元レンジャー隊員・井筒氏「緊急事態条項で徴兵制の復活は簡単」~PKO法改正で激白「今の陸自隊員に実戦は無理」── 自衛隊を戦場へ送るな!総がかり集会 2015.12.19

記事公開日:2016.1.10取材地: テキスト動画
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(取材:阿部洋地、文:IWJテキストスタッフ・富田充)

※1月10日テキストを追加しました!

 「(過酷さが有名な)レンジャー教育を敬遠する向きが多い現実は、陸自隊員の大半が、キモがすわっていない証拠」──。自身が陸上自衛隊レンジャー隊員だった井筒高雄氏は、2015年12月19日に東京都内で開かれた集会で、こう言いきり、今回の安保法成立で可能になった「新PKO」に、今の陸自隊員の大半は適応できまいと論じてみせた。

 これまでの「専守防衛」を前提にした訓練では、相対した少年兵士に向かって銃の引き金を引ける気質を、陸自隊員に植え付けられないと主張する井筒氏。「にわか訓練を受けただけでは、(実際の駆けつけ警護で)心が折れる例が相次ぐだろう」と懸念し、任務を終えて帰国した陸自隊員に心的外傷後ストレス障害(PTSD)が多発することを案じた。

 井筒氏は安倍総理が創設を狙っている「緊急事態条項」にも言及。同条項は憲法第18条が規定する「身体の拘束及び苦役からの自由」を無意味化するものだと指摘し、「18条があるから徴兵制は憲法違反」だとしてきた安倍総理の主張が前提から覆されれば、「徴兵制の復活は簡単になる」と警戒した。

 集会前半のリレートークでは、中野晃一氏(上智大学教授)が登壇し、安全保障関連法の廃止と立憲主義復活の観点から「野党共闘」を訴えると、続いて演壇に立った各野党の代表者は「共闘の必要性」を認める言葉を口にした。

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■ハイライト

■全編動画

  • プレイベント オオタ・スセリ氏(コメディアン)
  • 講演 井筒高雄氏(元自衛官)「戦争法と自衛隊」/高木太郎氏(労働弁護団前幹事長、弁護士)「自衛官の家族相談から」
  • 政党挨拶/リレートーク/行動提起 高田健氏(総がかり行動実行委員会)

安保反対の民意に「衰え」はあるか

 自衛隊の現状を風刺する、オオタ・スセリ氏(コメディアン)による替え歌・コントがひとしきり続いた後、高田健氏(総がかり行動実行委員会)があいさつを兼ねて立った。

 「9月19日の戦争法(=安保法、以下同)の成立から、ちょうど3ヵ月が経った。あれは安倍晋三政権による暴挙だった。憲法9条が存在する日本で、それに反する戦争法が有効とされ、来年3月には施行されようとしている」。

 高田氏は今後の日本に用意されているのは、1. 安保法に馴染むように9条を変える、2. 9条を尊重し安保法を廃止する──の2つの道だとし、「われわれは、戦争法廃止に向けて全力を上げる」と口調を強め、こう言葉を重ねた。

 「通常、法案が強行採決されると、それまで盛り上がっていた反対運動は急速にしぼむ。だが、今回の戦争法成立では、今日も会場に市民が詰めかけており、10月18日と11月18日の抗議デモでも、国会前に(安保法に反対する)1万人ほど(主催者発表)の市民が集結した。確かに関連する集会の中には、動員力に陰りが見える例もあるが、反対運動を担っている人々の熱意は衰えていない」。

 総がかり行動実行委員会としての当面の大きな課題は、戦争法廃止に向けた2000万人署名を、来年4月25日までにやり抜くことだと力を込める高田氏は、「来年夏の参院選では、安倍内閣を退陣させるために『野党共闘』をぜひ実現してほしい」とも訴えた。

野党共闘を支援する市民運動の「乱立」を危ぶむ

 続くリレートークは中野晃一氏から。「来夏の参院選に向けて、安保法案に反対する市民運動を大きなものにしていきたい」と切り出した中野氏は、自身が参加する新組織「市民連合」に関しては、「正式な発足会見は明日になるので、詳しい話はそれまで待ってほしい」と述べつつ、「安保法反対」の声を上げ続けている市民たちの原点は、今夏の、国会正門前を総本山とする全国的な抗議デモの盛り上がりにあったと話す。

 「(安倍政権による)安保法制に反対する各市民グループが、信条などに多少の違いがあっても、向かう方向が同じなら一緒になる流れが生まれたことが持つ意味は大きい。それが、市民が気軽な気持ちでデモに参加する流れを生んだ」とし、菱山南帆子氏(総がかり行動実行委員会)やSEALDsのメンバーによるコールに接したいがために、国会前に足を運んだ人がかなり含まれていた点についても、「あれはあれで良かった」と振り返った。

