の競技選手に向かって、「さあ、ここがロードスだ、ここで跳ぶがいい!」と言ったという。
 この成句は、「己の能力や力を証明するのに、神話や物語、名の知れたものの力を借りる必要はない」ということを意味する。
参照:
・ギリシャの「イソップ」とAKB48との意外な関係(Greece-Japan、2015年2月19日)【URL】https://bit.ly/2Sqi0DN

(※9)物価上昇率2%の達成を6度も延期:
 黒田東彦・日銀総裁が2013年4月に就任し、物価上昇率2%という目標を掲げたものの、2017年7月に行われた金融政策決定会合で6度目となる目標達成延期を決めた。
 黒田総裁は就任当初、物価上昇率2%の達成を「2年程度」と見込んでいた。その後、2015年4月、同年10月、2016年1月、同年4月、同年11月に目標達成時期を延期した。
 なお、黒田総裁は2期目に入った2018年4月、「2019年ごろ」としていた目標達成時期を削除したことを明かした。
参照:
・日銀、物価2%達成「19年度頃」に先送り 金融政策は現状維持(ロイター、2017年7月20日)【URL】https://bit.ly/2CFjdlf
・主張 日銀物価目標延期 アベノミクスの破綻浮き彫り(しんぶん赤旗、2017年7月22日)【URL】https://bit.ly/2VcVCzD
・物価2%「19年度」削除 日銀、達成時期示さず(東京新聞、2018年4月28日)【URL】https://bit.ly/2EUSqCS

(※10)国家総動員法:
 1938年(昭和13年)第1次近衛内閣によって第73帝国議会に提出され、制定された法律。 日中戦争の長期化による総力戦の遂行のため国家のすべての人的・物的資源を政府が統制運用できる(総動員)旨を規定したもの。
参照:
・国家総動員法(Wikipedia)【URL】https://bit.ly/2z3Icet

(※11)重慶爆撃:
 日中戦争が1937年に始まると、日本軍は中華民国の首都・南京を制圧した。南京を拠点としていた中国国民党の蒋介石は首都を内陸の漢口に移転するも、陥落し、さらに内陸の重慶へ移り、日本軍に対する徹底抗戦を宣言した。
 日本軍の歩兵部隊は奥地の重慶まで到達することができなかった。大本営は、歩兵部隊による追撃から空爆へ方針を転換。空爆は1938年12月から始まり、1943年8月までに計218回にも及ぶ爆撃が行われた。
 特に1941年5月から同年8月にかけての爆撃は激しく、日本軍は無差別爆撃まで行った。しかし、蒋介石の国民党政府は屈服しなかった。
参照:
・重慶爆撃(世界史の窓)【URL】https://bit.ly/2SnvzDX
・重慶爆撃(Wikipedia)【URL】https://bit.ly/2Gnvzhf
・IWJ「【IWJブログ】戦略なき戦争へと突き進む軍事国家・日本の真実~岩上安身による軍事評論家・前田哲男氏インタビュー 2013.10.5」【URL】https://bit.ly/2EWgWEG

(※12)早稲田大学大学院法務研究科教授・長谷部恭男氏インタビュー:
 長谷部教授には、2017年9月25日に岩上安身がインタビューを行った。1時間45分にわたり自民党改憲草案の緊急事態条項の問題点に鋭く切り込み、わかりやすく解説された。
参照:
・IWJ「自民党改憲草案の緊急事態条項は戦前の国家総動員法の起動スイッチ!? 衆院解散で「ナチスの手口」がいよいよ現実に!? 岩上安身による早稲田大学教授 長谷部恭男氏インタビュー 2017.9.25」【URL】https://bit.ly/2Er979k

(※13)自民党改憲案4項目:
 自民党憲法改正推進本部は2018年3月25日、改憲4項目の「たたき台素案」を条文の形でまとめた。4項目は、①9条改憲、②緊急事態条項、③参院選「合区」解消、④教育の充実。
 緊急事態条項には、新たに第73条の2の1項、2項と、第64条の2が追加された。2012年の自民党改憲草案における緊急事態条項と比べると簡潔な条文になっているが、実際は「いつでも」「いつまでも」独裁が可能な条文に変わっており、危険性はより高まったといえる。
参照:
・IWJ「いつでも独裁が可能!? いつまでも独裁が可能!? 憲法で堂々と独裁を肯定!? より危険性が高まった自民党新改憲の緊急事態条項!~5.21岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー 2018.5.21」【URL】https://bit.ly/2LEj73b
・IWJ「ほとんどの日本人が気づいていない!! 自民党改憲4項目の #ヤバすぎる緊急事態条項で、より高まったファシズムへの危険性!安倍総理は臨時国会の所信表明で改憲への強い執念を表明!全国民必見必読の岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー 2018.10.30」【URL】https://bit.ly/2s2URLS
・IWJ「【岩上安身不在の穴を埋めるピンチヒッター企画 第9弾!】 改憲の目的はただ一つ!「戦争ができる憲法」だ!『安倍「4項目」改憲の建前と本音』著者・神戸学院大学 上脇博之教授にIWJ京都中継市民・北野ゆりがインタビュー 2018.12.24」【URL】https://bit.ly/2SpjgXG

(※14)中国の「国防動員法」:
 インタビュー中でも述べている通り、田代氏によると、中国の「国防動員法」は金融を非常に重視している。
参照:
・田代秀敏『中国の「国防動員法」―― その脅威と戦略と』明成社、2011年【URL】https://amzn.to/2BRGP4C

(※15)水野和夫:
 1953年生まれ、経済学者。法政大学法学部教授。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官、内閣官房内閣審議官を歴任する。
 水野教授は、先進資本主義諸国における利子率の異様な低下に、資本主義の終焉を読み取る。
参照:
・IWJ「機能不全に陥った資本主義 「フロンティア」なき時代、私達はどのような社会を作るべきか ~岩上安身による日本大学国際関係学部教授・水野和夫氏インタビュー 2015.1.28」【URL】https://bit.ly/2EYCoJb

(※16)劉鶴:
 2018年3月に中国国務院副総理に選出された4人の内の1人。米ハーバー大学卒での経済学者で、中国共産党内では経済アドバイザーとして活躍していた。担当は経済・金融政策。
参照:
・劉鶴・中国副首相 物静かな経済学者が経済政策のトップに(BBC、2018年3月19日)【URL】https://bbc.in/2StBLKQ

経済は生き物。背景を見ないデータで物ごとは判断できない! インフレ期待とインフレ不安は表裏一体と見るべきではないか!?

岩上「一方で、この日銀の『生活意識に対するアンケート調査』による『一般市民の物価の実感』はちょっと違うらしいです。2017年9月、17年12月、18年3月の平均値が+4.2%、+4.5%、+5.8%になっていて、中央値が+2.5%、+3.0%、+5.0%」

▲黒田総裁は「デフレマインド」教!?

田代「平均値は計算しますけれども、中央値はデータを並べて、ちょうど真ん中を取ってみるというものですね。平均というのは『極端な値に引きずられやすい』ということがありますよね。

 例えば、『日本の大学で保護者の平均所得が一番大きい大学』というのは、ずっと東京大学なんですが、1年だけ例外があるんです。国際基督教大学。ロックフェラーの御曹司が留学したんですよ(笑)。桁違いに上がったわけですね。

 そういうバイアスを排除するためには、中央値を取る。ただしお分かりのように、中央値と平均とは違うので両方書くわけですね。

 それで見ても結構(物価)が上がってきているんですよ。アンケートを取った人の多くはだいたい庶民というか、実際にお店で物を買う人が多いですよね。野菜などを買うとてきめんに効きますよね。特にこの3月は野菜の高騰が非常に大きかったですから。それを考えれば2%目標はとうに達成しているような気はするんだけれども(笑)。

 日本銀行が全体的な物価水準を図ってみると、実は増えていない部分があるんです。しかもそちらのほうが当然、商いとして一般消費財よりも大きいわけですね。その平均を取ってみると、まだ2%には行かない。そのずれはあります。あとはやはり、『心の問題』がまずいんですよね。

 1960年代終わりくらいから、経済学の世界で『合理的期待形成理論』という考えが出てきました。それまでの経済学は、『人々が未来をどう考えるか』ということの経済的な役割を無視していたところがあったんですね。まあ、どう扱えばいいかということが難しかったんですけれども、それをうまく扱うような仕組みが入ってきた。それによってマクロ経済学が書き換わったということがあったんです。それが約半世紀かけて日本的解釈になった。

 まるで石田梅岩(※5)の『石門心学』のようじゃないですか。徳川時代の豊かな商人たちが、石田梅岩が『まず心の持ちようが大事だ』と言ったことに反応したんですね。厳しい政治体制で身分制度が厳格な中だとそれしかないわけですよね」

▲石田梅岩(Wikipediaより)

岩上「そうですね。『変えられるのは心持ちだけだ』ということですね」

田代「ある意味でそんな感じなんですよね。合理的期待形成論のインパクトが、日本では『心の問題だ。インフレは来ると思えば来るんだ』と解釈されている(笑)。よく言うじゃないですか。『国債は暴落してほしくないとみんなが思っているから、暴落しないんだ』と」

岩上「いや、私はね、これはなにか宗教にも聞こえるんですよ」

田代「だから『石門心学』ですよ」

岩上「もっと言うとね。ちょっとたとえは悪いかもしれないけれども、オウム真理教のように、『修行すれば体は浮くぞ』と呪文を唱え続けていれば、そしてみんなそう言えば、必ずそうなると思い出す。ある種のマントラ、真言、呪禁を唱えているかのような状態です」

田代「そうですね。この『すべてを希釈してしまう』というのは、日本の思想が陥りやすいピットフォールですよね。そして客観的な事実・問題性を指摘する人がいると、『あなたのように言う人がいるから、うまくいかないんだ』と言われる。見ることを忌避する。『そういうことはよくない』という」

岩上「だめだなあ。だから唯物論は嫌われますもんね。『唯物論』と言っただけでね」

田代「観念論でもなんでもいいんだけれどもね。問題は、『リアリズムがないこと』なんですよね。じっとじっと虚心に見て、これ以上見られないというところまで見て分析するということができないわけですよね」

岩上「いや、全くそのとおりです。しかもよく聞くと、いつの間にか人のせいにしているんですね。『この政策でうまくいくはずだった』と。勝っていれば全部自分の手柄だけれども、今やその責任は『企業と庶民に責任転嫁』と聞こえるわけです。

 ところが、確かに統計では2%に行っていないらしいんです。『体感の物価では高い』ということ。これ、ツイッターのハッシュタグで流行ったんです。『#くいもんみんな小さくなってませんか日本』。なんでも小さくなったり、数が少なくなっている

▲#くいもんみんな小さくなってませんか日本

田代「この写真は有名なブランドのジャムだけれども、明らかに瓶が小さくなっていますよね。同じ価格で売っているとすれば、確かに実質的値上げですよね」

岩上「500mlの清涼飲料水が480mlになっている。上げ底でしょう。チーズ、チョコレートがひと周り小さくなっている。価格は変わらないのに食べ物はこっそり小さくなっている。もずくの酢が増量され、パッケージが透けて見える(笑)。悲しいですね。食べ物じゃなく洗剤も小さくなっている。これは実質的なインフレだと思っています。どちらが正しいんでしょうか?」

田代「それは、日本銀行から見れば『けしからん』と思うでしょう。つまり、物価センサスの問題として、そこまで詳しくできないわけですよね」

岩上「『センサス』というのは、調査ですよね?」

田代「調査する時に、本当に開けて何個入っているかまでは調査していられないから、同じ商品は同じ商品としてカウントしていくから、そうすると、実際は値上げが起きているのに、経済統計の上ではそれが反映されていないということになる。

 最近は文句を言う人がいますけれども、おっしゃるとおり、これは実質的なインフレになっているわけですね。でもそれを被っているのは庶民だから、そこはもう、『1年間で5%くらいの物価上昇が起きているのではないか』と思うわけですよね。

 しかし問題は、最初に非常に高いハードルを設けて『一般的な消費者物価指数で2%という上昇が安定的に続く』という目的に限ってしまったことですよね。今さら妥協できないですよね」

岩上「妥協できないんですか。『5%だから2%を達成していることになっているんじゃないか』という気がしないでもないんですけれどもね」

田代「これだけみんなが物価圧力と感じると、どんどん財布の紐が堅くなって、貯蓄性向が高まりますよね。当然それは景気を冷やしますよね。何のために異次元金融緩和をしたかというと、景気をV字回復させるためだったわけでしょう」

岩上「だから本当にこれはおかしな話です。未来に向けてこのままインフレが続くということは、物価上昇であると同時にものが売れているということで、ものが売れているということは景気がいいということで、そうすると当然給料も上がってくる。『自分の給料の分で貯めておかなきゃ』というよりは『明日物価が上がっちゃうくらいなら、迷ったり渋ったりしていないで今日買っちゃおう』という気持ちになっていくことも大事だという話ですよね。

 そういうインフレの期待が大事なのであって、『そのためにインフレ期待を起こす』と言っていますけれども、『インフレが起こるぞという期待』というよりは『インフレ不安』になってしまって、『これが続くんだろうな』と思うから『できるだけ食べるものも安くやっていこうか』というふうになってしまう。インフレ期待とインフレ不安は表裏一体だと思います。

 やはり皆さんの雇用の安定とか、昇級への将来性とか、長い見通しがないと、家なんて買えませんよ。それと、身分の安定です。非正規がどんどん増えていく。竹中平蔵(※2)のやっていることは、どんどん掘り崩しているようなもので、要するに、インフレ期待をインフレ不安に変えていっちゃっているんじゃないかと思います」

▲竹中平蔵氏(Wikipediaより)

田代「それは非常に鋭いご指摘です。実は、安倍総理の経済指南役のお1人である浜田宏一先生が昔お書きになった『マクロ経済学と日本経済』(黒坂佳央・浜田宏一著、1984年、日本評論社)という大変優れたテキストがあって、私はそれを学生の時によく勉強したんですけれども、そこに非常に鋭いことが書いてあります。

 『インフレーションが発生すると、アメリカでは消費が活発になる。値上がりする前に買っておこうと考える。日本人は逆だ。値上がりするのなら今のうちに金を貯めておこうと思ってますます消費を減らしてしまう』と。

 そういうふうに、経済というのは生き物だから、まずデータを、その背景に遡ってよく見るべきだし、基本的には人の生き方の違いが出ますよね」

岩上「そうしたさまざまな社会政策が、成功させる方向へ向かってきちんと整っているかどうかですよね。一方で正社員を減らして不安を煽ってしまえば、インフレ期待ではなくてインフレ不安になってしまうのではないかと思うんですよね」

田代「おっしゃるとおりです。インフレ期待がインフレ不安になってしまえば、こんなふうに非常に物価上昇を感じていても、ますます財布の紐を引き締めることになりますよね。

 そういうことを浜田宏一先生は大昔からお書きになっていたんですけれども、今はどうかわからないです」

岩上「浜田さんは、黒田さんの先生でしょう」

田代「そうじゃないと思います。黒田総裁は法学部を卒業なさっているから。浜田宏一先生は経済学部の教授でした」

岩上「浜田さんは安倍内閣において何の役割を果たしていらっしゃるんですか。アドバイザーというところですか」

田代「最初は、2012年の総選挙の前に、アメリカから安倍総裁に『あなたの主張はすべて正しい』というFAXをお送りになったわけですよね。それを一時期、安倍総理は印籠のようにしていましたね(笑)。もちろん浜田先生は、日本が世界に誇る大変な大経済学者のお1人です。昔お書きになったことは非常に慎重でね。おっしゃるとおり『日本人はインフレ期待がインフレ不安になりやすい』わけですから」

岩上「そうですよね。私はそういうことが経済の外部性だと思うんですよね。そういうことまで考えなければいけない」

田代「そう。考えないといけない。そこが今どうなのか、非常に気になるところです。おっしゃるとおり、庶民は『物価が上がったら大変だ』と感じている。そしてますます財布の紐を固くしてしまう。だからデフレマインドに陥る(笑)。ますます事態は悪化していきますよね」

岩上「悪化していきますよ。『どうするんだ』という感じになりますよね」


(※1)石田梅岩:
 江戸時代の思想家。11歳で京都の呉服屋に丁稚奉公し、番頭業に従事するかたわら物事の本質を探ろうと学問や宗教を模索する。のちに在家仏教者・小栗了雲に師事、人の道を人々に説くことを思い立ち、それがのちの「石門心学」となる。学問、宗教の別を問わず心を磨くということで、「商人の武士道」ともいうべき教えが広く受け入れられた。
参照:
WEB歴史街道【URL】https://bit.ly/2QTgjC3

(※2)竹中平蔵:
 竹中氏が一貫して推進してきた新自由主義政策については、7月16日、竹中氏の評伝『市場と権力』(講談社、2013年)の著者、佐々木実氏に岩上安身がインタビューしている。
参照:
「竹中平蔵の正体」 〜岩上安身による『市場と権力』著者・佐々木実氏インタビュー 2014.7.16 【URL】https://bit.ly/2CGdziV

日銀の物価上昇率未達成の原因分析は正しいのか!?インフレ予想のアンカーの正体はなんだ!?

