山田正彦氏×首藤信彦氏×内田聖子氏、TPPの協定案公開を受け緊急集会! ~二度と後戻りができない「毒素条項」 発効後も日本は国益を売り渡し続ける!? 2015.11.13

記事公開日:2015.11.24取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田充)

特集 TPP問題
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 「TPP発効後は、『毒素条項』によって民営化や規制緩和で市場を自由化した当該分野を元に戻すことはできない。批准されれば、日本の民意が反映される形で市場のあり方を決められない時代が始まる」。

 2015年9月末から10月初旬にかけて、米アトランタで行われた閣僚会合で「大筋合意」となった環太平洋経済連携協定(TPP)。それから1カ月後の11月5日、1500ページを超える、英文で書かれた「協定案」の全文が公表された。

 これを受けて2015年11月13日、TPPに強く反対する山田正彦・元農水大臣(TPP交渉差止・違憲訴訟の会)、首藤信彦・元衆議院議員(TPP阻止国民会議)、内田聖子・アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長らが、東京都内で緊急集会を開き、協定案公開から約1週間という、この日の時点で判明している問題点などを議論した。

 のしかかかる翻訳負担の重さを、日本の市民のハンディキャップと言う内田氏は、「協定案を縦覧すると、いろいろなところに『再協議』の規定が入り込んでいる」とし、「米国は『とりあえずTPPを形にして、3年以内に中身を変えていけばいい』と考えているのではないか」と分析した。

 山田氏と首藤氏は、アトランタの交渉内容に対し、米国内で不満が高まっていることを指摘。TPP発効に向けた米議会承認が、決して簡単ではないことを異口同音に訴え、「TPP批准阻止」を諦めていない姿勢を鮮明にした。

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■ハイライト

■全編動画

  • 発言 山田正彦氏(元農林水産大臣、TPP交渉差止・違憲訴訟の会幹事長)/首藤信彦氏(TPP阻止国民会議事務局長、元衆議院議員)/内田聖子氏(アジア太平洋資料センター〔PARC〕事務局長)ほか
  • タイトル 緊急集会~TPP協定文リリースを受けて~このまま「批准」させてはならない!
  • 日時 2015年11月13日(金)18:30~21:00
  • 場所 連合会館(東京都千代田区・神田駿河台)
  • 主催 アジア太平洋資料センター (PARC)(詳細

米自動車・医薬品業界の反応

 冒頭、主催者を代表して内田氏が立ち、「協定案の全テキストがこの5日に公表されたのを受け、今はTPPに反対する複数の有志グループが一斉にその読み込みを行っている最中だが、(その膨大な分量からして)これが実に大変な作業になっている」と現状を説明した。

 そして、この間の新聞・テレビの報道について、「アトランタ会合以降、TPP交渉に関しては『合意した』という調子の伝え方がほとんどだが、まだ『最終合意』には至っていないことを、この場でも訴えたい」と強調。「今日の集会を通じて、今後の反対活動をどう発展させていけばいいかのカギを、みなさんと一緒に見つけていきたいと思う」と語った。

 続いて登壇した山田氏は、「すべてはこれから。米連邦議会では(大筋合意の内容に)批判的な声が強まっており、(フォード・モーターが議会にTPPを承認しないよう求めているなど、「大筋合意」の内容だと当初の要求通りの保護メニューが得られない)自動車や医薬品の業界は、再交渉に向けロビー活動に力を入れている」と指摘。米国のすべての労働組合がTPPに反対していること、環境団体は1つを除いてすべて反対していることにも触れ、来年の、(TPP発効に不可欠な)議会承認が難航しそうな情勢であることを伝えた。

 「われわれは、本気でTPPを潰さねばならない。日本の社会に、人の生命(=医療、食の安全)より、多国籍企業の利潤追求を大切にする風土を根づかせてはならない。これからが勝負なのだ。みなさんとともに、大いに頑張っていきたい」。

なぜTPP交渉は「とん挫」しなかったのか?

 度重なる交渉にも関わらず、多くの分野で各国の溝が埋まらなかったTPP交渉。米国内でも反発が強かったにも関わらず、なぜ「漂流」に至らなかったのか。山田氏に続いて登壇した首藤氏は、「中国が、昨年10月に北京で設立・調印が行われたアジアインフラ投資銀行(AIIB)の事業を通じて、『世界管理の制度づくり』を行おうとしていることが、オバマ米大統領を必死にさせた」と指摘した。

 TPPについて、当初掲げられた「新たな自由貿易協定」との目標はいつのまにか色褪せ、気がつけば、自国益を重視する米国が中心になって、テーマごとに対象国と交渉する2国間協定の重層版的なものになっていたとも述べ、次のように言い重ねた。

 「その結果、交渉は複雑さを極め、昨年の今ごろは『合意は難しい』という見方が有力だった。が、AIIBの設立で流れが変わった。(アジア戦略で中国に主導権を握られたくない)オバマ政権は『TPP合意』に向けてアクセルを踏み込み、(米議会が大統領に貿易交渉を委託する)貿易促進権限(TPA)を6月に獲得している。これがなければTPP交渉は、とん挫していたに違いない」。

 「すべての関税は即時撤廃」──。当初のTPPを象徴する、この言葉通りの内容で大筋合意に至っていれば、協定案が1500ページ超もの厚さにはならなかっただろう。今回の大筋合意では「即時撤廃」の色は薄くなった。たとえば自動車では、米国が関税を撤廃すのは25年先だ。日本は牛豚肉の関税を、10年かけて大幅に引き下げるも撤廃はしない。主要農産品では、乳製品ではバターと脱脂粉乳に各3700トン、コメで約8万トン、それぞれ無税の輸入枠を設けることを条件に、関税撤廃は行わない。