 中野氏も、今の日本の政治には「野党共闘」が不可欠と強調する。

 中野氏は情勢は厳しいと表情を引き締めながらも、「新組織『市民連合』は、野党共闘実現に向けて支援していく。すでに具体的な動きも起こり始めている」とし、安保法廃止・立憲主義復活を切に願う自分たちの代表になり得る人物を、1人でも多く国会に送りこみたいと意気込んでみせた。

 その一方で、「野党共闘」を訴える市民運動に、乱立の兆候がなくもないと危ぶむ表明もあった。要するに、一個人として賛同したい市民が、「似たような運動が複数あるが、違いなどを理解するのが面倒だ」という理由で、踵を返してしまう状況に陥りかねない、との趣旨であり、中野氏は、「2000万人署名をもって、その市民は(市民連合に)賛同したことにする。ここでまた、市民連合が別個に賛同署名を募ったら大混乱をきたす」と述べた。

野党勢の「共闘意欲」を確認

 続いてマイクを握った野党議員の面々も、「共闘」に言及。小川敏夫氏(民主・参院議員)が「自公以外にも次世代、元気にする会、大阪維新の会は、自衛隊を戦場に送ることに反対していない。つまり、これらの政党も含めれば、参議院も(集団的自衛権行使容認派の)議席数が3分の2を超え、憲法改正が可能になる。それを阻止するために、野党の力の結集が必要」と語ると、「国民連合政府」を提唱し、安保法廃止に特化した野党共闘を呼びかけている共産党の山下芳生氏(参院議員)は、「安保法を廃止し、日本に立憲主義を取り戻すには、選挙で安倍政権を倒すことが不可欠」と訴え、「そのため、野党が力を合わせるのは当たり前のこと」と口調を強めた。

 吉田忠智氏(社民・参院議員)は、「来年1月4日に始まる通常国会では、野党で相談して戦争法廃止法案を提出したい。一方で、戦争法をめぐる違憲訴訟に勝つことも大事だ。来夏の参院選に向け、熊本選挙区では、すでに野党の統一候補が正式に実現した。沖縄に見られる『オール沖縄』の闘いを、『オールジャパン』の闘いに発展させねばならない」と力強く発言。渡辺浩一郎氏(生活・元衆院議員)も、「われわれは一野党として(共闘実現に向け)共同行動をとる考えだ」と足並みをそろえた。

 集会の柱である講演では、井筒高雄氏がマイクを握り、1992年に成立したPKO法(国際平和協力法)が、今回の安保法成立を受けて変わるところが、安倍政権による安保法制のもっとも危険な点だと指摘した。

 「当初、国連平和維持活動(PKO)は付随任務だったが、2004年のイラクへの陸自派遣から本来任務に格上げされ、今回の安保法成立で『戦争任務』が付与された」。

南スーダンの実態に照らせば「陸自撤収」が筋

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 井筒氏は、安倍総理が「PKOには参加5原則があるから、自衛隊にリスクは増えない」と答弁していることを捕まえて、「現在のPKOの内実は、この5原則がつくられた1992年当時とはかなり違っている」と強調。5原則にある「中立的立場の厳守」は今はない、と力説した。「統治機能が失われている国で、住民保護の立場から、警察や軍隊に代わって仕事をするのが今のPKOであり、直接、軍事行動に出るケースがある」。

 すでに陸自の部隊がPKO派遣されている南スーダンについても、「2013年の大統領派と副大統領派の対立激化で、今なお内戦状態にある」と井筒氏。「これでは『中立的立場の厳守』はあり得ない」と言い重ねると、南スーダンへの派遣は2011年の民主党政権下で始まったが、第2次安倍政権が本来やるべきだったのは、同国がこのような状況にあることを直視し、陸自部隊を早期に南スーダンから撤収させることだったと訴える。

 「にもかかわらず、安倍首相は『参加5原則があるから大丈夫』という調子で、陸自の派遣を続けつつ、PKO法を改正してしまった──これを、詭弁と言わずして、何と表現すればいいのか。『一国の総理大臣が嘘つくな』と言いたい」。

 南スーダンに派遣されている陸自隊員にとって、PKO法改正による新任務「駆けつけ警護」遂行の命令が、いつ下されるかは重大問題であると指摘する井筒氏は、「その時期は、当初は来年2月と言われていたが、それが5月になり、さらに11月にまで伸ばされたようだ。来夏の参院選が意識されていることは言うまでもないが、(新任務遂行の)命令が下されれば、陸自隊員は殺されるし、人を殺すことにもなる」と口調を強めた。

 その上で、PKO改正に伴う、紛争地に派遣される陸自隊員の生命リスクの高まりについて、安倍首相が口にした「逃げるから大丈夫」は、紛争地の実態を知らない素人の発言だと切り捨てた。

新PKOでは「自衛隊DNA」がネックに

 「現場でレンジャー教育を受けていない幹部自衛官が、『逃げろ』という安倍首相の命令に従順に従い、相手に反撃せずに空に向かって威嚇射撃をしたら、敵側は『自衛隊は、ただ逃げるだけだ』と安心し、一気に殲滅まで持っていこうとする。そして、その陸自部隊が持っていた武器をせしめるだろう。敵が何人かの陸自隊員を捕虜として拘束し、安倍首相に身代金を要求するケースも十分起こり得る」。