岩上「次に、『日銀の物価上昇率2%未達成の原因分析』とテーマについてお話をうかがいたいと思います。

 日銀は、『日本におけるインフレ予想のアンカー:ラーニング・アプローチ』(2018年4月)、という論文を発表しています。私は慣れない苦労をしながらそれを探してみました。英文は探しやすいんですけれども、日本文が探しにくいんです。付表の論文集ですね。『インフレ予想とは、消費者・企業・市場関係者が予想する将来の物価上昇率のこと』とあります。『今』ではなくて『将来』なんですね。この論文が非常に大事でいいことが書いてあるということなので、先生に教えていただければと思います」

▲日銀の物価上昇率2%未達成の原因分析

田代「『ラーニング・アプローチ』とありますよね。これは行動経済学(behavioral economics)というね。経済学は伝統的に、まず理論を作って、そこから演繹的に議論していく、データを用いて検証していくというものだったんですけれども、もっと経済活動をしている心理的な動きまで考えて行おうということです。要するに行動科学のアイデアを経済学に持ち込んだんですけれども、それが最近の流行りなんですよね」

岩上「『人をブラックボックスと考えて、インプットとアウトプットの関係性を見ていく』というようなものですね」

田代「では、どういうふうにラーニング(学習)していくのか。『インフレ予想とは、消費者・企業・市場関係者などが予想する将来の物価上昇率のこと』というのは一般的な定義ですね。『インフレ予想』はよく『インフレ期待』という言い方をしますけれども、明治時代には、『期待』とは『エクスペクテイション(expectation)』のことで、よくも悪くも『期待』だったんですけれども、今の日本語では『期待』というといいことになってしまうから、まあ『予想』という中立的な言い方がいいと思いますね。

 そして、『インフレ予想』というのは、いろいろな経済活動をする人間たちが、将来物価上昇率がいくつになるか予想したことなんですね。

 それをどういうふうに形成するのかということを、おっしゃるとおりブラックボックスとして外から考えてみると、まず当然、今目の前で起きているインフレーションの大きさを前提にするだろうということですよね。しかも肝心なのは、『それを先取り、先行して動く』と考えたいわけですね。

 それで中央銀行は、人々の『どういうふうに修正していくのか』というインフレ予想を考えて、その目標値を作るわけですよ。人々の頭の中で考えている予想値が目標値に行くようにいろいろな金融政策を行って、『物価は本当に上がるよ、あんたのいうことは正しいというふうに持っていこう』『そういう学習をやっていこう』という発想ですよね。果たしてそれが正しいかどうかは別として」

岩上「誘導にしか聞こえませんし、マニピュレーションとも感じられますね」

田代「まあ、説得といってもいいけれども。重要なのは、どちらかというと『バズーカ』という発想ではないんですよね」

岩上「ああ、確かに迫力を欠いていますよね」

田代「バズーカという路線は世界の主要銀行の中では古くなったんですね。元FRB(連邦準備制度理事会)議長のバーナンキは、ポールソンゴールドマン・サックスのトップからブッシュ政権に請われて財務長官になって、金融危機の収束に貢献しました。彼はバズーカを連発しましたよね。とうとう最後にバズーカが効かなくって、みんなが『大したことない』と思ったら、もうそこでガラガラッと来たわけです。

 それまでは、『ものすごい債務を抱えた金融機関に巨額の金をぶち込んでなんとかする』ということを次々と行いました。あの頃、ウォール・ストリート・ジャーナルにも、彼がバズーカ砲を担いでドーンと撃つ漫画が載っていましたよね。

 あの人は恐慌論の世界的権威で、昭和金融恐慌などが全部頭に入っているんですね『あの時、井上準之助はどうしたこうした』などと言える人なんですよ。世界中の金融恐慌の歴史が頭に入っているんです。あの人をFRB議長にした時に『アメリカは何を考えているのか』と、私は覚悟しましたね。あんなに偉くなる前に、一橋大学に来たことがあります」

▲井上準之助 元日銀総裁(Wikipediaより)

岩上「ああ、なるほど(笑)。『インフレ予想』ならぬ『昭和金融恐慌二の舞予想』」

田代「ところが彼はなにをやったかというと、世界大恐慌の二の舞を起こさないために、発想を変えたんですよ。『フォワード・ガイダンス』です。時間をかけてちら見せしたじゃないですか。例えば『アメリカが金融緩和を止める』ということも、ずいぶん前から予告していましたよね。それで黒田総裁が2013年4月4日に『日本が異次元金融緩和をドーンとやります』と言ったのを見届けて、翌月5月に『アメリカは金融緩和からの出口を探る』と言ったわけですよね。

 そこから時間をかけて説得して、今はもう、金利が上昇し始めたんですね。そういうことを『フォワード・ガイダンス』といいます」

岩上「『フォワード・ガイダンス』ね。『将来についてきちんと説明する』というようなことですか」

田代「知恵袋的に言うとこういう感じかな。みんなにラーニングさせるわけですよ。『こっちに行くからね』と次第にやっていく。これがまあ、バーナンキ以降は定着した。ジャネット・イエレンも同じ路線ですよね。時間をかけて説得する」

▲ジャネット・イエレンFRB議長(Wikipediaより)

岩上「しかし彼らは日本が始めるのを期待しているんじゃないですか。日本がバズーカを撃って、自分たちはその間に『あとはよろしく』と手仕舞いする」

田代「世界における流動性供給、つまり金融緩和のアンカーになっちゃったんですよ。日本が最後にやるからアメリカが出ていって、とうとう今、ヨーロッパの中央銀行も『金融緩和の出口に向かう』と宣言しましたよね。それは、日本がずっとやり続けることは前提なんです」

岩上「『インフレ予想のアンカー』というのはそういうことなんですね。バーナンキが手仕舞いをしていったわけですよね。もちろんバーナンキがいる間、緩和は行われていたけれども、上手に手仕舞いをしていた。その時に日本にうまく託しちゃったんじゃないかな」

▲インフレ予想のアンカー

田代「アンカーというのは『錨』ですよね。錨がついているように引っかかって、インフレ予想が上がらないわけですよ。『経済に加わったショックに対して、インフレ予想がほとんど反応しない』ことと定義されると『ラーニング・アプローチ』にはあります。つまり人々が、いくら黒田総裁がわーっと勇ましいことを言っても反応しない。それは『みんなの予想に錨がついている』ということです。次は、『錨の正体はなんですか』ということを考えるわけですよね」

岩上「しかし『錨の正体』というのは、金融の難しいことを考えなくても、日本の置かれている社会的な現実から見ることができると思うんです。例えば、人口が老齢化していくわけですよ。そうしたら『不安があるから、そんなに派手に金を使わないだろう』と予想できます。『病気になるかもしれない。いつまで長生きするかわからないし、やはり蓄えておこう』とか、『孫でも生まれていれば、孫は可愛いから支出するけれども、そうでなかったらやはり抱え込んじゃうよね』とか、いくつもの理由が考えられる。

 そういう社会的な現実ではなくて、『金利をいじることでどうにでもなる』『貨幣量で決まる』『マネタリストなんだから』というような議論がある。社会の構成要素などは、非常に大きな数値になってしまって計算できないのかもしれませんけど、そういうところから『重荷とはなにか』と考えることをしないんですかね」

田代「ケインズが一般理論の最後のセクションに書いています。『みんな格好いいことを言うけれども、たいてい若い時に学んだことにずっととらわれているよね』と。今、経済政策を担っている方の若い時は、日本全体が若くて人口がどんどん増えていって、消費活動が積極的で、それが景気を押し上げていましたね。

▲ジョン・メイナード・ケインズ(Wikipediaより)

 そういえば、この前、石破茂さんの講演を聞く機会があったんですよ。すごくお上手なんですね。感心しました。彼が大学で講演をした時のことに触れて、『僕が若い時は、車に乗って助手席に彼女を乗っけてドライブに行くというのが夢だったけれども、君たちの中でそういう夢を持っているか』と質問したそうですが、誰もいなかったそうです。しかも、そもそも自動車の免許を持っている人がほとんどいない」

岩上「そうですよね。それが現実ですよ」

田代「やはり若者からすれば、『自分の周りに若者はいなくて、年寄りがどんどん増えている。この人たちをどう支えればいいんだ。きっと重税が来るに違いない』と思うでしょうね。あるいは、『自分は年金を支払っても受け取ることはないんじゃないか』と考えれば、異様なほど貯蓄しますよね」

岩上「やはり税金の割合だけじゃなくて、いわゆる社会保障の負担額が重くなっているんですよ。それに耐えかねて、身の処し方を変える転職をするとか、商売替えをするとか、そのくらいの動因になるほど重くなっていると思うんですよ」

田代「おっしゃるとおりです。そういうことが錨になっている。いくら煽っても、若い人たちは自動車免許を取りにいかないし、無理にローンを組んで自動車を持とうとはしない」

岩上「これを『志向の違い』とお茶を濁すこともあります。『今の子はなんでもパソコン、スマホで済むので、ドライブしようと思わないんだ』とか、『今の若い子は草食系だから、女の子を口説く道具に車を使わないんだ』とか、社会学的なアプローチで言い換えますが、違うと思うんです」

田代「やはり彼らも真剣に生きているわけです。冷静に考えれば、日本の財政破綻確率は、どんどん高まっているわけですよね。しかも、すべきことをどんどん先延ばしにするわけじゃないですか。『選挙目当てで』と言ったら失礼かもしれないけれども。そしてそのツケは全部回してしまう。いくら安倍さんでも、さすがに4期目はないだろうから、もっと先に、そのツケが今の若い人たちに被さるわけですよね。それを考えれば、どんなに『消費しろ、消費しろ』と言っても、それが確かにアンカーになっている。

 この前、日経エイジアンレビューに『日本にバブラーを』と書いてありました。ディスコのマハラジャが京都の祇園に復活したんですって。『40歳代の女性が、1989年の自分が19歳の時、バブル絶頂期に着ていた服でやってきた』とありました。ちょっと無理があるかなという感じだけれども(笑)。そういうふうにいくら吹いても、結局来るのは、かつてのバブル期に若かった人が来るだけ。その時の服を引っ張り出してみたところで。今の19歳は『ふうん』で終わりなんですね」

岩上「本当に申し訳ないんですけれども、その人たちは団塊ジュニアでありアラフィフの人たちです。そこですごくセクシーに踊っても、新たな恋が生まれて、家庭ができて、子供が生まれて、合計特殊出生率がぐんと上がって、少子化が解消するなんてことはないんですね」

田代「だから、インフレ予想のアンカーは大事な考えなんです。アンカーが外れるかアンカー自体が上がらない限り、てっぺんのところは変わらないわけですね」

岩上「つまり『日本におけるインフレ予想のアンカー』というのは、『重し』ということなんですね」

田代「そのとおりです。周りを見れば、東京の23区でさえどんどん空き家が増えているじゃないですか。一応きれいにはしてあって、ごみも落ちていないけれども、実は誰も住んでいない。日曜も雨戸が閉まったままじゃないですか」

岩上「増えているんですよ。路地を丹念に歩く人でないとわかりませんけれども。東京にはやはり細街路、細い道があるんですよね。戦争で焼けなかったところなどは道路が拡幅されていませんので。戦後、自動車社会になるとは思っていなかったじゃないですか。だから接道が悪いところは価値がすごい低いんです。もう地上げ屋も来ないんですよ。そういうところがずいぶんあるんですよね」

田代「人々はそういうものを見て暮らしているわけです。それは確かにものすごいアンカーですよね」

岩上「アンカーですよね(笑)。ものすごいエネルギーでザーッとそこらを買い占めて、皆さんにきちんとお金をあげて出て行ってもらって、道路区画をして、バーンと家かビルを建てるというようなことをできるエネルギーが、80年代にはあったかもしれないけれども、今の日本にあるかということですよね」

田代「しかもそのツケをみんな見ているわけですから」

ファーウェイ日本法人の大卒初任給は40万円! 中国本社では80万円!?

岩上「さて、『日銀による物価安定目標へのアンカーが阻害されている理由とは?』ということですけれども、『2013年1月に導入された2%の「物価安定の目標」や同年4月の異次元金融緩和を契機に、長期インフレ予想の推計値は2015年前半まで上昇したが、同目標へのアンカーは途半ばにある』んですね」

▲日銀による物価安定目標へのアンカーが阻害されている理由とは?

田代「2014年夏から2016年夏にかけて、原油価格の下落がありました。一時期、ガソリンが大変安かったでしょう。100円を割った時があったじゃないですか。それから海外経済の景気減速が下押しに作用して、インフレ予想がまた押し下げられた」

岩上「でもこの原油価格の下落は、日本にとっては本当に助かったと思いますけれどもね。あの時、アメリカがシェールを始めて、サウジアラビアは同盟国だけれどもライバルですから、ものすごく原油価格を下げるような大増産をした。それで『ロシア潰しか』ともいわれたんですけれども(笑)、そういう地政学的な理由での大増産をしなかったら、下がっていないんですよね。あの時にひと息つけたんですよ」

田代「はい。ところがあの景気浮揚のチャンスを逃しちゃったんですよね」

岩上「活かせなかったということですよね」

田代「なぜかというと、それを『邪魔なものだ』と考えたからです」

岩上「でも、私はちょっとおかしいと思うんですね。これはうまく使えるはずです。例えばオイルショック前と後で比較すれば、オイルショック前は石油価格は低かったじゃないですか。それはすごく日本の高度成長に寄与したわけですから、やはりこれも高度成長に寄与するはずです。だから私はやはり、『別のところに原因があるんじゃないの』と言いたいんですよね。いかがでしょうか」

田代「確かに国内の財・サービス市場におけるマークアップ(原価に加えられる一定の利潤、利幅)要因が、1990年代後半以降、インフレ予想を継続的に下押ししています。マークアップはコストに対して売る時に盛りますよね。その盛った分なんですよ」

岩上「利益ということですか」

田代「利鞘をつけますよね。その部分を『マークアップ』と言っているわけですね。このマークアップのつけ方に原因がある。これがどんどん小さくなっている。『マークアップを下げないと競争に勝てない』となりますよね。ブラック企業ができるのはそれが原因じゃないですか。まともな賃金を払えなくなってしまうわけですね。『とにかくもう社会全体でブラック企業化しよう』ということになって、出てくるのが……」

岩上「『働き方改革』ですね」

田代「そうですね。『残業代をなくせばよい』ということになります」

岩上「めちゃくちゃですよ、本当に」

田代「もっと言えば、『もうタイムカードをなくそう』ということにもなりますよ。つまり『企業側に労務管理の責任はない』ということになってしまうわけですね」

岩上「その代わり、『○○をやれ。納期は○○までだ。わかっているだろう』と言われるわけですよね。そして『あとは自分で判断しろ』と自己責任になる」

田代「もうそういうことで突破しようというくらい、このマークアップが下がってしまったわけですよね」

岩上「ああ。利鞘が下がり、しかし生産性を上げるということになるとコストを削るしかない」

田代「コストを削るとなると一番大きいのは人件費ですからね。海外に工場を移転するのも1つの手ですよね。国内に残っているとすれば、『残業代は払わない』ということになる」

岩上「いやいや、でもそれをしていると、人間、死んじゃうんですよ。過労自殺、過労死がもう大問題になっています」

田代「そうするとますますアンカーを沈めると思うんですね(笑)」

岩上「重りを大きくする」

田代「逆に、こうすることで『アンカーが外れる』と言う人もいると思うんですけれども」

岩上「おかしいですよ。若い人、働き盛りの世代にすごく重い負担を与えて。個人の家計に負担、負荷を与えて、労働に対する所得は、大して増えず、消費機会もなくデートする余裕もない。これで非常に不安定な雇用に置くというのは……。みんな病んでしまいます」

田代「でもそういうことに、日本人はまだ気づいていないところがあります。例えば中国のファーウェイ。ZTEと並ぶハイテク企業ですが、実はファーウェイの日本法人・ファーウェイ・ジャパンは、経団連の加盟企業で立派な日本企業になっている。一昨年から新人募集をして、大卒新卒に月給40万円を支払っています。同業のソニー、ファナック、日立などは最初20万円ですよね。

 入社した学生がもっと驚愕するのは、一緒に机を並べている同僚の中国人の月給が80万円だということ。ファーウェイの中国本社では、技術系大卒の人は初任給80万円からのスタートなんですよ」

岩上「すごい。本当ですか」

田代「中国は激烈な競争をしているから、そうじゃないといい人材は来ないわけですよ。彼ら中国人からすれば、『日本では中国の半分の給料でも優秀な学生は来るんだ』ということになっちゃうわけですよ。それくらい日本は低賃金なんです」

岩上「日本を開発途上国にしたいんですね」

田代「それなのに、『もっと賃金を下げる』『まず残業代をカットしよう』ということをしているんですね。昔は初任給が20万円でも残業代がついたでしょう。『それも削ろう』というわけですからね」

岩上「高度プロフェッショナル人材というのは、ファーウェイが求めているような人材でしょう。それに対して『あなた、いざとなったら地獄の底まで落っこちるよ』と言うような話じゃないですか。これはもう本当に、国会で参考人か何かで言っていただけませんか。『そんなことをしたら大変だ』と。

 日本の財界が考えていることは、『安くしたい』『それ以外に手はない』ということで、コンビニの従業員などとの比較しか考えていない。でもファーウェイは、高度な教育を受けてきた優秀な日本の若者を高く雇用する」

田代「でも彼らのほうが安いんですよ。半額です。そうなるとますますアンカーが重たくなりますよね(笑)」

資本金わずか1億円で何10兆円もの含み損を抱える日本銀行!中央銀行の信用がなくなった瞬間、大恐慌に!?

岩上「さらに仰天することは、『出口なき異次元緩和』ということです。『この論文のような、日銀の異次元緩和の正当化では、出口がないまま、現状の金融政策維持に邁進するしかない』。ええっ、そうなっちゃうんですか」

▲出口なき異次元緩和

田代「まあ、有り体に言うと、第2次世界大戦の時にそっくりですよね。あの時、山本五十六は『2年間は存分に暴れてみせましょう』と言いました。しかしそこから先は『うーむ……』。確かにそのとおりになりましたよね」

岩上「そうですね。『一撃を与えて講和』ということだったんですよ」

田代「そう。本当は優勢なうちにアメリカと平和交渉をして、もっと日本にとって有利な形になるようにするはずだったのに、『なにをもってそれをするか』という出口を決めていなかったでしょう。そもそも平和交渉の準備をしていなかったわけですから」

岩上「ビジョンが何も定まっていなかった。ドカーンとやったあと、その推進力でずっと日本経済が、『3丁目の夕日』のような1960年代に戻るかのような幻想がばら撒かれただけじゃないか。違うんですよね。それには戻れないから『1回バーンとやるけれども、もう少しいいところに落ち着くよ』となるはずだったんですよね」

田代「ところが、その辺は明確ではないまま始めてしまった。せっかく慎重に2年という期限を切っていたのに。

 実は、白川方明日銀前総裁がおっしゃっていたんです。彼は、金融緩和の資産の買い取りについて、きちんとファンドを作ったんですよ。日銀の本会計とは別にファンドを作って、その上限枠を『70兆円』としたんです。『ここまではやろう。そこに達したらもう1回考え直そう』という話だったんです。

▲白川方明 日銀前総裁(Wikipediaより)

 それを黒田総裁は、本会計に入れちゃったでしょう。もうそこでキャップがないんですよ。資産買い取り、国債買い取りをどこまでするか、あるいはETFの形での株式買い取りをどこまでするか、あるいはリート(REIT)の形での不動産買い取りをどこまでするか。そういう上限が最初からないじゃないですか。黒田総裁はそれについては、『上限があるから市場に見透かされて効果がなかった』と言いました」

岩上「『ここまでやるぞ』ということを見せるから、『おっ、いけるかな』という気持ちになるのであって」

田代「ところがそれはしないで、『上限の枠を外してしまったら効き目がある』と。最初の半年くらいの確たる成果と思っているところにずっと乗っかって、出口がないわけですね。つまり『ここまで』がないわけです。

 そうなると維持するしかないじゃないですか。でも維持できなくなっている。『それを認めずに、どう誰にも気づかれないように出口に出るか』ということですよね。それをそろそろ言わないと、外国の機関投資家は日本国債を疑いますよね。消費税引き上げをどんどん先延ばししているわけですし」

岩上「ええ。『ここまで辿り着いて講和』というところに行くはずだったものが、なんらかの均衡に行き着かないので、見切りをつけ始める人たちが出てくる」

田代「あまりよく知らない方が『日本国債の大部分は日本人が保有者だから大丈夫だ』という言い方をしますが、それはとんでもない間違いです。日本国債の価格は誰が決めているか。それは売り買いしている人の需要供給が決めているわけですね。日本国債の実際の商いというのは、外国の機関投資家が主力なんです」

岩上「これはまたびっくりしました。それはいつからなんですか」

田代「けっこう前からです。債券というのは、数学的に非常に扱いが難しいんですね。株の売買も外国の機関投資家が主力です」

岩上「そうですよね。『6割』といわれています」

田代「保有は圧倒的に日本人が多いんですよ。でも実際に活発に売ったり買ったりしてくれるのは、外国の機関投資家なんですよ。トレーダーの給料は桁が違うわけですから。彼らは成果を出さなければいけないでしょう。日本の場合、買ってじっと待っていればいいんだけれども、彼らはそんなことはできないですね。買ったら数秒後には売るわけですよ」

岩上「株は借りることがありますけれども、債券も借りることがあるんですか」

田代「日本ではそれは許されません。すでに短期証券に関しても、今外国人の商いが一番大きいですね。長期債になると、保有は日本人が主力であっても、活発に商いしているのは外国人なんです」