 こうした内容を踏まえ、首藤氏は、「少なくとも現時点では、当初はガラガラへビだったTPPが、今はヤマカガシぐらいにまでに(その貿易障壁を壊す力は)弱まっている」とした。

協定案分析の「進捗状況」を報告

 TPP推進派にとって「大筋合意」は圧倒的なプラス材料と映るが、首藤氏は、加盟諸国のTPP担当者には、「最終合意」に向けた平坦な道が用意されているわけではないと言い切る。

 「特に、米国が大きな問題を抱える結果になった」――。

 是が非でも大筋合意をとりつけたいがために、アトランタ会合で譲歩した結果、先で山田氏も指摘したように、米国内には交渉内容に不満を持つ業界が存在するという。

 オバマ大統領がTPAを得ているため、米議会が交渉内容を修正することは不可能だが、来年、承認か不承認かを決める投票が実施される。日本では、年明けから開かれる通常国会で、TPP協定案や関税といった関連改正法案の審議が行われる。

 首藤氏に続き、再度マイクを握った内田氏は、協定案分析の進捗状況について、謎だらけのTPPの全容を可視化するのが目的とし、「協定案の英語の全文が公表されてから約1週間。海外の同志もテキストの読み込みに力を入れているが、全体を深く分析したレポートは、まだ登場していない」と改めて話した。

 TPP交渉に参加した12ヵ国が、協定案の全文を公表したことは、すでに大手メディアも報じている。関税や知的財産など21分野の合意内容による30の章からなり、現時点で日本政府の対応は、およそ100ページの日本語訳(概要)のみの公表にとどまっている。

 内田氏は、「英語圏の国民や国会議員は、協定案の全文を見ることができるが、日本人には無理。概要は『政府視点』で書かれているため、TPPの利点が強調されていると考えられる」と。日本人が極めて不利な立場にあることを訴え、「私たちも小規模な分析チームを立ち上げたが、英語で書かれた難解な文章との対峙に、少なくとも年内いっぱいは費やされそうだ」と語った。

 そのうえで「これから、現時点で明らかに問題と言えそうな部分について指摘を行います」と前置きし、その中身を紹介していった。

盛り込まれた「再協議」の規定!米国優位は「発効後」にさらに強化される!?

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 「米国は『とりあえずTPPを形にして、3年以内に中身を変えていけばいい』と考えているのではないか」――。

 新聞・テレビは、協定案公表で初めて明らかになったこととして、「農作物に関する7年後の再協議」を挙げているが、内田氏は、「協定案を縦覧すると、(農産物だけでなく)いろいろなところに『再協議』の規定が入り込んでいる。驚いたのは全分野をカバーする話として、第27.1条の位置づけで『TPP委員会を設置して、発効から3年以内に協定の改定・修正を検討する』がある点だ」とし、これではTPPが「発効」の手続きを踏んで実体化したとしても、後になってから、合意内容がいくらでも変わる恐れがあると訴えた。

 農作物をめぐる「7年後の再協議」についても内田氏は、日本政府が「関税残存に成功した」としているのを尻目に、「米国が7年間だけ待つ、というのが本当の意味合いなのではないか。完全撤廃を行うことは、日米両政府間ですでに決まっていて、それを一気に行ってしまうのは難があるという理由から、『7年』という猶予期間を設けただけなのではないか」との見方を示した。

将来的に米国から遺伝子組み換え食品の輸入を要求される可能性

 さらに内田氏は、「遺伝子組み換え作物についての情報公開のための作業部会」との記述があることも紹介。「農水省は『通商協定で、こういう部会がつくられるのは本来は難しい』としてその成果を誇っているが、この部会が何を行うかは不明瞭である。遺伝子組み換え食品の輸入についても、将来的には米国から、どういった対日要求がなされるか、わからない」と語った。

TPPに盛り込まれた「毒素条項(ラチェット条項)」によって日本は後戻りのできない国に

 そして内田氏は、TPPにはサービスや金融などに「ラチェット条項」(※)と言われる、片道切符的な縛りがあることも強調した。

※ラチェット条項とは、自由化や解放に結びつく法改正は認められるが、規制の強化に結びつく改正は認められないという決まり。

 「つまり、TPP発効後は、民営化や規制緩和で市場を自由化した当該分野を元に戻すことはできない。批准されれば、日本の民意が反映される形で市場のあり方を決められない時代が始まるのだ」。

 日本政府が社会事業サービス(保健、社会保障、社会保険など)、政府財産、公営競技、放送業、エネルギー産業などを「ラチェット条項」の適用から留保していることについては、「留保する分野は、挙げられているものだけで本当にいいのか。留保されている分野も、将来的に『留保しない』という判断が下される可能性はないのか」と述べた。「現行の関税の引き上げや、新たな関税を採用してはならない(2.4条)という規定も、決して見落とせない」。

改めて高まる「食糧不安」

 農産品に関しては、「大バーゲンセールが行われた」と顔を曇らせる内田氏。「重要5品目(コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖)がほとんど守られていないのもさることながら、5品目以外の、オレンジ、はちみつ、ハムなどの約400品目の関税が撤廃されることになり、日本の食の安全や、食料自給率は大きな打撃を受けることになるだろう」と懸念した。

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「山田正彦氏×首藤信彦氏×内田聖子氏、TPPの協定案公開を受け緊急集会! ~二度と後戻りができない「毒素条項」 発効後も日本は国益を売り渡し続ける!?」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    山田正彦氏 「われわれは、本気でTPPを潰さねばならない。日本の社会に、人の生命(=医療、食の安全)より、多国籍企業の利潤追求を大切にする風土を根づかせてはならない。これからが勝負なのだ。」 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/274780 … @iwakamiyasumi
    https://twitter.com/55kurosuke/status/669383173743120385

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