第二次安倍改造内閣が発足した9月3日、夜11時過ぎから、経済産業省では小渕優子新経済産業大臣の就任記者会見が行われた。
「女性が輝く社会の実現」を目指す安倍総理は、今回、5人の女性議員を抜擢し、内閣入りさせたが、経済産業大臣、総務大臣、防災担当大臣については、歴代初の女性閣僚が誕生した。
緊張した面持ちで会見をスタートした小渕大臣は、冒頭の挨拶で、安倍総理から次の優先課題に注力するよう指示があったと報告。それらは、福島原発事故対応と福島の再生、デフレからの脱却、責任の持てるエネルギー戦略の確立、の3点だ。大臣は、「原子力事故への対応、被災地の復興にまず取り組んで行くとともに、全国の国民一人ひとりが景気の回復を実感できるよう、経済の好循環を全国的に拡げていけるよう尽力したい」と述べた。
記者からの質問は、原発を中心に、今後のエネルギー政策に集中した。これまで「ニッポンを元気にする国民運動」の本部長として全国各地を回ってきたという小渕大臣は、その経験を活かし、「コミュニケーション」を大事にしたいと話す。再稼動については立地自治体との丁寧なコミュニケーションを図り、脱原発の国民世論に対しては、不安な声から逃げずに、「真っ正面から答えていきたい」と述べた。
しかし、小渕大臣が会見中、2度も「安全」という言葉を用いて、原子力規制委員会による規制基準の適合性審査に言及したことは指摘しておきたい。
規制委の田中委員長はこれまで、「新基準への適合はみているが、安全とは私は申し上げない」と述べており、政治家が「安全」という言葉を使うと、原発はゼロリスクだという誤解を招きかねないとも指摘してきた。
一方、政府においては、「規制委の安全基準がすべて。政治判断はしない」と、安全性の確保を規制委に丸投げしている形で、責任の所在についての議論を回避したままだ。新たに経産相に就いた小渕大臣についても、政府の見解をそのまま追認していることが、就任会見の答弁で明らかになった。
以下、質疑応答の文字起こし。
(記者の質問は聞き取れないため、大臣の回答のみ抜粋)
Q. 九州電力・川内原発再稼動について、地元の理解をどう得ていくのか。
小渕大臣「川内原発については、許可基準に適合していると認めた審査書案を取りまとめて、30日間のパブコメを終了した段階にある。今後、原子力規制委員会によって安全性が確認されて、設置変更の許可が出た場合には、再稼働にむけて、立地自治体等の関係者の理解を得るために、国としてもしっかり説明をしていかなければならない。
鹿児島県知事をはじめとする、立地自治体の関係者のみなさんとしっかりコミュニケーションを取る中で、地元の要望をしっかりと聞いていくことが大事だと思っている。私が川内に行くかどうかは、地元とよく相談をしながら、今後について対応していきたい」
Q. エネルギーの「ベストミックス」について。
小渕大臣「それぞれ、エネルギーには特性がある。優れたエネルギー源、これ一つで大丈夫というのはない。安定供給、コスト、環境負荷、安全性を見ながら、現実的かつバランスの取れたエネルギー需給構造を作っていくことが大事。
4月にできたエネルギー基本計画を踏まえて、原発が全く稼働していない状況にある中、今後どのくらい再稼働できていくのか、また、再生可能エネルギーについても、何をどの程度、コストの面も含めて動員していけるのか、CO2をどう減らすかという問題もしっかりみながら、できるだけ早く作っていきたい。今の段階でその時期は具体的には申し上げられない」
Q. 原発の新増設について。
小渕大臣「今は既存の原発について、規制委の中で安全の確認が進められているところ。現段階において新増設に対して想定はしていない。エネルギー源の多様化、既存の原発の再稼働判断に集中していくことが大事だと考えている。
色々な不安が国民の間にあるのは承知している。そうした感情から決して逃げるのではなく、疑問や不安に対して真っ正面から答えていくことで、国民の理解や納得を得ていきたいし、不安を払拭する努力をしていきたい」
Q. エネルギー基本計画について。原発を重要なベースロードと位置付けながら、可能な限り原発の依存度を下げていくと言っているが、矛盾していないか。
小渕大臣「エネルギー基本計画において、安全性を確保することが大前提だが、その上で活用するベースロード電源ということで、原子力は位置付けられている。
