「ベトナムの新聞は検閲を受けているから、本当のことが知りたいならベトナム人有志のブログを見るほかない」──。
2013年9月7日(土)13時30分から、東京都新宿区の早稲田大学小野記念講堂で開かれたシンポジウム「ここがマズイ、原発輸出―ベトナム編」で、伊藤正子氏(京都大学)はこう語った。共産党一党独裁に根ざした情報統制を背景にした、ベトナムの原発輸入推進の実態に関する報告である。伊藤氏は、日本とベトナムの馴れ合いの関係にも触れ、「日本原子力発電がベトナムで行った調査は、発表されているほどの予算が本当にかかったのか」と疑問を示した。
- 講演
日本の原発輸出政策の現状/ベトナムにおける原発輸出をめぐる状況
- パネルディスカッション
ベトナムの発展に原発は必要なのか、日本とベトナムにどのような影響や利益があるのか、どのようなオルタナティブが考えられるか、について議論
- 講師
伊藤正子氏(京都大学)/遠藤聡氏(ベトナム研究者)/中野亜里氏(大東文化大学)/満田夏花氏(FoE Japan、メコン・ウォッチ)/吉井美知子氏(三重大学)
このシンポジウムは、APLAをはじめとする6つのNPO法人と早稲田大学アジア研究所の共催。代表者は「ベトナムは、日本にとって原発輸出先の1つだが、ベトナム国内では、原発に関する情報公開が圧倒的に不足している」と訴え、「今日の集会では、日本側の問題のみならず、ベトナム社会の暗部も浮き彫りにしていく」と宣言した。
まず、満田夏花氏(FoE Japan)が、日本がベトナムのニントゥアン省で展開を予定している100万キロワットの原発2基による、運営管理や人材育成を含むパッケージ型の原発輸出事業の内容を説明。「現在、実現可能性調査が終わった段階」とし、その調査事業を、2009年に日本原子力発電が、経済産業省から約20億円で受注していた点を問題視した。
日本政府が情報開示を渋る理由
経産省が開示した、日本原電が行った調査の項目は、1. エネルギー市場分析、2. 電力系統分析、3. 経済性評価、4. 財務分析──など。「今、約20億円の具体的な使途を政府に問いただしているところだ」と述べた満田氏は、「この約20億円とは別に、『東日本大震災がらみの復興予算の中から、約5億円がこの調査事業に流用されている』との報道があったが、流用の理由が不明確だ」と指摘し、次のように強調した。「調査結果の報告すらなされていないのは、日本政府がベトナムでの原発建設の妥当性を、第三者によって検証されることを嫌っている証拠ではないか」。
伊藤正子氏は「ベトナムの新聞は検閲を受けているから、本当のことが知りたいならベトナム人有志のブログを見るほかない」と語り、インターネット上で原発建設反対の署名活動を展開していた、国立ハンノム研究所のジエン博士に対し、ベトナム政府が圧力をかけた一件を紹介。「ジエン博士は関連文書をネット上から削除したものの、集めた約600人分の署名は、昨年5月、ハノイにある日本大使館と日本政府に届けられた」。
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