「飯舘村住民には、将来、2~17件のがん死が予想される」「関東でも無視できない汚染があるが『我慢の仕方』は人によって違う」──。
2013年12月19日、福島市のアクティブシニアセンター「AOZ」(アオウゼ)において、「第53回ふくしま復興支援フォーラム『飯舘村での放射能汚染調査と初期被曝評価プロジェクト』」が行われた。
講師は今中哲二氏(京都大学原子炉実験所助教)。飯舘村住民への聞き取り調査から、3.11直後からの外部被曝量を算定し、将来予想されるがん死者数の試算結果も報告した。
(IWJテキストスタッフ 阿部玲/奥松)
「飯舘村住民には、将来、2~17件のがん死が予想される」「関東でも無視できない汚染があるが『我慢の仕方』は人によって違う」──。
2013年12月19日、福島市のアクティブシニアセンター「AOZ」(アオウゼ)において、「第53回ふくしま復興支援フォーラム『飯舘村での放射能汚染調査と初期被曝評価プロジェクト』」が行われた。
講師は今中哲二氏(京都大学原子炉実験所助教)。飯舘村住民への聞き取り調査から、3.11直後からの外部被曝量を算定し、将来予想されるがん死者数の試算結果も報告した。
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原子力工学が専門である今中氏は、まず、原発の構造を解説しながら、「広島と長崎の原爆では、約1キログラムのウラン、プルトニウムが核分裂を起こした。100万キロワット級の原発では、1日に約3キログラムのウランが核分裂を起こす。つまり、1年で約1000キログラム」と述べ、原子力発電所の危険性を、原爆と比較してみせた。その上で、「大事なのは、(放射性物質を)いかに閉じ込めるか、であり、事故のパターンとしては、『核分裂の制御に失敗する』『冷却に失敗する』の2つがある」とし、次のように説明した。
「制御棒とは、中性子をよく吸収する物質(ホウ素、カドミウム)でできており、これを炉内に入れることによって核分裂の連鎖反応を止めることができる。しかし、これに失敗したのがチェルノブイリ原発事故であり、冷却に失敗したのが福島第一原発の事故である」。
「飯舘村初期被曝評価『聞き取り』プロジェクト」とは、環境省からの委託を受け、今中氏を中心とする25名のメンバーが、2012年から2013年にかけて行ったもの。各メンバーが、飯舘村の住民(各家庭につき1名)に面談し、2011年3月11日に地震が起き、計画的避難区域に指定された村から、村外に移るまでの家族の行動パターンを聞き取り、その情報を元に、個々人の飯舘村滞在時の被曝量を推定、村民の平均被曝量を試算した。聞き取り数の目標は500戸(村全体の3割)で、10月31日までに498戸(全村民6132人中1812人)が完了した。
この結果、2011年7月31日までの、約5ヵ月間の外部被曝量は平均で7ミリシーベルト(以下mSv)となり、当初、福島県が発表していた数値のおよそ2倍、ということがわかった。年代別に見ると、高齢になればなるほど、外部被曝量が高く、今中氏は「牛を飼っている世帯が多く、世話のために長く残ったためとも考えられる」と解説した。個人の最大は23.7mSv、行政区別では長泥地区がもっとも高く、「土地の汚染に比例している」という、ある程度予想された結果となった。
避難しても、また戻って来た住民が多いことに関しては、「親戚の家でも長居はしづらい、という事情や、3月21日に、山下俊一氏らのグループが出した『安全宣言』を信じた人が多いため」という。なお、0.4という家屋遮蔽逓減係数は「妥当なところ」と評価した。
先に福島県が発表した「県民健康管理調査」では、「7月11日までに、3102人が平均3.6ミリシーベルトの被曝をした」と報告されていた。数字がほぼ倍違うことについて、今中氏は「福島県側は、飯舘村のモニタリング・サーベイデータ、こちらは地面のセシウム沈着の値を元にしている。アンケート調査は、向こうは『何時から何時まで』、こちらは『日にち単位』であり、どちらが正しいというわけでもない」との見解を示した。
飯舘村で将来予想される、がんによる死者数は、「がん死リスク係数を、ICRPの基準に従って0.055/シーベルトとすると、2.3件。アメリカの研究者、ゴフマン氏に従って0.4/シーベルトとすると、17件。おそらく、この間の数になるのではないか」と見積もった。
リスク・コミュニケーションの進め方については、「多くの個人や関係団体、機関が、リスクについての疑問や意見を述べ、リスクに関する情報を交換し、共に意思決定に参加することである。また、意見や情報の交換にとどまらず、ステークホルダーと言われる利害関係者が、お互いに働きかけ、影響を及ぼし合いながら、建設的に継続されるやりとりである」という、順天堂大の堀口逸子教授の言説を引用。「それは、私なりにやっていると思う」と自負した。その上で、「40年間、放射線関連業務に従事した者としての、今中流リスク・コミュニケーション」と称し、放射線量の危険度の目安を、以下のように提示した。
なお、今中氏個人の、これまでの最大被曝量は、チェルノブイリ石棺付近を訪れた際の「30分で120μSV」、飯舘村では「80~90μSV」であった、とのこと。
「100ミリシーベルト以下での被曝の影響は、疫学的には観察されていない」という意見に対しては、「先日、役人からそれを聞かされて、『誰ですか、その不勉強な先生は?』と言い返した」と、今中氏は話す。
「2009年の英国原子力産業労働者17.5万人に対する、がん死追跡調査では、平均被曝量24.9mSvだが、線量に応じて、がんが増えるというデータがある。また、2013年、オーストラリアにおける、CT検査を受けた青少年66万人に対する、がん発生追跡調査でも、やはり被曝量に応じて増えている。CTスキャン1回の被曝量は、平均で4.5mSv」と述べ、100mSv以下であっても、被曝量に応じてリスクが増えると反論した。
また、「直線閾値なし説に従うなら、自然放射線もがんの原因」と主張。アメリカ人のがんの2%が、放射線・紫外線が原因という例を引き合いに出し、「2007年の、日本のがん死34万件のうち、その2%の原因が放射線とすると、34万×2%=6800件となる。無視できるリスクではない」とした。
最後に、飯舘村住民6132人に対し、2~17件のがん死の見積もりが出たことについては、「これからの、リスク・コミュニケーションのための材料としたい。内部被曝については、今回の報告では扱っていない」とした。
また、東京についても、「無視できない汚染があるが、『我慢の仕方』は人によって違うので、一概には言えない」と述べて、一人ひとりの判断に任せるとして、避難の必要性に関して具体的な明言は避けた。