原発の未来は暗い!それがわかっていながら原発にしがみつく理由はただ一つ!核能力の保持!原子力ムラのリーディング・パーソン、田中伸男氏のリアルと狂気! 2018.12.13

記事公開日:2018.12.13 テキスト
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(文:尾内達也 記事構成:城石裕幸 文責:岩上安身)

 経済産業省資源エネルギー庁の武田伸二郎原子力国際協力推進室長は2018年11月14日、省内で開かれた非公開の国際会議の場で、小型原発の開発を進め、2040年ごろをめどに実用化を目指すことを表明した。

 従来の原発が出力100万キロワットを越すのに対し、小型原発は3分の1未満の出力で、モジュールを工場で製造し、現地で組み立てを行うため建設費が安く、工期も短くなる。

大型原子炉の建設費はおよそ1兆円前後だが、小型の原子炉の場合、数千億円規模だという。福島の原発事故以降、安全対策のため高騰したコストを抑えることができるとされている。

 しかし、小型原発は世界各国が1980年代から開発に取り組んできたが、いまだに実用化には至っていない。高速増殖炉と同じく、実現困難な技術にこの先何十年も膨大な国費を投入し続ける可能性も指摘されている。

 会議の出席者によると、地球温暖化防止の取り組みである「パリ協定」実現のため、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが増えていくので、「これをサポートする必要がある」というのが開発の目的だという。

 しかし現実には、四国電力の自然エネルギー供給割合はピーク時(2018年5月20日10時から12時)に電力需要に対して最大100%以上に達し、1日平均でも52%に達している(太陽光24%)。九州電力では、ピーク時(2018年5月3日12時台)に太陽光発電が電力需要の81%に達し、自然エネルギー比率では最大96%に達している。

 これらのデータが示す通り、日本ではすでに再生可能エネルギーへシフトしつつあり、今さら原発にサポートしてもらう必要などなく、現状でも原発なしで十分に電力需要を満たせることが明らかなのである。

 経産省が原発にこだわるのは、一つには現在約47トン保有するプルトニウムについて、世界各国からの懸念が高まっているため、これを燃料として消費して減らしたいためだ。

 しかしもう一つには、政府が核保有、あるいはその手前の核兵器開発能力を維持したいという欲望を諦めていないためであるとも言われ続けている。

 この、核兵器の保有願望については、元経産官僚で、IEA(国際エネルギー機関)の事務局長もつとめるなど、原子力ムラのエリートコースを歩いた人物、現在は笹川平和財団の会長職にある田中伸男氏が、日本原子力学会誌『ATOMOΣ』2018年5月号に寄稿した時論「東京電力は原発を大政奉還せよ!」に、はっきりと書いている。

▲田中伸男氏(Global Energy Policy ResearchのHPより)

原発の未来は暗い! 元IEA事務局長、田中伸男氏のリアルなエネルギー現状認識!

 笹川平和財団の現会長をつとめる田中伸男氏は、旧通産省出身の官僚で、2007年から2011年まで、国際エネルギー国際機関(IEA)事務局長をつとめた。さらに原発メーカーなどでつくる日本原子力産業協会理事をつとめるなど、「原子力ムラ」の有力なリーダーの一人である。

 田中氏はこの論文を、2017年にIEAが発表した「世界エネルギー見通し2017」を踏まえて、4つのエネルギー革命が世界で起きている、という現状認識から書き起こしている。

▲日本原子力学会雑誌『ATOMOΣ』2018年5月号

 第一のエネルギー革命が北米のシェール革命、第二がソーラー革命、第三が中国の緑色革命(石炭から天然ガスへエネルギー転換を行い北京の空は真っ青になったということから)、そして第四が、電化革命である。

 この4つのエネルギー革命に関する田中氏の記述で、注目すべきは、米国のシェール革命を除けば、残りの3つのエネルギー革命はすべて中国で起きているという点を田中氏自身が強調しているところである。この認識自体は、現実に即していて、しかも重要なポイントをとらえている。

