「TPPについて、自民党が掲げた公約は守られない」 ~岩上安身×孫崎享 特別対談! 2013.2.23

記事公開日:2013.2.26取材地: テキスト動画独自
このエントリーをはてなブックマークに追加

特集 TPP問題

 2013年2月23日(土)22時から、孫崎享氏の自邸で、岩上安身と孫崎氏の特別対談が行われた。対談は、ニコニコ動画が行っているテキストコンテンツ発信サービス「ブロマガ」のIWJ専用チャンネル「岩上安身のIWJチャンネル」の開設を記念して、孫崎氏の自邸で行われたもの。孫崎氏は、IWJよりも早く、昨年11月にブロマガ「孫崎享のつぶやき」を開設し、ほぼ毎日記事を更新している。

 対談は、同日未明にワシントンで行われた「日米首脳会談」の話題に始まり、尖閣諸島問題、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)など、日米中間における重要な課題について、約2時間行われた。

■詳細 【ブロマガ開設記念】岩上安身✕孫崎享 特別コラボ対談

■イントロ

■以下、実況ツイートに加筆・修正したIWJブログを掲載します。

岩上安身「今日の話題は、なんといっても『日米首脳会談』です。孫崎さん、いかがでしたか?」

孫崎享「会談では、TPPが前面に出て来ましたが、これは、別の視点から見ると、それ以外のことがあまり話題に上らなかったということです。

 ごく最近、ブレジンスキーが論文を書きました。この中で、彼は『東アジア情勢は、日米同盟だけに依存するべきではない』と述べている。また、彼はオバマ政権に強い影響力を持っている人物であり、その人が『米中両国が、直接衝突するということは避けると思う。日本やインド、朝鮮半島などによる戦争に、我々が巻き込まれないようにしないといけない』と言っている」

岩上「ブレジンスキーは、日本のことを『保護国』と言っていますね。日清・日露の明治の時代、日本側は、朝鮮のことを何度も『保護国』と言っています。つまりは『属国』です」

藤崎一郎前駐米大使の発言について

岩上「2月21日、我々IWJが中継した講演会で、藤崎一郎前駐米大使がこう述べています。『尖閣問題について。日米安保5条の議論が、米国から明確に出てきたのは99年から2000年。モンデール大使など、米国は、かつてはこの問題について明確な態度をとらないようにしてきた。……』」

第155回WTC合同講演会『オバマ政権とアジア太平洋諸国の動向について』 2013.2.21

孫崎「モンデールは明確にしたんですよ」

岩上「モンデールは明確にしたんですね。間違っています。続けます。『……それが変わった。最近、私の先輩などで、安保5条で、米国が出て来ることはない、と議論する人がいる。そんな馬鹿な話はない。抑止力は心理の問題。実際に出るかどうかではなく、いざとなれば出る、と思わせることが重要』と、このように述べています。『私の先輩』とは、孫崎さんのことでしょう(笑)」

孫崎「面白いことを言いますね。しかし、これは非常に重要なポイントです。最初に、安保第5条の問題提起を行った米国人が、モンデール大使なのです。これが、1986年のことで、ニューヨーク・タイムズ紙がすっぱ抜いた。彼が、内輪で話しているときに、『安保条約があったとしても、それは自動的に米軍が出るということではない』と言ったというのです。このあと、モンデール大使はすぐにクビになります。

 また、アーミテージとジョセフ・ナイが対談したとき、『もしも自衛隊が頑張らなければ、それは、施政権が中国にわたって、米国が出てくることはなくなります』と言った。もうひとつ、重要なポイントは、2005年の日米同盟の文書です。その中で、『島嶼防衛は日本がする』という役割分担にした。だから、最初に中国が出てくるとき、米国は絶対に出てこない。米国が出てこないときに、もし中国が出てきたら、管轄地は中国にいく。このことをアーミテージが言っているのです。

 もしも、駐米大使であるならば、本当に仕事をするのであれば、アーミテージを叱らなければならない。先輩(私)に言うのではない(笑)」

岩上「藤崎さんと孫崎さんとの違いは何でしょうか?」

孫崎「私のほうが勉強しているのでしょう(笑)」

尖閣諸島の「棚上げ」

孫崎「日本における一番深刻な問題は、原発でも、TPPでも、消費税増税の問題でも、事実を曲げて伝えていることです。いま、米中の間で、真剣な安全保障対話が始まっている。 これから、米国は、東アジア政策について、日本に対してよりも、中国に対して本音をしゃべる。米国側は、両者の間に危機をつくらないように、さまざまな事故があったときの対応を、正直に中国に伝えるでしょう。 他方、日本に対してはそんなことはしない。日本は梯子を外されている。米国は『尖閣の問題で我々は入らない』と言っています」

