2014年 3月5日、沖縄県那覇市の沖縄タイムス社タイムスホールで、新外交イニシアティブ(ND)主催のシンポジウム「『沖縄』そして『日本』における米軍基地問題とは何か」が開かれた。
NDは、昨夏に誕生したシンクタンクで、扱う主要テーマの1つに「在日米軍基地問題」がある。そのNDで理事を務める鳥越俊太郎氏(ジャーナリスト)が、この集会の基調講演を担当した。
後半の討議で鳥越氏は、沖縄タイムス社論説委員長の長元朝浩氏とともに、米軍基地問題を巡って、沖縄と本土の間に大きなギャップが生まれていることを問題視した。昨年12月下旬の世論調査では、普天間米軍基地の辺野古への移設に向けた政府の埋め立て申請を、仲井眞沖縄県知事が承認したことについて、実に56パーセントもの人が評価している。
背景には何があるのか。本土の人たちが「沖縄の歴史」に疎いことはもちろん指摘できる。しかし、それだけではない。鳥越氏は、一昨年末に、安倍政権を誕生させ、今なお大勢の日本人が同政権を支持しているという、本土に流れる保守化(≒右傾化)の空気が大きい、とする。沖縄への米軍海兵隊配備を、「武装」の視点から肯定する日本人が急増している、との見立てだ。
まず、基調講演で、「米国から日本に入ってくる情報は、極めて限定的」と力を込めた鳥越氏は、日本のメディアの駐米特派員がコメントを求める要人は、概して「知日派」と呼ばれる米国人たちだとし、次のように語った。「テレビや新聞で、彼らのコメントに接した日本人は、それが『米国の、日本に対する見方』だと勝手に信じてしまう。政治家も似たようなものだ」。
米国が本音の部分で、在日米軍基地をどう考えているかについては、「日本人には伝わらない」と鳥越氏。「インターネットで、米上院の軍事委員会などの議論内容を確認すると、『海兵隊は、沖縄ではなくグアムやハワイに配備すればいい』といった言及が、現になされている」と紹介し、「しかしながら、日本の新聞やテレビは、そういうことを報じようとしない」と懸念を表明した。
米軍は沖縄基地を本当に必要としているのか
鳥越氏は「沖縄に海兵隊を置くことについて、米軍内で考え方が一致しているとは、とても思えない」とも語った。
そして、米軍の戦争形態を、「最初に行われるのは、空軍による、敵国の主要な軍事施設への爆撃。その次に海軍が出ていき、戦艦からの巡航ミサイルで、さらに軍事施設を叩く。その次になって、ようやく海兵隊の出番となり、上陸作戦が展開される」と説明。沖縄に米軍海兵隊が配備されているからといって、自民党が言うような、敵国からの日本攻撃を抑止する効果はもたらされない、との認識を示した。鳥越氏は、鳩山由紀夫氏(衆院議員)について、「彼は、首相就任時に普天間基地の県外移設をぶち上げたが、結局、それを撤回している。『抑止力説』を覆せるだけの理論構築に失敗したのが響いた」と述べた。
沖縄県選出の5人の自民党議員が、昨年11月に普天間基地の辺野古への移設を容認したことについては、「自民党沖縄県連の支援で当選した5人の議員が、土壇場で党本部の意向に従うことになったわけだ。安倍首相ら自民党幹部が、どう迫ったのかは知らないが、いろいろな手を使ったのだろう」とし、12月になり、仲井眞沖縄県知事までもが安倍政権に寝返ってしまったことは、「実に残念だ」と力を込めた。
戦争をする国の、どこが美しい!
鳥越氏は、安倍晋三首相は衆参のねじれ解消をテコにして、戦後日本の「非戦体制」を変えようとしている、と訴えた。「集団的自衛権の行使が容認されれば、米軍とともに自衛隊が海外で戦うようになり、自衛隊が敵国の人たちの命を奪う恐れが出てくる。自衛隊の隊員が、命を奪われる恐れもしかりで、日本の一般国民も敵国の銃弾を浴びかねない」。
さらには、「安倍氏は『美しい国』を標榜しているが、それだったら、米軍基地のない『美しい沖縄』を作ってほしいものだ」と言葉を重ね、「しかし、残念ながら彼には、その気持ちはまったくない」と断じた。