ウクライナ危機、イスラム国、TPP…アメリカ帝国主義の世界戦略を読み解く~ 岩上安身によるインタビュー 第503回 ゲスト 『日本に巣喰う4つの“怪物”』著者 カレル・ヴァン・ウォルフレン氏 2014.12.18

記事公開日:2015.1.21取材地: テキスト動画独自
このエントリーをはてなブックマークに追加

(佐々木隼也)

特集 TPP問題|特集 IWJが追う ウクライナ危機

※テキストを追加しました!

 ウクライナにおけるネオナチ勢力のクーデター、サウジアラビアの原油増産によるルーブル通貨の下落、マレーシア航空機撃墜事件——。今、ロシアをめぐる緊張が高まり続けている。

 米国や日本の権力構造を鋭く分析し、昨年末に『日本に巣喰う4つの“怪物”』 を上梓した ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏は、「すべては意図的に、ロシアやロシア経済を弱体化させようとする米国のキャンペーンに関わっている」と喝破する。

 2014年12月18日に、岩上安身のインタビューに応えたウォルフレン氏は、「ウクライナの危機もアメリカによって引き起こされた。ヨーロッパの多くの人々、日本の人々はこれを理解していない。ネオナチがウクライナにいる」と厳しい口調で指摘した。そして、「すべては米国の経済的帝国主義だ」と断言した。

 米国は、サイバースペースや宇宙、陸、海、空のそのすべてを米国がコントロールする「フル・スペクトラム・ドミナンス(完全支配)」を目指しており、ウクライナ危機も、安倍政権の集団的自衛権行使容認も、その一部なのだと言う。

 ウォルフレン氏は「おそらく、非常に多くの死をもたらし、多くの戦争をして、多くの恐怖を引き起こす」としながらも、「それでもフル・スペクトラム・ドミナンスは実現しない。不可能だ。それは戦略というものではなく、空想だ」と語った。

 しかし、現在の日本はその「空想」に付き合わされ、戦争という泥沼の悲劇に引きずり込まれようとしている。そんななか、ロシアや中国、イランは米国に抗っている。ドイツも、今回のウクライナ危機をめぐり、「プーチン=悪」という米欧が仕掛ける単純なプロパガンダに与することなく、「第3次世界大戦」の幕が切って落とされないよう、米国によるウクライナ軍への武器供与を封じつつ独自外交を進めている。

 折しも、2015年3月9日、10日にはメルケル首相が訪日。安倍総理と会談し、両国はウクライナ問題で「積極的な役割を果たしていく」ことで合意した。米国の圧力に屈し、ロシアへの対立姿勢に舵をきりつつある安倍政権だが、この機会にドイツと協調して対ロシア独自外交を見出すことができるか、岐路に立たされている。

 ウクライナ危機はもう、「対岸の火事」ではなくなった。

 ウォルフレン氏はインタビューで、「ヨーロッパ人は大西洋の向こう側を見るのをやめて、ユーラシア大陸を見るべきだ。日本人も太平洋の向こう側を見るのをやめて、反対を見て、お互いに近寄るべきだ」と指摘した。

記事目次

■イントロ

  • 日時 2014年12月18日(木) 11:00~

※以下、インタビューの実況ツイートをリライトし、掲載します。

石油価格の下落は市場要因ではない。政治的な結果だ

岩上「衆議院選が日曜日(2015年12月14日)に行われ、その翌日、東証の株価が下落しました。日本の株価下落は、アメリカの株価下落に引きずられたものです。そのアメリカの下落価格は、石油価格が暴落しているためです。さらに、ロシアのルーブルが叩き売られる状態になっています。今、世界では何が起こっているのでしょうか。もしかしたら金融恐慌が起きるのではないかとも言われています」

ウォルフレン氏「石油の価格はその一部ですし、また、金融業界で起こっている諸々のことも同じです。複雑なのでほとんどの人はついていけません。今起こっていることには全くついていっていません。ですが、それに気がつくことは非常に重要です」

岩上「2009年、北海ブレンド原油先物相場は価格が安かったのですが、これはリーマン・ショックの影響です。景気が回復してから以降は、1バレルあたり100ドル~120ドルで落ち着いていました。ところが、今年11月終わりに、70ドルまで下落しました。60ドルを切ると、サウジアラビアでさえ採算が悪くなると言われています。これが、今起こっていることです。結果、ルーブルが暴落しました。対ドル相場は、フリーフォールのように落ちています。これは通常の経済活動で起こっていることだとは思えません。ウォルフレンさんは政治的な出来事だとおっしゃっています。これが、政治的な結果だとおっしゃった意味をおしえていただけますか?」

ウォルフレン氏「これが市場要因の結果ではないことに気がつくことは非常に重要です。それはナンセンスです。これらすべては意図的に、ロシアやロシア経済を弱体化させようとするアメリカのキャンペーンに関わっています。ロシアでプーチンの破滅の状況を作り出すためです。いくつかの理由から、アメリカはプーチンを排除したいのです。ウクライナの危機もアメリカによって引き起こされました。ヨーロッパの多くの人々、日本の人々はこれを理解していません。十分な背景知識もありません。ですが、これは一部なのです

