「福島第一原発の事故以降、稼働している原発が少ない中で、日本のプルトニウム保有量が増え続けていることは懸念している」
「使用済み核燃料の再処理はコストがかさみ、各国が頭を抱えている」
一堂に会した各国の核問題の専門家たちが、増え続ける日本のプルトニウムについて、一様に懸念を示した。
現在、日本は47トンという膨大な量のプルトニウムを保有している。これらは原子力発電で使うには、稼働する原発が少ない上、高コストが見込まれる再処理が必要となる。また、プルトニウムは核兵器の原料でもあり、対外的には潜在的な核戦力ともみなされ得るため、米国なども保有量が増加することを懸念している。今後、日本が脱原発に向かう上でも、このプルトニウムの取り扱いは大きな課題となる。日本が進むべき方向性とは、いかなるものなのだろうか?
この問題に取り組むべく、「北東アジアにおけるプルトニウム」と題されたジョージ・ワシントン大学主催の討論会が、2018年6月28日、東京都港区の国際文化会館にて、モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団の協力により開催された。
▲討論会「北東アジアにおけるプルトニウム」(2018年6月28日、IWJ撮影)
日本、米国、韓国の原子力に関する有識者が集った今回の討論会では、北朝鮮の非核化に伴い、周辺諸国が保有するプルトニウムの現状や、今後の事態の進展に向けた可能性について議論が交わされた。この討論会の内容を、IWJでは動画とともに詳細なテキスト記事をつけてお届けする。
なお、IWJでは日本が保有するプルトニウムの問題について、過去にも複数の記事を作成、公開している。本討論会のコーディネーターを務めた共同通信編集委員の太田昌克氏への、岩上安身によるインタビューもアップしているので、関心のある方はこちらもあわせて会員向けアーカイブにてご覧いただきたい。
- スピーカー シャロン・スクアッソーニ氏(ジョージ・ワシントン大学)、太田昌克氏(共同通信社)、アラン・クーパーマン氏(テキサス大学オースティン校)、ジョーシャン・チョイ氏(カリフォルニア大学バークレー校原子力研究所)、ファン・ヨンス氏(韓国原子力研究所)、トーマス・カントリーマン氏(軍備管理協会)
- 日時 2018年6月28日(木) 10:00~
- 場所 国際文化会館(東京都港区)
- 詳細 北東アジアにおけるプルトニウム(PDF)
- 主催 ジョージ・ワシントン大学
- 協力 モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団
コスト高が確実なMOX燃料の処理に、日本はどう立ち向かうか ~テキサス大学オースティン校教授アラン・クーパーマン氏が解説するMOX燃料をめぐる7ヵ国の現状
「広島級の核兵器に必要なプルトニウムは10キロだが、それを現在、日本は47トン保有しており、計算上は5000発分の核兵器に相当する」
テキサス大学オースティン校教授で、核兵器拡散防止プロジェクトのリーダーも務めるアラン・クーパーマン氏は、報告の冒頭でこのように述べた。
1年間の期間をかけて、クーパーマン氏は他の研究者と共に、MOX燃料を保有する7ヵ国の現状を比較してきた。その実績をもとに、講演では歴史的な背景を振り返った上で、MOX燃料を扱う各国の現状を比較している。
▲テキサス大学オースティン校教授 アラン・クーパーマン氏
プルトニウムの保有にあたっては、輸送、貯蔵、加工の3つの工程が核拡散へのリスクになる、とクーパーマン氏は指摘する。米国は、1970年代に国内でのプルトニウム使用を停止した際、他国にも同様の措置を取ることを求めてきたという。原子力発電で使われるプルトニウムが、核兵器の開発に転用されることで、核拡散につながってしまうことを防ぎたいと考えたためだ。
なお、米国は、核兵器に搭載されたプルトニウムを原子力発電で使うことを、過去にロシアと合意していた。しかし、プルトニウムの民生利用はコストがかさむため、現在は数十億ドルの予算をかけて、プルトニウムを希釈の後、廃棄するという方針を採っている。