岩上「保有している日本人の国債は、どう彼らが商いしているんですか。保有している人たちは危ない売り買いの鉄火場に持っていけないから、委託をするということですか」

田代「委託はあるけれども、自己売買もありますね。リスクを取って行っている。日本の場合、典型は日本銀行ですよね。国債を買ったらそのままじゃないですか。ただじっと持っているだけ。1回しか動かないじゃないですか。たくさん買っているから、影響があるような気がするけれども、あまりないわけですよ。

 一番わかりやすいのは本ですよ。本のほとんどは、図書館に入ったり、個人の蔵書になったりしますよね。ごく一部が古本市場に出てきて、そこの売り買いで値段が決まるじゃないですか。例えば震災が起きると、原子力を扱った古本の値段が何万円にもなりましたよね。でも国会図書館や岩上さんの書棚の本はそこに入ったまま動かないんですよ。値段には影響しないんです。影響があるのは、神保町の古本屋などで熱心に商いをしている人たちです」

岩上「あるいは、アマゾンなどネット上で売り出されている本。何かの拍子でボーンと高値になる。でも国債はぺろっと1枚同じようなものです。株価は本のように色とりどりだとわかるんですよ。株のように色とりどりのものと、国債のように単色のものが激しく売り買いされるというのはどういうことなんですか」

田代「国債というカテゴリーは1つですけれども、実際には期限が違う。あるいは名目上のクーポンについている利回りが違う。あるいはいったん誰かが買って売ったりしているものと残存期間が違う。

 そうすると国債も数学的には全部違うものなんですよ。それを処理しなければいけないから、株式よりも難しいんですね。だから証券会社でも、大学の成績がいい人が債券部に行って、ガッツのある人が株式に行くわけですよ(笑)。国債は非常に難しいマーケットで、素人はちょっと手を出せないですね。

 当然、外国の金融機関のほうが圧倒的に優位にあるわけですよ。特に『国債の先物』あるいは『国債先物オプション』。『デリバティブ』ですね。派生商品のところはもっと難しいですから」

▲左 岩上安身 右 田代秀敏氏

岩上「ああ、そうか。国債を先物売買しちゃうんだ」

田代「そう。『先物から作ったオプション』というものがあるわけですよ。『国債先物オプション』などは、ほとんどが外国の金融機関による売買です」

岩上「『先物』まではわかります。『オプション』というのはなんですか」

田代「先物の取引にまた条件をつけるわけですよ。『この価格に達したら売ってもいいし、売らなくてもいい権利』にするから『オプション』という。つまり『発動していいかどうか』ですね。先物はそうではないですから、必ず約束を果たさなければいけないでしょう」

岩上「そうですよね。『買わなきゃいけない、売らなきゃいけない』という」

田代「オプション、つまり『権利を与えるからもっとプレミアをつけましょう。高く買ってください』と言えるじゃないですか」

岩上「ああ、プレミアがつくから、その分少し利回りがいいということですか」

田代「こういうもので利益を出すのは、それは大変なことですよね。日本国債に関しても、完全に外国の金融機関が主力なんです。当然そこから価格が決まっていくわけですよ。

 今のところ彼らは、日本銀行と財務省が行っていることを、『まあ、そうですか』と思っているんだけれども、そう思わなくなった時が大変ですよね。つまりこのまま行ったら、日本銀行が莫大な国債を保有しているけれども、それが値下がりした時に含み損が発生することになってしまう」

岩上「ああ、それは先ほどおっしゃった『国債の信認』の問題ですね。政府や日銀がいい加減なことばかりしているから、それが積み重なって国の信用がなくなるということですね」

田代「日本銀行はジャスダック(JASDAQ)で上場していて、資本金1億円ですよね。昔は1000万円だったんですよ。『あまりに少なくてみっともないから』というので。ただ、特殊な上場企業で、株主総会がありません。株式の半分以上は特定のメンバーだけが持っていますよね。野村證券とか三菱UFJとか」

岩上「なぜ国立銀行ではないんでしょうか?」

田代「これを国立銀行にしてしまうと、『結局財務省のATMですか』とみんなが思った瞬間に、円は紙くずになってしまうじゃないですか。たとえ見せかけであっても、一応『日本政府とは一線を画しているんです』という姿勢は非常に重要ですよね」

岩上「財務省が好きなように予算組みで使ってしまうと、放漫財政になる」

田代「最近はその辺がね……。今の政権は、黒田総裁を官邸に呼びつけますよね。経済財政諮問会議などをしてしまうじゃないですか。あれはちょっと危険ですよね。

 例えば宮沢喜一氏が大蔵大臣だった時は慎重で、日本銀行総裁と会う時に、丸の内ホテルや双方の中間点の場所で落ち合っていたんですよ。そうすることで、『対等』かつ『中立』と見えるじゃないですか。それを易々と『官邸に来い』と言ってはいけないわけですね」

岩上「本当になんでも『官邸』で、その下に全部ぶら下がっている。霞ヶ関、日銀、裁判所も最高裁もメディアもそういう状態になっています」

田代「FRB議長は、めったにホワイトハウスにいないじゃないですか。就任する時と退任する時くらいですよね」

岩上「そのようなことを見せて、『安倍独裁なんだ』ということを強めるのは危険じゃないですか。これまでも、『報道機関を従属させている』ということが海外からかなり観察、批判されているのに、さらに『日銀も従属させている』ということになると。黒田さんを指名して『黒田さんに全部任せる』『安倍と黒田のアベクロノミクスだ』と、さんざん一体性を強調してきたでしょう。そうなると、『日銀は独立性がないんだね』と、価値が落ちてくるわけですよね。怖いですね。それで金利が上昇し始めると、含み損が出る」

田代「金利が上昇して、国債価格が下落した時には含み損が発生します。でもそれは、日本銀行の信用で日本円を発行しているわけですよね。日本銀行は資本金わずか1億円で、極めて特殊な会社として置いているわけですけれども、いくら特殊であっても何10兆円もの含み損を抱えた時には、『日本銀行券と書いてある印刷物に1万円の価値があるのか』と、みんな疑ってきますよね。疑われた瞬間に終わりなんですよね」

岩上「もうひとつ、すごく気になることがあります。安倍政権になってから『日銀の直接の国債の引き受け』を始めたでしょう」

田代「直接にはしていません。財政法で禁止されているし、『直接引き受けを行った』と見られた瞬間に、すべて終わってしまいますね。本当に日本銀行が財務省のATMになってしまうわけですから。

 だから一応今は、『財務省が市場に売り出したものを、きちんと証券会社を経由して購入しています』ということになっています」

岩上「でも実際には、額を上回っていても買い続けているじゃないですか」

田代「売り出された新規発行の国債は、ほとんど買い取っていますよね」

岩上「ダイレクトにはしていないけれども、間接的にはしている。私には、『パチンコは賭博ではありません』と言いながら、『玉を換金するところに持っていくとお金に換えられる』『だから博打でじゃないんだ』と、わけのわからないことを言っているように見えるんですよ(笑)」

田代「いや、おっしゃるとおりです。でもそういうフィクションとしての偽制を用意しなければ、危険なんですよ。『では日本銀行はATMなんですか』ということになっちゃうじゃないですか。そこはもうぎりぎりのところですよね。

 それも2年と区切ったのに、ずるずる延びている。国債の買い取り額も減らし出しました。それで国債価格が下落しないからやっているんですよ。『やってみてどうかな』というふうに極めて慎重なんですよね」

岩上「下落しないんですか。金利が上がらないんですか?」

田代「今のところ、価格を張りつけているわけですよね。それがあるから、少しずつ買い取り額を減らし始めたんですよね。これが『ステルスな出口戦略だ』といわれる理由です。でも『決してそうじゃない』と言わざるを得ないんです。

 『日本銀行はいつか大量の国債に巨額の含み損が生じた時にどうするんだろうか』と、また、民間の金融機関は日本銀行に口座があって、薄いけれども金利がついていますが、『その利払は大丈夫ですか』と聞きたくなりますよね。聞いた時に、『いや、大丈夫です。日本銀行は紙幣を印刷できる』と言ったらその瞬間に……」

岩上「あっ、それは言っちゃだめなんだ(笑)」

田代「今の紙幣は、金との取り替えによって保証する形で価値を保証していないわけですよ。あくまで中央銀行の信用だけで発行している。ということは、『中央銀行はしっかりした経営をしている』ということです。でも中身を見たら、資産のほとんどは国債じゃないですか。『ではその価格が下がり出したらどうするのか』、つまり『金利が上昇したらどうするのか』という問いへの答えは見えないわけですよね」

岩上「『みんな答えをわかっているけれども、恐ろしくて言えない』というような話ですよね」

田代「そうですね。それは福島第一原発事故の時に似ています。『メルトダウンという言葉を使ってはいけない』と、みんな思ったわけですよね。『言ったら本当に起きるんじゃないか』と。『最初にお前がそれを言っただろう』と言われたら嫌だから」

岩上「すみません、それ、私が最初に言いました(笑)。当時、テレビ番組に出ていましたが、本当にあの時、番組ディレクターから『メルトダウンという言葉は使うな』と言われたんですよ。『炉心損傷』などと言い換えていました。でも私は、『なぜ使うなと言うんだ。メルトダウンは起こっている』と思って、『メルトダウンはしている』と番組で言ったんですね。

 総理記者会見の時も、私が質問した時に、『メルトダウン』『メルトダウン』と何度も言ったら、菅総理の発言でも、『メルトダウン』という言葉を使ったんです。その日から解禁になっちゃって。

 言葉はすごく重要です。金融の問題でも、ひっそり何かが起こっているリスクが少しずつ溜まっているんでしょう。非常に危ないものもあるわけですね」

田代「昭和金融恐慌がそうじゃないですか。最終的には、大蔵大臣がうっかり、まだ潰れていない銀行を『潰れた』と言っちゃったんですね。鈴木商店のメインバンクがまだその時には健全だったんだけれども、それを『危ない』『だめだ』と言ってしまったので、それで一気に金融恐慌が来たわけですね。だから今、本当に、日本銀行に関して政権内の重要な方が、何か言い間違えた瞬間が怖いですよね」

岩上「一挙にダブルにパンチが来るわけですね。『国債の価格が下落して』『金利ががーっと上がる』。金利が上がると、いろいろなところに弊害が出ますよね」

日銀総裁に連続就任した1人・山際正道の再任後に、日本は経済において国際的な三大ビッグメダルを獲得した。しかし偉業の陰で市民生活は昭和40年不況に突入していった

岩上「ここで、山際正道さんという、連続就任した方の話を挟みます」

田代「はい。山際さんは、1956年に日本銀行総裁に就任して、5年の任期を全うなさって、60年にそのまま連続して就任したんですね。大変なことで、当時、『明治始まって以来』といわれました」

岩上「なぜ山際さんは連続就任ということになったんですか。黒田さんが、安倍さんという非常に特異な総理総裁の権力の元でこうなっていることは非常に明白だと思いますが、何か大きな時代の曲がり角があったんでしょうか」

▲日銀総裁に連続就任した山際正道氏

田代「この人は非常に英語ができて、外国人との折衝に長けていたことを買われたのではないかと思うんですね。

 山際総裁第2期目の1964年4月1日、日本は国際通貨基金(IMF)の協定第8条を受け入れます。ちょっと知らない方には何のことだかわからないかもしれませんが、これを受けるのは大変なことで、『経常取引に関する取引、あるいはサービスの決済に関しては制限を設けない』ということなんです。だからこれは先進国に仲間入りするための第1条件ですよね。

 発展途上国というのはお金がないから、いろいろな理由で貿易代金を払わない。特に『外貨では払えない、自国通貨で払う』と言うと、『とんでもないことを言うな』となってしまうわけですよね。

 そうではなく、きちんと『そこに関して政府は制約をかけません。自由に取引させます』ということが8条を受け入れるということです。『8条国』というのは『その国の通貨が国際的に認められた重要なステップ』なんです。これを受け入れたんですね。

 さらに同じ月の28日、日本はOECD(経済協力開発機構)に加盟します。これはもう自他ともに、日本は先進国クラブに入ったと認められたことです。これはすごいですよね。

 加えて、同年9月7日に、IMFと世界銀行総会の年次総会をめでたく東京で開催したんです。IMFとOECDは双子組織で、ワシントンに本部があります。毎年この2つの組織は、年次総会を同時に行うんですよ。ワシントンで行う時もあるし、加盟国のどこかで行うこともある。ちなみにこの時に会場に使ったのが、できたばかりの新鋭ホテル『ホテルオークラ東京』でした。外国人がとても好きそうなジャポニズム精神に溢れたあの建物が、一気に世界的に有名になったんですね」

岩上「ああ、なるほど。箔がついたわけですね。1964年といえば東京オリンピック開催の年ですね」

田代「この翌月、東京オリンピックが開催されます」

岩上「すごいですね。経済の五輪でメダルを獲るようなものですよ。『一流国の仲間入りをした』という感じなんですね」

田代「1964年は東京オリンピックのことばかりいわれますけれども、実は決定的に大事な出来事は8条国になったこと。OECDに加盟したこと、さらに、IMFの年次総会を開催してもらえるまでになったことですよね。

 この時日本は、格好のビジネスチャンスだったわけですよね。ものすごい勢いで敗戦後の闇市から都市が建設されていく。そこに目をつけて世界中が投資する。投資するためにはまず、為替取引が自由化されなければできないですよね。そしてこういう偉業を達成した。

 この『IMF協定8条国入り』と『IMF・世界銀行年次総会の東京開催』は、山際総裁の腕にかかったといわれています。そういった国際的センスがあったのでしょう。

 ところで、『3丁目の夕日』などの映画を見ていると、当時はものすごく景気がよかったように見えますけれども、実は嘘です(笑)。岩戸景気の反動が大きすぎて、60年に入る頃には不況状態だったんですね。

 1964年1月20日に株式買い取り会社『日本共同証券』が発足しました。株価が底割れしないように、証券会社や銀行、日本銀行までが出資してファンドを作って、みんなが『もうこの株いいや』という株があったら『買います』となる」

岩上「それは、売り手は『これ、下がるな』と思う株を売るわけでしょう。どんどんボロ株を集めて。お金はどうするんですか?」

田代「だからそこには日本銀行も巨額のお金を出資しているわけです。でも今と違って、当時はまだ良識があって、日本銀行は買い取りはしないんですよ。それをやったらおしまいですからね」

岩上「なるほど。要するに『安倍さんがやったんじゃなくて、間に佐川さんが入っている』というような話で(笑)」

田代「そこまでやっても株価が回復しないんですね。証券会社が大変なことになってきたわけです。

 山一証券は、長く日本最大手の名門証券会社でした。1960年代頭くらいに大阪出身の野村がトップになり、山一、野村、大和、日興の4大証券会社が、それぞれ、自分の中でマーケットも作っていたんです。自社の中で株式を売買させることができたわけですよ。ほとんどこの4つの証券会社が日本の証券市場を牛耳っていたんですね。

 その証券大手の一角であった山一が、売れない株を抱えてしまった。それを大蔵省は、64年に秘密裏に検査に入って知るわけですよ。

 今と違って、証券会社が潰れるということは、市場の一部が消滅するわけですから、大変なことが起きたんですね。そこで、メインバンクの日本興業銀行から、11月に社長が送り込まれます。なぜかというと、東京オリンピック開催とほぼ同時に、昭和40年不況に突入する。細かい景気指数などを見ると、だいたいこの10月から不況が始まったんです。

 オリンピックが始まると、『ああ、これでオリンピック特需が全部終わった』とわかるから、不況に入っていくんですね」

岩上「皆さん、ここを逃さないでくださいね。今回も東京オリンピック特需を期待して、安倍さんたちはやっているわけです。『2020』『2020』と言っていますけれども、実はそのあと必ず反動不況が来る。それは前回で経験済みです。でもそれは、『終わったあとに来る』のではなくて、『その前に来ちゃうんですよ』」

田代「日本銀行がシドニーオリンピックでいろいろな研究をきちんと行ったんですけれども、だいたいオリンピック開催年の2年前がピークなんですね」

岩上「あれっ。ということは、今年じゃないですか」

田代「そうです。開催年の前年になると、相当に縮みます。開催年になるともう、がくんと減って。そのあとは取り壊しとか作り直しとか、小さい事業しかなくなりますから。だから今年の後半からは、オリンピックの景気を引っぱる力は急速に落ちるんですね。

 そしてここから『昭和40年不況』に突入していったわけです。それを受けて、『もういよいよ山一證券は危ない』というので、メインバンクであった日本興業銀行から社長が送り込まれます。これはもう誰が見ても、もくもくと煙が立っているわけですよね。『きな臭いな』と。

 山際さんは61年に再任なさって、任期満了は1966年の11月30日ですよね。それなのに64年12月17日に依願退任しています。

 山際総裁はもちろん国際的な偉業を達成なさったけれども、社長交代ということは、4大証券の一角がもう火を噴き出しているわけですよね。メインバンクを送り込んでくるというのは尋常ならざる事態です。ここでなぜか退任なさる。そしてこのあと、1965年危機が来るわけですね。オリンピックの翌年の1965年5月初め、大蔵省が東京に本拠のある新聞各紙を呼び出し、『山一證券に関する報道はやめてください』と言う」

岩上「すごい。報道統制ですね」

田代「『マーケットが吹き飛ぶかもしれませんから』と言ったら、みんな『はーい』と従った。ところが、私は福岡出身なので子供の頃、全国紙のほかに西日本新聞も読んでいたんですけれども、この西日本新聞が5月21日に山一證券の経営危機をスクープしちゃったんです。うっかりしていて縛りがなかったんですね(笑)。

 地方紙にも支局長がいるんだから、ちゃんと呼んでおけばいいと思うんだけれども、呼ばなかったんですね。そうしたら、節操がないことに、各紙とも夕刊で追随して、みんなが知ることになりました(笑)。

▲西日本新聞が山一證券の経営危機をスクープした

 当然、22日には山一證券に解約が殺到するわけですよ。取り付け騒ぎが起きるわけです。4大証券の一角が機能停止するわけですよね。そうしたら株価はどんどん下がるじゃないですか。

 日本共同証券は日経平均株価(日経ダウ)1200円という水準を死守するために作ったのに、なんと1100円の大台を下回ってしまった。『1200円が防衛線だ。1100円を下回ったら、これはもう大変だ』と言っていたのに、本当に下回ってしまったので、山一以外の野村や大和、日興証券にも取り付け騒ぎが起きたんですね。もうみんな、『株式はだめだ』といって。

 それでその日、日本銀行は山一證券に『無担保・無制限の特別融資』を実行して、これを収めたんです」

岩上「これはすごい話だと思います。山一證券が金融危機で潰れてしまうというあの時、私も調べていて、山一にはその前にも大変なことがあったというストーリーは読んでいたんだけれども、今日はすごくいい勉強をさせていただきました。

 この『無担保・無制限の特別融資』を1997年まで封印したというのはどういうことですか?」

田代「『禁じ手の禁止』ですよね。日本銀行が一民間金融機関を救うために、担保も取らず無制限に『必要なだけ突っ込みますよ』ということをしていいんだろうかということです。私が総裁なら当然したくないですね。できれば、こんなことになる前にさっさと辞めたい(笑)。だからおそらく、山際さんという方は大変に能力のあった方だと思う。

 当時の貧乏な日本が8条国になる、IMFと世界銀行の合同年次総会を東京で開催させるということはすごいことです。当時の日本ですよ。そんなこと信じられないですよね。それを成し遂げた。自分のキャリアのピークですよね。それなのになぜ辞めてしまったのか」