 特に大事なのは、中国の石炭消費がピークを打ち、クリーンなガスを大量に使用する経済に転換しつつあるという指摘である。同時に、今後中国は米国に匹敵する大量電力消費社会になり、その消費電力の8割が太陽光や風力などの自然エネルギーになると予測している点も重要である。こうした劇的エネルギーシフトを可能にする条件として、太陽光発電のコストが世界的に急激に下がっており、すべての発電の中で、最もコストが小さくなるとみなされている点を田中氏は指摘している。

 IWJでは、世界が再生エネルギーにシフトしていることを踏まえた原子力ムラの世界連合の結成と、再生エネルギーの補完としての小型原発という生き残り戦略について、改正原賠法を起点にして検証している。あわせてお読みいただきたい。

 中国を中心とした低炭素へシフトするエネルギー革命を踏まえて、もう一つの低炭素エネルギーである原子力について、田中氏は論を進めてゆく。そして、次のような注目すべき認識を述べるのである。

 「中国における電源の建設コストは比較を見れば大型軽水炉による原子力発電は競争力を無くしており将来は暗いと言わざるを得ない。1970年代にベースロードとして登場した大型軽水炉は安全で安くクリーンな電源であることを売りにして来たが東京電力福島第一原子力発電所の事故によって安全性とクリーンさに疑義が付き、安いガスや太陽光の出現でコスト競争にも負けてしまいそうだ。これは世界中で起こっている」

 コスト競争の現実と福島第一原発事故を踏まえ、「大型軽水炉による原子力発電の将来は暗い」と、原子力ムラの「大ボス」の一人が断言しているのである。注目すべきは、大型軽水炉がコスト競争で負ける状況が世界中で起こっているという認識である。安全神話を散々宣伝してきた「原子力ムラ」の中心人物が、実は、クールなリアリストだった、という点も、意外で興味深い。

 エネルギー革命が進行中の中国経済について、IWJでは中国に詳しいエコノミストの田代秀敏氏にインタビューしている。ぜひ、以下の記事も合せてご覧いただきたい。

▲日本原子力学会雑誌『ATOMOΣ』2018年5月号に掲載された田中伸男氏の論文「東京電力は原発を大政奉還せよ! 」

 そして田中会長はこの後、世界一発電コストが高い日本で、再生エネルギーの利用率を高めるために、興味深い提言をしている。東京電力は福島原発事故を起こして国民の信頼を失い、その事故処理は7年経った今も続いている。東電は軽水炉を政府に返還して全国唯一の送電会社になるべきだ、というのである。

 この提言は、福島原発事故直後に霞が関などから出てきた東電解体再編論に似ている。それは、東電は廃炉・賠償専門会社と発送電会社に分離すべきだという提言だが、軽水炉原発事業から完全に撤退するというシナリオは、霞が関にはなかった。

日本が核能力を放棄すると北朝鮮からなめられる!? 田中伸男氏のトンデモ原子力平和論!

 「原子力ムラ」とは、原発の利権を共有する集団につけられた名称である。この集団に莫大な利益を生む装置が原発である。そのため、どうしても原発を手放すことができない。原発のない日本社会のありようを想像することさえも許されていない。

 田中伸男氏も、この例に漏れない。

 論文の前半から中盤にかけては、世界中、とりわけ中国で巨大なエネルギー革命が起きている現実を指摘し、原発が時代遅れであることも認めている。原子力ムラのこれまでのプロパガンダとは、正反対の現実認識である。

 ところが、論文の終盤にさしかかると、彼は筆致を180度ターンさせる。東電の「原発大政奉還」を提言した直後、唐突に、次のように問いかけるのである。

 「原子力に生き残る道はあるのか。Yes。大型軽水炉をベースロードとして使うのとは違う道がある。原子力は安全保障、国防上の理由からも必要である。広島長崎を経験した日本は核兵器を持つつもりは毛頭ないが北朝鮮の核ミサイルが頭上を飛ぶ時代に核能力を放棄することは彼の国からなめられることになる」

