「原子力発電所の稼働は、法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由に属するものであって、憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである」
「人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている」
関西電力大飯原発から250キロメートル圏内の住民166人が大飯原発3、4号機の差し止めを求めていた裁判で、5月21日、福井地方裁判所は2基の運転差し止めを命じる判決を言い渡した。前述した一節は、福井地裁が作成した判決要旨から抜粋したものである。
- 只野靖弁護士(大飯原発3・4号機運転差止請求事件弁護団、脱原発弁護団全国連絡会事務局長)他
- 日時 2014年5月21日(水)
- 場所 司法記者クラブ(東京都千代田区)
樋口裁判長の勇気を評価
「訴訟の進行過程から、100%勝訴判決を確信していた。予測通りの判決が出て嬉しい。現在、原子力規制委員会が原発の適合性を審査中だが、それとは無関係に、裁判所が原子炉の停止を命じたのは画期的。福井県の弁護団が中心になってがんばってきたが、全国の数百人レベルで連絡会を立ち上げ、この訴訟に全力を注ぎ込んだ」
判決結果を受けて、21日午後5時30分から、東京・司法記者クラブで弁護団による記者会見が開かれた。会見に出席した弁護士の一人、只野靖氏は冒頭、勝訴を勝ち取った思いをこのように述べた。
「こういう判決文を書くには勇気がいるだろう。裁判所の原発事故の捉え方が色濃く出ている」と、樋口英明裁判長を高く評価した只野弁護士は、判決要旨を読み上げながら、その内容を簡潔に説明した。
判決の要点
今回の裁判で最大の焦点になったのは、耐震設計の基準となる原子炉の「基準地震動」と、地震が起きた場合に充分な安全対策が取られているかどうか。樋口裁判長は判決文の中で、3段階に分けて、関電の冷却機能の維持の欠陥を指摘している。
1)1260ガルを超える地震について
関電は1260ガルを超える地震では冷却システムが崩壊し、メルトダウンに結びつくことを、旧保安院のストレステストにおいて自認してきた。福井地裁は、4022ガルを観測した2008年の岩手宮城内陸地震を一つの論拠に、メルトダウンに至る「1260ガル超えの地震が到来する危険はある」とした。
事故の原因が未だ不明
2)700ガルを超えるが1260ガルに至らない地震について
関電は3、4号機の基準地震動である700ガルを超える地震に襲われたとしても、「イベントツリー」と呼ばれる分析手法にのっとって対策を講じれば、炉心損傷には至らず、大事故に発展することはないと主張した。しかし、福井地裁はこれについても厳しく追求している。
「事故の原因について、国会事故調査委員会は、地震がいかなる箇所にどのような損傷をもたらし、それがいかなる事象をもたらしたかの確定には至っていない」と2011年の福島原発事故について言及し、イベントツリーの前提となる「事象の把握」自体が困難であると指摘。また、緊急時にやむを得ずとる措置というものは、普段の訓練や試運転では安全性を確保しきれない、例えば、空冷式非常用発電装置だけで原子炉を冷却できるかどうかについて、危険すぎて事前にテストできようはずがないと断じている。
理解に苦しむリスク対策