 「歩いていいのは2歩まで、3歩以上はすべて駆け足になる」「(訓練中に死亡事故も起こり得るため)訓練の最初に遺書を書かされる」などと、陸自のレンジャー教育の厳しさを説明する井筒氏は、「そういうレンジャー教育を受けてもいいという向きは、全体の陸自隊員約14万人のうち5000人余り。つまり、『レンジャー教育など受けたくない』という者が95%を占めるのが、今の陸自隊員の実態だ」とし、今後はPKO法改正を受け、レンジャー教育を受けていない公務員気質の陸自隊員が、これまでより危険な任務に従事することになると懸念する。

 その上で井筒氏は、「南スーダンでは、武器を持った少年兵が平気で攻撃してくる。『戦場では、たとえ相手が少年であれ、任務遂行のためには反撃が欠かせない』という価値観を、レンジャー教育を受けていない陸自隊員に突貫工事的に植え付けていかねばならないのが、今の陸自が置かれた状況だ」と話すも、次のように言いかぶせた。

 「負傷者は駐屯地の診療所に運べばいい、といった考え方の、あくまでも『専守防衛』を前提にした、従来型の自衛隊の訓練は実戦向きではない。現場での対処法はレンジャー教育で初めて学ぶが、それでも止血する程度。(負傷者の)呼吸を止めないための気道確保のやり方などは学べない。つまり、自衛隊には実戦に対する備えがないのだ。日本国内の医師法や薬事法とのからみで、現場の隊員が痛み止めを渡したり、注射を打つことはできない。米軍の衛生兵は、手足を失い痛みに苦しむ兵士にモルヒネの投与が許されるのに、だ」。

 レンジャー教育を敬遠する向きが多い現実は、陸自隊員の大半がキモがすわっていない証拠、と言明する井筒氏。「にわか訓練を受けただけでは、(実際の駆けつけ警護で)心が折れる例が相次ぐだろう」と懸念。任務を終えて帰国した陸自隊員に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が多発することを案じる。

 「イラク戦争に投入された米軍女性兵士の3人に1人は、ネグレクト(育児放棄)の傾向があるという。男性兵士だと、帰国後にアルコールや麻薬中毒にかかる例が珍しくないようだ」。

自衛隊員の親族にも「不安の声」

 「来夏の参院選で衆参のねじれを作り出せなければ、安倍政権は自民党の改憲草案にある、9条改正より手軽な『緊急事態条項』を新設するだろう」。

 スピーチ終盤でこう語る井筒氏は、非常時に、首相にさまざまな権限を与える同条項は、憲法9条を骨抜きにするものとし、「地方自治体の首長は、内閣総理大臣の命令に従うしかなくなる。安倍首相は『(苦役からの自由を規定する)憲法18条があるから、徴兵制の復活はあり得ない』としているが、18条を無意味化する緊急事態条項を発動させれば、徴兵制の復活など簡単だ」と訴え、非正規労働で低所得にあえぐ20代の若者がターゲットにされる可能性があるとした。

 井筒氏は、自衛隊の活動範囲が、今後、集団的自衛権をテコに拡大することは「防衛予算の拡大」につながる、とも指摘する。「社会保障費はカットされ、消費税が10%に引き上げられても、(増収分の)多くは防衛予算に回るに違いない」。

 最後に登壇した高木太郎氏(労働弁護団前幹事長、弁護士)からは、安保法成立で、自衛隊関係者がどんな不安を抱えているかの紹介があった。安保法制の国会審議が佳境を迎えた、2015年9月12日と9月15日に行った電話相談の結果報告である。

 「息子のことが心配、安保法案には大反対だ。イラク派遣の際には、隊員・家族の身辺調査が行われたと聞く」(20代隊員の母)、「安保法が成立することを心配している。息子はこの件について、あまり話したがらない。最近、上官から『こういう仕事である以上、自分の家の墓の場所を調べておけ』と言われたらしい」(別の20代隊員の母)、「孫が入隊する時に反対しなかった自分を悔いている」(10代隊員の祖母)。

 「安保法案が通ったら、そのまま自衛隊に入隊していいか心配だ。ひとたび自衛隊に入れば、やめにくいのではないか」(防衛大生の父)、「イラクから帰ってきた隊員の中には、精神疾患から自殺した人がだいぶいる。射撃は、精神面が弱ければ『怖い行為』だ」(元自衛官)、「政治活動が禁じられているために(安保法案反対の)声を上げたい時に上げられない。夫は『(安保法の施行が)国益になると信じるほかない』と言っている」(陸自隊員の妻)──。

 高木氏は、「相談を受けてみて、多くの自衛隊員の親族が、安保法案に反対していることがわかった」とし、「もし、法案が通ったら訴訟を起こしてほしい」との、隊員の家族からの訴えもあったと伝えた。

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