 このように、突然、原子力の存在を正当化する「安全保障上・国防上の必要性」が語られるのである。大型軽水炉発電のコスト問題という、まっとうで現実的な認識と,東電の「原発大政奉還」という興味深い提言の後に、それでも、原子力の生き残る道を探ろうとしている。

 そのための理由として田中氏は、「核能力を放棄することは北朝鮮になめられることになる」と、原発の必要性は、実は核兵器の保有能力の維持に真の目的があると言い出す。その直前に「広島長崎を経験した日本は核兵器を持つつもりは毛頭ない」と、まったく矛盾したことを書いておきながら、核兵器保有能力の維持は必要だというのである。支離滅裂である。

 そして、そのための戦略として、大型軽水炉から小型の高速炉へという生き残りシナリオを描くのである。

▲金正恩北朝鮮労働党委員長(Wikipediaより)

 この稿の冒頭に、経産省資源エネルギー庁が、今年(2018年)の11月に小型原発の開発を進めると「宣言」したことを記したが、田中氏の提言は、その半年前の今年5月の原子力学会誌に発表されており、田中氏が「露払い」の役割を果たしたものと考えられる。

▲小型原発(米エネルギー省HPより)

 真の「安全保障」とは、核兵器をいつでも作れると海外にアピールすることなのだろうか。それは、きわめて安直で、しかも時代遅れのトンチンカンな安全保障政策ではないだろうか。

 現代の戦争は、ミサイル・電子戦・AI搭載のキラーロボット等が主役になりつつある。沿岸部に原発54基をノーガードで並べ、ミサイルや電子戦、キラーロボットの恰好の標的を造っておいて、力こぶのように核兵器製造能力を海外にアピールすることに、いったいどんな意味があるというのだろうか。

 よく、「日本の技術力をもってすれば、今でも一ヶ月以内に核を保有できる」などという妄想を口にする輩がいる。そんな馬鹿気た話を真に受ける人々がまた、大勢いるからそんなホラ話がまかり通るのだろう。

国連憲章の「敵国条項」の対象国である日本が核保有すれば世界の孤児になる!

 敵国からの核攻撃を抑止する核戦略は、たった一発の核爆弾の保有で、完結するものではない。核戦力は、核兵器と核の運搬手段とに分かれる。日本は核兵器を持ってはいけないだけでなく、運搬手段である弾道ミサイルや核兵器を搭載する核戦略爆撃機も持っていない。

 では、両方持てばよかろう、という反応が返ってきそうだが、核実験を行わずして、核兵器を完成させるのは、不可能とまではいえないが、非常に困難である。しかも核兵器製造の途中で、国際社会から轟々たる非難を浴び、経済制裁が行われる可能性もある。忘れるわけにはいかないのは、日本は、いまだに国連憲章の「敵国条項」の対象国であることだ。日本が核保有する時には、世界の孤児になる可能性があることを覚悟しなければならない。

 食料の自給率も満たせない、エネルギー資源も海外からの輸入に頼っている、そんな国が世界から孤立してでも核実験を繰り返し、自前の技術で核兵器を製造するまで、「仮想敵国」とされる国々が黙って待っていてくれると考えるのは、あまりに甘い、都合のよすぎる想定ではないか。そもそも日本政府が仮想敵国のひとつとみなす中国は、日本にとって最大の貿易相手国である。中国への輸出、中国からの「爆買い」ツアーが途切れてもなお、日本経済が悠々と成長をとげることができると言い張る人物は、狂った妄想の「お花畑」の世界の住人だけだろう。

