「国は、福島の子どもしか甲状腺を調べないが、ヨウ素被曝は福島だけじゃない」 〜守田敏也氏講演会 2014.4.20

記事公開日:2014.4.20取材地: 動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「今、福島の中学生の間では『放射能を怖がるのはかっこ悪い』とまで言われている」──。そう語る守田氏は、福島の小学生がマスクを付けて運動会をしている写真(2011年撮影)を見せて、「この時、まさに被曝している。子どもの虐待写真として歴史に残る」と現状を憂いた。

 2014年4月20日、岡山県瀬戸内市のゆめトピア長船で、「チェルノブイリ・福島の現状を伝える 子どもたちのいのちを守るために今、私たちにできること」が行われ、ジャーナリストの守田敏也氏が講演した。守田氏は、2012年3月に矢ヶ﨑克馬氏(物理学者)とともに『内部被曝』を上梓するなど、原発事故後の健康被害の問題を追求している。

 この講演では、福島原発事故とは何だったのかを振り返り、続いて、チェルノブイリ原発事故後のベラルーシ、ドイツ、トルコの状況報告、最後に、子どもたちの命を守るという視点から食の安全について語り、「何を食べてはいけないのか」を具体例を挙げて説明した。

 守田氏は、福島原発事故後の状況について、「安倍総理や政府関係者は、自分で自分を騙している。こんな状態でオリンピックができるわけがない。その資金は復興、復旧に回すべき。嘘をついても現実は変わらない」と厳しく指摘した。

■全編動画
・1/3(13:32~ 1時間24分)第1部

・2/3(15:06~ 51分間)第2部

・3/3(15:56~ 13分間)

  • 講演 守田敏也氏(ジャーナリスト)
  • 日時 2014年4月20日(日)13:30~16:00
  • 場所 ゆめトピア長船(岡山県瀬戸内市)
  • 主催 せとうち交流プロジェクト

「原子力非常事態宣言」が出ているのにオリンピック?

 主催者の開会あいさつの後、守田氏が登壇した。まず、群馬大学の早川由紀夫教授(火山学)が作成した、福島原発の放射能汚染シミュレーションを見せながら、原発事故後、高濃度の放射性プルームが二本松市、郡山市、那須塩原などを通った山側ルートと、いわき市から千葉県柏市へ海岸線を流れた海側ルートの2つを説明。「この時、雨で放射性物質が降下した柏市、松戸市、取手市は、特に汚染濃度が高い」と警鐘を鳴らした。

 守田氏は、過去2年間、福島へ向かう新幹線の中で毎回ガイガーカウンターで測定していたと言い、「宇都宮を過ぎると空間線量が毎時0.7〜0.8マイクロシーベルトになる。法律では毎時0.6マイクロシーベルト以上は放射線管理区域にあたり、飲食、寝ること、治療以外での18歳未満の立ち入りを禁じている。しかし、新幹線の車中ではお弁当を売り、赤ちゃん連れが乗っている。日本の法律はグチャグチャ。なぜかと言えば、現在でも原子力非常事態宣言が適用されているから。これで、オリンピックができるのだろうか」と疑問を呈した。

 続けて、2011年に撮影された、福島の小学校の運動会の写真を見せて、「校庭の除染が間に合わなかったので、子どもたちにマスクをさせて運動会を強行した。砂の舞い上がる校庭で、子どもが被曝している瞬間だ。子どもの虐待写真として歴史に残る。これを止められないことに胸が痛む」と現状を憂いた。

「甲状腺がんは治りやすい」は嘘

 「2013年3月までに、原発事故関連死は1300人以上になる。これらの人々は、原発事故がなければ死ぬことはなかった。東電は1300人を殺していながら、誰も逮捕されない」。

 このように語る守田氏は、福島の子どもの甲状腺がんの増加について、「約25.4万人中、これまでに33人が甲状腺がんと確定、41人が濃厚な疑い、となっている。ただ、二次検査を終えた人は、まだ6割程度。小児甲状腺がんは、これまでは100万人に1人の発症率だったが、今すでに、福島では100万人あたり420人の発症率になっている。しかし、政府は原発事故との関連を否定している」と語った。

