「ホルムズ海峡と南沙諸島を、なぜ沖縄が守らなければいけないのか」――ジュネーブ・国連人権理事会から帰国直後の翁長・沖縄県知事が外国特派員協会で訴え! 2015.9.24

記事公開日:2015.10.1取材地: テキスト動画
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(ぎぎまき)

特集 辺野古
※10月1日テキストを追加しました!

 「日米両政府と180万人の県民が闘いは、誰が見ても、沖縄に勝ち目がない。しかしながら、私たちは27年間、米軍の施政下で、無国籍の人間として人権を蹂躙された時代を生きてきた。そして、その中で小さな島ながら、一つ一つ闘って、人権を積み上げてきた強さがあります」

 沖縄県の民意を踏みにじる形で辺野古新基地建設を進める日本政府の行為は人権問題にあたるとして、スイス・ジュネーブにある国連本部で演説を行なった沖縄県の翁長雄志知事が、帰国直後の2015年9月24日、東京・外国特派員協会で記者会見を行なった。

記事目次

■ハイライト

なぜ沖縄に基地が集中するのかという問いに、「他の都道府県の首長が反対するから」とあっけらかんと答えた中谷防衛大臣

 今年の8月10日からの一ヶ月、翁長知事は安倍総理を始めとする閣僚5人と、新基地建設をめぐる協議を重ねてきた。その間、政府が基地建設にかかる工事を中断したことを評価する一方で、沖縄の民意に理解を示そうとしない政府を前に、翁長知事は国際世論に訴える手段に出ることを決意。国連でのスピーチや、外国特派員協会での記者会見につながった。

 「安保法制の中で、沖縄の基地を使って中東のホルムズ海峡まで行くことが抑止力になる。あるいは、南沙諸島に進出する中国に対する抑止力として、沖縄の基地が役割を果たす。中谷防衛大臣がそういう話をされた時に、私は『ホルムズ海峡と南沙諸島をなぜ、沖縄が守らないといけないのか』と聞きました」

 翁長知事は「抑止力」について、中谷防衛大臣と多くの時間、議論を交わしたという。「日本の安全保障は日本国民全体で守るべきじゃないか」――。翁長知事の質問に対し、中谷防衛大臣は「(他の都道府県の)知事や市長さんが反対する」と、沖縄県以外に基地を移設することは不可能だというニュアンスを伝えたという。他地域が嫌がるので、沖縄にしわ寄せがいくのは仕方ない、のんでくれ、という話である。

 米軍基地という「嫌悪施設」を沖縄に集中的に押しつけて恥じない。これは、沖縄に対する差別ではないか。

 沖縄県はこれまで、県をあげて「反対」の声を官邸に届けてきた。2013年1月、沖縄県は全41市町村長、全41市町村議長が銀座でデモを行ない、保革の立場を乗り越えた140人余りが「オール沖縄」で、普天間基地の県内移設やオスプレイの配備撤回を求めた。

 なぜ、官邸は他地域の声には耳を傾け、沖縄の声だけは耳を傾けようとしないのか。

 「九州の北の方が韓国や北朝鮮に近いですから、本来、九州の北にミサイルを置いて北朝鮮と対峙する方が、日米安保体制からすると大変有効だ。しかし、何の理由からか、そこは危ないから沖縄からミサイルを発射するんだという。『私たちは一体何なんだろう』という思いを、沖縄県民一人ひとりが持っているということを、ご理解いただきたい」

 そもそも、基地の「15年間の使用期限」を条件に、当時の稲嶺恵一元県知事らは普天間基地の辺野古移設を容認。橋本龍太郎元総理はこれを閣議決定した。しかし、その後の小泉内閣がこの閣議決定を取り消し、条件なしの「辺野古移設」だけが沖縄県に強要されてきた経緯がある。翁長知事は「差別」という言葉は使わなかったものの、約束を反故にされ、人権がないがしろにされてきた沖縄県の現状を、具体例をあげて説明した。