岩上「なるほど。やはり大蔵省の検査がわかっていたんですか」

田代「(笑)大蔵省が検査しますよね。内容は知っているわけですよね。社長が交代したわけでしょう。いよいよですよね。メインバンクがえらいことになったわけでしょう。

 この事態を山際さんは、総裁としては担当しないわけです。この1964年の5月28日の特別融資の時の日本銀行総裁は、報道写真がありますけれども、何か被告人のようにして説明しています。そうですよね。こんなこと許されますか。でもやってしまったわけですよ。さすがに1964年からあと、この特別融資でもう1つ小さい証券会社を救って、封印しちゃうわけですね。そりゃそうですよ」

岩上「封印というのは、どういうことですか?」

田代「こんなことをもう2度としてはいけないということです。そうしなければ日本の金融機関は『なんでもあり』になってしまいますよね」

岩上「でも97年まで封印していたということは、97年の金融危機(※1)の時に開封したんですか?」

田代「そう、あの時に封印を破ったわけですよね。びっくりするね。32年の封印を破ったわけですね。

 こんなことを『いつもする』と言ったら、それは経営規律もなにもないですよ。『いくら六本木で飲んでも、お父さんが払ってくれるような道楽息子』になっちゃいますよね(笑)」

岩上「やはり山一は、経営に甘いところが相当あったということですかね」

田代「少しね。では私の本業らしく、チャートを見てみましょうね。日経平均株価の1950~1968年の軌跡です。まあこういうものは、植草先生(植草一秀氏)のような熟練の人が作られるといいんですけれどもね。ちょっと今のストーリーに合わせてみます。

 日経平均株価が1950年の頭くらいから機能して、まず神武景気が来ました。急に上がりますね。山際さんは神武景気の最中に総裁に就任するんです。

 このあと少し不景気があるけれども、次に岩戸景気がやってきます。『神武以来の好景気』といわれた神武景気よりももっとすごい景気の波が来たので、『天照大神の天の岩戸事件以来の景気』というので、岩戸景気といいます。株価の状態を見てください」

岩上「いやあ、すごい」

▲1950年から1968年までの日経平均株価の推移

田代「ところが株価は先行指標なので、景気が終わる前に株価は下がっています。この下降局面の最後のところで、山際さんは再任なさるんですね。やめておけばよかったのにと思うんだけれども(笑)。

 そのあと、上がったり下がったりしているけれども、この1200という大台が割れそうになった時に、日本共同証券を作って、『いらない株式がありましたらこちらから取りにまいります』ということになった(笑)」

岩上「なんだか今やっていることと変わらないんじゃないですか」

田代「ただし当時は節度がありました。一応、フィクションとしてこういう会社を作って、しかも日本銀行だけではなく、『野村も金を出せ。山一も金を出せ』『銀行も金を出せ』と出させたお金でやったわけです。

 それでなんとか1200円という防衛ラインを保って、東京五輪を行うわけですよ。株価がもう底割れするかという時ですよね(笑)。

 この直後に、山際総裁は依願退職なさるんですね。そして株価の底が抜けました。とうとう1100円のラインを割った時に、日本銀行は特別融資をします。これで反転するんですね。しかもここから、なんと『岩戸景気』を超える『いざなぎ景気』が訪れる」

岩上「いわゆる高度成長が始まるわけですよね」

田代「『神武景気』『岩戸景気』が『高度成長パート1』で、数年間の休止を置いて、ここで後半『高度成長パート2』が始まるわけですね。このあとは景気回復に伴って、株価がまた上がるわけですね。70年代になると、グラフからはみ出るくらいまで上がります。

 この山際さんがお辞めになったタイミングを見てください。絶妙なタイミングですよね。ここから地獄が始まるんですよね(笑)」

岩上「そうすると、130年の封印を破ってしまった黒田総裁は、どの辺で、何をどうしてお辞めになるんでしょうね」

田代「例えば日経平均株価が2万円を割る事態(※2)。あるいは、民主党政権時の野田総理が『明後日解散』宣言した翌日から株価が上昇したので、それを先例とすれば、『明後日解散』を宣言した日の日経平均の水準を下回りそうになる時に、お辞めになるかもしれないですね」

岩上「そのへんが、安倍政権の、ということですよね」

田代「安倍政権というのは、やはり基本的には株価が支えているわけですよね。その株価が割れてしまったら、政権も大変ですけれども、日銀総裁も株価を維持することがお仕事かもしれないですね」

岩上「いやあ、そうして両方とも辞めてしまって責任を取らないということだと困るんですけれどもね。自分の責任にならないようにつるっと辞めることなんてあり得るんですかね」

田代「就任する際には国会の承認が必要ですけれども、お辞めになるのは勝手だからね。健康上の理由もあるから。皆さん、高齢だしね。だからあり得るかもしれないですね。でも、ここ(株価の下降局面)を黒田さんは見てくれないと。

 要するに、株価が下降局面に入ると大変なことになるんですね。裏返しでいうと、日本は下降局面で先進国入りし、下降局面で東京オリンピックを行ったわけです。長い時間がたつとそういうことを全部忘れてしまって、なんだか東京オリンピックの時にはすべてが上がっていたかのような錯覚がありますけれども、それは嘘です(笑)」

岩上「嘘です。大嘘です(笑)。中だるみの時期だったわけですよね」

田代「高度成長の中休みだった。踊り場だったので、きつかったと思いますね。岩戸景気の反動が大きすぎちゃって」

経済大国が突然の国債暴落によってその地位から滑り落ちるということは、長い目で見ると法則性がある。経済発展で投資を集め、資産バブルを引き起こし、バブルがはじけた時には気づけば産業の競争力が低下している。だぶついた資金は国債市場へ……

岩上「『国債暴落とデフォルトは不可避!?』というテーマに入りたいと思います。まあ今、いみじくも『岩戸景気がすごかったからその反動もあった』『山深ければ谷深し』ということをお話しいただきました。いいことばかりではないんですね。いいことのあとには悪いこともあるし。その調整局面は必ず来る。アベノミクスは本当に景気のいいことばかり言っていて、あまり信用していないですけれども、それはそれで自然に反動もありますよね」

田代「はい。景気循環、ビジネスサイクルという言葉があるとおり、資本主義において景気は、いい時と悪い時があるわけですよ。山まで行って、谷まで落ちて、また山になって、と。その山が高ければ高いほど、谷が低いわけですよ。

 1950年代60年代はまだ高原景気で、悪くなってもまあそこそこだった。それでも実は、あの不況期にいくつかの会社は倒産していますよね。しかも山一證券があのように破綻一歩手前まで行った。それからすればね。あの頃はまだ人口はどんどん増えたから」

岩上「そうなんです。『人口ボーナス期』(※3)に入るんですよね。終戦直後、第1次ベビーブームが起きる。そのあと優生保護法で人工妊娠中絶が認められる。今、母体保護法になっていますけれども。だから3年で終わってしまう。『従属人口』といわれる子供と高齢者を扶養しなければいけないけれども、高齢者はまだ少ない。そして子供の数もあるところまでは増えた」

田代「1955年まで増えるんです」

岩上「子供というのは、成長するとだんだん消費もするし、今と違って早くから働き出しましたよね。1945年生まれだったら1960年で15歳ですから、生産年齢人口に入るんですよね。もう小僧さんなどになって働き出しているんですよ」

田代「オリンピックの時には19歳ですもんね。そういう人たちがいるから、消費はけっこう底堅いんですよね。

 ちなみに、『人口ボーナス』という言い方は、本当は少しおかしいんです。もとの言葉は『demographic dividend』だから、『人口配当』なんですよ。なぜか日経新聞が『人口ボーナス』と誤訳するから困る。証券会社もレポートで、『人口ボーナス』と書くから困る。

 私は証券会社に勤めた時に、これは『配当』と英語で書きました。人口配当、つまり『景気のいい時には出しますよ。悪いと出しません』ということです。ボーナスというのは、約束したらずっと出すんだから、本当は違うでしょう。

 その理屈で言うと、人口の増加期に株価が急上昇したというのは、非常に納得できるんです。それに、下降局面がゆるいでしょう」

岩上「そうです。だから、いろいろな要因で下がることもあるけれども、底支えをしている人口が若いということは、非常に大きいことなんですよね」

田代「それでもけっこう大変だったんですよ。今株価が下がりだしたら、本当に大変です」

岩上「『人口ボーナス期』どころか『人口オーナス期』(※3)ですから。『重荷』です」

田代「『みんなから巻き上げるぞ』ということになってくるわけですよね。日本の生産年齢人口が急増している時期は、まだ景気下降に強かったんですよ」

岩上「はね返せたんですよ。それはやはり若さですよね」

田代「うん。でも本当にこの特別融資をするべきだったかどうかは非常に疑問なんですねそれをするくらいなら、山一證券を見殺しにしてしまえばよかったわけじゃないですか。そのほうが証券会社はまともになったかもしれない。あれほどの歴史のある名門であっても、経営をしくじれば消滅するということになれば、みんな、もう少し真面目になりますよね」

岩上「やはりバブルの狂乱の時は不真面目でしたか」

田代「これが80年代末の長ーい引火線に火をつけたかもしれないですよね」

岩上「『いざとなりゃこれがあるぜ』ということで、その典型をやっているのが今じゃないですか。あからさまに年金資金で株価を買い支えて、有り金突っ込んで」

田代「株価が下がったら、その損失はみんなが被るわけでしょう。その意識はあまりないんだけれども。そうなるとまた、日本共同証券を作るのかと思いますね」

岩上「今すでに年金資金を使われているわけだから、それだけでも不安です。

 先生のご著書『アベノミクスが引き金になる日本国債暴落のシナリオ』にありましたが、『超低金利が続いたあとに国債暴落が起きている』。経済本などによって世の中に定期的に出てくる『日本経済クラッシュ』『日本経済黄金時代』という言葉ですが、だいたい極端で、『脅しで売るか』『大もうけで売るか』という感じですよね。

 長谷川先生の書かれたものを見ているとよくわかるんですけれども、『儲かる』とバブル期に煽りに煽って、ドターンといっちゃったわけじゃないですか」

田代「『投機の時代』(長谷川慶太郎著、中央公論社、1987年)(※4)という本がありましたね。確かあの中で、『今株式を買わないのは世捨て人だ』と長谷川先生はお書きになっていましたよね」

岩上「ええっ、すごい(笑)。『投機で全然かまわない』ということですか(笑)。投機でがんがんいっちゃうんだ。舞い上がっていくんだ。すごいな、それ」

田代「まあやはり、あの3年間はすごいと思いますよね。しかもその本を出版したのは中央公論ですよ。あの名門出版社ですよ」

岩上「もう、みんなが踊ったんですよ。びっくりしますね。

 『一時代を築いた経済大国が、突然の国債暴落によって経済大国から滑り落ちるというのは、長い目で見ると法則性がある』んですね。歴史的な法則があるということですか」

田代「ああ、それは水野和夫先生がよくおっしゃいました。例えば金利の動向を見ても、ものすごい低金利までいってそのあと跳ね上がっているから、国債が暴落したとわかりますよね。そして最初は北部イタリアに栄えて、崩壊した。次にオランダ、イギリスとくるわけですよね」

岩上「あっ、チューリップバブル(※5)だ」

田代「その時代の最先端技術を駆使して経済発展を遂げると、『ここは儲かるぞ』と思うわけですよね。例えばイタリアだとワインですよ。北イタリアは見渡す限りブドウ畑があるじゃないですか。すべての山を切り開いてブドウを作って、ワインを作る。今でも世界最大のワイン生産国ですよね」

岩上「フランスじゃないんだ」

▲超低金利後の国債暴落

田代「イタリアのほうが多いです。それを売って売って売りまくって、巨万の富を稼いだわけですね。それであの壮麗な建物があるわけですよ。しかしどこかでバブルが弾ける」

岩上「そのイタリアのワインも、バブルの時は正価で売っているよりも高く売れたんですね。ビンテージになるわけですね」

田代「もちろん。そんなに大量にはイタリアしか作っていなかったということもある。でもそのうち、『これは儲かる』と気がついたフランスでも生産するようになったし、ブルガリアなどもたくさん作っているじゃないですか。そうなってくるとだんだん市場価格が崩れていくから、バブルが弾け、不況に陥る。そこで金融緩和で景気を刺激しようとして金利を下げる。そうすると、長年主力だった産業が儲からなくなり、どこに投資したらいいかわからなくなる。すると投資家はやむなく国債へ走る。『議会が価値を保障しているから』となるわけですね」

岩上「これ、全く同じ道を辿っていませんか。そのままですね」

田代「いや、だからこれは、資本主義にビルトインされていると思うべきですよね。『金融緩和でダブついたお金はあるけれども、儲かりそうなところはないから、とりあえず国債を買っちゃおう』ということです。

 特に民間産業に魅力的な投資先がない場合は、今の理屈で出回る資金は結局国債に向かう。すると儲かっていないから、税収は減ってきますよね。国債は、将来の税収を担保に発行しているわけですから、税収が減ったら当座のお金が必要になりますよね。そしてまたさらに国債を発行する」

岩上「借金するわけですよね」

▲魅力的な投資先がない場合、資金は国債へ向かう

田代「この段階ではまだ、安心して買う人がいるわけですよ。でもずっとそうしていくと、どこかで気づきますよね。『あっ、この政府、この国債を償還できなくなったな』と」

岩上「これは個人で考えれば、多重債務者のような話ですからね(笑)。ずっと、債務を続けているような状態で、もうどうにもならなくなってくる」

田代「ちょっと違うのは、国は徴税権力がありますよね。たとえれば、『六本木のボス』のような人がいて、彼は金を巻き上げる力を持っているわけですよ。それを担保にばんばん金を借りるわけ。

 ところが、景気が悪くて、『すみません。どうしようもないんです。足りなくなったのでまた借金します』というようになると、いくら儲かりそうなところから金を巻き上げる力を持っていたとしても、『本当に今抱えている借金を将来返済できますか』と貸している側が思った時にはもはや、国債を買う、つまり借金に応じる人がいなくなる。

 国債の価値が失われないのは、発行すれば買ってくれる人がいるからです。でもそれを買わなくなったらどうするか。

 今でも時々、財務省が周到に計画して、国債を担当している部門の課長たちが、毎日金融機関を回るわけですよ。『どうすれば買ってくれるか』『いくらだったらいくら買ってくれるか』という情報を事前に集めておいて、発行計画を作って、マーケットで買われているわけですよ。

 今は日本銀行が買ってくれるけれども、いくら努力しても国債が売れなかった時があるわけです」

岩上「それは金利が高いからですか?」

田代「あるいは銀行側が『この価格では無理です』と言う」

岩上「ジャンク・ボンド(※6)のようなものですか」

田代「いや、『ちょっと高すぎません?』ということです。『インタビューがうまくいっていなかった』とか、『途中で気が変わっちゃう』とか、買わない日がある。滅多にないけれども、ニュースですよ。それが続いていくと結局、『自分が持っている国債は大丈夫なんだろうか。危ないのなら暴落する前に売ろう』とみんなが売り逃げようとした瞬間に、暴落しますよね。

岩上「私は国債なんかは全然手元に持っていませんけれども、国債を扱っている金融機関の人たちには、財務省が『いかがなものですかね』と接触してくるから。この辺の人たちはお互いにインサイダーで、『それはちょっとヤバいな』とか、『ちょっと厳しいんじゃないの』とか、『そろそろ売り時』とか、そういうことがわかっちゃう人たちなんですよね」

田代「それはきちんと制度化されています。国債のプライマリー・ディーラー、第1次取引者というものがあって、銀行などが入っているわけね。プライマリー・ディーラーは『一定の枠は必ず買い取る』というオブリゲーションがある代わりに、耳寄りなお話を財務省から聞き取れるわけですよ。でも『もううちはその話を聞かなくてもかまいません』という銀行があるんですね。問題は、そこから三菱UFJ銀行が抜けちゃった(※7)ことなんですよ。日本で最も伝統がある銀行が欠けたというのは、なかなか驚きですよね」

岩上「これは『国債から逃げた』ということですか?」

田代「『国債を買い取る義務からは逃げたい』ということです。会員として財務省の人たちと膝を詰めて話ができるけれども、一定枠の買い取り義務があるわけですが、『そんな会費、俺はもう払わなくていいや』と言い出した銀行が三菱なんですね。もう2年前のことです」

岩上「2年前。うわあ、危なくなっているんだ」

田代「国債が買われているからといって安心しちゃいけない。資金がそれだけ国債市場に集まっているほうがよほど怖いですよね。『もっと儲かることはないんですか』『ないんですよ』というわけですよね」

岩上「そうですよね。そのサイクルで言えば、例えばワインがこけても家電がこけても、まだ魅力的な投資先が日本国内にあります。経産省では『一本足打法』と言っている。『家電がだめになった。もう自動車だけだ』と。だから経産省はとにかく輸出産業、『自動車、自動車』と甘やかしているわけじゃないですか。それが裏目に出て、EVへのシフトに遅れちゃって、『このあとどうすんの?』という状態です。

 でもまだいくつもいくつも投資先があればいいわけです。1つの物語がだめでも、ほかのいくつかの成長物語があればここへ来ないわけでしょう。『ここしかない』となっていることは、『集まっているから安心』なのではなく、『実体経済がだめだ』という話でしょう。そういうことに気がつかなければいけないわけですね」

田代「だから最近は、日本の大企業の巨額投資は、ほとんど外国企業の買収ですよね。何千億円、何兆円単位の巨大投資というのは、外国企業のM&Aじゃないですか。そういうことですよね」

岩上「日本だけじゃなくて、世界中のグローバル企業のようなプレイヤーはしていることじゃないですか?」

田代「でも問題は、日本国内のどこかに工場を作るなどということよりも、将来の儲けが出そうな外国の会社を買収するほうにいっちゃうことですね。そうでなければ国債。『政府保障がついているから』というわけですよね。

 もう1つの問題は、今、企業がお金を借りる担保として土地が使えないことです。80年代の終わりにそれをしてしまって、大変な目にあったわけですね。だから、土地を担保にお金を借りるといっても、土地の価値からするとずいぶん少ない掛目率でしか貸してくれないわけですよ。土地の値下がりを経験してしまったから。

 ところが国債は、例えば1千億円分の国債を持っていれば、銀行は1千億円貸してくれます。掛目率100%なんですよ。担保の能力が100%あるわけね。それもあって、国債は買われるんです。

 『日本企業の収益、過去最高更新』と言っているじゃないですか。あれは怖いですよ。『企業はまず国債を担保として買って、それでお金を借りる』という必然性が消えていくわけでしょう。そうなるといよいよ、国債を買うのは日本銀行だけになってきますよね」

岩上「なるほど。金融機関にお金を借りるためには担保が必要で、担保としてかつては土地が意味を持ったんだけれども。内部留保があるから金融機関にお金を借りる必要はない。1990年代までは土地神話があったんですよね」

田代「そうです。今は、『国債ならお金は全額貸しましょう。担保分だけ全部貸します』ということになっている」

岩上「企業自身が国債を買うんですか?」

田代「国債を買うと、その国債を買った金額と同じ金額を銀行から借りられるわけです。それを使って事業を行う。担保は一応価値があるということで。でもそれも、『国債の価格が下がらない』という前提あってのことですよね。なぜかというと、ここまで超低金利になってしまったから。だから国債がとんでもなく高いわけですよ。それがずっと維持されていると、みんなが思い込んだわけですよね。

