原発事故後初となる県知事選挙を、誰もが待ちわびていただろう。
10月9日告示、26日に投開票を迎える福島県知事選には7人が立候補を表明している。事故から3年半、復興もままならない福島県の現状を、県民はどう評価するのか。選挙で下される審判に、国内のみならず世界からも注目が集まっている。
10月2日、福島県文化センターで、候補予定者による公開討論会「今、ふくしまの明日を選ぶとき!」が開かれた。出席者は、五十嵐義隆氏(36・新・牧師/自営業)、伊関明子氏(59・新・コンビニエンスストア店長)、井戸川克隆氏(68・新・元福島県双葉町長)、内堀雅雄氏(50・新・元福島県副知事)、熊坂義裕氏(62・新・元岩手県宮古市長/医師)の6人。
「原発」「復興」「産業」「少子高齢化」をテーマに、約300人の前で各自が政策をアピールし、自由討論の場では、前福島県副知事の内堀氏に質問が集中。被曝問題をめぐっては、前知事の佐藤雄平県政を踏襲し、「安全」をアピールした内堀氏と他候補者の間で、激しく意見がぶつかった。
佐藤前知事の後継、内堀氏「公開討論の場なので冷静に話しているが、私は感情の起伏がある人間だ」
原発事故から3年半、未曾有の事態に県政の長として対応してきた佐藤前知事だが、福島民放社などが今年6月に実施した県民世論調査では、支持率が38.2%にまで落ちている。復興の実感を得られない県民の不満や、不安の声が数字に現れたと言っていいだろう。その佐藤前知事の後継として立候補を表明したのが、自民、公明、民主、社民の支援を受けての出馬となる内堀氏だ。自由討論の際、その内堀氏に対し、「市民側」とも呼べる他候補者から質問が噴出した。
自己紹介の場で、「この選挙を待ちわびていた」と意気込んだ伊関氏。
「福島では基本的人権が守られていない大変な状況なのに、なぜ『普通』の対応をしているのか」と内堀氏に対し、県政の対応は不十分だと指摘。それに対し内堀氏は、「公開討論の場なので冷静に話しているが、私は感情の起伏がある人間だ」と語気を強め、反論。
「東電や国とは激烈にやっている。原発事故の『収束』という言葉があったが、当時の大臣とは電話で大喧嘩した。森林除染をやらないという話の時もそうだ。陰でしっかりやっています」
内堀氏は、「福島には徐々に明るいニュースも増えてきた」と、これまでの県の対応を評価する一方で、「去年と同じ仕事をやっていては、福島の復興はできない」と意気込みを見せ、佐藤前知事へ不満を抱く有権者にもアピールした。
井戸川元双葉町長「原発と共生したのは大きな間違い。申し訳ありませんでした」
原発災害というネガティブイメージを払拭するために、「福島に来て、見て、食べてもらう」観光業に力を注ぎたいと主張した内堀氏。それに対して、元双葉町長の井戸川氏が、「被曝させて帰すというのは失礼では」と批判を込めて追及すると、内堀氏は、「避難地域以外は安全に住める環境にある。観光で訪れるには問題がない」と回答。
井戸川氏は、子どもたちのスポーツ教育を推進すべきだとする内堀氏の主張に対しても、食い下がった。
「(被曝による)疲労で、部活動についていけない子どもたちがいる。放射能とどう向き合うのか」
内堀氏は、「24年までは厳しい状況だったが、その後、必死の取り組みでグラウンドやプールは安心して使えるようになり、運動会もできるようになった」と答え、除染の効果で線量は安全な数値まで下がっていることをアピールした。
海外の機関が示す基準ばかりを重視し、住民の被曝に対する不安や避難生活の実態を理解しようとしない国や行政を批判してきた井戸川氏にとって、内堀氏の安全アピールは見過ごせなかった。「復興よりも救済が先」と訴える井戸川氏は、県民が受けている苦悩を全力で解消し、被曝の基準についても、行政が押し付けるものではなく、県民の間で話し合い決めていく、県民による行政を目指したいと訴えた。
また、討論会の冒頭では、「原発を共生したのは、大きな間違いだった。こんな辛い思いをさせる原因を作った者として、この場を借りてお詫びしたい。申し訳ありませんで」と謝罪する井戸川氏の姿があった。
他方、熊坂氏は、子ども被災者支援法に言及し、内堀氏の見解を聞いた。内堀氏は、「福島の子どもたちについて、真剣に考えてもらった大事な法律。しかし、具体的な施策や財源措置がまだ明確ではない」と話し、本当の意味で子どもたちの役に立つ支援法にするため、県として努力すべきだと答えた。
「なぜ、復興が進まないのか。何とかしたいと思い、立候補を決めた」
福島市出身の熊坂氏だが、妻の故郷、宮城県宮古市で市長を12年間務めた。また、医師という立場から、「命」を守るため、震災を機に「よりそいホットライン」を開設。福島、岩手、宮城の被災者支援を中心に、心のケアを続けてきた。熊坂氏は、そうした実績をいかし、「福島の子どものため、福島の誇りを取り戻すため、残りの人生をかけてふるさとを何とかしたい」と訴えている。
全候補者、県内の原発「即廃炉」、中間貯蔵施設や最終処分場問題は歯切れ悪く
討論会では、原発をめぐる6つの質問が「○×」方式で出されたほか、自由討論を交えながら、各候補者が「産業振興」「少子高齢化」について、政策をアピールした。「県内の原発は即廃炉か」という問いでは、6人全員が「○」をあげたが、中間貯蔵施設の受け入れ容認や除染、放射性廃棄物の最終処分場の県外移設については、「○」と「×」を同時にあげる候補者も多く、福島県が抱える問題の困難さが垣間みれた。
福島原発事故直後から、県知事選の立候補を決意していたという五十嵐氏は、スマトラ沖地震や新潟県中越地震でも、復興支援の活動に携わってきた。「大きな予算を福島に投げることで黙らせるという政治はだめ。県民、国民が主体になる政治モデルを目指したい」と五十嵐氏はアピール。「子育て世代にバトンを渡して欲しい」と、年齢の若さも強調した。
その他、再生可能エネルギー産業やロボット産業の推進、原発事故をめぐる国と東電の責任や補償、放射能対策の見直しなどについて、候補者の間で意見が交わされた。
有権者は誰に福島の将来を託すのか。10月9日(木)、7人の候補者による論戦がスタートする。