 来年1月、沖縄県は宜野湾市長選挙を控えている。翁長知事は基地反対の民意を再び選挙で示し、また、県知事が持つあらゆる権限を行使し、工事を阻止すると強気の姿勢を見せた。仲井眞弘多前知事が承認した、名護市辺野古沿岸部の埋め立てについても、知事は10月の初旬にも取り消す方針を固めている。

「お互い、70年間を別々に生きてきたようですね」〜杉田官房副長官との話し合いを通じて痛感した「届かぬ思い」

 以下、翁長沖縄県知事の発言要旨を掲載する。

▲翁長雄志・沖縄県知事

翁長雄志知事(以下、翁長・敬称略)「国連の人権理事会におきまして、改めて、これまでの沖縄問題の総括を話しました。今日は、これまでのいきさつをお話させていただく中から、ご質問等を受けて、理解を深めていただければと思います。

 (前回の記者会見を行なった)5月20日以降で、一番大きかったことは、8月10日から9月10日まで、約一ヶ月、(辺野古新基地建設に係る)工事を止めたこと。私はそれまでも、とにかく工事を止めて話し合いをさせていただきたいということを申し上げておりましたので、政府がそれに応じて一ヶ月中断をしました。

 一ヶ月間で何が話し合われたか。5回の集中協議がありましたが、私は沖縄の問題を色々な角度から話しました。しかし、政府からはほとんど、それに対する返答や政治的判断はありませんでした。

 私が最初に話をさせていただいたのが、杉田和博官房副長官です。副長官とは4月にお話してからずっと、沖縄の歴史を含め、私の思いを一番に話した方です。集中協議が終わる時、『私の話は通じませんか』という話をしましたら、『私は戦後生まれなので、そういった沖縄の置かれてきた歴史というものについてはなかなか分かりませんが、19年前の日米合同会議での辺野古が唯一だということが、私の全てです』という話をされました。

 私自身は、『お互い、70年間を別々に生きてきたような感じがしますね』という話をしました」。

「15年間の使用期限付き・軍民共用」という橋本内閣の閣議決定を反故にした小泉内閣

翁長「そして、なぜ、県外移設でなければいけないのか、ということを簡単に申し上げます。

 普天間基地は戦後、私たちが収容所に入っている間に、あるいは収容所に入らず住んでいる場合は、米軍が銃剣とブルドーザーで住民をどかして、土地を強制接収しました。今、沖縄本島の18%を占めている基地は、私たちがどうぞと差し出したものは一つもありません。

 今回の新辺野古基地は、初めて沖縄県側が了解したという形になっていますが、仲井眞前知事も、4年前の選挙では『県外移設』ということで当選をしたわけです。ある意味では、県民に約束したことを破って埋め立ての承認をした。

 これを私が昨年の選挙で、また、名護市長選挙でも、すべての衆議院選挙でも、辺野古に造らせないという沖縄の民意を示す形でそれを否定しました。

 原点は沖縄の強制接収にあるということが一つ。それからもう一つは、16〜17年前に、稲嶺恵一元沖縄県知事などが辺野古ということで了解をしたのは、条件付きだったんです。

 『辺野古に造っても15年後には返してくださいよ』と。軍民共用で使うと。それ以降は、沖縄県に経済振興ができるのであれば、基地の負担も受けましょうと。(当時の)橋本内閣は、『知事と名護市長の言うことは尊重します』と、それを閣議決定し、この問題を進めました。

 しかし、平成18年の小泉内閣で、当時の閣議決定を打ち消してしまいました。正式に沖縄県側が『辺野古でいいですよ』と言った条件付きのものも、全部反故にしたわけです。ですから、それも、原点としてはおかしいということを、菅さんには話をしました」。

翁長知事「ホルムズ海峡と南沙諸島をなぜ、沖縄が守らないといけないのか」中谷大臣「(他の都道府県の)知事や市長さんが反対するんですよ」

翁長「中谷防衛大臣とは抑止力について、閣僚4名の中ではわりあい議論をしました。中谷さんは何とおっしゃったかと言うと、中国が大変脅威であると、沖縄の自衛隊のスクランブルも2倍、3倍と回数が多くなっているので、ぜひとも沖縄にミサイルと配置したい。自衛隊を改めて、宮古と石垣に数百名程度配置をしたいというような話をされました。それが抑止力につながると。

