2016年10月末、朴槿恵大統領の友人とされる崔順実(チェ・スンシル)という一般女性が、大統領の公務に関わる機密資料を受け取り、国政に介入していたという疑惑が韓国全土を震撼させた。それ以降、大統領の退陣を求めるデモの規模は、11月5日30万人、11月12日106万人、11月26日190万人、12月3日232万と爆発的に膨れ上がった。
だが朴政権への国民の怒りは、崔順実氏をめぐる一連の疑惑だけに留まらない。今、韓国内で改めてクローズアップされているのが、2014年4月16日に発生した「セウォル号沈没事故」である。
300人以上にものぼる死者・行方不明者のほとんどは、修学旅行で乗船していた高校生だった。事故当日の約7時間にわたって、朴大統領の行動がわかっていない。「空白の7時間」は、韓国内でもセンセーショナルに報じられており、朴大統領に対する国民の不信感高まる原因の一つとなっている。
2014年5月には、セウォル号の被害者遺族らは、真相究明のための特別法を求め、650万もの署名を集めて制定にこぎつけた。この特別法のもとで、調査の実働部隊として設立されたのが「4.16セウォル号惨事特別調査委員会(特調委)」だ。この間、セウォル号事故に関する聴聞会や調査活動を行い、真相を調査してきた。
調査によって、事故の原因は、船体の違法改築や過積載、乗組員の不手際などであったことが明らかになったが、遺族たちは「聖域なき真相究明」を求めて、大統領の当日の行動や、大統領府の対応についても調査を求めてきた。それに対して、遺族の期待を受けた特調委の活動は、この2年間、政府・与党によってさまざまな妨害にあってきた。
今回、2016年11月30日にIWJがインタビューしたのは、セウォル号沈没事故の被害者遺族らと支援団体によって2015年4月に設立された全国組織「4月16日の約束国民連帯」(4.16連帯)の常任運営委員イ・テホ氏である。
「セウォル号事故の真相究明は、朴槿恵大統領と大統領府によって妨害されてきた」(イ・テホ氏)
イ氏はインタビューの中で、事故の真相究明に消極的な態度をとってきた韓国政府が、どのように特調委の活動を妨害してきたのか、そのひとつの例として、次のような話をしてくれた。
「特別法では、この委員会が1年6ヶ月で終わると制定しています。これは予算が実際に配分されてから1年6ヶ月と見なければなりませんが、政府はこの法を勝手に解釈にして、法が施行された(2015年)1月を基準にしたので、実際の予定より8ヶ月も前倒しに予算や人員が切られた状態になりました。したがって、特別委員会は、政府によって強制的に活動を中断させられたと見ています」
特別法は2014年12月に制定され、2015年1月1日に施行された。だが、実際に特調委に予算が執行されたのは、2015年8月だったという。イ氏は、韓国政府が意図的に予算の執行を遅らせた上で、特調委の活動期間を事実上短期化したとみている。2016年6月、真相究明に必要なセウォル号本体の引き揚げが行なわれようとしていた直前に、特調委の活動は終了させられてしまった。
インタビューでは、事故をめぐる韓国政府の対応のずさんさや、予算や人員の削減、施行法の悪用などで、韓国政府がどのように特調委の活動を妨害してきたか、またセウォル号をめぐる国会の新たな動きや、遺族の思いなど、日本の報道ではうかがい知れない、貴重な話を聞いている。是非、ご覧いただきたい。