 その幻想がはがれると大変です。銀行は必ず『担保の価値が下がるんですから、先にお金を返してください』と言ってきますからね。『全額返してください、全額!』と(笑)」

岩上「ああ、銀行はね。バブルが弾けたあとの恐ろしい貸しはがしがありました」

田代「そう。『金利が上昇する=国債価格は下がる』ということは、国債を担保に借りている企業にとっては、死活問題ですよ。はしっこい企業だったら、『日銀が買ってくれるんだから、あそこに押し込め、押し込め』と、とっくに売り逃げている」

岩上「ああ、そうか。今ならまだ買ってくれる」

田代「だから今は、日本銀行は日本共同証券のような形を、国債に関して行っているわけですよね。その意味では黒田総裁の最大の功績は、日本国債の暴落を防止したことと言えるかもしれない。これも怖い」

岩上「これはダムでせき止めていて、偉大なことかもしれないけれども、ダム自体がどんどんでかくなっているんでしょう」

田代「そうです。国債が多すぎるわけですね」


(※1)1997年、日本の金融危機
 97年の金融危機とは,準大手証券の三洋証券の破綻をきっかけに、都市銀行の北海道拓殖銀行や国際業務を行っていた山一證券のような大規模金融機関の破綻、廃業を指し示す。加えて、日本の長期金融の担い手だった日本長期信用銀行や日本債券信用銀行の破綻もあり、日本の金融市場は大きく動揺した。
参照:
・内閣府経済社会総合研究所【URL】https://bit.ly/2AmdFuo

(※2)日経平均株価2万円割れを記録
 米NY市場の株下落を受け12月25日、東京証券取引所で午前中に前週比1000円と大幅に値を下げる展開となり、1年3カ月ぶりに2万円台を割り込んだ。その後、2万0014円で、大納会を終えた。
参照:
・大納会株価、7年ぶり下落(時事ドットコム、2018年12月28日)【URL】https://bit.ly/2CGSvsw

(※3)人口ボーナス期と人口オーナス期
 「人口ボーナス期」とは生産年齢の人口が多い状態。高齢者は少なく、労働力が豊富なため、社会保障費が少なくてすみ、経済発展をしやすい。
 「人口オーナス期」とはオーナス(onus)とは、「重荷・負担」という意味。働く人よりも支えられる人が多くなる状況。
参照:
・人口オーナス期に経済発展するために(経済産業省、2014年4月2日)【URL】https://bit.ly/2GJ6EJA

(※4)長谷川慶太郎
 日本の経済評論家。主な評論の対象は時事の経済評論のほか、国内政治評論、国際政治、国際経済、軍事関係など。国際経済・政治評論に製鉄・金属加工の切り口からの分析を加えている。日本個人投資家協会理事長。
参照:
【長谷川慶太郎公式HP/投資の王道】【URL】https://bit.ly/2Q9kTad

(※5)チューリップバブル:
 1600年代にオランダで起こった世界初のバブル経済事件。オスマン帝国から輸入されたチューリップの球根がオランダで人気を集め、球根の価格が上がったことで人々がチューリップ投資に熱狂したが、1637年、突然球根の価格がピーク時の100分の1以下に下がり、オランダの経済が大混乱に陥った。
参照:
「チューリップバブル」(投資の窓口、2016年8月26 日)【URL】https://bit.ly/2CD2KOj

(※6)ジャンク・ボンド:
 元金利の返済が滞る可能性(デフォルトリスク)が高い債券のこと。
参照:
・カブドットコム証券(金融/証券用語集)【URL】https://bit.ly/2RlMeuh

(※7)国際のプライマリー・リーダー:
 日本が導入している「国債市場特別参加者制度」のこと。これは、欧米主要国において、国債の安定消化促進、国債市場の流動性維持・向上などを図る仕組みとして導入されている、いわゆる欧米の「プライマリー・ディーラー制度」を参考としている。2016年7月に、三菱東京UFJ銀行が、その資格を返上した。
参照:
・財務省公式HP【URL】https://bit.ly/2CHBdeI
・三菱東京UFJ銀行、プライマリーディーラー返上(J-Cast News、2016年7月14日)【URL】https://bit.ly/2BUCTQC

超低金利の弊害は、上がった時の上昇率が推測しにくいこと!? そして何より恐ろしい日本銀行の「なし崩しの死」

田代「日本政府には国債の利払費(※1)がある。一番の弊害は、その利払費が増加することですね。あとで示しますけれども、今は本当に歴史的な、バビロニア以来の低金利だから、あの莫大な日本国債の利払費が抑えられているわけですよ」

岩上「ただ同然のような(笑)」

田代「ただではないですけれども大きいですよ。財政支出の1/4から1/3を占めているわけですから。それが増えないでいるというのは……。債務全体はふくれ上がっているわけですよ。でも超低金利が続いているから、利払費の総額は抑えられているんです。

 これで金利が上昇したらどうなるか。日本政府は1千兆円の債務があるわけでしょう。単純計算で1%ポイント金利が上昇すれば、それだけで10兆円の利払費が増えるわけですよ」

岩上「普通の人にわかるように別のたとえをすると、例えば、変動金利で住宅ローンを組んじゃったとする。『今、すごい低金利だからいいですよ』と言われて。ところが、とんでもない高金利の時代が来た。大元が変わると市中の金利も上昇しますよね。だから1%行くか行かないかという金利だったはずが、7%、8%になってしまう例もあるでしょうね(笑)」

田代「ちなみに、『固定金利だから大丈夫だ』という方もいるけれども、それはちょっと勘違いしています。よく見ると、固定金利というのは銀行が定める基準金利からのマークアップ分が固定されているわけでしょう。基準の金利が上がったら、それは固定されていても、適用金利が上がるわけじゃないですか」

田代秀敏氏

岩上「皆さん、すごく大事なことを聞きましたよ。これは大変な話ですよ」

田代「今のところ、超低金利で、基準金利自体が地を這うように行っているから気づきにくいわけでね。そんな、なぜ銀行が自ら倒産を招くような仕組みを作るんですか」

岩上「そうですね。『固定金利で1%、2%』といっても、『長期金利が変わった』『大元の金利が5%、10%になった』となったら……」

田代「それでも『住宅ローンの金利は1%でいい』となったら、銀行は倒産してくれということじゃないですか。銀行が倒産するということは、みんなが預けた預金が消えるわけでしょう。そんなことでいいんですか」

岩上「マークアップ分でしかないんだから、『ごめんなさい。10%上がったんだからぐーんと底上げして12%ですよ』ということになっちゃうんですね」

田代「そうでなければ銀行業なんて、そもそも誰もやらないですよね(笑)」

岩上「私は今、たとえ話のつもりで言ったんだけれども、本当に住宅ローンを組んでいる人にどーんと影響が出るんですね」

田代「なぜかというと、超低金利だから金利に関する感覚が麻痺しちゃったわけですよ。実際には、金利が上昇すれば国債の価格は下落し、まず日本銀行に損失が発生する。一方で超低金利を利用して借りていた人、特にアパート経営などをしている人は絶対もたないですよね。当然、銀行自身は損はしない仕組みになっているわけですから。その負担は全部経営している人に来ますよね」

岩上「私も身をもって体験しました。親がバブル期にマンション投資をして、大損失が保証人である私には1回もお金が入ってこなくて、親の借金を返して、ボロ物件だったから全く儲かることもなく、ただただ債務が残ったんです。『こういうことは2度と起こらない。バブルの経験は世代が変わった時に起こるんだ』と思っていたんですがね。まだ世代は変わっていないんですよ。とんでもないことが起こりつつある。バブルとはちょっと違うかもしれませんけれども、今、すごく危ない状態に来つつあるんですね」

田代「だから、マハラジャが京都の祇園に復活したというニュースは、私は本当に怖いと思いますね。なにかバブルの象徴のようなものが復活したというのは、あとが見えてきますよね」

岩上「『調子に乗っているだけ』ということですよね。ちょっとだけお金が回っている人がいて、その人たちがちょっと遊んでいるというような」

田代「ジュリアナ東京(※2)がどこかで復活したら怖いですよね(笑)。まあそれはジョークですけれども。厳密にいうと、ジュリアナ東京はバブル崩壊期にできたから怖いんですよ。あれが復活した時にはもうすでに……」

岩上「ディスコの消長までよく知っていますね(笑)」

田代「日本銀行は本当に日本の礎の1つなんですから、彼らとしては、自己の責任を全うするためにも、責任を回避するためにも(笑)、なし崩しで出口に出ちゃうということです。だから金融緩和が『なし崩しの死』を迎えるようなことです。

 そうしないと今度は、日本銀行がなし崩しの死を迎えますよね。それは、僕たちがいつも使って大事に貯めている日本円が紙クズになるということですよね。それだけは回避しなくてはいけないわけですね」


(※1)利払費:
 国債の利子の支払いに充てられる費用。
参照:
金融用語辞典【URL】https://bit.ly/2V7APxc

(※2)ジュリアナ東京:
 正式名称「JULIANA’S TOKYO British discotheque in 芝浦」
 バブル期がピークを過ぎた1991年から1994年まで東京都港区芝浦にジュリアナ東京ブームを築いた伝説的なディスコ。
 芝浦はバブル期にウォーターフロントと呼ばれ、「芝浦ゴールド」という有名ディスコが存在していた。
参照:
Wikipedia「ジュリアナ東京」【URL】https://bit.ly/2ok6SdT

日本円の信頼を守るために130年封印してきた「財務省出身者の日銀総裁連続就任」は異例中の異例!~「戦後レジュームからの脱却」を掲げる安倍政権がしようとしているのは「近代国家の中央銀行からの脱却」

岩上「黒田総裁が再々任したのは異例中の異例ということを先ほどお話しいただきましたが、就任当時のことをもう少し詳しくご説明いただけますか」

▲異例中の異例の再々任となる黒田東彦・日本銀行総裁

田代「2012年12月26日の衆議院選挙で大勝して、第2次安倍晋三政権が発足しましたね」

岩上「はい。『TPP絶対反対』と言ったあとにころっと変わったんですけれどもね。農村部の人たちを裏切りましたね」

田代「『ぶれない』『嘘を言わない自民党』と書いていましたよね(笑)。黒田総裁は3月20日に就任します。

 前任の白川総裁はすったもんだの末に就任したので、総裁と副総裁の任期切れの日がずれたんですね。白川総裁は『これはよくない』と言って、まだ4月8日まで任期が残っていたのに、3月19日に、つまり『副総裁と一緒の日に辞める』と、任期満了を待たずに辞任なさったんですよ。大変立派なことをされたんですね。

 それで黒田総裁が指名されました。本当の任期はここからなんです。短い期間があるので、本当は今3期目なんですよ。この間に4月4日の『異次元金融緩和の発動』があるんです。そして5年たって、今年4月9日に再々任。形式的にはそうなりますね。もうこれ自体、日本銀行の歴史に残る大事件です。

 過去を初代から調べ上げましたが、日本銀行総裁の再任は、空白期間を入れても3度目なんです。1度就任して辞任して、『またやります』という人はいますが、それを入れたとしても、再任は3度目。50何年ぶりなんですね」

▲日本銀行本店(Wikipediaより)

岩上「新木栄吉さんと山際正道さんですか」

田代「前例としては、山際さんだけなんですね。何度も言うように、日本銀行が財務省もしくは大蔵省のATMと思われてはいけないんですよ。

 財務省や大蔵省には優秀な人がいるので、日銀総裁にふさわしい人もいるんだけれども、ずっと続けたら、『やはり日本銀行は財務省日本橋局ではないのか』と、みんな疑いますよね。そうならないために、明治以来、それはしないんですね。

 初代の吉原重俊は大蔵省の人。2代目の人も大蔵大書記官が就任したんですね。黒田さんは1人で財務省出身者の連続就任を達成した。史上初めてで異例中の異例の人事です」

岩上「当時は日本銀行でも、生え抜き、プロパーなどがいましたか?」

田代「それはいない。作ったばかりですからね。仕方がないから大蔵省のような、似ているところから持ってきた。外国語ができて、金融理論がわかっていて、金利の計算もできて、外国との交渉もできる人。すごく限られていますよね。だから人材を使い回したんです。それでもこれ以降、大蔵省出身者が連続就任するということはなかったんですよ」

岩上「戦前でもこれだけのことを守り抜いてきたということでしょう」

田代「それくらい怖いことなんですよ」

岩上「そういうアンタッチャブルに手をつけるということなんですね。安倍さんは『戦後レジュームをぶっ壊す』と言っていますけれども、明治からの近代国家レジュームをぶっ壊していませんか(笑)」

田代「そう。近代国家における130年封印されていた中央銀行レジュームをぶち壊しちゃったんですよ」

岩上「130年。安倍さんの趣味でしょうけれども、今度政府は、賑々しく明治150周年を祝うと言っています。その築き上げてきたものは何でしょうか。確かに戦前戦中でがらっと変わったものがある。憲法もそうだけれども、壊さずに、変えずに、脈々とつないできた、営々と積み上げてきた、そういう伝統もあるわけですよね。これはそういうものじゃないですか」

田代「日本銀行総裁に大蔵省の出身者を続けて就任させるなどということは、伊藤博文のような、ものすごい権力を持って近代天皇制まで作り上げたような人でさえも手をつけなかったわけですよ。そりゃまずいと思いますよね」

▲伊藤博文(Wikipediaより)

岩上「あの時の日本、国家としての行動を見れば、ならず者的なところがあるわけです。その上帝国主義じゃないですか。内に立憲主義で、外に帝国主義ですよ。実際、伊藤博文は乱暴者で本当にテロリストですよ。あの人、本当に人殺しをやっている男ですよ」

田代「そうですよね(笑)」

岩上「その男がものすごく権力のある総理の座に就いている。この時は有司専制ですから、明治維新の志士たち、ほんの少数の権力者たちによる集団指導体制の専制体制じゃないですか。その中で生き残った大立て者が初代総理を務めて、総裁を決めた中でも破らなかったことを、安倍晋三ごときが破っている。近代国家をやめるというようなことです」

田代「これは本当に歴史的な人事なんですよ。ある意味では、日本史の画期的な転換点ですよね。

 日本銀行が財務省のATMだと思われても、まあ『よい』とはおっしゃらないだろうけれども、そのリスクを背負うんですよね。でも本当にみんなが確信したら、もう日本円は紙くずですよね。財務省の都合でいくらでも出てくるわけですから」

▲日本銀行総裁人事の重要性

岩上「どんどん刷ってくるということですか。安倍さんをずっと見ていて、私は『日本は主権国家ではない、従属国家である』と言ってきたんですけれども、今は非常にわかりやすく、安倍さんがトランプのポチだということが誰の目にも明らかになっているじゃないですか。その一方で安倍さんは強面で、独裁をどんどん強めていて、官邸に権力を集中し、あらゆるものを従わせているわけですよ。日銀も従わせているわけですよ。

 こうなると、独裁とはいえ、傀儡の独裁です。属国の独裁です。このATMの本当の持ち主が財務省ではなく、アメリカだったら大変なことでじゃないですか。だから『イージス・アショアを買え』と言われたら『はい、はい、買います』ということになります。さらに戦費どころか、北朝鮮の非核化の費用を『日本と韓国が持つ。当然です』と言っちゃった。なぜ言っちゃうの? 国会で議論もしていないのに」

田代「そうです。国会でも話していない。そもそもそんなことには財政的裏づけがない。『財源はどこですか』と聞きたくなるわけです」

岩上「そうですよね。220兆円などと言っていますよ。どうするんですか。刷るんですか」

田代「そうなったらだめです。日本銀行は日本円の発行元ですよね。だからお札には『日本銀行券』と書いてありますよね。あれは『日本銀行の信認に基づいて流通している』ということなんです。1万円札の製造費用は、確か数十円なんですよね。国家が儲かるわけですよ。でもそれを維持しているのは、人々が『日本銀行はしっかりしている』と考えているからです。そういうフィクションを保つために、あれほど老朽化した建物を大事に使っているんじゃないですか。官邸はあんなにぴかぴかにしたけれども(笑)。

 あれを建て替えたら心配になりますよね。われわれが使っている通貨(カレンシー)は『フィアット・カレンシー』というわけですね。『フィアット』というのは、『強権』ですよね。それによって使用を強制される『カレンシー』というわけでしょう。この場合の『強権』というのは、『政治的な権力』です。なおかつ人を拘束し、場合によっては刑務所にぶち込めるし、殺すこともできるということです」

岩上「『主権』ということですね」

田代「『主権』だけではなく『力を持っている主権』ですね。例えばモナコ公国のように、フランス共和国のおまけのようになっていて『郵便もごみの回収も全部フランス共和国に』というたとえがあるじゃないですか。ああいうところには『フィアット』などないですよね」

岩上「では、日本の主権もいまや風前の灯火ということですか」

田代「フィアットによって使用を強制しているので、みんながそれを使っているのは、発行元に信認があるからでしょう。なぜわざわざ政府から切り離して日本銀行という会社を作っているかというと、そこですよね。

 そのために、あれほど藩閥政権の、イスラム国のようにして日本の権力を取った人たちでさえも憚ったわけですよ。

 昔は金本位制で、日本政府が保有している金を担保に発行していましたからね。それでも、大蔵省出身者を続けて日本銀行総裁にすることは憚ったわけですよ」

岩上「みんな気づいていないけれども、これは大変なことです。意図的にやっているんでしょう。安倍さんは総裁再選を狙っているじゃないですか。その経済パートナーとしての日銀総裁。パートナーであること自体問題だけれども、3選して『ずっとアベクロノミクスをやるぜ』ということなんでしょう」

▲安倍晋三総理

田代「そうですよね。そうしか考えようがない。でも、この事実を正確に認識なさっていて、それでも意図的にやろうと思ったのかどうかは、私はわからない。こんなことはあり得ないことだと、日本銀行が発表している歴史を見れば明らかなのに、私は日経新聞が『130年封印したことをやった』と書いたのは1回も見たことがありません」

岩上「メディアは書いていない。皆さん、聞きましたか。日経新聞は絶対書かない。おそらくほかの新聞も書いていないですよね」

田代「たぶん、皆さん忙しすぎて勉強不足なのかと思いますよね。初代から全部見てみれば、出身が書いてあるじゃないですか」

岩上「田代さんはお調べになったんですね。しかし気がついているかもしれないけれども、『これは書かないほうがいいな』と思った人たちがたぶんいますね(笑)」

田代「あるいは、日銀の記者クラブの中では自己抑制してしまったか。『言われたわけじゃないけれども、聞いちゃいけないかな』と。本当は聞くべきですよね。連続就任になった時に、『130年の封印を破ったんですよ。お気持ちはどうなんですか』と」

岩上「うちはアレを読まないので、聞きます(笑)。財務省といえばエリート中のエリート。そして『財務省は本当に一生懸命働く』『主計局など眠れないくらいだ』などという都市伝説のようなこともいわれて尊敬を集めていた。

 ところが、公文書の改竄はやるわ、次官はセクハラするわ、パワハラするわ、それも言い訳してごまかして、大臣はろくろく責任も取らない。この体たらくを見ていると、もう『財務省メルトダウン』と思いますよね(笑)」

田代「黒田総裁にスキャンダルが起きて、新潮砲や文春砲の餌食になったら、もうそれは日本終わりの日ですよ」

岩上「終わりなんですか?」

田代「それはそうじゃないですか。そんな人が発行している日本円を誰が信用します?

