「市民よ、反対すべきは『再稼動』のみならず、だ!」 〜シンポジウム「世界から見た日本の原発問題」 2013.11.9

記事公開日:2013.11.9取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ 富田/奥松)

 「原賠法には、原発ビジネスを世界に広げたい米国の本音が見える」──。

 2013年11月9日(土)、大阪市西区の日本聖公会・川口基督教会で行われたシンポジウム「世界から見た日本の原発問題」では、原発ゼロを訴える6人の有志が登壇した。基調講演を担当した、原発メーカー訴訟の会事務局長を務める崔勝久氏は、フクシマショック以降、全国に広がった「再稼動反対」の脱原発デモのうねりを讃えつつ、「脱原発派の日本人は内向きにならず、海外への日本製原発の輸出にも『反対』を叫ぶべき」と辛らつな言葉を口にした。

■全編動画 1/3

■全編動画 2/3

■全編動画 3/3

  • 基調講演 崔勝久氏(原発メーカー訴訟の会事務局長、No Nukes Asia Actions Japan 事務局長、原発体制を問うキリスト者ネットワーク〔CNFE〕共同代表)「世界から見た日本の原発問題──加害者としての日本」
  • テーマ別報告
    小山英之氏(美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会)「福島原発事故の現状」
    佐藤勝十志氏(原発賠償関西訴訟原告団副代表)「原発被害者はなぜ集団訴訟にふみきったか」
    内藤新吾氏(CNFE 共同代表,日本福音ルーテル稔台教会牧師)「キリスト者として原発をどう考えるのか」
    長田浩昭氏(原子力行政を問い直す宗教者の会)「仏教者・宗教者として、原子力問題を問う」
    池島芙紀子氏(ストップ・ザ・もんじゅ代表)「自然と共存する脱原発エネルギーの町へ」
  • 日時 2013年11月9日(土)
  • 場所 日本聖公会・川口基督教会(大阪府大阪市)
  • 主催 原発問題を考える関西キリスト者集会実行委員会

 原発体制を問うキリスト者ネットワーク(CNFE)の共同代表でもある崔氏は、1961年に定められた「原賠法(原子力損害の賠償に関する法律)」を悪法と断じた。

 この法律は、原子炉の運転などにより生じた損害には、製造物責任法の規定は適用しないとするもので、「米GE(ゼネラル・エレクトリック)が日本に原発を輸出する際に、米国が日本政府に制定を要請した」。崔氏は「原発ビジネスを世界に広げたい米国の、本音が透けて見える。韓国や台湾といった、日本以外の原発保有国にも同種の法律がある」と強調した。

 フクシマショックを巡っては、日本人の批判は国と東京電力に集中した。崔氏は、事故を起こした原発のメーカーが糾弾されなかった主たる理由は、この「原賠法」にあると主張し、「再稼動反対のシュプレヒコールは日本全体に広がったが、原発メーカーの罪を問う声は、ほとんど聞かれないのが、その証拠だ」と力を込める。原発の恐ろしさを体感したのに、なぜ、「危険物(原発)」の海外輸出に平気でいられるのか──。崔氏は、広く日本人に対し、言外で疑問をぶつけた。

原発輸出は「悪法」の押しつけ

 「私は海外の人たちに、『日本の原発停止は、世界中の人たちが一緒になって行うべきこと』と呼びかけてきた」。続いて崔氏は、福島第一原発の1〜4号機の原発メーカー(日立、東芝、米GE)を相手に起こす、損害賠償請求訴訟に言及した。原発メーカーだけが、特殊な法律に保護されるのは憲法の平等原則に反するとした上で、「原告は日本人に限らないが、当事者ともいえる、日本人の原告は200人ぐらいしか集まっていない。韓国や台湾が数千人規模なのに、だ」と、国内の反応が鈍いことを報告。「これでは、あれだけの原発事故を経験した国として、海外に向けてメッセージを発信できない」と力を込め、日本人の、原告団への積極的参加を力強い口調で求めた。訴訟の時期は、2014年1月である。

 崔氏は「日本からの原発の輸出は、相手国に『原賠法』を作らせることを意味する」と力説。「日本では、原発問題が『エネルギー確保』という自国内の問題に矮小化されがち」とも語り、さらには「憲法13条に照らせば、国民には、原発の恐怖にさらされないで生きる権利がある」と主張した。