岩上「尖閣諸島の最近の話題は、レーダー照射ですね」

孫崎「米国は、日本が見るメディアには話している。しかし、より重要なのは、中国に対して何を言っているか。ケリー国防長官は、レーダー照射の問題について、具体的に答えていないし、米国国内の新聞は、この問題をほとんど取り上げていない。たぶん、おそらくですが、米国は、こうしたレーダー照射みたいなことをやっているんです。冷戦のときは、こんなことしょっちゅうやっていた」

岩上「1月に、中国から『棚上げ論』が出ました」

孫崎「中国の対応は、去年の9月から、『日本が棚上げをやめるなら我々もやめる』というものだった」

岩上「1月21日に、山口公明党代表が『棚上げ論』に言及します」

孫崎「これは大きいと思います。国内では、まるで全ての人間が『棚上げ』などないという雰囲気にされている。1972年、78年に『棚上げ』があって、アジア時報という文献で、棚上げをしたときの外務省の責任者である栗山尚一氏が『あった』と言っている。栗山氏は、こう述べています]

 『1972年7月、田中内閣誕生当時、外務省で条約課長の職にあった筆者は、日中正常化交渉に取り組むことになった。そして、田中首相が行く前に周恩来と会談を行っていた公明党の竹入義勝と会い、竹入メモを見た。そこで筆者は、「尖閣列島の問題にも触れる必要はありません」という周恩来の発言に注目した。尖閣の領有権問題が、正常化交渉の対象になれば、日本側は当然譲歩するわけはなく、中国側も降りるわけにはいかないから、この問題をめぐって、交渉全体が暗礁に乗り上げるおそれが大である。周恩来は、日本との国交正常化を実現するためには、このようなリスクは避けなくてはならないと判断したのだろう。田中総理から、尖閣問題をどう思うかとの発言がなされたのは、想定外であったが、これに対し、周恩来が「尖閣諸島問題については、今回は話したくない。今これを話すのは良くない」と応じた。そして、国交正常化に際し、日中間において、尖閣問題は棚上げするとの暗黙の了解が首脳レベルで成立したと我々は了解している。

 そして、この問題が、もう一度浮上したのは、1978年の日中国交平和友好条約の交渉のときである。そこで、鄧小平が「今の世代が方法を探し出せなければ、次の世代が方法を探し出すだろう」と発言したとされている。そして、そのあと、鄧小平が日本に来たときに、公開の場でまったく同質の見解を述べた。これに対する日本政府の反論がなかったことに照らせば、72年の国交正常化時の尖閣問題棚上げの暗礁の了解は、78年の平和友好条約締結に際しての再確認されたと考えるべきであろう。棚上げは、当事者によって守られている限り、紛争の悪化を防止し、さらには沈静化させるための有効な手段となりうる』

米国の言うとおりに動く日本

孫崎「栗山さんは、『棚上げ』について、首脳レベルでの合意があったと認識されている。これをなぜなかったことにするのか。それは、尖閣問題をおかしくすることで、日米同盟を強化しようとする動きがあるんです」

岩上「今日、安倍首相は、CSIS(米戦略国際問題研究所)で会見を行ったが、その冒頭で、『アーミテージさん、ありがとうございます。グリーンさんもありがとうございます』と言っている。尖閣問題については、『エスカレートさせようとは露ほども思っておりません』と述べている」

孫崎「日本と米国の関係が、中国に影響を与えます。大統領選挙のとき、外交問題についてのディベートがあった。その中で、『中国』という言葉が出てきたのは30回。一方の『日本』はゼロです。安倍さんも、米国の対応が急変したのがなぜかわからないと思う。(安倍さんのCSISの会見は)情けない」

 アーミテージについて言えば、彼は米国内では『×』が付いた人。イラク戦争のとき、ジョゼフ・ウィルソンが『私の知っている限り、大量破壊兵器はない』と言って、彼の奥さんがCIAの工作員であることが暴露された。その後、ウィルソンは『これをやったのが誰か、徹底的に追及する』と言った。そのとき、アーミテージが『私がやりました』と手を上げたんですよ。これによって、米国社会で『×』が付いたんですよ。その人が日本を牛耳っている」

韓米FTAから見るTPPの問題点

岩上「TPPについて、自民党が掲げた政権公約は6項目ある。

  1. 政府が、聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する
  2. 自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない
  3. 国民皆保険制度を守る
  4. 食に安全安心の基準を守る
  5. 国の主権を損なうようなISD条項は合意しない
  6. 政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる

