TPPで日本は「加害者」にもなる?「途上国の『伝統の知恵』を収奪していいのか」~岩上安身によるインタビュー 第373回 ゲスト 東大助教・神子島健氏 2013.12.3

記事公開日:2013.12.3取材地: テキスト動画独自
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(サマリー執筆・2014年9月、更新・2014年10月:IWJテキストスタッフ・富田)

特集 TPP問題
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※テキストを加筆しました(2014年10月24日)

 環太平洋連携協定(TPP)の交渉で、甘利明TPP担当代表とフロマン米通商代表部(USTR)代表との閣僚協議が、2014年9月25日未明(日本時間)にワシントン市内で行われたが、話がまとまらずに終了した。次回の閣僚会合は10月25日にオーストラリアで開催され、日米の農産物関税をめぐる協議が一気に進展するのではないかと懸念されている。

 TPP反対派からは「交渉が暗礁に乗り上げれば、それはそれで明るいニュース」との声も聞かれるが、反TPPの議論で、米国を悪者扱いするだけでは、われわれ日本人は「真の教訓」を得られないかもしれないとの見方を示すのが、東京大学助教の神子島(かごしま)健氏だ。

 2013年12月11日、東京都内の東大駒場キャンパスで、岩上安身が神子島氏へのインタビューを行った。反TPPをテーマに奥行きのある議論が展開され、発展途上国にも視野を広げた神子島氏の考察は、今もってあまり指摘されていない「資本主義の怖さ」を浮き彫りにした。

 「新自由主義経済の途上国への輸出は、アジア農村部の文化ともいえる、自給自足型の暮らしを破壊する」と神子島氏は言う。このまま貿易の自由化が進展すれば、その加害者側に日本が立つ可能性は大いにあると指摘し、資本主義社会に生きる今の日本人に向かって、静かに内省をうながした。

■ハイライト

インドの女性哲学者ヴァンダナ・シヴァの実践から学ぶ

 インタビューに先立ち、岩上安身が神子島氏を紹介した。「醍醐聰東大名誉教授が音頭を取って、昨年春に発足した『TPP参加交渉からの即時撤退を求める大学教員の会』のメンバーであり、先般、IWJに『TPPの根底にあるもの』というタイトルの、新自由主義経済を否定する論考を寄稿してくれた神子島氏。送られてきた論考は非常にわかりやすい内容で、読んだ直後に、ぜひ単独インタビューを行いたいと思い立ち、今日のこの機会が実現した」。

 紹介を受けた神子島氏は、まず、「新自由主義をベースにした貿易自由化を是とする思想に、対抗し得る考え方は存在しないものかと、調べていくと、候補がいくつか見つかった。わけても、ヴァンダナ・シヴァさんというインドの女性哲学者で、遺伝子組み換え技術に象徴される『農業の工業化』に反対する活動家の思想は、非常に優れている」と語った。

 神子島氏がIWJに寄稿した論考のサブタイトルも、「ヴァンダナ・シヴァさんの本から考える」というものだった。「今日の話は、彼女の価値観に触れるものでもある」と告げて、神子島氏は話し始めた。

大都市のエリート層が感化されやすい新自由主義

 神子島氏はTPPの危険性を理解するには、その背後でうねっている「新自由主義経済」の思想について知る必要がある、と訴える。

 新自由主義経済とは、規制緩和と規制撤廃により、力のある者を市場の中で伸び伸びと活動させ、それを通じて全体の経済を引っ張り上げようとするものだが、実際は、ごく少数の力のある者に富が集中し、大多数の者は貧乏になりがちで、このやり方を導入した国々の間には、所得格差の拡大傾向が認められる。

 そして、TPPがそのルールの役割を果たす、いわゆる「自由貿易」は、関税など貿易面の規制が緩和・撤廃されていることを意味しており、TPPで高水準の自由貿易が実現した国際市場では、グローバル展開する先進国資本の大手企業が圧倒的優位に立つ。

 神子島氏は「日本経済は、橋本龍太郎政権の時代から新自由主義の色合いが強くなり、小泉純一郎政権時代に決定的になった」と指摘する。

 しばしば大手メディアに登場する、「自由貿易の実践は、市場の成熟や人口減少を回避できない日本経済にとって、時代の要請」というような言説に扇動されやすいのは、大都市部に暮らす、大手企業や準大手企業に働く人たちだと神子島氏は強調し、次のように続けた。

 「日本の財界トップの『これからは、海外に積極的に攻め入らないと、日本経済はダメになる』といった主張に簡単に脅迫されてしまう人たちには、似たような価値観やメンタリティー、さらには生活環境があり、そういった部分が見直されない限り、グローバル化する新自由主義経済のうねりは静まらないと思う」。

