「日本政府や福島県立医大は、証拠を残さない。あとから健康被害が出たとしても、原発事故との因果関係がわからないようにする。これが日本の医療政策だ。福島県の県民健康調査も非常に意図的で、国際的なデータと比較できないようにしている」と高松勇医師は語った。
続いて講演をした守田氏は、「ベラルーシの街の印象は、生活感がなく、若い人たちも街も美しすぎて、実像が見えてこないこと」と話し、「京都のデモの写真が、とても気に入られた。世界の人々は、福島の原発事故を経験した日本人はこれからどうするのか、とても心配していた。また、日本の脱原発デモの情報は、世界には報道されていないようだ」と話した。
2014年5月11日、京都市中京区のハートピア京都で「ドイツ国際会議『原発事故がもたらす自然界と人体への影響について』報告講演会」が行われた。3月にドイツ・フランクフルト近郊で核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)ドイツ支部などの主催により行われた国際会議の模様を、会議に出席した小児科医の高松勇氏、ジャーナリストの豊田護氏と守田敏也氏、事故被災当事者の萩原ゆきみ氏が報告した。
- 高松勇氏(小児科医、医療問題研究会)「ドイツ国際会議の意義について」
- 豊田護氏(週刊MDS記者)「世界が見つめるフクシマ」
- 守田敏也氏(ジャーナリスト)「ベラルーシ・ドイツ・トルコで学んだもの-チェルノブイリ支援の社会的背景とトルコ反原発運動のいま-」
- 萩原ゆきみ氏(原発賠償京都訴訟原告)「ドイツで被災当事者として訴えて」
世界に向け、甲状腺がんの異常多発を発信
主催者の避難者こども健康相談会きょうとのスタッフが挨拶し、同会の活動の要旨を語ったのち、高松勇氏が「ドイツ国際会議の意義について」と題して講演を行った。
高松氏は福島について、「日本政府は『100ミリシーベルトまでは安全』と言って、20ミリシーベルト以下の場所へさかんに帰還を促すが、世界では、低線量被曝の危険性は常識になっている」と述べて、ベラルーシとドイツ訪問の印象を話した。
そして、今回の旅の成果として、「甲状腺がんの異常多発を、世界に向け発信することができたこと。ヨーロッパで低線量被曝の危険を主張するいろいろな団体、医師、科学者と連携を深められたこと。被曝地域の新生児の死亡率、死産率をチェルノブイリ事故をもとに研究したドイツの医師グループと協力し、福島での公表データを用いて健康被害を分析できるようになったこと」を挙げた。
30倍も発生比率が高い甲状腺がん
高松氏は「現在、1000万人以上が住む関東・東北地域は、法律が定める4万ベクレル/平方メートルの放射線管理区域と同じになっている。チェルノブイリ事故では、同じような汚染区域で死亡率が3%上がっている」と述べ、福島県の県民健康調査の2013年度までで、小児甲状腺がん74例が確認されたことに言及。「国立がんセンターでは、1975年から2008年の間に、小児甲状腺がんの15~19歳の年間発生率は10万人に0.5人。15~24歳の年間発生率は10万人に1.1人だ」と例を挙げ、福島の中通りでは、その30倍、郡山市では20倍も発生比率が高いことを指摘した。
「チェルノブイリの検診発見率と比較して、福島での甲状腺がん発生率は全国平均より高く、被曝量に比例し、アウトブレイク(特定の区域での集中的な疾病の発症)をまったく否定できない」。
また、かつて長崎大学の山下俊一教授(当時)らが、チェルノブイリの非汚染区域で行なったスクリーニングで、甲状腺がんが発見できなかったことに触れて、「福島での甲状腺がん数が、スクリーニングの結果という主張は否定される。低線量被曝の危険性や、実効線量と甲状腺がんの因果関係は明らかなことだ」と訴えた。
最後に、ドイツ国際会議での発表のひとつ、チェルノブイリの白血病効果についても触れ、「福島の事実が、世界の原発推進政策へ楔を打ち込むことになる、と大きな期待が寄せられた」と述べて、講演を終えた。
原子力マフィアは嘘をつく
次に、豊田護氏が登壇。まず、ベラルーシとドイツの訪問地や会議の様子、ドルトムンドでの欧州アクション・ウィーク、代替えエネルギー発電会社「juwi」訪問、地方都市での脱原発集会などのスライドを映して説明した。
「広島、長崎から始まった核被害は、その後、核実験、劣化ウラン弾、スリーマイル、チェルノブイリ事故と続いたが、温暖化によるCO2削減の流れもあり、福島原発事故までは『原子力ルネッサンス』だった。しかし、この流れも大きく変わった」と述べた豊田氏は、最近の『美味しんぼ』の鼻血問題に言及し、「人類と放射能は共存できない。だが、原子力マフィアは嘘をつく、隠ぺいする、居直る」と訴えた。
2つの顔を持つベラルーシ