「これは国策である。オリンピックのため移転してもらうことに決まった」

　この一方的な通告は、都営霞ヶ丘アパートの立ち退きを迫るJSCと東京都整備局が、2012年の住民説明会で言い放った言葉だ。

2度の東京五輪で2度の立ち退きを迫られる住民たち

　東京都新宿区にある都営霞ヶ丘アパートは、1964年の東京オリンピック開催に伴い、その前年に建設された。そこには、国立競技場建設によって立ち退きを迫られた人々が多く移り住んだ。つまり住民の多くは、東京オリンピックによって2度の立ち退きを迫られているのだ。その多くは高齢者で、当時と違い、移住は容易ではない。

　2015年8月31日（月）、参議院議員会館で都営霞ヶ丘アパート住民有志が、遠藤利明・五輪担当大臣と下村博文・文科大臣、国立競技場の整備計画再検討推進室長の杉田和博・官房副長官に対し、要望書を提出した。

• 新国立競技場建設問題で立ち退きを迫られている都営霞ヶ丘アパート住民、有識者らが一方的な都の対応を問題視、アパート取り壊しの見直しを求め要望書を提出 2015.6.22

• 「新国立競技場計画はIOCアジェンダ21にまったく合っていない。日本がやっていることは恥ずかしい」――新国立競技場建設問題で浮かび上がる、ずさんな日本の公共事業の実態 2015.7.30

　五輪エンブレムの盗用疑惑による使用の白紙撤回、膨れ上がる工事費による新国立競技場の建設計画見直しなど、前代未聞の見通しの甘さが露呈している2020年東京オリンピック。この無茶な計画に立脚していることから、霞ヶ丘アパートの問題についても一度は「ゼロベースに」との発表があったが、今、安倍政権は何事もなかったかのように、立ち退きを強行しようとしている。

　下村博文・文科大臣は9月24日、「多くの国民に心配と迷惑を掛けた」として安倍総理に「辞意」を伝えたというが（※）、いまだに、霞ヶ丘アパートに住まう人々の心配と迷惑に耳を傾けようとはしていない。

（※）報道によると、下村大臣の辞意に対し安倍総理は、「内閣改造まではしっかり務めてほしい」と述べたという。結局、「引責辞任」ではなく、安倍政権にとってダメージの少ない内閣改造での「交代」「退任」に着地しそうだ。安倍政権の責任の所在は、またも曖昧となったままだ。

• 14:45〜 要望書手交（内閣官房新国立競技場の整備計画再検討推進室・文部科学省）
• 15:00〜 記者会見（都営霞ヶ丘アパート住民有志、日置正晴氏（弁護士）、大橋智子氏（霞ヶ丘アパートを考える会、神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会））

• 日時 2015年8月31日（月） 14：45～
• 場所 参議院議員会館（東京都千代田区）

最初から「立ち退きありき!？」～安倍総理の見直し宣言でアパート取り壊し理由が「オリンピックのため」から「都市計画のため」に変化

　アパート住民は過去にも3回、舛添要一東京都知事宛の要望書を提出しているが、未だ住民への回答はないという。

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　住民有志はこの日、霞ヶ丘アパートを高齢者が住み続けることができる居住環境のモデルとなるような計画への見直しを要望。さらに国際オリンピック委員会（IOC）のトーマス・バッハ会長へも要望書を提出した。

　7月17日に安倍総理は「新国立競技場建設計画を白紙に戻す」と表明。7月23日には文科省スポーツ青年局から公式な場で「霞ヶ丘アパートもゼロベース」との発表があった。

　しかし、その直後に文科省は、「霞ヶ丘アパートの廃止は都市計画で決まったこと」と、これまでの「オリンピックのため」という説明を覆し、2016年の1月末という、最も寒い時期の移転を迫っている。

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