「住民投票とは、自分たち自身が、ことの是非を決めること」(今井一氏)、「われわれ、という感覚を取り戻すこと」(宮台真司氏)、「自分たちでものを考え、学び、自立する第一歩に」(田中優氏)──。
2013年11月8日、山口県周南市の周南市市民館で、シンポジウム「みんなで決めよう!上関・伊方原発 YES/NO ─ 『環瀬戸内』原発住民投票に向けて」が開催された。今井一氏、宮台真司氏、田中優氏の講演に続き、パネルディスカッションが行われ、瀬戸内海を挟んで向かい合う山口と愛媛、その他中国・四国各地の代表も加えて、原子力政策に対抗するための住民投票の意義について話し合った。
- 主催者あいさつ 小松正幸氏(「環瀬戸内」原発住民投票準備会〔仮称〕愛媛側代表)
- ミニ講演
今井一氏([国民投票/住民投票]情報室 事務局長、ジャーナリスト)/宮台真司氏(首都大学東京教授)/田中優氏(「未来バンク事業組合」理事長)
- 「環瀬戸内」原発住民投票 応援パネル討論
パネリスト 有友正本氏(「環瀬戸内」原発住民投票準備会〔仮称〕愛媛)/今井一氏/上園昌武氏(島根大学教授、島根県民投票運動を代表して)/衣山弘人氏(広島・南相馬からの避難者)/草地大作氏(上関原発を建てさせない山口県民大集会実行委員会事務局長)/田中優氏(岡山代表として)/宮台真司氏/吉田益子氏(徳島・吉野川可動堰運動)
コーディネーター 飯田哲也氏(「環瀬戸内」原発住民投票準備会〔仮称〕)
- 小出裕章氏(京都大学原子炉実験所)応援メッセージの紹介
- 主催者あいさつ 安藤公門氏(「環瀬戸内」原発住民投票準備会〔仮称〕山口側代表)
- 日時 2013年11月8日(金)
- 場所 周南市市民館(山口県周南市)
- 主催 「環瀬戸内」原発住民投票準備会(仮称)
冒頭、主催者代表の小松正幸氏は「原発が稼働しなくても、電力は足りている。原発は、住民が止めるしかない。そのための住民投票の実現には、まず行動、主催者の問題、自治体の理解の3つの壁がある」と述べた。
自分たち自身が、ことの是非を決める
まず、ジャーナリストの今井一氏の講演が始まった。「国内外の住民投票制度について、18年にわたって取材をしている。住民投票は、自分たち自身が、ことの是非を決めることで、自分に変わって、ことを決める人を選ぶのが選挙だ」と前置きし、「日本には住民投票法がないから、自治体ごとに条例を制定する必要がある。その条例制定には、首長か議員提案、住民請求の3つの道筋がある。しかし、首長提案では可決率80%、議員提案は42%、直接請求では20%以下だ」と述べた。
「今までに405件の条例が制定された。1996年8月4日、新潟県巻町で原発是非の住民投票があった(原発反対派の圧勝)。1990年には、福島県の富岡町、楢葉町でも原発是非の住民投票が行なわれたが、議会が否決した」と、過去の例を示した。
今井氏は「事故が起きたら膨大な被害になるものを、たった数十人で決めて、民主主義のルールに則っていて正しい、と言うのは絶対に間違っている」と訴え、投票方法などを具体的に説明した。
住民投票とは『われわれ』という感覚を取り戻すこと
宮台真司氏は「環境倫理とは、まず、生物に対しても幸不孝があると考え、次に、家畜のように、人間のためにはある程度の犠牲は必要、という義務論に発展する。それを、人間中心(功利)主義と批判したベアード・キャリコットは『場所自体も生き物(主体)だ』」と提言した。
「尊厳の維持は、ニーズ(欲求)にしたがって開発をすること。ところが、人間のライフスパンは、自然に比べてとても短い。そのため、その時々のニーズで自然を開発し続けると、巡り巡って最終的に人間の尊厳も破壊してしまう。結果、尊厳を尊重するのなら、自然開発は止めるべき、となる」。
「しかし、キャリコットも拡張版功利主義。何が自分たちを支えているのだろうという、気づきが必要となる。その気づきのために、住民投票運動を利用するのが自分の主張だ」と持論につなげた。
「民主主義の本質は多数決ではない。参加と包摂が本質だ」と言い、原発を例に挙げて、「絶対安全、全量再処理、最安値神話の洗脳から脱しなければいけない。つまり、『参加』とはフィクションの繭を破ることだ。『包摂』とは分断された地域の克服。つまり、住民投票のメリットは、説明会、討論会、ワークショップなどのプロセスにあり、『われわれ』という感覚を取り戻すことだ」。