 さらに、「国は、福島の子どもしか調べないが、ヨウ素被曝は福島だけじゃない。東京でも、子どもの甲状腺がんは発症しているはず。調べないだけだ」と述べ、「政府が『甲状腺がんは治りやすい』と言うのは嘘だ。死亡率が低いというだけ。だが、甲状腺を摘出すると、生涯にわたってホルモン剤を飲み続けなくてはいけない。一生リスクを負うのだ。特に、女性の場合は妊娠出産に高いリスクがある。生涯、治らない病気なのだ」と強調した。

アゴ、奥歯が痛くなったら心筋梗塞の予兆

 続いて、心臓疾患による突然死の増加も指摘した。特に芸能人の心筋梗塞が目立ち、週刊誌が特集を組むほどだと言い、セシウムは心筋に入り込むことを指摘した。「福島市大原総合病院での、心不全、狭心症のデータを見ると、発災前に較べて、2012年は半年間だけで、前年とほぼ同数近い。あきらかに増加している。今、それらのデータの公表は禁止された」。

 守田氏は、心臓を守るための知恵として、「アゴや奥歯が痛い、しびれる。左肩が上がらなくなる。左腕がしびれる、背中が痛いなどは、隠れた心筋梗塞の予兆かもしれないので、心臓検診を受けたほうがいい。今、日本中で心臓死のリスクは高まっているのだから」とアドバイスした。

4号機倒壊で170キロ圏内3000万人が強制移住に

 テーマは福島原発の現状に移り、守田氏は「1、2、3号機はメルトダウンしている。線量が高すぎて近づけないので、何が起こっているのか、わかっていない。4号機については、30年以上は冷やし続けなければならない。4号機倒壊のシミュレーションでは、170キロ圏内の3000万人が強制移住となる。1~3号機にも使用済み核燃料は多く保管されているので、いまだに危機は終わっていない。だから、関東東北では、広域避難訓練を絶対にするべきだ」と力を込め、このように続けた。

 「この危機的状況を一番わかっているのは、原発作業員たち。安倍首相の『原発は完全にコントロールされている』という大嘘で、一番傷ついたのは原発作業員たちだ。放射能の泥沼で被曝労働をしていることが、国民に伝わらないからだ」と憤った。

 そして、「安倍首相や政府関係者は、こういう現実を見ることができない。自分で自分を騙している。オリンピックなど、できるわけがない。その資金は復興、復旧に回すべきだ。世界のアスリートたちを、こんなところに呼んではいけない。嘘をついても、現実は変わらないのだ」と力説した。

人口が減っているウクライナ、ベラルーシ

 続いて、チェルノブイリ原発の話に移った。「ベラルーシもウクライナも人口が減っている。現在、ウクライナでは、2割しか健康な子どもがいない。国家予算の4分の1を健康被害対策に費やした」。

 守田氏は、ベラルーシのミンスク市の小児白血病対応の病院を訪問した際の体験を、次のように話した。「同行した日本の小児科医たちは、その施設の充実ぶりをうらやましがった。医療はすべて無料で、病院周辺には地方から治療に来る親子が滞在できる家もある。チェルノブイリ事故の被災者への支援は手厚い。しかし、ベラルーシでは麻薬が蔓延し、12歳くらいの子どもにも麻薬の売人が寄ってくるほどだという。国家予算が医療に注がれる一方、このような社会問題が起きている」。

ロシア資本に搾取され続けるベラルーシの国民

 話題は、ウクライナなど旧ソ連邦国家の実態について及んだ。「ベラルーシには、ロシア資本がどんどん入ってきている。今の資本主義は『社会保障制度などをなくせば、人は働く』という考え方だ。社会主義からいきなり資本主義になった旧ソ連邦国家は、高級官僚たちによる、社会主義時代の財産のもぎとり合戦が激しい。ベラルーシはロシア政府と結託し、国民は搾取され続けている」と現状を語った。

