「4回のお正月を、自分の家で家族と一緒に過ごせない。私たちの本当に辛い現実です。今でも12万人が、福島県や福島県外で避難生活を続けている」──。
福島県の内堀雅雄知事は、2月5日、日本外国特派員協会で「福島の光と影」というタイトルで講演し、福島の復興は進んでいるとしながらも、「原発事故が収束しないことが福島県民を苦しめている」と語った。
内堀知事は、講演の冒頭、「原発事故のことが福島の場合、話題になりがちですが、地震・津波で福島県は大きな傷を負った」と改めて指摘。震度6強の地震と福島県の浜通りを襲った巨大津波の災害も、福島県には大きな代償となったことを強調した。
事故から約4年になる福島第一原発の重要課題として、内堀氏は、溶け落ちた核燃料を安全に取り出すことと、放射能汚染水対策の2つを挙げた。また、農林水産業と観光業の落ち込みに懸念を表明し、放射性物質の検査体制をアピール。観光客誘致キャンペーンにも力を入れるとした。
さらに、福島復興の切り札としてロボット産業を挙げ、原発の廃炉作業に導入する大型ロボットと、人間の機能をアシストするロボットスーツの可能性に言及。郡山市にロボットベンチャー企業が生産拠点を作ると語った。
質疑応答の中では、原発の再稼働、移住より除染政策を進める根拠、福島原発事故の検証について記者たちから尋ねられたが、いずれにおいても内堀氏は明言を避けた。その上で、「除染、県民健康管理、産業の再生、あるいは観光の再生、こうした取り組みを同時に進めていくことで、福島に未来がある、必ず良くなると示し続けていかなければいけない」と述べた。
原子力災害は福島県民を苦しめ続ける
内堀氏は、福島復興の光の部分は、この4年間に復興がしっかり前進していること、影の部分は、原発事故によって福島県民がいまだに苦しめていることだとして、このように続けた。
「原発事故から4年たった今でも、自分のふるさと、自分の家に帰ることができない。4回のお正月を、自分の家で、家族と一緒に過ごせないことが、私たちの本当に辛い現実です。原発事故で、自分の家を離れて避難生活をした方が、ピーク時は16万4000人にも上った。4年たって、ある程度は減ったが、今でも12万人が、福島県や福島県の外で、自宅から離れて避難生活を続けている」
そして、内堀氏は福島第一原発の現状について、「私たちにマイナスの影響を与え続けている、東京電力の福島第一原発の事故。この事故が完全に収束するには、残念ながら相当長い期間がかかる。そのことが、私たちを苦しめている」と語る。
内堀氏は、福島第一原発における一番重要な課題として、爆発によって溶け落ちてしまった燃料を安全に取り出すこと、原発から汚染水が出るのを止めることの、2つを挙げた。
特に汚染水対策については、「われわれにとって、もっとも喫緊の課題。今、国と東京電力は、汚れた水を外に出さない処理について、2015年の5月、6月ぐらいまでに、何とか目処をつけたいと努力を続けている」と述べた。汚染水の対策については、現在、凍土遮水壁という手段で、汚染水を食い止めることに奔走するも、いまだ対策の効果が見られていない。
福島の農林水産業、観光業は、今も落ち込んだまま
続いて内堀氏は、復興施策の説明の中で、「施策のひとつは『除染』だ。この4年間で除染作業は進み、福島県内で人が住んでいるエリアは、落ち着いた状況にある。避難されている12万人の方々への見守り、心のケアにも力を入れている。県民の健康を守るために、全県民を対象にした健康調査、18歳以下の若者を対象にした甲状腺検査を続けている」と述べた。
原発事故による放射能汚染で、大きな被害を受けている農林水産業については、「福島県の農林水産業は、原発事故によって、風評を受けて大きく収入を落とした。桃、アスパラガス、肉牛といった産物は、残念ながら(他の地域との)価格差が非常にある。 私たちは放射性物質のモニタリング検査を徹底し、福島県の農産物で国の基準を超えるものは一切、流通させない対応を続けている。たとえば、米や干し柿(あんぽ柿)は全量検査により、安全なものだけを市場に出している。こうした検査のために、これまで世界になかった機械を新しく開発して、みなさんが安心して食べられる検査体制をとっている」と語った。
さらに、観光産業にも触れて、「震災前は、福島県にはたくさんの観光客が訪れていた。ところが、原発事故以降、観光客の数が非常に大きく落ち込み、まだ、その落ち込みが戻らない状態にある。そのため、私たちは2015年4月から6月まで、大型の観光キャンペーンを行い、全国のみなさんに、福島に来てほしいとPRする」と述べた。
ロボット産業を福島復興の切り札に
「もうひとつの大切な課題は、産業の再生である」と力を込める内堀氏は、福島でのロボット産業の可能性についても言及した。
「あの原発事故を収束させるためには、巨大なロボットが必要となる。そこで、ロボット技術をイノベーション、革新させるプロジェクトを進めている。このロボット産業を軸にして、傷ついたこの地域の産業再生を図りたい」
具体的には、2タイプのロボット産業を考えている、と内堀氏は言う。ひとつは原発の廃炉で使う巨大なロボット、もうひとつは人間の機能をアシストしてくれる小さなアシストスーツで、「サイバーダイン社が、これから福島県郡山市に工場を設けて、アシストスーツの生産を始める。これは非常に高度な機能を持っていて、頭の中で右手を曲げたいと思うと、その指示で機械が自動的に動く。したがって、体に不具合がある方や障害がある方でも、頭で思うだけでサポートしてくれる。リハビリに役立つロボットスーツである」と説明した。
その上で内堀氏は、「メイド・イン・フクシマのロボットスーツをどんどん作り上げて、日本に、そして世界に出していきたい。福島の復興には、こうした大きなイノベーションをいくつも起こしていかなければならない」と言葉を重ねた。
原発の再稼働は「国民の安全安心を最優先」