TPP強行採決直前に緊急来日!「TPP協定をやる意味がわからない!」オークランド大学のジェーン・ケルシー教授に岩上安身が単独インタビュー!! 岩上安身によるインタビュー 第682回 ゲスト ジェーン・ケルシー氏 2016.10.31

記事公開日:2016.11.4取材地: テキスト動画独自
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(取材・文責:岩上安身 翻訳・編集協力:城石エマ、本田望、ぎぎまき)

特集 TPP問題
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 TPP承認案と関連法案が、本日11月4日にも、衆院の特別委員会で採決される見込みである。

 日程だけを淡々と伝えるマスコミ報道からは、「危機感」というものがまったく伝わってこない。

 「いま採決されようとしていることは、『頭金』にすぎないのです」

 日本での強行採決の動きをうけて来日した、ニュージーランド・オークランド大学のジェーン・ケルシー教授は、2016年10月31日、岩上安身の緊急単独インタビューに答え、この採決のもつ「意味」をずばり指摘した。

 岩上安身がケルシー教授に単独インタビューを行うのは、今回が2回目である。1回目は、今から5年前の2011年7月14日に行われた。当時は、今以上にTPPの問題が世に知れ渡っていなかった。しかし、その当時も今も、ケルシー教授のスタンスは変わっていないし、ブレていない。そして同教授の指摘の正しさは、TPPの条文が明らかになるにつれ、はっきりしてきた。

 今回のインタビューでケルシー教授は、「こんな状況下で、日本が今週、そしてニュージーランドが来週にも採決しようとしているなど、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがありません」と慨嘆した。

 以下に、インタビュー全文を掲載する。

記事目次

■イントロ

  • 日時 2016年10月31日(月) 10:30頃~
  • 場所参議院議員会館(東京都千代田区)

インタビュー全文掲載! ~ニュージーランドでは2万5000人の市民が路上で抗議デモ! 政府が国民の声に耳を傾けない、まさに日本と同じ状況!

岩上「安倍政権は、TPPを強行採決直前までもってきてしまいました。TPPは、内容においても、目的においても、おかしいことだらけです。今日はケルシーさんが講演で使われるタイトルをお借りしています。『TPP協定をやる意味が分からない!』。ケルシーさんは、TPPが一部の人間の利得になると。なぜこんな無理な協定がつくられるのか。その点を今日はお聞きしたいと思います」

ケルシー教授「TPPで来日するのはこれで5回か6回目です。事の重要さをわきまえて、精一杯戦おうとする人々の精神にいつも感銘を受けています。そして、私たちのメッセージを広めてくださるジャーナリストにお会いできて、光栄に思っております。

▲ジェーン・ケルシー教授

▲ジェーン・ケルシー教授

 ニュージーランド政府は、TPPがどんな経済効果をもたらすのか、今も根拠を示すことができていません。それどころか、政府が主張しつづけていた利益が実現しない、という研究結果も多く出てきています。

 日本とニュージーランド政府が特にそうなのですが、根拠がないにも関わらず、TPPの良いところだけを見て押し通そうとしています。国民の多くが反対しています。

 ニュージーランドの場合、半分以上の国民がTPPに反対しているという調査結果も出ています。TPP協定の署名式の後 、2万5000人の市民が、平日の昼間にデモを行いました。

 しかし 政府は反対の声に耳を傾ける気がありません。日本でも同じ問題が起こっているのでは、と懸念しています」

世界中の国々が今、二国間投資協定から脱退し始めている!? 世界は今、日本とはまったく逆の方向を向いている!

