中東危機「長期化」を喜んでいるのは誰だ! ~西谷文和氏がアフガン、シリアの現状を報告 2013.12.17

記事公開日:2013.12.17取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

特集 中東

 ばら撒かれたペン型爆弾に、下あごを吹き飛ばされた子ども。劣化ウラン弾の影響か、のどの部分を、がんで大きく膨らませている子ども──。12月17日、大阪市中央区の大阪女学院大学で開かれた「アフガニスタン、シリアは今!西谷文和さん最新取材報告会」では、会場のスクリーンに次々と映し出される衝撃的映像に、集まった市民らが息をのんだ。

 「戦争を、あえて長引かせることで、ボロ儲けしている人たちがいる」と言明した西谷氏は、もの凄い破壊力のミサイルを売る軍事産業と、復興支援と称して、現地に建設ラッシュを仕掛けるゼネコンの存在を指摘。2001年9月に米国で起こった「同時多発テロ」や、2010年末以降、中東の独裁政権を相次いで倒した民衆運動「アラブの春」を、恰好の「商機到来」ととらえる人たちがいるのだ。

■全編動画

  • 18:20~ 開始(マラライ・ジョヤさんのビデオメッセージ)
  • 18:45~ 西谷文和さんの取材報告
  • 20:00~ 質疑応答
  • 主催 RAWAと連帯する会・関西(告知

 「米国は『自分たちが手を引けば、アフガニスタンに市民戦争が起こる』と言っているが、今の状況が、われわれアフガニスタン人にとっては、戦争そのものだ」──。一昨年10月に、大阪女学院大で講演した、アフガニスタンの女性人権活動家、マラライ・ジョヤ氏からのメッセージビデオが上映された後、西谷氏が登壇した。

 主催者「RAWA(アフガニスタン女性革命協会)と連帯する会・関西」の桐生氏は、「一般市民が、戦争や内戦で理不尽な思いをしている中東諸国に、積極的に足を運び、現地の一般市民に寄り添う形で取材を続けている」と西谷氏を紹介。「西谷さんが偉いのは、映像を撮影するという、ジャーナリストの枠を飛び越えて、現地の人たちに毛布や小麦粉などの救援物資を届けている点だ」と讃えた。

現地の医療では対応が困難

 マイクを握った西谷氏は、開口一番、現地の「状況悪化」を伝えた。「14日夜に帰国したが、今回、シリアには、わずか1日しか入れなかった。かなりの人数のアルカイダ(国際テロ組織)が入り込み、自由シリア軍(反政府武装組織)と戦いを繰り広げていたためだ。今年3月に訪れた時よりも、はるかに危険の度合いが増している」。

 そして、よみうりテレビが2ヵ月ほど前に報道番組で流した、西谷氏による、去る8月の現地取材の映像をスクリーンに映し出した。

 「戦争のしわ寄せは、子どもたちにいっている」とのナレーションで始まるこの映像は、内戦の被害で、体に重大なトラブルを抱える子どもが多数登場する。ペンの形をした爆弾を拾い、そのふたを口で開けようとして負傷した少年のそばに立つ西谷氏は、「この爆弾をばら撒いたのは、米軍ではないか」とコメントしている。

 「アフガニスタンの医療技術では、回復を望めない子どもたち」と続くナレーションは、数秒間の沈黙の後、「海外での治療を支援するNGO(非政府組織)への献金は、近年減少傾向にあり、ドイツに連れて行ける子どもの数にも影響が出そうだ」と続けた。そして、「2001年以降、『テロとの戦いである』との名の下に、混乱に陥れられたアフガニスタンは、戦争開始から12年が経ち、人々の関心が薄れる中、いったん減少した民間人の死者数が、今年に入って増加に転じるなど、不安定な状態が続いている」と結んでいる。

「自爆テロ」に貧困層者の怒りが表出

 上映が終わると、西谷氏は、アフガニスタンを取材するたびに、「グローバル経済」の波に乗って、現地でボロ儲けしている人たちがいることを痛感するとし、近年のアフガニスタンの景気には、明らかに「バブル」の一面がある、と指摘した。

 米軍と契約している建設会社などが主たるプレーヤーで、そういう会社の下請けになっているアフガニスタンの会社も大いに潤っている、とのことだ。「現地の取材で、カブールからカンダハルに飛ぶ際に、その下請け会社の社長と飛行機の席が隣同士になった。その社長は私に対し、『今、雇っている米国人設計技師が怠け者なので、日本人で適任者を紹介してほしい。毎月200万円の給料を用意するから』と言ってきた」。 