 覚えておかなければならない重要なことは、ロシア国内で、プーチンの友達やプーチン自身が、ネオリベラリズムの経済原則に対して多くのコミットメントをし過ぎてきたことです。理解されていないことは、ネオリベラリズムは、日本の安倍政権も実践していますが、アメリカのヘゲモニーの状況を作り出すということです。重要ですが、それはアメリカの経済的帝国主義です。

 私はEUの観点からこれを研究しましたが、2年前に出した結論は、今明らかになっています。中国人は何が起きうるのかを理解していたので賢く振るまい、中国の通貨を兌換できないようにしました。ロシアでは、プーチン、そしてエリツィンも、市場要因と呼ばれるものに屈してきました。大西洋の資本主義はロシアにひどい影響を与えました。プーチンが理解しなければいけないことは、生き延びたいなら、このことから自由になることです」

米国支配に抗うロシアと中国は孤立する

岩上「石油価格の下落によって、ロシアが大きなダメージを受けています。そのきっかけを作ったのはサウジアラビアやカタールといった産油国です。彼らは価格が下がっていても増産を続けています。これと同じことがかつてもありました。1980年代後半です。ソ連が崩壊に向かっているとき、サウジはアメリカの依頼によって、石油の増産を行い、石油や天然ガスの輸出によって経済を成り立たせていたソ連を弱体化させ、それによってソ連は崩壊へ」

ウォルフレン氏「思い出さなければならないのは、ソ連はそれまでと同じ原理では存在できなくなったことで、それは、ゴルバチョフが共産主義の根本的なイデオロギーを支配システムから取り除いたからです。だから多くの要因がありました」

岩上「今のアメリカのモチベーションというのは、どういうものだとお考えでしょうか?」

ウォルフレン氏「今日のアメリカの状況は非常におかしなものです。アメリカに、戦略、戦略という名に値するものを作り出すための中心的なコアがありません。アメリカの力のある分子がそれぞれに存在しており、効果的な政治的コントロールを受けていません。もちろんアメリカ大統領でさえもこの状況をコントロールできていません。議会もこれをコントロールできていません。ネオコンがジョージ・W・ブッシュのときよりも強くなっています。多くの人がこれを知りませんが。ホワイトハウスのRTP(Responsibility to Protect )と呼ばれる一派も強くなっています。ビジネス業界、金融業界もです。

 今、こうした様々な要素が、ロシアを殺そうという考え、プーチンを排除しようとする考えに合致しているのです。彼らはプロパガンダ・キャンペーンを始めましたが、信じられないことに効果を出しています。

 さらにつけ加えなければいけないことは、これら全てのことが、アメリカ軍が随分前に『フル・スペクトラム・ドミナンス』という呼び始めたものの観点から考えられうるということです。これは、世界全体を支配しなければならないということを意味しています。ロシア、中国は、日本やヨーロッパの国々ようにアメリカ支配に従おうとはしていません。だから、ロシアと中国は孤立して結びつきます。この二国は世界の貿易システムに入ろうとするあらゆる努力をしていますが、妨害されています。明らかに分かることは、ロシアとドイツが経済関係を発展させようとしましたが、それもアメリカ政府によって妨害されているということです。

 悲しいことで、悲劇的なことです。これは世界にとってよいことではありません。アメリカを含め、みんなにとって悪いことです。アメリカは、10年以上も、アメリカの利益に反する多くのことをしています」

米国の『フル・スペクトラム・ドミナンス』は空想だ

(…サポート会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

サポート会員 新規会員登録単品購入 550円 (会員以外)単品購入 55円 (一般会員) (一般会員の方は、ページ内「単品購入 55円」をもう一度クリック)

関連記事

「ウクライナ危機、イスラム国、TPP…アメリカ帝国主義の世界戦略を読み解く~ 岩上安身によるインタビュー 第503回 ゲスト 『日本に巣喰う4つの“怪物”』著者 カレル・ヴァン・ウォルフレン氏」への2件のフィードバック

  1. 9条改正はできたでしょうか より:

    ウォルフレンさんのお話を伺いました。おおむね、その論旨は理解したつもりです。ただし、ウォルフレンさんのいう、日本社会党が憲法改正に反対したため、現在の憲法改正の動きがある、というご持論には賛成しかねます。日本社会党には、冷戦時日本を社会主義国家にする勢力がありましたし、自民党の保守本流は、青嵐会など当時の非主流派を抑えるのに精一杯だったと記憶しています。日本共産党は、旧ソ連への接近を歓迎していません。鈴木宗男さんへの容赦ない批判がありました。憲法を改正して、自主独立し、文化革命後の現在の中国、冷戦以後の現在のロシアと友好関係をもてたのに、ということと思いますが、それは、はなはだ失礼ですが、事後的な日本への攻撃性をひめた、ウォルフレンさんの「空想」といわざるをえません。

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    ウクライナ危機、イスラム国、TPP…アメリカ帝国主義の世界戦略を読み解く~岩上安身による『日本に巣喰う4つの“怪物”』著者 K・V・ウォルフレン氏インタビュー http://iwj.co.jp/wj/open/archives/214711 … @iwakamiyasumi
    『仕方がない』を捨てることから自由は始まる。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/580342060395311107

9条改正はできたでしょうか にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です