岩上「TPPのような協定に反対する米国、あるいは世界各地での反動の背景には,何があるのでしょうか?」

ケルシー教授「今、TPPのような協定に反対する動きが世界中で起きています。

 ヨーロッパでは、イギリスがEUから離脱するという、分かりやすい形であらわれました。米国とEUの間で交わされようとしている『TTIP』は、TPPと同じような協定ですが 、ヨーロッパでは反対運動が起きています。

カナダとの貿易協定に反対する運動も起きていて、ジュネーブで秘密裏に協議されているかなり重要なサービス貿易協定にも 同様な抵抗運動が起きています。他にも沢山の地域で、特に発展途上国で、『NO』の声があがっています。

 そのほかにも沢山の国々が、TPPと似たような投資家の権利を保護する二国間投資協定から撤退し始めているのです。世の中の流れは確実に変わってきています」

「米国の連邦議会は、他の参加国すべてが国内法を変えないうちは、TPP法案の採決に入らないかもしれない」

ケルシー教授「(米国は)他の協定がことごとく駄目になってきているから、どうしてもTPPを実現させたいのです。まさに、彼らのための法的ツールが、今後の協定の行く末でどうなっていくのかを左右する、決定的かつ象徴的な局面に達しているのです」

 日本の皆さんもご存じの通り、米国では政治が活発な動きを見せていますが、TPPはそうした活力を奪い取るものなのです。

▲岩上安身とジェーン・ケルシー教授

▲岩上安身とジェーン・ケルシー教授

ケルシー教授「ヒラリー候補もトランプ候補も、現状ではTPPに反対しています。しかし、おそらくヒラリー氏は、結局TPPを支持し、一部を再協議させるのでしょう。そのためまだ数年間は締結しないと思います。

 もしこのまま順調に進んでも、米国議会はレームダック(※)期間に採決をしなければいけなくなります。『レームダック』とは、大統領選が始まってから新しい大統領が就任するまでの、いわゆる『空白』の期間です。オバマ大統領に残された時間はそれだけです。

※レームダック:11月8日の大統領選から当選者が初登院する2017年1月までのいわゆる空白期間。

 しかし、オバマ大統領が貿易促進権限を行使すると、議会は交渉内容を分割して審議することができず、1回限りのイエスかノーで採決しなければならないのです。

 とにかく彼らは、何としても採決にはこぎつけたい。そして彼らは今、懸命に票集めに奔走しています。採決される可能性もあります。

どの国もTPPを承認すべきではない理由~米国にTPPを「タダ」で与えてしまう! ビーチで裸で寝そべって、米国に骨まで差し出すようなもの!

 さて、なぜどの国もTPPをやるべきではないか――。

 それは、日本やニュージーランドや他の国々もそうですが、実際には永遠に実効されない協定の義務を履行してしまうことになるかもしれないからです。それはつまり、米国にTPPを『タダ』で与えてしまうことになります。

 自分たちにとって何の見返りもない協定を、なぜ率先して導入しなければいけないのでしょう?

 参加国の中には、慎重な姿勢を見せ始めた国があります。ベトナムです。カナダもです。オーストラリアもそうです。メキシコも、ペルーもです。決断の時期は分かりませんが、チリもです。

 一つ希望が持てるのは、米国の連邦議会は、他の参加国すべてが国内法を変えないうちは、TPP法案の採決に入らないかもしれないということです。

 ニュージーランド政府はというと、議会がTPP協定に賛同しやすいように国内法を改正しようとしています。私たちはまるでビーチに裸で寝そべって、米国に対し自らの骨まで差し出しているようなもの。バカげていますよね。

 だから、米国の大統領選が終わるまでは、政府にこの協定を推し進めないように要求しなければいけないのです。

 もし、レームダック期間にTPP法案の採決が行われるなら、その結果もこちらでの採決の前に知る必要があります。

 注意しておかなければならないのは、米国はこの協定が施行されるまで、さらなる譲歩を要求してくることでしょう」

「レームダック」期間中の採決を急ぐオバマ大統領の「偉業づくり」? 米国はアジア地域でのリーダーシップを維持するためにTPP批准に必死!

