「この3年間、東電も政府の誰をも恨んだことはない。しかし、原発事故という問題に片をつけ、責任を取ってこそ大人のやることだ。その姿を子どもたちに見せるために闘ってきた」
7月31日、東京第五検察審査会は東京電力元会長の勝俣氏ら3人に対し、「起訴相当」という議決を出した。これを受け、8月8日、東京地検前では原告や支援者が集まりアピール行動が行われ、福島県郡山市から静岡県に家族で自主避難している長谷川克己さんがスピーチを行い、思いの丈をぶつけた。長谷川さんはこの3年間、全国の集会や抗議行動に参加してきた。国に対しても、被災当事者の切実な声を繰り返し届けてきた一人である。
「どれだけ声をあげても、無理なのではないかと思ったこともあった。しかし、市民の力で再び扉を開けることができた。司法が責任ある判断をして、子どもたちの未来を開いてください」
- 出席 武藤類子氏(福島原発告訴団団長)/佐藤和良氏(副団長)/海渡雄一氏(代理人弁護士)ほか
- 日時 2014年8月8日(金)12:00~
- 場所 東京地方検察庁前(東京・霞が関)/東京電力本店前(東京・内幸町)/司法記者クラブ(東京・霞が関)
- 主催 福島原発告訴団(詳細)
ようやく理解された被害の重み
福島原発事故から1年後の2012年3月、東電幹部らの法的責任を追求すべく、原発事故の被災者が原告となり「福島原発告訴団」が結成された。同年6月には東電の勝俣恒久前会長ら33人を告訴・告発。しかし、東京地検は全員を不起訴処分とした。2013年10月、これを不当だとした告訴団は、勝俣氏をはじめとする東電の役員ら6人を対象に、東京検察審査会に審査の申し立てを行った。
そして先月の31日、告訴団に朗報が届いた。検察審査会は勝俣恒久元会長、武藤栄、武黒一郎の両元副社長に「起訴相当」を、小森明生元常務については「不起訴不当」としたのである。原発事故が起きてから3年と4ヶ月、事故の責任と原因の追求がようやく、司法の場で問われる兆しが見えてきた。
「起訴相当」は世論の反映
東京地検前でのアピール終了後、告訴団の団長、武藤類子氏や弁護団の海渡雄一弁護士らは、東京地検の検察官と面談。上申書を提出し、検察審査会が突きつけた「起訴相当」「不起訴不当」という判断をもとに、徹底した再捜査と起訴を求めた。面談終了後、告訴団は司法記者クラブで記者会見を開き、約45分に及んだ面談の様子を報告した。
「検察審査会の委員、11人のうち8人が賛成しないと『起訴相当』という議決は出せない。今回の判断は、日本の世論を反映したもの。検察にはそれを受け止めて再捜査をし、被疑者を起訴して欲しいと伝えました」
武藤類子団長は、原発事故被災者を代表し、原告らの切実な想いを検事らに伝えた。他方、弁護団の海渡雄一弁護士は面談の中で、検察審査会の議決の中身について詳しく伝えたという。
「担当検事にも伝えたが、今回の議決には2点の特徴がある。1つは取り返しのつかない原発災害について、東京電力の役員には、高度の注意義務があることを認めたこと。また、東電幹部は大きな津波を予見していたにも関わらず、対策を先延ばししたと断罪したことだ」
検察の判断を変える余地が十分にあるという点が、検察審査会の議決によって明らかになったことを伝えると、主任検事は「検察審査会が出した議決書の中身を踏まえ、捜査する」と述べたという。
「元には戻らないが、希望を見いだせる」
会見に参加した佐藤和良・いわき市議会議員がIWJのインタビューに応じた。
「2011年3月の事故で放射能が大量にばらまかれ、自分の生業やふるさとを奪われ、人生が大きく狂った。検察審査会の今回の判断は、我々被害者が『自分』というものを再び取り戻す一歩になるのでは。元には戻らないが、これまで、誰も責任を取らなかったなかで、事故の責任、原因を追求していくという起訴という判断が出たことで、希望を見つけていきたい。都民である第五検察審査会が、良識ある判断をしたことで被害者は勇気づけられた」
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