 おそらく、これらは守られない」

孫崎「そうなんです。自民党で『TPP反対』を打ち出して当選した議員が、安倍首相が決めたことに反対できますか?もうそんな議員はいないんですよ。TPPというのは、ある意味、日本の法体制を捨てるということ。『米国の企業が、一定の利益を確保する国の体制にします』ということなんですよ。ISD条項は、日本が国家であるということを明け渡すというルールなんです」

岩上「今日、日本農業新聞の号外が出ています。これを見ると、安倍総理は、TPPに聖域があるような言い草をしていますが、一方では、全ての品目をテーブルに載せると言っている。

 TPPの先行モデルである米韓FTAの問題点を見てみます。

  1. ネガティブリスト
  2. ラチェット条項
  3. 未来最恵国待遇条項
  4. ISD条項
  5. 間接接収による損害賠償
  6. 非違反提訴制度
  7. サービス非設立権
  8. 公企業の完全民営化
  9. 知識財産権直接規制
  10. 金融及び資本市場の開放
  11. 待遇の最小基準

  詳しくは、是非、郭洋春先生とのインタビューをご覧になっていただきたいと思います。実は、これは日清戦争のときと似ています。郭先生は『日本は暴力で支配した。いま米国は、法で、協議で支配する。韓国という国がなくなってしまう。しかし、これは、日本にも起こること』と言われた。これは、もう憲法違反ですよ」

孫崎「その通りです。しかし、なぜこれをもっと議論しないのか。日本の憲法学者や法律学者は、一体何をしているのか。学会で出なければならない問題です。 この問題は、実は幕末から始まっています。米国が自分で考えたやり方ではなく、英国から始まっていると思います。交渉に入って、中身を変えるなんてことはありえない。重要な問題は、大きな枠組みのことなんです。それを変えることなどできない」

「TPPは現代の植民地政策」 米韓FTAの惨状からTPPを考える~岩上安身によるインタビュー 第277回 ゲスト 郭洋春氏(立教大学経済学部教授) 2013.2.21

日露戦争を仕掛けたドイツ

岩上「前回お話いただいた日露戦争についてのお話を、もう一度お願いします」

孫崎「仕掛けたのはドイツです。ドイツは、ロシアが東に行ってくれればいいと思った。日本とイギリスをくっつければ、日本が自分は強いと思ってロシアと戦争するのではないかと考えた」 岩上「この時に、ドイツが黄禍論(※)を唱えた」

孫崎「日本はモンキーみたいなもんだから征伐してはどうか、とドイツが言った。大切なのは、算盤勘定をやってみること。日露戦争で日本は莫大な資金を失った。

 米国は助けてくれない。非常に単純なこと。米国にとって、中国が重要な国になった。日本の重要度は落ちた。重要でない国のために、重要な国と戦争することなどあり得ない。でも、こういうことを言うと、国賊と言われる」

(※)黄禍論(こうかろん):黄色人種の台頭が白人文明ないし白人社会に脅威を与えるという主張。その底流には、非科学的ではあるが、少なくとも近代史を部分的に反映する白人の優越性と黄色人種の劣等性という考え方がある。軍事、政治、経済、社会のいずれかにおいて黄色人種の活躍が既成の白人支配体制に大きな影響を及ぼすとき、あるいは白人社会がそのように想像するときにおきやすい。遠い背景として13世紀におけるモンゴル帝国のヨーロッパ侵略があるようである。

 19世紀から20世紀初頭に及ぶアメリカ合衆国における中国人、ついで日本人に対する排斥、およびかつてのオーストラリアにおける黄色人排斥の白豪主義は黄禍論の一つの姿である。政治論としては、日清戦争末期にドイツ皇帝ウィルヘルム2世が、日本の国際的進出はヨーロッパ文明を脅かすとして、日本を極東に閉じ込めるべきだとした主張が有名である。そのねらいは、ヨーロッパ列強に、そのアジア侵略にとってじゃまになる日本を警戒させることにあった。これが、日清戦争後の1895年(明治28)下関条約による日本の遼東半島領有に、ロシア、ドイツ、フランスが干渉して清国に返還させた三国干渉に結実した。 (小学館『日本大百科全書』)

(…サポート会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

サポート会員 新規会員登録単品購入 550円 (会員以外)単品購入 55円 (一般会員) (一般会員の方は、ページ内「単品購入 55円」をもう一度クリック)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です