 例えばドイツの、あれほど評価の高かったシュミット政権ですが、あの時シュミットが社会民主党の党員をドイツ連邦銀行の総裁にしたんですよね。ところがその総裁が職務にあまりにも忠実で、マルクの信用を守るために社会民主党政権の経済政策と矛盾する行動を取ったんですよ。その時辞めたのはシュミットの側なんですよ。

▲ヘルムート・シュミット元西ドイツ首相(Wikipediaより)

 もしその時、シュミットが総裁を解任していたら、もうマルクの終わりですよね。逆にそのことによってドイツ連邦銀行は、世界で最も信認の高い中央銀行ということになったわけですよ。それを核としてユーロを作っているわけですよね。

 それくらいのことが、本当は中央銀行総裁に求められているわけですよ。日本円の信認を保つためなら、安倍総理を辞任に追い込むようなことでも躊躇しないというのも、中央銀行総裁の仕事なんですよ。『それくらいのことはやる人だ』と思わせるために、やはり封印があったわけですよ」

岩上「だから『財務省ではだめでしょう』ということですか」

田代「いや、財務省云々ではない。続けて就任するのはまずいということです。財務省は優秀だから、こういうことをやる人はいますよ」

岩上「財務省の後輩がだらしなくても、黒田さんが立派な人だとするじゃないですか。だとしたら、『財務省はけしからん。きちんとやってくれ』とか、『日銀を一緒くたに見てもらったら困る』とか、それくらいのことを言ってもいいんじゃないですか。そうじゃないとすると、『セーフ』ということじゃないですか」

田代「そうなんです、明らかにそういう態度を示さないといけないんですけれども。本当に今の通貨のフィアット・カレンシー・システムは危ういんですよ」

岩上「強権によって使用を強制されるわけですけれども、なんだか強権の種類が変わってきているというか、中身が違っているように思います(笑)。日米合同委員会になると大変なことになってしまう」

田代「でもそこでも、この封印は破らなかったんですよ。米軍でさえそんなことは要求しないですよね、恐ろしくて」

岩上「はあ、すごいなあ。70年間、要求しなかったんですよね。でも今はトランプ政権ですからね。『日本が溶解してもいい』くらいに思うんじゃないですか」

田代「もっと怖いのは、『アメリカ人を総裁にしろ』ということでも言い出すんじゃないかという気がします。そういうことはないことはないんです。例えばこの間までのFRBの副議長は、前はイスラエルの中央銀行総裁を務めていましたよね。イギリスの中央銀行総裁も外国人が就任しますよね。要するにテクノクラートだから」

岩上「すごく優秀だったらいいんですね。日産にカルロス・ゴーン(※3)を持ってくるような話ですか。あるいはワールド・カップのために本当に優れた外国の監督を日本代表の監督に据えるかのような」

▲カルロス・ゴーン日産自動車前会長(Wikipediaより)

田代「そう、そんな感じでね。可能は可能なんですよ(笑)。言語の問題はどうするか、すごく気になりますけれども」

岩上「ええ。まあカルロス・ゴーンの周りにいる人は優秀で、英語もできるだろうし、使う言葉は共通言語の数学だから、できるんじゃないかと思うにしても、それをトランプの命令でやられたら嫌ですよね」

田代「それくらい、中央銀行総裁人事はものすごく重要。しかも慎重にやらないと日本円の信認が消えてしまう可能性があるんですよ。この封印がなんのためにあったかということを、皆さん、本当によく考えてほしいと思うんです」

岩上「いやあ、大変な事が起こったと、すぐにはイメージできないと思いますね」

田代「これはもうマインドの問題で、『いつみんながそう思うか』ということですよね」

岩上「早めに気づいて、いい加減に安倍さんをクビにするというのはどうなんですか。『このまま気づかないで行こう』といっても限界があるじゃないですか。みんなが『あっ、ヤバイ』と気づいて、本当にドカーンとなる前に、アベ・クロをクビにするほうがいいんじゃないですか」

田代「先ほど申し上げたように、もし本当の中央銀行の総裁なら、『これ以上の無理な経済政策を取るのなら、日本銀行はそれと敵対行動を取ります』と言って、『どちらが辞めますか』と言うようになってほしいですね。日本円を守るためには、総理が辞めるしかないわけですよ」

岩上「総理が辞めてもらうのはいいですね。でも黒田さんと安倍さんは、すごく仲がいいんでしょう」

田代「うーん。あまりよくないかもしれないですね。例えば、FRB議長が米国大統領とゴルフしている写真なんていまだかつてないじゃないですか。それはまずいですよね。大統領はとにかく財政政策をやりたいに決まっている。放漫財政をやって成果を出したいわけですよね。だから『金利を下げろ』と言うに決まっているわけですよ。それに唯々諾々と従ったら、もうドルの価値はなくなってしまうわけですよね」

岩上「安倍さんは、周りを選別してベタベタとお友だちになって、その人たちに対しては何のモラルもなく見返りを与えるという政治をやってきて、三権分立もよく理解できていないような人なんですよ。どうなりますか」

田代「時々ご自分のことを『立法府の長』とおっしゃいますよね(※4)。ちょっと驚きますよね」

岩上「はい。仰天しますよ。しかも忖度がすごくなってきて、会計検査院ですら自らを律することができない。検察庁も最高検もですよ。あの森友学園問題で佐川亘寿前理財局長が不起訴になったのは、大阪地検の判断ではないです。最高検の判断ですよ。『不起訴? おかしいだろう? 司法もだめか』ということじゃないですか。日銀だけはしっかりしていてくれないと」

田代「本当にもう『最後のアンカー』になっているわけですよね。

 おっしゃるとおり、みんながエリートの中のエリート集団だと思った財務省がこうなったわけですよね。会計検査院もそうなった。警察も正義の味方ではない。検察もだめである。もう本当に、日本銀行が日本円の信用を1人で守っているようなものですよね」

岩上「今までの幻想で守られているだけなんじゃないですか?」

田代「そんな幻想を作るために、非常に周到なことをやってきたわけじゃないですか。日本銀行東京本店が古びすぎているのも、ぴかぴかにすると、『こいつらバブリーね』となってしまうからじゃないですか」


(※3)カルロス・ゴーン:
 日産自動車前会長。2018年11月19日、有価証券報告書におよそ50億円分を過少に記載していたとして、同社代表取締役のグレッグ・ケリー氏と共に金融商品取引法違反で東京地検特捜部に逮捕された。
 11月22日に同社臨時取締役会で会長職を解任された。
 勾留期限の2018年12月10日、別の時期の同容疑で再逮捕。さらにその勾留期限の12月21日には特別背任の容疑で再々逮捕された。
 両親はレバノン人。ゴーン氏はブラジルで生まれ、幼少期をブラジルで過ごし、その後レバノンのベイルートとパリで教育を受けている。ゴーン氏の国籍はブラジル、レバノン、フランスの多重国籍となっている。
 フランスのタイヤメーカー、ミシュランのCEOだったゴーン氏は1996年にフランスの自動車メーカー、ルノーにヘッドハンティングされ入社した。国営企業から民営化される中、赤字だったルノーの完全民営化と黒字への転換に貢献し、「コストカッター」と呼ばれるようになった。
 1999年に、ルノーが日産の株式を取得し、資本提携した際にゴーン氏はルノーの役員のまま日産のCOOとなり、翌年CEOに。赤字と経営不振に陥っていた日産を復活させた経営者として、著名となった。
参照:
・IWJ「(再掲)日産ゴーン会長逮捕でルノー株急落! この値動きの意味するものは!? 日仏関係にどんな影響が出るのか? 日産の中国市場進出・EV開発はどうなる!? 2018.11.22」【URL】https://bit.ly/2R25lKM
・IWJ「【岩上安身不在の穴を埋めるべくスタッフたちが起つ!ピンチヒッター企画第2弾!】経済ジャーナリスト・井上久男氏に城石裕幸・吉田恒道記者が聞く、日産ゴーン前会長逮捕とルノー日産連合の今後 2018.12.15」【URL】https://bit.ly/2LFaVN5
・IWJ「【岩上安身不在の穴を埋めるべくスタッフたちが起つ!ピンチヒッター企画 第4弾!】『明らかにクーデター!』日産自動車のカルロス・ゴーン前会長逮捕の不当性についてIWJの川上正晃記者が郷原信郎弁護士に訊く! 2018.12.17」【URL】https://bit.ly/2CHp0qx
・IWJ「【岩上安身不在の穴を埋めるピンチヒッター企画第8弾!】元外務省国際情報局長・孫崎享氏にIWJ若手の川上正晃記者と小野坂 元(はじめ)記者が訊く、『既存組織はもう役に立たない!?』日本の司法・経済・外交の根本問題! 2018.12.21」【URL】https://bit.ly/2GJOVBG

(※4)時々ご自分のことを「立法府の長」とおっしゃいますよね:
 過去に国会答弁で4回、自らを「立法府の長」と発言。
・2007年5月11日
第166回国会参議院日本国憲法に関する調査特別委員会
簗瀬進委員(民主党)からの質問に答えて
・2016年4月18日
第190回国会衆議院環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会
下地幹郎委員(おおさか維新の会)からの質問に答えて
・2016年5月16日
第190回国会衆議院予算委員会
山尾志桜里委員(民進党・無所属クラブ)からの質問に答えて
・2018年11月2日
第197回国会衆議院予算委員会
奥野総一郎委員(国民民主党・無所属クラブ)からの質問に答えて
参照:
安倍首相また「私は立法府の長」 議場嘆声(毎日新聞、2018年11月2日)【URL】https://bit.ly/2AHhlqY

ヒトラー、東条英機さえも手をつけなかった中央銀行の独立性を侵す安倍政権が生まれた理由は?~歴史に対する畏怖の念の薄弱さ、偉人伝に走りすぎるお粗末な歴史教育、お金を使う人々によって円が機能し信認を得ていることへの無理解

岩上「先ほど、ドイツの銀行は非常に峻厳で、きちん厳しく身を律してきたとおっしゃいましたが、これはよく皮肉られもしますね。ナチスドイツの時にはどうだったんですか?」

田代「ヒトラーといえども、ライヒス・バンク中央銀行を私物化しなかったですよね。それをしたら終わりじゃないですか。そうしたら、第一次大戦のあとに起きたあのインフレーションがまた起きるわけでしょう。ナチスはあのハイパー・インフレーションの焼け跡の中から出てくるわけじゃないですか。だから彼はよく見ているわけですよね。そこに手を突っ込んだ瞬間に、終わりですよね」

岩上「ではナチスは、ライヒス・バンクに対しての独立性には手をつけなかったんですね。日本はヒトラーも手を出さなかったところに手を出しているということですか」

田代「第二次大戦中の東条英機内閣でもそんな暴挙はしなかったでしょう。それはそうですよ」

岩上「テロリストの伊藤博文からやっていないんですからね(笑)」

田代「あの人たちでさえしないことだったから、130年封印されたわけでしょう」

岩上「すごい。安倍政権は、緊急事態条項というナチの国防授権法と同じようなものを用意して、ナチ・ヒトラーでさえやらなかったことをやろうとしている。どういうことなんでしょう」

田代「1つは、歴史に対するリスペクト、畏怖の念が弱すぎますよね。もう一つは日本の近代史の教育というのがあまりにもお粗末。だいたい明治維新の頭くらいで終わっている。高校3年の時に日本史は終わりで、受験に突入するじゃないですか。また、日本の歴史の描き方があまりにも政治家中心ですよね。政治家の決断の連続になっている」

岩上「そうですよね。子供向けの『偉人の物語』のような話になっています。ばかみたいな話ですよね」

田代「例えば、大隈重信は『円』という新しい通貨を作った人なんですよ。徳川時代は『両』だったでしょう」

▲大隈重信(Wikipediaより)

岩上「そういえば大蔵卿を務めていましたね」

田代「三条実美が担当したけれども、当然お公家さんではなにもできないから、長崎奉行所に勤めていて英語も中国語もできるという、やたらと声が大きい大隈重信にやらせた。

 その大隈が部下として選んだのが、伊藤博文と渋沢栄一なんです。のちに日本の政治システムを作った人間と日本の経済システムを作る人間、それが20代の後半に『円』という通貨を作ったわけですよ。

 明治政府は、最初は財政破綻していたけれども、『円』は信認があるわけ。ものすごいトリックですよね。それなのに、早稲田大学の公式サイトを隅から隅まで見ても、そういうことは1行も書いていない」

岩上「すみません。私、早稲田のOBなのに今初めて知りました(笑)」

田代「不思議でしょう。近代日本の礎を作った大偉業なのに。だから本当は、早稲田大学の大隈重信の銅像の前に、1円銀貨のモニュメントをどーんと置くべきなんですけれどもね」

岩上「そうですよね。そういえば福沢諭吉に1万円札の肖像を取られていますね」

田代「その伊藤、大隈でさえも、日本銀行総裁はやっていないですよ。せいぜい大蔵省から人を連れてきたくらいで」

岩上「大隈重信がいいことばかりしたとは言いませんけれども。『対華の二十一カ条』(※5)など評判の悪いこともしているし」

田代「でも彼は天才です。『円』は『YEN』と書くでしょう 日本語では、本当はこれはワ行で、『WEN』なんです。その証拠に、同じ漢字を韓国語では『ウォン』というじゃないですか。ところが中国語は『イェン』。『Y』なんですよ。大隈はまず中国の商人に信用させるために中国読みにしたんですよ」

岩上「中国語は、各地で全然読みが違うでしょう」

田代「でも、東アジアの貿易において、当時の経済大国は中国ですから。しかも100分の1の単位を『銭』にしたでしょう。大隈重信が英語の『セント』から取ったということです。最初から国際通貨として機能するように設計してあるんです。

 しかも1円銀貨のマークは、富士山でも明治天皇の肖像でもなくて『龍(ドラゴン)が玉をつかむ』という、中国の『商売が儲かります』マークなんですよ。アイデアがすごいですよ。ドラゴンコインを作ったわけですよね(笑)。

 明治政府は財政破綻しているんだけれども、日本円は信認をもって流通してしまうんです。それで東アジアを席巻したスペイン・ドルを駆逐できたんです。そういう大偉業があるのに、そのことは日本史の教科書に書いていないでしょう。早稲田大学もホームページに書かないわけ(笑)」

岩上「しっかりしろよ、早稲田(笑)」

田代「やはり日本の歴史は、ポイント的に偉人伝になっていて、『人々の暮らし』という観点がないからだと思う。日々の生活でやりくりしたお金を払う人たちが信認しているから『円』というのは機能しているわけですよ。そのシステムを作ったという大偉業があって、それを守るためにいろいろなことを封印もしたわけですよ」

岩上「これは大変。日本銀行システムの問題だけではなくて、『円のなし崩しの死』になったら大変なことです」

田代「そうなってしまうでしょう。われわれの営々と築いたものが全部紙クズになるということでしょう。あとはもう外国人がなんでも買っちゃう。徳川時代の終わりに貴重な文物がただ同然で買われていったわけですね。日本はハイパー・インフレーションが起きてしまったから、いくらでも買えちゃうわけですよ。為替レートはむちゃくちゃだし」

岩上「今の時代ですから、美術品を買うというのではなくて、『ああ、六本木ヒルズを買おうか』とか、新丸の内ビルを解体する必要もなく、『そのまま皆さん使ってもいいから』とか、『ただしそのオーナーになるから』とか、そういうことですね」

田代「今は中国の企業が買収するかもしれないですね。だから『円の信認を守る』というのは、それは『日本を守ること』そのものなんですよ。そのためにいろいろな封印があったはずなのに、封印がぺろっと剥がれちゃったんですね」

岩上「そしてそれは今、『アベノミクスという政策がうまくいっている』という意地のためにしているわけじゃないですか。それが本当に守れるのかという話です」


(※5)対華の二十一カ条:
 1915年1月、大隈重信内閣が中国の袁世凱内閣につきつけた条約。山東省の利権などドイツ権益の継承を要求、民衆の反発はあったものの、袁世凱政権は最終的に一部を除き受け入れた。
参照:
世界史の窓【URL】https://bit.ly/2Q57FuX

1930年の人口動態グラフは「ピラミッド型」、2030年はもはや「逆ピラミッド」などとは言わず「棺桶型」!~日本の最大の失敗は、人口が減少するのに日本の税収が増え続けることを想定していること!

田代「次のグラフを見てください。これは財務省が発表したものです。毎年新しく作られる付加価値の合計であるGDP、つまりフローに対して、政府の借金が何倍あるか計算してみるわけですね。

戦時(異常時)を超える勢いで債務が累積している日本!

 日露戦争で日本は大変な借金を作ってしまいます。高橋是清がロンドンで戦時国債をジェイコブ・シフ(※1)に売って作ったんですよ」

岩上「(シフは)ユダヤ商人ですね。ポグロム(ロシア帝国各地、特に東欧で頻発したユダヤ人虐殺)でユダヤ人が虐殺されていたので、それがめぐりめぐって非常に親和的な貸し付けをしてくれたということになるわけですけれども」

田代「あのシフが作った会社の末裔がリーマン・ブラザーズだったんですよ。因果はめぐるんですね。

 日本は必死になって、この借金を増やさないように処理したんですけれども、結局、世界大恐慌が起きて以降、拡張財政に行ってしまうわけですね。

 高橋是清はこれをなんとか押さえ込もうと頑張ったんだけれども、軍人たちに対して『もうこんなめちゃくちゃな陸軍費・海軍費の増加要求は呑めない』と言ったとたんに、(1936年に)2.26事件が起きました。あの時、真っ先に高橋是清のところに行って殺すでしょう。あれで日本はもう財政規律をなくすわけですよね。

 そのあと、恐ろしいことに『陸軍費と海軍費は戦争目的を遂行し終わった時に決算します』ということになってしまった。大日本帝国が勝利するまで決算はないわけです」(※2)

▲田代秀敏氏

財政規律がなくなり、とうとう給料から天引きで戦時国債を買わされる!換金され、搾取される愛国心!!