今後、依存度は可能な限り減らしていくことが基本だが、そうは言ってもエネルギー源がなくなったら何も動かなくなるので、再生エネルギーをどうしていくのか、省エネがどれくらいできるのか、可能な限り減らしていくということ。いろいろな意見はあるだろうが、特に矛盾していることを申し上げているわけではない。
原発については、国民の中では、理解をしていただける部分もあるが、やはり、福島の事故を踏まえて、さまざま意見、不安の声も聞かれる。まずはそうした声、議論をしっかり聞いていくことだと思う」
Q. 地方経済の視察を多く重ねてこられたが、地方経済をどう見ているのか。アベノミクスについて、今後、経産省として、どう取り組んでいくのか。
小渕大臣「党の活動の中で、全国を回って意見をうかがってきたが、場所によって状況もかなり異なる。地域独特の課題を抱えている中で、きめ細やかな対応をしていかなければいけないのでは。
全般的、アベノミクスが地方に届いていないと言われるが、それだけとも言えない。地域の特色を活かしていく中で、新たな芽が広がっている場面も見てきた。そういうアイデアが全国的に広がっていけばいいと思う。
経産省としては仕事の観点を中心に、地方の活性化を進めていきたいと思っている。ベンチャーを育成していく、特色ある産業、企業を活性化させていく。地方はサービス業が7割を占める。農業、観光を活かした、地域独自のブランドを作っていくなど、色々なアイデアを出しながら検討していきたい。
本日、『まち、ひと、しごと創生対策本部(経産省)」が設置された。関係省庁と連携して、議論を進め、取り組みを進めていきたい」
Q. 第三弾の電気事業法について。
小渕大臣「次期通常国会での提出を目指している」
Q. 原発について。幅広い国民の声に耳を傾けるのは大変難しいことだと思うが、再稼動についてどういった気持ちで取り組んでいくのか。
小渕大臣「確かに、原発再稼働については、国民の中でさまざまな思いがあり、正直、不安だという声があるということは十分に承知している。
特に、私自身も子供を育てているが、例えば、女性からの直接的な声もうかがっている。そういう声をすべて聞くのは難しいが、今後、日本におけるエネルギー政策をどうしていくのかを含めて、原発に対する心配、不安をどのくらい払拭していけるのか。私としては、いろいろな声を聞き、逃げることなく説明させていただき、できる限り理解を得ていきたい。
川内原発については、知事や地元の関係者の中にも、いろいろな要望があるはず。まずはそれをうかがうことが、やるべきことだと思う。しっかりと地元関係者の声を聞き、対応していきたい」
Q. 将来的に、原発から撤退するという選択は非現実的だとお考えか。
小渕大臣「規制委において、変更の許可が認められたところにおいては、再稼動をしていく。エネルギー全体を考えれば、原発は可能な限り減らしていくということ。今の段階で、それがどこまで減らせるのか、トータル的なエネルギーミックスを考えなければいけない」
Q. 消費税10%引き上げの必要性について。法人実効税率を下げるペースについて。
小渕大臣「10%に上げることに関しては、然るべき時期に内閣において決定がなされる。その上で、10%に上げるかどうかは、その時の経済状況をしっかり見ていかなければいけない。
8%にした後、消費があれだけ落ち込んで、7月も厳しい数字が出てきていた。反動減がその後どうなっていくのか、しっかい見ていく。特に、この夏は天候不順で、災害が起きている。きめ細やかに、経済状況を見ていかなければいけない。
元々、消費税引き上げにあたっては、膨らんでくる社会保障関係費をどうするかということ、保険料では6割しか満たされていない部分を借金と税で埋めている。そう考えると、上げない場合、財源はどうするかという議論を同時にしていかなければいけない。
法人税を20%にしていくことについては、これは喫緊かつ重要な課題。国内外の投資の呼び込み、国内の競争力の強化、国際的な水準にしていくのは大事なこと。経産省としては、早期に法人税改革を実現することが必要だと考えているが、年末に議論がなされるので、そこに向けて議論を深めたい」
Q. 福島原発の廃炉と汚染水対策で重要な課題は何だと思うか。
「福島第一原発の廃炉と汚染水対策は、世界にも前例がないほどの困難な事業。東電に任せるということではなく、国として前面に立って解決への取り組みを進めていかなければいけないと考えている。
汚染水の問題については、汚染源に水を近づけない、汚染水を漏らさないという基本方針に沿って、関係省庁と一体でしっかり取組んでいきたいと考えている」