 もう一点述べておくなら、核保有による核抑止力を身につけるためには、核戦力の正面装備だけでなく、残存核戦力が備えられていなければ何の意味もない、という点である。原潜などに核兵器を搭載して、たとえ日本が相手国の核攻撃にあって壊滅しても(日本のような国土の狭い国では、核攻撃と放射能汚染によって誰一人列島に生存することが不可能になる事態は十二分にありうる)、報復攻撃を行える残存核戦力を備えていなければ、相互確証破壊戦略は成り立たない。日本には原潜もない。

▲戦略ミサイル原子力潜水艦(Wikipediaより)

日本で小型高速炉(SMR)を開発して北朝鮮のプルトニウムを燃やす!?

 田中氏は、7月23日、都内で行われた新エネルギー財団主催のシンポジウムで、朝鮮半島の非核化に協力する手段として、日本で小型高速炉(SMR)を開発して、北朝鮮のプルトニウムを燃やすという構想まで述べている。

 平和条約もなく、信頼関係もない日本に、原爆の原料になるプルトニウムを、北朝鮮がやすやすと渡すことがありえるのだろうか。わずか2ヶ月前の5月に原子力学会誌で「北朝鮮になめられるな」と好戦的な言葉を書き綴った人間がなぜこんな甘い見通しを口にするのだろうか。この点でも、原子力ムラの「ボス」は支離滅裂である。

原子力ムラの最新生き残り戦略は「軽水炉から小型高速炉へ」!

 この小型高速炉について、日本原子力学会誌『ATOMOΣ』2018年5月号に寄稿した時論「東京電力は原発を大政奉還せよ!」の中で、次にように田中氏は綴っている。

 「この炉(小型高速炉)の実験が成功すれば軽水炉のある地方にも建てて使用燃料を燃やし300年のゴミに変えれば良い。(中略)大型軽水炉を卒業し次世代の小型炉を日米で協力して開発すれば、世界のエネルギーと核平和利用に貢献できる。(中略)日米協力で福島のデブリ処理を実現し、新しい原子力パラダイムを作れば今後原子力を使いたい途上国のモデルにもなる」

▲福島第一原発(2011年3月16日)Wikipediaより

 使用済核燃料と福島のデブリの処理という小型高速炉の目的は、確かに、一定の説得力を持っている。だが、この「軽水炉から小型高速炉へ」というシナリオは、「核能力の放棄は北朝鮮になめられる」という田中氏の考え方によく現れているように、核兵器との結びつきを断ち切れない。

 小型高速炉という新機軸を出してみても、それがトンチンカンで危険な安全保障論と一体であることにかわりはないからである。原発が存在する限り、この危険な安全保障論の変奏が止むことはないだろう。

 IWJでは、原発と核保有の関連性について、これまで、数多くのインタビューを行っている。ぜひあわせてご覧いただきたい。

 また、核武装というとき仮想敵国に想定されている中国について、その脅威の虚偽性も検証している。

 さらに、日本の核武装・核保有に関して、外交的なリアリティーが欠けているという指摘も識者から寄せられている。

 また、そもそも、「原発と核保有」という問題自体を大きく規定する日米安保条約体制や米国の属国という日本国家の特殊なありかたについても、IWJでは一貫して検証している。こちらもあわせてご覧いただきたい。

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「原発の未来は暗い!それがわかっていながら原発にしがみつく理由はただ一つ!核能力の保持!原子力ムラのリーディング・パーソン、田中伸男氏のリアルと狂気!」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    原発の未来は暗い!それがわかっていながら原発にしがみつく理由はただ一つ!核能力の保持!原子力ムラのリーディング・パーソン、田中伸男氏のリアルと狂気! https://iwj.co.jp/wj/open/archives/437544 … @iwakamiyasumi
    マスコミは取り上げず、野党議員も声高に問題提起しないが、これこそ亡国への道ではないか。必読!
    https://twitter.com/55kurosuke/status/1073177959698026497

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