AIIBへの参加 「好きかどうか」ではなく「ニーズがあるかどうか」で判断を~岩上安身によるインタビュー 第530回 ゲスト 経済評論家・宋文洲氏 2015.4.21

記事公開日:2015.4.23取材地: テキスト動画独自
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(IWJ・平山茂樹)

 「日中は是々非々でつきあうべき」――。ソフトブレーン株式会社の創業者で、現在は経営コンサルタントや評論家として活動している宋文洲氏は、日本がAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加見送りを表明したことに関して、「好き嫌い」の「情」ではなく、その都度のニーズに応じて外交政策を展開すべきだ、と語った。

 宋氏は、現在の中国がAIIBや「シルクロード経済圏」構想など、沿岸部ではなく内陸を重視し、鉄道やパイプラインといったインフラを整備しようとする事情を説明。西安などといった内陸部は、上海や北京などといった沿岸部と比べ、依然として金回りが悪く、より近い欧州との接続を目指しているのだという。

 安倍総理は、総理就任直後の2012年末、日本、米国ハワイ、オーストラリア、インドを結ぶ「セキュリティ・ダイヤモンド構想」を英文で発表し、「中国包囲論」を唱えた。しかし、中国が「シルクロード経済圏」構想によって、ロシアや欧州との融和を目指しているとなると、中国を包囲することなど、まったく不可能となってしまう。

 あくまでビジネスマンであり、ビジネスに関するハウツー本を数多く発表している宋氏は、外交には「情」は必要なく、ビジネスとしての「ニーズ」があるかどうかで判断すべきだ、と主張する。

 歴史認識や尖閣諸島の領有権問題などをめぐり、日本の対中外交は、あまりにも感情的になりすぎているきらいがある。日本と中国が、相互の「ニーズ」に応じ、是々非々で友好関係を築くにはどうしたらよいか、2015年4月21日、岩上安身が聞いた。

記事目次

■イントロ

  • 日時 2015年4月21日(火) 14:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

中国は日本と経済的に対立する気などない

岩上安身(以下、岩上)「宋さんはソフトブレーンという会社の社長ですね。これはどういう会社なんですか」

宋文洲氏(以下、宋・敬称略)「最初は土木に関するソフトウェアから始めて、今は、営業のソフトウェアとマネジメントをパッケージして販売する会社をやっています」

岩上「AIIBについて。中国が『この指止まれ』と言った時、世界中が雪崩をうって参加することになりました」

宋「中国の沿岸部と違い、中国の内陸部、例えば西安などは、まだお金の回りが悪いのです。欧州から来たほうが、近いという感覚があります。

 そこで中国政府は、『そういえば昔はラクダがいたね』ということで、シルクロード経済圏というものを考えました。私は小さいころ3年間、ウルムチで暮らしていました。ここは綿花畑。これを沿岸部まで持っていくには、大変なコストがかかります」

岩上「AIIBには、3月上旬に英国が参加を表明しました。これを契機に、ドイツやフランス、さらにはイスラエルまでもが参加を表明しました」

宋「中国人の感覚からすると、これには長いいきさつがあります。もともと中国は、AIIBなんてやるつもりはありませんでした。中国は、ADBやIMFに増資を求めてきましたが、それが認められませんでした。中国が最初に呼びかけたのは日本、それからインド。中国は、経済で日本と対抗するつもりはありません。

 中国の最初の狙いは、アジアでお金が回るようにすること。米国中心の体制にチャレンジする気持ちなんて、当初はありませんでした。中国は今、国内市場はバブルになっています。それを解決するには、奥に行くしかありません。そのために、インフラを整備するのです。

 中国の国家戦略は、短くて3000年。この周期の中で、水路に出て盛んな時と、陸路に出て盛んな時が交互にやってきます。明の時は水路に出て、清の時は陸路に出ました。この時、清は水路に対応できなかったので、大英帝国にやられてしまいました」

