「非正規の女性は、育休を取得する前に、産休すら取得できていないという実態がわかった」――。
2015年11月25日、厚生労働省にてNPO法人「マタハラNet」による「非正規マタハラ白書 ~非正規が産休育休を取得出来ていない背景を考える~」と題した記者会見が行われた。代表の小酒部(おさかべ)さやか氏、理事の山名芳高氏と宮下浩子氏の3名が会見に臨み、今年9月にインターネット上で行なったアンケートの結果を報告。記者会見後、1万2千名分を超える「非正規の育休取得のための3要件緩和のための署名」を厚生労働省 雇用均等・児童家庭局職業両立課に提出した。
11月12日に発表された厚生労働省の調査でも、正社員の約2割、派遣社員の約5割がマタハラ(マタニティー・ハラスメント)の被害を受けているという実態も明らかになっている。小酒部氏は、「少子化対策が叫ばれる中、日本はかなり遅れた現状があり、対策が不十分だ」と指摘した。
- 「非正規マタハラ白書」の趣旨についての記者会見/雇用均等・児童家庭局職業課程両立課にて署名提出
非正規では産休すらとれない実態が明らかに〜企業側には「取らせたくない」という意志があるのでは!?
アンケートでは、現在20~50歳までの「非正規(有期契約労働)で働きながら妊娠した経験のある女性」158人から有効回答を得た。
妊娠がわかった時点で、非正規で働いていた女性の81%が産後も就労継続を望んでいたにも関わらず、産休・育休を取得し職場復帰できたのはわずか24.2%だった。また、就労を希望した人のうち約8割が、非正規でも産休・育休を取れることを知っていた。これらの結果から、非正規で働く女性の大半が出産後も働き続ける意志があり、産休・育休をとれる権利があると知っていたにも関わらず、退職を余儀なくされるケースが多いことが判明した。
小酒部氏は、この結果により、当初想定していた「隠れマタハラ被害」ではなく、企業側の悪質な実態が明確になったという。
「最初は、非正規の女性が産休・育休を取得できないのは、本人たちが制度を知らないからではないかと仮定し、“隠れマタハラ被害”を明らかにしようとアンケートの設問を立てた。しかし、結果からは、『制度は知っていても取得できない実態』が明らかになった。企業側に明らかに『取得させたくない』という意思があると言えるのではないか」。
非正規の女性がはずされる「育児給付金」と「保育園入園」という“2つのハシゴ”〜産休すら取らせてもらえず貧困のスパイラルへ
なぜ非正規の女性たちは産休すら取得できないのか。
労働者に与えられた法律上の権利である「育児介護休業法」は、事業主に申し出れば、子が1歳に達するまで(場合により1歳6カ月まで)育児休業を取得することができる。これは正社員だけでなく、非正規労働者も対象とされている。
しかしこの法律には、非正規労働者が育休を取る条件として、「引き続き雇用された期間が1年以上」「子が1歳に達する日を超えて引き続き雇用されることが見込まれる」「子が1歳に達する日から1年を経過する日までに雇用関係が終了することが申出時点において明らかである者を除く」という3つの要件が定められている。
小酒部氏によると、この3要件が、企業に雇用を打ち切る決断を促してしまうという。
「非正規で働く女性は、この3要件と保育園不足の挟み撃ちにあっている。社会に、育休とは何かということを改めて周知して欲しい。育休は女性にとっては『育児休業給付金』と『保育園入園』という2つのハシゴがかかっている制度。女性にとってつらいのは、この2つのハシゴがはずされてしまうこと」。