環太平洋経済連携協定(TPP)の首脳会合が11月10日、北京で開かれ、具体的な合意時期は示されなかったものの、「終局が明確になりつつある」などとした首脳声明が出されたと報じられた。
オーストラリアで10月25日から27日まで開かれていた閣僚会合では、TPPを慎重に考える会会長の篠原孝衆議院議員と、TPP阻止国民会議事務局長の首藤信彦前衆議院議員がシドニーに出張、政府説明会に参加した。11月6日に開かれた報告会では、現地のTPP交渉状況やオーストラリアの国会議員との意見交換などについて、両氏から報告があった。
当初、9月25日に行われた甘利明TPP担当相とフロマン米通商代表部(USTR)代表との閣僚協議では、話がまとまらずに終了したが、今回のオーストラリアでの閣僚会合では、日米の農産物関税をめぐる協議が一気に進展するのではないかと懸念されていた。
閣僚会合後、主催国のオーストラリアは「重大な成果」を強調したが、現地を訪れた篠原氏と首藤氏は、「全く成果がなかった」「内容ゼロだ」と、実際の主要メディアの報道とは異なる現実を報告した。
- シドニーTPP閣僚会合出張報告 篠原孝議員(TPPを慎重に考える会会長)、首藤信彦前議員(TPP阻止国民会議事務局長)
日時 11月6日(木) 17:00~ 場所 衆議院第一議員会館(東京都千代田区)
首藤氏、閣僚会合は「全く成果がなかった」
首藤氏は、今回の閣僚会合を総括して、「声明では重要な成果と謳っているが、全く成果がなかった。(米国の)中間選挙前に無理矢理会合を開いたものだ」と評価した。
「オバマ大統領による年内の協定案合意目標に対して、大筋合意も無理となった。それならば合意の道筋を立てることを目標とするが、それも無理。ならばいくつかの基本的要素の合意を目指すも、そこにもたどり着くことができなかった」
参加予定国は「学級崩壊状態」
今回の閣僚会議では、TPP参加予定国の内、「ベトナムとブルネイは欠席し、ペルーは早退した」と首藤氏は報告。参加予定国の足並みの乱れを指摘した。また、第二次国連報告によると、マレーシアはTPP参加により毎年50億リンギット(約1717億円)の損失があると首藤氏は説明。これを受けて、マレーシアは損失の見返りを求める動きに出ているという。首藤氏はこのような状況を「学級崩壊」と表現して報告した。
協定案は「先祖帰りしている」
TPP交渉の現状を、首藤氏は、「当初の野心的な単一理論から果てしない二国間交渉」となってきていると見る。
「各国の関心が、IT・サービスから今では関税・原産地に移ってきている。どんどん19世紀の貿易摩擦問題になってきている」
首藤氏はこう語り、協定案が「先祖帰りしている」と表現した。
フロマンUSTR代表「安倍首相が煮え切らないので進まない」
日米間の交渉について、首藤氏は、甘利明TPP担当相と「フロマンUSTR代表の仲が険悪だ」との見方を示した。
「フロマンはフィナンシャル・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、フォーリン・アフェアーズに署名記事を寄稿し、その中で、『安倍首相が煮え切らないので進まない』と書いている。交渉の最中に相手側責任者にこのようなことを言うのは、見たことがない」
首藤氏は、TPP交渉で米国側が日本に対して苛立ちを覚えていると指摘した。
米国議会によるTPA法案(通商優先事項法、Trade Priority Act)の危険性
米国議会でTPP交渉において提出されたTPA法案について、首藤氏は、1. 通貨操作の禁止、2. バイアメリカン法等の国内法規制問題、3. Certification(承認事項)の3つの問題点を指摘し、これらTPA法案の内容が、「TPPに反映された場合、我が国への影響は重大だ」と語る。
まず、通貨操作禁止の問題点として、首藤氏は次のように説明した。
「この法案において、通貨操作は次のように定義されている。円安で日本からの輸出が増えれば、外国為替市場では円高の方向となり、輸出が減少するはずだ。輸出が増加しても円高とならないのは、政府が外貨準備に回しているからである、というものだ。これはとんでもないことだ」
首藤氏は、通貨操作の有無が単に外貨準備高で判断されることを問題視し、それによって日本がTPPにおける米国の制裁対象となる危険性を指摘した。
2つ目として、米国内法規制問題を指摘する。
「TPPが、バイアメリカン法を含む米国市場を制限する国内法・制度に抵触しないという要求だ。これにより、日本がTPPに参加する最大のメリットとされた、米国市場の解放が実現できないことを意味する」
3つ目のCertificationは、「他国の司法を米国議会・司法省が決定する」ということだと首藤氏は語る。
Certificationとは何か。首藤氏はこれを次のように解説する。
「TPPが本当に機能しているか米議会が承認を与えることで、米議会が認めなければ、参加各国にTPPの特権を付与しないというもの。
これはすでに南米諸国とは行われていて、南米諸国は米国司法省に了解を得られない場合、自国の法規制を改正しなければならない。これは本当に驚くべきことだ」
首藤氏は、米国政府がTPA法案で求めているこの3つの問題について、日本政府に質問状を送付したところ、「検討していることを認めた」と語った。
「(閣僚会合)声明は味も素っ気もない、内容ゼロだ」
次に篠原氏による報告が行われ、参加した政府説明会について、「非常にむなしい会議」だったと評した。閣僚会合については、「声明は味も素っ気もない。内容ゼロだ。情報が全く開示されず、何が進んで、何が問題なのか分からなかった」と語り、政府の情報開示姿勢を批判した。
「TPPは漂流に一歩近づいた」
篠原氏は、米国中間選挙の結果、TPPの進捗は難しくなったと見ている。