岩上「なぜ米国においては、レームダック期間に批准を目指そうという動きがあるのでしょうか?」

ケルシー教授「いくつかの理由が考えられます。

 多くの場合、こうした協定を成功させるのは、政治家にとっては『偉業』なのです。オバマ大統領はいくつも政策を掲げてきましたが、実現できたものは少ない。TPPは、オバマ大統領が残したい『偉業』の一つだと言われています。

 米国企業もTPPを何としてでも通そうとしています。なぜなら、彼らがこれほどのものを獲得する機会は、以降数年はもうないでしょうから。

 共和党の中には、オバマ大統領が票集めのために民主党議員よりも頼りにしている有力企業としっかり手を携えている議員もいます。彼らも同じく TPP協定を通したい。

 レームダック期間中に米国政府が批准を目指す理由は、今いったような状況がありますが、他にも外交政策上の問題があります。

 米国で議論の中心になっているのは、いまや『経済』ではありません。米国議会がTPPを批准することができなければ、この地域(東アジア・太平洋地域)でのリーダーシップを失い、中国の台頭を許すことになります。今、議論の中心はそこです。だからリーダーシップを維持するためにも、どうしても採決に持ち込まなければならないのです」

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に中国の台頭を見て取る米国。ケルシー教授は「世界の安定を脅かす要因はそこにはありません」と断言!

岩上「米国の高官はかつて、2013年にTPP批准しようとしていましたが、それができないうちに中国や他の国が新たな対抗協定を作ろうとしています。米国防長官のアッシュ・カーターは、『軍人にとって航空母艦を購入することぐらい重要なことだ。時間があまりない』といいました。

 しかも、TPPは前は経済連携協定という名前でしたが、気がついたら『経済』という言葉が消えているのです。なぜそうなったのですか? 軍事的な意味合いがあるのですか? 米国帝国主義の兼ね合いがあるのでしょうか? 米国の植民地協定になっているのでしょうか?」

ケルシー教授「皮肉なことに、TPPの背後にある米国の狙いを説明したのは、ヒラリー・クリントン氏だったのです。アジア太平洋地域の二重のピボット(※)であると説明した時に話しました。

※ピボット:直訳すると、軸足を中心とした転回のこと。ターンのイメージ。この場合は、米国の戦略の転回を指す。ヒラリー・クリントン氏が寄稿し、2011年10月11日付のフォーリン・ポリシー誌に掲載された論文の中で、アジア太平洋地域へ、米国が主軸を移すことを表明した。

 ピボットの一つは、同地域を再び軍備化すること。米軍基地を再建し、軍事プレゼンスを回復させ、中東から手を引き、まあ、どう見ても実現していませんが、軍事プレゼンスを高めました。

 第2のピボットは、経済的な手段で、その一部がTPPです。それは貿易競争のありかたというよりは、米国が作ったルールでその地域が取引をするということです。中国が作りあげたルールではなく。オバマ大統領も最近、似たような発言をしています

 『これは米国が21世紀のルールを作るということだ』『中国にはやらせないように阻止するのだ』

 とオバマ氏は強調しました。

 東アジア地域包括的経済連携(RCEP※)は、中国によるTPPに取って代わりうる経済連携協定だと見られています。参加国の多くはTPPの参加国で、それだけでなく中国とインドも入っているのです。でも米国は入っていません。オバマ氏はその点を指摘して、『中国はこのように米国に取って代わってルール作りをしようとしている』と論じているのです。

※RCEP:米国主導のTPPに対抗して、中国が主導する協定。ASEAN10か国+6か国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドの「FTAパートナー諸国」)が交渉に参加する広域経済連携協定である(外務省よりhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/j-eacepia/)

 それは正しくもあり、間違ってもいます。そうした協議は同様に複雑で困難です。RCEPの協議も難航し、デッドラインがもう一年先延ばしになりました。

中国はいくつかの分野では強気の姿勢を見せています。また現状を維持しようと防御姿勢を見せる分野もあります。東南アジア諸国連合もその一部ですし、インドも入っているので、TPPとはかなり違う活動的性質を帯びています。RCEPについて 恐怖をかき立てようとする論調が多く見られますが、注意深く調べるべきです。

 しかし、世界の安定を脅かす要因はそこにはありません。ロシアに対する敵意、シリア情勢との関連、民主主義が壊されてファシズムが台頭するヨーロッパや、ドナルド・トランプ氏が関わるとんでもない政策案などに不安要因はあるのです。

 もし将来を脅かす要因がどこにあるかを見つめれば、TPPを実現しなくては地域が不安定化するという論理はまったく通用しなくなります」

中国を牽制するためのTPPが、次世紀の世界の情勢変動に対応するための能力をも奪ってしまう!

