「新規制基準自体にノーをつきつけた」 高浜原発再稼働禁止の仮処分、何が画期的だったのか~弁護団共同代表の河合弘之弁護士に岩上安身が聞く~岩上安身によるインタビュー 第526回 ゲスト 河合弘之弁護士 2015.4.15

記事公開日:2015.4.16取材地: テキスト動画独自
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJ・佐々木隼也、平山茂樹)

※4月17日テキストを追加しました!

 「原子力規制委員会の新規制基準は合理性を欠く」――。2015年4月14日(火)、福井地裁が高浜原発3、4号機の再稼働について、住民9人による差し止めを求めた仮処分申請を認め、関西電力に対して両機を「運転してはならない」と命じた。

 仮処分はただちに効力が生じるため、高浜原発3、4号機の再稼働は、当面の間不可能となる。仮処分で原発の運転を禁止する決定は、全国で初めてのことだ。

 高浜原発3、4号機に関しては、2014年12月17日、原子力規制委員会が、再稼働に必要な安全対策の基準を満たしているとする「審査書案」を了承していた。これは、九州電力川内原発1、2号機に続き、2例目のことであった。

 しかし、今回の決定で樋口英明裁判長は、原子力規制委員会が策定した新規制基準に適合しても、「安全性は確保できない」と断じた。他にも、新規制基準について、「深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な基準にすべきだが新しい規制基準は緩やか過ぎ、適合しても原発の安全性は確保されていない。規制基準は合理性を欠く」とも指摘している。

 岩上安身は、2015年4月15日(水)、福井から戻ったばかりの弁護団共同代表・河合弘之弁護士に緊急インタビュー。今回の「仮処分」という福井地裁の判断はどのような点で画期的なのか、そして今後の司法における脱原発運動の展望について、話を聞いた。

■イントロ

  • 日時 2015年4月15日(水) 19:50頃~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

今回の決定で画期的だったのは、原発が規制委員会の新規制基準に適合しても、「安全性は確保できない」としたところ

岩上安身(以下、岩上)「昨日4月14日(火)、福井地裁が高浜原発3、4号機の再稼働について、住民9人による差し止めを求めた仮処分申請を認め、関電に対して両機を『運転してはならない』と命じました。今回の判決について、どういう点が画期的なのでしょうか?」

河合弘之弁護士(以下、河合・敬称略)「私たちは、大飯原発について、昨年(2014年)5月の差し止め訴訟で勝訴を勝ち取りました。しかし、これは本訴だったため、控訴が行われました。裁判が長引けば長引くほど、その間に再稼働が行われることになります。そこで今回は、高浜原発で『仮処分』の申し立てをしたわけです。

 仮処分で原発の運転を禁止する決定は、今回のものが初です。決定はすぐに効力を持ち、異議申し立てなどによって決定が覆されるまで、関電は2基を再稼働できません。

 そして、今回の決定の画期的なところは、原発が規制委員会の新規制基準に適合しても、『安全性は確保できない』としたところです。

 要旨では、基準地震動について、原発推進派の最高権威である入倉孝次郎教授(京都大学名誉教授・地震学)が『基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない』としていることを盛り込んでいます。

 さらに入倉教授は、『私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある』と、基準地震動がいい加減であることを認めています。これには、裁判所も驚いたでしょう」

岩上「原発推進派が、自ら認めてしまったのですね」

河合「そう。であればと、要旨では『原子力発電所の基準地震動を策定することに合理性は見い出しがたいから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる』としたのです。しかし、この決定に対して、菅義偉官房長官は、『粛々と進める』などと言っています。おそらく、この要旨も読まないで発言しているのでしょう。ものを知らない人なのだろう、と思います。そもそも、新規制基準を『世界一厳しい』とは、海外の誰も、国内の推進派ですら言っていません。

 (『世界一厳しい』と)言っているのは、菅官房長官と安倍総理と田中俊一委員長です。しかし、田中委員長は正直だから、安倍総理の発言は『政治的な発言だ』と言っています。菅さんも安倍さんも、耳学問の人で、原典を調べません。

 しかも要旨では、この新規制基準がそもそも誤りだ、と言っているのに、菅さんは『新規制基準を尊重して再稼働する』と言ってしまっている」

岩上「菅さんは、『不快な思いを与えた』として『「粛々」はもう使わない』と言っていたんですがね。映画監督の想田和弘氏は、『粛々と進めるのは犯罪では』とツイートしました。これに対し池田信夫氏は、『即時抗告するのは国民の権利だ。犯罪でもなんでもない』と批判しています」

▼想田和弘氏のツイート https://twitter.com/KazuhiroSoda/status/587992737120706560

 
▼池田信夫氏のツイート https://twitter.com/ikedanob/status/588181481165553665

河合「もちろん犯罪です。また、この決定を無視したあげくに事故が起きたら、重大な罪に問われます。

 規制基準を作るなら、これでもう安全です、という安全を保証するものにすべきです。田中委員長自身が、(新規制基準を満たしたからといって)『安全』だとは言っていません。会見では、『安全を保証するものではない』と言っていました。