岩上「(笑)『戦争が終わった時に決済するから、やっている間はどんどん使っちゃうよ』ということになったんですね。もう膨張ですね」

田代「その結果、戦時国債をどんどん発行して強制的に買わせていくわけです。給料の一部が最初から天引きされているとかね。

▲第二次世界大戦中に発行された戦時国債(Wikipediaより)

 当時の写真や映像をよく見ると、いろいろなところに『貯蓄』ということは書いていないですね。『国債を買おう』と書いています。もうダイレクトに言っていますね。どんどん買わせて、まず金融を封鎖して、外国にお金を送れなくする。次に国内のお金を国債でどんどん吸い取っていく」

岩上「なるほどね。外に資金逃避をさせない。キャピタル・フライトはさせないんですね」

田代「行き先は国債だけなんです。これをどんどんやっていって、とうとうGDPの2倍に達し、戦争に突入するわけですよ。そしてシュパッと終わってしまった。

 ここで(債務が)減ったのは、インフレーションのおかげですよ。要するに、ハイパーインフレで債務を1/4に圧縮できたわけですね。

 戦後は、『税収として入ったものしか支出してはいけない』『国債の発行は相成らん』と、厳格な財政均衡主義を取るわけです。特例として建設国債があります。例えばダムを造るために発行するならいいけれども、『漫然と発行してはいけない』というものです」

岩上「『赤字国債はだめだ』ということですか」

田代「そう。それがあってずっと下がってきたんですけれども、1965年に反転します。ここで赤字国債を発行してしまうんですね(このときは福田赳夫蔵相)。これによって財政法第4条の『赤字国債禁止』が空文化してしまうんです。財政法が制定されたのが1947年ですから、18年の封印をここでやめたんですね。

 1958年には、のちに大蔵事務次官になる大物官僚・谷村裕が『週刊エコノミスト』に寄稿しました。『財政がいったんふくらんだら、なかなか圧縮できないことは、遺憾ながら今日の政治の現実的な姿』だと。あの大戦争がいかに財政破綻の上にあったかということを、この人は知っているからですよね」

岩上「戦争として敗北したけれども、その前に財政的にもう完全に破綻している状態だったわけですね。1965年の赤字国債発行は、(前年の1964年に行なわれた)東京オリンピック不況の対策ですか」

田代「でもよく見ると、実際には日本の財政は、1963年くらいまでにすでにいっぱいいっぱいなんですよ。『もうだめかな』となってきているわけですよね」

岩上「景気のいい時だと思っていたんですけれどもね」

田代「開催年の2年前(1962年)がオリンピック景気のピークであって、前年にはもうかなり苦しいはずです。だから(東京五輪開催前年の)2019年は相当厳しくなるし、2020年はもっと厳しくなります。2021年になると、1965年のプレイバックになるかもしれないですね。

 それで先ほどのグラフに戻りまして、この太平洋戦争時の危機を日本はどう逃れたかということを見ていきます。決定的なのは、日本最大の金食い虫、日本陸軍と日本海軍をなくしたからですよ。それでまずは財政の膨張を切ることができた。

 それから、意図したかどうか微妙だけれども、とにかく結果としてはものすごいインフレーションが起きたので、金融債務が圧縮できたわけです。この2つが大きいですね」

岩上「昔の生活では、1銭2銭という単位が日常で、円というのは大変なお金だったわけです。それが1円玉になっちゃったわけですからね」

田代「2.26事件の指導者・北一輝は、三井財閥から盆暮れに2万円もらっていたわけでしょう。それであんな豪勢な暮らしをして、青年将校を呼んで毎晩ご馳走を食べさせてやっていたわけじゃないですか」

▲北一輝(Wikipediaより)

岩上「北一輝が2.26事件の時に電話をしている音源が出回ったんですよね。YouTubeで生々しく聞けます(https://bit.ly/2WtSAYn)。閉じこもっている将校たちに、『マルマルがわからん? カネカネ』と言っている」

田代「三井財閥当主から個人的にもらっていたわけですよ」

岩上「三井は戦争で金を儲けていたんですね」

田代「その辺はそれこそ封印された歴史です。そこはきちんとプロの歴史学者が解明してほしいですけれどもね。

 この破局から立ち直れたもう1つの理由は、『人口の増加』ですよね。1930年は2.26事件の前の、世界大恐慌の翌年です。日本も昭和恐慌が起きて、もう破滅的な事態になるわけですよね。その時日本はまさに、ピラミッド型の人口構成ですよね。子供はたくさんいて、高齢者はこんなに少ない。もう敬老精神に溢れていますよね。希少だから。

 平均寿命が50歳前後でしょう。すごく若い世界なんですね。これでもし衛生水準が少しでもよくなれば、人口はぐっと増えるんですね」

▲債務は戦時のようにかさんでいるが、人口動態は決定的に異なる

岩上「増えます。多産多死の時代だから、子供が成人前に亡くなることがあるんです。けれども今は『少産少子』で、子供がほとんど成人しますから、人口統計くらいあてになる統計はないんですよね。

 とにかくこういう人口ピラミッドだったんです。だから日本にとって戦前の人口問題とは、『この若い人たちをどう食わせていくか』という問題で、それが例えば植民地朝鮮、満州に植民させようなどという話につながっていくし、若い兵隊がいなければいけないから、まあ長男坊は取っておくけれども次男三男は『兵隊に行け』ということになる。『戦争で使い捨てにしていく』という頭もあって、『産めよ殖やせよ』と言っていたわけですよ」

田代「グラフを見ると、0歳の人口に対して1歳人口はすごく少ないでしょう。いかに乳幼児死亡率が高かったかということですよね。赤ちゃんが1歳を迎えるのもなかなか難しかった時代ですよね。だからこういう構造になっていて、これがあったがゆえに、『敗戦』と『財政崩壊』という2つの破局を乗り越えられたわけです。

 ところが、2030年になったらどうなるかというと、1930年のものをピラミッド型と言うのに対し、2030年のものを人口学者は『棺桶型』と言うんです」

岩上「『逆ピラミッド』と言わずに『棺桶』と言うんですね」

田代「『キノコ雲』という言い方もあるけれども、人口学者は『棺桶型』と言うんですね。で、確かにそうですよね」

岩上「しかも棺桶は縮小再生産していくんですね。私はこの問題に取り組んでから結構長いんですけれども、『団塊の世代だけが多いので、あの人たちが死んだら急に楽になる』という人がいます。そんなわけないでしょう。合計特殊出生率が人口置換水準を割り込んでいるということは、常に縮小再生産だから、この形のまま小さくなっていくだけなんですよね。そこに膨大な債務がのしかかってくるということになるわけですね」(※3)

田代「そうです。さらに『日本のGDPに対して、政府がどれだけ借金を持っているのか』という比率を取ってみると、日本がもうすでに先進国のトップで(236.0%)、イタリア(129.7%)などはとうに追い越しているんですよね」

▲先進国で突出する債務残高(対GDP比)

岩上「びっくりします。1930年代の人口ピラミッド状態だったから、あれもあれで(食べさせなくてはいけない子どもが多くて)大変ですけれども、若い人たちが育ち切れば、1人当たりの債務は下がっていきますからね」

田代「ところが現実は、社会保障をふくらませていく高齢者が増えるわけでしょう。OECDの予想でもそうなるわけですね。本来は、これ以上の債務が増えないような技術が絶対必要なはずですよね。でも逆なんですよね。その時に最大の失敗をしているんです。大蔵官僚だった人などもみんな書いていますけれども、『最大の失敗は、日本の税収が増え続けることを想定している』ことなんですよ。そのツケが回ってきているわけですよ。

 さらにこの上、トランプの言いなりに軍備増強をしている。現実にはイージス・アショアが軍備増強かどうかはわかりません。使い物になる兵器かどうかもわからない」

岩上「そうですね。軍備とはいわないかもしれませんね」

田代「実際、アメリカのヘリコプターがあんなに落っこちているじゃないですか。軍艦はぶつかってばかりいるじゃないですか」

岩上「はい。F35は欠陥だらけです。イージス・アショアはそもそも弾道ミサイルの速度の1/6くらいなので、ミサイルが打ち上がったとわかってから発射しても、的中航道に行くまでにミサイルはアメリカ大陸に届いているというのです。漫画なんですよ。くだらない(笑)。あれはもう、アメリカのためのプレゼントですよね」

田代「そう。あれは単に『防衛費の増加』とリアルに言ったほうがいいですよね」

岩上「そうですね。軍備は何も強化されていない。安全保障には何も資していないけれども、防衛費だけは増加している」(※13)

田代「これ、(財政破綻と戦争が)ダブルで来たら大変なことですよね。ますます心配になってきます」


(※1)ジェイコブ・シフ:
 日露戦争時に、戦費調達をして日本を支援したアメリカのユダヤ人銀行家。
参照:
三谷太一郎『日本の近代とは何であったか――問題史的考察』(岩波書店、2017年)

(※2)臨時軍事費特別会計:
 1937年7月7日に北京郊外で発生した盧溝橋事件、8月13日以降の第二次上海事変と事実上の日中全面戦争に突入していく中、近衛文麿内閣は「臨時軍事費特別会計法」を同年9月10日に公布した。これにより、日中戦争の戦費は一般会計とは別に特別会計で賄われることとなり、また戦争の終結までを一会計年度として扱われることになった。しかも、その財源の8割以上が公債金によって占められていた。
参照:
鈴木晟『臨時軍事費特別会計――帝国日本を破滅させた魔性の制度』(講談社、2013年)87-96頁

(※3)人口論の基本用語:
 合計特殊出生率とは、1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計値。人口の減少を食い止めるために必要な合計特殊出生率は2.1だが、2017年の日本では1.43と低迷している。また、人口が増えも減りもしない合計特殊出生率の水準のことを人口置換水準というが、現在の日本では2.07である。
参照:
日経 経済・ビジネス用語辞典
出生数 最少の94万6000人 出生率1.43、2年連続低下(日本経済新聞、2018年6月1日)【URL】https://s.nikkei.com/2LWStmx

(※13)防衛費の増加:
 安倍政権による2019年度予算案では、防衛費は4年続けて5兆円を超えている。しかも、19〜23年度の中期防衛力整備計画(中期防)は、5年間の防衛予算の総額を過去最大の27兆4700億円程度を見込んでいる。
参照:
膨らむ防衛費 歯止めの議論が必要だ(信濃毎日新聞、2019年1月6日)【URL】https://bit.ly/2RUWc6U

経済成長の本質を見失い、苦し紛れに発行した65年の赤字国債、金融モラルハザードを引き起こした特別融資、ふくれ上がる国債依存度~「特例」によってその場しのぎをする経済コントロールができない国・日本!?

田代「では、『日本の財政を待ち受ける未来』はどうなるか。政府総債務残高対GDP比率が240%にきています。黒田総裁が最初に日本銀行総裁に就任なさった時に、参議院の委員会に呼ばれましたよね。あの時に『240%なんて水準は持続不能である』とおっしゃっています。これは国会の記録に残っていますね。それはそうですよね。誰がどう見ても、これが持続可能であるとは思えないです。一番の原因は『社会保障費の増大』ですよね。

▲日本の財政を待ち受ける未来

 これでよくいわれるのは、『生活保護を切れ』ということですが、生活保護を切っても問題は何も解決しません。あれは金額がわずか数兆円で、すごく小さいです。本丸はそこではないんですよね。『年金』と『医療』と『介護』なんですよ。そこを切ってもいいかということですよね」

岩上「『切ってもいいか』って(笑)。まあ早い話が、『60歳定命制』という時代ですよ」

田代「少子高齢化を止めるために『定命制』を入れるか」

岩上「『定命制』を入れるか、子供を作るか」

田代「ロシア人の学者がこう言っていました。『日本人は、日本酒のようなアルコールの薄い酒を飲んでいたらだめだ。ウオッカくらい強いやつをガンガン飲んで、男の平均寿命を短くしないとだめだ』と(笑)。ロシアは本当にそうですよ。不思議ですよね。男性はまだ平均寿命が50歳代でしょう」(※14)

岩上「(笑)いやあ、もうむちゃくちゃですからね。でも私はソ連崩壊の過程からずっと見ていましたけれども、彼らは『結局金持ちだけの自由化じゃないか』と。

 ロシアは、マフィアと売春婦の横行している社会なんですよね。ソ連時代はそのことも秘密だった。『国内経済の4割はマフィアが担っている』といわれているんです。私が取材に行った時に白タクの運転手をしてくれた人が、実はソ連軍の大佐までいった結構高位の元軍人なのに、もう年金で暮らせないから白タクをやっているというんですよ。

 プライドがすごく高いから私には言わなかったけれども、通訳がこっそり教えてくれて。私が敬礼したら、『なぜ君はそういう挨拶をするんだ』と聞くので、『いやあ、あなたが大佐だと聞いたから』と答えたんです。すると『いやあ、恥ずかしい』と感情をぶつけてきた。『若い男ならマフィアになれる。若い女なら売春婦にもなれる。俺たち年寄りはいったいどうしたらいいんだ』と。『車の運転ができるからなんとかなるんじゃないか』と気休めを言ったんですけれども(笑)。

 本当に、家にある物を持ち出して、路上で物売りをする人たちがたくさんいます。とにかく『老人はあとは死ぬしかないんだ』という本当に静かなジェノサイドが起きていたんですよね」

田代「医療制度の国際比較をしている研究者に聞いたら、『ソ連が崩壊して1年以内に、透析を受けていた患者は全員死んだ』というんですね。財政破綻というのは、本当にそのくらいのインパクトがあるわけですよ」

岩上「(公的な病院からは)医療機器がなくなりますからね。医師もみんな、民営化という意味のプリバチザーチャによって、プライベート・セクター(民間病院)に移ってしまったし、ガーゼのような資材もないし。もう野戦病院のようなものですよ」

田代「病院に行ったら、もぬけの殻ですよね。そうならないためには、日本国債を暴落させたらいけないわけですけれども、最近、皆さん、あまり真面目に考えないですね。最初のグラフでわかるように、困ったことに債務全体の金額に対して、GDP比率もほぼ同じように行くでしょう。経済の規模の拡大に伴って増やしたんだったら、この赤い線は水平になるはずでしょう。そうではなくてこれが右上がりだということは、経済成長のペースより早く(債務を)増やしているわけですよね。これはどう見ても、破綻への道をまっしぐらに進んでいますよね。

 なぜこうなったのかと考えると、やはり『65年の赤字国債発行』ですよね。日本はいったん財政規律を失って、戦争に突入して大破綻した。戦後はそれを踏まえて財政法で厳しくしたのに、苦し紛れにそれを破っちゃったでしょう。これが効いてしまったと思うんですよね」

▲1965年(東京五輪翌年)赤字国債発行

岩上「(高度成長と、東京五輪、国際社会への本格的復帰など)非常に達成感、高揚感のある時に、台所は火の車になっていて、『このプライドを守るためには赤字国債』と考えてしまった。『ごめんなさい。二等国に戻ります』という手も少しはあったかもしれないじゃないですか。

田代「『1965年危機の経済的帰結』ということですが、結局、日本銀行が特別融資によって金融機関を救済したことが前例となって、金融機関にモラルハザードが発生したわけですね。『経営破綻しても日銀が救ってくれるよ』ということになってしまった。

 バブル期は1987年から89年。この前あたりから日本の銀行は、例えば1億円の価値の土地を持ってきたら1億3000万円、1億5000万円を貸しました。つまり将来の値上がりを見越して、担保価値よりもたくさん貸したわけです。しかし、もし値上がりしたとしても、例えば10年間で3割上昇しなかったら、損失が発生するわけですよ。

 そんなことをしていたから、土地はどんどん値上がりして、空前の資産バブルを形成したわけですね。その元を辿れば日銀の特別融資ですよ。だから中央銀行の行動というのは、ものすごく重要なんですね」

岩上「なるほど。日銀がガンだったんだ。日頃、注目されることは少ないですけれども」

田代「だからこの時の総裁はしたくないですよね。せっかくあれほどの確たる大業績を上げたのに。本当なら責任を取って退陣するべきですよね。

 もう1つの経済的帰結は、『赤字国債の封印を破った』ですね。これでせっかく作った財政法第4条が空文化してしまったわけです。みんな戦争を経験していたから、まだ節度があったけれども、1974年に、日本は戦後初めてマイナス成長に突っ込むんですね」

岩上「74年といえば、前年にオイルショックがあった時ですよね」

田代「あの74年不況を、今では日本では、すべてオイルショックのせいにしているけれども、それはおかしいです。今でも論争はありますけれども。日本の物価上昇はオイルショックの前から激烈に始まっています。日銀が景気を抑制すべきタイミングで、逆に金融政策をふかした。ただ、おそらくマクロ経済学者も日本銀行から仕事をもらっている人が多いから、そこはなるべく触れないようにしています」

岩上「言わないんだ。みんなオイルショックのせいにしているけれども。この頃にはわれわれも物心ついて、理解できる時代に入っていますからね」

田代「物価統計などをきちんと見ると、日本の物価は、第4次中東戦争が勃発する前から火がついていますね。説明がつかないじゃないですか。株価なら先読みだけれども、物価はそうじゃない。あとから来るから。そして、戦後初のマイナス成長から脱しようとして、75年からは1年ごとの特例国債が恒常化するんですよね。それで赤字国債が累積し、現在600兆円を超えているんです。

 金利が一律に1%ポイント上昇したとしますよね。単純計算すると、それだけで6兆4000億円の国債の利払費の増加があるわけでしょう。それ、どこから出すんですか。どこから出てこないから、その金額分の赤字国債を出すしかないじゃないですか。そうすると利払費はどんどん増えますよね。そういうことがあるから、実は今、日本の財政は金利上昇に対して極めて脆弱なんです。フラジャイルなんですね。

 次のグラフを見てください。このピンクのところが『特例国債』です。正式な用語でこれが『赤字国債』です。赤字国債は、本当は法律上許されないから、1年限りの特例法を作って、それをずっと繰り返してきたんだけれども、面倒くさいから、第2次安倍政権になってからは特例期間を3年にしてしまっているんですよ。赤字国債をどんどん気軽に発行できるようにしてしまった」

▲赤字国債(特例公債)発行の推移

岩上「アベノミクスの第2の矢が『財政出動』ですもんね」

田代「2012年に景気が落ち込んだでしょう。いろいろな理由はあるけれども、1つは補正予算が組めなくなってしまったことです。あの時自民党が最大野党で、国会の審議拒否をして、特例国債を作るための法律が通らなかったんですよ。だから民主党政権は補正予算を組めなくなってしまった。それで景気が落ち込んだ。

 そのことを彼らは知っている。例えば将来衆議院選挙をやって、与党ではあるけれども51%くらいまで議席占有率が落ちて、野党が相当強くなったり、あるいは参議院で敗北したりすると、そこで特例国債を止められたら大変だから、今のうちに特例国債を3年分オッケーにしちゃったと、僕は思います。それなのに、野党が審議拒否したら与党がなぜあんなに怒るか、僕にはわからない。

 赤字国債はこのように一時期なかったんだけれどもね。バブル期のちょっとあとね」

岩上「本当に景気がよかったということですよ」

田代「ところが、ここからどーんと増えているでしょう。青が建設国債です。(財政法第4条で認められているので)4条国債というんです。これは『対応するブツがある』ということなんですね」

岩上「インフラを作っているわけですよね」

田代「これを小泉政権の時にずいぶん減らしたわけですね。でも赤字国債は増えているんですね。国の一般会計の歳出の歳入を見ると、バブル崩壊のあとにぱかっと開くでしょう。これを財政学者たちは『ワニの口が開いた』というんです。

 実はこの時期に、財務省の高官のプライベートなセミナーがあって、参加者が『もうここまでワニの口が開いてしまうと、閉じることないよね』と言うんですね。なぜかというと、この間を埋めるためにずっと赤字国債を発行するから、それが雪だるま式に増えていくじゃないですか。もしこれが閉じるとしたら、マイナス金利(※15)の時しかない。でもそんなこと、資本主義の下でできるだろうかとはおっしゃっていましたよね」

岩上「今、(マイナス金利)やっているじゃないですか(笑)」

田代「これは『発行した毎年の金額』ですよね。もう1つ詳しく見ると、これが『国債依存度』、つまり、どれだけ財政が国債に依存しているかということがわかります。この時非常に下がっていますね。一時期、34ですよね」

▲国債発行額と国債依存度との推移

岩上「ここでバブルが崩壊しているんだけれども、その余韻のようなものでよかったんですね」

田代「本当に痛いのは、日本で1997年に金融危機が起きた時ですね。山一證券が倒産して、北海道拓殖銀行が吹き飛んでしまいました。そこからまた(国債への依存が)増えているでしょう。国債にどれだけ依存しているか、財政収入のうちどれだけ国債発行で賄っているかというと、ここでとうとう50%を超えたんです。

 これをずっと民主党政権も頑張って下げてきた。今は下がってはいるんだけれども、これでいいかというと……。

 この赤い部分と青い部分は、毎年発行して償還していくんだけれども、実はこれは、厳密に言うと1/6だけ償還するんですね。つまり、残り5/6は借り換えるんですよ。『借換債を発行して、また先延ばしておく』ということをして、保っているわけね」

岩上「塩漬けだ」

田代「その結果、次の資料にあるように、日本の赤字国債は、償還しても償還しても借り換えている分がある」

▲国債残高の累積 1965〜2018年度

岩上「借り換えで1/6だけなんだ。5/6は……」

田代「きちんと償還したのが1/6で、残り5/6は借り換えています。積み重なっていきますよね。それで今、赤字国債が600兆円を超えているわけですね。そして建設国債が270兆円を超えているということになって。復興債(2011年の東日本大震災の復興財源を調達するために、財務省が発行している国債)というものがありますけれども、これはごくわずかです。こういうふうにどんどん増えてますよね。ここにも借金がありますけれども、これだけ見ても、今、金利が1%上昇したら、その瞬間に国の利払費は9兆円増えるんですね」

岩上「9兆円!(笑)」

田代「どこからそんな金が出るでしょうか。それは赤字国債ですよ。この赤い分がふくらむということになるわけですね」


(※14)ロシア男性の平均寿命は50歳代
 岩上安身は以前、「ソ連崩壊後、ハイパーインフレに見舞われたロシアでは、年金や医療制度の崩壊だけでなく、アル中の増加や犯罪の激増など、社会的荒廃も手伝い、男性の平均寿命は『平時』であるにもかかわらず、一気に7年も縮まった。2000年時点で、58.9歳」と書いた。
参照:
岩上安身「日本人が消滅する日(5)」『正論』2003年2月号、247頁。

(※15)マイナス金利:
 金利をマイナスにするということは、金融機関が日銀に資金を預けたままにしておくと金利を支払わなければならないという状況を作り出す。そのことにより、金融機関が企業への貸し出しや投資に資金を回すように促し、経済活性化とデフレ脱却を目指すための政策とされている。日本大学国際関係学部の水野和夫教授は、2015年段階の主要先進国の異様な低金利に対し、「資本主義終焉のサイン」であると指摘している。
参照:
機能不全に陥った資本主義 「フロンティア」なき時代、私達はどのような社会を作るべきか ~岩上安身による日本大学国際関係学部教授・水野和夫氏インタビュー 2015.1.28【URL】https://bit.ly/2SdHirT

日本の財政危機でも、1円たりとも削れない国債の利払費~社会保障費と地方交付税を切るしかない!?

