原発輸出、NPT非加盟・核保有国に売るの? 〜菅政権時代「交渉開始」をインド研究者が問題視 2014.1.31

記事公開日:2014.1.31取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 「民主党政権は、熟慮せずに『原発輸出』に舵を切っており、あとになって安倍政権に乗っ取られて、原発輸出をいいように使われている」──。

 2014年1月31日、大阪市のエル・おおさかで開かれた「日本は原発を売るな! 1.31原発輸出反対学習討論会」で、インドの事情に通暁する岐阜女子大学の福永正明氏は、こう指摘した。

 福永氏は「原発の輸出は、二重の意味で危険だ」と訴える。ひとつはフクシマショックに照らした過酷事故発生のリスクを指しており、もうひとつは軍事転用のリスクを指している。福永氏は、2010年、民主党の菅政権がスタートさせた、インドへの原発輸出交渉について、インドがNPT(核拡散防止条約)に入らず、これまでに核実験を2度も実施していることを問題視し、「ことに、後者のリスクは、気にしなければならなかった」と力を込めた。

 「世界の原発施設は、すべて、IAEA(国際原子力機関)の査察を受けねばならない。インドは、民生用の原子力施設のみ査察を受け入れるが、民生用と、そうではない『軍事用』の区別は自分たちが行う。つまり、インドへの原発輸出は、豊富な電力を輸出する一方で、核兵器の増産をもたらしてしまうのだ」。

■全編動画

  • 講演 福永正明氏(岐阜女子大学南アジア研究センター・客員教授)

 「2011年3月に、福島第一原発事故が起こるまで、日本の原発稼動は比較的安定していた」「原発設置候補地の調査や、地元住民への広報に関するノウハウ、さらには、プラント設計や実際の原発稼動に関する技術が、日本の原発産業には十分蓄積されている」「耐震技術も高水準と見なされている」──。

 福永氏はこういった発言を行い、フクシマショックがあったとはいえ、今の世界の原発産業は、日立、東芝、三菱重工といった日本勢が支えていると言明した。要するに、豊富な電力で快適な生活様式を実現したい新興諸国にとって、日本の原発技術は、今なお魅力的というわけだ。

 ちなみに米国は、1979年に起きたスリーマイル島原発事故のあとは、原発を新設していない。長らく世界の原発メーカーの2大巨頭とされてきた、米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)とWH(ウェスティングハウス)については、WHが英国の燃料会社を経て2006年に東芝に買収されており、GEも日立、三菱重工と技術提携している。

「パンドラの箱」を開けたのは民主党

 そして、福永氏は、巷間聞かれる、「原発推進の安倍晋三首相が政権を握ったから、日本は原発輸出に舵を切った」との声は事実に反する、と指摘するのだった。

 この1月24日、第186回通常国会が召集され、安倍首相は施政方針演説を行い、その中で成長戦略について、成長著しい新興国へのインフラ投資に官民一体で取り組む「インフラ輸出機構」創設を表明している。福永氏は、そのインフラの中には原発が含まれるだけに、「原発輸出という国策を打ち出したのは安倍政権、と印象づけられるのも無理はない」としつつも、「原発輸出の方針を鮮明に打ち出したのは、2009年3月に誕生した民主党政権だ」と強く訴えた。

 福永氏は「当時の民主党の経済政策は『新成長戦略』と呼ばれ、原発や新幹線といった、日本の高い技術力を生かしたインフラを丸ごと新興諸国に輸出して、日本経済の成長力を取り戻そうというものだった」と発言を重ね、当時すでに、東京電力や関西電力が、輸出先国で原発の運営を担当するといった「パッケージ型輸出」が考えられていた、と語った。

原発トップセールス、鳩山首相も

 さらには、首相が先頭に立って、国を上げて原発を売る、いわゆる「トップセールス」も、安倍首相が始めたものではなく、当時の鳩山由紀夫首相や菅直人首相が、すでに実施していたことに言及した。