 行政と司法とで2つのルールが同時に存在するなんてありえません。行政の基準を許したら、それは行政の暴走になってしまいます。だからこそ、司法がストップをかける力を持つのです」

決定文に「人格権の侵害」を書き込んだ樋口英明裁判長

岩上「今回の申し立てで注目すべきは『人格権の侵害』という点ですね」

河合「人格権とは、『人格的生存に不可欠なもの』を保護する権利のことです。人格権にもプライバシーや名誉など順位があって、最も上位にくるのが生存権です。

 今回の要旨では、生命維持に関わる人格権を侵害するおそれがある、としています。憲法の原点に立ち返っている。照れもせずにこういうことを言うのは珍しい。樋口裁判長の非常に生真面目な性格が出ています。樋口裁判長は両者を公平に扱う。推進派でも反対派でもないのです」

岩上「樋口裁判長は、2014年4月1日付で名古屋家裁の部総括判事に異動しました。今回の決定は、裁判所法に基づく職務代行の立場で出したんですね」

河合「異動は元々決まっていました。関電はなんとか任期切れに持ち込もうと、『忌避申し立て』といって『この裁判官は公平ではない』という申し立てをしました。そうすると、審議はフリーズしてしまうことになります。私たちは、これでもう駄目だなと思っていました。

 しかし、樋口裁判長はやわな方ではありませんでした。この事件は私の案件であり、引き継ぐにも大変な手間がかかるからと、高裁に『職務代行』の申し立てをしたのです。関電の裏をかいた、という訳ですね。しかし、高裁もこの人に地裁の裁判官をされると困ると思ったのか、家裁に閉じ込めました」

岩上「これまでも、民のための判決をくだした裁判官は、その時点で出世の道を閉ざされてきましたね」

河合「まあ、樋口裁判官のような人は地裁に他にもいます。良い判決を出して、最高裁判事になった人もいます」

「原発推進は愛国者ではない」

河合「他の要旨のポイントについて。使用済み燃料プールの屋根は、普通の建屋の屋根と同じ。もしここをテロで狙われたら終わりです。使用済み燃料プールは、水が抜けると溶融が始まってしまいます。規制基準に、『プールの屋根は頑丈に』という項目を加えるべきなのに、入っていません。

 使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性は、Bクラスです。これをSクラスにしろよと、決定文は求めています。しかし、なぜこれを事業者がやらないかというと、膨大な金がかかるからです。1000億単位の金がかかってしまいます」

岩上「米軍と自衛隊の想定では、仮想敵国の進軍経路は原発銀座の若狭湾、とされています」

河合「私は、原発推進は愛国者ではないと思っています。原発は、自国にのみ向けられた核兵器です。国を愛する右翼は原発反対です。原子力ムラからお金をもらっている原発推進の連中には、本当にあなた方は愛国者なのか? と聞きたいですね。

 日本の仮想敵国として、北朝鮮という存在がありますね。これまで、日本海にテポドン、ノドンを撃ち込まれています。ないとは思うが、万が一、若狭湾にミサイルを撃ち込まれたらどうするのでしょうか。北朝鮮を仮想敵国というなら、原発を撤去するべきです」

岩上「決定文の要旨では、『日本国内に地震の空白地帯は存在しない』としています」 河合「日本の原発は、地雷原でダンスしているようなもの。『原発やらない奴は馬鹿だ』と言ってはばからないフランスですら、『でも日本だけはやらない方が良いのでは』という専門家がいるのです。

 関電は、基準地震動を370ガルから700ガルに引き上げましたが、裁判官が『基準地震動を上げたのなら、その分の補強工事をやったのか?』と聞くと、関電は『してません』と回答しました。これに対して、みんな『え~!』とのけぞりました。私は、『それは安全余裕の食いつぶしだ』と指摘しました。

 関電はさらに、『基準地震動である700ガルを下回る地震によって外部電源が断たれ、かつ主給水ポンプが破損し主給水が断たれるおそれがあること』を認めています。

 では、事故の時にどうするのか? との裁判官の質問に『補助ポンプがあります』ということでした。これも驚きです。多重防護とは、まず第一陣の設備で事故を食い止めるということ。しかし、関電は第一陣では防げないと認めています。いきなり瀬戸際作戦で対応してどうするのか、と裁判官も呆れていました。

 さらに、免震重要棟の問題があります。3.11で吉田所長はここで頑張った。柏崎刈羽原発事故の教訓から、ギリギリ間に合った。しかし新規制基準では、この設置について基準の対象としていません。猶予期間という逃げ道が設けられているのです。

 そこで要旨では、『免震重要棟についてはその設置が予定されてはいるものの、猶予期間が設けられているところ、地震が人間の計画、意図とは全く無関係に起こるものである以上、かような規制方法に合理性がないことは自明である』としています。皮肉が効いていますね」

原子力規制委員会の田中俊一委員長は「事実誤認がいっぱいある」などと反論するが…

(…サポート会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

サポート会員 新規会員登録単品購入 550円 (会員以外)単品購入 55円 (一般会員) (一般会員の方は、ページ内「単品購入 55円」をもう一度クリック)

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です