7月8日に開始されたイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃は、8月26日にハマスとイスラエルが長期停戦に合意したことで、停止された。同時に、ガザに関する報道も潮が引いたかのように静まり返っている。
早尾貴紀・東京経済大学准教授は、こうしたパレスチナをめぐる状況に「ガザが攻撃を受けて悲惨な状況になっていることだけが注目されるのでは、問題解決にはならない」と訴える。
「緊急学術講演会『いまここ』からガザ攻撃を考える」が、9月6日早稲田大学文学学術院草柳研究室・堀真悟氏の主催で開催され、早尾氏が講演した。早尾氏は、戦闘が休止してもガザでは日常的な占領状態が継続することに対し、「批判的な言説を紡ぎ、問題の認識を深めていく必要性がある」と問題提起した。
8月13日には、岩上安身が早尾氏にインタビューを行っている。
早尾氏は、「ガザへの周期的な攻撃は、入植が着々と行われている西岸、あるいはパレスチナ全土に対するイスラエルの周到な占領政策として、つまり占領を都合よく容易に進めるための駒として、ガザは利用されている」と厳しい見解を示した。
- 講演 早尾貴紀氏(東京経済大学)「ガザ攻撃の『いま』」
- 第2部トークセッションは録画に含まれません。
- 日時 2014年9月6日(土)
- 場所 早稲田大学戸山キャンパス(東京都新宿区)
問題の根源にある「オスロ合意」
イスラエルがハマスを認めないのは、ハマスが1993年にパレスチナとイスラエル間で締結されたオスロ合意を否定しているからだと、早尾氏は説明する。それでは、なぜハマスはオスロ合意を拒否するのか。
早尾氏によれば、オスロ合意とは、イスラエルが100%以上のものを得る一方で、パレスチナ側にはマイナスとなる、イスラエルによる「別の形の巧妙な占領政策」といえる協定なのだという。パレスチナ側には陸海空の管理権もなく、イスラエルによる入植地の凍結も決められていない。
実際に、1947年の領土に関する国連分割案(パレスチナ分割決議)がイスラエル:パレスチナで55:45だったのに対し、1948年のイスラエル建国では、77:23になり、オスロ合意後の現在に至っては、約9:1になっていることから、イスラエルによる領土拡張が事実上進行していることがわかる。
ハマスがオスロ合意を認めたら、「入植も認めた」ということになるだろうと、早尾氏は解説する。今回のガザとの戦闘の真っ只中でも入植を進めたという、イスラエルの向かう先を想像するのは、それほど難しいことではない。
公正な選挙で選ばれたハマスを認めない国際社会
オスロ合意後のパレスチナに対し、日本を含めた国際社会が全面的な支援を行った結果、自治政府の周囲には支援金という潤沢な資金が入り、一部では成金も生まれたという。反面、基幹産業も育たず、イスラエルへの依存を高めていく中、パレスチナは自立から遠のいていった。
その状況下で、パレスチナ自治政府の中核を占めていたファタハに対抗するハマスが出てきたと、早尾氏は解説。一般に、アメリカやヨーロッパで共通に喧伝される「ハマス」とは、「ガザを武力で実効支配するイスラム原理主義組織」である。日本の大手メディアの報道もそれに倣って、ハマスの形容には常にそれらの文言が並ぶ。
しかし実際には、2006年の自治政府議会選挙でガザ・西岸ともに、全面勝利したのがハマスである。ハマスは、国際社会が送り込んだ選挙監視団が注視する中、選挙前に圧倒的だった与党のファタハを退けた。「いかに公正な選挙だったか」と早尾氏は振り返る。
ハマスを支持した人は、元々イスラム教徒だったのではなく、これまで支持していたファタハへ批判票を入れたのだと、早尾氏は説明する。ファタハが妥協の結果として締結した、オスロ合意への反対をハマスが訴えたからだ。
パレスチナの民意で選ばれたハマスを、国際社会は認めず、経済制裁を行ったことについて、早尾氏は「日本政府も加担していることを強調したい」と鋭く指摘した。
ハマスの目指す「独立国家」を認めることができないイスラエル