 鳩山政権は、UAE(アラブ首長国連邦)に原発を売ろうとして、韓国に敗れた。韓国は、李明博大統領が親書送付や電話攻勢でトップセールスを展開しており、鳩山首相は「トップセールスが十分ではなかった」と反省。その後は、ベトナムのグエン・タン・ズン首相に、原子力発電所の建設計画への親書を送るなどしている。

 その流れを受け継いだ菅政権は、2010年秋には、菅首相がベトナムへのトップセールスに成功を収め、ベトナムが国内で進める原発2基の建設を、日本勢が受注することを決めている。

インドは、ある種の問題児

 「NPTは米英、フランス、ロシア、中国の5ヵ国だけに核兵器の保有を認める国際ルールで、核兵器保有国から非保有国への、勝手な技術移転を禁止している。その取り決めを『不平等だ』と断じているのが、インド。インドは、いまだにNPTに加盟していない」。

 続いて福永氏は、今は安倍首相がトップセールスを担っている、インドへの原発輸出に触れて、「日本は、NPTに入ってもいない国に原発を売ってもいいのか」と問題提起した。

 福永氏は言う。「インドは1974年に、NPT非加盟の状態で、1回目の核実験を行っている(2回目は1998年に実施)。その際、インドに原発を輸出していた米国は、今後は絶対に売らないという立場を固め、核燃料の供給もストップする、(日本を含む45ヵ国からなる原子力供給国グループ(NSG)による)経済制裁を主導した」。

 その間、インドの総発電量に占める原発の割合は数パーセントと微弱で、インド政府は、恒久的な電力不足ゆえに自国は経済発展できない、との不満を抱き続けることになる。しかし2008年、NSGはこの「制裁」の解除に踏み切った。背景には、インドの原発市場への進出を急ぎたい米国産業界の事情があり、当のインドは「中国とパキスタンという2つの核保有国に挟まれているため、牽制が必要」と主張していた。

巨大市場の魅力とリスク

 インドの原子力計画では、将来的に合計で30基超の原発が建設されることになっている(現在、稼働しているのはクダンクラムにあるロシア製の1基のみ)──。

 「12億人もの人口を抱えるインドという巨大市場に、原発を売りたくてしょうがないのは、日本勢もしかりだ」と強調する福永氏は、「東芝がWHを買収したのは、米国経由でインド市場に入ろうという狙いがあったとされていた」と指摘した上で、東芝が、日本からの輸出は難しいと判断したとみられる理由を、次のように述べた。

 「自民党歴代政権には、『インドへの原発輸出は、日本の国民感情が許すまい』という見方が根強くあった。インド政府は、自民党政権時代に、森氏、小泉氏、安倍氏、福田氏、麻生氏と、首相が交代するたびに、原発輸出の意向が示されるのではないかと期待していたが、日本から声はかからなかった」。

野田首相は国連で「原発輸出」表明

 だが、2010年6月末、菅政権は原発輸出を巡り「日印交渉」をスタートさせており、これについて福永氏は、次のように批判する。

 「交渉開始は、鳩山政権時代にほぼ決まっていたが、その当時、菅氏が『仙石由人氏(内閣官房長官)と岡田克也氏(外務大臣)が良しとするなら、問題ないだろう』と語ったのは有名な話。菅氏は、その程度の考えで、たいした議論も行わず、国民に何も知らせずに『日印交渉』を開始したのだ」。

 交渉開始直後、岡田外務大臣はインドに出向き、「もう1回、核実験を行ったら、協力を停止する」と釘を刺している。福永氏は「日本は、フリーハンドで力を貸すわけではないことを示したわけだが、インドは『国防や外交に関して、外国から指図は受けたくない』と切り返している」とし、その結果、2010年11月から、交渉はほとんど進んでいないことを紹介した。「日本国内の報道では、『3.11以降、停滞している』というトーンが目立つが、実際は、いわゆる『岡田条件』が重しになっているのだ」。

