国連人権委、13年間勧告を無視し続けてきた日本政府に厳しい要求、公人や政治家による「ヘイトスピーチ」にも懸念 2014.9.2

記事公開日:2014.9.3取材地: テキスト動画
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(IWJ・ぎぎまき)

 国連人種差別撤廃委員会は8月29日、日本政府に対し、「ヘイトスピーチ」を規制する法整備を進めるよう勧告。公人や政治家によるヘイトスピーチについても、懸念を示した。

 これを受け、スイス・ジュネーブで開かれた同委員会の対日審査を傍聴した国会議員および、NGOのメンバーら6人が9月2日、参議院議員会館で報告会を開き、審査会の様子について報告したほか、勧告の中身について各自の見解を述べた。

 「今回、委員会から出された勧告は、2010年のものと内容がほとんど変わらない」

 そう発言したのは、反差別国際運動の小森恵氏だが、小森氏によれば、2010年どころか、2001年まで遡っても、ほぼ同じことが勧告されていたという。「勧告の内容が同じということは、過去13年、事態は変わってないということだ」と指摘し、勧告を無視し続ける日本政府を「情けない」と批判した。

■ハイライト

  • 内容 日本審査の概要/審査における問題点と勧告(ヘイトスピーチ、朝鮮高校無償化、先住民族、在留外国人政策、部落、他)/特別報告(糸数慶子議員、有田芳生議員)/質疑

日本政府による嘘の答弁

 「もし、あれが日本の学校だったら、どうか。警察は加害者を現行犯逮捕していたはずだ」

 弁護士であり、人種差別の撤廃に取り組んできた、外国人人権法連絡会の師岡康子氏が、ヘイトスピーチ問題に関する報告の中で、2009年に起きた京都朝鮮人学校の襲撃事件に言及した。

 「政府は、委員に対し、『ヘイトスピーチについては、現行法で十分に対処できている』と答弁した。しかし、これはおかしな話だ。確かに、京都朝鮮学校の襲撃事件は刑事事件で有罪になったが、学校は3回も襲撃されている。予告もされていたし、現場に警察もいたのに、加害者を逮捕しなかった。告訴状もなかなか受け取らず、逮捕されるまで8ヶ月もかかっている」と話し、政府の主張に反し、現行法は犯罪を取り締まっておらず、差別的に運用されていると批判した。

人種差別撤廃委員会の勧告

 29日に公表された勧告の中で、委員会はヘイトスピーチに対する取り組みとして、日本政府に次の2点を明確に要請している。

 第一に、すでにある現行法を適切に運用し、ヘイトスピーチやヘイトクライムを取り締まること。裏を返せば、現行法でできることがあるのに、何の措置も取っていないという批判でもある。第二に、新たな法を整備し、ヘイトスピーチを規制する、この2点だ。

 新しい法律が制定される場合、その目的は弱い立場におかれた集団の保護であり、不正義への抗議、社会的な不満あるいは反対などの表明を抑制するための口実として使われてはならないことを強調する。勧告は、ヘイトデモに抗議するカウンター市民についても触れ、カウンター市民への過度な規制をやめるよう求めている。加えて、委員会はヘイトスピーチを流布する公人および政治家に適切な制裁を追求することを要請。委員の中には、法を乱用しないよう釘をさすコメントも見られた。

暴力の煽動は『表現の自由』ではなく、暴力である

 審査会に入る前に、会場では一本の動画が流されたという。そこには、京都朝鮮学校が右翼団体に襲撃されている様子や、大阪・鶴橋で「南京大虐殺のようにやるぞ」と発言した14歳の少女の姿など、全国に広がっているヘイトデモの実態が映し出されていた。

 「暴力の煽動は表現の自由ではなく、暴力である」 「差別主義者たちが、警察に付き添われているように見える」 「こんなことがあれば、ほとんどの国で逮捕、連行されて収監されるものだ」  映像を見た委員からは、こうした批判の声が相次いだと、委員会を傍聴した参議院議員の有田芳生氏が報告した。

 「国際的な人権基準の強さや深さを実感した」。有田議員は、各国委員の主張を聞く中で、「ヘイトスピーチは暴力以外のなにものでもない」ことを確信したという。「今でも、ヘイトスピーチは表現の自由があるから規制できないと主張する弁護士や憲法学者がいるが、そうではないことが、委員の発言でも明らかになった」と話した。

『ヘイトスピーチはアウシュビッツに繋がっている」

 ジュネーブを後にし、その足でポーランドのシンドラー博物館を訪れたという有田議員は、一枚のポスターを掲げて見せた。

 「これは、ナチスがポーランドを占領した1939年に、ポーランド国内に貼りめぐらせたポスターです。ここには『ユダヤ人はしらみだ』と書いてあります。日本と同じじゃないですか。ヘイトスピーチは、最終的にはアウシュビッツに繋がるんです」

 有田議員は最後に、次の臨時国会でヘイトスピーチを禁止する法案を提出するため、法制局とまとめの段階に入っていることを明かした。

差別に抵抗するのは当たり前

 差別主義者を直接取材し、ヘイトスピーチ問題を追い続けてきたジャーナリストの安田浩一氏も、今回初めて、人種差別撤廃委員会の審査会場を訪れた。帰国した安田氏に話を聞いた。

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