岩上「『ザ・ワールド・ポスト』という雑誌で、2016年5月4日号に、TPPに懐疑的になっている民主党の議員らに、オバマ大統領は、中国がアジア支配することの恐ろしさを強調したということです。オバマ大統領は、中国がアジアを支配したがっている、その支配はとても危険だということを言ってきたんですけれども、本当に中国によるアジア支配は危険なものですか?」

ケルシー教授「この地域で何が起きるかはとても予測困難です。中国が急速に台頭し、その中国が政策転換し、いまや資本輸出をしています。そのため投資家の保護を重視するような政策転換を取っています。ですから、立ち位置が入れ替わってきているのです。

 同時に中国は関係の持ち方が他国とは違います。それもさらに変化してゆくと思います。

 TPPに限らず、RCEPを含めて私が憂慮するのは、こうした将来的な変化に対して柔軟に対応できるようにしておく必要があるということです。

 しかし、参加国政府をがんじがらめにするということこそが、TPPの目的なのです。金融崩壊や地球温暖化、経済格差などをもたらす現状のモデルを固定化して、単に中国のあらゆる狙いを阻止しようとするだけでなく、次世紀の世界の情勢変動に対応するための能力を取り去ってしまうのです」

米国内での反対を説き伏せられないオバマ大統領の代わりにTPP売り込みの営業文句を唱える安倍総理!!

岩上「こういう現実がありながら、なぜ日本とニュージーランドは、TPPを実現するための法律を強く押しているのでしょうか? 別の言い方をすると、日本とニュージーランドは米国の『チアリーダー』の役割を勤めていると、ケルシーさん自身がおっしゃっていますが、日本とニュージーランドの両政府は、そんなピエロのような役割をなぜ担っているのでしょうか? これは危険を両国にもたらすのではないかと思いますが、その危険性とは何なのでしょうか?」

ケルシー教授「残念ながら、日本とニュージーランド政府はそれぞれ自国内の事情と、外交政策上の理由で米国を支持しようとしています。オバマ政権が米国内働きかけても、TPPを巡る状況はなかなか進展しません。大統領候補のヒラリー・クリントン氏が反対を表明しているからです。

 そこで、ニュージーランドの首相や安倍首相、ワシントンDCに駐在する通商大臣のニュージーランド大使やオーストラリアの大使が、米政府に代わって出向き、TPPを売り込もうとしているのです。

 そして、『アジア地域での米国のリーダーシップが崩壊してしまわないよう、TPPに批准せよ』という同じ営業文句を繰り返すのです。

 日本国内ではご存じの通り安倍首相は矢の1本だと公言しています。そしてTPPには、何年か前に小泉首相が国政でなしえなかった項目が、たくさん盛り込まれています。郵政改革と同じように、JAを解体して、全面民営化して、農業分野に参入すること、その他さまざまな改革が、明らかに重要視されているのです。

 政府は裏口ルートを通じて国家間の合意にこぎつけ、『あまりにも条件がよいので批准するしかない』と説き伏せようとするのです」

「日本の国会で審議される法案の中にあるのは、そうした一連の改革の『始まり部分』にすぎない!」TPP承認法案と関連法案には重要な改革が含まれていない!?

ケルシー教授「注目すべきは 日本でなされようとしている他の改革が、国会で審議される法案の中に入っていないことです。さらなる改革が行われるはずで、中には段階的に実施されるために、すぐにはその影響を理解できないものもあるはずです。規制を変更するものもあり、それらは法案を必要としません。行政判断で行われる改革もあります。米国系企業の影響力が増すことで政策変更がなされるものもあります。

 国会で審議される法案の中にあるのは、そうした一連の改革の『始まり部分』に過ぎないのです。

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