岩上「北朝鮮は、AIIBへの参加を拒絶されてしまいましたね」

宋「これは、中国が評判を気にしたからです。イランに関しても、米国と核協議で合意したというタイミングで、AIIB参加を受け入れました」

AIIBを「悪い高利貸し」と表現するなど、無知をさらした安倍総理

岩上「安倍総理は、BSフジの番組内で、AIIBのことを『悪い高利貸し』と発言しています。麻生副総理も、『中国のアジアでの影響力拡大を助長する恐れがある』などと発言しています」

宋「中国側は、こうした発言をよく見ていますよ」

岩上「さらに麻生副総理は、香港フェニックステレビからの質問について、『あ? フェニックス?』と爆笑し、世界中に恥をさらしました。香港フェニックステレビは、中国だけで2億人以上の視聴者がいる放送局です」

宋「この記者は知日派なんです。その人に対し、こういう答え方をする人は、副総理の品格ではありませんよ。

 日本のテレビコメンテーターは、無難なサラリーマンばかり。私が出演した際は2回ほど、番組のプロデューサーに電話がかかってきました。安倍総理は、週刊誌の編集部にまでも、直接電話をかけています。今の日本の政治家は、本当にまめに電話をする。これは、日本人には相当効くんです」

岩上「菅官房長官は、『圧力をかけたことはない』と言っていますが、それは大嘘ですよね。米国は日本と一線を画し、AIIBに『歓迎する』とエールを送っています。米国のルー財務長官は北京を訪問し、『AIIBとの協力に期待する』と伝えました」

宋「日本は最初から、中国を『悪いやつ』と決めつけています。中国とすれば、米国と対抗しないのが得策、と考えています。なので、中国は、米国も日本も、AIIBに入ることを歓迎しています。米国や日本がAIIBに入れば、権威がつきますから。嫌な相手でも、仲良くするのが大人というものです」

岩上「サマーズ元米財務長官は、AIIBについて、『この1カ月は、米国が世界経済システムの保証人(アンダーライター)としての役割を失った時期として、歴史に刻まれたのかもしれない』と悲観的な発言をしました」

宋「『かもしれない』とあるように、まだ米国がリーダーの地位を失ったことは確定していないのです。というのも、中国は非公式の場で『リーダーには興味はない。米国の地位を脅かすことはない』と伝え続けています。中国は世界中で発展途上国だと名乗っています。

 世界のリーダーというのは、カネがかかる。中国の国民はリーダーになることを望んでいません。日本は、今こそ米国に忠誠心を見せつけるチャンスだと考えたのかもしれません。しかし、国際政治に恩義・忠義はありません。米国は徹底したリアリズムの持ち主です。

 日本は好きか、嫌いか、で政治をしています。営業マンというのは、『義理・人情・プレゼン』で営業をすべきではありません。ニーズがあるかどうかで営業をすべきです。AIIBに多くの国が参加するのは、中国が好きだからではなく、ニーズがあるから」

岩上「ADB総裁のポストは、財務省の既得権益になっているんですね」

宋「AIIBにこれだけの国が集まるなんて、安倍総理はショックを受けているそうですね。官僚たちが上げる情報が間違いだらけだということで、相当怒ったようです」 

安倍総理が言う「中国包囲論」の虚妄

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「AIIBへの参加 「好きかどうか」ではなく「ニーズがあるかどうか」で判断を~岩上安身によるインタビュー 第530回 ゲスト 経済評論家・宋文洲氏」への2件のフィードバック

  1. kaimarin より:

     非常に面白い対談をどうもありがとうございます。ついつい最後まで見てしまいました。日本の経済を左右する立場にある人たちは、一刻も早く米国の茶坊主をやめて、中国や他の近隣諸国と経済・文化両面で手を取り合っていくことが大切だと思います。でも、ああ、政治家がダメか・・・。

  2. 高津 きみお より:

    face book で元鳩山総理の記事と写真を見て下さい。希望はありますよ。

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