 その後、2011年9月に野田政権が誕生するが、福永氏は「民主党は3.11を受け、国内には『2030年に原発ゼロ』を掲げておきながら、国連では、野田首相が『より安全な原発を世界に提供していく責任を果たす』と表明している」と指摘する。

 「安倍政権が、原発輸出に舵を切ったわけではない」と重ねて強調する福永氏だが、「民主党の新成長戦略のバックには、インド市場への原発輸出で米国や韓国に負けたくない、日立、東芝、三菱重工などに代表される、産業界の大圧力がバックにあった」とも訴えており、「原発輸出のアクセルを踏んでいるのは、政・官・財が一体の、日本の原発体制である」と力説した。

「原子力協定」国会で承認されず

 2011年12月の野田首相のインド訪問で、「日印交渉」の再開が決まる。そして、2012年末、第2次安倍政権が誕生し、安倍氏による、今の原発トップセールスへとつながっていく。安倍政権は、これまで、UAE、トルコと原子力協定を結んでいる。

 UAEについては、前述の通り、日本は韓国との受注競争に負けるも、その後、日系企業が技術協力をする流れとなったため、締結することになった。 他方、トルコでは、三菱重工と仏アレバ社の合弁子会社連合が、すでに原発2基を受注しており、安倍首相は、ポーランド、ハンガリー、チェコスロバキアにも出向いて、原発を売り込んでいる。

 2013年5月、安倍首相が改めて、インドのシン首相と「交渉再開」の約束をしているが、福永氏は「交渉の足かせになっているのは、インドへの原発輸出の前提となる『原子力協定』が結ばれていないことだ」と指摘する。

 この1月26日に、インドのニューデリーで共和国記念の行事が行われ、安倍首相が、日本の首相として初めて出席した。そこでのシン首相との会談で、安倍首相から協定締結宣言が出るのでは、とインド側は期待していたが、結局、締結宣言が出されることはなかった。

 その理由を、「NPT非加盟など、インドならではの事情が響いている」とした福永氏は、こうも述べた。「昨年12月の臨時国会では、トルコやUAEと調印した原子力協定も承認されなかった。野党が反対したのだが、日本維新の会が反対を表明したことが決定打となった」。

「3.11の当事者であることを忘れるな!」

 「インド各地では、市民による反原発運動が頻発している。反対グループは、インターネットを使ってどんどん情報を発信している。警官隊がデモ隊を襲っている様子が、ネットで生中継されている」。

 インドの一般国民の、原発に対するスタンスに触れた福永氏は、「インドの反原発派の市民たちは、『安倍首相の来印は歓迎するが、原発はゴメンだ』と記されたポスターを掲げる自分の写真を、ネットにどんどんアップする運動を展開している」と紹介し、次のように強調した。

 「インドの人たちは、福島の原発事故の過酷さを知っている。しかし、反原発派の市民は大多数ではないのが現実で、圧倒的なのは、家庭電化製品を使って快適な暮らしを手に入れたい、というニーズだ」。

 日本からインドへの原発輸出には、望まれている部分が大きいわけである。福永氏は、その点を踏まえながら、「日本は『自分たちがフクシマショックを起こした』という事実を忘れてはいけない。(原発輸出を通じて)恐怖や窮状を、どこの国にも輸出してはならないのだ」と力を込め、最後にこう話すのだった。

 「一方で、原発は軍事転用されやすいことも、肝に銘じておくべきだ。そして、われわれ日本人は、日本の原発メーカーが、福島事故の責任を問われないまま、海外に原発を売って金儲けをしようとしていることに対して、もっと厳しい目を向けねばならない。さらに言うなら、電力を欲しがっている新興諸国に向かって、先進国の人間が『今の暮らしぶりで我慢しろ』と迫ることは許されない。この辺は、実にデリケートな問題だが、再生可能エネルギーの活用を提示していくのが、有効だと思う」。

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