田代「面白いのは、今までのグラフは一番端が1975(昭和50)年で、このグラフに限って端が1965(昭和40)年(1965年)でしょう。財政法の封印を破った年ですよね。そこから日本の国債の累積は始まっているわけです。

 そうなると、次のグラフにあるように国債の残高がこう上がっていて、どんどんふくらんでいくのに、この黒い線、利払費が不思議なことに増えないでしょう。どういうことかというと、金利ですよ。人類史始まって以来の超低金利をつけていますから」

▲国債残高、国債利払い費、金利の推移

岩上「なるほど。今われわれは、人類史的な事態に立ち会っているわけですね(笑)」

田代「古代バビロニア以来ですね。人類の金融の歴史において、まれに見る超低金利なんですね。あのエコノミスト紙の二代目編集長・ウォルター・バジョットが書いた『ロンバート街』という、当時の金融街を描いた文庫がありますよね。彼は面白いことを言っています。『ジョンブル、イギリス男はたいていのことには耐えられる。しかし2%を下回る金利には耐えられない』」

▲ウォルター・バジョット著、久保恵美子訳『ロンバート街――金融市場の解説』(日経BP、2011年、原著1873年)

岩上「(笑)面白いことを言うなあ』

田代「その2%を超える金利を、日本は2002(平成14年)年)に下まわっているでしょう。『ジョンブルは耐えられない』という低金利を、日本人はそこから16年間耐えているわけです。『まさに世界に冠たる日本です』というわけではないですよ。これは大変なことです。資本主義のゾンビ状態ですよね。『金利』というのは『資本に対する報酬』でしょう。それがここまで下がっているということは、例えば10年国債の利回りですが、『日本で10年ビジネスを行っても、平均利回りが2%行かない』ということなんですよ」

岩上「これじゃ誰も投資をしないですよ」

田代「これで『若い人に希望を持て』というほうが、私は無理だと思う」

岩上「2%以下といったら本当に雀の涙。いろいろな手数料で消えちゃうような話じゃないですか。リターンがないんですよね。投資をしてもリターンがない。日本に投資をする気になれないのは当然ですよね。お金のある人は外国に投資するし、資本家も海外に投資しようと思っちゃいますよね」

田代「1983(昭和58)年には、金利が7%を超えているじゃないですか。80年代前半の日本経済はこんなに活気があったわけですよ。リスクを考えないで言えば、10年ビジネスを行えば、年平均で7%以上の利益が出たんですよ。

 ちなみに今金利が1%として、8%に上昇したとすると、7ポイント上がるわけですよね。そうすると、公債残高が900兆円として、それだけで利払費は36兆円増えるんです。それは税収が全部消えるということじゃないですか(笑)。

 この状態で金利が上昇したら、我が国はどうなるのか、それは財務省の公式サイトにちゃんと動画がありますのでそれを見ましょう。

 『もし金利が上昇したら、公債利払費が増加する。公債の利払費も一気に増加に転じることが考えられます』。これで終わりなんですよ」

▲もし金利が上昇したら?

岩上「えっ、びっくり! これだけ?その後の未来はどうなるんですか」

田代「これで終わりです。皆さん、財務省の公式サイトの『財務省ナウ』というところを開けて是非見てください。私が捏造したんじゃないんですよ。『その後』はあるはずだけれども、『もうこれは財務省の仕事ではない』ということですよね。『このあとは政治の仕事でしょう』と」

岩上「ちょっと待ってくださいよ(笑)。実際問題として、現実の経済やわれわれの暮らしに、どんな影響が与えられるんですか?」

田代「それは、次のグラフを見てください。財政の中身を見てみました。これが一般会計歳出ですね。特別会計はそれぞれ用途別に決まっているから、それを除いて。

 裁量の効く、一般会計の歳出(支出)の中身を見てみると、一番多いのは『社会保障関係費』です。これが33兆円。次に地方交付税。これは中央政府が替わって税収を集めていますから、中央政府から地方自治体に渡すのが15.5兆円。次に公共事業の関係が6兆円。そして文教、科学、防衛などを合わせて約20兆円。

▲一般会計歳出の主要経費の推移

 ここに国債の利払費があります。借り換えられる費用が23兆円あるわけです。だから実は、一番大きいのは社会保障で、二番目に大きいのは国債の利払なんですね。

 この灰色の部分が急速に大きくなっているでしょう。1980年には5兆5千億円だったんですね。それがバンバンと上がっているでしょう」

岩上「『どうしても国債費を払わなきゃいけない。利払費も一気に増加に転じる』。そして『予算を組まなきゃいけない』となったら、もう増税必至じゃないですか」

▲真山仁『オペレーションZ』(新潮社、2017年)

田代「それを避けようと思うなら、これなんですね。真山仁という作家が書いた『オペレーションZ』(新潮社、2017年)という小説です。『日本財政の危機において日本人はどうするか』というテーマで描かれています。国債費というのは、利払費を1円でも出し渋ったら、『デフォルト』なんですよね」

岩上「もう信用がなくなる」

田代「これは絶対、1円たりとも削れません。そうするとどこを削るか。税収に合わせてやっていくためには、社会保障関係費と地方交付税を切る。それが、この『オペレーションZ』に出てくる日本が生き延びる最後の作戦の世界です」

岩上「要するに、もう社会保障と地方の面倒は見ないということですね。ばさっと切る。もうこれは『夜警国家』じゃないですか。

 しかも、本当はこれはわれわれの金なんですよ。それを『返しません。約束していたけれども出しません』とは、どういう理屈なんですか?」

田代「ここを切ることで、日本財政を生き延びさせようとする総理大臣が出てくるわけね。面白いから是非読んでください。

 言いたいのは、金利上昇というのは、それくらいものすごいことだということです。爆弾を抱えているわけですよ。しかもこの国債利払費は1円たりとも切ってはいけない。国債とは最も信用のある金融商品でしょう。『ちょっと利払を遅く…』と言った瞬間に、ウォール・ストリート・ジャーナルが書き立てますよ。『ジャパン!』『デフォルト!』。ブルームバーグも『ジャパン!』『デフォルト!』(笑)。

 まず為替レートは、一気に1ドル400円、500円になりますよね」

岩上「そうすると石油などはとてつもない値段になりますね」

田代「ああ、もう北朝鮮と同じですよ。『キャッシュで払ってください、キャッシュで!』と」

岩上「アメリカの言いなりになってTPPをやって、今はアメリカが抜けてしまったからTPP11ですけれども、それで(政府は)日本の農業を潰す気なんですよ、潰す気満々。オーストラリアやカナダが入っていますから、すごく安い食べ物が入ってきて、もう農家は店を閉じる。今の農水次官は、農水省のお葬式を出すための次官だそうで。そのあと農水省はなくなって、『農水というのも生産物でしょう。経産省の一部局になる』ということになる。東大の農学部の優秀な子が毎年卒業すると、これまでは農水省に行っていたわけですよね。ところが今年は経産に行ったんですよ。

 農家も潰します。JAも潰します。JAの貨物を揚げ降ろしする港の施設だなどの資産は全部外資がいただきます。そして『株式会社化しろ』と言っている。

 そして食糧は自前でもう作れない状態になった時に、ズドーンとデフォルトになって」

▲TPP11でいくら安い外国産牛肉が入ってこようとも、デフォルトしたらどうにもならない

田代「円安に向かった時に、為替レートは一気に上がります。自民党は、『メリットは牛丼だ。安い外国の米と安いオーストラリア産ビーフで作れば、400円だった牛丼を300円、250円で食えるんだ。いいじゃないか』と言っていたんですけれども(笑)。これがいきなり1万円などになっちゃうわけです」

岩上「でもロシアは、いくらでも土地があって、自衛のためにダーチャという家庭農園で作物を作っているんですよ。でも日本は……」

田代「家庭農園がないんだからね」

岩上「種子法を廃止してしまったために、自家採種して翌来蒔くことが法的に禁じられる。刑事罰になるんですよ」

田代「そうなんですよ。恐ろしいことにね。朝顔の種を取っておいて翌年蒔いても捕まるんですよ」

岩上「そんなこと、信じられないじゃないですか、晴耕雨読の生活はできないんですよ(笑)」

田代「オリジナルのTPPに入る前に、不思議なことに、メディア空間で『白米、白い砂糖、牛乳が体によくない。止めろ』という話が飛び交ったじゃないですか。あれは考えてみると、TPPが動き出したら真っ先に消えるところですよね」

岩上「日本の牛乳はほとんど国産。牛乳を遠くから持ってくることはできないらしいですよ」

田代「砂糖もほとんど国産ですよね。お米ももちろんそうですけれども。なんだかこの3つをやたらと標的にして、『この3つを食べるからあんたはブスなんです。この3つを食べなければ私のようにきれいになります』なんて、わけのわからないタレントが出てきてしゃべったじゃないですか。TPPで、日本からメイドインジャパンの白米も白砂糖も牛乳も消える。『これで日本も蘇る』と誰か言うのかなと思ったんですけれどもね(笑)」

岩上「『パンを食べていればいいだろう』『バター塗っておけばいいじゃないか』『脱脂粉乳とバターを混ぜておけば牛乳の代わりになるぞ』とか、本当にめちゃくちゃな話なんですよね」

田代「でもそれが通りかねない」

岩上「この間の鈴木先生(東京大学大学院農学生命科学研究科・鈴木宣弘教授)の動画と併せて聞くと、本当に寒々としますよ」(※16)


(※16)東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授:
 2018年の国会は、TPP11発行のための国内法整備と思しき「売国法案」が続々と通過した。それが何を意味するのか具体的にお伝えするために2018年末、鈴木教授に同年3回目のインタビューを行なった。
参照:
【岩上安身不在の穴を埋めるピンチヒッター企画 第10弾!】 極端な規制緩和の果てに安価で危険な食品が市場を埋め尽くす!? 活路は共助による資源管理!~小高由貴乃記者と小野坂元(はじめ)記者が東京大学農学部の鈴木宣弘教授に緊急取材! 2018.12.27【URL】https://bit.ly/2RqESlk

日本政府の唯一の経済的見通し、内閣府提出の「中長期経済財政試算」をグラフ化して見えてくること~2025年には「名目長期金利」が「名目GDPの成長率」を上回る!

田代「では、金利は上昇するか、日本国債の価格は下がるかというと、そう言っている機関がある。それは内閣府です。内閣府の統計部門が半年に1回、経済財政諮問会議に提出する『中長期経済財政試算』という報告書があります。経済財政諮問会議というのは、議長が総理大臣閣下の日本最高の経済司令塔です。これは唯一の『日本政府が指名している経済見通し』なんですね。

 この『経済再生ケース』というのは、有り体に言えば、『アベノミクス成功ケース』です。見てください。この青の線『消費者物価上昇率』が2%に張りついていますよね。これでめでたく『アベノミクスは成功だ』ということです。

▲内閣府「中長期経済財政試算」経済再生ケース

 『名目長期金利』、つまり10年国債の金利が2018年度まではゼロだけれども、2019年度に0.5、オリンピック開催の2020年度に1.5、2025年度には4.5%になるというシナリオを書いていますね。その時に、『名目GDP成長率』も確か600兆円になるのかな。要するにいつも安倍総理が言っている金額になるんだけれども。その時には『名目成長率』が4%だという。これもすごいけれども、実は最終的には、2025年には『名目GDPの成長率』よりも『名目長期金利』のほうが高くなる。

 ビジネスをして1年間でいくら儲かるかというと、『成長率』が『4%』。すごいけれども、金利が4.5だったら、逆転が起きるわけですよ。

 しかもその時に当然、金利が上昇するわけですから、国債の利払費が増加していきます。25兆円未満の水準だったのが、2025年度には40兆円を超えるわけです」

岩上「官邸はこのシナリオで動いているんですか」

田代「これは経済財政諮問会議に提出するわけですから、議長である安倍晋三閣下もご覧になっているはずですよ。数値の内容は、当然、あの優秀な官僚の皆さんが説明なさったはずです」

 見てください。国債費が40兆円を越えるわけでしょう。1つ前のグラフも見てください。『23.3』が『40兆円』になるわけでしょう」

岩上「『なる』ともう決めているんだ」

田代「もちろんその時には、『理想的に税収がうんと増えて、大丈夫そうかな』とくるんですね。あの金利で、果たして日本の経済は大丈夫なのか。例えばアパート経営をしている人たちはお金が回らないですよ。あれは金利が1%未満であることを前提にしたビジネスですよね」

岩上「自民党の議員の皆さん、脇が甘いんですよ。この頃は緩みに緩んで、六本木、銀座のクラブで若い女の子をはべらせしながら、ワーワー飲んで。消費税を増税した時には、『増税大成功でカンパーイ!』などと言って。そこにヘルプで入っていたものすごく頭の切れる女性が全部記憶していて、『誰と誰と誰が来てね。これだけ上げる気よ』と言っていました(笑)」

田代「おっしゃるとおり、消費税は引き上げていくことになっています。消費税引き上げで財政破綻を回避するというシミュレーションは、2009年時点で私が聞いたのは、確か50何%ですよ。

 その時にも明らかだったのですが、増税を実行するタイミングが遅れれば遅れるほど、引き上げなければいけない幅はどんどん高まっていくから、それから10年経とうとしている今だと、おそらくその値では済まない。消費税引き上げだけでなんとかしようと思ったら、消費税を70%80%にしなければいけないですね。」

岩上「そのあと一挙にこれがくる(国債費『23.3』が『40兆円』になる)」

田代「アベノミクスは、成功すればそうなる。成功しないケースもあって、その時はもう少し緩やかですね。物価も上昇しないから、こんなに金利が上昇しない。その代わり経済成長はあまりしないということになります。困るのは、成功するケースです。どうするんだろうか」

▲左 岩上安身 右 田代秀敏氏

岩上「どうするんでしょうね。先ほど、『1%上がったら金利だけで9兆円』とおっしゃいましたよね」

田代「総額900兆円だとすれば、急に1%上がればそれは9兆円」

岩上「1000兆に至ったら、10兆円ですよね。今、トランプのせいで、欧州と中国とアメリカの間では、高関税の25%の壁がバーンと上がっているわけですよ。我が日本は取り残されて、主が戻ってくるのを待っているTPP11の中で、『低関税でやっていこうね』と言っていますけれども、主は日本に対して、欧米、中国に対している敵対関税と同じ25%関税をかけると言っているんですよ。

 関税は重要な税収入じゃないですか。それを落としたメリットが、『向こう側に無関税だからこっちも売れるよ』ということだったわけでしょう。この状態で関税だけを全部落としたら、どうするんですか。関税収入がなくなったら、確かなん兆円かになるはずなんですけれども、その分も加わるんですよね」

田代「そうなりますね。しかもアメリカの長期金利は上昇して、3%を超えていますよね。それだけアメリカ国債の価格は下がっているわけです。

 この前、福島銀行に対して警告が出ましたよね。つまり、本業での利益を全部消すくらいの損失が出てしまったわけです。

 それも、アメリカの長期金利がずっと低い水準で推移するという想定の上でやったわけですよね。でも現状はどんどん上がっている」

岩上「うわあ、大変な状態ですね。金利だけ見ても大変。これは『老人は皆死んでください』という話でしょう

田代「『収容所に入れる』というシーンもあります。保護するかわりに財産は没収するという」

岩上「漫画家の永井豪は、『赤いちゃんちゃんこ』というすごくブラックな短編を描いていました。日本が国家的にとても苦しくなった近未来、本来赤いちゃんちゃんこで祝うはずの還暦に『60歳で定命制となったから』と殺されてしまう話です。昔も飢餓で苦しい時に、村落単位ではそういうことがあったらしいですね。私は実際に姥捨てが行われた僻地の村へ行って、『この崖から落としたらしいよ』と聞いたことがありますけれども、すごく痛ましい話じゃないですか。深沢七郎の『楢山節考』にある姥捨て山ですよ」

田代「まず、これだけ累積してしまった国債の山は大問題ですよね。健全な発想からすれば、これ以上増やさないと思うはずですけれども、増やす方向に行っていますよね」

岩上「防衛費なんてもういいじゃないの。しかもただの防衛費増で全然軍事力増になっていないし。安全保障にも資していないし。

 実はこのあと、『信用をなくし、売られる日本経済』というテーマに入りたいのですが、田代さんにはご予定もおありだと思いますし、今日のところを『前編』ということで、また次回お話を伺おうと思います。

 そして田代さんは中国のことも専門家だというので、経済のことが一段落したら、中国特集も是非よろしくお願いしたいと思います。中国のことがわからないと北朝鮮のこともわからないじゃないですか」

田代「世界の経済がわからないです。そこが恐ろしいところですよね。優れた中国研究者もいるけれども、そういう人は元々中国に関心があるから、『今、中国中心となりつつある世界』というふうにはいかないわけですよね」

岩上「なるほどね。だから複眼的な目が必要ですよね。しかし専門家が足りない」

田代「足りないということもあるし、その専門家を大事にしていないですよね。今はほとんど手弁当で研究しているという感じですよ」

岩上「そうですか。いや、それじゃだめですね。やはり政治を大きく変えなきゃだめ。政治を大きく変えるためには、ファンダメンタルを理解しないと。文教費が削られるわけもちょっとわかったような気もします」

田代「まったくね。あれを削ってもなんにもならない。元がこれだけしかないんですから。ではどこから削るかといえば、社会保障ですよね。なぜかというと、国債費は絶対1円も削れないわけですから」

岩上「いやあ、大変だ。大変だけれども直視しなくてはいけない問題です。

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