 ただ、西谷氏は「その一方で、難民キャンプには相変わらず、映像にあるような『貧困』が横たわっているのも事実」とも言い、「こういった貧富の差の拡大が、米国に取り入った自国人を狙い撃ちするような、貧困者による、高級商業施設などでの『自爆テロ』につながっている」と述べるのだった。

すべては「カネ儲け」のため

 その後、西谷氏はアフガニスタン戦争の歴史を、前史の部分から駆け足で紹介。「1970年代末にあった、アフガニスタンへの旧ソ連軍の侵略と戦うアフガンゲリラに対し、サウジアラビア人のウサマ・ビンラディンを、米国が派兵している。つまり、ビンラディンは、米国製の武器で旧ソ連軍と戦っていたのだ」「旧ソ連軍撤退の後は、ムジャーヒディーン同士が内戦を起こし、軍閥を作って戦いが続いた」などとレクチャーした。

 その上で、日本のテレビや新聞に対し、「アフガニスタン戦争について、日本のテレビや新聞は、2001年の9.11以降のことしか語っていない」と批判を展開し、次のように強調した。

 「ビンラディンとタリバン政権は、最初から米国と戦っていたような印象を国民に与えている。だが、アフガニスタン人たちは、自国の紛争を、日本で言われているような『テロとの戦い』という視点では見ていない。タリバン政権のバックに、CIA(米中央情報局)やパキスタンが存在するというのは、彼らにとっては、ほぼ常識なのだ」。

 西谷氏は「米国は、あたかも、自分たちが『テロ』と戦っているように見せかけながら、アフガニスタンの戦争を長引かせ、米国の軍事産業や、さっき言った建築産業に大儲けさせている」と力を込め、こうも言った。「その儲けには、日本政府が、これまでに払った合計で5000億円に迫る、対アフガニスタンの支援金が含まれる」。

「1発150人致死」で稼ぐ大国

 話題を、シリアへと移した西谷氏は、まず、アサド政権が、世襲で独裁体制を築き上げた点を指摘。その上で、死者の数が、すでに10万人超とされる、同国に続く内戦の経緯を、「2011年春に『アラブの春』が、この国にも飛び火した。蜂起した民衆に対し、バッシャール・アサドは容赦ない攻撃を加え、その後、シリアは、いくつもの勢力入り乱れる内戦へと突入していった」などと説明した。

 「シリアの内戦は、実に悲惨だ」と訴える西谷氏は、「多分、今日も明日も、現地では50人以上が死ぬことになるだろう」とし、アサド政権をサポートしているのがロシア、中国、イランで、反同政権なのが、米英仏とサウジアラビア、と力関係の存在を指摘。ロシアがアサド政権に肩入れしている理由については、「ロシアは、天然ガスのパイプラインを欧州まで伸ばす折に、地政学的にシリアを利用できるため」とした。

 そして、スクリーンに、この日の朝5時までかけて編集したという、できたての画像を映し出し、「ここが国境だが、人で溢れている。トルコに逃げるも、虎の子を使い果たしたシリア人が、戻ってきているのだ。難民キャンプに行けば、生活費は要らないからだ」と説明を加えた。

 国境を抜け、道路の両脇には難民キャンプのテントが延々と続くシーンに変わる。西谷氏は「今年の3月に訪れた時よりも、テントの数が大幅に増えている。多分、映像に映っているこの一帯だけでも、5000~1万人は難民の数が増えていると思う」と話し、さらにまた、「別のエリアには、もっと劣悪な状態の難民キャンプが広がっている。そこには、みなさんの寄付で仕入れた毛布を、日本から持ち運んだが、まだまだ足りない」と訴えた。

 そして西谷氏は、ミサイルによる爆撃の被害が、いかに恐ろしいものであるかを伝えるため、昨年3月取材分の映像も映した。「今のミサイルの破壊力は甚大で、防空壕を作っても何の役にも立たない。ミサイル1発で、150人ほどが死んでしまう」。

 そのミサイルは、ロシアがアサド政権に、米国が自由シリア軍に、それぞれ供給しているという。西谷氏は「ここにまた、『武器の取引が儲かるから』という、ビジネス原理が存在する」と怒りをにじませ、「アフガニスタンも、シリアも、大国の都合で翻弄されているのだ」と言葉を重ねた。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

「中東危機「長期化」を喜んでいるのは誰だ! ~西谷文和氏がアフガン、シリアの現状を報告」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見より) より:

    軍事産業と、復興支援と称して、現地に建設ラッシュを仕掛けるゼネコン。混乱と殺戮は薄汚い金のために続けられているのだ。

@55kurosukeさん(ツイッターのご意見より) にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です