「地方議員や首長の好きな言葉は『活性化』。脱原発と言うと、すぐに金の話になる。アベノミクスで経済成長ばかり言うが、地方でその恩恵はない。今は脱成長経済、地方の自立。それで脱原発も可能になる」──。
2014年4月23日、茨城県結城市の結城市民文化センターで、村上達也前東海村村長による講演会「歴史の曲がり角に立つ脱原発運動 中央集権から地方自立へ」が開催された。東海第二原発はじめ多くの原子力施設がある東海村で16年間村長を務めた村上氏は、福島原発事故における政府と福島県の対応、安倍政権の原発依存の体質、事故の究明や検証もないままの原発再稼働などを痛烈に批判。「脱原発には、脱成長経済を見据えた価値観の変革が急務」との見解を述べた。
また、「いまだ、福島県は、放射線管理区域の線量にもかかわらず、普通に子どもたちを生活させている。さらに、年20ミリシーベルト未満の地域に帰還を促すが、チェルノブイリでは年1ミリシーベルト~5ミリシーベルトの地域は移住を促した。5ミリシーベルト以上は、国の負担で強制移住だ」と批判した。
現政権はファシストだ
講演会の前に上映された映画『渡されたバトン 〜さよなら原発〜』は、1960年代末に新潟県巻町で持ち上がった原発建設計画を巡り、原発に反対する住民たちの長い戦いを描いたものだ。登壇した村上氏は、この映画の感想を、「良い映画だった。原発の是非を問う巻町の住民投票があった時、(その対策として)電力会社の社長やエネルギー庁長官などが巻町に行くと聞き、私は『バカなことをするなぁ』と思った。偉い人が行けば住民は頭を垂れてひれ伏す、と錯誤しているのだから」と話した。
また、最近、脱原発の講演などに公共施設を使わせない自治体が出てきたことを批判し、公共機関としての中立性について言及した。「さまざまな考え方に公平に場を提供するのが、中立だ。時の政権が原発推進だから、反原発の内容はダメだなどと、自治体が勝手に価値判断をしてはならない」。
安倍政権のエネルギー基本計画に対しても、「国民の7割は原発ゼロを望んでいるにもかかわらず、『原発は重要なロードベース電源』と言い、核燃サイクルも続けていくという。現政権はファシストだ」と断じた。
その上で、アドルフ・ヒトラーの著作『わが闘争』から、「大衆は哀願する者よりも支配するものをいっそう好む」という一文を引用。「大衆はしゃらくさい、彼らをつぶして、自分たちのやりたいことをやるという悪計を、エネルギー基本計画から感じた」と憤った。
「地方議員や首長の好きな言葉は『活性化』。脱原発と言うと、すぐに金の話になる。アベノミクスも重なり、経済成長ばかり言うが、地方でその恩恵はない。今は脱成長経済、地方の自立。それで脱原発も可能になる」と主張し、次のように続けた。「2012年12月16日、われわれは大きく選択を間違えた。衆院選で、自民党の一党支配を許してしまった」。
国と県は信用してはならない
村上氏は「福島原発事故は、チェルノブイリより被害は小さいというが、3基のメルトダウンは大変なことだ」と述べ、当時、国や県の対応は、国民ではなく原発政策を向いていた、と指摘。「国と県は信用してはならない」と続けた。
「地震と津波による原発の被害を、ちゃんと検証していない。その中で、新たな規制基準が作られている。だから、新規制基準をクリアしたから安全だ、ということにはならない。原子力防災指針の中で仮想事故を想定しているが、『仮想事故だから具体的な対応をする必要はない』と但し書きまで付いている。国策で安全神話を作ってきた姿勢は変わらない」。
「この国に原発を持つ資格はない。原子炉安全設計審査指針の中で、『長時間の電源喪失は考慮する必要はない』と明記されている。日本人は、日本は科学技術立国だと思っている。確かに技術は優秀だが、科学的精神は、どうだろうか。科学的に考えたなら、原発に対してもっと考慮したはずだ。また、国策とは何だろうか。国策だからと黙っていたら、戦争と同じだ」と原発への批判は止まらなかった。
日本はエリートが滅ぼす国家
「秀才は信用しない。日本は、エリートが滅ぼす国家だ。エリートは、人を犠牲にすることを厭わない」。こう話す村上氏は、さらに言葉を重ねる。
「安倍政権は、経済成長戦略の中心に原発を据え、『世界最高水準の原発だ。世界一厳しい規制基準だ』と誇るが、世界基準では、原子炉にコアキャッチャーを付けることになっている。日本の原子炉にはそれがないのに、トルコやアラブ首長国連邦、ベトナムへ輸出しようとしている」。
「日本人は原発事故が起きても、相変わらず命より金、倫理より経済、未来より現在。評論家の故加藤周一氏は、日本人は現在主義(過去は水に流し、未来も気にせず、現在だけに関心を集中する生き方)だと指摘した」。
全国1720市町村。原発で潤うのは22市町村のみ
村上氏は「原発がなくなったら地域経済はどうなるのか、という声もあるが、潤うのは立地市町村だけだ。全国1720市町村のうち、大間、六ヶ所を入れて、22市町村だけが潤うにすぎない」と実態を明かした。
「原発は疫病神だ」と続け、その理由を「既存の産業が消え、原発依存の産業(旅館、タクシー、建設など)しか生き残れない。また、新しいものを生み出す気力も失せる」と説明。さらに、原発建設が決まると10年間に電源交付金400億円、その後の10年間に、資産税と交付金で400億円が投入され、「ここから脱却するのは容易ではない」と力説した。
「価値観を根本的に変えるしか、脱却する方法はない」と言い、「利便、効率、スピードという価値を見直す必要がある。それには、脱成長経済が、これからのとるべき道だ。脱原発も、こういった価値観の変革と一緒にならないと難しい」と述べた。
年間26兆円が再生可能エネルギーに集まっている
村上氏は「東海村は、研究施設の東海村Jパークがあり、交付金や資産税は一銭もないが、世界中から優秀な人材が集まってくる。日本だけが、金にかまけて原子力発電を研究している」と言明。
また、再生エネルギーへの批判に対して、「世界の投資は、再生可能エネルギーに集まっている。年間26兆円だ。原発には10年間で1兆円にも満たない。中国でも、再生可能エネルギーに14兆円投資している」と述べた。
そして、1973年に石油危機を予言したシューマッハーの著作『スモール イズ ビューティフル』から引用して、「家族生活、地域社会、自然の美、友情や詩作の時間が、経済のために犠牲になっている」と述べ、脱原発と価値観の変革の必要性を訴えた。