 集会の第2部は、各有志によるテーマ別の議論。1番手の小山英之氏(美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会)は、「汚染水問題」に特化してスピーチし、「安倍首相は五輪招致のプレゼンで『汚染水は、福島第一原発から0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている』と発言をしているが、外洋への垂れ流しは明らか」と強調。汚染水が地下水と混ざって海に流れ出るプロセスや、汚染水を貯める仮タンクの脆弱さを解説した。

「復興」の2文字が福島を安全にしてしまう

 そして小山氏は、「福島第一原発では、日に450トンというペースで汚染水は増え続けているが、ひとつのタンクが2日余りで満杯になる」などと、厳しい現実が横たわっていることを訴えた。「事故炉の冷却が、水以外の方法で可能にならない限り、福島はこの大問題に対峙し続けねばならない」。

 福島県相馬市から滋賀県に自主避難中の佐藤勝十志氏(原発賠償関西訴訟原告団副代表)は、巷間聞かれる「なぜ大勢の人が、いまだに福島にとどまっているのか」との疑問に応えた。佐藤氏いわく、「収入確保や子育ての環境を重視した苦肉の策という面はあるが、被災地を狙い撃ちする、ある種の『情報操作』も響いていると思う」。

 放射能汚染のリスクを伝えるニュースは、今なお、福島のテレビでは放映されにくいというのである。「先日、震災後もずっと福島で暮らしていた父が、滋賀にやってきた。彼によれば、福島のテレビでは、滋賀のような論調で原発事故関連の話題を扱ったニュースは流れない」。

 佐藤氏は「そこには(真実を知らせないことで)県外への人口流出に歯止めをかけたいという事情に加え、原発事故の被害を小さく見せたいとする、当局の思惑が働いている」との見方を示し、「大手メディアが一丸となって展開する『復興』をキーワードにした、(地元でのがんばりを鼓舞する)福島がらみのポジティブ・キャンペーンにも、同じ狙いが込められているに違いない」と力を込めた。

心の安寧を乱す社会問題から目をそらす人々

 「原発は、たとえ事故が起こらなくても、内部作業者の被曝によって支えられている」とは、内藤新吾氏(日本福音ルーテル稔台教会牧師)。「社会のことは政治家に任せればいい、という考え方は無責任」とし、今の日本人には原発問題を、他人事のように受け止めるフシがあると指摘した。「国政を任せられる政治家がゼロに等しい以上、われわれ市民が立ち上がるほかない。『すでに市民運動家がいるから、自分は影でそれを応援すればいい』とする向きもあるが、運動家の数はさほど多くはない」。

 長田浩昭氏(原子力行政を問い直す宗教者の会)も、原発を巡る国民の問題意識が今一歩であることに表情を曇らせる。その上で、「この件では日本の宗教団体の責任は大きい」とし、「宗教がカバーできるのは、あくまでも心の問題」との方向に力点を置きすぎた今時の教義が、「自分の『心の安寧』をかき乱す恐れがある社会事象には、目を向けない日本人を増やしてしまった」との持論を披露した。長田氏は「この傾向は、仏教のみならずキリスト教の団体にも当てはまる」とも述べ、広く宗教家に反省を促した。

4号機「燃料棒取り出し」のリスクとは

 最後のスピーカーは「市民運動は、ただ『反対』を叫ぶだけでは行き詰まる。政府に対し、政策転換の道筋を具体的に提言することが大切だ」と力説した、ストップ・ザ・もんじゅ代表の池島芙紀子氏。池島氏は、来週に始まる、福島第一原発4号機の燃料棒取り出しのリスクを諄々と語った。

 池島氏は「新聞などは一切報じていないが、クレーンで吊り上げて移動させる最中に、誤って落下させ、水による冷却が不可能になった場合に起こり得る『ジルコニウム火災』が、非常に危険」と指摘し、小出裕章氏(京都大原子炉実験所助教)の言葉を借りながら、それがどれほど恐ろしいかを説明した。「ジルコニウム火災に関する専門家は、国内には見当たらない。私は『外国の知見をもっと取り入れてほしい』と国に要望しているが、彼らは逃げるばかりだ。日本人は、この件にもっと関心を払ってほしい」。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です