 私は『沖縄は27年間、米軍の施政権下から外され、日本国民でもアメリカ国民でもない中で、沖縄の基地を使ってベトナム戦争をしたわけです。日本の戦後の平和と高度経済成長は沖縄が27年間、米軍が(沖縄の土地を)自由に使うことによって成り立ったものだと私は思っています』と申し上げました。

 そして、沖縄が27年間、軍事基地であったのには、当時、ソビエト連邦、中国が共産主義社会としてあって、世界ががどうなるか分からないという時に、沖縄が『要石』として必要だと言われていた。あれから40年経ち、中国が脅威だと言っても、あの冷戦構造に比べてどれだけ脅威になっているかということが、(政府から)何も説明もない。

 安保法制の中では、中東のホルムズ海峡まで沖縄の基地を使って抑止力としてやる、あるいは南沙諸島に進出する中国に対する抑止力として、沖縄の基地が役割を果たすんだという話を中谷さんがされた時に、私は『ホルムズ海峡と南沙諸島をなぜ、沖縄が守らないといけないんですか。日本の安全保障は日本国民全体で守るべきじゃないですか』という話をしたんですが、(中谷防衛大臣は)『(他の地域の)知事や市長さんが反対するんですよ』と言って取り合いません。

 沖縄県は、2〜3年前(2013年1月27日)、全41市町村長、全41市町村議長が銀座でデモをして官邸に『沖縄は駄目ですよ』と全員で揃って反対の要請書を出しました。けれども、(安倍総理は)5分しか会ってくれない上に、一顧だにされませんでした。こういった状況も中谷さんには話をしました」。

「沖縄にミサイルが飛んできたらミサイルで撃ち落とせばいい」〜沖縄は単なる領土なのか? 中谷大臣の止まらない差別的発言

翁長「3年前からは、リチャード・アーミテージさんやジョセフ・ナイさんが、『沖縄はむしろ中国に近いから危ない』と言い出した。

 ミサイルの命中度が発達したので、沖縄は中国と距離が近いということで、普天間や嘉手納が攻撃されれば、沖縄が一発で沈んでしまう。だから、オーストラリア、グアム、ハワイ、本国に(海兵隊を)置いといて、いざという時に沖縄に来て、有事に対応した方が柔軟性があると。その方が、アジアの安定にも有効だという話もずっとありました。けれども、それも、今は聞く耳を持たないようです。

 『沖縄にミサイルが飛んできたらどうするのか』と言った時の中谷さんの発言は、『沖縄にこれからミサイルを配備するので、ミサイルで撃ち落とす』と言うんですね。それを聞いたときに、沖縄県を『領土』としか考えてないなと。140万人の人間が住んでいるということ、70年前に日本軍と一緒になって、10万人以上が亡くなったということ。そういったことが、今日まで、全く反省がない。

 過去何回も、歴代の沖縄県知事を含め、県会議員もワシントンDCに行っています。その時に向こうの高官が必ず言うのは、『これは日本国内の問題だから、日本政府に話をしなさい』ということ。私たちは、その時々の日本の外務大臣や防衛大臣に『アメリカは日本政府が決めると言ってますよ、だからお願いしますよ』と言いましたが、『後ろからアメリカが嫌だと言うんだ』と。

 こういう風にして私たちはたらい回しにされてきました。

 日本は本当に独立国家なのか。米軍基地を預かって日米地位協定の厳しさも理解する中で、日本の在り方というものが良く見えてきます」。

「基地が多いから振興策がもらえていいですね」誤解に苦しむ沖縄〜「振興予算3000億円」の中身を説明する翁長知事

翁長「安倍総理とお会いした時には沢山の話をしましたが、世界一危険だと言われているあの普天間基地。『新辺野古基地ができなければ、固定化をする』と言うんですよね。

 13年前にラムズフェルド国防長官が来て、『こんな危険な基地はない。早くどかすように』と言われて、普天間基地の移設計画の具体化が進んで来ましたが、『辺野古を造らせないのであれば、普天間を固定化する』という。