宮台氏は最後に、「お上にぶらさがる、大資本にぶらさがるという依存した個人では、デタラメな民主主義になる。自立した共同体を作らなければ、議会も政治も民主主義も成立しない」と訴えた。
日本人は観客と評論家だけ。主体になる人がいない
次に、田中優氏が登壇した。「2010年の電気消費量データで、家庭消費は22%、工場など産業分野で3分の2を使っている。電力会社はピーク時の電力不足を謳うが、その90%は事業消費だ。ピーク時だけ電気料金を上げればいい」と話した。
田中氏は、実家のソーラー発電を紹介し、「以前は500万円かかった設備も、100万円でできるようになった。でも、誰も真似しようとはしない。日本人は観客と評論家だけで、主体になる人がいないことに気づかされた」と語った。
続いて、「福島の原発事故は、地震による細管破損で起こったドライアウトが原因だ」という木村俊夫氏の説を紹介し、「伊方原発は、全長1000キロメートルにおよぶ中央構造線の上に建っている。福島第一原発では、事故後の偏西風で78%の放射能が海に流れた。しかし、伊方原発で発災したら、関西、中京、関東全域を汚染する」と警鐘を鳴らした。
住民投票とは、自分たちでものを考え、学び、自立する第一歩
また、「産業で62%の電力消費で利益9%。家庭・中小企業は38%を消費し、91%の利益だ。世界に比べたら、日本のエネルギー消費量は低くく、大半が暖房用だ」とデータを示し、「暖房には電力以外の燃料があり、雇用の創出にもつながる」と説明した。
「地域でエネルギーが回れば、地域が活性化する。国で回れば、国が活性化する。ところが、いっさい活性化しないのが、海外に流れるお金。日本のエネルギー自給率は、わずか4%」と指摘し、原発不要の理由を挙げた。
田中氏は「今までの先入観を変えるためには、自立していなくてはならない。そのためにも、住民投票運動そのものが、自分たちでものを考え、学び、自立する第一歩になる」と話をまとめた。
各地の住民運動の足跡に学ぶ
パネルディスカッションの司会は飯田哲也氏が務め、まず、各パネリストが自己紹介を兼ねて短くスピーチした。愛媛県大洲市の有本正本氏は、地元、肱川のダム建設反対の住民投票の経験を語った。次に、福島からの避難者、衣山弘人氏。島根大学の上園昌武教授は、島根県のエネルギー地域自立を進めるための活動を紹介した。
吉田益子氏は、10年以上にわたって続いた吉野川可動堰建設反対運動を語った。「専門家と対等になるためには、自分たちも勉強する。反対運動も、反発を受けないように、美人を目立つところに配置して、興味を持たせることも必要」などと、市民運動に必要なノウハウを説明した。
今や、間接民主主義も直接民主主義もなくなった
牧師でもある草地大作氏は、島根原発の近くの教会に赴任していたときの経験と、現在の山口での反原発運動について話した。飯田氏は「国と電力会社は、規制庁のOKと、立地首長、県知事の同意で、粛々と原発再稼働を進めたい。また、上関原発の新設には意地になっている。今や直接民主主義でも間接民主主義でもなく、官僚が決めて、議会も通さず、それを実行するだけだ」と指摘した。
宮台氏は「行政官僚制は、無謬原則で動く。官僚は、先輩の敷いた路線を粛々と進めるしか、生き残りの道はない。利益と団体票を背景にした政治家には、もはや、官僚を変える力はない。これからは、議員たちが民意を見ることで、自分の当選・落選を感じられるかが重要だ」と答えた。
反対派には、必ず「カルト」というレッテルを貼ろうとする
飯田氏は「悪党の、最後の逃げ場が愛国心。原発推進派の、最後の逃げ場が放射線安全論だ」と発言して会場を沸かせた。今井氏は「住民投票条例は、自分たちで内容を決められる。ただし、住民同士のいがみ合いが必ず起きる。一番重要なのは、署名で全面に押し出す部分をきっちり決めることだ」と忠告した。
宮台氏が「政府は、反対派には必ず『カルト』というレッテルを貼る作戦でくる。だから、住民投票を提案する際には、推進派の人たちからの理解を得る努力が必要。『思っていることを言うのは当然じゃないか』ではなく、『思っていることを実現させること』が当然なのだ」と補足した。
衣山氏は「推進派も反対派も、思い込みだけで動いている人が多い」とし、田中氏は「運動を始める最初の動機が重要。危機感でスタートすると、最初は勢いがいいが長続きしない。リーダーは、欠陥だらけの人がふさわしい。また、運動は明るくやるべきだ」などと話した。