 「ベラルーシ、ウクライナなどは、第2次大戦中、ナチスドイツがソ連進攻したときの主戦場だ。大勢の市民が虐殺された。ドイツ、ポーランドやオーストリアなどから、チェルノブイリへの支援が多いのは、そういう理由もある」。

トルコへの原発輸出、隠されている核兵器技術

 守田氏は「トルコの黒海沿岸にあるシノップという町へ、日本の原発が輸出されようとしている。トルコでも、原発新設の注目度は高い。問題は、原発の技術は、核兵器の技術と一体であることだ。そのために、原発輸出の際は相手国と原子力協定を結び、『平和利用に限る』と約束をする。ところが、日本・トルコ原子力協定では『両国が合意すれば(核兵器のための)プルトニウムを取り出せる』となっている」と指摘。

 「日本政府は『合意はしないから、問題ない』と言い訳しているが、自民党は『TPP反対』と言って選挙で政権を取り、すぐにTPPを推進した。信じられるわけがない」と断じ、「しかも、シノップの対岸は、今、軍事的戦闘地域になったクリミアだ。そこへ、トルコが核技術を持つことになれば、地域の緊張はさらに高まる。また、トルコは日本と同じ地震国でもある」と危惧した。

 そして、政府による民衆弾圧が激しいトルコでの反原発運動の様子と、その凄惨な弾圧現場、自然豊かなシノップの美しい風景を映し出した。

 「チェルノブイリ、フクシマは、世界共通語になっている。この悲劇を乗り越えていくのが世界の意志だと感じる一方で、正義のためには暴力も辞さないという考え方も、世界には多い。私は、ドイツ人と日本人が一番、非暴力的に訴えていける国だと思う。チェルノブイリ、フクシマの後の世界をどうするか、日本から発信する必要がある。ただ、日本の情報は、英語を使わないので世界に伝わらない。簡単な言葉でいいので、英語での発信は必要だ」と呼びかけて、第1部を終えた。

長生きの秘訣は「粗食、早寝、よく笑うこと」

 第2部では、食の安全について話した。守田氏は「核時代に生きるために、どうしたらいいのか」と問いかけ、広島で自らも被ばくしながら、被ばく者治療に尽力した肥田舜太郎医師の、「腹をくくりなさい。被ばくしたのだから、これから恐ろしいことが起こる。覚悟を決めなさい。その上で、開き直りなさい」という言葉を紹介。長生きの秘訣は、粗食、早寝、よく笑うこと、と話した。

 次に、「現在、世界で一番、国民が太っている国はメキシコ。その理由は、TPPで貧困になり、アメリカのジャンクフードが押し寄せたためだ。アメリカは、35%の人が危険な肥満状態。国民が一番スリムなのは日本だ。貧しい国は肥満になる。アメリカでは、太りすぎた人が自宅のドアを通れず、屋根を壊してクレーンで吊り上げて救助するまでになってしまった」と、肥満の実態をスライドで見せた。

 その上で、守田氏は「ジャンクフードとは、栄養がないのにカロリーが高いもの。白砂糖と悪い油を使ったものだ。白砂糖は体に必要なミネラルを奪い、依存性が高い。食べれば食べるほど、食べたくなる。代表的なものにマクドナルドがある」と話し、マクドナルドの販売戦略について、商品のサイズを大きくして食べさせる、若い女性をターゲットにして、将来的に彼女たちの子どもまで巻き込む、などを挙げて警鐘を鳴らした。

 「では、何を食べるべきか。天然素材で作られたもの。砂糖の少ないもの。添加物の少ないもの。日本の伝統食。米、味噌、発酵食品、豆など。ただし、魚介類の放射能汚染には要注意だ。野菜も肉も、どのように育てられたのかで判断すること」。

 このように述べた守田氏は、食べ物の買い方の知恵として、「信用できる相手から買う。添加物を意識する。安いものより高いものを買う」とし、「よく噛んで、しっかり食べる。体の調子が悪いときはプチ断食。楽しい話題で食べる。食べながらケンカはしない」など、食事の心がけを話して講演を締めくくった。

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