 『本当に世界一危険な基地を、総理は固定するつもりですか?』という話をしたら、(総理からは)何も返事がなかった。大変おかしなことだと思っています。

 最後になりますが、沖縄が苦しんでいるのは何かというと、本土の方々が、沖縄は基地を預かっているから、沢山の振興策をもらっているという誤解があることです。なぜ、そう誤解されるかと言うと、いつも年末に沖縄県の『振興予算3000億円確保』と報じられるんです。

 本土の方々は、47都道府県が全て等しく予算をもらった上に、沖縄県は3000億円をもらっているという誤解をしています。これは全く違っています。沖縄県は27年間、日本人でもないアメリカ人でもない日本国憲法の適用もない、当然、合衆国の憲法の適用もない中で、ドルを使って27年間生きてきましたから、治外法権の中で生きてきたわけです。

 44年前に復帰をした時には、国会議員を一度も出したことがなかったから、予算の取り方が分からない。だから、40年前に沖縄開発相が間に入って、財務省に話をして、まとめて予算を取ってくる。そういうやり方をするのは、47都道府県、沖縄だけです。

 他の46都道府県は、各部長さん、土建部長さんが道路を作る、教育委員会が学校を作る、福祉部は貧しい人たちに何をするかも政府に言って、それぞれが予算をもらってくるわけですから、何も発表される振興予算がない。自分でしっかりと数千億円の予算を取っているわけです。

 地方交付税は、沖縄県は全国で16位です。国庫支出金は合わせて6位。しかも、6位に、7県くらいが横に並んでいます。特段、沖縄県が突出してどうこうという話ではありません。そして、なぜ上位の方にあるかといえば、27年間、全く顧みられませんでしたから、沖縄県は戦争の後、道路も保育園なども、ほとんど認可保育園もない状況、そういったものを本土並みに是正するという意味で、公的補助などが出てきました。これも都道府県の中で突出しているわけではありません。これが一番の誤解になっています。

 私は去年まで市長をしていたので、全国市長連でも必ずこう言われるんです。『基地問題を何とかみなさんで解決して下さい』と言うと、『沖縄は基地が多いから振興策をもらえるからうらやましいですね』と。そういうものに反論するのはなかなか簡単ではありません。

 こういう形で、5名の閣僚と話をしてきたことを受けて、これは国際社会にも訴えなければいけないなということで、国連の人権理事会で2、3日前に発表させていただきました。ご質問がありましたらよろしくお願いいたします」。

「大変残念だ」翁長知事の国連演説に対する日本政府の反論に翁長知事が苦言

 以下、質疑応答を掲載する。

記者「国連の人権委員会の反応はどうだったか?」

翁長「スピーチの時間は2分間でした。国連では、今の話を2分間に凝縮して話をしました。私の意見に対し、日本政府から反論がありましたが、私は帰国の途に発っていましたから、反論する時間はありませんでした。

 例えば一ヶ月前に西普天間基地の50ヘクタールを返したと日本政府は話をしました。つまり、基地の削減にも、政府は力を尽くしていると。その後、私と同じ考えを持つNGO団体の方が言ったのは、『いくら返ってきたか分かりますか? 0.2%から0.02%ですよ』と、反論したそうです。

 こういった0.1%, 0.2%を返したことを、政府が大きく誇張し、反論したということは大変残念だったと思います」

沖縄の現実を本土に伝える意義とは〜「安保法制の危険性を沖縄県はすでに体験している」

(…会員ページにつづく)

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「「ホルムズ海峡と南沙諸島を、なぜ沖縄が守らなければいけないのか」――ジュネーブ・国連人権理事会から帰国直後の翁長・沖縄県知事が外国特派員協会で訴え!」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「ホルムズ海峡と南沙諸島を、なぜ沖縄が守らなければいけないのか」ーージュネーブ・国連人権理事会から帰国直後の翁長・沖縄県知事が外国特派員協会で訴え! http://iwj.co.jp/wj/open/archives/266597 … @iwakamiyasumi
    全くの正論。「美しい国」に沖縄は入っていないらしい。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/649524711383130112

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