敗戦から72年が経った。IWJ では、「終戦記念日」である8月15日に、毎年、東京都千代田区の靖国神社と千鳥ヶ淵戦没者墓苑を取材している。
時折、前も見えないほどの激しい雨が降り注ぐ中、靖国神社の外苑には例年通り、日本会議の白いテントが張られ、参加者が続々と内苑の方へ向かっていた。雨のせいか、参拝者は例年より少なかったように思われる。以下、現場の様子をレポートする。
(城石エマ、大下由美、谷口直哉、小田和治)
敗戦から72年が経った。IWJ では、「終戦記念日」である8月15日に、毎年、東京都千代田区の靖国神社と千鳥ヶ淵戦没者墓苑を取材している。
時折、前も見えないほどの激しい雨が降り注ぐ中、靖国神社の外苑には例年通り、日本会議の白いテントが張られ、参加者が続々と内苑の方へ向かっていた。雨のせいか、参拝者は例年より少なかったように思われる。以下、現場の様子をレポートする。
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今年に入り、「加計学園」問題や「森友学園」問題で支持率を大幅に下げた安倍政権。8月3日に内閣改造をしたものの、依然、7割の閣僚が日本会議に所属している。日本会議は毎年この日、靖国神社で「戦歿者追悼中央国民集会」を開催しているが、今年は、外務副大臣に就任したばかりの「ヒゲの隊長」こと佐藤正久議員がスピーチに立ち、自身の息子が、3.11の際に爆発した、東京電力福島第一原発の原子炉の上からヘリで放水した自衛隊に感銘を受けて自衛官になったという話を披露した。
「一番危ないのが放射能の出ている原発の上です。自己犠牲の気持ちが人の背中を押す。あとでそのときの隊長に聞きました。『どうやって搭乗員を選んだんだ?』。そうしたら『「希望者、手を上げろ」と聞いたら、全員が手を上げた』と。これが自衛隊なんです!」と誇らしげに語り、会場は拍手に包まれた。
まるで、第二次世界大戦中の特攻隊の賛美を聞いているようではないか? 自身も自衛官出身の佐藤外務副大臣であるが、自衛官の全員が必ずしもこうした考えを共有しているわけではないだろう。自衛官はあの一連の作業でどれだけ被曝したのだろうか? 自衛官も生身の人間であり、一人ひとり人権がある。隊員の命と健康に留意する姿勢を、なぜ指導者が示さないのか。
佐藤議員の発言は、自己犠牲を美化しようとする安倍政権の考え方を反映しているように思えてならない。安倍政権は、「自衛隊を憲法に明記する」と改憲に熱心だが、改憲の前に、肝心要の自衛隊員の人権を保証する義務を守る必要があるはずだ。そうした角度からの議論が、この国ではあまりに不足している。
IWJでは自衛隊員の人権という角度から考える取材を、くり返し続けてきた。自殺者が続出する現実から目をそらすことがあってはならない。
日本会議のテントの中では、高須クリニックの高須克弥院長が、タレントのフィフィ氏らとともに笑顔のピース写真を撮っていた。
自衛隊を、自己犠牲を強いられた「特攻隊」のように賛美する佐藤外務副大臣と、そのすぐ近くで、笑顔にピースではしゃぐ「極右タレント」たちの姿。あまりにも軽々しく、違和感を禁じ得ない。
一方、今年はじめて靖国神社へ参拝に来たという女性はIWJの取材にこたえ、「戦争はいけない」と言いつつも、「英霊に感謝を伝えたくてきた」「今の日本は平和ボケしている」などと述べた。
安倍総理をはじめ、今年は小野寺五典防衛相ら全閣僚が参拝を見送った一方で、稲田朋美元防衛相や高市早苗元総務相は参拝へ。稲田氏は防衛相に就任したばかりの昨年8月15日、ジブチの自衛隊部隊視察という名目で、靖国参拝とともに「全国戦没者追悼式」への参加を見送り、国会で民進党の辻元清美議員から「『戦争で亡くなった方々への心を捧げる』というのは、その程度だったのか」と追及され、涙をこらえて答弁に窮する場面もあった。
幕末から太平洋戦争に至るまでの戦没者約246万柱が「英霊」として祀られている靖国神社だが、祀られているのは、あくまで大日本帝国の「国策」に殉じた人々で、中には東条英機などA級戦犯も含まれる。
