「日本の裁判所では、特定の個人に被害が生じなければ、人種差別だけでは裁けない。『朝鮮人を殺せ』などのヘイトスピーチに対して法的な規制がないため、日本政府も差別に関する統計がなく、積極的に動こうとしない」──。在特会のメンバーらによる京都朝鮮学校襲撃事件の裁判を振り返った龍谷大学教員の金尚均(キムサンギュ)氏は、このように指摘した。
2015年7月22日、東京都千代田区の参議院議員会館にて、院内集会「STOP HATE SPEECH ! ~今こそ人種差別撤廃基本法の実現を No.2」が行なわれた。「人種差別撤廃基本法の必要性」をテーマにした基調講演のほか、差別問題に取り組む関係者たちからの報告や、国会議員からのコメントも寄せられた。
金氏は、「差別は単に不快なだけではなく、社会から排除され、生命の危険すら感じ、生存権も脅かされる。被害の認識の非対称性を克服することが、早急の課題だ」として、人種差別撤廃法案の成立に期待を示した。
移住連貧困プロジェクトの稲葉奈々子氏は、在日ブラジル人、ペルー人など、日系人の子どもの低学歴と貧困の問題を取り上げ、将来の差別へつながると警鐘を鳴らした。芝池俊輝弁護士は、白人差別で訴訟になった小樽入浴拒否人種差別事件を通して、外国人差別に対する地方行政のあり方を問題提起し、高柳俊哉さいたま市議会議員は、地元の浦和レッズのサポーターが起こした人種差別的な横断幕「JAPANESE ONLY」の騒動から、市議会の差別に対する意識が変わったと述べた。
難民支援協会の石井宏明氏は、東日本大震災で経験した「中国人暴動」のデマについて、「大きな災害のあとには、必ずそういうデマが流れる」として、非常時に露呈しがちな日本社会の歪んだ差別意識に懸念を表明した。有田芳生参議院議員は、「ヘイトスピーチは、人間の尊厳と平等を否定することは明白だ」と語り、人種差別撤廃基本法を成立させるための支援を呼びかけた。
- 基調講演 「人種差別撤廃基本法の必要性」 金尚均氏(龍谷大学教員、京都府・京都市に有効なヘイト・スピーチ対策の推進を求める会)
- 特別報告 稲葉奈々子氏(上智大学教員、移住連貧困プロジェクト)
- 発言 芝池俊輝氏(弁護士、元・小樽入浴拒否人種差別事件弁護団事務局長)、高柳俊哉氏(さいたま市議)、ほか
- 日時 2015年7月22日(水) 15:00~
- 場所 参議院議員会館(東京都千代田区)
宙に浮いた人種差別撤廃施策推進法案
冒頭で、外国人人権法連絡会運営委員で弁護士の藤本美枝氏が、「2015年5月22日、人種差別撤廃条約を具体化するための法案『人種差別撤廃施策推進法案』が国会に上程されたが、法案は参議院法務委員会で止まったまま。政府は『実態調査を行なう』と言うが、ただちに審議入りすべきだ」と話した。
次に、龍谷大学教員の金尚均(キムサンギュ)氏が、京都朝鮮学校襲撃事件をテーマに基調講演を行なった。自身も3人の子どもを、その学校へ通学させていたという金氏は、事件の経緯から説明していった。
「2009年12月、在特会(在日特権を許さない市民の会)メンバーらが、公園を占拠しているとして、京都朝鮮第一初級学校を襲撃。刑事・民事裁判を繰り広げ、2014年12月9日、最高裁で控訴棄却になった(朝鮮学校側の勝訴)。それまで日本社会では、在日の北朝鮮人に対する差別を黙認していた。子どもたちまで傷つけられ、黙ったままでいいのかと、学校側は立ち上がった」
金氏は裁判所の決定について、「日本は国連人種差別撤廃条約を1995年に批准している。それを、憲法98条2項に照らし合わせ、判決に間接適用した。これは、ヘイトスピーチが社会的に認知されたことも意味する」と評価し、さらに、この事件はヘイトスピーチに目が向きがちだが、在特会によって教育環境が損なわれた上に、我が国(韓国・北朝鮮)における民族教育も損なわれたことも見逃せない、とした。
人種差別だけでは裁けない「司法の限界」
金氏は、「ヘイトスピーチを下からの攻撃だとすると、上からの攻撃が、朝鮮高等学校の無償化制度の排除だ」と指摘し、この件に対してはマスコミの批判も鈍いため、一般市民の間に徐々に差別の刷り込みが広がることを懸念した。「それを阻止すべく、京都朝鮮学校は裁判で抵抗を示した。しかし、司法の限界もあぶり出された」とした金氏は、このように続けた。
「日本の裁判所では、人種差別だけでは裁けない。特定の個人に被害が生じなければ、裁けないのだ。『朝鮮人を殺せ』などのヘイトスピーチに対しては、法的な規制がない。ゆえに、日本政府にも差別に関する統計がなく、(人種差別撤廃に)積極的に動こうとしない」
ドイツには民衆煽動罪、米ニューヨーク州にはハラスメント罪がある。金氏は、今回上程された法案について、刑事罰はないが、法案を作ることで差別の存在を公にできること、国内人権機関の設置を定めていることの2点を評価し、「差別は単に不快なだけではなく、社会から排除され、生命の危険すら感じ、生存権も脅かされる。被害の認識の非対称性を克服することが、早急の課題だ」と主張した。
ヘイトスピーチは違法行為──法的根拠を明確にした法案
人種差別撤廃基本法を求める議員連盟会長の小川敏夫参議院議員は、この法案に関して、次のように現状を報告した。
「差別とは、社会から排除され、生存権も脅かされること」 〜「ヘイトスピーチは違法行為」人種差別撤廃基本法の実現へ向けて弁護士、国会議員らが提言 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/254305 … @iwakamiyasumi
差別は受ける側には見える。差別者の目には映らない。
https://twitter.com/55kurosuke/status/628510229093691392