他方、イギリスでは、MOX燃料の加工を形成・処理する施設を保有してはいるものの、この施設は稼働していない。そのため、日本と同様にプルトニウムの保有量が増加しており、その量は核兵器1万発分に相当する110トンにも上るという。
また、フランスはMOX燃料の製造と使用を行う唯一の国だが、赤字が続いており、その赤字を埋めるためか、中国など他国への技術の売り込みに、むしろ力を入れている。
続いてクーパーマン氏は、MOX燃料を製造あるいは使用してきた7ヵ国(ベルギー、フランス、ドイツ、日本、オランダ、スイス、イギリス)の比較について論じた。その際、現在までMOX燃料を製造及び使用する国は、日本とフランスのみであることを強調した。
まず、経済性に照らすと、MOX燃料の利用はコストが非常に高くつく。処理工程が複雑であることや、安全対策あるいは汚染時の除染に要するコストが重なることがその理由だ。低濃縮ウランの利用に比べた場合は、コストは12倍も割り高になるという。セキュリティについては、多くの国でプルトニウム燃料がウランと変わらない扱いとなっていることから、クーパーマン氏は、日本も欧州各国も取り組みが手薄であると警鐘を鳴らした。
安全性についても、MOX燃料は毒性が強く、高温状態がより長く続くために取り扱いは困難であるという。一例として、1991年にドイツで発生した原子力事故では、施設は除染後に再稼働せず、閉鎖に追い込まれている。
パフォーマンスについては、MOX燃料はこれまで比較的うまく使われてきた、とクーパーマン氏は述べた。ただし、この観点でもMOX燃料の製造過程で問題が残るという。経済性の観点とも重複するが、MOX燃料の製造施設では定期的な除染が必要となり、その際、施設は稼働停止しなければならない。加えて、常時からのメンテナンスや安全対策のランニングコストが重なるため、稼働するメリットがないという。
そして、国民感情については、プルトニウムに焦点が当たることで、脱原発への機運が高まることをクーパーマン氏は指摘した。ベルギーやドイツは、すでに脱原発に向かっており、日本でも柏崎刈羽原発でMOX燃料を導入することが決まった2001年当時、反対意見が強かったということを指摘した。
講演のまとめとしてクーパーマン氏は、日本が保有するプルトニウムについてコメントした。日本は現在、47トンのプルトニウムを保有しており、そのうち10トンは国内に、残りはイギリスとフランスの両国で保管されている。
だが、福島第一原発の事故もあり、原発の再稼働が難しい中で、今後も大量のプルトニウムを抱えた状態が続くことが見込まれる。
そのため、クーパーマン氏は以下2点の提言をした。まず、保有するプルトニウムの半分は、現在預けられているイギリスに引き取りを依頼する。そして、残る半分は、高速増殖炉や再処理工程で日本と同じ課題を抱える米国やフランスと協力して処理方法を決める、というものだ。
北朝鮮が非核化を拒む言い訳をできないよう、日本が貢献する可能性とは ~カリフォルニア大学バークレー校教授ジョーシャン・チョイ氏が考える北朝鮮非核化に向けた2つのシナリオ
長きにわたってローレンスリバモア研究所に勤め、現在はカリフォルニア大学バークレー校の教授であるジョーシャン・チョイ氏は、講演のはじめに、民生プルトニウムの利用について1996年に9ヵ国が交わした共同文書を紹介した。それから20年を経て、2016年にこれら9ヵ国が保有するプルトニウムの総量は2倍となっている。この変化について、チョイ氏は各国の現状を踏まえつつ、プルトニウム保有量の低減に向けた取り組みの可能性を提示した。
スクープ!! 原子力委員会の新政策提案を米専門家が完全否定!? 再処理で増える日本のプルトニウム保有量を世界が懸念!! https://iwj.co.jp/wj/open/archives/425855 … @iwakamiyasumi
米国の声を政治利用してきた日本政府の矛盾が明らかになった。日本の真意が「核保有」であることが見透かされている。
https://twitter.com/55kurosuke/status/1014998483588136960