知的財産権を武器に、途上国文化を破壊

 自由貿易を支えるTPPが締結されれば、米系の多国籍企業が日本に攻め込んできて、国内市場が荒らされるとの指摘は、すでにかなりある。これに対し、TPPが発効された場合、日本以外の国にどんな被害が生じるかをめぐる考察は、なかなか見つからないのが実情だ。

 だが、TPPは、日本国内だけに「被害者」を生むものではない。神子島氏は「(新自由主義経済のグローバル化とセットで言われることが多い)『グローバル・スタンダード』は、欧米、そして、このルールを世界に広める流れに与しようとしている日本が、途上国を食い物にする行為を合法化するものである」とし、TPPはグローバル・スタンダードの最たるものであることを示唆した。

 その上で神子島氏は、先進国資本による、発展途上国のコモンズ(所有者がいない共有の放牧地など)の私有化に言及。過去の歴史に照らすと、欧米は、途上国のコモンズに入り込み、それを農地にしたり、そこに住宅を建てたりすることを通じて、その共有地を自分のものにする権利を得てきたという。神子島氏は「TPPになると、そこに『知的財産権』という新たな武器が加わる」と力説した。

 「ヴァンダナ・シヴァさんが事例に取り上げたのは、インドセンダンという、インドで伝統的に害虫駆除剤に使われてきた薬木。もし、先進国資本の農薬会社が、その駆除剤の製法の特許を取得してしまえば、それが世界中で売れた場合、得られる収益はその農薬会社だけのものになる」。

 神子島氏は「その駆除剤の効用は、インドの人たちが長い歴史の中で発見したもの」と言葉を重ね、「TPPには、途上国の人たちが『暮らしの知恵』として生み出してきたものまで私有化してしまう、先進国側の強欲さがにじみ出ている」と懸念を表明。さらに、「先進国資本の農薬会社が、インドセンダンなどを大量に収穫すれば、インドの生態系の破壊にもつながる」と危惧した。

 シヴァ氏は著書の中で、「先進国は、発見者が特定されない『知』を低いものと見なしがち」と指摘している、と神子島氏は述べて、「彼女は『芸術作品への評価でも、その作品は他者からのいろいろなインスピレーションによって生まれている以上、制作者のみが評価される、近代欧州型の価値観には違和感を覚える』とも書いている」と語った。

「農業の工業化」は多数の脱落者を生む

 神子島氏は、シヴァ氏が書いた図を掲げつつ、「元来、人間は自分が暮らす土地から得られる自然の恵みを享受して暮らし、それでは足りないものだけを、資本主義的経済活動(貨幣を使っての商品購入)で補ってきた」と説明。「(環境破壊が激しい先進国でも)人々がそういう暮らしを実践すれば、エコロジカルな社会が成立し得るが、現実は、資本主義に人々が従属し、自然はその下に置かれ、都合よく収奪されている」と力を込めた。

 神子島氏は、TPPはアジアの伝統的農業を衰退へと追い込む、と警告する。そして、それに代わって勃興するのは、海外市場を含む地元外への販売に力点を置いた、利潤追求型の農業だと言明し、「それを実現させるのは、農業の工業化だ」と強調した。

 「大量に農薬を使って、農薬会社も潤わせる構図が生まれるに違いない。それは、途上国の農業に画一化(製造業並みの規格化と大量生産化)をもたらし、一方では地元農家に、トラクターをはじめとする農業機器の大活用(省力化)を要求する。農家は、そのために必要な資金を借り入れねばならなくなる」。

 ベトナムでは現在、勤労者の約半分以上は農業従事者だ、と言う神子島氏は、「ベトナムの農業に工業化のうねりが起きれば、地元農家から、かなりの脱落者が出る」と予想する。そして、一部の実力者だけが、輸出を視野に入れた大規模農業の展開に成功するだろうとも話し、次のように続けた。

 「そうなれば、ベトナムのGDP(国内総生産)は高まるだろう。しかし、これまで長い間、お金をさほど使わない自給自足型の暮らしを続けてきたベトナムの国民が、それで幸せになるのかといったら疑問符が付く」。

 岩上安身が、1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)スタート後に、米国からの安価なトウモロコシの輸入攻勢に苦しんだメキシコを話題にした。これを受け、神子島氏は「メキシコでは、第1次産業従事者の割合が1991年には27%だったが、NAFTA発効後は1997年が24%、2002年が17%、2007年が13%にまで減っている」とし、「TPPがアジアを巻き込む形でスタートすれば、同様のことがベトナムなどに起こり得る」と話した。

時給200円の労働力が日本に流入することに

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