IWJ代表・岩上安身がインタビューした島根大学名誉教授・井上寛司氏は、1894年の日清戦争と1904年の日露戦争をきっかけとして靖国神社が影響力を増し、植民地獲得のための帝国主義戦争を美化して、国民を侵略戦争に駆り立てる機関となっていったと述べている。
また、同じく岩上安身がインタビューをした上智大学教授の島薗進氏は、戦後、神社本庁が伊勢神宮の地位回復、靖国神社の地位回復を通じての『国体』の復活を目指してきたと説明している。
ところで、この靖国神社が長州にその起源を持つということは、あまり知られていないのではないだろうか。
ここには空襲で亡くなった民間人の犠牲者などは含まれていない。さらにまた西南戦争で「鎮圧」された、薩摩藩の士族たちも祀られていない。あくまでも「勝てば官軍」、明治政府で中心をなした長州閥、そして日本が対外諸国を侵略していく過程で「戦死」した人々だけが祀られていることを、どれほどの人が知っているのだろうか。
また、靖国神社がさも歴史ある神社で、終戦記念日に参拝しない議員は「日本人じゃない」などと吹聴するネトウヨまで見かけるが、建設からまだ150年も経っていない、歴史の浅い神社であることも、十分に理解されていない。
2017年6・7月に岩上安身がインタビューを行った、拓殖大学・関良基准教授は、靖国神社は日本の宗教的伝統からかけ離れており、幕末維新時につくられた神社であるとして、「長州神社」であると断じる。明治維新から今にまで至る日本の政治構造を「長州レジーム」と呼び、そこから真に民主的な社会を取り戻すことをご著書の中で呼びかけている。
千鳥ケ淵国立戦没者墓苑では、「戦争犠牲者追悼、平和を誓う8・15集会」が開催された。中継のため会場に向かったIWJスタッフは、現場到着を目前にして、「参拝の車列が通るまで」と警察の封鎖に遭った。安倍総理が墓苑を参拝していたのだという。一方、靖国神社へは、自民党総裁として5年連続私費で玉串料を奉納するにとどまっている。
黙祷の後、社民党の福島みずほ議員や民進党の近藤昭一議員、民進党の阿部知子議員らが、「フォーラム平和・人権・環境」代表・福山真劫氏、「戦争をさせない1000人委員会」事務局長・内田雅敏氏とともに平和の誓いをした。その後、登壇者の献花に続き、参加者が次々と献花を行い、祭壇に向かって手を合わせた。
福島議員は、「安倍政権は特定秘密保護法、戦争法案、盗聴法拡大、共謀罪などを制定し、戦争準備の法制を作り続けている」として、「安倍首相の主張する9条3項の自衛隊は専守防衛・災害救助のためのものではなく、世界中で米国と軍事行使できるようにするためのものだ」と、安倍総理の「加憲」提案に警鐘を鳴らした。
「8月15日にここで何が行われているのか見たい」という韓国人の友人を連れてきたという学生に話をうかがった。自信も千鳥ヶ淵墓苑や靖国神社を訪れるのは初だという。学生は、「(今日は)祈りの時間であると思うが、どうしても政治的に扱われてしまう。いいか悪いかは簡単には結び付けられない」と感想を述べた。また、自民党が「教育の無償化」と結びつけて改憲を訴えていることについて、「こう言えば国民は理解してくれるだろう、と安易なイメージで見られているようで残念だ」と述べた。
自民党は憲法改正に向けた条文案の作成を来年以降に先送りし、秋の臨時国会への提出は見送りにすることを検討し始めたといわれているが、油断はできない。「災害」を口実にした「緊急事態条項」など、改憲勢力がより国民にとって「受け入れやすい」アプローチをとってくることは、十分に考えられる。「緊急事態条項」の導入は、憲法9条改正よりもはるかに危険である。
「緊急事態条項」が導入されれば、国民主権が奪われ、議会制民主主義は完全に空洞化し、国民の基本的人権は無制限に制約される。しかも緊急事態条項は、平時に復する期限も定められず、解除の手続きもない。延々と延長が可能で、この条項ひとつで永久独裁政権を一挙に誕生させられる、危険な条項である。日本の不戦を定める憲法9条も、緊急事態条項の発令ひとつで完全に、簡単に骨抜きにされてしまう。
日本の敗戦を見つめ直すこの時期こそ、「緊急事態条項」をはじめとする、自民党改憲草案の危険性をまとめた『前夜〜増補改訂版』をご一読いただきたい。